−第3話#3ヘ戻る−
部屋の用意が出来次第メイドが案内すると言うことなので、謁見の間でしばらく待つことに。
ミュウ「はぁ、やれやれ。本気で、骨を拾う覚悟してたけど。どうにかなって安心したわよ。」 カイゼル「まったくだ。あの形相で、剣を払われてはな。」 まさと「そ、そんな顔してたか? いや、腹立ててたのは確かだが。」 ミュウ「あ、聞こえてたよ。あたし、耳はいいから。合わせときゃ良いのに。」 まさと「だってよー。なんか違うと思っちまって。」 ミュウ「あー、いい、いい。合わせる様なら、息の根止めてやろうと思ってたから。」 まさと「なにおぉ? どっちなんだよ、おめーはよぉ?」 ミュウ「あはは。正直、気持ち良かったけどね〜。けど、あそこで、本気で打ち返すのはやっぱ、ばか。そういうこと。」 まさと「はいはい。本気の出し過ぎってことかよ。」 ミュウ「そうそう。まー、りゅーざきってのも、飛んだ食わせもんだね。」 カイゼル「・・・・そうだな。恐らくは、ヨハンの思い込みで祭り上げられたのだろう。」 まさと「あー、俺と似たようなもんか。他所から来たから勇者決定。」 ミュウ「だねぇ。まぁりゅーざきみたいなのはあたしの1番嫌いなタイプ。男はまっすぐ前見てなきゃ。って、あたしの好みは関係ないか。」 カイゼル「いや、そうでもないだろう、まさと殿にとっては、重要ではないか?」 まさと「なんの話、しとるんすか・・・・。」
そうやって馬鹿話に興じている内にメイドらしいのが3人やってきた。 で、いきなり面食らう。 3人の中に、パールが居た。
まさと「なにぃ?」 ミュウ「うそっ、なにやってんのよ、そんなして。」 パール「小遣い稼ぎ。」 カイゼル「もしや!?」
カイゼルもパールに気がついた様だ。
パール「はい、またお会いしました。剣士様。普段は、ここで働かせて頂いております。」 カイゼル「なんとなぁ・・・・・。」 まさと「反応がそれかい。食って掛かるよりは良いが。」 カイゼル「いや、嘘は無い様だ。金がなければ食えんからな。」 パール「はい。左様でございます。これでなかなかお給金がおよろしいですのよ。おほほ。」 まさと「おほほって‥。灯台下暗しつーかなんつーか。ヨハン王、情報漏れ漏れっすよぉ。」 パール「そうでもないわよ。情報元になってる伝記なんてそこらで聞ける話だし。役に立つ話ってないわ、意外とね。ヨハン王は割りと明け透けだから、必要な情報は下町で手に入っちゃうもの。ここは純粋に小遣い稼ぎに入ってるだけよ。」 カイゼル「なるほどな。ヨハンは昔からそういうところはある。」 パール「では、剣士様は私がお世話させていただきます。お部屋をご案内致しますので、こちらへどうぞ。」 カイゼル「そうか、では、この際だから、思いっきりお世話になろう。」 パール「おほほ。お手柔らかに。襲わないで下さいね。襲ったら大声上げます。」 カイゼル「せんわぁっ!」
と騒がしくしながらパールに先導されカイゼルが謁見の間を出て行く。
まさと「うーん、なんか、パールのと言うより、おっさんの悲鳴が上がるほうが心配なような。」 ミュウ「ああ、それはいえてる。」
控えていたメイドの片方がミュウに声を掛ける。
メイド1「ミュウ様ですね。お部屋は私がご案内致しますので、どうぞこちらへ。」 ミュウ「ああ、ありがと、あんまり気は使わなくて良いからねぇ。」 メイド1「はい、かしこまりました。では参ります。」
ミュウも退室して行く。かと思ったらいきなりこっちを振り向いた。
ミュウ「まさとっ! ちゃんと自重しなさいねっ!」 まさと「なんの話しだっ! なんの! とっとといけっ!」 ミュウ「ぢゃっ!」
くるっと振り向くと、どかどかとミュウは今度こそ退室していった。 で、残ったメイドが俺に声を掛け・・・・る事もなく、ファルネと戯れている。
