ミスティック・ミュウ・エクストラ(後日談)それぞれの道(後編)

ダイア「ああ、そうだ。」
まさと「なんだ?」
ダイア「サイファシス。また活動し始めたらしい。このところマジェスティックス濃度が適正になってきた。」
まさと「ほぉ。じゃぁ、二神管理状態になったってことか。」
ダイア「そうだ。これで少しは同胞に楽をさせてやれる。」
まさと「そうかぁ。薄いとダメなんだよな。いいんじゃないか?」
マリン「そーねー。騒動を起こさないで居るなら、生きる権利奪うのもねぇ。」
まさと「騒動なぁ。」
ダイア「ガルウのような事は無いと思う。過ぎるのを戒めるのも総統府の私の役目だし。」
まさと「そーか。そりゃ、面倒そうだなぁ。」
ダイア「ツケ、だと思ってるよ。そのあたりの事は。それから・・・。」
まさと「うん?」
ダイア「ガルウの事だが・・・どうやら、アルヘルド騒乱からずっと関わっていたらしい。今回の事まで。こっちで、調べ直してみてわかった。」
まさと「あ、じゃぁ、行方不明の先導者とかって・・・・。」
ダイア「そういうことらしい。」
まさと「そうかそうか。じゃぁ、万事解決ってとこだな。」
ダイア「そうだ。」
広江「どれ、もうちょっと詳しい話しを一つ。」
まさと「わぁ。」

広江さんがメモ帳を持って、輪の中に入ってきた。

広江「そう嫌がるな。誰の将来の為にやってるか、知ってるだろう?」
まさと「あーそうか。その辺うまく持ってかないと話しが・・・。」
広江「そういうことだ。そちらも了解かしら?」
ダイア「ああ。ちゃんと知ってくれ。私達の事。」

どうやら、ダイアと広江さんはこっちに来てから随分と話し込んでいたらしい。
深い内容の物が一杯メモ帳に書き記されている。
ダイアの話しを聞いて、広江さんはどんどんメモを取っていく。

マリン「ふぅん。準備は進んではいるのね。」
まさと「さぁ、何の事でしょう?」
マリン「とぼけない、とぼけない。」
まさと「まぁね。けど、まだ、何も出来あがってないから。」
マリン「うん。遠いとこからだけど、応援してるからね。あのコもね、頑張ってるわよ。」
まさと「そうなの?」
マリン「そうよ。いつも、シャツを眺めて、ガッツポーズしてるし。」
まさと「あ・・・・・・あのシャツか。けど、今日くらいは・・・。」
マリン「あ、なんだ。気にしてたのね。大丈夫よ。頑張ってるからミュウはここに居ないの。そういう事よ。」
まさと「なら、いいんだけどね。マリンさんの言う事だ、信じるよ。」

そこへ、ファリアが近寄ってくる。

ファリア「お前、今でも剣は出せるのか?」
まさと「え、あ、くさなぎ? ああ、出せるみたい。たまに確認したりしてるし。」
ファリア「そうか、じゃぁ、気をつけててくれ。何か、雰囲気が妙だ。」
まさと「おいおい。物騒だなぁ・・・。」
ファリア「いや、何も起こらなければそれでいいんだが。妙に外の空気が張り詰めてる。気になってな。」
まさと「ん。わかった。」

ファリアが、冗談でこう言う事を言うとは思えない。
心の準備ぐらいはしておいたほうがいいか。
よく見ると、ファリアはしらふ。酒を飲んでいない。
これは、外の様子の事を信じさせるに充分だった。

ファリア「俺は、ホエールに戻って剣を持ってくる。念の為だが。その間に何かが起こったりとかしたら、まず、頼りになるのは、お前と、ダイア、二人だけだ。」
まさと「そうだな。他は丸腰とか、出来あがってるし。まぁ、何事も無いのを祈ってるよ。」
ファリア「そうだな。せっかくの席だし。じゃ。」

ファリアが外に行ったのを見て、パールがやってくる。

パール「何かあったの?」
まさと「あぁ、いや、まだ何も。けど、ファリアは雰囲気がおかしいって剣を・・・。」
パール「そう。じゃ渡しておこうかしら。」


パールは自分の席に戻って、ウエストバッグを持ってきた。
そしてその中から、ソーサルブースターを取り出した。

パール「はい、マリンさん。私も一応持ってはいるけど・・・。」
マリン「あ、はい。」
パール「いざとなったら、ここからマーガレットは呼べるし。もしもの時はお願い。」
ダイア「サファイアとエメラルドも呼べば飛んでくるぞ。」
マリン「大丈夫よ。彼が居るから。」

