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−第3話#1ヘ戻る−
マリンの家は、大樹林の中でもやや高台になった場所にあり、巨大な倒木の株を利用した、家そのものとはちょっと違った、佇まいだった。 木が枯れて出来た空洞を利用して部屋としているのだ。ログハウスのように組み木ではないが、少々歪んではいるものの部屋は四角く彫り進められており、部屋と言って差し支えは無かった。むしろ、木の香りが心地よかった。
まさと「いい、家だな。」 マリン「ありがとう。部屋は空いているところを自由に使ってくれて良いわ。ところどころ樹液が垂れてる部屋があるから、それだけ気をつけて。」 まさと「はは、さすが大木だな、ほとんど枯れてるのにまだ樹液が出てくるって。」 ミュウ「大昔は、あたしたちエルフもこういう木の洞とか、そういうところで寝泊りしてたらしいよ。今じゃ、交流もあるから人の生活に合わせて暮らしてるけど。」 まさと「ふーん、じゃぁあれ? マリンさんも、エルフとか?」 マリン「え、ええ、ハーフよ。人間と。」 タニア「タニアもハーフにゃ。」 まさと「へぇ、そうだったんか。」 タニア「ワーキャットのパパと、ワーキャットのママのハーフにゃ。」 まさと「いや、それは確かに半々と言えなくは無いが‥。」
と、そこまで言いかけて、やめた。徒労に終わる気がした。 しばらくして、夕飯。木の実や、果実、といった自然食がメインだった。といっても、木の実をメインにしたスープなどもあって、かなりあでやかな食卓を囲ませてもらった。 木の実といっても馬鹿に出来ないらしく、さすが生命の種、驚くほど栄養価は高く、それで必要な栄養は摂れるらしい。多少、量的に食べ足り無さはあったのだが、そこはスープで補えた。
マリン「どう? 口に合った?」 まさと「ん、ああ、美味かった。驚いたよ、木の実とかだけでも食事になるんだな。」 ミュウ「久しぶりに本格的なのを楽しませてもらったわ。最近雑食だったから。なんだか新鮮。」
というものの、カイゼルのほうが気になった。木の実をタマにぽりぽりとやっていた様だが、その絶対量が少なすぎる。
まさと「おっさん、いつもそんなもんなのか?」 カイゼル「ん? ああ、こんなものだ。充分頂いた。」
そこで会話が途切れる。つくづく謎な剣士だ。
まさと「ああ、マリンさん、実は、この人は‥。」 マリン「はい。カイゼル様。存じ上げてます。お元気そうでなりよりです。」 カイゼル「いや、‥まぁ、うむ。そうだな。元気が何より。」 まさと「へ?」
さっきはじめて会った時、カイゼルはマリンのことを思い出して、その時は噂を聞いたような感じの口ぶりだった。それが、マリンのほうはカイゼルのことを良く知っている様だ。なにかおかしい。 本当に知っているのか、それとも、読んでいるからなのか‥。
それからは各人好きな部屋を探して、好きにくつろがせてもらっていた。 俺は、外が良く見えるところを選んで、そこを使わせてもらっていた。 せっかくこうした貴重な家での経験をしているのだ、そこから見える景色もまた貴重だと思えたから。 しかし、まぁ、大樹林のど真ん中、木々以外は、遠くに山脈がかすかに見えるくらいで、別段変わった物が見えるわけではなかったが。 変わった者は見えるけど。 下のほう、つまり、木の根元、いわば玄関先に目を落とすと、そこに白い鎧が見えた。カイゼルだ。 剣を真正面の地面に突き立てるようにして腕を張り、森を見据えているような雰囲気。 見張りでもしているのだろうか。律儀なことである。 そこへ、木の中からマリンさんが出てきた。 見ていると、何やら話し込んでいる様だ。さっきのやり取りも合った事だし、きっと、昔話でもしてるんだろう。
まさと「何話してんだろうな‥。」 タニア「行って聞いて来れば良いにゃ。」 まさと「いや、そういうわけにも‥って、ああ、びっくりした、なんだ、猫かよ。」 タニア「猫にゃにゃいにゃ。タニアにゃ。」 まさと「なんか早口言葉みたいだゾ。は、ともかく、いいとこなんだから邪魔しないでくれ。」 タニア「ん? なんにゃ?」
