<魔獣特捜ミスティック・ミュウ'(ダッシュ)>
第1話 ハーティーアイズ #2 止まった刻

ハーティーアイズ第一検査室。
つまりは多目的試験場の手前の部屋。
ここで、俺は、亜深さんと、半ば缶詰状態のような日々が続いていた。

亜深「さぁ、まだ大丈夫でしょ・・・。」
まさと「ちょ、ちょっと・・・・待って・・・さすがに・・・こう・・・立て続けだと・・・。」
亜深「情けないわね・・・もうおしまい? そんな程度で・・・・・。」
まさと「あ、亜深さん・・・ほんとタフって言うか・・・なんて言うか・・・そんなに好き?」
亜深「ええ。そうね。最高に興奮してるわ! だから早く!」


俺はもう、へとへとだった。マジ、勘弁して欲しい、それほどまでにへとへとだった。

まさと「休憩させてよ・・・お願いだから・・・。」
亜深「なに言ってるの! 早い上に、回数こなせないじゃ、いざという時使い物にならないでしょう!」
まさと「いや、早いったーってあーた。」
亜深「せめて、20分、いえ、15分でいいわ、頑張りなさい!」
まさと「あうー。わかったよぉ・・・・。」

気合を入れる。

亜深「あ、そうそう! いいわ!」
まさと「15分すね?」
亜深「ええ。出来たらもっと長く。」
まさと「きっつー。」

あ。誤解しちゃいけない! 検査だよ、検査。くさなぎの!
それ以外のなんでも無いからなっ!
いやもう、それがきつくってきつくって。
検査の長い間、くさなぎを出しっぱなしにしておかないといけないんで、俺の、集中力が枯渇してます、もはや。
なにしろ、朝から晩まで、出しっぱなしにしろってーんだから。

亜深「はじめるわよ。」
まさと「うぃ。」


ケースに入れたくさなぎの表面を走査線が舐めて行く。
これがもう、ゆっくりでゆっくりで・・・・・ゆっくりで・・・・・・・あ、集中力が。
途切れました。
とたんに消えるくさなぎ。怒る亜深さん。

亜深「この根性無しっ!」
まさと「や・・・・休ませて・・・・・はひぃ・・・・・。」
亜深「まったく。瞬間芸?」
まさと「うーーーーー・・・・・・。」
亜深「どれだけこの検査が大事なのか、わかってるわよね?」
まさと「そ、そりゃぁね。でも、さすがに続かないよ。一日中は。」
亜深「消えるのが早すぎるの。せめて、数回スキャンできる状態で無いと。」
まさと「そーなんだけどねー。・・・・・ごめん。」

それは、くさなぎのスキャン結果に起因した。
くさなぎはスキャンするたびに違う結果をはじき出してた。まるで、別の物であるかのような。
その為、一回の召喚の中で、数回スキャンする必要が出てきた。のだが。

亜深「消えちゃうからサンプルも取れないし、全体スキャンに頼るしか無い状態なのに。」
まさと「それもわかって・・る・・・はぁ・・・・ファルネ、助けに来てくれないかなぁ。」
亜深「そうね。呼び出したまま固定してもらえるとありがたいんだけれど。」
まさと「・・・・・見当は、ついてるんでしょ?」
亜深「まぁ、幾つかは。けど、確認が取れないと、推測の域を出ないから、報告できないでしょ。」
まさと「とりあえず、聞かせてよ。」
亜深「そうね。まず一つ目。くさなぎの剣は使い捨てである。召喚に対しその都度、形成され、用が済めば霧散する。」
まさと「こ、コンタクトレンズじゃないんだから・・・。それに、最初は、ずっと岩に刺さってあったんだし。」
亜深「二つ目。目的に応じて、機能の変化が起こり、それにつれて構成も変化する。」
まさと「ありそうでは・・・あるな・・・。」
亜深「三つ目。元々実体は無く、使用時は形成している様に見えるだけで、硬質の部分は障壁その物の形。」
まさと「あー、じゃぁ、スキャン結果が違うのもあり得る・・・。」
亜深「とまぁ、そんなところね。後は、もっと検査しないと、どうとも言えないわ。で、どう?」
まさと「あ・・・いや・・・・今日はもうだめそう・・・。」
亜深「しょうがないわね。じゃぁ、休んでくれていいわ。半端なものばかりだけど、今までのデータに共通性が無いか調べてみる。」
まさと「ああ、そうだね。その手があるか。」