マリンさんはポンと俺の肩を叩く。

まさと「俺ですかい。」
広江「まずいことになりそうなのか?」
まさと「いや、保険掛けておこうって話ですよ、まだ。」
広江「そうか。ならいいが。」
まさと「さて、俺も、自分の席に戻って、腹ごしらえしとくか。」
マリン「そうね、それがいいわね。」


ホエールに入ったファリアは、念の為、ブリッジに入った。

ファリア「何か、異常はないか?」
マーガレット「はい。着地しちゃってますし。何か起きてるんですか?」
ファリア「いや、起こってはいないが・・・エメラルド。」
エメラルド「はい?」
ファリア「悪いけど、しばらく、周りの監視を強化してくれ。」
エメラルド「はい。監視レベル上げます。」


とたんに、警報がホエール内に響き渡った。

『どこだぁっ!』

まさと「あ、まただ・・・」
マリン「なぁに?」
まさと「うん、こっち来てから、空耳みたいなのが・・・・。」
マリン「そう言えば、何か、外で、風が舞ってるわね・・・・。」
パール「あっ、ホエールが!」


外を見ていたパールが声を上げた。
慌てて見に行くと、ホエールが市街中央上空に向けて急速発進して行く。

マーガレット「ファリアさん、ちゃんと掴まってて下さいねっ。」
ファリア「俺の事は気にするなっ!」
エメラルド「障壁、広域展開します。展開範囲、市街全土。」
サファイア「火器管制チェック終了。」
ファリア「なんだって、こんな事になるかな・・・・。」

温泉街フランに向かって、大きな影が夜空を渡る。
パールはその影を見て、唖然となる。

パール「ど、ドラゴン・・・・・・嘘っ!?」
ダイア「間違いないな。コールドドラゴンだ。この近くに巣がある。けど・・・。」
まさと「なんか、納得してないみたいだな?」
ダイア「コールドドラゴンは昼間活動するはずだし、そも、温和なはずだ。何かおかしい。」


コールドドラゴンはホエールの張った広域の障壁にぶち当たって火花を散らす。
あきらめずに、何度も何度も障壁にぶつかってくる。

まさと「なにか・・・・・あるのか? この街に。」
ラルフ「あいつの宝玉は今、誰が持ってる?」


ラルフさんがこっちにやって来る。

ダイア「コア? 私が知ってる限りでは、まだ自分で持ってたはず。」
ラルフ「なら、それを誰かが持ち出したのかも知れん。あの怒り方はそうとしか思えん。」
ダイア「なるほどね。盗賊が入りこんだか。この、魔圏の近くに。」
まさと「ああ、卵盗まれて怒ってるかもしれないって事か。」
ラルフ「ルビアさん。すぐ、街の憲兵に連絡を。出来るなら、宝玉を探し出したい。」
ルビア「はい。すぐにっ。」

ルビアさんは言われた通り、外に駆け出して行く。

エド「うわぁ。そんじゃ、宝玉返すか、説得して大人しくなってもらうしか手はねぇかぁ。」
ローリー「説得ったってねぇ・・・・・・。」
ポップ「近づけないね。あれじゃぁ。」


そうしてる間もコールドドラゴンは体当たりを繰り返し、いよいよ、障壁が耐えきれなくなってきている。
上空のホエールが振動を起こして軋み出している。

パール「まずいぃ。障壁まではまだ手が回ってなかったのよっ。もう、もたないっ。」
マリン「行きましょう。」
まさと「ああ。」


マリンさんがブースターを取り出して装着する。

マリン「セットアップ! ミスティック・マリン!」

また、変身後の姿が違うマリンさん。
バニールックに戻ってるが、魔城で見た時の姿に多少偏っていたりする。

マリン「乗って。」

マリンさんは少しかがんで、俺に背を向ける。
俺は、マリンさんの背中に背負われて、窓から飛び出した。
バニールックの丸い尻尾が椅子代わりになって丁度いい。それっぽく変形して座れている。

パール「セットアップ! ミスティック・パール!」

パールもブースターをつけ、それを追ってくる。
ダイアも翼を広げて、ついてきた。

パール「どうする?」
ダイア「宝玉が見つかるまで時間稼ぎだな。」
まさと「そうなるだろうな。正直ドラゴン相手だと戦い様が。でかいよな、あいつ。」
パール「翼がここから見てああだから、全長は4、50mはありそうね。いや、もっとかも。」
ダイア「戦うなんて馬鹿は考えるな。ドラゴンはサイファシス、ルーンに次ぐ、守護者だ。剣を向けると言う事は神に逆らう事だ。」
まさと「おいおい。そりゃぁ・・・・・・難儀だな。」

