<魔獣特捜ミスティック・ミュウ'(ダッシュ)>
第1話 ハーティーアイズ #4 再起

奈良県某所、鬼祀の家。
亜深さん、あーくん、ベーくんは、ハーティーアイズを失って、鬼祀の生家へ戻ってきている。
ここへ、新たに必要な機材を厳選して搬入し、亜深さんはデータの整理と、折れてしまった、くさなぎの調査をやってくれていた。

亜深「今までの検査データの整理はこれでよし。っと。あーくん、スキャンの準備出来た?」
あーくん「もうちょっと待って下さい。まだ、電圧が確保できないので・・・。一度、ブレーカー落とします。」
亜深「あ、待って、こっち、今終わるから・・・。」

亜深さんは使っていたマシンの終了作業に入る。

亜深「科学力の限界も、意外と低いわね。こうもてこずるとは。やっぱり、魔導科学を測れるのは魔導科学による物・・・ってことか。」
べーくん「どうなんでしょうね。体の具合はどうです?」
亜深「うん。平気。急に力を使ったから、ばてただけ。あ。」

いきなり部屋が暗くなる。あーくんがブレイカーを落としたからだろう。

亜深「あーくん? 落とすなら、もう一回くらい声掛けなさい。」
あーくん「す、すみません。気をつけます。」

今一度電気が通り、いよいよ、くさなぎの調査。
次々と、構成素材やら、硬度や、磁気など、いろんなデータが集まり始める。

亜深「・・・・・・・・・・本当に、こんな物が作れる物なの・・・?」
あーくん「そんなにすごい物ですか?」
亜深「そうよ。これは、まさしく聖剣。神の手による物とでも言うのが正しいでしょう。ちょっとやそっとで、作れる物じゃないわ。真似をしようと思っても出来る物じゃない。」

データはどんな値を示しているのか・・・。
そんな頃、俺は、東京で、ここ数ヶ月留守にしていた事の後始末と言うか、挨拶回りに走りまわっていた。
移動は、スクーターがハーティーアイズ壊滅時にまた壊れてしまったので、電車バス。
マイテー、特捜部、真悟のところ、それらを回って、日曜大工の店と、おおわらわだった。
マイテーでは、いつになくひとみさんが感情的だった。
それもそのはず。俺、誘拐された形で居なくなったから、ずっと、身を案じてくれていたらしい。
特捜部では、高砂さんに、やたら頭下げられて、恐縮しまくってしまう。
最近聞いた噂では、高砂さんは刑事部に居た頃、鬼のトメさん、と呼ばれ、その気概に、皆、恐れをなす存在だったらしい。
そんな人に頭下げられちゃぁね。恐縮もします。

まさと「で、どうなんです? こっちの様子は。」
高砂「いや、それがね。ここ数日、落ちついてるよ。不思議と。」
まさと「そう、ですか。あ、じゃぁ、鬼祀の研究所に出たのは・・・。」
高砂「ん? いや、それについては何の観測もされてない。君の報告で、はじめてわかったし。」
まさと「そうかぁ、じゃぁ、自然発生する場合は、電磁波は観測されないって事か。」
高砂「どうだろうね。場所が場所だ。観測できなかっただけかも知れない。それより、自然発生説は厄介だねぇ。」
まさと「はい・・・・。なにか、予防策が出来るといいんですけど。原因自体がまだ仮説ですし。」
高砂「そうだねぇ。まぁ、こっちは、まず、この山をどうにかしないと。」

デスクの上には未整理の書類の山が高々と積み上がっていた。
高砂さんは、目をしばつかせながら、その山を見つめていた。

まさと「あの、広江さんはあれから?」
高砂「うん。なしのつぶてだよ。なにやら、重要なことらしくてね。それも非公開な。その為に飛びまわってて、ひととこにとどまれないらしい。連絡がつかないよ。」
まさと「なんか、ハードそうだなぁ・・・。けど、高砂さんにくらい・・。」
高砂「そりゃぁ無理だ。私はここの面倒を見ていたりはするが、もう部外者と同じだからね。内部事情は皆目だよ。」


特捜部を離れると、真悟のとこに顔を出すが、まぁ、こっちは適当に。
真悟も、俺と一緒に大学を出たが、こっちはこっちで、またしても就職が決まっていない。らしい。生活自体は、清美ちゃんがずっと前から働いてるので、何とかなってるらしいが。
こちらは、まぁ、顔見せと言ったあたりで、俺は、日曜大工の店に行く事にした。
なぜ、日曜大工の店かと言うと、アパートの大家である、おじさんの許しを貰えたので、アパートの部屋の大改造をする事になったのだ。
その材料を買いに来た。
目的の材料を買い揃えると、沢山の荷物を抱えて、えっちらおっちらアパートに戻る。