メイド2「うわぁ、光ってるぅ。生き物? はじめてみたぁ。」 まさと「おいおい。おれはVIPとちゃうんかい。」 メイド2「あっ、しっ、失礼しましたっ。むなきゃたまさと様ですね。わた、わた・・わたわた・・・。」 まさと「あー、むなかた、宗方まさと。な。」 メイド2「ひぁぁぁっ。これまた失礼しましたっ!」 まさと「いいけどね。俺、堅苦しいのは嫌いだから、気楽にやってくれていーよ。」 メイド2「いえ、それでは、私がしかられます。」 まさと「いいのいいの。俺が良いって言ってんだから。で、部屋どっち?」 メイド2「はい、では。部屋はこちらです。」 まさと「ん。よろしくねぇ。」
メイドに案内されるまま、だだっ広い廊下を進む。
まさと「なぁ、結構広いもんだな。」 メイド2「そうですねぇ。私もはじめての時はずいぶん驚きました。片田舎から出てきたもので。かれこれ半年になります。」 まさと「ふーん、そうなんだ。やっぱ、最初は迷ったりしたか?」 メイド2「あ、はい、最初の頃はずいぶんと、今でも、たまに今、自分の居る場所がわか、・・・いぇ、大丈夫ですよ、い、今では。」 まさと「いいって。そういうもんだろ、こんだけ広くちゃ。迷ったら迷った時。そん時は迷った状況を楽しんじゃえ。」 メイド2「はい、助かります。そう言ってもらえると。て、あ。」 まさと「お、いきなり迷ったか?」 メイド2「い、いぇ、そうゆう訳ではないのですが・・・・少し戻ります。部屋の前を行きすぎてしまいました、ので。」 まさと「わはははは。おっけーおっけー。」
ほんとに扉かと思うほどの大きい扉をくぐって部屋に入る。 部屋の中もこれまた広い。マラソンが出来そうだ。
メイド2「こちらが寝室、こちらが洗面と浴室になっております。」 まさと「ほぉ。特に間仕切りとかはないんだな。ついたてだけかぁ。へー。」 メイド2「さようです。何かあったときに私どもがすぐお世話出来るようになっております。」 まさと「へ? すると、まさか、ずっと部屋に居るの?」 メイド2「はい。その様に申し付かっておりますので。」 まさと「風呂入る時もか?」 メイド2「はい、必要でしたら、お背中も流させていただきますので、お申し付け下さい。あ、御就寝の間は退室させて頂きますので。」 まさと「・・・・なんだかなぁ。で、部屋に居る間、そうやって突っ立ってるのか?」 メイド2「はい。それが役目ですので。」 まさと「んー。と、せめて、椅子に腰掛けててくれ。俺が、息が詰まる。こういうの慣れてないから。」 メイド2「それは、私がしかられてしまいます。」 まさと「なーんつーかなー。ところで、名前なんつーの?」 メイド2「そ、そんなっ、恐れ多い!」 まさと「は? んじゃ、なんて呼べば良いんだ?」 メイド2「ええ、そうですね、大抵、おいとか、手を叩いていただくとかで。」 まさと「本格的過ぎる・・・・。名前じゃダメか? そのほうが、俺、気が楽なんだけど。」 メイド2「左様ですか。分かりました。私はリーヌと申します。」 まさと「おっけ。リーヌちゃんって呼ぶから、それから・・・。」 リーヌ「もったいのうございますっ、呼び捨てで構いませんので。それから、皆様の前では、名前で呼ぶのはお控え頂けると・・・・本当にしかられてしまいますので。」 まさと「きびしいねぇ。わかった、リーヌ。これでいいね。」 リーヌ「はい、まさと様。」 まさと「なぁ、ほんと、椅子にかけててくれねぇか? 落ちつかないんだよ。誰か来たら立てば良いんだし。」 リーヌ「あ、はい。では、そうさせていただきます。でも、まさと様って、他の方々とはずいぶんちが、あ、いえ、こういう言い方は、失礼でしょうね。」 まさと「そうなんかな。まぁ、俺が育ち悪いだけだよ。そんだけそんだけ。」 リーヌ「そうなんでしょうか。私も、教えられた通りにやってるだけですので、確信を持ってそう言えるのでもないのですが。その、田舎者ですし。勇者様なので、失礼のない様にと、硬く、その・・・。」 まさと「あー、じゃぁ、いいんじゃないかぁ? 俺なんか、この世界の人に取っちゃ、どこの馬の骨?だよ。失礼がなきゃ良いんだろ? それなら、気楽に構えてくれるほうが、俺には失礼ってのはない。そういうことだよ。」 リーヌ「ああ、分かったような気が、しますです。ありがとうございます、ほんとに。」