眠るのには早いが、部屋に戻って、とにかく、仮眠する。
どれほど眠れたか、自覚の無いうちに起こされる。

亜深「夕飯、出来てるけど。」
まさと「・・・・・・・・・・・・・・・・作ったの?」
亜深「ええ。よく寝てたから。」

うわぁ。しくじった。
このところ、あーくん、べーくんが出張ったままなので、食事は、俺が用意してた。
だって、亜深さん、料理全然ダメなんだもん。
恐る恐る食堂に行くと、なにやら、いい匂いはした。

亜深「レトルト品よ。」
まさと「いや、それはいいんだが・・・・・・・・・・・・なにこれ?」


食卓には、具のちらほら入った、醤油の匂いのする、おかゆがあった。

亜深「り・・・・リゾット。マッシュルーム風味。よ。」
まさと「リゾット・・・ねぇ。」

リゾットと言えば、日本に言うところの雑炊にあたる物と思っていい。
それがどうだ。目の前のそれは、ご飯の粒も判別のつかないおかゆその物だ。

まさと「うーん。・・・・・・いいか、いい匂いもするし。」

とにかく、腹は減っていたし、それを頂く事にした。
味は、まさしく雑炊だった。ちょっと、煮詰まって、味は濃かったけど。

まさと「まぁまぁか。うん。」

後片付けをしようとして、制止される。

亜深「そんな余力があるのなら、くさなぎを持続する方に回しなさいっ。」
まさと「・・・・ごもっともです。」

食堂を出る時にごみ箱の中が少し見えた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・キノコ雑炊。レンジで2分。
リゾットの素発見。
レンジ用を思いっきり茹でたか。
まぁ、なんだな。きっついんだけど、なにげに気を効かせてくれてる風なとこもあったりで、そろそろ、亜深さんの、人となりが見えてきたようなこないような。

亜深「ああ、後で、続きやるからね。出来るでしょ?」

・・・・・やっぱ、鬼だ。この人。
とまぁ、そんなきつぅぅい検査をこなしつつ、入った仕事に出張ったりもする。なかなかハードな日々を送らせてもらってる。
ある日の事。奇妙な仕事に出かける事になった。

山間にある、一軒の神社。そこへ俺達二人は出向いていた。

まさと「何をやるんですか?」
亜深「黙ってて。なにもしなくていいわ。ただし、きりっとしてる様に。」
まさと「なんかよーわからんけど。ほーい。」

神主に会うと、お茶をご馳走になる。
聞いたところによると、どうやら、この神社は亜深さんの家系に世話になったことがあるらしい。60年ほど前に。

神主「私も、聞き伝えでしか知らない事ですけどね。鬼祀様には代々祠のお払いをお願いしているんですよ。ほら・・・これ。」

一枚の写真を見せられた。
その写真はひどく赤茶け、時の流れを感じさせる物だった。

神主「この方が、鬼祀様の先々代だとか。」

見ると神主は巫女衣装を着た、女の子を指差している。
女の子は、12、3歳くらいだろうか。そんな歳でお払いを?
よくよく見ると、顔つきとか、亜深さんに似ていて、確かに鬼祀の家系だろうという事は判断出来た。

亜深「まぁ、古い話しですね。」
まさと「なにやってたんです?」
亜深「色々やってたみたいだけどね。」
神主「ええ、本当かどうかは私も信じかねているんですが、なんでも、山に居付いた鬼を退治して下さったとかどうとか。」

60年前と言ったら、戦争の嵐吹き荒れてる頃か。
そんな時代に鬼、ですか。
どうやら、その鬼を退治した時に、その先々代と言うのが祠を建てて行ったらしい。
そのお払いを年に一回、亜深さんとこでやってるらしい。形式的だとか、亜深さんは俺には言うけど。
祠があると言う、洞窟に行く。
神主を残して、俺は亜深さんと一緒にその中へ。
その間、亜深さんはほとんど喋らない。