俺と猫娘は争う様に木の根元を見やった。 するとそこでは、カイゼルとマリンが抱き合っていた。熱い抱擁真っ最中。
まさと「なにぃぃぃ!?」 タニア「にゃにゃにゃーーーーーっ!?」
想像だにしなかった状況に、俺と猫娘は乗り出すのをやめ、ゆっくりと部屋の中に戻る。
まさと「‥今日はもう寝るか。」 タニア「‥タニアも一緒に寝るにゃ。」 まさと「そうだな、猫、寝ちまおう。そうしよう。」
借りてきていた毛布に入ろうとすると、猫娘がじゃれる様に入ってくる。
タニア「タニア、お礼にきたんにゃ。忘れるとこだったにゃ。」 まさと「なんだ?」 タニア「タニア、好きにして良いにゃ。」
そういうと、猫娘は潤んだ目で見つめてくる。
まさと「なんだ、そういうことか。あー、けど、いいや、そういう気分じゃない。」 タニア「なんにゃ? 毛が嫌いにゃ? んにゃ。」 まさと「いや、そういうんじゃ・・・。」
俺の言うことも聞かず、猫娘は座ったままの態勢で、伸びをしたかと思うと、一瞬その姿が揺らぎ、獣人から人そのものの姿に変化した。
タニア「これでどうにゃ?」 まさと「はぁ、変えられるんだ、便利なやつだな。‥それでも、にゃ、のままかい。」 タニア「これはしかたにゃいにゃ。」
猫娘はぺろっと舌を出す。可愛い奴なんだなと思う。マリンさんがこいつを傍においてるのも分かる気がするような。
まさと「しかしよー、タニア。お前、どこで、そういう礼のしかた覚えてきたんだ?」 タニア「んー。なんか覚えさせられたにゃ。ちっちゃい頃にゃ。おしごとしてたにゃ。」 まさと「あ、わり、不味いこと聞いたな。」 タニア「いいにゃ。んでんで、マリンに会ったにゃ。怒られてたの助けてもらったにゃ。」 まさと「‥なるほどな。苦労してきたんだなお前。」 タニア「そーでもないにゃ。マリンと一緒で楽しいにゃ。それでいいにゃ。」 まさと「で、マリンにも同じお礼したのか?」 タニア「ん。けど、いらないっていわれたにゃ。寂しかったにゃ。けど、頭なでてもらえたにゃ。うれしいにゃ。」 まさと「だろうな。そういうお礼はしなくていいってことなんだ。しなくていい様にマリンはお前を助けたんだ。わかるか? だから俺も、そういうのはいらないってことだ。」 タニア「んー、にゃぁ。わかったにゃ。」
一瞬つまらなさそうな顔をしたものの猫娘はさっきまでと同じかそれ以上の笑顔でそこに座ってる。
マリン「‥あっ!」 まさと「わっ。」 タニア「にゃっ。」
いつの間にか、マリンが上がってきていた。猫娘は慌てて獣人に戻る。マリンは慌てて出ていこうとする。俺はどうも出来ない。マリンにどう見えたかは想像に容易い。
まさと「あ、あのっ!」 マリン「み、見なかったから。」 まさと「無い無い! なんも無いから!」 タニア「しなくていいにゃ!」 まさと「うぉ。何を言い出しやがる。」
一生一大の大ピンチかも知れず。気まずさ大爆発状態か。いや、見られたのがミュウでないのが幸いだけど。
マリン「え、断ったの? ふぅぅん。」
タニアの爆弾発言が逆に功を奏した様だ。マリンは立ち止まり、ゆっくりと部屋に入りなおしてきた。
マリン「あ、ごめんなさい。今、読めちゃったから。この子、素直過ぎるでしょ?」 まさと「よ・・・あ、ははっ。そうだなぁ。そういうことです、まぁ。」
マリンさんはゆっくりと寄って来て、猫娘の頭を撫でながらいう。 なんだか誤解は解けたとはいえ、気恥ずかしい。
