<魔獣特捜ミスティック・ミュウ'(ダッシュ)>
第1話 ハーティーアイズ #1 再会
あのガルウ騒乱から、早、2年半が経とうとしている。
俺は、宗方柾人(むなかたまさと)22歳。
今年の春、大学を卒業し、社会人一年生に・・・なりそこなった。
いや、実は、職が定まっていない。卒業後もソフトハウス・マイテーで、アルバイトして生活してたのだ。
勇者だとか英雄だとか、過去に呼ばれた気はするが、まぁ、俺の現実はこんな物だ。
で、俺は今、訳あって奈良にいる。ただし、実家に戻ったんじゃない。
俺が居るところは、奈良と三重の県境、大台ケ原の山中奥深くにひっそりと存在する、鬼祀超常研究所『ハーティーアイズ』と言うところだ。
ここは、さまざまな超常現象を研究または解決するのが目的の非公開組織であり、およそ、外部との接触はクライアントからの電話連絡くらいなものである。
建物の周辺には結界が張られ、一般人には見えない様になっているのだとか。
所長は『鬼祀亜深(おにまつりあみ)』さん。きつい目をしたキャリアウーマンとか厳しい感じの人だ。ここに来てから三ヶ月になるが、その間、何度、怖い目にあったか。
所員は他に、『あーくん』『べーくん』と亜深さんの呼ぶ、腕っ節の強そうな男二人がいて、合計四人で、生活している。
まさと「で、俺は、いつになったら開放されるんすか?」
亜深「・・・・・・・・・それはない。」
まさと「・・・・・鬼。」
亜深「・・・・・・・・・・・・・・・わかった。生体解剖希望ね。」
まさと「わぁっ。嘘ですっ。冗談ですっ。」
亜深「そういう冗談は、やめなさい。命が惜しかったらね。」
とまぁ、こんな具合で、とり付く島もなく、半ば、勇者と言う名のモルモットとして、ここに居るようなものなのである。
なんでまたこういうことになったかと言うと・・・三ヶ月前の7月にさかのぼる・・・・・。
7月。
もうそろそろ夏だ。
バイト生活も結構気楽でいいものだが、そろそろ、マイテーにこのまま就職するか、他に就職口を求めるか、決めてかからなければ、と思いつつ、早二ヶ月。
書類の一応の整理が終わってからはUPB特捜部、つまり広江さんとこに呼ばれる事もなくなり、割りと普通の生活、が続いている。たまに事件が起きてないか、確認に行くくらい。
これまで数回ファルネが来てくれたが、ティラのほうも、あの温泉事件以後は、特にこれといった変化がなく、とりあえず、元気でやってる事の確認くらいしか出来てない。
唯一変わった事といえば、妹の法子(のりこ)が、大学に通う名目で上京し、俺の部屋に転がりこんできた事だ。
まぁ、おかげで、飯を作る手間が半分になったので、楽はさせてもらってるけど。口やかましく、色々言われたりは、多分にある。
少しはルーズな生活させてくれ。法子。俺の部屋なんだから。
そんな事を考えつつ、買い物を済ませて、アパートに帰ってきたところで、俺は、後ろ手に押さえ付けられ、何やら薬をかがされたらしく、意識を失った。
気が付いた時には高速をひた走る車の中だった。ガタイのいい男二人と一緒に。
二人ともアイボリーのスーツに黒シャツ、赤ネクタイ、オレンジのサングラスと、一風変わった、いでたちの男だった。
まさと「ぁ・・・。」
男1「気が付きましたか。あ、暴れないで下さいね。暴れられると、また眠ってもらう事になりますので。」
まさと「なんだよ、こりゃぁ。」
運転している男が答える。
男2「あなたにはこれからあるところへ来ていただきます。政府からの要請で。」
まさと「え、政府・・・・?」
男1「はい。行き先は到着するまでお答えできませんが。」
まさと「おいおい、そんなので、信用できるかよ。」
立ちあがろうとした時だった。また薬をかがされた。
気が付いた時には目的地だろう、どこかの病室のようなところに居た。
???「ああ、やっと目がさめたわね。」
まさと「あっ。」
とっさに身構える。その声に、何かしら緊張感のような物を感じたから。いや、危機感だったかも知れない。
???「はい。暴れない。話しを聞きたいのだったらね。」
まさと「くっ。」
端的かつ、もっともな事だ。俺は、微動だに出来なくなった。
???「宗方柾人。間違いないわね?」
まさと「あ・・・ああ。」
???「ここは、鬼祀超常研究所ハーティーアイズ。私はここの所長の鬼祀亜深。そこの二人は、あーくん、べーくんと呼んでるわ。ここに居るのはこれで全部。」
まさと「超常?」
亜深「そう。超常現象を扱っている所だと思って。広くね。あなたの身柄はしばらくうちで預からせてもらう事になったから。」
