ミスティック・ミュウ・エクストラ(後日談)それぞれの道(前編)

あれから一ヶ月が経とうとしている。
数々の偶然と必然、多くの出会いが運命を動かし、二つの惑星に降り掛かった、災厄をなんとか凌いだ事件。
世間ではこれを、『ガルウ騒乱』と呼ぶようになっていた。
この一ヶ月は、俺にとって、本当にめまぐるしい一ヶ月だった。
なんだかんだと、毎日の様に警視庁に行かねばならなかったし、大学だってある。
その上で、マスコミに英雄として追い回されたり、取材申し込みの対応に追われたり、街中で乗り捨てたまま忘れていたスクーターはぼこぼこだわと・・・ああ、最後のは俺が悪いんか。
今日も今日とて、警視庁の一室で、資料をまとめる作業を手伝っていた。

広江「結構、不明なままのところや、不明瞭なものが多いな。」
まさと「・・・・・すんませぇん。ルーンの力を借りてる時は、全部わかってたし、なんでも自由に出来た・・・・気がしたんですが。元に戻ったら、さっぱり忘れちゃってるし、ただの凡人に逆戻りです。」
広江「こらこら、何を言ってる、非凡の癖に。」
まさと「・・・・・へぇ、へぇ、俺は世間から逸脱してますよ〜。」
広江「そんなにすねると、いじめるぞ。」
まさと「ああ、それは勘弁。まぁ、なんとか思い出せるだけ思い出して、形に出来るようにしますけどね。けど、魔導科学は俺じゃ、まとめられないなぁ。」
広江「やはりそうか。なら、彼女だけでも、定期的に連絡を取る算段をした方がいいかもしれないな。」
まさと「ですねぇ。パール。今んとこ、ファルネだけが連絡手段だし、何か・・・・。ああ、俺が考えたっていいアイデアは出ないけど。」
広江「それは私も同じ。ああ、まだ、魔獣相手の方が気が楽だ。」
まさと「わはは。まぁ、今度、ファルネが来たら伝えときます。」
広江「頼む。今のところ、両惑星間の転送については、一般に完全開放せず、その行き来するメンバーをリスト化して、移動があったら、随時、こちらの本部に連絡、という形をとってもらう。これは持続する方面だ。面倒だろうが守ってくれ。」
まさと「はい。早く、管理局とかそういうのが立ち上がるといいんすけどね。」
広江「文化形態がかなり違うから、難しいらしくてなぁ。日本だけで済まないし。まぁ、しばらくはうまく対応してくれ。こっちも出来るところは何とかするから。」
まさと「はい。広江さんの、なんとかする、は、頼もしいっすよ。」
広江「ところで。」
まさと「はい?」
広江「その後はどうなんだ? 彼女とは。」
まさと「ミュウ? いや、全然連絡らしいのは無いっすね。まだ忙しいんじゃないかなぁ。村ごと家が全焼ですからね。落ちつく暇さえないかも。一度、ファルネが来た時は、まだ、皆、ホエールで寝泊りしてたみたいだし。」
広江「そうか。済まないなぁ。仲を引き裂くような事になってしまって。私はお前のおかげで正人さんと・・・・。」
まさと「そりゃ、言いっこ無しです。それに、広江さんのせいじゃないでしょ? それは。もう、一日何回言ったら気が済むんですか? 済まないって。」
広江「・・・・・・・言ってる?」
まさと「大体、一日平均で10回くらいは。」
広江「す、済まないっ。」
まさと「・・・・・・・・・・・・・ほら。」
広江「あ。」
まさと「わははははは。あ、もうこんな時間か、んじゃぁ、俺、今日はそろそろ。」
広江「ああ。今日は、私が送ろう。まだ、スクーターは直っていないんだろ?」
まさと「ええ、来週くらいまで掛かりそうで。」

広江さんの覆面パトでアパートまで送ってもらう。
事件から何の進展も無く、一ヶ月経過すると、さすがにマスコミも、次のネタのほうへシフトしちゃって、アパートを取り巻く様に居た記者達も、今では数名居るか居ないかといった状態。
ようやく、通常復帰ってとこかな、俺の生活。
ちょっと、マイテーの方へ顔を出す。
マスコミに追いまわされてたんで、マイテーにまともに寄れたのは久しぶりだったし。
いや、ほんと、隣のビルなんだけどねぇ。

