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−第2話#4ヘ戻る−
勇者が現れたという、セントヘブン行きが決定したところで、すぐ発つのかと思っていたが、そうはならなかった。 それから3日間、朝早くからミュウにたたき起こされ、やれ格闘技だの剣術だのとしごき倒されることになってしまったのだ。それも、カイゼルの指南つき。 そして4日目の今日も地獄のトレーニングが始まるのである。
ミュウ「じゃぁ、そろそろはじめるわよ。・・・・・いい加減、昨日やったことぐらいは覚えてて欲しいけど。」 まさと「わ、悪かったな。出来の悪い生徒で。」 カイゼル「向こうに行ったら、まず、手合わせを、と言う話になりそうなのでな。」 ミュウ「騎士の守ってる国だからねぇ、悪いけど、せめて、見た目だけでも、なんとかなってもらうわよ。」 まさと「・・・たはぁ、まだ、見た目もなってねぇってか?」
俺がそう言い終わらない内にミュウは、風を唸らせてレイピアを突き出してくる。思わず、及び腰になってかわしてしまう。
まさと「う、わっ、ちょっと待て、せめて一呼吸ぐらいつかせろ〜。」 ミュウ「ふん。実戦だったら今ので、一回死んだね。」 カイゼル「むぅ、即死は無かったと思うが、かなりの痛手を食らっただろうな。死は免れまい。」 まさと「・・・ひでぇ。」
あからさまに不服と言った顔をしつつ、俺は、くさなぎを構え直す。 やたら刀身のでかいくさなぎだったが、実際、持ってみると、それなりに重いのだが、バランスが良いのか、構えるにも、振るにも、苦は無かった。
まさと「良しっ来いっ!」
こちらの掛け声と共にさっきとは比べ物にならない勢いで、ミュウが切り込んで来る。そして、振り切った態勢から、今度は突きへ流れるように移行、さらに、反撃をかわすべく身を引き、屈伸した体のバネを利用して、大きく振りかぶって、トドメの一撃を繰り出す。 グレンハート流剣術の基本形らしい。これをなんとか受け流せるようになるまで、3日間かかった。
チィィ....ン
一撃目を体を引いてかわし、二撃目の突きを、斜め下に凪ぐ様にして、ミュウが態勢をやや崩したところで、返す断ちで反撃する。当然、これは、ミュウがかわす気なので、かすりもしない。 次の三撃目を繰り出す時の動きがやや緩慢になる時を狙って、迷わず前進、腰を低く保って切り込む。
まさと「ぅおりゃっ!!」
ガキッ
ミュウ「ぅあっ! あ、あぶなっ!」 カイゼル「・・ほぉ。」
寸でのところで、くさなぎはレイピアによってはじかれる。
ミュウ「・・こ、のっ!」
ガキュゥゥ.....ン!
機敏な動作でレイピアを引き直し、ミュウが、剣をはじかれ態勢を崩した俺めがけて突きを繰り出してくる。 俺は態勢を崩した方向へあえて重心を移し、自分が移動するのとは反対の方向へくさなぎを振り、レイピアをはじく。
ミュウ「あっ。」 まさと「どぁあああああっ!!」
レイピアをはじかれた瞬間に出来た、ミュウの脇の隙めがけて、くさなぎをねじ込む。 そしてくさなぎはミュウの服を少しかすめて、ミュウの脇を抜けた。
ミュウ「...ひゅぅ...。」 カイゼル「そこまで!」
指南役のカイゼルの声を聞いて、ゆっくりとくさなぎを戻す。
ミュウ「今の・・・まぐれ?」 まさと「さぁな。」 カイゼル「まぐれだ。」 まさと「身も蓋も無い・・・・。」 カイゼル「が、しかし、今の調子なら、挨拶くらいにはなりそうだな。」 まさと「でぇ、まだ、挨拶程度かよ。」 ミュウ「ん〜まぁ、門前払いにはならないで済みそうね。」 まさと「確かにな、相手にもしてもらえなかったら、話にならねぇし。」
セントヘブンでは、剣士クラスの者が初めて城に出入りする際、決まって、師団長と手合わせをする習わしがあるらしい。 剣と剣で相手を知るという、実力社会ならではの習わしだ。 今回に限っては、そんな習わしは無しにしてもらいたかったが、そうもいかないらしい。 こと、俺は勇者疑惑、いや、疑惑だ、これは。その、勇者疑惑が掛かっているので、避けては通れない。 本来なら、稽古で、実剣は使うことは少ないらしいのだが、今回に限って、そのほうが、体が本気で覚えるから、と、棒切れ、竹刀、木刀の類は使わせてもらえなかった。いきなり実剣だった。超スパルタ短期養成である。