やっと納得してくれたかな。 マニュアル通りも良いけど、堅苦しくってどうもね。
まさと「あー、悪いんだけど、喋ってばかりで、喉が乾いちまった。何か飲む物お願いできるかな?」 リーヌ「あ、はい、早速。なにがよろしいですか? お酒もお出し出来ますが。」 まさと「あー、まだ日も高いしなぁ。酒はいいや、何かジュース、でわかるかな、そういうのある?」 リーヌ「あ、ございますよ。では、喉が乾いてると言うことですから、さっぱりしたブドウなどでよろしいですか?」 まさと「あ、それで頼むよ。」 リーヌ「はい、かしこまりました。」
そう言うと、控えてあった、カートから、手際良くグラスなどを取り出し、てきぱきと用意をするリーヌ。 それを覗き込んでいると、リーヌのほうがそれに気がついたらしく声を掛けてきた。
リーヌ「どうかされました?」 まさと「いや、続けて。見慣れないからよく見せてもらってただけだよ。」 リーヌ「そうですか。これでも、手際が悪いとすぐしかられちゃうんですよ。」 まさと「そうなのか。なんか、すげー大変な仕事だなぁ。覚えなきゃいけない事も多いんだろうな。」 リーヌ「ええ、まぁ。でも、それがこなせないと、お給金頂けませんし、仕送りも。」 まさと「仕送り? 実家にとか?」 リーヌ「ええ。母が病気で臥せってますので、私の仕送りがないと‥。」 まさと「そうか。大変だな。早く良くなるといいな。」 リーヌ「ありがとうございます。はい、お待たせ致しました。」
話しながらでも、リーヌは仕事をこなしていた。 出されたブドウジュースはリーヌが今、目の前で搾った搾りたてだ。当然、不味いわけもなく、俺は一気にそれを飲み干した。
まさと「・・・ふぅ。美味いな。」 リーヌ「ありがとうございます。」
一息ついたところで、気になってることを聞いて見ることにした。答えを得られるかどうかは分からないが。
まさと「ヘンなこと聞くけどさ。この城、最近になって、この、銀色になったみたいだけど、何かあったの?」 リーヌ「ああ、これは、竜崎様の御指示だそうです。」 まさと「へぇ。なんでまた、こんな金の掛かりそうな・・・まぶしくて仕方ねぇや。」 リーヌ「はい・・・私共も、まぶしくて・・・あ、今の、誰にも言わないで下さいね。」 まさと「ああ、分かってる。理由は聞いてるの?」 リーヌ「魔族が復活するなら、魔法耐性を高めるべき、と、聞いております。」 まさと「なるほどね。でもまぁ、ちょっとやりすぎかなぁ。竜崎の鎧もあれ、魔法銀だろ?」 リーヌ「はい。騎士団全部の鎧が魔法銀で処理されております。」 まさと「で、上納金とって、か。」 リーヌ「はい・・・。やはり、普通ではない、です、よね?」 まさと「そうだな。俺は普通じゃないと思う。あー、心配しなくていいからな、リーヌから聞いたとか誰にも言わないから。」 リーヌ「お気遣いありがとうございます。けれど、まさと様はやはり、他の方々とは違います。どうして、そう、おやさしくていらっしゃるのですか?」 まさと「はい? やさしい? 俺が? さっきから文句ばっかりつけたり、困りそうな質問ばっかりしてるのに。」 リーヌ「いえ、そうですが、そうではない、といいますか。高名な騎士になられるほど、それを体言なさいますので。竜崎様など、とても・・・。勇者様ですからそれが当たり前なのかと思っておりましたが・・・・。」 まさと「ああ、偉ぶってるってことか。俺には必要ないからだよ。多分。必要無いからそうしない。じゃ、理由にならねぇかな?」 リーヌ「良く、分かりません。けど、まさと様はお話しやすいのです。ほんとうに。ですので、精一杯お世話させて頂きますので。」 まさと「そか。まぁ、よろしくね。」 リーヌ「はい。」