ミュウ「じゃ・・・いくよ。」
まさと「おう。正確にな。」

ミュウがむらくもを出して、構える。

ミュウ「グレンハート流奥義! 二部屋貫通斬!」
まさと「・・・・・・・ほんとだな?」
ミュウ「・・・・・・・そんな目で見ないでよう・・・。」
まさと「とっとと切れ。」
ミュウ「あーい。」

ミュウがざくっと剣を振るうと、押入れの奥の壁が四角く崩れ落ち、向こうの部屋へ繋がる穴が出来た。
仕入れてきた材料でこの穴を加工し、扉をつければ、男部屋、女部屋を行き来する、通路の出来あがりだ。
つまり。
いつまでも、同居してないで、ちっとはまともな環境にしましょうと言う事で、ミュウと、法子が隣の部屋に移る事になったのだ。
それだけでは不便と言う事で、ミュウと法子の誠意あふれる説得で、おじさんが折れてくれて、この改造とあいなった。
しかし、魔剣むらくもよ。すまんな、壁抜きなんて使いかたして。
くさなぎが折れてなかったら、この役は、くさなぎの物だったろうけど。
半日掛かりで、どうにかこうにか扉を付け終わる。
新たに借りた向こうの部屋が女部屋で、2段ベッドが既に入れられている。
こうして、雑魚寝生活からおさらばして、清く正しい生活が始まるわけだ。
いや、結局、それからも、朝はミュウや法子にやさしく・・・・・・・叩き起こされるのだけど。
全然変わってない。か。
一応、女部屋に用があるときはノックする事になってるし、用も無く入出する事は禁じられております。

法子「はい。お待ちどう様でした。」
まさと「ほーい。」

マイテーでのバイトの合間に喫茶マイ・ティーで、一休み。
法子は、大学に通う一方、空いている時間をここでウエイトレスのバイトに当てていた。
髪型もそれなりに替え、なんだか、自分の妹とは思えなかったり。
結構、似合ってる。

法子「さぼり?」
まさと「・・・・・・・・・空き時間だよ。」
法子「ふーん。上京してから結構、真面目にバイトしてたんだね。もっとちゃらちゃらしてんじゃないかと思ってたけど。」
まさと「ほーか、ほーか。そういう風に思っとったんか、お前は。」
法子「誉めてるんだよ〜。」
まさと「嘘つけ、目が笑ってるぞ。」

そこへ、ミュウが入ってくる。

ミュウ「あ〜、いたいた。こんなとこでサボってるぅ。」
まさと「・・・・・・あ、あのな・・・。」
法子「あー、やっぱり、さぼりか。」
まさと「ちがーーーーうっ。」
ミュウ「ん? あ、ひとみさんが呼んでるよ。打ち合わせしたいって。」
まさと「お。そうか、すぐ行く・・・・ずずずっ。」

事務所に戻ると、内密に相談したいと言う事で、別室に通された。

ひとみ「それでね・・・いい難いことなんだけど・・・。」
まさと「・・・・・・・・・・・クビ・・・・・・ですか?」

ひとみさんの申し訳なさそうな表情がそれを物語っている様に思えた。

ひとみ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
まさと「・・・・・そうか。」
ひとみ「ぁは・・・・・あはははははははははっ! なっなに言い出すのかと思えば!」

実は、社員旅行はどうするの? と言う話しだったですっ。
近々、予定があるそうなのだが、俺の身の回りの慌しさがあって、頭数にいれて良いものかどうか相談を持ちかけられたのであった。
やー、まじ、びっくりしたぞ。

まさと「どうだろうな。正直、いつ何が起こるか、俺自身がてんでわからないから。」
ひとみ「そぉよねぇ。と、思って、聞いてはみた物のか。やっぱり。うーん。」
まさと「俺と、ミュウは、いつ呼び出し食らうか、わからないから、法子だけ連れていってやってよ。あいつの予定が合うようなら。」
ひとみ「そぉなるかぁ。うん、わかった。じゃ、法子ちゃんだけね。二人はギリギリまで、一応、保留の線で行ってみる。」
まさと「うん。よろしく。こっちも、今度特捜部行った時にちょっと相談はしてみる。つもり。」
ひとみ「そうね。」

なんか、そんなこんなで、瞬く間に1週間が過ぎた。
ある日の事、いつもの様に法子に色々言われながら、茶をすすり、事務所に戻ろうと、表に出ると、見覚えのあるバイクが目の前に急停車した。

???「・・・あっ! やっぱり!」
まさと「あり?」

そのバイクは、まさしく、俺のスクーターだった。今また、修理され、綺麗な状態でそこにある。
そして、そのバイクにまたがっていたのは、亜深さんだった。
白と紺の一風変わった服を身につけていた。が、やっぱ、スカートは短かった。