まさと「喋るとまずいのかな?」
亜深「いいえ。」
まさと「結構深いね。」
亜深「鬼の住みかだったといわれてるわ。」
まさと「あ、そう。それで深いんだ。」

奥に行きつくと、確かにそこに、古ぼけた祠があり、お札が貼ってあった。

亜深「適当に、休んでてくれていいわ。」

亜深さんはそこいらに腰掛け、祠をただ見つめるだけ。

まさと「えっと、お経あげたりとか・・・・。」
亜深「ふっ。いいの。あげなくても。必要無いから。」
まさと「・・・・・なんだかなぁ。」

半時間ぐらいだろうか、そのまま居て、それから、外に出た。

亜深「済みましたよ。」
神主「いや、ありがとうございます。」

大嘘じゃん。
なんか、鬼の話し自体、眉唾に思えてきた。
帰りの車の中で、亜深さんにそれとなく話しかける。

まさと「鬼なんて・・・・ほんとに居たんだろうか・・・・。」
亜深「そうね。居たのかも知れない、あの神主さんの先祖達の中では・・・。」

意味深過ぎて、本質が見えない。やっぱ、謎な人。

亜深「60年も前の事だしね。真実は闇の中・・・なのかも。」
まさと「ふぅ・・・ん。」
亜深「私があそこにお払いに入る事で、あの人達は、安心を得られる。それでいいんじゃない?」
まさと「そう・・・・なのか・・・。」
亜深「仮説、なんだけどね。」
まさと「ん?」
亜深「自然発生する魔獣に関して。」
まさと「はいはい。」
亜深「大昔から、魔獣が自然発生していたり、何かの理由で、転送されてきてたり、あったんじゃないかと思うの。」
まさと「ああ、今起こってるなら、昔からあったかもって事か。」
亜深「そう。そうしてこちらに現れた魔獣が、鬼や、妖怪、モンスターなど、誤認された事があったんじゃないかと。」
まさと「あ、ありそうだな。それ。」
亜深「全ての目撃情報がそうだとは言わないけど。面白い仮説でしょ?」
まさと「ははっ、まぁね。」

あーくん達の調べでは、どうやら、一度現れた魔獣が、いつの間にか消えてしまってる形跡があるらしい。誰かに倒されたのではなく。
自然発生した魔獣は、安定せず、一定期間を置いて、霧散する可能性があるらしい。
いつの間にか、姿を現さなくなった、珍獣やらって、もしかしたら・・・と思わせるところはある。

まさと「あ・・・あれ?」

ハーティーアイズへの林道が近くなったところで、見覚えのある人物がいるのに気がついた。

まさと「あ、亜深さん、ちょっと停めて。」
亜深「え? あ、はいはい。」

傍に車が停まるとその人物もこちらに気がついた。

まさと「パール!」
パール「あ、やっぱり。」
まさと「どうしたんだよ・・こんなとこで。」
パール「色々、情報交換しようと思って。それと、あと、ちょっとね。」
亜深「・・・? あぁ。パール・・・ステイリバー。」
パール「あ、はい。はじめまして。鬼祀さん、ですね?」
亜深「ええ、けど、よくここの事がわかったわね。」
パール「いえ、結界、の、反応を逆に追えば・・。」
亜深「ふっ。さすがね。」
まさと「あ、そうか。結界のあるとこにハーティーアイズがあるってことか。」

とにかく、そこで立ち話してるのもまずいので、パールを車に乗せ、林道に入った。

まさと「ここの結界ってどうなってんの? 俺にはこの道見えたけど。」
パール「私には道は見えなかったわ。そういうものでしょ?」
亜深「一度中に入った者にしか、この道は見えない。見えても入る気は起こさないでしょうね。それがここの結界。」
まさと「はー、なるほど。」
亜深「彼女みたいに、頭の切れるコには、逆効果だけど、それがわかる頭がある人物なら、入るべきところかどうかも・・・・ってところね。」

