<魔獣特捜ミスティック・ミュウ'(ダッシュ)>
第1話 ハーティーアイズ #3 能力

広江さんが抜けてしまったと言う、UPB特捜部。
それが今、どういう状態なのかようやくわかった。
後任の統括者のいないまま、顧問である、高砂さんが采配しているのだという。
ミュウが言うには、新たな魔獣出現に間する、情報の整理と、その対処で手一杯の状態らしい。
なので、地方に関しては、ミュウが一人かっ飛んで行って対処してるという事だ。
これで、ホイホイ飛んでくる訳がわかった。
広江さんに関しては、何か事情があるらしく、海外へ行ったという事しか誰も知らないらしい。

まさと「俺、早く戻らないといけないな・・。」
ミュウ「ん? 大丈夫。あんたはあんたで大事な事やってるんだから。こっちは、まかせといてよ。」
まさと「や、けどなぁ。あんまりあの力使うなよ。」
ミュウ「ん? ドラゴンの? へー、心配してくれてる?」
まさと「あたりまえだ!」
ミュウ「うん。ちゃんとわかってる。いつでもほいほい使うわけじゃないから。」
まさと「ならいいが。そうだ。政府の方から、情報行ってるか? 検査結果。」
ミュウ「あーうん。ちょろちょろと。でも、山積みになってるよ。忙しいから。高砂っち・・・毎日老眼で苦しんでるけど。」
まさと「た、高砂っち・・・・・・・・そうか。定年後の顧問起用だもんなぁ。」
ミュウ「あ、まずっ。そろそろ戻んないと。高砂っち、帰れないよ。」
まさと「ああ、そうか、待たせてるか。」
ミュウ「うん。じゃ。」
まさと「おう。」

飛んでくミュウを見送って、太地を離れハーティーアイズに戻る。

亜深「遅いっ!」
まさと「ひゃぁ!」


怒られたよ。そりゃそうだ。もう夜中近い。

亜深「・・・・・なるほど。じゃ、魔獣の自然発生論は確定ね。」
まさと「でいいと思う。」
亜深「でも、面白いわね。盾だけ離れたところに出せるなんて。」
まさと「俺も、そんな事出来ると思わなかったけど。願ったらそうなった。ていうか。」
亜深「ふむ。やってみて・・・。」
まさと「いっ、今から!?」
亜深「さぁ、試験場行くわよっ! ぐずぐずしない!」
まさと「魔獣より・・・・こっちの方が絶対ハードだ・・・・。」
亜深「・・・・・・・・・・・・解剖。」
まさと「頑張りますっ!」
亜深「よろしい。」

ああ、俺のモルモット生活いつまで続く。
次の日は朝早くから、叩き起こされて、コンピュータのメンテナンスを手伝わされた。

亜深「いい? ここと、試験場の脇、それと、地下室の計3台。同じシステムが平行作動してるわ。」
まさと「うぇ。3台もあったのこれ?」
亜深「情報命だからね。それぐらいは当たり前。その3台を順繰りに落として、中身の掃除。」
まさと「へーい。埃落しですか。」
亜深「あっ! 触るなっ!」
まさと「ぎくぅ!」

俺がスイッチらしいのをつんつんしてると凄い勢いで怒られた。

まさと「あー、ごめん。」
亜深「死にたくなかったら、指示された事以外はしない!」
まさと「えーっと。」
亜深「それを押したら・・・死ぬ。言ってみれば、防犯用自爆装置よ。それ。押してから、3秒でドカン。」
まさと「じっ! 自爆ぅぅっ!?」

コンピュータ本体前面にあるスイッチ。どう見ても電源スイッチの様だ。
それこそが罠。
部外者が侵入し、データを盗もうと電源を入れようとスイッチを入れると・・・・・。

亜深「冷却システムの高温になってる第二次冷却剤、極低温の第一次冷却剤を、順次放出し、傍にいる者はショック死確実。」
まさと「・・・・・・・多重の冷却システム・・・サイロかこれは。」


