魔導三人衆の魔導科学のパールが聖地ノスパーサの聖剣くさなぎを納めた祠で待ち構えていた。
そして、今まさにそのパールとの戦いの火蓋が切って落とされようとしている。
パールが地に降り立つのを待つまでもなく、ミュウは剣を抜く動作に入っていた。
さっきまで傍でボーっと見ていたシルフィーもなにやら呪文の詠唱をはじめたようだ。
俺は・・・・俺は何をすればいい?
ミュウ「まさと。アイツが下に降りた瞬間を狙って、祠に飛び込んで。ここは何とかするから。」
まさと「なに? どうするんだ?」
ミュウ「アイツ、調べたっていってたよね? 奪いに来たはずなのに、調べたってのはおかしくない? それにどう見てもくさなぎを隠し持ってるように見えないし。」
まさと「そうか。まだ、くさなぎは祠の中に?」
ミュウ「多分ね。勇者にしか抜けない仕掛けとか。だから、あんたが入ってくさなぎを持ってきて。聖剣があれば何とかなるかもしれないし。」
まさと「ちょーっと待て! 俺にくさなぎが持ってこれるかどうかはまだわかんないんだぞっ!」
ミュウ「詠唱も無しに自由に飛び回る相手よ。このままじゃ多分勝てない。どの道、あんたは魔法も使えなけりゃ装備もしてないしね。」
耳打ちしてる間にパールが地に足をつこうとしている。
ミュウ「とにかく走れって言うのっ!」
まさと「ええい! しらねーぞっ!」
パールが降り立つ瞬間、俺は祠の入り口めがけてありったけの力で走った。
パール「無駄よ。」
俺の動きを見たパールが体の向きを俺の方へ向けると、胸元の半透明な部分から、光球が発射された。
その光球は俺めがけて真っ直ぐ凄い勢いで飛んでくる。ただの光とは思えない。あれに当たると凄くまずい気がした。
シルフィー「リフレク!」
さっきから呪文を唱えていたシルフィーが叫んだ。それよりも一瞬遅れて光球が俺に当たる。
とたんに、巻き上がる炎。そしてスパーク。
激しい熱とショックに、この瞬間、俺は死んだと思った。そのまま走った勢いのまま祠の入り口にもんどりうって転がり込む。
その間もミュウは黙って見ていた訳ではなかった。抜いた剣を振りかざし、パールに切りかかっていた。
ミュウの剣がパールの側面を捉えようとした瞬間、鋭い金属音がして、パールに当たる前に剣ははじかれた。
ミュウ「くっ! ・・・なんでっ?」
パール「言ったはずよ。ソーサルブースターの敵じゃないって。」
間違い無い、あれは戦闘スーツの類だ。
そんな事が考えられる事に、気がついて、我が身を確認する。
転がり込んだ拍子についた土汚れ以外、何ともなっていなかった。
すぐその理由は思い当たった。シルフィーの唱えた呪文だ。シルフィーの呪文が俺を守ってくれたに違いない。
シルフィーはこちらの無事を確認するとにこっと微笑む。間違い無い。シルフィーの呪文に俺は助けられたのだ。
あの状況から、先読みして防御呪文を唱えてくれていたのだ。伊達に長く生きていない。
剣をはじかれたミュウはすぐさま体勢を立て直し、今度は剣先を突き出す形でパールに向かって突進していく。
ミュウ「てぇえええええいっ!」
パール「やぁね。学習能力無いの?」
あざけるような台詞をパールが吐いたとたん、今度は光球がミュウを襲う!
ミュウ「ぅあああああああっ!」
まさと「ミュウ! よけろっ!」
俺の叫びもむなしく、光球はミュウめがけて真っ直ぐに飛んだ。今度はシルフィーの呪文も間に合っていない!