まさと「どもーん。」
ひとみ「あ。今日はもう済んだの?」
まさと「うん、なんか、手伝う事ある?」
ひとみ「ううん。今は、次のネタ出し期間だから、特には。」
まさと「そっか。次、変身モノだっけ?」
ひとみ「そうそう、みんなして、報道の録画とか取り寄せて、見まくってるわよ。」
まさと「わぁ。そう言うものをネタ出しに・・・。まぁ、良い資料か、実際。」
ひとみ「そーゆーことっ。東京湾に駆け下りる光の柱とか、空飛ぶ鯨型の船とか、見所たくさんあるし〜。」
まさと「あはは。光の中身ってこの程度だけどね。」
ひとみ「そんな事ないわよ。ほんと、凄かったねぇ。」
まさと「そうだなぁ。そんなにひどい状態にはならなかったんで、ほっとしたのは確かだな。何にしても、こーやって、普通にしてられるのが一番だよ。」
ひとみ「そうだね。」

一通り、社員の皆に挨拶してから、俺は、部屋に戻った。
どういうわけか、部屋の灯りがついている。
奥の部屋に行くと・・・。

ダイア「すぅ・・・・・すぅ・・・・・。」
まさと「・・・・・・・・・・何をしとるんだこいつは。」


ダイアが俺のベッドで、気持ちよさそうに寝入っていた。
床には、冷蔵庫の中から、適当に取り出したんだろう、いろんなモノが食べ散らかしてある。
俺は、布団の端からやる気なさげに垂れているダイアのしっぽを、ためらわずに、力いっぱい握り締めた。

まさと「目覚まし、オンっ!」
ダイア「ぐあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


直後、余りの痛さに荒れ狂うダイアを鎮めるのにちょっと苦労したけど。

ダイア「・・・・・・・・・うぅ。」
まさと「食い物の恨み、思い知ったか。」
ダイア「お腹空いてたんだよっ。」
まさと「で、腹いっぱいになって、眠くなって寝たか。」
ダイア「そーだ。全然戻ってこないし。」
まさと「で、どうしたんだ?」
ダイア「とにかく、しっぽはやめてくれ。敏感なんだから。触りたかったら触って良いけど、やさしくしてくれ・・・ほら・・・・。」

ダイアはしっぽをこっちに突き出してくる。なんとなく、反射的に握ってしまう俺。

ダイア「あん。」
まさと「・・・・・人の話し聞いてないだろお前。」
ダイア「ああ、敵だった男になぶられるこの背徳感が・・・・・・。」
まさと「陶酔するなっ! とにかく、用があって来たんだろ。」
ダイア「ああ、お前をさらいに来た。」
まさと「なにぃっ!?」
ダイア「うっきゅうううう〜〜〜〜〜・・・・・・あぅ。」


思わずしっぽを握る手に力が入ってしまった。
ダイアは目を回してのびてしまった。
仕方ないので、ダイアが復活するのを待つ。

ダイア「・・・・・・わざとやってないか?」
まさと「やってねぇよ。自分には無いものだから、物珍しいのは確かだけどな。」
ダイア「はぁ。説明しておくか。いいか? 魔族のしっぽは、鋭敏な感覚器で、本当に信頼したやつにしか触らせない物なんだ。だから、通常は隠してる。」
まさと「ほぉ。」
ダイア「だから・・・・相手のしっぽを触ると言うのはだなぁ・・・・。」
まさと「うんうん。」
ダイア「きゅ・・・・・求愛行為なんだよっ。」


頬を赤らめるダイア。

まさと「・・・・・・・・・・・・先に言え、そういうのは。」
ダイア「今までその暇あったか?」
まさと「・・・・・なかったか。そういや。」
ダイア「あと、マジェスティックスを吸収したりもしてるけどね。しっぽとか角とかで。」
まさと「ふーむ。そういうものだったのか。の割には無用心に垂れ下がっていたが。」
ダイア「しかたないんだ。マジェスティックスの薄いところではしっぽとかしまいっぱなしだと、息苦しいから。」
まさと「ああ。そういうことか。ん、しっぽの事については了解した。」
ダイア「ん。」
まさと「で、どうなんだ。その後は。」
ダイア「セントヘブンに寄ったら、何回か、斬り捨てられそうになった。」
まさと「そうだろうなぁ。で、誰かかばってくれたか?」
ダイア「今の時代、魔族をかばう者は少ない。ホエールに乗ってたやつくらいだ。」
まさと「ま、時間がいるだろうな。そのあたりは。」
ダイア「ああ。」
まさと「で、もっかい聞くが、さらうって何?」
ダイア「ああ、そうだ。そうだ。まず、報告する事がある。」
まさと「何だ?」
ダイア「今度、魔族の総統府の統主になる事になった。うやむやのうちに。」
まさと「ほー、魔族の代表とか、そういうことか?」
ダイア「そうだ。今、覚醒期にある魔族の中で、わたしが、一番能力が高いそうだ。他の有力候補は今休眠してるやつばかりで。」
まさと「しっぽはあれだけ無防備なのになぁ。」
ダイア「言うなっ。まぁ、その報告と、お前をこっそり連れて来いと頼まれたのと。」
まさと「なんだぁ? そういうことかよ。誰に?」
ダイア「シルビーちゃん。」
まさと「・・・・・お前にも、そう呼べって言ってるのか、あのばぁさん。」
ダイア「まぁ。さぁ、行くぞ。」