このコンピュータは極低温作動型の超高速スーパーコンピュータであるらしい。
チップ回りをマイナス120度ぐらいまで下げてはじめて正常に動作する。という。
その為の冷却システムの冷却剤を、防犯用のトラップとしているのだ。
もちろん、そんな事をすれば、コンピュータはおろか中のデータでさえもただでは済まない。
それは覚悟の上のトラップだそうだ。その為の並列3台。らしい。
そんな空恐ろしいトラップつきのコンピュータ3台を半日かけて掃除。

亜深「いつもなら、あーくんたちと、それぞれ、一台受け持ってやるの。」
まさと「ああ、それなら効率はよさそうだ。じゃ、仕方ないか、二人はずっと東京だし。」
亜深「冷却ファンの吸気が凄いから、半月に一回やらないと、エラーの元になってね。」
まさと「サイクル短いねぇ。」
亜深「まぁ、情報が金になる仕事だから。必然とね。さぁ、夕方からは、いつも通りやるわよっ。」
まさと「休ませてくれよっ。」
亜深「駄目っ!!」
まさと「うー・・・・。」
亜深「気付いてないのなら言うけど、耐久力を測るのも、調査のうちなのよ。」
まさと「そんな調査、やだぁー・・・・。」

いや、ほんと泣き入ります。魔獣が発生し続ける現状考えたら、のんびり出来ないのも事実だけどさ。

亜深「ん? あ、ちょっとこっちに来なさい!」
まさと「わっ。」

浴室まで引っ張られて行く。

亜深「さぁ、さっさと脱ぐ!」
まさと「ひょぇぇぇぇぇっ! なっ、何を!?」
亜深「何をって、その格好でいられたら、埃まき直してるのと同じでしょう!」
まさと「お? ・・・・あ。」


鏡を見てわかった。俺、頭からいっぱい埃かぶってる、真っ白け。

亜深「納得した!?」
まさと「あい。」
亜深「ああ、上がったら、服は着ずにそのまま検査室に来て。タオルぐらい巻いてていいから。」
まさと「うえぇっ!?」
亜深「せっかく綺麗にするんだし、ついでだから体のほうの追加検査します。他の検査より、楽よ。」
まさと「ふぇぇぇい。」

なんかもう、翻弄されっぱなし。

亜深「はいはいっ! もっと集中するっ! 障壁まだまだみみっちいわっ! 根性出しなさいっ! 手を抜いてると、ほんとにちょん切って標本よっ!」
まさと「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅううっ! や、休ませてくれぇぇぇーーーーーーーっ!」

魔法効果の変化を追うと言う事で、魔法の耐久発動試験中。
体のほうって、こういうことだったのね。・・・・・・どこが楽やねん。まったく。

亜深「ふむ。結構いいデータ取れたわね。ご苦労様。」
まさと「あ、そー。」
亜深「そろそろ・・・・四ヶ月かぁ。」
まさと「あー、そだね。ここに連れ去られてきてから。」
亜深「・・・・・・・いいの? なにもしなくて。」
まさと「なにが?」
亜深「男の人って普通・・・こんなに長くは何もしないではいられないはず・・・。」
まさと「おーい。そっちの話しか。」
亜深「必要なら、ほんとに相手してあげるわよ。」
まさと「そんな体力残っとるかぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
亜深「あ、そ。休みなさい。」
まさと「あうー。あうー。あうー。・・・・・・・・・ちょっと寝てくる。」
亜深「はい。お休み。」
まさと「あ、食事は起きたら俺作るから。」
亜深「はぁい。私はその間、データの検証してるわ。」

ほんと。亜深さんてタフ過ぎ。つーか、研究好き過ぎ。

まさと「亜深さんて、ちゃんと寝てんの?」
亜深「ありがとう。寝てるわよ。ちゃんと。」
まさと「そ。」


食事が終わって、自分の眼鏡を手入れする。
まぁ、場合に寄っちゃ、自分の命を左右する代物だから、ちゃんとしとかないとな。
拭き終わって、試しに掛ける。
・・・・・・・まっ黄色。

まさと「おいおい・・・・・。」

このマジェスティックスを関知できる眼鏡は、通常、表に出てからつける事が多かった。
ハーティーアイズの中がこんなに濃度上がってるなんて、思いも寄らなかったし、わからなかった。
とにかく、亜深さんのとこへ、確認しに行く。

亜深「あ、やっぱりするの? どうぞ。入って。」
まさと「ちゃうわぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