ホエールのブリッジでも困惑が続いていた。

ファリア「攻撃するわけに行かないし、どうすりゃいい?」
マーガレット「わかりませぇん。」
サファイア「納まるまで耐えるしかないよね?」
エメラルド「だめっ、障壁が消える!」


とうとう障壁が消えた。
コールドドラゴンは街の上空に侵入すると、中央にある、広場に降り立った。

ドラゴン「グギャァァァァァァァッ!」

威圧するかのような叫び声をあげるコールドドラゴン。
街の中は、それを成す術もなく眺めながら、宝玉を探し出すため、憲兵が走り回っていた。
見ると、その憲兵に混じって、ミルフィーさんの姿があった。

マリン「あ、おば様が、出てくれた。大丈夫。宝玉はすぐ見つかる。それまで支えましょ。」
まさと「そうなのか?」
ダイア「そうだな。先代のルーン神官だし。」
まさと「・・・・なにぃぃ!? おばさん、神官やってたのぉ?」


今日は、何か、驚いてばかりな気がする。
今まで俺が知ってた事って、ほんの一握りなんだって事か。
広場で、街中を見据える様に動きまわるドラゴンの近くに降り立つ。
さて。

まさと「なにか、ドラゴンを鎮めるアイテムとか・・・・無い?」
ダイア「無い。あるとしたら宝玉だけだ。」
まさと「じゃぁ、誠意ある説得しか手は無いって訳か。」
パール「通じると・・・いいけどね。」
ダイア「とりあえず、広場から出ないよう、結界を張る。あとは・・・・・何とかしてくれ。」


ダイアが広場に結界を張る。

まさと「これで押さえられるといいんだけど。」
パール「無理でしょうね。いくらダイアでも完全には。出ようとしたらなんとしてでも押し戻すしかないわ。」
まさと「そうか。じゃぁ、剣よりは盾だな。」


俺はみかがみの盾を呼び出す。
コールドドラゴンは俺達の事に気付き、突進してくる。

まさと「なんとまぁ、都合のいいことで。」

闇雲に暴れられるより、こっちに向かってきてくれる方が、止めやすいといえば、止めやすい。
止められればだけど。
結界に引っかかって動きが鈍くなったところで、盾の波動で押し返す。

まさと「ぐぅおっ。意外に抵抗あるぞっ。」

なんとか、じわじわと結界の中へもどって行くドラゴン。

ダイア「まずいな。我を失ってる。」
パール「そう・・・。」
ダイア「神器にまったく気付いてないだろう?」


そうか。俺の使ってる盾。
フレイムドラゴンはりゅうのまもりを見逃さなかった。
それなのに、コールドドラゴンは、目に付きやすい盾でさえまったく無関心。
つまり、今こいつはキレてるって事か。
すごくまずいって、それ。

まさと「なるほどな。どうすりゃいいんだか。」

ドラゴンは今度は空へ舞いあがる。上空から俺達を抜こうと言う感じ。

パール「ふっ、二人掛かりで押しましょう!」
マリン「ええっ。」


パールとマリンさんが飛びあがって、ドラゴンの鼻先を押し戻しに掛かる。

パール「こっちの障壁の力で押し返す!」
マリン「はいっ!」

結界と、障壁と、ドラゴンのぶつかり合いが火花を散らす。
なんとか押し返せそうになった時。
ドラゴンが白い息を噴出した。

パール「あっ!」
マリン「ううぅっ!」
まさと「ああっ!」
ダイア「・・・・・ちっ!」

二人は地に降り立つと、慌てて体をゆする。
ドラゴンも一旦降りて様子を伺っている。

パール「寒っ寒っ寒っ!」
マリン「あああぁぁぁ・・・。」
ダイア「コールドドラゴンの吐息は絶対零度。それをまともに食らったら・・・・。」
パール「ぶ、ブースターをつけてなかったら、こっ、氷になってたわね・・・・。うぶぶ。」
マリン「でも、だめ、しばらく動けそうには・・・。」