亜深「よかった。つかまって。・・・・バイク、直してみたの。必要でしょ?」
まさと「亜深さん。わざわざ届けに来てくれたのか?」
亜深「ええ。ちゃんと検査とかの報告もしていなかったしね。時間ある?」
まさと「あー、うん。ちょっと待ってもらうかもだけど。バイトあるから。」
亜深「ええ、そういう事なら。どの位?」
まさと「えっと、1時間か、2時間くらいは仕事しないと。部屋で待っててよ、ミュウが退屈してるだろうから。いや、今、ゆっくりしてるから、言えば何とかなるかもな。」

宗方まさとくん、本日のバイト早退。いや、申し訳無い。ひとみさん、おじさん。
・・・・・いつものことか。

ミュウ「へー、まさとをさらった真犯人。首謀者?」
亜深「ええ、そうよ。」
まさと「うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。け、喧嘩しないでね。」

顔を合わせた瞬間、火花が飛びかけた。

亜深「あなたの事も、今度調べさせて欲しいんだけど。」
ミュウ「へ?」
まさと「いきなり核心かい。」
亜深「いいって言ったらって言ったじゃない?」
まさと「そーですけどねー。相変わらず、単刀直入で、まぁ、安心しました。はい。」

とにかく、上がってもらってゆっくり話しを聞く事にした。

亜深「・・・・・と言うわけで、魔獣の発生理論に付いては、確証はない物の、発生理由を特定できる可能性がある。まだ、そんなところね。」
まさと「結局そこ止まりか。」
亜深「実際に、魔導科学の技術でも何でも使って、発生実験をしないことには。ね。その許可までは出ていないから。」
まさと「だろうなぁ。下手なもん作っちまった日にゃ、目も当てられないし。」
ミュウ「難しい事って事? なんか、難しい単語ばっかで、難しいんだけど?」
まさと「あー、いや、そーだろう。まぁ、とりあえず、聞いとけ。」
ミュウ「んー。」
亜深「それから・・・。」
まさと「ん?」

急に、亜深さんの声が曇る。

亜深「体細胞の詳しい検査結果なんだけど。思いにもよらない物が出た。」
まさと「・・・・・・まじに?」
亜深「ええ。サンプルの何千分の一かの確率で・・・・・・・DNA異常が・・・認められた。」
まさと「でぃ・・・・まさか。」
亜深「理由ははっきりしないんだけど。DNAの長さ、つまり、情報の総数が違う物が、あるの。」
まさと「・・・・・・・・・・・・・。」
亜深「正常な物と比べて、ほとんど構成が同じ。長い物は、長い部分だけ、新たな情報が付加する形で、増えてる、と言ったほうが適切かも知れない。」
まさと「なんなの、それ?」
亜深「今は、増えてるのがわかっただけ。それが何の情報かは、不明。」
まさと「・・・・害は・・・・いや、わかんないか。」
亜深「ごめん。残念だけど、今は、それはわからないわ。体に異常が起きていないか、日頃気をつけてもらうしかない。」
まさと「そうか・・・・。」
亜深「引き続き、うちで、調査は続けるから。」
まさと「え、それじゃ?」
亜深「ええ。ハーティーアイズ。続ける事にしたわ。君も、そのほうが都合はいいでしょ?」
まさと「うん。」
亜深「その辺のこともあって、彼女も検査したいの。ドラゴンの力を使えるようになった彼女と、ルーンの力を使えるようになった君。共通性があるかないか。」
まさと「ああ・・・・そういうことか。調べてもらった方がよさそうだな。」
ミュウ「あたし?」
まさと「ああ。診てもらっとこう。もっともな話しだし。けど、また奈良行きかぁ。」
亜深「ううん。こっちよ。」
まさと「は?」
亜深「ハーティーアイズはこっちで、東京で再出発することに決めたの。だから、日帰りで、気楽に寄ってもらえるわ。」
まさと「なんとまぁ・・・。そりゃ、願ったりかなったりだけど・・。東京にそんな事出来る土地、あったっけ?」
亜深「あるわよ。そこかしこに。それとね・・・聖剣なんだけど・・・。」
まさと「あーうん。どうだった?」