それから、しばらく、リーヌの里の話しとかイロイロ聞かせてもらった。 リーヌ自身も最後のほうでは弾むように話をしていた。 セントヘブンに来て半年。やっぱり、かしこまった雰囲気に、彼女自身も馴染み切れなかったのかもしれないと思ったりもする。 夜になって、急遽、歓迎パーティーが開かれることになった。もちろん、主賓は俺達。 リーヌにさんざんぱら手伝ってもらった正装で、俺は、祭事場へ足を踏み入れた。
ミュウ「ああ、やっと来た。なにやってたの?」 まさと「あー、こっちの正装に慣れなくてな。メイドに手伝ってもらって、ようやく形になったとこだよ。」 ミュウ「なるほどねぇ、ちゃんと形になってると思ったら。」 まさと「そういうミュウだって、一瞬誰だか分からなかったぞ。綺麗だな、服が。」 ミュウ「む。そういう事言うか。後でリンチ。」 まさと「今じゃないのかよ。」 ミュウ「う。今、ウエストが苦しくて上手く動けない。」 まさと「五十歩百歩だな。」 ミュウ「ま、ね。」 まさと「とりあえず、俺達が主賓らしいしな、てきとーに挨拶して、じゃんじゃか美味いもん食って、とっとと寝るが吉。か。」 ミュウ「賛成。では、突入。」 まさと「おう。って、カイゼルは?」 ミュウ「あ、私達が出るからいいだろうってさ。何か用があるみたいだったけど。」 まさと「ふーん。ま、いっか、ほれ、行こうぜ。」 ミュウ「うん!」 まさと「うれしそうだな。俺と一緒だからか?」 ミュウ「ううん。美味しい物食べられるからぁ。」 まさと「やっぱり。」 ミュウ「ああ、そうだ。ファルネは?」 まさと「くさなぎの番をしてるってさ。メイドと一緒に部屋に居るよ。メイドと馬が合ったらしい。」 ミュウ「そ。じゃぁ、心置きなく、飲んで食べて。」 まさと「そうだな。」
主賓主賓と祭り上げられてはいるが、こういったパーティーでは主賓は建前みたいな物だ。 いや、酒のつまみと言ったほうがいいかもしれない。 文字通り、宴を執り行う為のきっかけに過ぎない。特に上流階級では、そういった傾向が強い。 庶民的な仲間内のパーティーとは趣からしてぜんぜん違う。建前が服を着て歩いてる。そう言ってもいい。 俺達は、一通りの紹介が終わると、ほぼ開放された。ある者は飲みある者は踊り、と、それぞれが好きな楽しみ方をはじめたのを境に、自由に動きまわれるようになった。 なんとなく、ミュウが辟易してるように見えたので、ワインを片手にテラスに誘った。
まさと「ふぃー。疲れた。慣れない事はするもんじゃないなぁ。」 ミュウ「ん。」 まさと「上流階級のパーティーがこんなにも退屈する物とも思ってなかったしな。」 ミュウ「そうだね。あたしも今日は、もううんざり。」 まさと「それになんだ、竜崎の野郎。花背負ったまま、会場うろうろしてて、気持ち悪いったらねぇ。」 ミュウ「花?」 まさと「あー、そうか。なんつーか、作り笑いのことだ。あいつが作り笑いしてると、あいつの背後に花がこう、ぽんぽんぽん、っと仕掛けられた様に咲いたような気がしねぇか?」 ミュウ「あぁ、そう言われてみれば、そんな感じはあるねぇ。」 まさと「しかも花は花でも造花だ。作り物。」 ミュウ「あはは。ひどいよそれ。あは。」 まさと「そう言いながら、笑ってるぞお前。」 ミュウ「そ、そうだけどね。あはははははは。・・・・・ふぅ。けど、アイツのほうが、世渡りは上手いね。」 まさと「ん、ああ、悔しいけど、それは認める。俺は、アイツみたいに上手くは振舞えねぇよ。」 ミュウ「そうだね。あ、あたしもそうね。合わない。ああいうのは。」 まさと「まぁ、合わない同士、ここで、ちまちまやるか。」 ミュウ「そうだね。」