ミュウ「まだまだだとは思うんだけど、どうする?」 カイゼル「見ていて、ちゃんと腰が入るようになってきた。コツを忘れなければ大丈夫だろう。」 ミュウ「そか。じゃ、剣術はこんなもんね。じゃ、次、格闘技も及第点出してもらわないとね〜。」 まさと「なっ、及第点って、そっちはおまけで覚えとけってことじゃなかったのかよ〜。」 ミュウ「だって、剣以上にダメダメじゃない。」 まさと「う。おめぇが強すぎんだって。」 ミュウ「あ、そんなこという!」
素早くレイピアを鞘に納めると、ミュウは、息もつかず、拳を突き出してくる。 いつものことだが、コイツは、殴るとなると滅法切り替えが早い。
まさと「うぁ、ちょちょっと・・ま。あ。」 ミュウ「ぅあ。」
ミュウの拳を受け止めそこなった俺は、大きく態勢を崩し、崩した弾みで、ミュウの腕を掴んだまま、ひっくり返ってしまった。 情けなく地を転がる、ミュウと、俺。
カイゼル「・・・・・・・・・・・・・ふぅ。」
カイゼルにため息をつかれてしまった。が、転がってるほうはそれどころではない。 なんとか、体を大の字にして、転がるのを止めた。が、大の字を二つ重ねた様に折り重なって俺とミュウは仰向けに大地に寝転がることになってしまった。
ミュウ「う・・・なにやってんのよ、もう。」 まさと「・・・すま・・・・あ?」 ミュウ「・・ん?」
その時、俺の目にとまったのは、空だった。 今まで気がつかなかった、このティラの大地の空。 それは、今まで俺が住んでた町では見たこともなかった、抜けるように青い綺麗な空だった。 自分の置かれた環境にてんてこ舞いするだけで、気に留めることのなかった自然。それに今気がついた。
まさと「空・・・・こんなに青かったんだ・・・・・・。」 ミュウ「ぷ。・・・な、なに・・を・・・いあ・・・あははははは!」
俺の頭の下で大の字になっているミュウが、お腹どころか体を大きく振動させて笑う。 確かに、状況からして、笑えることを言った様には思うが、ミュウ、笑いすぎ。
まさと「わわわわわわ・・・・・。」
ミュウの振動で、頭を思いっきりゆすられるので、こちらの声は、声にならない。
ミュウ「まったく、・・・・変人。」 まさと「悪かったなぁ、ほんとに今気がついたんだよ。」 ミュウ「確かに空は青いけど、まさとの世界はそうじゃなかったってこと?」 まさと「ん、ああ、そうだ。大昔はそうじゃなかったらしいけど、今は、もっと灰色掛かった薄い色になっちまってるよ。こんなに綺麗じゃねぇ。」 ミュウ「ふぅん。」
そのまま、空を見上げつづける。 カイゼルもいつのまにか空を見上げていた様だ。
カイゼル「・・・・なるほどな、言われてみれば、空が青いのはありがたいことかも知れん。」 ミュウ「そうだね、青いのが当たり前で、そうじゃなくなることがあるなんて、考えもしなかった。」
そう言いながら、ミュウは、俺の両肩に手を置き、黙って空を見つづけてる様だ。
まさと「あ、つまんねぇ話、したかもな。」 ミュウ「んーん。そぅでもないよ。今日は、これぐらいにしとこうか。ね、カイゼル。」 カイゼル「そうだな。それもいいだろう。手合わせの目処は立っているのだしな。」
いつまでも、ミュウの上で寝転がってるのも悪いので、俺は、起き上がることにした。
まさと「よっと。」 ミュウ「あ、せっかくだから、もっと見ててもいいのに。」 まさと「なんだよ、気を利かせてやったってのに。」 ミュウ「それはそれは。じゃあ、戻ってお昼にでもしよっか。」 まさと「んぁ、ああ、そだな。」 カイゼル「そうか、じゃぁ、私は、シルビアの所へ寄るので先に行くぞ。」 ミュウ「はーい。ご苦労様〜。」 まさと「あ、世話んなりまった。」 カイゼル「ああ。」