ダイアは俺の腕を掴む。

まさと「ちょ、おい、もうかい。」
ダイア「それでなくても時間超過してるんだ、ほらっ!」
まさと「わっ、引っ張るな、準備がっ!」
ダイア「良いんだよ。体一つで!」
まさと「わっ!」

あたりが真っ白になって、俺は、転移した。

まさと「だから、靴ぐらい履かせてくれっつ〜の。」
ダイア「なら早く言え。」
まさと「有無を言わさずいきなりだったでは無いか。」
長老「おう。やっときたか。ほれ、急げ。」

エルフの村の近く、ノスパーサに向かう開けた場所に出ていた。
目の前に懐かしいホエールが横たわっている。
応急処置はされているようだったが、あちこちに傷が残っており、完全修理までは行って無いようだった。
わたわたとホエールに連れ込まれたかと思うと、ホエールは発進した。
靴は、仕方ないので、艦内服のを借りた。

まさと「まぁったく。手荒いったらありゃしない。」
長老「急がんと遅くなるでの。まぁ、辛抱しておくれ。」
まさと「で、なんなの? 一体。」
長老「実はな・・・・。」
パール「はぁぃ。」
まさと「あ、よぉ。」


通路の向こうの方からパールがやってきた。

パール「マスコミ、大変だったでしょ?」
まさと「ああ。最近、やっと落ちついたとこだ。そうそう、広江さんが連絡とれるような段取りして欲しいって言ってたぞ。色々聞きたい事があるらしくて。」
パール「でしょうね。私も色々方法は考えてるから、まぁ、もうちょっと待って。」
まさと「ああ、慌てなくていい。こっちだって、余り先に進んでないから。」
パール「とりあえず、ブリッジへ行きましょ。乗ってる人は皆ブリッジに居るから。」
まさと「そうか。」

パールについて、ブリッジに行く。

竜崎「よぉ。」
まさと「うぉ。お前に会うとは。」


ブリッジに入って、いきなり竜崎と目が合った。
他に、レーアと、メイドのナンシーが居る。

竜崎「まぁ、そう言わないでくれ。俺も、ちゃんと呼ばれた口なんだから。」
まさと「ああ、それだそれだ。一体何があるんだ?」
ナンシー「お久しぶりです。まさと様。私達は温泉宿に招待されているんです。」
レーア「そうそう。ね、お姉様。」
まさと「なんだ、そういうことか・・・・え!? なに? お姉ぇ様ぁ?」
ナンシー「はい。」
まさと「はい?」
竜崎「なんだ、知らなかったのか。」
パール「第三王女、だそうよ。ナンシーさん。」
まさと「はひょほへぇ!? 第三王女ぉ? なんでそれが、メイドなんかっ!?」
ナンシー「苦労は買ってでもしておけと言いますから。勉強の為に。」
レーア「そのうち私もやらさせられるんだけどね・・・・。」
まさと「ううむ。ヨハン王の考えてる事がやっぱ今一つ掴めん。」

ホエールの操艦はマーガレットがやっている。
で、砲主席と、管制席に、なんだか見覚えのある奴が座ってるんだが。

マーガレット「まさと様、お元気でしたか?」
まさと「ああ、マーガレット、もう調子はいいのか?」
マーガレット「ええ、私達はすぐ直せますから。」

私達。
つまり、砲手席と管制席に座っている、二人もということか。

サファイア「どぉも。」
エメラルド「揺れますから、出来るだけどこかに掴まってて下さいね。」

砲主席にサファイア、管制席にエメラルド。
こいつらとこうやって再会する事があろうとは。

ダイア「コアが無事だったんで、直してみたんだけどね。」
パール「助かってるわよ、ほんとのとこ。作業用員としても立派に役立つし。」
まさと「あ、じゃぁ、こいつらって、ダイアの・・。」
ダイア「そう。わたしが作ったのよ。ガルウじゃない。まぁ、言ってみれば魔獣の一種なんだけどね。」
まさと「ほー、いろいろあったけど、まぁ、仲良くやろうや。」
サファイア「はぁい。強い人は嫌いじゃないからね。」
エメラルド「こちらこそ。」