マリン「ほんとは大事なお話があったんだけど、用が済んじゃった。あなたなら、きっと大丈夫。」 まさと「え。なにが?」 マリン「話してあげたいけど、今はまだ早いと思うから、そうね、その時が来たら話してあげられるから。ごめんなさい。」 まさと「ええ、すんげー気になるっすよそれ。」 マリン「そうねぇ、あなたなら話しても大丈夫だと思うんだけど、話すと私がしかられちゃうの。だから、ごめんなさい。」 まさと「そ、そうっすか。じゃ、しかたないよな。いつか、聞かせては‥。」 マリン「ええ、必ず。」 まさと「わかりました‥。」 マリン「それと、‥ミュウじゃなくて良かったって、思いませんでした?」 まさと「うっ。」 マリン「あ、いいんです。いいんです、それで。気に掛けてやってて下さい。必要なことだと思いますから。」 まさと「えっと、占いってことですか?」 マリン「ええ、そんなところです。あと、一つだけ誤解をとかせて。」 まさと「え? なにか?」 マリン「私とカイゼルのことです。」 まさと「あ。」 タニア「あつあつにゃ。」
またしても猫娘の暴虐極まりない一言で部屋の空気が凍ったような気がした。 が、それもマリンの一言で、氷解した。
マリン「カイゼルは、いえ、ほんとは違う名前なんですが、私の父なんです。」 まさと「えっ、マリンさんの!?」 マリン「ええ、訳あって、今名前を出すと、事が悪いほうへ行ってしまうらしくて、私も聞き出すのに苦労しました。」 まさと「あ、じゃぁ、食事の時のアレは‥。カマをかけた‥。」 マリン「ええ。そう。もうしばらく隠しておく必要があるらしいので、合わせてあげて下さい。」 まさと「じゃ、ほんとに誰にも言わないほうが‥。」 マリン「そうですね。父が自分の口から言い出すまでは。タニアも人に言っちゃダメよ。」 タニア「うにゃ。」 まさと「わかりました。俺も胸に納めておきます。」 マリン「お願いします。それじゃ、私はこれで休ませてもらいますね。タニアはどうするの?」 タニア「んー、ここで寝るにゃ。」 マリン「そう、まさとさんはそれでいいですか?」 まさと「あ、はい、それはかまわないっす。」 マリン「じゃぁ、そういうことで。おやすみなさい。」 まさと「おやすみなさい。」 タニア「おやすみにゃ。」
マリンさんは、笑顔で軽く会釈すると部屋を出ていった。 俺とタニアもすぐに床についた。が、今度は、タニアはほんとに猫に変身。便利なものだ。 その猫になったタニアを抱える様にして眠りについた。 マリンさんやタニアとの出会いで、カイゼルの謎な部分が少し分かって、今夜はいつもよりはよく眠れそうだ。
そして、夜が明けた。段取り良く進めば今日はセントヘブン入りだ。 この日は、別室になったため、ミュウに叩き起こされないで済むかと思っていたのだが、やはり思いっきり殴られて起こされた。
ミュウ「・・・なに考えてんのよ。まったく。」 まさと「・・・・ててて・・・・なにがだよぉ・・・。」 ミュウ「・・・・・・それ。」
ミュウがこちらを指差す。 ミュウが示す先を追ってみると・・・・・・・・猫になっていたはずのタニアが獣人に戻り、俺に絡みつく形で、寝入っていた。
まさと「うぉあっ! お、おい、ねっ、ねこっ、お、起きろ、も、もどってるぞ!」 タニア「・・う・・・にゃ?」
タニアはまだ眠そうな目を何とかして開きながら起きあがると、ぺろんと俺の顔を一舐めした。
タニア「・・・・いい朝にゃ。」 ミュウ「なっ!?」 まさと「・・・・よくねぇ・・・。」 ミュウ「まさかとは思ったけど、猫に手を出すとは・・・・・・・はぁ。」
両肩をがくんと落として、情けなさげにミュウがため息をつく。
まさと「なにもねぇって!」 ミュウ「あ〜、いいわよ、隠さなくたって、誰にも言わないわよ。情けなさ過ぎて・・・。」 まさと「ちょぉっとまて、どんどん誤解してねぇか?」 タニア「うにゃ? 隠してることはあるにゃ。」 まさと「なにっ! そんなものは・・・・あ。」
タニアは、夕べのマリンさんとの話のことを言ってるのだと思い当たった。 が、これは、ミュウに話すわけにもいかず、説明のしようが無い、またしても大ピンチ。
ミュウ「・・・ん〜。何を隠してるって?」 まさと「うぅ。」 タニア「んー、誰にも言えないにゃ。言えないから隠すにゃ。秘密にゃ〜。」 まさと「うううっ。」