ハーティーアイズにつくと冷蔵庫みたいなコンピュータのある、応談室に入った。ここが、亜深さんのいつも詰めてるとこ。

亜深「悪いんだけど、情報交換は難しいかも知れない。」
パール「え?」
亜深「あなたが、こちらにティラの情報を流すのは自由。けど、こちらの研究結果をそちらに渡すのは、クライアントとの契約上できない。」
まさと「そんなぁ、俺には話してくれてるじゃないか。」
亜深「あなたは、当事者なのと、検査のために必要な知識だからいいの。」
まさと「うわぁ。それって・・・・・。」
パール「わかりました。」
まさと「え!?」
パール「私の持っている情報だけお伝えします。」
亜深「いいの?」
パール「クライアントが政府なら、お伝えするべきですよね。全てを正しく理解してもらう為に。誤解があっては道は開けませんから。」
まさと「パール・・・。」
亜深「知らないほうが幸せな事もあるらしいけど? ねぇ。」
まさと「うわー。それ俺に聞くっすか?」
パール「お話しする前に一つだけ。伝えた情報をこの人にも理解できるような状況において下さい。それから、先入観で、データを懐疑せず、全てをクライアントにそのまま渡す様にお願いします。」
亜深「保証は出来ないけれど、そうする様努力するわ。ハーティーアイズは、その名の通り、心の目でしっかり物事を捉え調査します。」
パール「はい。それが守られなかった場合は・・・。」
亜深「好きにしてくれていいわ。彼を連れ去るなり、鯨で突っ込んでくるなり。」
パール「では・・・・これ、読めますか?」

パールは持ってきていたバッグから、MOらしいのを取り出す。

亜深「こっちのフォーマット?」
パール「ええ、こちらから向こうへ持ちこんだ、機材でまとめた物です。」
亜深「中身は?」
パール「過去2年間のティラ上のマジェスティックス濃度変化と、電磁波観測結果、魔獣の出現箇所の集計、確認できているだけの転送発生に関するデータです。」
亜深「ほー。」

早速、亜深さんはマシンにそのMOを読ませ、中身を見始めた。

パール「魔獣発生箇所と、転送発生箇所は・・・・・・一致しません。」
亜深「ふむ。」
まさと「じゃぁ、転送と魔獣発生は無関係? いや、そうだ。魔獣って、自然発生するのか?」
パール「ええ。ここ数ヶ月、自然発生が確認されてます。魔族も、この事に慌てている様で。」
亜深「そうなんだ。」
パール「魔獣は、アルヘルドでの研究中に偶然見出された、擬似生命体だったと聞いています。が、理論上、条件が揃えば自然発生もありえるそうで。」
まさと「やっぱり、そういうものだったんだ・・・。」
パール「え?」
亜深「うん。こちらでもね、その可能性があると踏んでたのよ。いいわ、ありがとう、このデータ活用させてもらいます。」
パール「はい。こちらへの転移も増えてる様だし、是非。」
亜深「あ、じゃぁ、私、お茶いれて来ます。ちょっと時間かかるかもしれないから、つぇーくん、お相手よろしく。ね。それから、宗方フォルダ。バックアップしておいて。」
まさと「あー、茶なら俺が・・・。」
亜深「いいのっ!」
まさと「はひっ。」

俺を威圧して、亜深さんはその場を離れた。

パール「・・・・あ。そうか。つぇーくん、空きMO無い?」
まさと「あ、たしかこっちに・・・って、誰がつぇーくんだ。」
パール「えっと・・・宗方フォルダ・・・うん、全部入ってそう・・・・これと・・・これもいるか・・・。」
まさと「はい、MO。で、なにやってるの?」

パールは、モニタに向かって、なにやら、ファイルの選択をはじめた様子。

パール「情報、貰って行くの。」
まさと「なっ!?」
パール「しっ。静かに。私に、情報を持ち出させる為に、あの人は、ここを離れた。」
まさと「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あー。そういうことか。」
パール「何か、これって言うのはある?」
まさと「うーん。今、引っかかってるのは、くさなぎ関係だなぁ。呼び出すようになってから、調べるのが難しいんだ。」
パール「うん、消えるからね。あ・・・このあたりね。こっちでも調べとくわ。」
まさと「うぉ。バックアップの準備もしとかないとっ。怒られる!」
パール「ちょっと待ってね、もうすぐコピー終わるから。」

MOへの書き込みをしばし待つ。

パール「はい、いいわ、バックアップの作業はじめて。」
まさと「ん。っと、ほいっと。」

パールはデータの入ったMOをバッグにしまう。代わって俺は、言われたフォルダのバックアップ作業に入る。
バックアップが終わる頃、亜深さんは、紅茶とケーキを持って現れた。
ケーキ? いや、冷蔵庫の中にはそんな物は無かったはずだが。買いに外へ出てたのか?