とたんに亜深さんが笑顔になる。

亜深「呼び出してみて。」
まさと「は?」
亜深「消えちゃったのよ。検査があらかた済んだところで。」
まさと「はぁ?」

とにかく、そういうことなら呼び出すしかない。

まさと「くさなぎ!」

以前の様に、空間がざわめき、俺の手にくさなぎが戻ってきた。

亜深「やっぱり・・・・戻ったか。」
まさと「戻った。・・・って言うか、また、なんか、形が違ってるような。」

くさなぎは、半覚醒だった時と、マスターブレードである時の中間のような形をしていた。

亜深「その剣は・・・生きている・・・と言ってもいいかもしれないわ。非科学的だけど。」
まさと「なにぃ?」
亜深「想像してた通り、その剣は、ナノマシンによって、構成されてます。それも、驚くほど緻密な。」
まさと「ナノマシン・・・これが?」
亜深「ええ。1個1個のセルがくさなぎその物であるといっていいかも。」
まさと「・・・・・なんだい、そりゃ・・・。」
亜深「いい? セルは、最小単位の結晶核を文字通り核として、さまざまな元素が集まって、1個のロボットのような役割を持つに至っているらしいの。だから、ナノマシン。」
まさと「あー、いや、そういうもんだというのは分かってるんだけどね。んじゃ、なに? こいつ、マジェスティックスで動く、ロボットなわけ?」
亜深「ええ。だから、剣を使い続けた結果、ハーティーアイズ内にマジェスティックスが引き寄せられた、エネルギー源として。」
まさと「ははぁ、なるほど。」
亜深「断面を解析してみた結果では、単一種のセルの塊ではなく、複数種のナノセルが、まるで、役割を持って配置されたような、いわば、回路のような形で、形成されていた。」
まさと「・・・・・・・・そいつが、使用者を覚えたり、特殊な効果を引き出してたりしてたって事か。」
亜深「そう思うのが間違いないでしょうね。剣の成長、すなわち、ナノセルによる形態、回路構成の変更。そういうことでしょう。」
まさと「うーん。そんなすごい物だったのか。確かに、納得のいくところはある。マーガレットだの、ファルネだの見てると、これが、そういう、ハイテクの塊みたいなのだって、全然おかしくないし。」
亜深「そうね。つまり、剣や、盾は、ナノセルによって形成される、変幻自在な勇者用武器セット。ってところかしら。」
まさと「ああ。平たく言えばそうなるな。」
ミュウ「えっと、粒々が形を変える便利な物?」
まさと「ああ、そうだ。どこまで変わるかは、わかんないけどな。今気が付いたんだけど、こいつって、刃こぼれしないんだよな。これって、その辺の事があるのか。やっぱり。」
亜深「ええ。そういうことでしょう。スキャンの結果が一致しなかったのも、目に見えない範囲で、補正が続けられて、常に変化しているからだと思います。」
まさと「大収穫だね。亜深さん。」
亜深「でも無いわ。わかっただけで、こんなナノセル、今の科学ではそうそう作れないから。」
まさと「あと、あれ、これが消えちゃう事の理論は?」
亜深「今のところ、二案。一つは、どこかから転移してくる可能性。けど、その際の電磁波の発生は確認されていないから、魔獣の転移とはまったく別の物か、それとも転移していないか。二つ目は、高度な偽装により、透明状態になって、あなたの周りに浮いてる。存在してはいる。その線ね。」
まさと「う、浮いてるって・・・・いや、確かにその線が濃厚だけど。」

くさなぎの本質、俺の体に起こってるDNAの変化。調べなきゃいけない事はまだまだありそうだ。
そんなあたりと、ミュウの検査、今後の事もあるので、翌日、東京に出来たという、新しいハーティーアイズの研究所に赴く事になった。
朝から、やたら目にまぶしい銀色のいかつい車で、あーくんが亜深さんを乗せて、迎えに来た。
俺と、ミュウを乗せると、車は東京湾の方へ向かう。新しい研究所は埋立地付近にあるのだそうだ。

まさと「ああ、そうか、あの辺ならまだなにも建ってないとこ多いし・・・。けど、高いんじゃなかったっけ?」
亜深「まぁ。山の一つも処分すれば、そのくらいの費用は捻出できるわ。」
まさと「や、山って・・・・。そこまでする。」
亜深「する。私にとっても大事な事だから・・・。」

また意味深な台詞を。どうともとれるし、本質が見えないんだよな。
車はフェンスを張られた、何かの建設予定地のようなところにつく。建物自体は建っておらず、地下駐車場の入り口のみが存在する、妙に寂れた空間だった。
あーくんがリモコンみたいな物を操作すると、その地下駐車場入り口のシャッターが自動で開き始める。

まさと「こ、ここ!?」
亜深「建設途中で放棄された超高層ビルの地下駐車場部分。そこを改造して研究施設にしたの。立地条件もいいし、強度も不足無いわ。」
まさと「ひ・・・秘密基地だ。これはもはや。」
亜深「ほんとに秘密です。」
まさと「・・・・・・いや、そうなんだろうけど。」

地下一階がその物ずばり駐車場。車を降り、さらに地下二階へ降りると、研究所はそこにあった。
駐車スペースを急造の壁で、複数の区画に分け、いろんな研究を平行して、効率良く行える様にしてあるのだと言う。
奈良にあった、研究施設に比べると、いや、比べ物にならないくらいの施設だ。ぱっと見だけで、その広さと機材の多種多様さがわかる。