まさと「はぁ?」
亜深「ここに居てもらうと言ってるの。日本国政府からの要請でね。」
まさと「ちょっと待ってくれ。それで、なんで、こんな・・・。」
亜深「眠っては貰ったけど、危害は加えてないはずよ。」
まさと「それは・・・大体、政府の要請って・・・信じられるかよっ。」
亜深「でしょうね。じゃぁ、確認を取ってみて、あ、携帯は使えないから、こっちの電話を使って。」
そういうとその女は電話機の子機らしいのを渡す。
まさと「どこへ掛けてもいいのか?」
亜深「ええ。あなたが確認を取れるところならね。」
早速、広江さんの携帯に掛ける。こういう時は彼女に聞くのが早いだろう。
が、電話に出た広江さんはひどく動揺していた。
広江『す、すまんっ。い、いえ、ごめんなさいっ。私ではどうしようも・・外務省、科学技術庁、いろんなところから通達が来て、何の手も打てなかった。急な話しで・・・ほんと・・・。あ、怪我はないわよねっ?』
まさと「ええ、それは・・・じゃぁ、政府のってのは・・・。」
広江『ええ、そう。それは間違いはない。指示に従うのが一番安全だと思う。妹さん達には私から連絡を入れておくから、そっちの心配は、要らないと思う。』
まさと「そう・・・ですか。」
電話を終えてしばらく考えこむ。
UPB特捜部経由ではなく、国が直接動いたってことなのか。
けど、なんで? ガルウの起こした事件は全て解決したし、その後事件が起きた話しなんて聞いていないし。
混乱するばかりだ。
亜深「納得してくれたかしら?」
まさと「納得は・・・してない。政府の要請ってのは理解できたけど。これって・・・・誘拐じゃないか。」
亜深「そう。誘拐。けど、それが必要だったのよ。秘密裏に調べる様に要請されたからね。悪く思わないで。もちろん、協力してくれるなら危害を加えるつもりはないわ。」
まさと「・・・・・・協力・・・・・ね。」
それから、俺と、亜深さんとの、冷戦状態が始まった。
レントゲンに、CT、訳のわからん透過台、血液採取、と、いろんな検査を受けた。
検査の時以外は、自由に所内を動きまわってもよかったし、三度の食事もちゃんと出るし、風呂も入れた。寝床だって、一部屋与えられた。
ただし、外へは一歩も出してもらえなかった。あーくん、べーくんが睨みを効かせていたし。何より、俺が、外へ出ようとすると、必ずといっていいほど亜深さんが現れた。
亜深「どこへ?」
まさと「外の空気吸いに。」
亜深「窓からどうぞ。協力、してくれないと困った事になるのよ?」
まさと「・・・・・・わかったよ。部屋に戻る。」
そんな事を何度も繰り返した。
1週間ほど経過した頃、ようやく、何かが変わり始めた。
亜深「昨日までで、一通りの検査は終わり。今日からは色々質問に答えてもらうことになるわ。いいわね?」
まさと「はいはい。どうせ、俺には拒否権はないんでしょ。」
亜深「いいえ。拒否権はあるわ。ただし、身の安全と引き換えだけど。」
亜深さんの目がいつになくきつくなる。
正直、蛇に睨まれた蛙、と言うんだろうか、拒否する事は出来ないと思えた。
亜深「それじゃ、少し話しでもしましょうか。依頼とは別の。」
まさと「・・・・・そんな時間あるんすか?」
亜深「あるような、ないような。どっちとも言える。どうする?」
まさと「いっぱい聞きたいことはあるけどね。聞かせてもらえるなら。」
亜深「そうね。聞かせていいことなら。」
とにかく、この女、食えない。
まさと「ここって、ほんとのとこなんなんだ?」
亜深「ハーティーアイズ?」
まさと「ああ。」
亜深「言ったと思うけど。もっと知りたい?」
まさと「出来たらね。外に出れないこととか、そのそもそもの理念とか、俺は、いつ帰れるのかとかさ。」
亜深「んー、そうね。ここは、極秘裏に調査解決を行う、特殊機関。そういうもの。やってるのは裏の仕事なのよ。だから、存在自体が内密になってる。建物の周囲には結界が張られていて、一般の人には見えないわ。だから、おいそれと、外に出てもらっては困るの。」
まさと「裏の仕事・・・。」
亜深「悪事を働いているわけではないわ。」
まさと「そりゃ、わかる気はするけど・・・。」
亜深「そういうものだと、理解してもらうしかない。それから、あなたにはまだしばらく居てもらう事になるわ。早くて三ヶ月、長ければ・・・・ちょっと具体的な数字は出せないわね。」
まさと「随分と期間に幅があるな。」
亜深「調査の進み具合と結果によるから。クライアントから新たな指示が来たりする可能性もあるからね。」
まさと「はぁ、じゃぁ、クライアント、つまり、政府が納得するまで、俺は帰れないのかよ。」