もう駄目かと思ったその時、横合いから白い影が飛び出してきた。
白い影「せいやぁぁぁぁぁっ!」
白い影はミュウと光球の間に入り込み、一声と共に光球を弾き飛ばしてしまった。
白い影は、礼拝堂で会った、あの白い鎧を着た謎の剣士カイゼルだった。
カイゼル「無事か!? 勇者は?」
ミュウ「カイゼル!? ま、まさとは祠へ!」
カイゼル「よし!」
パール「・・・・・まさか? 弾き返すなんて。」
カイゼル「そうかな? この剣と我が剣圧をもってすれば造作ない事!」
パール「なるほど。剣圧によって起こった真空で壁を作り、魔法銀を塗り込んだ剣と、その角度と速度で光球を弾き返したのね。」
見るとカイゼルの剣はメッキが施されたようなキラキラと光る刃を持った物だった。
カイゼル「ふっ。見抜いたか。その通り。この剣は今は無きアルヘルドの魔導科学の恩恵による物だ。その鎧がいかに強くとも、このカイゼル、易々と倒せる等とは思うなっ!」
パール「いうわね。いいわ、本気で相手をして上げる。あなたを倒してからゆっくり勇者の始末をさせてもらうわ。」
カイゼル「シルフィー! 魔法障壁だ! 急げっ!」
シルフィー「ふぇ? あ、はぁい。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
今度は無数の光球がパールの鎧から発射された。
シルフィー「リフレクゥオール!」
間一髪、シルフィーの呪文が間に合った。カイゼル、ミュウ、シルフィーの直前で光球は妨げられた。
光球の爆炎が消えないうちにカイゼルはパールめがけて飛び出す。
そして、横合いから剣を振るう!
カイゼル「てぇえええいっ!」
パール「あっ!」
さっきのミュウと同じように剣は直前で何かの壁に当たりパールに触れる事はない。が、その剣圧からか、パールは体ごと、ぐいっと、押しやられよろめく。
まさと(すげぇ。あのおっさん無茶苦茶強えぇ。)
パール「信じられない! バリアごと押されるなんて!?」
カイゼル「何をしている! 早く聖剣を取って来いっ!!」
まさと「あっ!」
そう言われて自分がただ見とれていた事に気がつき、慌てて祠の奥へと俺は走り出した。
俺は馬鹿だ。そう思った。せっかくミュウやシルフィー、そしてカイゼルの作ってくれたチャンスを無為に経過してしまった。その分、全力で薄暗い祠の中を走った。薄暗くはなかったが。足元がぼんやり照らし出される。なぜだ?
その光源をたどると、胸ポケットに妖精ファルネがすっぽりおさまって、彼女の出す光が暗い祠の中を照らし出していたのだ。
まさと「い、いつのまに。」
ファルネ「ホコラ、ムカッタトキカラ。イソゲ。コノサキ、クサナギ、アル。」
まさと「このさきだな!?」
俺はファルネの案内にしたがって半ば迷路となっている祠の中を全力で駆け抜けた。
そして、いっそう深いと思われるところに出来た空洞に聖剣くさなぎはあった。
まさと「はぁ・・・・はぁ・・・・く、くさなぎか、これが。」
ファルネ「クサナギダ。ケイヤクヲカワシ、ヌキトレ。」
まさと「そうか、くさなぎはまだ無事・・・・おい、これを抜けってのか?」
ファルネ「ソウダ。ユウシャタルベキモノノ、ケイヤクニヨッテ、ヌキトレ。」
奪いに来たはずのパールがくさなぎを手にしていなかった理由がやっと分かった。
くさなぎは一抱えは有ろうかという大岩に深々と突き刺さっていたのだ。
これでは、どんな怪力の持ち主でも抜き取る事は出来なかったろう。岩を破壊すればくさなぎごと破壊してしまいかねない。
こんなシーンをどこかの物語で見たような気がする。つわもの達がこぞってかかっても、抜き取れなかった剣を、一人の青年がするりと抜いてしまう話。選ばれた物にしか抜けない代物。