まさと「転んでもタダでは起きないとはこの事か・・・。」
亜深「あのね。それこそタダじゃない。いくら掛かったと思ってるのよ。」
まさと「い・・・・こ、怖いから、聞きたくない。」
亜深「君が一生掛かっても、多分払えない額。」
まさと「・・・・・・・ひぃ。言わないで〜。」
ミュウ「でも、ほんと、機械多いねぇ。どれがなんなんだか。」
亜深「勝手に触らないでね。壊れると困るから。」
ミュウ「大丈夫。おっかなくって、触れない。」

俺達は、応談室に入って、一息つかせてもらった。

まさと「いやぁ。すげー本格的な施設になっちゃって。やっぱ、秘密基地だよ。こりゃぁ。」
亜深「そうね。けど、政府の内々の了承済みで、やってる事よ。以前と、その意味は変わってはいない。ティラに関する調査も、継続する事が決まったから、ペイできる仕事になりそうだったし。」
まさと「にしたって、えらく、気合入ってるよ。」
亜深「当たり前でしょう。これで、もっと詳しく君の事が調べられるんだから。」
まさと「ひぃ。亜深さん、目、怖いぃぃ。」

以前の、研究に炎を燃やす、亜深さんの目が戻っていた。
いいことなんだろうが、やっぱ、おっかない。

亜深「その分。君からの依頼や検査はタダでやってあげるわよ。その為の設備拡充だし。で、そこで、お願いがあるの。」
まさと「な、なんでしょう?」
亜深「ここの、顧問になって欲しいの。特捜部と掛け持ちでいいから。」
まさと「はいぃぃ?」
亜深「平たく言うと、たまに遊びに来て、相談に乗ってね、ということ。検査もあるでしょうし。」
まさと「あー、そういうこと。ミュウも?」
亜深「ええ。拘束時間はそう長くなくていいわ。一日、一、二時間平均稼げれば充分。週に半日ぐらい?」
まさと「ふーむ。どうだ? 暇ありそうか?」
ミュウ「んー、多分、それくらいならあると思うけど。あたしで、役に立つのかなぁ?」
亜深「研究対象だから、役に立たない事は無いわ。」
まさと「亜深さん、目っ。輝きすぎっ!」
亜深「ん? そう? ああ。まぁ、いいじゃない。こういう目なんだから。安心して、前のような無茶はしないわよ。」
まさと「あ・・・・まぁ、そういうことなら、大丈夫じゃないかな。」
ミュウ「んー、わかった。」
亜深「じゃぁ、早速、彼女の検査に入りましょうか? 今日、一日大丈夫よね?」
ミュウ「んー。何事も起きなければ。かな?」
亜深「ええ、それでいいわ。じゃ、こっち来て・・・。」

別室のスキャニングルームなど、区画を転々としながら半日ばかし、検査が続いた。
ミュウは、ずっと、目を丸くしたままだったが。

ミュウ「はぁ〜。緊張した。動いちゃ駄目とか、そんなばっかなんだもん。ひん剥かれるし〜。」
まさと「俺もそうだったんだよ。向こうじゃ。しかも、休みなしのおまけついて四ヶ月。まぁ、検査なんて物、そういうもんだ。」
亜深「ドラゴニックって言うの? それが、確認できなかったのが残念だけどね。」
ミュウ「んー。あれ、いつでも出来るって訳じゃないから。なんか、ドラゴンの声が聞こえてきた気がして・・・それからでないと。ほんと、必要な時だけって感じ。」
亜深「そう。興味深いんだけどね。そう聞くと余計に。まっ、今日調べた結果で、何かわかるかもしれないけれど。」
まさと「今のとこ、どうです?」
亜深「ん? そうね。肉体構成は人間とほぼ同じ。違いがあるのは、耳と、色素の構成、あたりかしら? まだ、見た目で、わかる程度のことよ。詳しくは、データを検証していかないと。と、それじゃ、次、そっち。」
まさと「俺?」
亜深「そうでしょ。調べなきゃいけないとこは沢山あるんだから。以前断念した面含めて。」
まさと「うひー。」

・・・・・・・ハードでした。以前に増して。

亜深「悪く思わないでよ。自分の為なんだから。」
まさと「ま・・・・・そうなんだけどね。で、結果はどのくらいで、まとまりそう?」
亜深「一週間ぐらいで、ある程度、まとまると思うわ。その間でも追証が必要な時は呼び出すかも知れないけど。」
まさと「ん。すぐ動けるかどうかわかんないけど、携帯掛けてよ。」
亜深「そうするわ。」