確かに、こいつ等のおかげで、苦戦はした。
が、それも、ダイアの計画のうちだったのだから、仕方あるまい。
こいつ等は命令を忠実に守っただけだろうし。根に持ったりするのはお門違いだ。
そも、ミュウと、シルフィーの人格を元にしたってせいもあって、敵意を向けられなければ、親近感が湧いたりするから不思議だ。

マーガレット「そろそろ、山脈越えに掛かります。」

ホエールは、こっちに来てた時、いつも遠くに見えていた山脈の遥か上空を行く。
ブリッジは飛行船の様に、船体下部にあるので、その眺めは実にいいものだった。
にしても、ホエールは相当の距離を飛んでいる。軽く数百キロは移動して来たんじゃないだろうか。
周りの景色もどんどん変わって・・・・・雪が降っている。
おいおい。俺、春服なんですけど。
で、今気が付いた。
ホエールに乗ってるメンバーはマーガレット達以外は、皆、冬服らしいのを着ている。
おいおいおい、こういうのは事前に言ってくれよ、ダイア。って、無理か。

『誰だ!』

まさと「ん?」
パール「どうしたの?」
まさと「いや、今、何か聞こえた気がしたんだが・・・・・・・。」
パール「そう? 今、誰も話してなかった様に思うけど。」
まさと「気のせいか。」

ホエールは白銀の世界の上空をしばらく行って、フランという、山裾にある小さな街に着く。
街の端に大きなドーム状の建造物があり、その傍にホエールは着陸した。

まさと「・・・・・びぃえっくしっ!」
パール「あー、やっぱり、寒いんだ。そんな格好でくるから。」
まさと「・・・・俺は、ほとんど誘拐されて来たの。行き先なんて知らねぇってばぁ。」


ドームの正門の方から誰かが駆けて来る。シルフィーだ。

シルフィー「まさとさぁぁぁぁん!」

シルフィーも完全フル装備、ダウン系の服に、あまつさえ、耳にカバーまで着けている。
ああ、うらやましい。

まさと「よぉっ。」
シルフィー「寒そぉ・・・。」
まさと「うん。」

いや、ほんと、寒くて仕方ない。
なんか壁でも作って、寒さをシャットダウンしたいところだ。

ダイア「うん?」
パール「どうしたの?」
ダイア「あいつ・・・・。集まってきてるぞ。」
パール「・・・・・霊? 浮遊霊? 地縛霊? 怨霊?」
まさと「だぁっ! んなっこというなぁっ! 余計寒くなっちまうだろうがぁ!」
ダイア「・・・・・寒いか?」

おや。そう言えばさっきから、ちょっとずつ寒くなくなってきてる気が。

まさと「・・・寒くない。」
ダイア「だろうな。」
パール「え? まさかぁ? あ、ちょっと待って・・・。」

パールはウエストバッグから何やら端末とか取り出して、俺に異変が無いか調べている。

まさと「ほんとに見えるとかいうなよぉ、頼むから。」
パール「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
まさと「うわぁ。」
パール「見える!」
まさと「あうあぁぁぁ!」
パール「・・・・・障壁できて、体の周りの温度が上がってる・・・・。」
長老「ほぉ。それは面白い。」
まさと「はぁ?」
パール「なんで?」
まさと「俺が知りたい。」
パール「けど、これって、魔族ぐらいにしかできない事よね?」
ダイア「そうだが。わたしにもわからないよ。魔法が使えるようになったんじゃないのか?」
パール「魔法はわかるけど、そんな、簡単には・・・。」
まさと「えっと、んじゃぁ、集まってきてるってのは・・・・・。」
ダイア「マジェスティックス。魔法が発動してる。」
まさと「んな、ばかな。」
シルフィー「んー、一度、ルーンの力を継承したからかなぁ?」
ダイア「ああ、それだ。それで、全ての属性が扱えるようになったんだろう。」
パール「属性って言うと、火、氷、水、風、雷、大地、補助、全部?」
ダイア「そうじゃないか? でないと、ルーン・マスターとは言えん。ほら、手をかざして火を思い浮かべてみろ。」
まさと「こ、こうか?」


言われた通りにやってみる。
手の平の上で、ぼっと炎が燃えあがる。

まさと「うわっ。」
シルフィー「わぁ。凄い凄ぉい。」
パール「はぁ・・・こういうこと、あるものなのね。しかも、詠唱無し。魔族と一緒じゃない。ダイア、何かした?」
ダイア「いや、された・・・。」
まさと「ん? ・・・・・・わぁわぁわぁっ。」
パール「うわぁ。そんな人だったとは。」
竜崎「聞き捨てならない話しのような・・・。」
ナンシー「まさと様・・・・。」
ダイア「まだちょっと痛む。」
まさと「うーーわーーー。」
パール「そ・・・・・・・。」
ダイア「しっぽが。」
パール「ああ、・・・・・それね。」
レーア「もう、何を疑ってるのよ。そんな度胸あるわけないじゃなぁい。」
まさと「・・・・・レーア。凄くうれしくないぞ、それ。」