ふと思い出して、俺は手から炎を出して、二人に向けて差し出した。

パール「あ、ありがとう。」
マリン「す・・・・凄い・・・魔法使えるようになった・・・のね。」
パール「あぁ、生き返るぅ・・・・。」
まさと「こんな事繰り返したんじゃ、こっちが消耗するばっかりだなぁ。」
ダイア「聖剣に賭けるしかない・・・か。」
まさと「ん?」
ダイア「斬らずに剣圧だけをあいつにぶつけて、正気に戻す。出来るだろう?」
まさと「そうか、くさなぎなら・・・。」
ダイア「ただし、半分の確率で、あいつはさらにぶちキレる。」
まさと「おいっ!」
ダイア「選択肢は三つ。このまま消耗して抜かれるか、ぶちキレたあいつに一瞬で抜かれるか。」
まさと「剣圧の衝撃で、正気に戻る・・・か、か。」
ダイア「正直・・・結界を張るのが辛くなってきた。次にあいつが来るまでに決めろ。」

ドラゴンがゆっくりとこちらに向かって動き出す。
俺は、盾を消し、くさなぎを呼び出した。

ダイア「やはり、そうきたか。それでこそだ。」
まさと「俺っぽいだろ?」
ダイア「ああ、ぞくぞくするぞ。その無鉄砲さ。」
まさと「だそうだ。パール、マリンさん、安全なところまで引いて。」
パール「いいわよ。ダメだった時は同じじゃない?」
マリン「そうね。それにまだ、動けないわ。」
まさと「あららら・・・・じゃぁ、しょうがない。覚悟決めといてねっ。」
パール「ええ。」
マリン「命、預けます。」
まさと「ふぅっ。」


俺は臍に力を入れてくさなぎを構え直す。

ダイア「・・・・・逃げていい?」
まさと「お前な・・・・。」

ダイアは辛さから眉間にしわを寄せつつも、ぺろぺろと舌を出す。
逃げるつもりは無いらしいな。どうやら。なんて天邪鬼な。
気を取り直して、意識を集中し直す。
頼むぞ、くさなぎ、思い通りの剣圧を出してくれよぉ。

ドラゴン「ギィギャァァァァ〜〜〜〜ッ!」
まさと「てりゃぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーっ!」


出た。
決して鋭くなく、デカイだけの剣圧。言わんや猫騙し。
その猫騙しを食らったコールドドラゴンは、その場に倒れこみ・・・・・・

ドラゴン「キシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッ!!」

次の瞬間、ぶちキレていた。

ファリア「な、何をやってるんだ、あいつらは・・・。」
マーガレット「さぁ。」
サファイア「あーあ。もっと怒らせちゃった。」
エメラルド「作戦としてはよかったんですけどねぇ・・・・おしい。」

まさと「総員撤退。」
ダイア「言われるまでも無い。」
パール「ああ・・・。」
マリン「ご、ごめ、まだ・・・・。」


なに!? まだマリンさん動けないの?

まさと「くっ。」

俺は、みかがみの盾を呼び出して、マリンさんの前に立つ。ドラゴンに向かって。
ダイアとパールはそれを見て戻ってこようとする。

ダイア「まさと!」
まさと「戻るな! 行けっ!」

戻ったって、このタイミングじゃ、全員で食らうだけだ。
ここは、俺が、マリンさん一人をかばう。それがベストだと思えた。

ダイア「さぁ、どこまで持ちこたえるかな?」
パール「さぁ、どうでしょうね。予想の範囲を越えちゃってて。」
まさと「お前らっ!」


ダイアも、パールも逃げなかった。
傍で塊になって、障壁を発生させる。
なんて付き合いのいい。
いよいよコールドドラゴンが迫る。
その俺達の頭上を炎の柱が駆け抜けた。