そろそろ返り支度、そんな頃合だった。
応談室にべーくんが掛け込んでくる。

べーくん「近くの工事現場に魔獣が多数発生しているそうです。」
亜深「えっ!」

亜深さんは電話を取ると、状況を確認する。

亜深「既に機動隊と押し合い圧し合いやってるそうよ。装甲車が何台か、お釈迦になったって。行くんでしょ?」
まさと「ああ、行かなきゃ。けど、特捜部では察知しなかったのか・・・。」
亜深「観測できなかったかもね・・・。自然発生なら。現場まで送るわ。」

そういって、亜深さんは、一旦、奥の執務室に入る。
戻ってきた亜深さんは、腿に短剣を括り付けていた。

まさと「どうしたの? それ。」
亜深「一応、護身用といったところね。力はできたら使いたくないし。」
ミュウ「んー。そのくらいの剣じゃ、役に立たないかも?」
亜深「・・・・どうかしらね。とにかく、向こうについたら、君達に任せる事になるでしょう。」
ミュウ「そりゃそーか。うん。」

車で、現場に向かう。あーくんが運転。亜深さんが助手席。後に俺達二人、ベーくんはお留守番。
現場は車で、10分くらいのところだという。
角を曲がったところで、後からパトライトを出した覆面が追いついてきて何やら怒鳴っている。

警官『あー、あー・・・・・事件が発生しております。大変、危険ですので、そちらの方向へは向かわないで下さい。』

どっかで聞いた声だった。
俺は、窓ガラスを開け、顔を出して確認する。

まさと「ああ・・・やっぱり・・・・・・・。」
高砂『おおっ! えー、現場へ急行します。以上。』

さすが高砂元警部、状況の飲み込みが早いと言ったとこか。
現場は、ビルの建設現場で、未だ、鉄骨が組み上がられて行く段階の、吹きこむ風によって乱流が起こる、自然に結晶核の発生しやすい場所とも言えた。
そこへ、虫のような地をはいまわるタイプの魔獣がそれこそ、うようよあふれかえっていた。
今まさに、機動隊がその魔獣に押し潰されそうな、そんな状況が目に入る。

亜深「・・・・・くっ。あーくん。やって。」
あーくん「はい。しっかり掴まってて下さい。」
まさと「はい?」

あーくんがパネルのボタンを操作すると、どんと車が加速して行く。

まさと「ぅあっ。」
ミュウ「ひゃっ。」

車は猛スピードで、魔獣に突進を掛けた。
ひっくり返る、魔獣。機動隊員は間一髪救われた。
が、なぜ? そんなに、衝突のショックは無かった様に思えたが。

亜深「うまくいったようね。」
まさと「この車・・・なにか?」
亜深「魔法銀と障壁発生装置による、バリアを備えた、特装車なのよ。これ。ニトロも載せてる。」
まさと「は! そういうことか!」
亜深「行って!」
まさと「おう! ミュウ!」
ミュウ「うんっ。」

俺とミュウは、車から飛び出した。

ミュウ「瞬着変身! ミスティック・ミュウ!」

ミュウはブースターを装着し、俺はくさなぎと盾を呼び出して、魔獣に挑みかかって行く。
魔獣は驚くほど敏捷で、路面を駆け回る。
さらに・・・・・。

ミュウ「ぅあっ!」

魔獣の腹の下。そこがでっかい筒の様にも見えるのだが、そこが突然前方へ勢い良く押し出され、ミュウを弾き飛ばした。

まさと「やばー。前に回れないぞ、ありゃぁ。おい! ミュウ!」
ミュウ「平気!」

駆け回る魔獣に、まだ、所々に居る、機動隊員。下手に一網打尽にする事も出来ず、苦戦を強いられた。

まさと「高砂さん! 機動隊員引かせてっ! 剣を振るいきれない!」
高砂「ああ、邪魔になってましたか。今・・・。」

直後、後ろで、でかい衝撃音がして、亜深さんの車が横滑りしてひっくり返った。
横合いから、魔獣の、あの、突きを食らってしまったらしい。
俺は、慌てて車に駆け寄ろうとした。が、魔獣の方が足が速く、車はあっという間に魔獣に囲まれてしまった。

まさと「亜深さん!」

閃光が車から発し、爆発が起こった。
その爆発を中心に、周囲に光る剣圧が走り、そのあたりに居た魔獣は一気に塵となった。

亜深「こっちは大丈夫! 早く他を何とかしなさいっ!」

爆炎の中から、あーくんに守られるようにして、亜深さんが現れた。
手にさっきの短剣をらしいのを持って。
短剣は、ケースに入っていたときに比べ、剣先が細長く伸び、まったく別の剣であるかのように見えた。
光る剣圧を放ち、形態を変化させる剣? この剣は一体・・・・?
ともかく、亜深さんの言う通り、こっちに気を取られている場合ではない、魔獣はまだ、うじゃうじゃ居る。