ついさっきとはいえ、こういうボケが返ってくるとは。

亜深「あ、ほんとだ。黄色い。」
まさと「あのね・・・。」
亜深「うーん。こんなに極端に集まってくるとは。魔法を発動させてたせいか、それとも、聖剣その物もマジェスティックスを呼ぶのか・・・。原因はどっちにしろ・・・。あなたね。」
まさと「・・・・・・俺・・・・・・か・・・・・・。って、実験やり過ぎが原因では?」
亜深「うーん・・・。」

亜深さんは、何やら深く考えこんでいる。
俺は、それによる解答を待つしかない。

亜深「とりあえず、様子を見ましょう。電磁波は出ていないみたいだし。」
まさと「そーゆー問題ではないような・・・・・。」
亜深「じゃぁ、散らせる?」
まさと「あ、いや、そう言われるとそれはそれで、そうなんだけど。ルーンの力使えるなら、出来そうだけど、素じゃ無理だ。」
亜深「仕方ないわね。明日は一切実験なしにします。明日、一日様子を見て。減らない様なら、対策しましょ。」
まさと「ああ・・・・今、なんか、砂漠の中でオアシスを見つけた気分だ。」
亜深「蜃気楼よきっと。」
まさと「亜深さんがそう言うと、ほんとに、そういう気分になるからやめて。」
亜深「で、今夜はどうする? ここで寝る?」
まさと「え? いや・・・・・。」
亜深「勘違いしない。今のは、万が一の場合どっちが都合いいかってこと。」
まさと「あ。はいはい。そーだなぁ、この程度なら、魔獣が発生する濃度とも思えないし、部屋に戻ってもいいか。」
亜深「そうね。発生するなら、もっとオレンジに近くなるでしょうから。」

そう言う訳で、部屋に戻って寝る事にした。

亜深「・・・気付かなかった・・・結局、どこに居ても同じか・・・。私は・・。」

亜深さんは、自室で右腕を見つめながら一人もらした。
翌朝。

亜深「さぁ。出かけるわよっ。起きる起きる!」
まさと「うへほーい。」
亜深「遊び行こう!」
まさと「はっ!?」
亜深「あーこら、なに制服着てんの! 私服よ! 私服!」
まさと「ほぇ?」
亜深「寝ぼけるなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
まさと「ぐはっ!」

豪快なラリアットを食らって、そこでようやく目が覚めた。

まさと「遊び・・・・えぇ?」
亜深「どこがいい? 何も出来ないし、折角だから羽根伸ばすのはどう?」
まさと「・・・・はっ! 亜深さんの偽者かっ!」
亜深「本人よっ!!」
まさと「嘘だ。俺の知ってる亜深さんは、羽根伸ばそうなんて台詞言わないぞ。」
亜深「・・・・・・・・・・・・・・そんなに冷徹か私は。そうね、白浜アドベンチャーワールド経由エネルギーセンター至る白浜温泉で、一発。てのはどう? うん、決まり。」
まさと「ちょと待てぇ。今、一発って・・・。」
亜深「ん? 一泊って言ったつもり。」
まさと「・・・・まぁ、いいか。けど、外泊してる余裕なんてあるの? 電話だって・・・。」
亜深「大丈夫よ、衛星電話の方へ転送掛けるから。」
まさと「ああ、エネルギーセンターが入るあたり、亜深さんか。」
亜深「細かい事気にしてると剥げるって言うけど。」
まさと「ああ、このカッコじゃ寒いや、もう。ジャケットだけ着てこう。亜深さん、寒くないのそれで。」
亜深「ええ。平気。」
まさと「せめて手袋・・・・・あ。」
亜深「ん?」
まさと「あ、いや、気にしないでね。どの道、左用の手袋もあるだろうから、そっちもつければ暖かいよとか、純粋に思っただけ。」
亜深「あぁ・・・そうね・・・・・。そうか。かたっぽじゃ目立つか。」
まさと「だと思う。」
亜深「ん。ちょっと待ってて、用意してくる。」
まさと「はーい。」