テラスは心地よい風が流れていて、ほほをなでて行く。
まさと「風、気持ちいいな。」 ミュウ「ん。でも、今日は、うまく行って良かったよ。そうじゃなかったら、今ごろパーティーなんて。」 まさと「ああ、まぁな。けど、ヨハン王に、話してない事もあるじゃねぇか。」 ミュウ「いいんじゃない? まずは、信用してもらわないと、話すどころじゃないし。」 まさと「そうだなぁ。そう、単刀直入にゃ行かないか。」 ミュウ「そうそう。ふぃ〜。」
ミュウは、ワインを飲み干してしまったらしい。
ミュウ「なんか飲み足らない。」 まさと「お前、酒豪だったんだな。」 ミュウ「ああ、そうでもないよ。弱くも無いけど。けど、なんかこう、刺激が足りなくってさ。こうぴりぴりっとした物が欲しい時があるのよ。」 まさと「へー。」 ミュウ「アレがあったら良かったんだけどなぁ。」 まさと「なんだ?」 ミュウ「あ、うん。昔、どっかの国に遊びに行った時のことなんだけどね。現地の男の子がくれた飲み物が刺激的で、タマに思い出すの。どう言うわけか、思い出すのは味だけなんだけどね。」 まさと「あー、土地の物か。そういうのに限って、やたら美味かったのだけ、覚えてたりしないか? しかも、年々味が美化されて超美味になってく。」 ミュウ「あはは。そうかも。なんていったかなぁ・・・・あれ・・・・・・たしか、コ・・・コラ、とか、コーラだった様に思うけど。」 まさと「え!?」
ミュウの口からコーラなんて言葉が出てきて驚いた。そして、それは、俺の記憶の中ですぐに繋がるものがあった。
女の子「もう戻る時間みたい。」 まさと「帰るの?帰れるの?」 女の子「多分ね。・・・・・・・・・ねぇ。」 まさと「うん?」 女の子「あんた、将来いい男になれるかもね。素質あるよ。」 まさと「う・・ん。わかんねえや。」 女の子「じゃぁ、いい男になれるよう、おまじないしてあげる・・・・。」 我にかえった時には女の子の姿は無く。コーラの空缶だけが2本並んで置かれてあった。
まさと「おい、それって、これくらいの金属製の筒に入ってなかったか?」 ミュウ「んー、あー、そうそう。入ってた、入ってた。え? まさと知ってんの?」 まさと「じゃ、じゃぁ。その筒は、でかい箱から出てこなかったか?」 ミュウ「え・・・と、うん。出てきた。」 まさと「いつ頃だよ、それ、思い出せるか?」 ミュウ「えーなに? さっきから質問攻め。」 まさと「わりぃ。けど、大事なことかもしれないんだ。それがいつ頃だったか大体でいい、思い出せないか?」 ミュウ「え。うん。そうねぇ、10年いや、もうちょっと前、15年くらい前かな?」 まさと「・・・そういうことなのか。そうなのか?」 ミュウ「え? 話が飲みこめないんだけどぉ。」 まさと「そのコーラ以外のことで何か思い出せないか? その時のこと。なんでもいい。」 ミュウ「えーっと、・・・・・あ、男の子、弱いくせに生意気だった。悪いやつに食って掛かってたよ。見かねて助けちゃったんだ。そうそう。で、その後、礼だってコーラもらった。」
間違いない。 俺が幼稚園児だった頃、俺を助けに現れたのは・・・そして、一緒にコーラを飲んだのは・・・・ミュウだ! エルフの寿命のことが余り頭に無かったから、ピンとこなかったが、考え直して見ると、15年なんて、60年生きてるミュウにしてみれば5年前くらいの物だ。
まさと「ミュウ、俺達、15年前に会ってるぞ。会ってるんだよ、俺の国で。」 ミュウ「え? なに? ・・・・あ!」
ミュウも、俺の言ってることに気がついたらしい。
ミュウ「あの時の、あの生意気な・・・弱いのにとにかく突っかかって・・・・。」