「瞬っ着っ変っ身っ! ドラゴニック・ミュウっ!」

炎の柱はコールドドラゴンの鼻面へ命中すると、そこで、姿を変えた。

まさと「っミュウっ!!」

ミュウだ。ドラゴニックの上にブースターをつけた姿のミュウが現れた。
ミュウは、ドラゴンハッグでコールドドラゴンを押さえつけると・・・。

ミュウ「たぁぁぁぁぁっ!」

足払いの格好をする。
ミュウの足はドラゴンの足。
目に見えない巨大な足の足払いを食らって、一瞬で、コールドドラゴンは上下ひっくり返って、背中から地に落ちた。

ドラゴン「ぎゃっ!」

一瞬、ドラゴンは目を回す。
ミュウは、地に降り立つと、ドラゴンを一笑に伏す。

ミュウ「あはは。なーに、とち狂ってんだか知らないけど、ドラゴンならもっと堂々と構えなさいってば。うちの相棒達の方が、よほど度胸坐ってるわよ。ねっ!」

俺達の方を振り返って、ウインクするミュウ。

ドラゴン「フ・・・・・フレイム・・・・・ドラゴン・・・・?」
ミュウ「そーいうこと! 代理だけどねっ!」


事態は、大惨事になる前にかたがついた。
コールドドラゴンの宝玉を盗み出した盗賊は、無事にミルフィーさんによって発見され、宝玉はコールドドラゴンの元に戻った。
盗賊は、大方の予想通り、ミルフィーさんの炎の柱に焼かれ、真っ黒けになっていたが。

ドラゴン「宝玉、この氷龍のかけらは、私がやがて転生する時に必要なコアだ。我々ドラゴンは一生の内に一つだけ、このコアを作る事が出来る。これを失えば、私は・・・・・。」
ミュウ「そういう物だってのはフレイムドラゴンに大体のとこ聞いてるけどね。けど、あんた大騒ぎしすぎ〜。」
ドラゴン「そうだな。謝罪しよう。そして、感謝しよう。」
ミュウ「まぁ、無事に戻ってよかったねっ。」
ドラゴン「ああ。フレイムドラゴンの力を受け継ぎし者よ。感謝の念に絶えない。」

頭を地面まで持ってきているコールドドラゴンの鼻先をぺちぺちとやりながら、ドラゴニックミュウは実に和やかに話す。

まさと「しかし、お前まだ、ドラゴンの力使えたのか。」
ミュウ「んー、て言うより〜。ブースター使うと勝手に発動しちゃうの、なぜか。」
ドラゴン「ふむ。そうか、お前はコアを宿したままなのだな?」
ミュウ「あー、そうそう。なんか、胸のとこにくっついたままになっちゃてて。普段は出てこないんだけどねぇ。」
ドラゴン「では、早く切り離した方がいいぞ、そろそろ、フレイムドラゴンが転生するはずだ。」
ミュウ「うそっ! 取り出し方なんか知らないよ、あたし。」
まさと「て、転生? そろそろって・・・。」
ミュウ「・・・・・・・あ。」


ミュウが自分の胸元を見る。

ドラゴン「いかん! はじまった! 早く切り離すのだ!」
ミュウ「だだだだっ、だから、どうやって!? まっ、まさと、どうしよう!? どくどく言ってる、これ!」
まさと「うわわわわ、ど、どこだ、玉はっ!」
ミュウ「こ、これの、板の裏側っ!」
まさと「どれ・・・・・・あ・・・・でかくなってる・・・・。」
ミュウ「ひー。」
まさと「つったって、板が邪魔で掴むに掴めんぞこれっ!」


わたわたしているうちに、コアはどんどん膨れ上がり、ミュウはその体の半分以上が大きくなった玉に飲み込まれた形になってしまう。

ミュウ「うえぇー。どうしようぉ?」
まさと「うわぁ、さすがに俺もどうしたらいいか・・・・。」


とうとう、ミュウは頭だけ出てるような格好になる。

ミュウ「うぅ。まさとぉ。」
まさと「うん。」
ミュウ「このまま、ドラゴンになっちゃったら・・・ごめんね・・・。」
まさと「馬鹿やろう! あきらめるんじゃねぇ!」
ミュウ「だって、もう、どうしようもないし・・。」


直後、ぐんと玉は大きくなり、ミュウは頭もその中に飲みこまれてしまった。

まさと「くそぉっ!」

俺は、無我夢中で、まだちょっとだけ出ていた、ミュウの手をとって引っ張った。
ミュウも、俺が手を掴んだのに気付いて、握り返してくる。
しかし、そこからびくりとも動かない。
ミュウを引き出す事はかなわなかった。

まさと「んなろぉっ!」

これでもかと力を入れた時。
目の前に勝手にみかがみの盾が現れた。
そうか、もしかしたら、こいつを使えば!?