両腕に手袋、長靴下なんてー、個性的ないでたちの亜深さんが戻るといよいよ出発。

亜深「スクーター、後乗せてよ。車より気楽に行けるでしょ?」
まさと「あー、うん。平日だから、混んだりはしてないと思うけど、駐車場代は浮くかも?」
亜深「決まりっ!」

俺よりも早く外に出て、スクーターの傍に立つ亜深さん。
なんか、子供みたいにはしゃいでるような気が。
スクーターのエンジンを掛け、俺がまたがると、後に亜深さんが乗って来て、俺の体に手を回してくる。

まさと「あ、タンデム用のバンドもあるし、シート端が実はグラブバーだったりするけど?」
亜深「こっちの方が運転しやすいでしょ? 一緒に動くから。」
まさと「あー、バイクの事知ってくれてんだ。実はそう。」
亜深「ほら、出発出発!」
まさと「あいさー。」

アドベンチャーワールドでは、ふれあいワールドでさえ、亜深さんは割りと遠巻きに動物を見ているだけだったが、それでも、どこかしら楽しげではあった。
そうして、いつもと一風変わった、妙にはしゃいだ亜深さんと、一日ほっつら歩いてもう既に白浜温泉。

まさと「電話・・・無いね。」
亜深「うん? さっきこっちからべーくんに掛けた。余り進展無いみたい。電磁波予報も無し。」
まさと「手回しのいいこって。で、部屋なんですが・・・。」
亜深「何か問題でも?」
まさと「どうして、俺等二人とも同室なんですか。」
亜深「二部屋とったら高い。」
まさと「・・・・・・そか。現実的な理由ね。いきなり襲ったりしないでよ。」
亜深「・・・・・・・そういう場合。その台詞を言う人間は一般的に見て逆だと思うけど。」
まさと「でも、宗方亜深はやめてくれ。」
亜深「んじゃ、鬼祀柾人が良かったの?」
まさと「いや、そうでも無くて・・・・。」
亜深「いいじゃない。今夜だけ夫婦って事にしとけば。便宜上だから気にしない。」
まさと「へーへ。」

風呂入って、美味い飯食って、のーんびり。
やわらかい亜深さんってのも、いいけど、後日、揺り戻しがきそうで怖いなぁ。

亜深「こんな事も無かったら・・・今ごろ、恋人と、好きに遊んでたでしょうね。君は。」
まさと「ん? どうしたんすか?」

寝入りばなに亜深さんが話し掛けてくる。
俺も、布団の中で、寝たままそれに答える。

亜深「んー。そう思っただけ。ほんとの事言うわ。正直、もう検査するとこ無い。」
まさと「え? そなの?」
亜深「ええ。今の機材じゃもう限界。横並びのデータが増えるだけ。今以上となると、もっと高額な特殊な機材が要る。」
まさと「ああ、そうなんだ。」
亜深「資金は有るけど、報酬と照らし合わせると、大赤字になるの。だから、これまで。」
まさと「そか。ビジネス・・・だもんな。」
亜深「んー。ビジネス抜きで、もっと、詳しく調べてあげたかったけどね。君の為に。」
まさと「俺の?」
亜深「知っておいたほうが役に立つ事ばかりでしょ?」
まさと「いや、それはそうなんだけど。」
亜深「そう言う訳で、明日、一通り確認の為の検査をしたら全て終了よ。」
まさと「はぁ。もうおしまいかぁ。うれしいような、淋しいような・・・・。」
亜深「じゃぁ、お休み。」
まさと「あ、ああ。お休み・・・。」

そうか。やっと開放される日がきたか・・・・けど・・・・。
じゃぁ、亜深さんは・・・・今日は・・・・餞別とかねぎらいの為に・・・?
色々考えすぎて、寝つけなかった。そんな時。
亜深さんの携帯が鳴った。

亜深「・・・・え! ハーティーアイズがっ!?」

電話はあーくんからだった。
情報整理の為、一旦戻ってきたらしいのだが、そこで、ハーティーアイズに異変が起きているのに気がついたようだ。
異変。
ハーティーアイズに複数の魔獣が入りこんでいると言う。
俺達は、慌てて宿の清算を済ませ、夜中の山道を突っ走った。