話すしかないのかと諦めた時だった。
マリン「おはようございますぅ。」 ミュウ「あぁ、ども。」
助け舟が現れた。そうだ、マリンさんになら潔白を証明してもらえそうだ。
まさと「ああ、マリンさん、いいとこに来てくれたよ。」 マリン「え? ・・・・ああ、そういうことですか。」 ミュウ「ん? なに?」 まさと「助かった〜。ミュウが俺と猫のこと誤解してて。」 マリン「ミュウさん、そんなに、まさとさんのことが気になるんですか?」 ミュウ「え! なっ、なっなっなっ、なにを!?」 マリン「そうですねぇ。まさとさんとタニアは、昨日一晩でかなり仲良くなったみたいですよ。」 ミュウ「わ、わか、・・・・言われなくても、わかって、ますよぉ・・・。」
なんだか、さらにこじれていってるような気がするんですが。
まさと「ま、マリンさん、それは、語弊が・・・。」 マリン「いいから、おねぇさんに任せて下さい。」 まさと「えぇ? そういわれても、ミュウ、どんどん誤解してますって。」 ミュウ「なにがよ。」
さっきよりも凄い形相でミュウがこっちをにらむ。
タニア「ふーーーーーーーーーーーーーーっ!」 まさと「おぁ。」
そのミュウの形相に反応して猫が唸り声を上げる。もう、どうして良いものやら。
ミュウ「ん!? なんだか反抗的。」 まさと「な、ミュウ、猫のすることだから、猫の、なっ? なっ?」 ミュウ「したのは・・・・。」
また睨まれる。
まさと「してねぇよっ! なにもっ! コイツが一緒に寝るつうからそうしてただけだっての!」 ミュウ「どうだか。」
ミュウは冷ややかな目で俺とタニアを見比べる。
マリン「ぷふっ。」 ミュウ「ん?」 マリン「そんなに気になるなら、もっと素直になればいいのに。あ、いえ。」 ミュウ「あっ、あたっ、あたしは、べつに・・・・その・・・。」 マリン「大丈夫。夕べは心配してたようなことは無かったですよ。」 ミュウ「なんでわか・・・・あ、そうだった。」 マリン「ええ、そういうことです。」 ミュウ「わかったわよ。まさと、疑ってごめん。タニアもね。」 まさと「・・・やれやれ。まぁ、そういうこった。」 タニア「にゃ。」
マリンさんが人の心を読めるのを思い出して、ミュウも何とか納得してくれた様だ。 どうにか、朝の惨劇はまぬがれた。 とかく、こっちに来てからと言うもの、朝はスリリングだ。
そして、皆で、軽く朝食を摂ると、俺達はセントヘブンへ向けて出発した。 マリンさんとタニアは同行することになった。気分がいいので、今日は、セントヘブンにある占いの館を開けるのだそうだ。
しばらく大樹林を進むと、昨日の様に、またしても、誰かが罠に掛かっているところに出くわした。 今度は、子供である。
子供「あ、そこのっ、早く助けなさい!」 まさと「なんだかなぁ。」 ミュウ「猫といい、この子といい。なんで、捕まってるのに大口叩くかなぁ?」 カイゼル「まぁ、仕方あるまい。」
俺達は昨日のように役割分担して、罠に掛かった子供を助ける事にした。
ミュウ「まさとは、頭の後ろに目をつけてる様に。」 まさと「うるさいわぁ。俺の目は、前にしかねぇんだよ。」
ミュウにやじられながら、俺達は四散する。今回ロープを切るのはカイゼルが受け持った。
まさと「さーてと、誰かいねぇかなっと・・・・ったく、罠ばっかり張りやがって、面が見てぇよほんと・・・。」
その時だった、甲冑を着込んだ細身のひょろひょろした剣士らしいのが、俺めがけて突っ走ってくるのが見えた。
剣士「きっ、貴様ぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜そこを動くなぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」 まさと「へ?」
とっさのことで俺は動くことも出来ず、剣士はあっという間に俺の傍まで来ていた。 そして、剣士は走ってきた勢いを乗せて手にしていた剣を一気に振り下ろした。
ざくっ!