『どこだ!』

まさと「あ。」
パール「ん?」
まさと「いや、また、何か・・・・・聞こえた・・・・。」
パール「・・・・・・はぁ。疲れ過ぎてるんじゃない? 丁度いいわ、温泉浸かって、たまった疲れ抜いちゃいなさい。」
まさと「へ、へーい。」

正門のところまで行くと、ルビーともう一人、女の人が立っていた。

まさと「いよぅ。」
ルビー「いらっしゃい。」
まさと「へ?」
女の人「ようこそ。温泉宿オーバルジャグアへ。」
まさと「ああ、ここの人?」
ルビー「母です。」
まさと「・・・・・・・・・・・なにぃっ!?」

オーバルジャグア。
ここは、ルビーの母親である、ルビア・オーバリーの経営しているところらしい。
そこへ、完全に記憶が戻ったルビーが戻った事で、そのお礼と言う事で、皆、招待された。
そういう経緯だそうだ。
今は、エントランスで、記帳やらなんやらの手続き中。

まさと「ここがルビーん家のだったとはねぇ。」
ルビー「ゆっくりしていってね。今日は、完全貸し切り状態だから、自由にやってもらって大丈夫よ。」
ルビア「本当は、今日から大清掃のための休業期間なんですけどね。二日ずらして、貸し切りに出来る日を作らせてもらいました。娘がお世話になった方達ばかりですから。」
まさと「やー、厄介になります。で、他には誰が来てるんだ?」
パール「えっとね、ファリアでしょ、それから、ミルフィーさんに、ガゼルさんに、エドさんに、ローリーさんに、ポップさんに、広江さん、かな。」
まさと「ほぉ・・・・・って、広江さん!? 俺、さっき広江さんにパトで、送ってもらったとこなんだぞ?」
広江「ああ。来た来た。」
まさと「あ・・・・ほんとだ。」

広江さんは俺と同じようにして、連れてこられたらしい。ファルネに。
広江さんの頭の上をファルネが飛んでいる。
いきなりだったんで、こっち来てから、すぐ、服を調達したりと、結構どたばたしたらしい。
いや、ちょっと待て、かなりメンバー欠けてないか。
おっさんとか、マリンさんとか、ポチとか、タマとか、ミュウとか。

マリン「おーい。」
まさと「わっ。」

いきなり後から腰のところをつんつんされる。
振り返ると、そこにはマリンの占いの館オーバルジャグア出張店があった。
屋台? 例によって、地味な占い服着てたので、気付かなかった。
奥ではタマも大人しく座ってる。ポチも居眠ってる。
二人共人の姿になってたんで、ほんと気がつかなかった。

タマ「いらっしゃいませにゃ!」
まさと「出稼ぎ?」
マリン「まぁ、そんなところ。」
まさと「しかし、こんなとこで、店出していいの?」
ルビア「はい。お客様にも好評でして。リピーター効果があるので、うちも助かっています。おほほ。」
まさと「おおぅ。運命共同体かよ。マリンさん、抜け目無いね〜。」
マリン「宿代稼ぎよ、ほんとのところは。お父様が養生に来てるから。」
まさと「なるほどぉ、温泉で養生かぁ。じゃぁミュ・・・。」
女中「お部屋にご案内致します。こちらへどうぞ。」
まさと「あ。あ、そう? じゃぁ、マリンさん、またあとで〜。」
マリン「はぁい。」

ここの女中は頭から被り物をしていて、顔とか全然見えない。
どんなコなんだろうなぁ?

まさと「なぁ、その被り物って、とっちゃダメなの?」
女中「ええ、規則で。お客様に失礼が無い様にと、そういう取り決めになってます。」
まさと「心づくしの一環ってやつかぁ。残念。」
女中「はい。お部屋はこちらになります。」


部屋は廊下の突き当たり。
部屋にはそれぞれ、名前とか振ってあるらしかったが、こっちの字の読めない俺の事、こういうわかりやすい部屋割りは大歓迎だ。

女中「すぅ・・・・お風呂は、いつでも入って頂けますので、ご自由にどうぞ。食事は食堂の方まで起こし頂く事になります。食事の準備が出来ましたら、お声を掛けに伺いますので。その他、わからない事がありましたら、お気軽にお呼び止め下さい。」
まさと「はーい。」
女中「で、では、ごゆっくり。」