そういうと、カイゼルは、ゆっくりと向きを変え、礼拝堂の方向へ歩いていった。 俺とミュウも立ち上がって、ミュウの家のほうへ向かった。
そして、その翌日、セントヘブンへと発つ事になった。 セントヘブンに向かうのは、当然俺、それからミュウ、妖精ファルネ。警護としてカイゼルが同行することになった。 シルフィーは先日から村にいないので不参加。 なんと、シルフィーは、月光神ルーンを奉った、ルーン大聖堂の巫女見習であり、その大聖堂の現巫女から呼び出しを受けて村を留守にしているのだ。 なんでも、定期的に向こうに行って、巫女としての勉強をしているらしい。もちろんキャンセルは出来ないという話だ。しかも、今回は火急の用件らしく、これは不参加でも仕方あるまい。
セントヘブンはエルフの村から、慣れた者が歩いて丸一日の距離にあり、途中、大樹林を突っ切っていく形になる。大樹林を抜ければ、遠くにぼんやりと城の姿が見えてくるのだそうだ。 今回は、不慣れな俺がいるので、大樹林のどこかで一晩野宿と言う段取りになった。
大樹林は巨大な常葉樹の群生で、昼でもなお薄暗く、慣れていなければ、方向を見失ってしまいそうなところだった。 しかし、上空をゆらゆらと飛ぶファルネが発光してくれているので、足元はそうは暗くもなく、ミュウを先頭に俺達のパーティーは迷うことなく、道無き道を進んで行く。
まさと「なぁ、ミュウ。」 ミュウ「ん? なに? そろそろ休む?」 まさと「いや、まだ大丈夫だ。それより、良く道に迷ったりしないもんだな。」 ミュウ「ああ、まぁね。」 カイゼル「森はエルフの生まれ故郷だ。私らに見えない風景の違いを感じることが容易いのだよ。」 まさと「へー。」 ミュウ「そうなんだけどね。さっきからなんかヘンなんだよねぇ。」 まさと「へん? おいおい、言った尻から迷わないでくれよ。」 ミュウ「あ、違う違う。なんか、様子が変なのよ、最近、誰かが不規則に動き回った跡があるのよ。」 カイゼル「それは妙な話だな。このところ、ここを誰かが抜けてきたという話は無いが。」 ミュウ「だよねぇ。・・・誰か迷いこんだか、それとも・・・・。」 カイゼル「悪い噂があるにはあるがな・・・・。」
そこまで話を聞いたところで、突然、俺の足もとの大地が無くなった。 いや、正確には、穴のような窪地に落ちた。そして、上から網らしいものが降ってきた。
まさと「うぁっ・・・・・・・。なんだこりゃ。」 カイゼル「無事か!」 まさと「ああ、なんともねぇ。ちょっとびっくりしたけど、なんだこれ、罠か?」 ミュウ「罠ね。そうか、これを仕掛けたやつがうろついてるってことね。」
幸い穴は浅く、なんとか這いあがる事は出来た。
ミュウ「よかったねぇ、まさと。」 まさと「罠にはまって良かったもねぇってば。そりゃ、貴重な体験は出来たけどさ。」 カイゼル「いや、これは、生け捕り用の罠だ。そうでなかったら、今ごろ、底に仕掛けられた槍かなにかで大怪我か、絶命してただろう。」 ミュウ「そ。」 まさと「・・・うわ、おっかねぇ。」
よくよく穴の周りを見渡すと、蓋になってた布切れから、紐が伸び、すぐ横の木にうち込まれた杭が抜けることで、枝の上に仕掛けられた網が落ちてくる様になっていた。 俺達が歩いてきた方向からは完全に死角にあり、仕掛けに気付かなかった。
ミュウ「なるほどね。何を狩ろうとしてるのか分からないけど、好意的じゃなさそうなのが、ここに入って来てるって訳ね。」 カイゼル「しばらく気をつけたほうが良いな。今度は上に何か仕掛けがあるかも知れん。」 まさと「ああ、下に注意してるだろうから、今度は上か。」 ミュウ「そういうことね。とにかく、気にしてても仕方ないから、進むだけ進みましょ。出来るだけ、通った跡があるところ選ぶから。」 まさと「逆じゃ‥あ、そうでもないか、何も無いところのほうが仕掛けがある可能性が。」 カイゼル「そういうことになるな。そのさらに裏をかいて、通った跡をわざとつけてある場合があるのも確かだ。」 まさと「心理戦っていうか、読み合いだなぁ。気が抜けねぇじゃねぇか。」