亜深「バックアップ終わった?」
まさと「はっひっ。」
亜深「ご苦労さん。さ、お茶にしましょう。魔導科学の何たるか、たっぷり聞かせて欲しいわね。」
パール「あ、はい。」

亜深さんの持ってきたケーキは美味かった。いや、ほんとに。

まさと「これ・・・・亜深さんのお気に入りの店の?」
亜深「まぁ。」
まさと「ふーん。今度、場所教えて下さい。」
亜深「・・・・・遠いわよ。」
まさと「はぁ?」
亜深「それはそうと、くさなぎ。あれってどういうものだと思う?」
パール「え、あ・・・あぁ、そうですねぇ。形態が変化するから、素材自体がそういうものであるのは違いないと思います。」
亜深「そうよね。私は、あれは、ナノマシンの集合体じゃないかって思い始めてる。盾もね。ソーサルブースターの液体金属による装甲形成理論に近い物があると思うけど、どう?」
パール「・・・・・・・・・・・ええ。そう思います。問題はそのナノシェルを作り得るかどうか。」
亜深「うん。そうね。そこよね。」
まさと「あのー?」
亜深「邪魔をしない。あなたは、くさなぎを長く出現させられる方法でも考えてなさい。」
まさと「うわっ。そうきましたか。」
パール「あの・・・・無理をさせたら壊れちゃいますよ・・・・。」
亜深「平気よ。彼は。丈夫、丈夫。」
まさと「うっ、うれしく無いっ、うれしく無いっ。それっ!」

それからも、パールと、亜深さんは、魔導科学の理論やら、俺の入りこめない世界で、華を咲かせていた。

パール「あ、そろそろ、私、引き上げないといけないので・・・。」
亜深「そう。しかたないわね。また、遊びに来て。新情報持って。」
パール「そうですね・・・そうします。それで・・あの・・・。」
亜深「ん?」
パール「彼、ちょとだけ借りて行っていいですか?」
まさと「俺?」
亜深「ちゃんと返してね。私の玩具なんだから。」
まさと「ひでー。」
パール「はい・・・わかりました。」
亜深「あ、つぇーくん、車使っていいわよ、送ってあげなさい。どっか行くんでしょ?」
パール「ええ、ちょっと・・寄る所が。ねぇ。」
まさと「ん・・・・・・・ああ、そういうことか。」

パールと一緒に車でハーティーアイズを出る。

まさと「どのへんなんだ?」
パール「え・・・あ・・うん、駅のすぐ近く。」

車は太地町を目指していた。パール、向井珠美の生まれ故郷へ向けて。

パール「ごめん。今日は、まだ・・・・向井珠美に戻れない。と思う。」
まさと「え、どうしてだ?」
パール「やる事が沢山あるから。それが終わったら。今日はね、旧友ってことで、会おうと思ってるの。だめかな?」
まさと「そうか。そうだな。」

向井珠美がティラで生きていた事は、まだ、内密になっているそうだ。
向井家にはこの事は知らされていない。
向井家につくと、小さな男の子が出てきた。

男の子「ん? おとーちゃんとおかーちゃんは出かけてるよ。」
パール「そう。名前、なんて言うの?」
男の子「ん。向井大地。」
パール「そう、大地くん。いい名前ね。お姉さんの事・・・知ってる?」
大地「えっと。うん、聞いた事ある。死んじゃった。って。」
パール「う、うん。お父さんとね、お母さんに、昔の、お姉さんのお友達が来たって言っておいて。また来ますって。」
大地「うん。わかった。名前は?」
パール「え、あ、む、宗方。」
まさと「ぷ。」
大地「うん。宗方。覚えたよ。」
パール「じゃ。ね。」