一礼して女中は慌しく去って・・・・・廊下で転んでるよ、おい。どたっとか今音がした。
新米なのかな? 台詞もなんか硬かったし。
部屋は、絨毯が敷き詰められてはいるが、入り口が土間風になっていて、和式的。
ホエールから借りてきていた靴を脱いで上がると、窓際に座って、くつろいでみる。

まさと「ほぉ。結構眺めもいいじゃないか。」

ホエールで越えてきた山脈が見える部屋だった。
雪をかぶった町並みと、向こうに流れる川が結構いい配置に見える。
都会の窮屈感に比べ、こちらは、空いた土地、つまり空間が多いので、絵になる。
おっと、景色に見とれてる場合でもないな。
マリンさんたちが来てるってことは、ミュウもどっかその辺に居るはずだ。探してみよう。
部屋を出て、ロビーやら、食堂やら、遊戯スペースやら、あちこちと見て回る。
が、どこにもミュウの姿が無い。
ひょっとして、部屋にいるとか、風呂に浸かってるとかか?

マリン「ん? ミュウ? ああ、そう言えばさっきから見かけないような。」
まさと「何も聞いてない?」
マリン「ううん。聞いてないわ。そのうち自分で声掛けに行くんじゃない?」
まさと「そうかぁ。じゃぁ、仕方ないなぁ、俺も一っ風呂浴びてくるか。」
マリン「そうね。せっかくの温泉宿だし。」

渡り廊下を通って、風呂。
つまり、ここへ来た時にホエールから見えた、ドーム状の建物へ行く。
マークを見て男湯と思われる方へ入る。
タオルと石鹸を受けとって、脱衣場へ。
さすがに、貸し切りという事で、人気は少ない。
さっさと、服を脱いで、風呂場へ。
風呂場はドームの中が二つに分けてあって、男湯と女湯に分かれてるらしい。間仕切りがある。
湯船ではエドさんがのんびりと湯に浸かっていた。

エド「よぉ。ひさしぶりだなぁ。」
まさと「どーもぉ。」
エド「そっちのがぬる目、向こうの岩場のあるとこが普通、ここが熱めだ。そっちのは掛け湯用だからな。入ると怒られるぜぇ。」
まさと「ほーい。」

よく見ると女中が裾が短めの服で、使われていない手桶やらをがんがん運んでいる。

まさと「むう。さすがに閉店前っつう感じだなぁ。」
エド「まぁなぁ。」

掛け湯のところは蛇口が付いていて、洗い場ということは大体わかった。
早速俺も体を洗って湯に浸からせてもらおう。

エド「おぅ。そっから出てくんのは水だからな。お湯と間違ってかぶるなよぉ。」
まさと「わはは・・・・やる前でよかった。」


俺が体を洗う準備に入ると、走りまわってた女中が声を掛けて来る。

女中「お流ししましょうか?」
まさと「ん? サービス?」
女中「ええ、まぁ。」
エド「なにっ!? おいらん時は誰も居なかったから、一人で全部やったぞ。くそぉ。うらやましいぃ。」
女中「済みません。いつもなら数人居るんですけど。今日は・・・。」
エド「お休みしてんのが多いんだな。じゃ、しょうがねぇなぁ。」
女中「はい。」

女中さんに背中を流してもらう。
ミュウ達がティラに戻ってから、背中を流してもらうなんて事が無くなって一月。
なんだか、妙に懐かしい感覚があったりする。

エド「前もちゃんと洗ってもらえよ〜。」
女中「・・・・なっ。」
まさと「おいおい。無茶言わないでよ。」
エド「なははは。悪りぃ。冗談。冗談。」


背中はおろか、頭まで洗ってくれちゃいました。サービス万点だなぁ。
洗い終わると、女中さんはまた、自分の作業に戻った。

エド「なかなか、サービスいいじゃねぇか。また来るかなぁ。」
まさと「忙しいと、今日は背中流しはありませんとか、貼り紙されてたり。」
エド「お。いえてる。」


のんびりと湯船に浸かる。
さすがに、エドさんの入ってるのは熱すぎたんで、普通の方。

エド「ところでよぉ。そっちの様子はどうなんでぃ?」
まさと「ああ、こっちは、そろそろ普通の生活してるよ。海の上で被害少なかったし。そっちは?」
エド「まぁまぁ、と言いたいとこなんだけどなぁ。全部建て直しだから、もう一月二月はなぁ。ってとこよ。」
まさと「そうかぁ、そりゃ大変だ。」
エド「まぁ、ホエールがあるからな、それほど大変でもねえぜ。」