これもそういうものかも知れない。
まさと「で、契約ってどうすればいいんだ?」
ファルネ「ワカラナイ。ケイヤクノホウホウハ、ツタエラレテイナイ。」
まさと「ちぇっ、勇者ならそれくらい何とか考えろってか?」
ファルネ「ソウダ。ダカラ、クサナギ、ブジダッタ。」
まさと「ったく。無事って言うか、何と言うか。どうしようもなかったんじゃねぇか。とにかく。引っ張ってみるか。・・・・・抜けてくれよぉ。」
俺は剣の柄を持ってゆっくりと引き上げてみる。が、びくともしない。今度は力いっぱい引き上げようとするが、これも微動だにしない。
まさと「だめだぁ、こんなもの到底抜けっこ無い。」
ファルネ「ケイヤクダ。ケイヤクガヒツヨウナノダ。」
まさと「契約ったってなぁおい。んー、持ち方が悪いんかもな。この鍔のところをこう持って・・・・・いたたたたたたたたっ! 何だこの剣! 鍔のとこまで刃があるぞ!うわうわ、手のひら切っちゃった、いていていて!」
ファルネ「ミセロ。ナオス。」
まさと「あ、すまん。」
ファルネが手のひらに乗り、両方の手のひらの傷をちろちろとなめると、すっと痛みが引き、傷が癒えていく。
初見の時の傷がそのままになっていたが、そこもファルネは直してくれた。
まさと「へぇ、もう直っちまった。すげぇや。」
ファルネ「イキナリカンデ、スマナイ。」
まさと「ああ、さっきの事か。いいよ。必要だったんだろ?」
ファルネ「ヒツヨウダ。ハナスタメニ。オマエノチガヒツヨウダッタ。」
まさと「俺もぶん投げちまったしな。あいこか?」
ファルネ「フフフ。ソウダネ。」
まさと「さて、再トライだ。何としてもコイツを抜いて戻らなきゃ。」
くさなぎに向き直り今一度手を掛けようとした時後ろから誰かが掛けてくる音が聞こえてきた。
ミュウ「まさと!あんた何やってんの!」
まさと「あ、ミュウ、すまん。これがどうしても抜けないんだ。」
ミュウ「よかった。やっぱりくさなぎは無事ね。さぁ、早く抜いちゃいなさいよ。」
まさと「ってよぉ、抜けねえんだってば。それより表は?」
ミュウ「カイゼルとシルフィーが踏ん張ってくれてるわ。だから今のうちに早く!」
ファルネ「ケイヤクダ。ケイヤクガヒツヨウナノダ。」
とにもかくにももう一度抜こうと手を掛けた時、後ろで笑い声がする。
パール「あはははは。何? 抜けないの? 何だ、勇者じゃなかったのね。本気を出して損したわ。」
ミュウ「そんな、シルフィーとカイゼルは!?」
パール「今ごろ立体映像と躍起になって戦ってるわ。私はずっとここに潜んでたの。」
まさと「なんだって? それじゃ俺達は躍らされてたのか?」
パール「そうよ。あなたたちを追いつめて、くさなぎを抜いた所で奪い取ろうと思ったんだけど。抜けないんじゃねぇ。うふふふふ。」
まさと「くっそぉ。なんだか知らんが物凄く悔しいぞぉ。」
笑みを浮かべながらパールは光球の発射の態勢をとった。
さっきの戦いでその雰囲気は何と無く分かってきていた。しかし。
ミュウ「くっ、どうしてこんな剣が抜けないのよっ!」
業を煮やしたのか、ミュウが俺を押しのけくさなぎの柄をぎゅっとつかむ。そしてそのまま・・・・・・ゴリゴリと嫌な音を立ててくさなぎを抜ききってしまった。
パール「なっ!?」
ファルネ「アァッ!」
ミュウ「あ、・・・・抜け・・・・・ちゃった。」
まさと「・・・・・んな無茶な。」
勇者であるはずの俺以外がくさなぎを抜いてしまった。その出来事に、一瞬、その場のものは、パールも含めて唖然としてしまう。
パール「はっ、よこしなさい! 聖剣をよこしなさい!」
ミュウ「あっ、そんな事出来る分けないでしょ!」