亜深「そういう事になるわね。だから、仲良くした方が結果いいほうへ進むわよ。」
まさと「じゃぁ、政府は何を求めてる?」
亜深「それは答えられない。と言いたいところだけど、まぁいいでしょう。答えてあげるわ。」
まさと「へぇ。」
亜深「政府は、あなたを恐れてる。いえ、あなたの能力と、異文明の地球に及ぼす影響を。だから、どういうものなのかの調査を依頼してきた。そんなところね。」
まさと「なんだよそれ。俺達の出した資料じゃ不足だってことか。」
亜深「そりゃぁそうでしょう。不明点が多すぎる。ガルウ騒乱に関しての資料は。」
まさと「・・・・・・まぁ、返す言葉はないんだけどな。俺達もわかってない事多かったから。」
亜深「だからよ。依頼がきた理由はそこだと思える。知りたくない? 自分がどういう仕組みでいろんな能力が使えてるのか? とか。」
まさと「そ、そりゃ・・・・。」
亜深「ガルウ騒乱の資料は全部目を通させてもらったわ。個人的にも興味があるのよ、マジェスティックスの存在と、魔法、魔導科学の実際にね。」
亜深さんの目が好奇心の輝きに満ちる。一瞬、魅入られたかと思うほどに。
まさと「あ・・・・。」
亜深「教えて・・・あなたを。」
まさと「いや、けど・・・。」
亜深「見返りが欲しい? あげるわよ。いくらでも。なんでも・・・・ね。あなたが協力してくれさえするなら。」
まさと「なんでもって、そりゃ、大盤振る舞い過ぎないか?」
亜深「嘘じゃないわよ。それだけ興味を引かれてるのよ。異文明と・・・・あなたにね。」
まさと「世の中、知らないほうが幸せって事もあるらしいけど?」
亜深「一般的にはね。けど、私は、知らないで後悔するより、知って後悔する方がいいわ。それも、必ず後悔するとは限らない。なら、知ったほうが得よね?」
まさと「根っからの学者肌か?」
亜深「ふ・・・そうね。私は知りたがりよ。知りたいの、あなたの・・・・・・全てを。」
亜深さんは、立ち上がって、俺の目の前までくると、膝を俺の座ってる椅子に乗せ、身を寄せるようにしてくる。
そして、静かな目で俺を見つめてくる。
亜深「見返りが欲しいなら・・・好きにしてくれて・・・いいわ。」
まさと「・・・・・いや、その・・・二人が見てるんで・・・あ。」
二人と言うのはさっきからずっと壁の花をしている、あーくん、べーくんの事だ。
二人はさっきまでしていなかった、オレンジの眼鏡をして、視線を隠している。
あーくん「見ておりません。」
べーくん「同じく。」
まさと「・・・・・・・・・・・・・こいつら。」
亜深「この二人はそういう事に興味を持ってないわ。忠実な部下だから。」
まさと「って、そういう問題じゃねぇって。俺は・・・そんな気はないよ。」
亜深「ひどいわね。私はそんなに魅力ない? 見返りとしての価値がない? これは真っ当なギブアンドテイクなのよ?」
まさと「正直に言う。おれは、あんたが怖い。」
亜深「そう?」
まさと「まかせちまったら骨まですりつぶして調べられちまいそうだ。」
亜深「ふふっ。そうね。・・・・・・・私はそういう女よ。だから、依頼も私のところへ来た。そういうことでしょ。」
まさと「・・・・・。」
亜深「ふん。この程度じゃ落ちないか。いいわ、部屋に戻って。」
亜深さんは自分の椅子に戻る。しかし、その表情は怒っているのか残念がっているのか読みきれない。
まさと「・・・・ほんと、益々怖くなった。」
亜深「これだけは覚えておいて。これはビジネスなの。全ての調べが終わるまで、あなたは自分の生活には戻れないわ。いい?」
まさと「・・・はい、そうですか。」
亜深「食えないわね。まったく。」
俺は、部屋に戻って、この日は早々に寝た。
翌朝、早くから、亜深さんが朝食を持って部屋に現れる。
亜深「ここで、食べるわ。」
まさと「・・・・・・・・・・・・・。」
亜深「嫌かしら?」
まさと「いいや。何企んでるのかなと。」
亜深「・・・・・・いっぱい企んでるわ。」
まさと「・・・・朝っぱらから熱心な事で。」
亜深「簡単な事よ、密着して、隙を探す事にしたの。心の隙をね。」
まさと「あらそ。まぁいいや。こっちにくれ。」
亜深さんが持ってきた朝食を食べる。
トーストを口に運んだ、亜深さんは、一瞬嫌な顔をして、トーストを口から離した。
まさと「ん?」
亜深「うぇ。・・・・・・・焦がした・・・・・・。」
まさと「あ、ほんとだ。裏が黒い。」
亜深「ああ・・・。慣れない事はするもんじゃない。」
まさと「いつもは?」
亜深「食事はあーくんが・・・。」