車に戻る。

パール「あ・・・。」
まさと「弟・・・か。」
パール「うん、そうだと思う・・・。大地かぁ。」
まさと「男らしい、いい名前だと思うぞ。」
パール「うん、ありがとう。あ、もうちょっといいかな?」
まさと「ああ、いいけど。」

パールの指示で車を進める。
ついた先は、墓地だった。

まさと「墓地・・ですか。」
パール「ここ・・・うちの墓があるところ。」
まさと「なるほど。つらいだけじゃないか?」
パール「かもね。でも見ておきたい。」
まさと「ほいほい。」

向井家の墓の前に立つ。
墓石には向井珠美の名も当然刻まれてる。

パール「私の名前だ・・・。」
まさと「そりゃ、そうだよな。死んじまった事になってるから。」
パール「ふふっ、そうよね・・・・。行こうか?」
まさと「ん。」
パール「まだ・・・やってるかな? 博物館。」
まさと「ああ、鯨の。行くか。」
パール「うん。お願い。」
まさと「いや、俺も行ってみたいし。」


くじらの博物館。
古くに太地で行われていた、古式捕鯨に関する博物館。入ったところにセミ鯨の骨格模型があることで有名なとこだ。
残念な事に、とうに入館時間は過ぎていて、今は、出てくる人がちらほらいる程度。

まさと「残念だったなぁ・・・。」
パール「ううん。見れただけでも。懐かしいから。」
まさと「また・・・来りゃいいさ。」
パール「そうね・・・・・・・・あ・・・・・。」

出口から、一組の夫婦が出てきた。

男「どうだ。落ちついたか。」
女「え、ええ。ごめんなさい。無理言って。」
男「いや。今日だったんだよなぁ。私も、今でも、この位のあの子がここから出てくるような気がして仕方ないよ。」


パールは遠目にその夫婦を見つめたまま動かない。

パール「お父さん・・・・お母さん・・・。」
まさと「え。」

結局そのまま、声は掛けずに二人を見送った。

まさと「パール・・・。」
パール「小さい頃、よくせがんで連れて来てもらってたの・・ここへ。」
まさと「そうか。」
パール「12年前の今日ね・・・。」
まさと「・・・・ん?」
パール「私がバスで事故に遭った日。・・・命日。かな? だからここへ戻っておきたいと思ったの。」
まさと「ああ、なるほど。」
パール「けど、ここでの。向井珠美の時間は12年前のまま止まってた・・・・・。」
まさと「あ・・・。」
パール「私、ちっさいまま止まってた・・・。」
まさと「・・・・・・・そう・・・みたいだな。けど。」
パール「うん。わかってる。いつか、動き出すよね? 私の時間。」
まさと「ああ、ただいまって、お前が言ったらな。その時にきっと動く。と、思う。」
パール「胸張ってただいまって言いたいから・・。今は・・・。」
まさと「ああ。」
パール「う・・・・ぅ・・・・。」

パールは立ったまま、目に涙を浮かべ始めた。

まさと「わ。おい、ここじゃさすがに。ほら、こっちこいっ。」

パールを車の中に連れ戻す。

まさと「さぁ、いいぞ。気の済むまでやってくれ。」
パール「八方美人?」
まさと「うわ。」
パール「嘘。ごめん。涙、もうおさまっちゃった。」
まさと「そうか?」
パール「うん・・・ちょっとだけ・・・・胸・・・貸して?」
まさと「どーぞ。」

パールは顔を俺の胸にうずめる。

パール「ミュウ、ちょっとだけ、ごめんね・・・。」
まさと「わー、名前出すなよ。あ・・・・・。」
パール「ん?」
まさと「目の前にミュウの顔が・・・浮かんだ。」
パール「笑ってる?」
まさと「・・・・いや、それが・・険しい顔して・・・あたり見まわして・・・・あっ!」