風呂から上がると、女湯の方から、ファリアが出てきた。

ファリア「あ、もう、来てたか。」
まさと「おーおー、まっかっかになって。飲んでたか?」
ファリア「ああ。湯船で飲むのがまた美味い。」
まさと「酔って溺れるなよ。」
ファリア「・・・・・・ミュウと同じことを言うな。」
まさと「わははっ。そうか。って、そうだ、ミュウ見なかった?」
ファリア「いいや、見てないが。」
まさと「あれー?」
ファリア「探してるのか。見たら、言っとく。」
まさと「ああ、そうだな。頼む。さてと・・・。」
ファリア「お。来た来た。」
女中「お探ししました。食事の用意の方が整いましたので、宴席の方へどうぞ。」

建物の最上階にある、宴会席に行く。いわゆる大広間みたいなところ。
ここではじめて一同が揃う。

ルビア「・・・・とうわけで、事件も無事解決、娘も無事に戻りましたのは、皆様方のおかげでございます。では、せめてもの心づくし、ゆっくりと味わってくださいまし。」
リビー「じゃぁ、まさとさん、乾杯の音頭を。」
まさと「え、俺かい。」
長老「他におらんじゃろうが、よぉ考えてみぃ。」
まさと「あー、じゃぁ、乾杯!」

宴席が始まって、沢山盛り付けられた料理に、皆、舌鼓を打っている。
だが。俺は今一つ気分が盛り上がらなかった。
宴席にもミュウは現れなかったから。
ちまちまと食べていると、ラルフさんが酒瓶を持って俺の席にやってきた。

ラルフ「注ごうか?」
まさと「あ、いや、今日はいいや。調子どう?」
ラルフ「ああ、いい。無理は利かんが、かなり調子は戻ってきてる。ここの温泉のおかげだ。」
まさと「何より、か。」


ラルフさんは、宴席を酒瓶持って回っている様だった。
心配り、ですかね。
向こうの方では竜崎とナンシーが実にしっぽりやっている。
お邪魔虫してやれ。
酒瓶を持って竜崎のところへ。

まさと「ほれ、注いでやろう。」
竜崎「え、あ、そうだな。」
まさと「ほら、ちゃんと持ってろよ・・・・。」
竜崎「・・・・お、おぉっと。」
まさと「だから・・・揺らすなと言うのに。」

ほんの少し、酒がこぼれる。

ナンシー「あ、私が・・・。」
竜崎「ああ、ごめん。」
まさと「仲いいな、お前ら。」


こぼれた酒をナンシーが近くにあったお絞りで拭いている。

まさと「・・・・・・・えっと。」
ナンシー「ああ、そうでした。まだ・・・。」
まさと「ん。やっぱ何かあるんだな?」
ナンシー「はい。実は・・・。」
レーア「守がお姉様と一緒になって、領主になるかもしんないんだって。」
まさと「・・・・・・なぁぁぁぁっ!?」
竜崎「済まないな。驚かせて。」
まさと「お、驚くわい。」
ナンシー「父王は、嫡男に恵まれなかったので、守が・・・その・・・。」
まさと「ちゃくなん? ああ、王子がいないのか。」
レーア「そう。私まで四人とも女だよ。第一、第二王女は、隣国とか、お嫁入りしちゃったし、私達二人だけだしねー。」
まさと「なるほど。そのどっちかの婿が次期国王ってことか。」
レーア「そうそ。まー、見ててよ、そのうち、私が守よりいい男捕まえて見せるから。国は安泰よ。」
まさと「竜崎。なんか、非常にお前を応援したくなってきたぞ。俺は。」
竜崎「ああ、頑張るよ。」
レーア「あぁ〜信じてないなぁ? ふんっだ。」
まさと「んじゃぁ、お前、戻るつもりは無いのか?」
竜崎「そうだな。たまに戻るのもいいだろうけど、俺、三男だし、こっちでやらないといけない事の方が多いからな。」
まさと「やらないといけない事?」
ナンシー「守は、今度、設立される、警備隊のまとめ役に抜擢されたんです。」
まさと「警備隊? お前がかいっ?」
竜崎「ああ、俺がだ。騎士団よりも民衆に近くて、頼りになる。それを目指してる。」
まさと「そうか。まぁ、その様子なら、大丈夫だろう。」

竜崎の目は真面目だった。本気なのがわかる。
こいつがこう言う事を真面目に考える様になるとはなぁ。
ナンシーが、俺を手で呼ぶ。

ナンシー「父王は、警備隊を成功させる事で、守の信頼を回復させるチャンスを与えてくださったようで。」
まさと「あ、そういうことか。いいんじゃないの。こいつ本気だよ。」
ナンシー「はい。」