まさと「へぇ。そうか。まぁ、もったいないから食うよ。この位の焦げ、香ばしいくらいだ。」
亜深「・・・・・・変わってるわね。」
まさと「そうか?」
亜深「そうでしょ? あなたは今、軟禁されてるのよ? 警戒するとか、心配事とかないの?」
まさと「調査?」
亜深「いいえ、素朴な疑問。」
まさと「ふーん。心配事はあるけどね。俺、ここにいる間、バイトできないから。部屋の事とか、支払いとか。」
亜深「その心配はないわ。ここにいる間の妹さんの生活は私達が保証します。」
はっとなる。
まさと「人質・・・か? 法子を人質にするつもりかっ!?」
亜深「ああ・・・・そういう手もあったわね。でも、それはあなたに対して得策じゃないでしょう。かえって反発されそう。長期にわたる場合、一定以上の生活資金をあなたの口座に振り込むことになってる。まぁ、献体料とでも受け取っておいて。」
まさと「どの程度なんだ?」
亜深「あなたの過去半年の平均月収額相当。ってところ。」
まさと「そんな事まで、調べついてんのかよ。まったく、調べる事なんて残ってないんじゃないのか?」
亜深「さぁ、どうでしょうね。」
まさと「はぁ。まぁ、あんたらの本気さは、わかるつもりだけどね。」
亜深「じゃぁ、協力して。あ・・・にがっ。」
まさと「焦げたとこそぎ落としてくればいいのに。」
亜深「そうだ・・・・・やってみてよ。」
まさと「なにを?」
亜深「聖剣で、薄皮一枚。見てみたいわ。」
まさと「おいおい。俺は大道芸人扱いか?」
亜深「一般人から見たら、大差ないでしょ?」
俺の意思を確認するまでもなく、亜深さんは少し離れたところにトーストを平行に構えて立った。
まさと「俺、やるって言ってないんだけどな。」
亜深「屈指の技なのか、大道芸なのか・・・・証明して見せて。」
まさと「・・・・・・・はいはい。」
亜深さんから離れたところに立ち、くさなぎを呼び出す。
まさと「・・・・・パンだけ置かない?」
亜深「・・・・・叫ぶんじゃなかったの? いえ、この姿勢でいいわ。」
まさと「いつからか、呼ばなくても、必要な時は出てくるようになった。声よりも俺の意思に反応してる感じだ。でも、一緒に斬っちゃいそうで。」
亜深「ふむ。声よりも意思そのものに反応する、理に適ってるわね。斬り倒されたらその時は、運が無かったとあきらめるわ。」
まさと「あ、そっ。」
くさなぎを横一線に振りきる。
亜深「え。あ。もう?」
亜深さんの手にしたトーストから、焦げた部分が数ミリの厚みでそぎ落とされ、床に落ちた。
まさと「はい、おしまい。」
亜深「おみごと。協力、してくれるのよね?」
まさと「・・・・・俺に出来る事だけな。俺に出来ない事は、ノーだ。」
亜深「それでいいわ。」
まさと「ただ、調べた結果全部、俺にも教えてくれ。俺だって、知りたいことは山ほどあるし。な。」
亜深「ええ。それは必ず。」
それからは、くさなぎや、盾、俺が発動させる事が出来るようになった魔法、それらを多角的に調べる日が続いた。
ただし、相変わらず外には出してもらえなかったが。
そんな日々の中でも、やはり、亜深さんの内面は掴めなかった。読み切れなかった。あまり表情を変えないから。
唯一、俺の事を調べている間を除いては。
その時ばかりは、爛々と目が輝いてるのがわかる。
建物がL字に曲がっていて、その曲がった先が円筒型の多目的試験場とでも言うのだろうか、そういう広い空間になっていて、俺は、毎日の様にそこで、くさなぎなどを呼び出し、データ採集に付き合った。
まさと「なぁ、なんかわかった?」
亜深「そろそろ、なぁ、とか、おい、とか、やめにしない?」
まさと「ん?」
亜深「名前で呼んで。今度、おい、とか言ったら、ちょん切って標本にしてあげる。」
まさと「ちょ、ちょん切るって・・・ど、どこをだよ。」
亜深「秘密。ふふふっ。」
まさと「亜深・・・さん、でいい?」
亜深「ええ。呼び捨てでも構わないわ。そうね。わかった事といえば、その剣が超振動ブレードの類だってことぐらい。」
まさと「ああ、振るえて切れ味増すやつ。」
亜深「そう。その振動を極限まで上げた状態で振ると、空気の層に裂け目が出来る、それが、その剣の剣圧の基本になってる。もちろん、それだけじゃ、威力の証明にはならないけれど。」
まさと「かまいたち現象・・・か。なんかありがちだな。」
亜深「かまいたちと言っても、それこそ半端じゃないけどね。」
そういって、亜深さんは、補修跡だらけの試験場の壁を指差す。
この補修跡は、くさなぎを振ることで出来た、傷を直した跡だ。