そのミュウは、本物だった。東京から、すっ飛んできたとこだろう、ブースターを既に装着してる。
慌てて俺は窓を開けてミュウを呼ぶ。

まさと「おい、ミュウ!」
ミュウ「気をつけて、この辺、出るかもしれないって・・・。」
パール「え!?」

慌てて車から駆け出す。
眼鏡をかけると、既に、マジェスティックスはかなり集まってきて、渦を巻いている。

まさと「やべぇっ。出るぞ、こりゃぁ。」

言い終わるより早く、魔獣は出現した。
熊野灘を跳ね回る、いつか見た、両生類タイプ。

ミュウ「ちゃー、あれかぁ。んじゃ、行って来るね!」
まさと「おう!」

ミュウはかっ飛んで行って、水中タイプに変化して、海中にダイブした。

まさと「あれ・・・ダブルヘッダーの時の1発目にそっくりだ。」
パール「ダイアが?」
まさと「それは無いだろう・・・ってことは、あのタイプは自然発生したやつか?」
パール「ちょっと待って・・・それじゃ、もう一体どこかに・・。」
まさと「あっ! そうだ、ミュウが来たってことは電磁波が観測されたはず。転移で現れる可能性がある!」

現れた。駐車場付近に。
こっちも見た事がある、セントヘブンへ向かう途中に大樹林で出たやつだ。それもまた、2匹。
悲鳴が上がる。パールの両親の悲鳴。
二人は魔獣が吹き飛ばした、車の爆炎で、飛ばされていた。

パール「ぅあっ!」
まさと「くそぉっ! よりによって! パール! 持ってきてるか!?」
パール「え、ええっ!」

パールはバッグからブースターを取り出して、構える。
俺はそれを確認すると、駐車場に現れた魔獣目掛けて駆け出した。

パール「ソーサルセットアップ! ミスティック・パール!」

ブースターを装着したパールは両親に一番近いほうへ。俺は、もう一匹の方へ。

父「ぐ・・・あぁ、ニュースでやってた、あれか・・・。」
母「あ、あなたっ!」

動けない二人に魔獣が迫る。
魔獣の爪が二人目掛けて振り下ろされた時、間一髪で、パールが間に合い、全力でそれを受けとめる。

パール「ぐうっ!」
父「あっ!」
母「え?」
パール「に、逃げてっ! 早くっ!」


俺は、ようやくくさなぎの剣圧の間合いと思える距離まで魔獣に近づいた。
そこで、一気に、くさなぎを振り下ろす。

まさと「ぉおおおおおりゃぁぁぁぁぁっ!」

鋭い剣圧が魔獣目掛けて飛ぶ。
剣圧は、魔獣を引き裂き、魔獣は泡になって消えた。

パール「は・・・はや・・・く・・・・・。」

パールは両親が逃げるのを待って、必死に魔獣を押さえていた。
攻撃しようにも近すぎて、両親にさらなる怪我をさせてしまうかも知れない。
パールの表情から、それが伺えた。
俺が駆けつけられたら。パールと魔獣の間に盾を持って構える事が出来たら。
そんな事を考えた。

母「え!?」

それは起きた。みかがみの盾のみがそこに実体化し、両親とパールの間に壁を作った。

まさと「やれっ! 今だぁっ!」
パール「え? あっ。盾!? だけ?」
まさと「撃てぇ!」
パール「ええ!」

パールの肩の装備が両サイドへ開き、いつかの最大出力モードになる。

パール「マジェスティーッシューーーーーーーーットッ!!」

片側3箇所のレンズから左右それぞれ光が集まり、はじける様に発射される。
前に見た掃射モードではなく、全力で一点を貫く光か。
魔獣は、それを避ける事も出来ず、貫かれ、爆砕した。
当然、バリアを持つパールはもちろんの事、盾の後にいた両親も無事だ。

まさと「ミュウは!?」

海の方を振り返る。
直後に水柱が上がって、無事解決となる事を期待しながら。
しかし、期待は裏切られた。
魔獣が海面に飛びあがる、その口にはミュウがくわえられていた。

まさと「まずい!」

海に向かって駆け出した時。
魔獣がまた飛びあがる。いや、なにかに押し上げられる様に上空高く掲げられた様に見えた。
海中から湧きあがる炎の柱がそれを包み、魔獣は塵となった。

まさと「まさか!?」

海中から無事、ミュウが飛び出し、こっちへ飛んで来た。

ミュウ「いやー、やばかった、やばかった。早いのなんのって。」
まさと「って、おめー、それ、まだ使えるのか?」
ミュウ「ん? みたい。あんまり使うとやばいって話しだけどねぇ。」