くさなぎに気を取られ、ヨロヨロとよってきたパールめがけてミュウがくさなぎを振り下ろす。
パキンとガラスか何かが割れるような音がして、くさなぎはパールが纏っていたバリアーとやらの位置を抜け、その肩のドームに、鈍い音を立ててめり込んだ。
パール「あぁっぐっ!」
まさと「やった!」
パール「うそっ!? ソーサルブースターのバリアが破られた?」
パールの肩のドームは見事にへしゃげ、レンズ部分も無数の亀裂が入っていた。
とっさにパールは宙を舞い出口に向かって一直線に飛んだ。勝ち目が無くなったのを理解したんだろう。
バリアをも打ち破る剣、聖剣くさなぎ。俺達は凄い物を手に入れたんだ。
パール「これで勝ったと思わないでね。必ずくさなぎは奪って見せるわっ。」
その頃、パールの装備に異変が起き、パールの立体映像はその場で掻き消えていた。
シルフィー「あれぇ。消え・・・・ちゃったぁ・・・・。」
カイゼル「しまった、そうか、あれは障壁を持った幻影だったか・・・・。ぐっ。」
シルフィー「あっ。」
脇を押さえるようにして、カイゼルはその場にしゃがみこむ。
シルフィー「カイゼルさん・・・・魔法掛けられてる。」
カイゼル「がふっ・・・・・さ、さすがだな。わかるか? さすがシルビアの孫だ。」
シルフィー「時を封じる魔法、かな? でも、それじゃ動けなくなるのぉ。」
カイゼル「その通りだ、が、効きがすこし浅かったんでな。無理をすれば短時間なら剣を振るう事くらいは出来る。で、無理をすると、この通りだ。」
シルフィー「・・・・・リフレース。」
カイゼル「・・・・すまん。少し楽になった。」
ここで、逃げ出してきたパールがカイゼルの前に現れる。
パール「こっちも、決着は付かなかったようね。剣士カイゼル。また会いましょう。同じ魔導科学の力を使う者同士、決着はその時に。」
カイゼル「ああ、そうだな。こ、こっちもしばらくは動けん。その様子では勇者は剣を手に入れたか。」
パール「ええ、残念ながら。不意を付かれたわ。今日はこれで出直し。では。」
そう言い残すとパールは空高く舞い上がって消えた。
俺とミュウがパールの後を追って祠の外に出た時にはもうパールの姿は見えなくなっていた。
ミュウ「あっ! カイゼル! どこかやられたの!?」
カイゼル「何という事はない。持病みたいな物だ。」
まさと「シルフィーも無事か?」
シルフィー「うん。大丈夫ぅ。」
カイゼル「そうか。聖剣を手に入れたか。・・・・・聖剣を携えし勇者よ、汝に、月光神ルーンの加護があらん事を。ん?なぜ、ミュウが剣を持っている?」
まさと「いや、これは、事故、と言うかその、ねぇ。」
ミュウ「あの、あ、あたしが抜いちゃったんです。抜けるはずが無いんですが、その、すぽっと。」
カイゼル「・・・・なっ! ファルネがついていてか? グレンハートの娘ともあろう者が何という事を・・・・。」
ミュウ「うひぃ、すみませぇん。」
立ち上がったものの事の次第に愕然となったカイゼルはがくっと膝を落とす。
妖精のファルネは俺のシャツの胸ポケットでふるふるふると、首をただ振っているのみ。
さて、どうしたものやら。
カイゼル「仕方が無い。村に戻ってシルビアに相談するしかあるまい。行くぞっ。」
そう言うと村の方向へ向かって歩き出すカイゼル。
なんか、ミュウといい、このカイゼルといい。人のことほっぽって、先に歩き出す奴の多い事。なんなんだかね〜。
長老「こぉぅのぉ大馬鹿もぅぉぉぉおおおんんっ!」
ミュウ「ご、御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさい!御免なさいっ!」