高砂『あー、あー。特捜部の者です。機動隊員の方、一旦引いて下さい。』

しかし、それは徒労でしかなかった。
機動隊員は翻弄されつつも、まだ、魔獣に掛かって行こうとする。
実に勇猛果敢、は、・・・・いいんだけど、早くどいて欲しい。本音のとこ。
そうしている間に、またしても、ミュウにピンチが訪れた。
一匹の魔獣が上体を高々と持ち上げると、そこが口になっており、よく見ると、魔獣の体は後で、前に向かって折れ曲がる様になっていて、下に抱えた筒は、魔獣の尻尾とかそういうものであることが分かった。
その上半身と尻尾の間にミュウが挟み込まれてしまった。

ミュウ「あっ、しまっ・・・・たっ!」

もう、他に手は無くなってきた。
くさなぎが熱い。くさなぎもこれから俺がやろうとしてることに反応しているのか?
俺は、魔獣どもの注意をひきつける為、威嚇の剣圧を放った。

まさと「来いっ!」

今まで、ばらばらに駆けまわっていた、魔獣が一挙にこちらに向かい出す。
俺は、盾をしまい、くさなぎを両手で構え直すと、魔獣に向かって意識を集中して行く。

亜深「何を・・・やる気!?」
まさと「魔獣だけ・・・斬る!」


くさなぎの真骨頂、斬るべきものだけを斬る、ここで出せなきゃ後がない。
くさなぎが緻密なナノマシンで出来た、武装であるというなら、応えてくれ!
しかし、魔獣は、一直線に向かってくるわけではない、右へ左へ蛇行しながら迫る。
集中しきれない。

まさと「くそっ! ・・・だめか・・・。」

俺と魔獣の間に、光球が現れる。それは、大きくなり人の姿となった。

まさと「ファルネ!」

ファルネは両の手を広げ、まるで、制止するかのような素振りをする。

まさと「やめろっていうのか・・?」

ファルネは大きくなると声で語り掛けて来る。

ファルネ「くさなぎの剣は・・・剣であって剣で無く。その力は、振るう者次第。考えよ、振るうべき力を。」
まさと「え・・・・・? 振るうべき・・・・力?」
亜深「剣圧に・・・・・波動を乗せろと言う事? 効力を持った波動を?」
まさと「効力を持った波動?」

亜深さんは剣を構え、目をつぶって、集中する。
再び目を開いた時、迫る魔獣の先頭のやつに向かって、剣を振るい、剣圧を命中させた。

亜深「こうかっ!?」

魔獣は、切り倒すのとは違う、まるで、分子の塵にでも戻るかのような、そんな霧散の仕方で、目の前から消えた。

亜深「くさなぎを!」
まさと「あ、ああ。」


促され、くさなぎを亜深さんのほうへ向ける、すると、亜深さんは自分の剣をくさなぎに当てた。
くさなぎに振動が伝わってくる。いつも、魔獣を切り倒す時に伝わってくるものと、明らかに違う振動が。

亜深「・・・・わかる?」
まさと「これを・・・・そうか!」

くさなぎは斬るだけの剣圧を放つ物ではなかった。
そう、コールドドラゴンに猫騙しをしかけた事がある。あの時のように、放つ剣圧を、波動をコントロールする。
それが出来れば、斬らずとも、目標に影響を与える事が出来る。
魔獣に、塵になる効力を与えることが!

ファルネ「・・・・・・・お前なら、出来るはずだ・・・。」
亜深「そう。広範囲に同じ波動を放つ事が。」
まさと「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よしっ! やってみるっ!」

さっき伝わってきた振動をイメージしながら、意識を集中して行く。
連れて、くさなぎにイメージした振動が起きる。
ファルネはそれを確認し、笑顔を見せ、目の前を退いた。

まさと「やぁっ!!」

振るったくさなぎから、魔獣の群全てをカバーする形で、剣圧が飛ぶ、いや、広がって行く。

ミュウ「え・・・・・・・。」

その剣圧、いや、波動は、魔獣を抜け、ミュウを、機動隊員を、全てを傷つけることなく広がって行く。
魔獣のみを塵に、マジェスティックスや分子の粒に分解する波動が。

まさと「やった・・・か?」

魔獣は全て、音も無く掻き消えて行った。

ミュウ「うわっと。」

魔獣が消え、咥えられていたミュウが地面に落ちる。
機動隊員達も何が起こったのかと言う表情で、立ち尽す。

高砂「・・・いやぁ、なんです? 今の。」
亜深「魔獣を・・・分解させた。その効力を放った。広範囲に。そういうことです。」
高砂「はぁ、分解・・・・。」

ミュウがこっちに駆け寄ってくる。

ミュウ「今の・・斬ったんじゃ・・・ないよね?」
まさと「ああ。魔獣を塵に還した。まぁ、調査のおかげかな。」
ミュウ「ふぅん。とにかく助かった。ありがと。」
まさと「ん。一軒落着だな。」