一度は、試験場自体が倒壊しそうな騒ぎまであった。
亜深「もう少しで、魔法効果を詳しく測定できる機材が搬入されてくるから、そしたらもっと詳しい事がわかるわ。」
まさと「やっぱり、魔導の力が関連してるって事か?」
亜深「そう思うわ。」
そうして日々が続いた。
ある日の事、俺は、前々から気になっていた事があったので、やはり、聞いてみることにした。
まさと「なぁ、それ、なんで、一日中、右腕だけ長い手袋してんの?」
亜深「あ。」
そう。亜深さんは、何をする時も、右腕だけ、上腕まですっぽり覆い隠すような手袋をしている。
いまだかって、手袋をはずしているところを見た事が無い。
亜深「ちょん切ろうか?」
まさと「・・・・・・あっ。いや、今の、なぁ、は、なんとなくであって・・・。」
亜深「ふふふっ。手袋ね・・・。」
まさと「あ、いや、聞いちゃまずかったか。」
亜深「いえ、これは、こちらからのギブでしょうね。いいわ、教えてあげる。」
まさと「うん。」
亜深「指が10本あるの。」
まさと「・・・・・・・・誰が信じますか。」
亜深「ダメ? じゃぁ、手の平に目玉があって・・・。」
まさと「おい、こら。」
亜深「・・・・・・やっぱり、ちょん切る?」
まさと「うぉ。どこをだよっ!」
亜深「とってもいいところ。」
まさと「なんなんだそりゃ。」
亜深「内緒。私の・・・・右腕ね・・・ひどいケロイドがあるのよ。だから。」
まさと「あ、そりゃぁ・・・。」
亜深「鬼の手がついてたり、サイボーグだったりで、腕から必殺技・・・とか考えてたんじゃないでしょうね?」
まさと「いや、ほんのちょぴり。だけ。ほんと、ちょっとだけだよ。ちょっと。」
亜深「怪しいな。必死になって否定するところが・・・・。ふふん。」
まさと「あー、いやー、ごめん。」
亜深「そんなもの、ついてたら、面倒なだけよ、いろいろね。必要な時だけ出るほうが効果的よ。それとも化け物の手でされる方がいいの?」
まさと「され・・・・・ど、どーだろーね。はははー。」
亜深「笑いが乾いてる。まぁ、そういうことだから、それ以上は詮索しないで。」
まさと「ああ。納得はしたよ。」
ケロイドか。まずい事聞いちゃったかな? けど、二度聞く事もないだろうから、これはこれでいいだろう。
それから数日して、俺の口座に振り込みしたと言うので、法子に電話確認とってみる。
法子『あ、生きてた生きてた。とっくに標本にされたんじゃないかと思ってたー。』
まさと「お前な・・・・・・・・。」
法子『うん。振り込みあったみたい。生活費に使っていいの?』
まさと「ああ、入ってるなら使え。俺の代金だ、しくしく。」
法子『この際だから、そっちにずっといたら? 私楽できるしー。』
まさと「お前なーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
亜深「愉快愉快。」
まさと「ウケないでくれ。」
亜深「ふっ。」
法子『ああ、そうだ。警部さんがね、転属になるって言ってたよ。』
まさと「警部・・広江さんが?」
法子『うん。なんだか、急に海外に行く事になっちゃったんだって。あ、携帯は解約したそうだから、そっちから連絡つかないってさ。』
まさと「そうか・・・・。」
広江さんが特捜部から外れたのか。
このとこ事件もないみたいだし、規模縮小して配置転換てのはありがちで仕方ないとこなんだろうけど・・・・。
まさと「あ、そうだ。ファルネ。あ、なんか妖精みたいなのこなかったか?」
法子『あ、あの。ううん。来てないよ、全然。私が学校行ってる間は知らないけど。』
まさと「そうか。わかった。じゃぁな。」
電話を切る。
亜深「ファルネって、あの、端末の?」
まさと「え、ああ、そう。向こうとのパイプ役をやってくれてる。最近はめっきり来なくなったけど。」
亜深「ふぅん。神様役も暇じゃないってところか。」
まさと「だろうな。」
亜深「出来たら、そのファルネも詳しく調べてみたいとこだけどね。今度来たら捕まえておいて。」
まさと「ファルネは虫じゃないぞ。」
亜深「惑星管理システムの事も出来たら調べたい、そういうこと。」
まさと「そりゃ、わからんでもないけど・・・。」
亜深「それが自由に使えるなら、地球が抱えてるさまざまな環境問題が解決できる可能性がある。と、政府は考えるでしょうね。」
まさと「あ・・・・・そこまで考えが行ってなかった。」
亜深「もちろん、私達が扱って良いものかどうかは別。」
まさと「調べてみないとわからないとか、言うんでしょ?」
亜深「そう。まぁ、考えておいて。向こうが拒否するかも知れないし。」