亜深「もっと飛ばしてっ! 私は平気だからっ!」
まさと「おっけー! 落ちないでよーっ!」

ハーティーアイズにつくと、あーくんが林道の出口のところまで来ていた。
見ると・・・大きな怪我を右腕に負っている様だ。スーツが赤く染まっている。

亜深「あーくん!」
あーくん「平気です。このぐらいは。しかし、迂闊でした。見えないところに口があります。・・・・・気をつけて。」
まさと「あっ!」

あーくんの腕は、肘から先が無くなっていた・・・・。

まさと「平気って・・・そりゃ平気じゃないだろう! 救急車呼ばないと!」
あーくん「大丈夫です。行って下さい。」
亜深「まさとくん。急ぐわよ。データだけでも持ち出さないと・・・・。」

見るとハーティーアイズの建物があるあたりが明るくなってきている。赤く。
何かに火がついたと言う事だ。

まさと「くそっ!」

亜深さんと俺はスクーターで林道を駆け上った。
ハーティーアイズの回りを玉のような物がふわふわしてる。
大きい。それぞれ、一抱えはある。
その玉には縦向きに目が一つついており、その目で、何かを探す様にうようよしていた。
火は、建物のすぐ横の駐車スペースのマンホールのようなところから噴き上がっていた。

亜深「あ・・・・ガスタンクか・・・。」
まさと「ガスタンク?」
亜深「車用と、自家発電用の備蓄タンク。それに火がついたのよ。建物自体でなくて良かったわ。けど・・・。」
まさと「そうだな。いつ燃え広がるか・・・。」
亜深「とにかく、中に入って、データを持ち出します。」
まさと「ああ。」

俺達が建物に近づくと、外を飛んでたやつが気付いて、襲いかかってくる。
丸い体のあちこちから、突如、棘のような物が飛び出して、俺達を串刺しにしようと迫る。
亜深さんは、軽やかなステップで、それをかわし進む。
俺は、その棘を盾で払い、くさなぎで一匹一匹確実に仕留めて後に続く。
亜深さんは後を一切見ない。前に集中してるのか、それとも、俺を信頼してくれてるのか・・・。

まさと「いい動きしてんじゃん。」
亜深「言ったでしょ。何度も死ぬような目に遭ってるって。この程度はね。」

コンピュータの有る、応談室に入る。
建物の中も所々に小さ目のやつが居たが、この部屋には魔獣は居なかった。

まさと「とりあえず・・・一息か・・・。」
亜深「休む暇もないけどね。」


亜深さんはまだバックアップしていないデータをMOに移して行く。
全てのデータを移し終えて、MO全部を手直のバッグに詰めて部屋を離れようとした時。
ひときわ大きな魔獣がいきなり目の前に出現した。

まさと「うわっ!」
亜深「あっ!」


俺はしりもち、亜深さんは前のめりにそれぞれ部屋の隅に転がる羽目になった。
魔獣は、じっとして動かない。目だけぐりぐり動かして、あたりを探っている。

まさと「亜深さん! 無事!?」
亜深「あっ、何とか! でも、これが邪魔で、ドアまで辿り着けない。塞がれてるわ!」
まさと「ああ、丸いから・・・。」

四角い部屋いっぱいの丸。当然、丸は部屋の面の真中に有るドアを包み隠す位置にある。
俺は、この丸い魔獣を何とかすべく、くさなぎを突き立てた。
が、やわらかな手応えがあるだけで、刺さらなかった。

まさと「な、なんだこいつは・・・。」

そう思った時、魔獣は四方に棘を伸ばした。
俺は、盾でそれを防ぐ事が出来たが・・・。

亜深「ぅあっ!!」
まさと「あ、亜深さんっ!」
亜深「ぐ・・・大丈夫かすっただけ。これ、早く何とかして!」


何とかしてといわれても・・・・・どうすりゃいいんだこいつ。
俺のすぐ傍にコンピューターがある。足を伸ばせば当たるようなとこに。
・・・・・・そうだ。こいつで。

まさと「亜深さん。自爆スイッチ・・・・・押すよ。」
亜深「え? あ、でも・・・まさとくん!」
まさと「ああ、盾があるから俺は大丈夫!」
亜深「そうか。・・・・やってっ!」
まさと「せぇのぉ・・・・・・とぉ。」