俺達は用心深く進み出した。 しばらく進んだところで、上のほうでわさわさと、何かをゆする音が聞こえてきた。
ミュウ「‥妙ね。」 カイゼル「獣が枝の上に居るにしては揺りの間隔が短い、気をつけたほうがよさそうだ。」
音のするほうを注意深く追っていくと、そこには枝からぶら下がる様にして網に何かがいや、誰かが捕らわれていた。
ミュウ「ちょっと、この辺、生息地じゃなかったわよね。」 カイゼル「ああ、こいつらの生息地はもっと南の温暖な岩場地帯だ。」
良く見ると捕まっているそれは、人の姿をしていたが、毛深く、頭に大きな耳があった。 ワーキャットとか呼ばれる、猫科の獣人らしい。 こちらに気がついたのか、さっきからにゃうにゃうとうるさい。
ミュウ「こんなところに獣人ねぇ。ほんと、最近なにかヘンよね。」 カイゼル「お前、人の言葉はわかるか?」 獣人「にゃ、わ、わかるけど、お前らとは話さないにゃっ。」 ミュウ「あ、性格悪うぅ。」 カイゼル「おおかた、私達が罠を仕掛けたと思ってるんだろう。」 まさと「おーい。ねこー。俺達が仕掛けたんじゃねぇゾ。さっき俺も穴にはまったとこだ。」 獣人「お前、馬鹿にゃ? あれはタニアでも引っかからないにゃ。」 まさと「・・・・・・助けてやろうかと一瞬考えたが、おい、ミュウ、ほっといて先急ぐか。」 ミュウ「ああ、そうね。なんの得にもなら無さそうだし。」 カイゼル「・・・・・。」
俺が先に行こうとすると、獣人は騒ぎ出した。
獣人「わ、わるかったにゃ、タニアたすけろにゃ、おねがいにゃ、急いでるにゃ。」 まさと「なんだ、急ぐって?」 獣人「タニアを待ってるにゃ。帰らないと寂しがるにゃ。」 まさと「誰が待ってるんだ?」 獣人「ま、マリンにゃ。タニアはマリンと一緒に暮らしてるにゃ。帰るとこだったにゃ。」 まさと「ふーん。タニアとか言ったか? 誰かが待ってるなら何とかしてやりたいが‥この高さじゃ。」 タニア「助けろにゃぁぁ....にゃうぅぅぅ...」 まさと「恨めしそうな鳴き方するな!」 カイゼル「私が何とかしてみよう。と思ったが、さすがに剣が届かんな。うむ‥。」
カイゼルが剣を抜いて腕を伸ばしてみるが背丈一つ分は間が空いていた。 ファルネが網を吊るしているロープのところまで飛んでいって、引っ張ったり、噛みついたり、奮闘してくれたが、所詮は手の平サイズ。太いロープには太刀打ちできなかった。 仕方ないので、周りを見まわすと、仕掛けらしいのが目に入った。 窪地のほうへタニアの捕まっている網を吊るしているロープが伸びており、その先には岩が結わえられていた。 この岩の重みでタニアを吊り上げた様だ。 このロープを切れば網は地上に落ちる。
まさと「よし、猫。」 タニア「タニアにゃぁ。」 まさと「あ〜、タニア、今から助けてやるが、お前はそこから落ちて大丈夫か?」 タニア「落ちるにゃ? んー、多分、平気にゃ。」 まさと「そうか、じゃ決まりだ。」
俺は鞘からくさなぎを引きぬいた。
カイゼル「ん。よかろう、私は念の為、向こうを見ていよう。罠を仕掛けたものが居るやも知れん。ミュウは向こうを。守護者ファルネもあっちをお願いできまいか。」 ミュウ「ん。そうね。」
そういうと、ミュウ達はそれぞれ受け持ったほうへ機敏に散って行く。 そしてやや間があって、ミュウ達から合図があった。 俺は、罠を釣っているロープめがけて勢い良く、くさなぎを振り下ろした。 タニアを吊るしていた網はロープが切れると、ずるずると下降をはじめ、ロープの引っ掛かりが無くなったところで、加速度的に落下した。 タニアは、網にくるまれたままだったが、さすがに猫科、慌てるでもなく、態勢を整え、軟着陸した。
タニア「うにゃ。」 まさと「怪我とかしてないか?」 タニア「へーきにゃ。すれたとこひりひりするにゃ。でもへーきにゃ。」 まさと「待ってろ、今、網を切ってやるからな・・・・。」
網を切ろうとくさなぎを向けた瞬間、後頭部に衝撃が走り、俺は気を失った。
ほっぺたがむずむずするので、気がついた。俺はさっきの場所で、寝かされているか、倒れているらしい。目を開けると、タニアがすぐ傍で泣きそうな顔で俺の頬を舐めていた。