村に帰った俺達を迎えてくれたのは長老の罵声だった。やっぱり。
長老「ファルネ! カイゼル! お主らがついておって、何という体たらくぢゃっ!」
カイゼル「済まん。何と申し開きした物やら。しかし、勇者でない者にくさなぎが抜けるとは。」
ファルネはきゅっと丸まったまま、俺の胸ポケットから出てこようとはしない。
長老「ええい、これでは、勇者だか変人だか分からん様になってしまったではないかっ。ミュウもミュウぢゃ、なぜ、聖剣を抜こうなどとしたっ!」
ミュウ「そ、それはぁ、抜けない抜けないってまさとが言うから、確めて見ようかとぉ。」
長老「ふむぅ。もう一度聞くが、ミュウが抜く前にまさとも剣に触れておるのぢゃな? ファルネ。」
ファルネはひょこっと首だけをポケットの外に出し、こくこくっとうなずく。
長老「ふーむ。ならまだ完全に否定も出来んのう。しょうないのぉ、次行くぞえ、次。」
まさと「な、なんだまだあるのか?」
長老「しょうがなかろう。セントヘブンにある、みかがみの盾を手に入れてくるのじゃ。ただし、みかがみの盾はセントヘブンの国宝じゃ。奪うなどではなく、きちっと説得して持ち帰るのぢゃ。」
まさと「ああぁ、今度は楽そうだな。契約がどうとかなさそうだし。」
長老「どうかのぅ。国王のヨハンヘブナートは気難しいので有名ぢゃからの。まぁ、カイゼルがおれば話も通りやすいぢゃろうが。」
カイゼル「シルビア、それはいくらなんでも無理だ。今の私は・・・。」
長老「おお、そうじゃった、済まなんだのう。」
剣の次は盾か、そういう展開がありそうな気はしてなくも無かったが。
肝心の剣をミュウが抜いちまったんじゃ、別の手で調べるしかないって事は分かる。
にしても、カイゼルって、どうも、複雑な過去を持ってそうな気配だなぁ。
もう一つ二つ気になる事があったんで、聞いてみる事にした。
まさと「なぁばあさん。成り行きで連れてきちまったけど、これ、妖精、かまわねえの?」
長老「ファルネか。それならかまわん。聖剣が抜かれてしまった以上、番人の用も済んだということぢゃ。ファルネがそうしたいのなら一緒にいてかまわんぞぇ。どうなんじゃ、ファルネ?」
ファルネは先と同じようにうなずいて答える。
まさと「そっか。じゃあ二つ目。魔導科学とかってなんだ?」
長老「なんじゃと? 今何といいおった? 魔導科学といったか?」
まさと「言った。パールとかってのがそれを使ってるらしい。」
長老「むむむむむ・・・・・・。」
長老はそのまま考え込んでしまった。
ミュウ「魔導科学ってのは呪文じゃなく道具を使って魔法を使おうとした文明アルヘルドのことを指すんだと思うわ。世界を掌握しようとしたんで、各国の協力軍によって滅ぼされたって話よ。」
長老「これ、人が話すか話すまいか悩んでおるというのに。」
ミュウ「でも、話さないとわからないじゃないですか。」
長老「いやま、そうなんじゃがのう。お前さんが変に思い出すんじゃないかと思ってのぉ。」
ミュウ「平気です。一度は滅んだんだけどね、70年程前に復活を狙った動乱があったのよ。その時に復活を阻止するのに活躍したのが父さんや母さん達だったの。話したでしょ? 昔一緒に戦ってたって。」
まさと「ああ、あれがそうだったのか。」
ミュウ「それから、当時まだ剣士だったヨハン王に、シルフィーの兄さんのアスフィー。この四人は当時最強だって噂されてたらしいわよ。」
カイゼル「そうだ。最強だった。噂などではない。」
何を念押ししてるんだこのおっさんは。
長老「しかし、厄介じゃのう。今また、アルヘルドの復活を願う物が出て来たと言う事かいのう。」