まさと「お説ごもっとも、なんだけどさ。」
8月に入って、事態が急変する。
なんでも、関東圏で、魔獣らしいのが、出始めたと言う。
被害その物は出ていなかったようで、今のところ、目撃情報のみ。といったところらしいが。
早速、あーくんが、調査の為出張って行った。数日空けたままになるらしい。
ガルウ騒乱の時、俺達が関東で、もたもたやってる頃も、あーくんとかべーくんとか、裏で調査していたらしい。
なるほど。俺をここへ連れてきた時の手際がよかったはずだ。
まさと「飯、どうすんだ?」
亜深「べーくんが作るでしょうね。彼だって料理は上手いわよ、あーくんほどでもないけど。」
まさと「ふぅん。ところで、あの二人、本名とかは?」
亜深「それは、言えない。仕事柄ね。愛称とかコードネームみたいな物でしか呼んでないの。」
まさと「にしたって、一般呼称的過ぎって言うか。」
亜深「街中で、ナントカホークとか、そういう呼び方するほうが怪しまれるでしょ。」
まさと「・・・・・あ、またもやごもっとも。ひょっとして、あー、べー、って、A、B?」
亜深「・・・・・・・そうよ。三人目の部下が出来たらつぇーくん。」
まさと「はいはい。アイン、ツヴァイの方が良いと思うんだけどなー。」
亜深「怪しまれるわ。」
まさと「あー、べー、も、かわんねぇって。」
亜深「ふふん。逆らうの?」
亜深さんの目が輝く。
まさと「いえ。全然っ。」
亜深「通しきれないなら逆らわない。」
まさと「へーい。」
亜深さんの目はほんと怖い。
なんて言うか、広江さんの目以上と言うか、ファリアの目以上と言うか。
マジに冷徹な怖さを感じる。見据えられたら嫌と言いきれない。そういった類。
亜深さんの顔を見ながらそんなことを考えていると、その雰囲気を悟られた。
亜深「なに?」
まさと「いや、ちょっと考え事を。」
亜深「したいの? じゃぁ、部屋で待ってて。すぐ行くから。」
まさと「そっ、そうじゃない、そうじゃない。」
亜深「ふーん。そうか、じゃぁ、後で、ベーくんにお願いしてみるわ。」
まさと「そういうことでもないっ! そっちの趣味はねぇっ!」
亜深「そっちって、どっちなのよ。」
まさと「あうーっ!」
亜深「・・・・・・・冗談よ。」
まさと「・・・・・・・・・あぐっ。」
だめだ。完全に遊ばれてる、俺。
まさと「俺って、やっぱり、ただの献体扱い?」
亜深「・・・・・・・・・・どうして?」
まさと「いや・・・。なんか、腑に落ちなくて。どこか。」
亜深「少なくとも人として見てるから、相手をしてあげるって言ってるんだけどな。自由もそれなりにあるでしょ?」
まさと「いや、そう言われればそうなんだが。」
亜深「自分が変わっているのは認めるわ。だから、こんな仕事もしてる。それで納得できない?」
まさと「あ、いや、ごもっともです。納得しました。」
亜深「いいコね。」
まさと「はぁ・・・。でも、さぁ、ちょっと安売りし過ぎなんじゃないの?」
亜深「そう?」
まさと「そんな簡単に相手とか、そういうもんじゃないでしょうに。」
亜深「うん・・・・・私は・・・その程度の女よ。そういう事にしておいて。」
まさと「いや、そうは見えないんだけど。」
亜深「んー? やっぱり、くどいてるの?」
まさと「いや、なんか気になって。」
亜深「まぁ、どういうのかな、脛に傷ありかな。何度も死にそうな目にあってるし。私程度でよければ。そうなるのよ。」
まさと「仕事柄ってことか・・・。」
亜深「そうね。で、する?」
まさと「あ、いや、いい。」
亜深「そう? ・・・・意外と淡白っと。」
まさと「調査のうちかいっ。」
亜深「個人的なリサーチ。」
まさと「あ、さようで。」
納得するとこがあるようで、それでも読み切れなかったり。謎の多い人だ。
そんなこんなで、あっという間に三ヶ月が過ぎた。
その間も、魔獣の目撃情報が絶えず、あーくん、べーくんも、交代で、関東とここを行ったり来たりしてる。
もう10月。
この日は魔獣目撃情報が同時多発したため、あーくんも、べーくんも、関東方面に出張ってしまい、ハーティーアイズは、亜深さんと、俺の二人きりだった。
まさと「一体、なにが原因なんだろうなぁ。ダイアはもう、魔獣を送りこんでくるなんて事はしないだろうし・・・。」
亜深「あーくん達の今までの調査でも、はっきりした事はわからないわ。後から、情報を集めてるだけだし。気になるのは・・・。」
まさと「ん?」
亜深「例の電磁波、ここのところ余り観測はされてないらしいの。転送ではなく、自然発生した可能性がある。」
まさと「発生!?」