俺は足首を捻った状態で、足を振り上げ、コンピュータの自爆ボタンをつま先で入れた。
3。2。1。
ボンと言う、破裂音と共に、高温の二次冷却剤。
続いて、バシュッという吹き出し音とと共に極低温の一次冷却剤が吹き出し、魔獣を包んだ。
あたりは蒸気と冷気が入り混じって、真っ白になってしまった。
しかし、突き立てたままだったくさなぎに手応えを感じた。
そうだ。極低温の一次冷却剤で魔獣の表面ぐらいは凍ってる筈だ。
俺は、集中して、くさなぎをこじる様に振った。

まさと「でぇいっ!」

ばきばきと言う感触を残して、魔獣が砕けて行く。
くさなぎを振りきると、魔獣は塵となった。

まさと「亜深さんっ!」

部屋の対角に居た亜深さんのところへ、煙を払いながら駆け寄る。

亜深「げほっ。お、お見事。」
まさと「出ましょう。」
亜深「ええ。」

今また、小さ目の魔獣を払いながら外へ駆け出る。
外では、マンホールから出た炎が、いよいよかと言う勢いで、噴出していた。

まさと「亜深さん・・・怪我は・・・・。」
亜深「え? ああ。ちょっと足を掠めただけ。平気よ。痛いけどね。」
まさと「そうか・・。」

あたりを飛びまわっていた魔獣が、一様な動きを取り始める。
一点に向けて集まって行く。

亜深「まさか!?」

魔獣は、群体となり、一つの個体になった。
そして、大きな一つ目で俺達を見据えてくる。

まさと「ガン飛ばしてるよ・・・。」
亜深「まさか・・・・これ・・・・・・。」
まさと「ん?」
亜深「魔獣の自然発生の理論。人の念を取り込んで実体化する・・・・。」
まさと「え?」
亜深「こいつは、私が産んだ・・・・私の探求心、好奇心が・・・・・。」
まさと「あ。いや、それは・・・・・・。」
亜深「ごめん。ほんとに君を巻き込んだっ!」
まさと「いや、それはっ!」

魔獣は俺達目掛けて落ちてきた。
そして、無数の棘を降らせて来る。

まさと「うわっ!」
亜深「あっ!」

二人ともそれを避けるので精一杯だった。
益々魔獣は近づく。
その動きに押され、亜深さんは地に転がった。

亜深「ぅあっ!」

それを目掛け、魔獣の下部が大きく開く。
口だ!
あーくんの言ってた、見えないところの口。下向きについていやがったとは。
その口が亜深さんを狙う。

まさと「このやろっ!」

俺は咄嗟にくさなぎをその口目掛けて突き入れていた。
魔獣はその痛みに、動くのをやめ、口を硬く閉じる。
ちょうど、くさなぎをはさみ取るような格好で。

まさと「うわっ。しまった!」

俺は、くさなぎを抜こうと引っ張る。
が、魔獣の口は硬く閉ざされ、一向にくさなぎは抜けず、ギリギリと音を立て始めた。

まさと「あっ!!」

驚くべき事が起こった。悔やんでも悔やみきれない事が。
目の前で、剣先が地面に落ちて行く。俺はまだくさなぎをこの手に握っているのに。
聖剣くさなぎの剣が折れた!

まさと「な・・・・そんな事が・・・。ぐあっ!」

直後、魔獣の猛烈な体当たりを食らって、俺は地面に転がる。
その俺目掛けて、魔獣のでかい口が迫る。

亜深「まさと君っ!」

亜深さんが割って入る。
右手の平を大きく前に突き出し、左手で何かしらの印を結んで。

まさと「亜深さん! 駄目だ!」
亜深「はぁぁっ!!」


亜深さんが気合を入れると、魔獣はその動きをぴたっと止め、徐々に押し戻されて行く。

まさと「え?」
亜深「全てを焼き尽くす紅蓮の炎よ、我の前に立ち塞がりし者を・・・・焼き尽くせっ!」

とたんに傍で大爆発が起きた。
そうだ、地下備蓄タンクの爆発。それが、魔獣にまつわりついて、焼き焦がしていく。
続いて亜深さんは、軽々と飛びあがると、建物の屋上に立ち、建物から出てきた、小物達を誘う。