カイゼル「復活を願っているかどうかはまだ分からんが、あれはまさしくアルヘルドの文明によって作られた物だ。呪文の詠唱無しに術を行使していたからな。私も幻影にすっかりだまされた。」
長老「ふむ。もう時間が無いのかもしれんのう。では、勇者について少し話しておくとするかのぉ。まだ、早いかと思っておったんじゃが。」
まさと「あ、ああ、聞かせてくれ、ばぁさん。」
小さな咳払いを一つすると長老シルビアは勇者についてを語り始めた。
長老「異世界より来りし者、そは勇者なり。言動は不可解なれど、その力は大いなる者なり。初めての勇者となりし者、その者、名はスサノオノミコトなり。八つの頭を持つ闇の龍を追いて、この地にいたらん。」
まさと(スサノオノミコトにヤマタノオロチのことか? でも史実とはちっと違うような。)
長老「勇者は国々の力を束ね、龍を荒ぶる戦いの末退治せん。勇者は龍を北の地の果てに運びて、これを封印す。勇者はそののち、龍によって荒廃せし土地を耕し、一国の王とならん。その国の名をセントヘブンという。勇者は友好の証しとして龍退治に協力した国々に己が武器を授け、こう語る。『この世界に災いが降りかかりし時、再び勇者が現れる、国々の王よ、我の預けし武具を勇者に差し出せ。さすれば世界は救われん。』と。」
まさと「なるほど、それで剣とか盾とかバラバラにあるんだな。」
ミュウ「そゆこと。まとめておいとくと、ろくな事にならないからってんでもあるでしょうねぇ。」
長老「そういう事ぢゃろうな。まだ続きはあるぞえ。追記された物じゃがの。二代目の勇者となりし者、スサノオノミコトの縁の者、その名はヤマトタケルなり。国々の武具を一堂に集め、復活した闇の龍を今再び封印す。というわけぢゃ。ちょっと早足だったがの。」
まさと「えーっと、んじゃ、魔王ってのは居ないのか?」
カイゼル「この世界は龍によって作られたとされていてな、それが、月光神ルーンと暗黒神サイファシスなのだ。ここで言う闇の龍とはサイファシスの事であり、すなわち龍こそが魔王という事だ。」
まさと「え? じゃ、この世界って、魔王と神が協力して作ったって事なのか?」
長老「そうじゃ、闇と光、一対の神の力の均衡によって、この世界は作られた事になっておる。」
まさと「んじゃなに? 勇者って闇とはいえ、神に勝たなきゃいけない訳? なんでまたそう言う事に?」
長老「なんでぢゃろうのう。そういう事になっとる以上、わしらには変えようも無いでの。サイファシスはちと悪さがすぎたってところかいのう。それで、勇者によって戒められたという訳ぢゃ。」
まさと「・・・なんだか飛んでもない話に首を突っ込んでしまったような。」
話を聞いていてどんどん不安になってきた。
長老「が、まぁ、そう悲観したものでもないぞえ。先ほどセントヘブンから使いの者が来ての。勇者が現れたのだそうじゃ。」
ミュウ「嘘!? じゃあこれはただの変人?」
まさと「うっ。これって言うなぁ、・・・・勇者も嫌だが変人はもっと嫌だぁ。」
長老「と言う訳でじゃ、どっちが本当の勇者か会って確めてこいという事ぢゃ。その上で、勇者だという事であれば、みかがみの盾を持ち帰ってくるがよい。」
と、色々話してる間中、喋りもせず静かにしていたシルフィーが、ばぁさんのはじめの罵声と形相に驚いて立ったまま気絶していた事に皆が気がついたのはほんのちょっと後、退室しようとした時になってからだった。
というわけで、セントヘブン行きが、うやむやのうちに決定した。けど、他に勇者が現れたと聞いて、安心したのも事実なんだよなぁ。
どんな勇者なんだか。強そうな奴なら勇者譲っちゃうのも良しだし。
でも、そうなると、なんで、俺はこっちの世界に呼び込まれたんだぁ?
・・・・・今夜もまた眠れそうに無いなぁ。