亜深「あ。うん、貰った資料にある、魔獣の生成法を見てて思いついたんだけどね。条件さえ揃えば魔獣は自然発生する可能性があるの。」
まさと「俺、てっきり、送りこまれてくるものばかりだと思ってたが・・。」
亜深「いい? 魔獣って、念や指令を封じこめたコアを、一定以上のマジェスティックスの中に置くと、発生するって事になってるわよね?」
まさと「ああ、後から、ダイアが追加してくれた分だな。それが?」
亜深「コアは、マジェスティックスの結晶体その物で、ごく稀にマジェスティックス同士の衝突によって核が形成され、コアにまで成長する事があるらしい。」
まさと「え・・・・・じゃぁ。」
亜深「風溜まりや、ビル風等、核形成の条件が揃いやすい、過密型都市。そこに集まった、人々の意識。これ、念といっていいわよね。恨み、妬み、羨望・・・・その他諸々。」
まさと「ああっ。」
亜深「その念を元に、偶然が生んだ結晶核が、魔獣を発生させる。・・・・・推論だけど。」
まさと「必ずそうなるってんでもないだろうけど、条件は・・・揃ってるんだ・・・。」
亜深「さらに、ガルウ騒乱で、一時的にとはいえ、マジェスティックス濃度が飽和状態にまで上がった事で、その確率が上がった可能性がある。いえ、今でもまだ、地球上のマジェスティックスは増え続けているのかも。だから、最近になって再発した。ボーダーラインを越えて。」
まさと「やな偶然だな。」
亜深「そうね。今のところ、マジェスティックス濃度は薄いままだけど、局地的な特殊条件下ではボーダーラインを越えないと断言できないわ。」
まさと「ちょっと待ってよ。その濃度の情報はどこから?」
亜深「あ、気がついた?」
まさと「気付くよ。誰もまだその計測については・・・。」
亜深「この眼鏡。」
亜深さんは、あーくん達がしているのと同じオレンジの眼鏡をコンコンと指でつつく。
まさと「それ、まさか。」
亜深「そう。これで、マジェスティックスの濃度がわかるのよ。大まかな値だけど。」
まさと「うわー、ハイテク。」
亜深「どうかな? 科学技術と言うより、魔導科学の恩恵で、先頃試作が終わった段階の物だから。」
まさと「魔導科学!?」
亜深「ええ。貰った資料を元に2年前から研究をはじめた物よ。マジェスティックスが薄ければ無色透明に見えるけど、濃度が上がっているところはオレンジ掛かって見えるようになる。濃度が上がればオレンジはどんどん濃くなる。」
まさと「すげー。」
亜深「眼鏡が見えなくなるほどオレンジが濃くなる時には、肉眼でも確認できる濃度、つまり、飽和直前ってことね。」
まさと「どういう仕組みになってるんです?」
亜深「マジェスティックスのみが反射する不可視波長の光。それを受けると透過率が変わる素材で、レンズが出来てるの。」
まさと「はぁ・・・・なるほど。大量に受ければ受けるほど色が変わって・・・。」
亜深「試してみる?」
亜深さんは、自分の眼鏡をはずして、差し出す。
まさと「ああ。」
その眼鏡をつけると、いい香りが・・・・あ。違う、こりゃ、亜深さんのつけてる香水かなんかだ。
あたりを見回すと、まず、無色透明、オレンジ色には見えない。が、時折、もやっと黄色味掛かるところがある、つまり、そこに、微妙にマジェスティックスが浮いてる、漂っている、ってことか。
まさと「ああ、なにげに薄いのがふよふよと。」
亜深「そう。それ。黄色系だから、よほど濃くならない限り、視界の妨げにもならないし、結構使えるでしょ。」
まさと「特許は?」
亜深「出せますか。そんなものっ。まだ、非公開情報なのにっ。」
まさと「ああ、そうか。」
亜深「公開可能になったら、真っ先に申請出すけどね。」
そこで、電話が鳴る。
どうやら、どこかから仕事の依頼電話の様だ、さっきまでの話し口調とは全然違う硬調な感じが、それを感じさせる。
亜深「はい・・・・え・・・・・この近くででしょうか? はい・・・・はい・・・・ですが・・・。」
まさと「どうした?」
亜深「あ、この近くで、電磁波が観測されてるらしいの。転送か、魔獣の発生か・・・・。」
まさと「まずいねそりゃ。なんとかしなくちゃ。」
亜深「そうよね・・・あっ。・・・・・・・・・・・・・・・ふふっ。」
突然、亜深さんは目を輝かせると、電話口に戻る。
亜深「はい、状況は把握できました。すぐ、こちらのエージェントを派遣致します。ご安心を。ええ、腕のいい人材をご用意できますので。」
まさと「なんだ?」
あーくんか、べーくんが戻ったのかと、あちこちみまわしてみるが、姿はない。
じゃぁ、亜深さんが出向くんだろうか?