まさと「だぁぁっ!」

空いているほうの手で盾を持って、玉に押し付けた。
ミュウの手はしっかりと握ったままで。
動いた。
ゆっくりとミュウの体が玉からすり抜けてくる。

ドラゴン「おお。その盾ならばっ!」
まさと「ぅぅぅおおおおおおおおっ!」


さらに力を入れて玉とミュウを引き離す。

ミュウ「ぅ・・・・あ・・あっ!」

頭が出てきた。
とうとう腕で追いつかなくなってくる。
腕だけで、全身引き抜けるほどストロークを稼げない。

ミュウ「んっ・・んっ・・・。」
まさと「あ。」

ミュウが、自由になった両腕で、俺の腕とかを伝って、這い出し始めた。
俺も、盾に足を掛けて、全身のストロークで、一気にミュウを引っ張った。

ミュウ「あはっ! やった!」

抜けた。
ドラゴンズコアからミュウを引き出す事が出来た。
そのまま、ミュウを抱きかかえる形で、地面に倒れこむ。
役目を終えた盾は、地面に落ちる前に掻き消えた。

ドラゴン「おお。無事に切り離せたか。」
まさと「ミュウ!」
ミュウ「まさ・・・む。」


俺は、ミュウにキスをしていた。

ダイア「ほぉー。」
パール「あー。」
マリン「うんうん。」
ミュウ「・・・・もっ、もう。皆見てんのに!」
まさと「・・・・つい。」
ミュウ「い、いいけど・・・。」

ドラゴンズコアはより大きくなり、定期的に波動を発しつづけ、やがて、閃光を放って姿を変えた。
フレイムドラゴン、転生の瞬間である。

フレイムドラゴン「クギャァッ!」

全長5mくらいのそのフレイムドラゴンは産声の様に声を上げた。
やがて、フレイムドラゴンはその翼を広げ、巣のある鍾乳洞のある方向へ自力で飛んで行ってしまった。

まさと「たくましいもんだな。もう、自力で飛んでくとは。」
コールドドラゴン「では、私もそろそろ、巣に戻ろう。」


それからコールドドラゴンも散々礼を言い直してから飛び去って行った。

まさと「作戦終了っと。」
ミュウ「うん。」
まさと「って、お前、今までどこに居たんだ?」
ミュウ「うん? あたしはいつでもそばいにるよ?」
まさと「なにぃ?」

ポンと跳ね起きて。
ミュウは、ドラゴニックではなくなったミスティックの装着を解いた。

ミュウ「ほら。へへへっ。」

目の前に見覚えのある女中さんが立っていた。

まさと「なんだ。居ねぇ居ねぇと思ったら。すげぇ近くに居たんじゃねぇか。」
ミュウ「うん!」
まさと「俺を部屋まで案内して帰りにすっ転んだのは・・・。」
ミュウ「うん。」
まさと「背中を流してくれたのは・・・。」
ミュウ「うんっ。」
まさと「食事の用意が出来たの教えてくれたのは・・・。」
ミュウ「うんうんっ。」
まさと「酒取りに行って思いっきりこけたのは・・・。」
ミュウ「うん!」
まさと「この馬鹿やろう!」
ミュウ「ごめんっ! でも、取り決めだったから、ね。」
まさと「いいよ・・・もう・・・・心配したんだぞ。」
ミュウ「うん。」

俺は、ミュウを抱きしめた。
皆が見てるなんて〜のは、とんと忘れて。

オーバルジャグアに戻ると、俺達はもう一度風呂に入る事にした。
さっきの騒動で、すっかり体が冷えちまってたから。

ルビア「ごめんなさい・・・男湯の方、手違いで、もうお湯落としちゃって・・・・。」
まさと「がーん。」
ルビア「ほんと、ごめんなさいね。あ、ミュウさん、今日はもう、あがってくれていいから。」
ミュウ「あ、はぁい。そうしますぅ。・・・・よしっ、しょうがないっ。」

突然、ミュウは、俺の手を取って、風呂の方へ進み出す。

まさと「うわわっ、こけるっ。・・・・・なんだよ、一体。」
ミュウ「混浴しちゃおう!」
まさと「なっ!?」
ミュウ「ほらほら。そんな冷えた体で居たら、風邪引いちゃうよっ! 早く! 姉さんも、パールも、ファリアも、ダイアも! 一緒に入ろっ!」
まさと「んなぁぁぁぁ〜!? あ〜〜〜〜れ〜〜〜〜〜〜!」

ズルズルと風呂の方へ引っ張って行かれる俺。

パール「あーあ。行っちゃった。」
ファリア「あー、お酒、あるかなぁ〜。酒舟と〜。」
パール「い、行く気?」
マリン「行きましょう! 面白そうだし。」
ファリア「ああ、面白そうだ。」
ダイア「私は一向に寒くないんだが。ま、いいか。」
パール「も、もうちょっと、慎みという・・。」
ファリア「こういうのは数の多い方の勝ちなんだよ。恥ずかしい思いすんのはあいつだぁ〜。」
マリン「ふふふっ。」
ルビア「はい、酒舟です。」
ファリア「うぉっし! 行くぞぉ!」
ミルフィー「私は、あとで、お父さんと。」
ガゼル「げふげふごほっ。」