それ以上居ると、アテられる事になりそうだったのでとっとと退散する事にした。
ヨハン王、意外と面白いこと考えるじゃないか。
それがうまく行けばナンシー王女の婿として充分てなとこか。

シルフィー「注っいっでっ!」
まさと「だぁめ。」
シルフィー「ぶー。」

通り掛かったところで、シルフィーがお酒をせがんでくる。
どうやら、皆からも飲ませてもらえないらしい。
そうか、皆、知ってるのね。シルフィーの酒癖。

まさと「ばぁさん。欲しがってるけど、・・・・・・・・・あ。」
シルビー「あんらとぉ? 飲ませたいなら飲ませればいいのりゃぁ。」
まさと「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おいおい。遺伝か、酒癖の悪さは。」
ラルフ「こんなところまで似なくてよいのになぁ・・・・・・はぁ。」


傍で、その様子を見て、おっさんもため息をついている。
しかし、傍に居るミルフィーさん、つまり、シルフィーのお母さんは平気で飲んでるんだがなぁ。

ミルフィー「ああ。遺伝って、一代飛びに出ることもあるようですよ。」
まさと「なるほど。じゃぁ、一人出来あがってんなら、いいや、はい、シルフィー。」
シルフィー「わぁい。注いでっ。注いでぇっ。」

いや、この後、その判断が甘かった事を後悔したんだけどね。
シルビーちゃんとシルフィーを足すと、2倍はおろか、4倍の威力になるとは思っていなかったから。
ええ、もちろん、俺は危険を感じて、その場を立ち去りましたとも。すぐ。
宴会場の端の席で、ダイアがぽつーんと取り残された様にしてるので声を掛けてみる。

まさと「しけとるな。」
ダイア「まぁ。」
まさと「そうか。アスフィー来てないんだな・・・・・。」
ダイア「ああ、魔圏に居る。」
まさと「気でも使ったか。」
ダイア「ああ、気にするなと言ったんだけどね。」
まさと「うまくいってないのか?」
ダイア「そっ。それは、無い・・・・。」
まさと「そうか。ならいいけどな。まぁ、なんだ、俺も今、相棒が留守しててな。ちょっと付き合ってくれ。」
ダイア「ああ。」

ダイアの横にどっかと座る。

まさと「こういう席は、魔族は苦手なのか?」
ダイア「まぁ、ちょっとね。建前とかいうのが、まかり通るだろう?」
まさと「あー、それは一理ある。お前、ストレートだもんな、良くも悪くも。」
ダイア「一番ストレートなやつに言われたく無いっ。」
まさと「怒ったか?」
ダイア「いや。気分はいい。つくづく変なやつだな、お前は。」
まさと「誉め言葉として受け取っておくよ。」
ダイア「ああ、誉めてる。」

なんだかんだとぽつぽつ喋りながら、酒が進む。

女中「あのぉ、お酒、もっと持ってきましょうか?」
ダイア「そうだな。食い物は苦手だから、酒。」
まさと「うん、持ってきてやって。」
女中「はい。」

女中はまた慌しく宴席の外へと掛けて行って・・・・こけたらしい。
ドズンとか、凄い音がしてる。
またすぐ駆けて行く音が聞こえてきたので怪我は無かったみたいだが。
酒持ってくる途中で、こけないといいけど。

マリン「あらぁ。仲良さそうねぇ。」
まさと「わっ。」

いきなり後にマリンさんが現れる。ポチとタマも一緒に居る。

マリン「お店しまって、お風呂行ってたら遅くなっちゃった。」
タマ「ごっちそうにゃ。ごっちそうにゃっ。」
ポチ「いやぁ、いいもの出てますねぇ。料理。」

ポチとタマは早速空いている席に座って食べ始める。

マリン「で、何? 浮気?」
まさと「・・・・・あのね。」
ダイア「あぁ、背徳感が・・・・。」
まさと「おいおい。そんなこといってると、もう、注いでやらねぇぞ。」
ダイア「けち。」
まさと「冗談だよ。ほれ。」
ダイア「ぅん。」
マリン「ところで、統主に選ばれたって聞いたけど?」
ダイア「ぅん。面倒なだけだ。外部との折衝役だから。」
マリン「外部との接点が多くなってるのは確かでしょうけどねぇ。」
ダイア「結果、そうなったのもあるし。な。」
マリン「あ、私にも頂戴。」
まさと「あ、はいはい。」


なんか、こうやって、ダイアと世間話と言うのは、考えもしなかったなぁ。
人をコケにするだけだと思っていたのは、計画の為の演技っぽいみたいだし。
アスフィーがダイアを助けようとした理由がなんかようやく理解出来てきたような。