俺は、微動だにも出来ず、死を覚悟した。 が、切られたのは俺じゃなかった。
???「ウギャァァァ....」
剣士は、俺の傍にいた、何かを切り倒したのだ。 俺の傍にいた何かとは、タニア達獣人とは違う、得体の知れない怪物だった。 怪物は切られたところからぶくぶくと泡を噴出し、見る見る大地に溶けこんで、消えた。
まさと「な、なんだ、こいつ。」 剣士「無事ですか?」 まさと「ああ、ああ、なんなんだよ今のやつは?」 剣士「魔によって生み出されしこの世ならざる獣、魔獣です。」 まさと「ま・・・」
そう言いかけた瞬間だった。
タニア「ふにゃぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
タニアの唸り声が聞こえた。俺と剣士はとっさにタニアの唸り声のほうへ走った。
剣士「今のは? ワーキャット?」 まさと「ええ、連れの猫娘っす。」 剣士「なるほど。では、急ぎましょう!」
俺達が駆けつけると、タニアはマリンさんと一緒に別の魔獣とかいう奴と対峙していた。 どうやら、マリンさん達は魔獣に押されているようだった。 マリンさんは手にナイフを、タニアは自前の爪を駆使して、必死に抗っていたが、魔獣に分があった。 ナイフに爪ぐらいでは魔獣はかすり傷程度で、致命傷にてんで至らなかった。
まさと「なんでこんなやつらが・・・・。」 剣士「それは後ほど御説明をっ。」
剣士と俺はマリンさんたちを襲う魔獣めがけてとにかく走った。 見ると、反対側から、ミュウと、恐らく、こちらにいる剣士と同じく事情を知っているのだろう。 丸々と太った剣士が大汗をかきながら走ってきている。
まさと「あれは・・・」 剣士「仲間です。」
もうちょっとで傍に行き付くといった所で、マリンさんが足元を取られふらついた。すかさず魔獣の爪がマリンさんを襲う。
まさと「くっ。」
間に合わないと感じ始めた時だった。
???「フレアブレット!」
どこからとも無くそう聞こえたかと思うと、複数の火の玉が魔獣めがけて飛んできた。 そして、それは魔獣を捕らえ、魔獣は火に包まれもだえ苦しむ。 火の玉が飛んできた方向を見ると、長い銀髪のエルフの女性が、小高いところからこちらの様子を見ていた。そして叫ぶ。
???「早くトドメをっ!」
魔獣に1番近いところに来ていた俺は、くさなぎを引きぬき、そして燃え盛る魔獣に無我夢中でつきたてた。
魔獣「グギャァァァ...」
叫び声を残して、魔獣は泡となって消えた。
少し遅れて、ミュウ達も現場に辿り着いた。そして、魔獣の消えて行く様をただ眺めるばかりだった。
???「とうとう出たか・・・・。」
先ほどの銀髪のエルフがそばに来ていた。 銀髪のエルフはきりっとした目のかなりいかした美人だった。口調もそれを引きたてていた。
まさと「あ、さっきの火の玉、助かりました。」 ???「いや、気にせんでいい。それより、皆無事か?」 まさと「え、あ、無事、みたいです。」
カイゼルと、捕まっていた子供もすぐそこまで来ていた。
ミュウ「なによ、今の・・・・。」 剣士「魔獣です。」 太った剣士「だな。このところこの辺で見かけたって噂があったんだな。」 子供「で、罠を仕掛けてみたものの、ってやつね。」
ここで、はっとなった。 罠を仕掛けていたのはこの子供達だったのか? いやまて、それなら、この子供は自分の仕掛けた罠に?