亜深「さぁ、こっちよっ!」

魔獣は次々と亜深さんを目掛けた。
亜深さんが再び印を構えると、炎が一気に建物を包み爆発四方に散り、全ての魔獣を焼き払った。

まさと「亜深さんっ!」

全てが終わった。
燃え盛るハーティーアイズを背に亜深さんが立っている。
折れた、くさなぎの剣先を持って。

亜深「・・・・・・・ごめんなさい。」

そして。朝がやってくる。
そこかしこを朝の光が照らし出して行く。

まさと「亜深さん・・・あんた、一体・・・・。」
亜深「鬼祀の・・・一族の力だと思って。」
まさと「そ、それにしちゃ・・随分派手・・・・・ああ、貯蔵タンクの爆発の勢いがあったか。」
亜深「ええ。そんなところ。それより・・・これ・・・・。」


亜深さんは剣先を差し出す。

まさと「うん。どうするかな・・・・。」

すぐには答えが出なかった。
なぜ、折れたのか、どう対処すべきなのか。

亜深「・・・・・ぁ。」

直後、亜深さんは地に倒れた。
俺は慌てて、亜深さんを抱き起こす。

まさと「あ、亜深さんっ! 亜深さんっ!?」
亜深「力を・・・使いすぎた・・・だけ・・・・。あとは・・・あーくんが・・・。」

そこで、亜深さんは意識を失う。

あーくん「こちらへ。」
まさと「あ。」

すぐ後にあーくんが戻ってきていた。
右腕が元に戻って素の腕が見えている。

まさと「・・・・・・・・どうなってるんだ。」

亜深さんを抱きかかえたあーくんに続いて山中を進む。
ついた先は古ぼけた民家だった。一軒だけぽつっとある。
表札に鬼祀とあった。

まさと「ここは・・・。」
あーくん「亜深様の生家です。今は誰も住まわれていません。」
まさと「じゃぁ、亜深さんは・・・。」
あーくん「はい。亜深様の身寄りは今はもう誰も存命ではありません。」

古い家ではあったがまだ立て付けがしっかりしていて、中は案外綺麗だった。
部屋に布団を敷き、亜深さんを寝かせると、あーくんが別の部屋に俺を招き入れた。

まさと「お疲れ。」
あーくん「いえ。ありがとうございました。そして、申し訳ありません。」
まさと「よ、よしてくれよ。」
あーくん「いいえ。亜深様はお疲れになっているだけで、すぐお目覚めになります。ご心配は要りません。」
まさと「そうか。じゃぁ、とりあえず、俺達は一服だな。」
あーくん「はい。お休みになって下さい。すぐ、寝床を用意しますので。」
まさと「もう朝だけどね・・・。まぁ、疲れてるからそうさせてもらうよ。」


あーくんが用意してくれた寝床に入る。

あーくん「亜深様が起きられましたらお知らせにきます。私も、別室で控えますので。」
まさと「あー、うん、よろしく。」


亜深さんが起きたのはその日の昼過ぎてからだった。
亜深さんは覇気が無く、肩を落としている。

亜深「ふぅ・・・・・・。」
まさと「もう平気?」
亜深「まぁ。君は?」
まさと「うん、おかげで、怪我も無いし、ぴんぴんしてる。」
亜深「剣は?」
まさと「あ、うん。そのままだ。おかしな事に気を抜いても、消えなくなった。」
亜深「そう・・・・。」
まさと「あの・・・・・あんまり、自分のせいだって考えないほうがいいよ?」
亜深「・・・・・ありがとう。そうする。」
まさと「うん。」
亜深「ハーティーアイズは・・・。」
まさと「ん?」
亜深「報告をし終えたらハーティーアイズは閉鎖します。あなたはもう、戻ってくれていいわ。」
まさと「いや、でも。」
亜深「送ってあげたいところなんだけど、車も一緒に吹き飛んじゃったみたいだから。あーくん、切符の手配してあげて。」
あーくん「はい。」

あーくんは早速手配をしに出掛けて行く。

まさと「どーすんだよ。閉鎖した後。」
亜深「そうね。ちょっと考えてみる。どうすればいいのか。今はまだ、答えは出ないけど。」
まさと「そうだな。昨日の今日だ。ところで・・・。」
亜深「うん?」
まさと「亜深さんの力って・・その腕と関係ない?」
亜深「・・・・・・・・あるわ。見たいの?」
まさと「よかったら。嫌ならいい。」