亜深さんの判断では、どうやら、今の魔獣は、工事現場にありがちな、打ちつける、と言う思念を取り込んだのではないか。そういうものだった。

まさと「ところで、亜深さん・・・その・・・剣・・・。」
亜深「ん? あ、これ?」
まさと「なんなのそれ?」
亜深「・・・・・・・ん・・・・・いい?」

亜深さんは、ファルネに確認を求めた。なぜ、そうしたのはすぐに分かった。

亜深「これは・・・薙羅・・・・森羅万象、あらゆる物を薙ぐ剣。つまり・・・・これは、くさなぎの折れた剣先が変化した物。」
まさと「なんだってぇ!?」
ミュウ「くさなぎ?」
亜深「驚くでしょうけどね。検査が終わった直後、剣先がこれに変化して、くさなぎ自体は消えて、君のところへ戻った。それが真実。ファルネが現れてそうしてくれた。」
まさと「そうしてくれた・・・って?」
ファルネ「そうした。彼女にはこれから必要になるだろうから。」
まさと「必要・・・そうか。力、使ってばかりいられないよな。気を失っちゃうし。」
亜深「ええ。ありがたく、使わせてもらうわ。研究も出来るし。」
まさと「まぁ、都合はいいけどさ。」
ファルネ「では。私は戻ります。」
まさと「ん、ああ、ありがとうファルネ。」

ファルネは再び光の粒子になって消えた。忙しいことだ。

まさと「あー、そうだ。ファルネ・・・調べなくて良かったの?」
亜深「もう調べさせてもらったわ。けど、今度の機材でも詳しい情報はほとんど取れなかった、きっと、違ったアプローチが必要なんでしょう。」
まさと「はぁ・・・・なるほど。手抜かりは無しか。でも、さすがは神の使い、聖地の番人か。詳細が分からないと言うのは。」
亜深「空飛ぶオーバーテクノロジーとでも言うのが正しいかしら? 作られた物らしいし。」
まさと「あ・・・そうだ。亜深さんの車。」
亜深「そうねぇ。いきなり吹き飛ぶ事になるとは。もうちょっと、障壁の研究が必要かもね?」
まさと「・・・・・落ちこんでると思った俺が甘ちゃんですか?」
亜深「さぁ? とりあえず、私達は歩いて帰るわ。そんな距離は離れていないし。」
まさと「じゃぁ、また寄ります。」
亜深「そうね。はいこれ。シャッターのリモコン。」
まさと「あ、うん。じゃぁ俺達は・・・。」
高砂「ちょっと距離ありますよねぇ。私が送りましょうか? その前に報告書作成を手伝って欲しいですけど。」
まさと「ああ、そうですねぇ。特捜部に一度戻らないといけないか。」
高砂「よろしく。機動隊との連携ももうちょっと見直した方がよさそうなんで、意見、聞かせて欲しいですしねぇ。」
まさと「・・・・今回、どっちかってぇと、そっちの方で苦戦した気がする。辛口になりますよ。」
高砂「はいぃ。期待してます。安全を早期に確保するのが第一ですから、辛口大歓迎ですよ。」

うーむ。ひるむかと思ったんだが。高砂さんてほんとに、鬼のトメさん、なのかも。
特捜部に帰ると、夜遅くまで、報告書の作成と、今後の相談で、時間があっという間に潰れた。
帰りの送ってもらった車の中で、高砂さんが漏らす。

高砂「うちも、国も、結局はあなた達に頼らざるを得ない状況なのは、以前も、今も、変わらないようですね。ほんとに申し訳ない。」
まさと「いや。早くに、魔獣発生を止める方法か、簡単に沈静化できるてだてが見つかると、いいんだけどね。」
高砂「上から連絡来てますよ。調査は、ハーティーアイズに任せて、発生する事件の対応のみに当たれと。あの人は、信用出来ますか? あなたの目から見て。」
まさと「んー。変わった人ですけどね。悪い人じゃないです。研究一筋って感じなだけで。」
高砂「そうですか。それならばいいですよ。期待させて下さい。」
まさと「はい。」

ハーティーアイズが東京で、再開して、安心したのと、心配がかえって増えたのと。
でも、結局、亜深さんが居た事で、何とか出来たこともあるわけだし、思うところは、複雑と言ったところか。
ミュウにしても、亜深さんに対しては、どう接していいのか分からないらしい。
俺だって、亜深さんと対等の会話が出来るようになるまで、何ヶ月も掛かったんだから、それはしょうがないけど。
なんにしても、亜深さんの、検査報告待ちだ。