まさと「何がどうなってんのか、説明できるやついる?」
子供が前に出てきた。
子供「まず、自己紹介かな? 私は、レーア。そこの細いのと、太いのは、お供のキリー・キリーに、ターマル・ター。まぁ、私設警備隊っていったとこね。」 まさと「あー、俺は、まさと、宗方まさと。で、俺達は・・・」 マリン「勇者様御一行です。」 まさと「うわぁ。いいのかよ。」 マリン「平気ですよ。あ、私は、マリン、占い師です。」 まさと「あ、そ。」 ???「わしは、シ、シルビーとでも呼んどくれ。流れ者だ。」 カイゼル「私は、カイゼルだ。」 タニア「タニアにゃ。」 まさと「ああ、このふわふわ飛んでるのノスパーサのファルネ。だ。」 ミュウ「ミュウね。で、何が起こってるのよ、見たことの無い生き物だったけど。」
魔獣とやらが溶け去ったあとを中心に俺達は輪になった形で向き合っている。
レーア「このところ、この森で、魔獣が出たって噂があって、そこの二人と一緒に罠をはってたの。ここ3日ほどかな?」 キリー「ええ、ですが、なかなか知能があるらしく、罠に掛からず苦労しておりました。」 まさと「えーっと、じゃあ、さっきこの子が掛かってたのは・・・・。」 レーア「うっ。最初のほうでかけた罠を忘れてただけよ。」 まさと「そういうことか。いや、納得。」 ミュウ「で、その罠にまんまと掛かったまさとは、魔獣以下として、その魔獣って?」 まさと「なんだとぉ?」 ミュウ「なによ。」 シルビー「あー、先ほど、生き物と言っておったが、厳密に言うと生き物ではない。」 まさと「へ?」 キリー「そうです。生き物ではありません。どうやら、魔の力を結集させて作り出された物の様です。溶けて消えてしまうのがその証拠かと。」 カイゼル「そうだな。昔アルヘルド騒乱で似たような物が使われていた。それを復活させた者がいるのだろう。」 シルビー「そのとうりじゃ。気になって後を追ってきて正解・・・いや、なんでも無いぞ。」
さっきから、どうもこのシルビーというエルフの口調が気になる、なんか、聞き覚えがあるのだが。
シルビー「なんじゃ、わしの顔に何かついておるか?」 まさと「あ、いえ。ただ、なんとなく、初めてじゃないような。」 シルビー「そうか? 気のせいぢゃろ。」 カイゼル「・・ん・・・こほっ。」
カイゼルが何やら咳払いをする。
まさと「ひょっとして、おっさんの知り合い?」 カイゼル「ん、まぁ、な。」
そこで、俺はあることに気がついた。シルビーの持ってる杖だった。
まさと「あ、その杖・・・・。」 シルビー「うほ。しもた。つい、いつもの癖で持ってきてしもうた。」 まさと「なに!?」 ミュウ「あ、ちょうろーの・・・・って、ええええええええ!?」
ミュウも奇声を上げる。
まさと「なにいいい!? まさか、ばぁさん!?」 シルビー「ぎょ。」 ミュウ「ちょーろーーーーーー!」 シルビー「ぎょぎょぎょ。」 カイゼル「シルビア、そろそろ時間だ。」
カイゼルがそう言った時だった。ぽんっと音と共にシルビーのまわりに煙が起こり、シルビーはシルビアに戻った、らしい。