亜深さんはしばらく考える。
そして、ゆっくりと手袋を下げて行った。

まさと「こ、これ・・・・。」
亜深「一種の奇形。隠したくなるのわかるでしょ?」


亜深さんの右腕はケロイドなどどこにも無かった。
その代わり左腕とは全然違うごつごつした獣のような手だった。
顔を伏せ、俺の目を見ない亜深さん。
俺は、その亜深さんの右腕をとった。

まさと「そうか・・・俺は・・・この腕のおかげで生き延びたんだ。」
亜深「・・・・・・・・ありがとう。でも。」
まさと「亜深さん・・・・・。」
亜深「私が依頼を受けなければ・・・・・。」
まさと「違うよ。」
亜深「・・・・・・・・ん。馬鹿ね。」
まさと「良く言われるよ。」
亜深「・・・・うん。色々お疲れ様。」
まさと「亜深さんもね。」

もう一点、気になることを聞いてみた。

まさと「良かったら、もう一つ聞かせて欲しいんだけど。」
亜深「ん?」
まさと「あーくん達って・・・・。」
亜深「あ・・・そうね。彼等は・・・。」
まさと「ん?」
亜深「昔、鬼と呼ばれてたコ。」
まさと「あ。じゃぁ。」
亜深「人ではないわ。恐らく、魔獣。その変異体。意思を持っていて、恩義を返す為に傍に居てくれている。鬼祀のね。」
まさと「そうか・・・表向き退治した事に・・・だから・・・。」
亜深「ええ。あの洞窟に住んでいた鬼はただ脅えてるだけだった。だから、鬼祀の者はその鬼を人として扱う事でかくまい、退治した形にした。」
まさと「そうか。良くわかった気がする。あいつ、良く考えたら似てるよ・・・俺の子分に。」
亜深「出来たら・・・。」
まさと「ああ、わかってる。胸に納めとくよ。亜深さんの面倒見てくれるやついなくなったら困る。」
亜深「ええ。そうして。」
まさと「ところで。」
亜深「また質問?」
まさと「と言うか相談と言うか。」
亜深「何?」
まさと「くさなぎ・・預けて行こうかと思うんだけど・・・。状態が状態だから、使えないし、亜深さんにまだ調べるつもりがあれば、なんだけど。」
亜深「・・・・・・・・・わかった。がんばってみるわ。直す方法が無いかも調べる。」
まさと「うん。頼む。衛星電話は、いつでも使えるのかな?」
亜深「ええ。連絡はつくと思う。以外とその場の状況に左右されやすいけどね。人里離れるとこれしかないし。」
まさと「そうだね。」

その日の夕方。
俺は、飛んで戻ってきたベーくんと入れ替わる様に東京へ向かった。あーくんと、べーくんに見送られて。
亜深さんとは大事をとって家で別れた。

まさと「戻ったぞぉ。」

4ヶ月振りの凱旋。

法子「あやっ。私の天下、もう終わり!?」
まさと「おいこら。つくづくいい妹だな、お前。」
ミュウ「あははははっは・・は・・・おっ、おかえり。」
まさと「おうっ。」

経緯を話す。

ミュウ「おっ、おっ、おっ、折っちゃったぁ!?」
まさと「うん。ぽきっと。」
ミュウ「うーん。折れる物だったとは・・・。」
まさと「で、消えなくなったんで、預けてきた。調べやすくはなったわけだし。」
ミュウ「そりゃ、まーねー・・・・・。じゃ、当面、魔法だけ?」
まさと「そうなる。な。盾は出せるけど。ま、鍛えられたんで、魔法も威力少しは上がってるし。」
ミュウ「けど、怒られるよー。いろいろ。」
まさと「そだな。覚悟してるよ。」
ミュウ「まぁ、ならば良し、かな。とにかく風呂にでも入れば?」
まさと「あ!」

俺は、どろんどろんだった。昨日のあのままだったから。
とにかくいろいろあったけど、ようやく自分の部屋に戻った。
明日から、色々やることは・・・・沢山あるだろうなぁ。