そう言いながら、ミュウは俺を指差す。そしてその表情は驚きにあふれて行く。
まさと「ああ、多分、それ、俺だ。」 ミュウ「・・・・・思い出した。そうだわ、15年前、急に訳の分からないところに出て、それで・・・あれ、まさとの国、だったの?」 まさと「ああ、神社の境内でコーラを飲んだんだ。」 ミュウ「そうそう、ケイダイ。うわー・・・・・だめじゃん。」 まさと「うわ。なんだそれ。」 ミュウ「ぜんぜんいい男になってない。おまじない返せ。」 まさと「うぐっ。それを思い出しやがったか。大体、あのおまじないをどうやって返すんだよ。って、ほんとに間違いなさそうだなぁ。」 ミュウ「ふふっ。返せる物でもないか。じゃぁ、アレはまだ有効って事で。そっか、そうだったんだ。なんか懐かしい気は、してたんだよねぇ。今まで、思い出せなかったけど。」
二人して、その次にどう切り出していいのか分からず、驚きと懐かしさの入り混じった表情で、しばらく見詰め合う。
ミュウ「そうかぁ。そうだったんだぁ。まさとはあの時の・・・・。」 まさと「俺も実は、忘れてたんだけどな。目の前で、人が消えたんでな。夢だと思って、記憶の底にしまってたみたいだ。ノスパーサで、気絶した時があったろ。あの時に思い出した。夢で見て。」 ミュウ「あ、あぁ、あの、時、ね。あれ、まじでやばかったよ。息してないし、心臓止まってたし。」 まさと「うぉ。じゃぁ、あれは、夢なんかではなくて、走馬灯とか・・・。」 ミュウ「うわー、やばい話しになっちゃった。」 まさと「わはは、笑っちまうよなぁ。なにやってんだろうなぁ。俺達。」 ミュウ「あんただけだって。あたしはちゃんとやってますぅ。」 まさと「あ、ひでぇなぁ。」 ミュウ「あー、私も人のことは言えないけどね。そのちょっと前に嫌なことがあって、それを忘れたがってた頃だったから。それで、中途半端に忘れちゃったんだろうね。」 まさと「そうなんか、それ、俺が聞いていいことなのか?」 ミュウ「え、ああ、いいけど。いい話じゃないよ。それでもいい?」 まさと「ん、ああ、お前さえ良ければ聞かせてくれよ。」 ミュウ「ん。」
ミュウは、俺のすぐ傍まで来てテラスの欄干にもたれる。
ミュウ「好きだった人がね。死んだの。遠征に行ったっきり帰ってこなかった。ね、いい話じゃないでしょ?」 まさと「ああ、そうだな・・・そら忘れたくもなるか・・・。」 ミュウ「そう。父さんは帰ってこないし、母さんは先に逝っちゃうし、恋人は死んじゃうし。なんかねー。」 まさと「そうだな・・・。」 ミュウ「あれ? ひょっとして、同情とかしてくれてる?」 まさと「まぁ、ちょっとだけな。それとそんな風に見えないって言うか、そんな感じで、意外だったのもある。お前薄幸だったんだな。」 ミュウ「いいよ、似合わないよ、まさとにそういうの。」 まさと「あ、ああ、自分でも変な事言ってるのは自覚中。まぁ、酒のせいと言う事にしておいてくれ。」 ミュウ「あい。けど、そうか。あたしがそっち行って帰ったんなら、まさとだって帰れないわけじゃない、よね?」 まさと「あ。そうか。」
酒のせいでほんとに頭がどうかしてる様だ。ミュウに言われるまで、帰る方法のことを忘れていた。
まさと「お前ん時はどうだったんだ?」 ミュウ「特にこれと言って、きっかけみたいなのはない、わ。あたりが白くなって、元に戻ったら飛ばされてた。戻る時もね、あたりがまた白くなり始めたから、戻るんだって思っただけで。」 まさと「んー、ああ、そんな事言ってたっけ。まわりが白くなるのも俺のときと同じ、か。」 ミュウ「ごめん。あんまり役に立たないね。」 まさと「謝る必要ねぇだろ。覚えときゃいいさ。いつか役に立つ時もあるかも知れねぇし。」 ミュウ「そうね。」