正直参った。

ファリア「なんだ、お前、ミュウがここで働いてんの、知らなかったのか。」
まさと「そうだよっ。」
ファリア「全然か?」
まさと「全然だ。」
ファリア「マリンの店があるってとこで気付けよ。」
まさと「ぅぅ。」
ファリア「あっはっはっはっ。それであんな辛気臭い顔してたんだ。ああ、酒が美味い!」
まさと「すっかり、酒のつまみにされちまってる・・・・。」
ミュウ「ほんと、ごめんねぇ。一人だけ特別扱いできないしぃ。」
マリン「すみません。口止めされてた・・・・の。おほほっ。」
まさと「・・・・・納得。そういうことだったか。義姉さんたら、ひどいや、ひどいや。」
マリン「でも、今からは特別扱い・・・よね?」
ミュウ「さ、さぁ?」
パール「ああ、でも、あのドラゴンの事、もっと調べたかったなぁ。」
ダイア「フレイムドラゴンはお前のアトリエの傍に戻ったろう。機会はある。」
パール「でも、言う事聞いてくれないんじゃない?」
ダイア「その時は、そこの生みの親をつれて行けばいい。」
パール「あ、納得。」
ミュウ「誰が生みの親よっ!」
ダイア「いや、目が違ってた。あの目はお前を親だと思ってるぞ。それに。」
パール「どう見ても、ドラゴンよね、それ。」

ミュウの胸のアザは、小さくならずに、はっきりと、ドラゴンに見えるような形で、定着している。

ミュウ「ぅ、消えなかったんだよね。これ。」
パール「いろいろ考えてみたけど、結局、それって、ドラゴンとの契約の印し、みたいなもんじゃない?」
ダイア「そうだろうね。」
ファリア「ふううん。じゃ。こっちは出来てないのか、そういうアザ。」
まさと「お、俺?」
パール「ああ、ルーンのね。あるかも。」
ファリア「・・・・・・・・・探す。」
まさと「わぁっわぁっわぁっわぁっ! ねぇよ、そんなのっ!」
ファリア「嘘つけ。自分に見えないとこに出来てたりするんだ。尻とか。」
まさと「ああーーーーーーーーーーーーっ! やめてぇぇーーーーーーーーーーっ!」
ミュウ「あははははっ。無かったみたいだけど・・・・・。あ。」
ファリア「・・・・・・・・・・・・・ほぉお。それはそれは。」
ミュウ「あっあっ、今の無しっ無しっ! あ、でもこのアザ、どんどん大きくなって、いつかドラゴンになっちゃうって・・・・無い、よね?」
ダイア「さぁ、そこまでは知らない。」
パール「今度ゆっくり調べてみましょ。」
ファリア「まぁ、ドラゴンになっちまったら、村の番ドラゴンだな。」
ミュウ「ああ、ひどぉ。」
ダイア「待て・・・・それは・・・・・・・・・・・今と全然状況は変わらない。」
一同「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ!」
ミュウ「うわぁ。あたしも納得しちゃったっ!」
まさと「済まん。俺もだぁ。」
ファリア「それでいいんだ。」
ミュウ「よくなぁぁぁい!」

がらっと引き戸が開いて。

シルフィー「こりゃぁ! 入るんなりゃ、わらしも呼べぇーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
ファリア「だぁっ! 飛び込むなぁ! 酒がぁっ!」
マリン「ああ・・・・楽し・・・。ふふっ。」


乱入してくる大トラシルフィー。もう無茶苦茶。
ファリアの言う通り、俺は最初から最後まで、出汁にされっぱなし、湯に浸かりっぱなしと言う体たらくでありました。
半分以上のぼせかかって部屋に戻る。

まさと「・・・・ああ、やっと落ちついた。」
ミュウ「ほら、簡単に摘まめる物だけだけど、貰ってきたよ。さっき、あんまり食べてなかったでしょ?」
まさと「あ、貰お。丁度、腹が減ってた。って、偉く量あるな。」
ミュウ「あたしの、晩御飯っ!」
まさと「そか。」
ミュウ「あ、遠慮しないで、食べてよ?」
まさと「誰が遠慮などするか。」