ミュウは、ドラゴニックになっていた。
ドラゴンズコアは体内から出て、フレイムドラゴンが転生したのに。だ。
ドラゴニックを解除して、普通のモードに戻る、ミュウ。

ミュウ「なんでだろね?」
まさと「俺がわかるわけ無いだろ。」

パールは、両親と向き合っていた。

パール「怪我・・・大丈夫・・ですか?」
父「はい。ちょっと、擦り剥いたくらいで・・・。」

俺達もそこへ駆けつける。

まさと「おおっと。そうだ。ちょっと動かないで下さいね。・・・・・リフレース。」

回復呪文をお父さんにかけてやる。

父「ああ。痛みが・・・傷が・・・。」
母「・・・ええ?」
まさと「もう大丈夫。」
父「あ、あなた達は・・・。」
まさと「まぁ、通りすがりの正義の味方、です。ははっ。」
ミュウ「うん。そういうこと。」
父「正義の・・・。あ・・・・・・。」

お父さんがパールの顔を見てなにかに気がついた。

父「あ、いや、そんなはずは・・・・でも・・・・。」
パール「・・・え・・・・・・あ・・・・。」
母「まさか・・・・・・・珠美?」
パール「・・・あっ。」


思わず顔を伏せようとするパール。まだ、迷いがあるんだろう。
俺は、お節介を焼くことにした。

まさと「間違いないですよ。珠美さんです。」
父「珠美! 生きていてくれたのか! どうして今まで!」
母「た・・・珠美・・・。」
パール「お、お父さん・・・お母さん・・・。私・・・私っ!」
父「そうか、思い出した! 彼は、2年前東京を救った・・・。」
まさと「あ、いや、まぁ。それも、彼女、珠美さんの手助けがあったから。なっ。」
ミュウ「そだね。」
父「今まで、どうしていたんだ・・・10年以上も・・・。」
パール「遠い場所にいました。すぐには帰れないくらい遠いところに。連絡もできないところに。」
まさと「戻れる様に彼女は研究を続けてたんです。そして、今です。」
父「そうか・・・じゃぁ、これからは・・・。」
パール「ごっ、ごめんなさいっ。」
父「え?」
パール「今日は、顔を見るために戻ったんです。まだ、いっぱいやらなきゃいけない事があって・・・まだ・・・。」
母「この人達のお手伝い?」
パール「・・・・・・はい。とっても大事な事なの。だから、まだ、ただいまとは・・・・。」
父「・・・・・いいさ。」
パール「あ。」
父「いい。やりなさい。やらなきゃいけない事があるなら。それが大事な事なら。やり遂げなさい。お前が生きていてくれた。それだけで、私はうれしいよ。それも、人の役に立つ事をやっているんだ。謝る必要は無い。」
パール「父さん・・・・母さん?」
母「ええ。」
パール「ありがとう。戻るから、きっと戻るから。ぅ・・・。」

パールは両親の胸で泣いた。
それから、今まで起きた出来事をパールは、いや、珠美は両親に話す。
その苦しい生き様に両親は少なからず胸を痛めた様だ。

父「そうか・・・・信じられない事だが。さっきのあれを見てしまうと・・・苦労した様だな。」
パール「うん。でも、この人達や、いっぱい仲間が出来たから。」
父「じゃ、さっきのことは、警察以外には話さないほうがいいんだね?」
パール「はい。まだ、情報公開できない事が多いから。」
父「わかった。」
パール「じゃぁ。私はそろそろ戻らないと。向こうに。」
まさと「え、向こうに戻っちゃうのか。」
パール「うん、あっちでの調べ物はまだまだ残ってるし。」

パールが端末を操作すると、海上をゆっくりとこちらに向かってくるホエールが姿を現した。

父「く、くじら・・・・そうか・・・・そうか! 珠美はくじらが好きだった!」
パール「うん。」
父「短時間でもいい、いつでも戻ってきていいんだよ。待っているから。それに弟の大地が・・。」
パール「うん。会った。自分の事は言えなかったけど。」
父「そうか。うん。いっておいで。お前は私達の自慢の娘だよ。」
パール「はい。」

十数年間、止まっていた、向井珠美の時間が、今、再び、動き始めた。