そうこうしていると、そろそろパーティーもお開きの様だ、中から俺達を呼ぶ声が聞こえた。 パーティーが終了し、俺達は自室に戻って休む事にした。 どうやら、既に夜中をまわってしまっているらしい。こっちに来てから、めまぐるしく状況に追いまわされていたから、気にも止めていなかったが、俺のつけている腕時計は余り役に立っていなかった。と言うか、ほとんど確認していなかった。とりあえず、動いてはいたが。
俺が寝るというので、退室しようとするリーヌだったが、ふと気になったので、呼びとめて、時間の事を聞いて見た。 こっちの世界も1年12ヶ月。24時間で1日らしい。こっちの世界の時計の読み方も教えてもらった。 俺の腕時計が指してるのは昼の1時頃。こちらの時計が指しているのは夜中の1時頃。 おどろいた。仮に日本とこの俺達の居る大陸の座標が同じあたりだと考えると、パールの言っていた、太陽の裏側説をある意味証明したと言えなくも無い。 とはいえ、時間だけなら、惑星の自転のレベルの話しだ、なんとでも解釈できるのも確かだ。 念の為、四季や、日の出日の入りの時間を聞き直して見たが、俺が日本から消えた時期は4月で夜。こっちの世界では10月で昼間。ちょうど半年ぐらい。これも太陽の裏側説を裏付けるものだった。
魔導科学のパール、いや、向井珠美。信じていいのか、それともただの偶然なのか・・・。 珠美自身も確証は無い風だった。それはそうだ。現時点で、宇宙には行けないのだから。 結論は、まだ、出せなかった。勇者の伝説を追って、状況を見てくしかない。
その頃、竜崎は。自室で専属メイドのナンシーと話していた。
竜崎「どうだい? ナンシー、首尾は。」 ナンシー「はい、おおせの通りに。そろそろ頃合かと存じます。」 竜崎「ん。」 ナンシー「・・・ですが、竜崎様、私におっしゃっていただければ、私が・・・。」 竜崎「ナンシー、君は素晴らしい女性だ。だが、今回は、遊びではないんだよ、僕が僕である為に必要なことなんだ。理解してくれるね?」 ナンシー「・・・はい、理解する様に努めます。」
竜崎は、何かを画策しているらしい・・・。 カイゼルはというと。
カイゼル「ほぉ。そういうことになっていたのか。で、まさと殿は?」 パール「はい、半信半疑のようです。それより、ミュウ、彼女の猛反対のほうが・・・。」 カイゼル「そうか。あれは、本当に母親に似てしまった様だな。で、次の手はどうするのだ?」 パール「ええ、それなんですが、明日、私は公休日ですので、朝から仕掛けて・・・。あ。ずっ、ずるいですよっ、今のは無しですっ。」 カイゼル「いや、一向に構わぬと思うが。ただ、余り早朝だと、逆効果。起きたのを確認してから、正々堂々と挑むのが・・・。」 パール「止めないんですか?」 カイゼル「止める必要は無い。多少、炊きつけてもらったほうがイロイロ見えてくるものでな。」 パール「はぁ・・・。」
なんだかとっても仲良しさんになってしまった、カイゼルと、パールであった。 そして、ミュウは。
ミュウ「ねぇ、ロザリー、今夜、やけに蒸さない?」 ロザリー「いえ、涼しいくらいですが。お酒の加減では?」 ミュウ「ああ、そうかもね。にしても・・・・・はふ・・・・・あづ・・・・・・・・。」
蒸し暑さか、酒のほてりか、なかなか寝つけずにいたようだ。
ミュウ「あ! そうだ! まさとをリンチにするの忘れてる! ああ、そうよ、きっと、その物足りなさがっ!」 ロザリー「は?」 ミュウ「・・・って、そんなわけないかぁ〜。」
馬鹿言ってないで、とっとと寝てくれ、そして、リンチのことはすっぱり忘れてくれ。
そんなこんなで、セントヘブンの夜は更けて行く。 明日は、みかがみの盾の事とか、イロイロ調べたりしなきゃいけないな。 そう思いつつ、俺は、眠ることにした。
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