いいながらひょいひょいパクつく。

ミュウ「うん。今日、ほんと、ありがとうね。」
まさと「ん?」
ミュウ「ドラゴンが転生する時。あたし、完全にあきらめてたから。だから。」
まさと「しょうがねぇよ。俺だって運任せだったんだから。」
ミュウ「そう、だね。 ・・・・・・あたし達って、出会わなかったら、今ごろどうしてたのかなぁ?」
まさと「・・・そりゃぁ、こうしてたろうよ。」
ミュウ「ん?」
まさと「15年前に出会わなかったとしても、いつか出会ってこうしてたんじゃねぇの?」
ミュウ「あ・・・・うん。そうだね。きっとそうだ。」

ダイアは、自分の部屋で、ぼぉっと、外を眺める。

ダイア「はぁ、アスフィーもくれば、もっと楽しかったろうになぁ・・・・はぁ。」

深い溜息をつく。

アスフィー「じゃ、楽しくしようか。ダイアグローゼ。」
ダイア「あ、アスフィー!」


目の前にアスフィーが浮かんでいた。

アスフィー「今日、来ておかないと、何も始まらない、よね?」
ダイア「ああ、あいつらなら、わかってくれる。わかってくれてる!」


ダイアは、アスフィーの懐へ飛び込んで行った。

「お世話になりましたぁっ!」

翌朝、ルビアさんに礼を言って、オーバルジャグアを離れた。
ミュウ達や、ルビーも再建の為、一度村に戻る。

広江「なぁ、宗方。」
まさと「なんでしょ?」
広江「夕べは、よく眠れたか?」
まさと「ええ・・・・あ。抱き枕。」
広江「ああ、まいった。掛け布団をもう一枚借りて、丸めて使ったが、今一つ、熟睡できなかった。」
まさと「枕が替われば・・・ともいうしね。」
広江「まったくだ。しかし、こっちはいいなぁ、何か、私達が失った物が、沢山残ってる気がする。」
まさと「そうっすね。自然も多く残ってるし。」
広江「互いの星の文化を壊してしまわない様、きちっと取り決めを作らねばならないと思う。思うだけだがな、今は。」

移動するホエールの中で、広江さんとそんな会話をした。
村につくと、ゆっくりと様子を見させてもらった。
焼け落ちた家の跡は綺麗に整地され、立て看板が建てられている。
そこに書いてある文字は、たとえばミュウのとこなら、あたしんち、とか、かなり個性的な物が書いてあるらしい。
ミュウのところは、なにやら、以前のそれに比べて随分と広げられていた。

ミュウ「だって、父さんと、姉さんと、ポチに、タマ・・・。」
まさと「ああ、同居人増えてるか。」
ミュウ「それにお客さん用の部屋も要るし、パールが機材運び込めるような部屋も、って事になっちゃって。」
まさと「そのうち、城が建つな。グレンハート城。」
ミュウ「あははははっ。」

シルフィーんとこも、それはもう広い場所が。

ガゼル「そりゃぁそうだろう。パーティー開く場所も欲しいし、何より、アスフィー達やパールが戻る場所も必要だろう?」
まさと「え? パール?」

そういわれて、ふと考え直してみる。
アスフィーはここの者、ダイアはその連れだからわかるとして・・・・あ。
パールは、アスフィーに育てられた。
だから、パールはフルネームだと・・・・。

パール「パール・ステイリバーって事になっちゃうわね。」
まさと「わー。それは完璧に頭に無かったぞっ。ああ、やっぱり、大家族の中にはまりこんでるなぁ。」
パール「建前上、そうなるって話しだけどね。私は、あちこち飛びまわってて、特定の家、持てないだろうなぁ。アトリエ以外に。」
まさと「実家も顔出してやれよ。」
パール「ええ、その時は付き合ってね。話しが難しいし。」
まさと「どこなんだよ。」
パール「和歌山県、太地町。」
まさと「鯨の町ではないか。そういう、鯨繋がりかい。ホエールは。」
パール「あ、ばれた。」
ガゼル「ひょっとして、故郷が近いのかい?」
まさと「ええ。そりゃもう、こことセントヘブンぐらいの距離かも?」

その後、皆の家の場所を確認し終えたところで、俺と広江さんは、東京に戻る事になった。
それから数ヶ月後、ファルネが久しぶりに連絡をとりに現れた。
一枚の写真を持って。
写真には、幸せそうな、グレンハート一家プラスα、が写っていた。
写真の裏には汚い字だったが、こう書かれていた。

『ぜったい、もどるよ。−ミュウ−』