長老「いやぁ、あっけのうばれたのぉ。」 まさと「まじかよ。」 ミュウ「うぁ、あ、実在したんだ、若返りの魔法。」 長老「かれこれ、400年ほど前の姿じゃ。べっぴんだったじゃろ?」 まさと「ああ、まぁ。なんてぇか、夢から現実に引き戻された感じだ。」 長老「これ、あんまりなことを言うでない。」 まさと「見事にひなびちまって・・・・。」 長老「すまぬのぉ。じゃが、心はまだ若いまんまだぞぃ。」 まさと「いや、歳相応のほうがいいんじゃないかと。」 カイゼル「うわははははははは。」 長老「これ、カイゼル! 笑うでない! そなたとて似たような、あわわわ。」 カイゼル「ぐほっ、げほっ。いや、悪かった。済まない。」 まさと「なんなんだかなぁ。とにかくだ。その魔獣って俺がこっちきたのと関係あるのか?」
いつまでも馬鹿話もしてらん無いので、ちょっと話を本題に戻してみる。
長老「あるかもしれんのう。そういう状況だから、お主や、セントヘブンの勇者が呼び入れられたと考えるのが筋じゃろうて。」 まさと「なるほど、なぁ。って、やばい方向へ行ってるって事か?」 カイゼル「残念ながら、そうなるな。セントヘブンの勇者か、あるいは、まさと殿が世界を救うことになるのだろう。」 まさと「ひ、人事だと思って、あっさり言わないでくれ。」 レーア「ちょっと。勇者って、ほんとに?」
傍にいた子供、レーアが話に割ってはいる。
まさと「ああ、勇者かどうかはわかんねぇけど、とりあえず、俺は、こことは違う世界からきた。」 レーア「んー、勇者って、思ってたのと違う物なのね。りゅーざきってのとまた雰囲気違うし。」 まさと「りゅーざき? 竜崎か? 日本人? 会ったことがあるのか?」 レーア「ああ、そうそう、ニホンからきたとか言ってた。」 ミュウ「え、なに? 話が見えないんだけど?」 まさと「あ、セントヘブンの勇者の話、どうやら、おれと同じ国のやつらしい。こりゃ、会う価値はあるかもな。」
竜崎って言う、セントヘブンに来た勇者、会ってみれば、なにか情報が掴めるかもしれない。 俺の場合とどう違うのかで、ヒントになる部分が見つけられることも考えられる。
カイゼル「ニホンか。ヤマトではないのだな?」 まさと「あ、ああ、大昔はやまとちょーてーとか呼んでたこともある。」 カイゼル「ふむ。勇者の国なのだな、やはり。」 まさと「いや、ちょっと違う気もするけど。勇者が好きな国ってか。ヤマトってのは先代勇者とかの国なんだよな?」 長老「ああ、そうじゃ。クサナギノミコト、ヤマトタケル、どちらもヤマトから来たらしいぞ。」 まさと「そうなると、つじつまは、一応合ってんのか。」 ミュウ「えー、やっぱ勇者なの?」 まさと「嫌そうに聞くな!」 ミュウ「だってさー。」 まさと「まだ、伝説の信憑性がちょっと上がったってだけだ。」 ミュウ「あ、そなの。」 まさと「ああ。」 ミュウ「勇者ってことになっちゃったら、ため口叩けないし〜。」 まさと「あ、あのなぁ・・・・。」
セントヘブンの勇者が日本人らしいとわかったことだし、ここで長く無駄話をしているわけにも行かなくなってきた。 とにかく、移動開始である。 聞いたところ、魔獣らしいのはさっきの2匹だけらしく、レーアとお供の剣士もセントヘブンへ同行する事になった。 長老は、もう森を抜けるところが近いため、安心して村へ戻り、残った者は罠を撤収して、セントヘブンの方角へ向かった。
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