タニア「うにゃ。生き返ったにゃ〜。良かったにゃ〜。」 まさと「ああ、無事だったか。良かったな猫。あー、頭痛てぇ‥。」
自分が気を失っているのに良かったも何も無いのだが、猫が何事も無くそこにいたことで、最悪の事態は免れたことになる。俺はそれだけで安心できた。 殴られたのだろう、そのあたりがズキズキする。が、何か柔らかいものが当たっている感覚もあった。
まさと「ん?」 ???「ごめん、勘違いして思いっきり殴っちゃった。」
俺は、黒髪の見知らぬ女の人に膝枕してもらっていた。柔らかいものの感覚は彼女の太腿だったのだ。
ミュウ「なんか、情けないわねぇ、森に入ると気絶してばかりで。」 カイゼル「すまなかった。彼女の気配にもう少し気がつくのが早ければ。」 ???「あ、悪いのは私だから‥。せっかく、タニアを助けてくれたのに・・・・・・。」 まさと「あー、そうか、あんたが猫の言ってた‥マリン‥さん?」 マリン「ええ、マリン・クレーデルです。この子は、タニア・マーベリック。私の同居人です。」 まさと「いや、あんたで良かったかもな。ハンターとかなら、俺、死んでたかも。」 ミュウ「ああ、そうだねぇ。少なくとも獲物を優先したろうし。」 マリン「良くはありませんよ、恩人を怪我させてしまったんですから。」
マリンはそう言うとゆっくりと俺の頭を撫でる。悪い気はしないが、なんだかミュウの視線が突き刺さる様で、すげぇ痛い。 良く見ると、マリンさんは、目が大きくてなおかつちょっと釣り目、どことなくミュウと似た面立ちなんだが、妙に親しみが湧く。何だか不思議な感覚だ。ミュウとは偉い違いだ。 などと言うことを考えたりしてると、なおさらミュウの視線が痛くなってきた気がするので、名残惜しさを残しつつ、俺は起きあがることにした。
マリン「あ、まだ、動いちゃ・・・・。」 まさと「あぁ、まだ痛てぇけど、もう平気だ。」 カイゼル「そうか、思い出した。君はあのマリンか。セントヘブンのはずれで占いの館をやっていた。」 マリン「え、ええ。そうです。最近はお店を開けずに、タニアと家で過ごしてる事のほうが多いですけど。」
カイゼルが素性を知っていたのが、気に入らなかったのか、マリンは少し低いトーンで話す。 それもそのはずで、かいつまんでマリンが言うには、マリンの占いは当たりすぎたらしいのだ。良い事はともかく、悪い事まで。 その為、徐々に客足は遠のき、店を開けても回転休業状態の日が続いていて、気の乗らない日はいっそ休んでしまっているらしい。
マリン「自分でも、人の未来が見え過ぎて嫌になることがあるわ。そんな時にね、この子と会ったの。この子は精神障壁を持ってる種族でね、予見できないの私の力でも。だから、傍にいて、気が楽なのよ。」 カイゼル「‥なるほど、気苦労が多いのだな。占い師というのは。」 マリン「もっと冷徹でないといけないんですけどね。あなた達のことも、だいたい分かりました。今夜は、うちで泊まっていって下さい。もうずいぶん暗くなっちゃいましたし、すぐそこですから。」 まさと「え、そうなの? そんなあっさり読めるのか。」 マリン「生まれついた力です。人の心の動きや考えが漠然と読めるって程度ですけど。それを元に未来の可能性を示すのが私の占いです。勇者様。」 まさと「‥なるほど、可能性をね。そりゃ当たるのも‥。あ。勇者の話って、してない、よな?」 マリン「ええ、そういうことです。時々それが必要もないのに読めてしまったり、いろいろですよ。」 ミュウ「便利な様で、案外不便なのね。」
マリンの勧めるまま、俺達はマリンの家で一晩世話になる事になった。 野宿するにもハンターがうろついているのでは、何が起こるか分からない、それならば、マリンの家に厄介になったほうがよほど安全だし、マリンやタニアにとっても大勢で居たほうが安全なのは確かだったから。
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