電話を終えた亜深さんが俺の目の前に立つ。
亜深「行ってくれるわよね? つぇーくん。」
まさと「つぇ・・・・なにぃぃぃぃぃっ!?」
亜深「こんな事もあろうかと、用意しておいてよかったわ。はい、制服に、眼鏡に・・・簡易電磁波測定機。それから・・・。」
まさと「おいおいおいおい。」
亜深「外に、君のスクーターあるから。あ、はい、この辺の地図。」
まさと「スクーターって、えらく根回しが・・・・ぐわっ。大台ケ原っ! こんな実家に近いところへ来てたのか俺はっ!」
亜深「この道をずっと下がったところに滝があるわよね? その辺を重点的に張ってみて。暗くなったら、結果がどうあれ戻ってきてくれていいわ。」
まさと「その間に何か起きたら、何とかしろってか?」
亜深「そうね。よろしく。」
スーツに着替えて、ようやくの外出。
ほんとに、表には俺のスクーターが駐めてあった。なんか、作為的な物をビンビン感じずにいられない。
が、電磁波観測とあれば、行かないわけにも行かないよな、やっぱり。
車一台やっとと言った細さの、林道っぽい道を抜けて、舗装道路に出る。
結界を張ってある、と言う事だったが、見えるよなぁ、この林道。
まぁ、それはともかく、この舗装道路を南に下ってけば電磁波が観測されたと言う地点だ。
俺は、渓谷にそって伸びる道をスクーターで、駆け下りて行った。
亜深「さぁ、この大きな賭け、どう出るかな?」
目的地に着くと、どうやら職員らしい人が数人、山の上の方を見上げている。
まさと「お待たせしました。」
職員「ああ、鬼祀さんとこの。」
まさと「ええ。状況は?」
職員「今のとこ、なんもない様す。後、お任せしていいすかね?」
まさと「ええ。」
まぁ、まかせられても困るけど、万一の場合、俺だけのほうが暴れやすい。
引き上げてもらった方が得策だろう。
まさと「さて・・・と。」
眼鏡には少々濃い黄色が写り始めてる。濃度が濃くなってる。
電磁波も微弱だが、計器に反応がある。
まさと「これで、なにも起こらなかったら、おめでとうってところか。条件揃いすぎ。」
直後、メキメキと木々をなぎ倒しながら、駆け下りてくる白い固まりを目撃する。
出た。出やがった。
まさと「くっ。」
俺は、その進行方向から少し外れた位置で、くさなぎを構え、魔獣の接近を待った。
その魔獣は、蛇の様に地を這う、妙に平べったい形をしていた。
上から見るとでっかい矢印とか、マウスカーソルとか、そんな形したやつ。
その胴体の縁は鋭く、刃物の様に木々を切り裂きなぎ倒してくるのだ。
まさと「どりゃっ!」
近づいて来た所で、くさなぎを一閃、狙いやすかった頭を両断する。
魔獣は、勢いに任せて舗装路まで転がると、そこで動かなくなった。
まさと「嫌にあっけないな・・・。」
違った。魔獣は再び動き出した。二つに割れた頭はすぐに再生し、それぞれが独立して頭の形になり、双頭になったのだ。
まさと「でっかい・・・・・・・プラナリア・・・・・。」
もし、俺の直感が正しければ、こいつは迂闊に斬る事は出来ない。
斬れば斬るほど、こいつは個体数が増える。
それはわかっていたのだが。
まさと「うわっ。」
猛然と突進してくる魔獣に対して、俺はくさなぎを構えてしまった。真正面に。
胴体を綺麗に二分する形で、二つに分かれた魔獣は、俺の後ろで、べちゃっといやな音を立てて、地に崩れる。
恐る恐る振りかえると、二つに分かれた魔獣の体は、それぞれが1個の固体となるべく、再生して行くところだった。
予感的中。
俺は、くさなぎでの攻撃をあきらめ、魔法による攻撃にスイッチするべく、腕を構え、意識を集中させて行った。
が、しかし、俺が魔法を放つより早く、魔獣は再生を果たし、2体となった魔獣が、同時に飛びかかってきた。
まさと「くそっ!」
道路の端のほうへ避けながら魔獣の近いほうに居る1体へ向けて炎を放つ。
こういう時はどっちかから、手をつける以外無い。一度に倒せるほど俺の魔法は優れてないし。
が、しかし、炎は、かわされ、魔獣は、今また2体ともこちらへ向かってくる。
まさと「やべっ!」
その時、横合いから吹きこんでくる突風が、つむじ風となり、魔獣2体を天高く巻き上げた。
まさと「あっ!」
???「ミスティィィック・トォーーーーネーェェェド!」
突風が吹いてきた方を見る。
ミュウ「ミスティィィック・ボンバァァァァーーーーーーーーーーーーッ!」
その方向には、ミュウが居た。ブースターを装着した姿で。
ミュウは、上空の魔獣を目掛け、一直線に飛び、自慢の技を放つ。
魔獣を貫いて、ミュウが上空で静止すると、魔獣は粉微塵に吹き飛んで、消えた。
それを確認すると、ミュウはすとんと、路面に着地し、バイザーを開いた。
ミュウ「・・・・・・・よっ!」
まさと「よっ! じゃねぇよ。あーあー。なんか、俺、形無し。」
ミュウ「この辺だったんだ。軟禁されてるとこ。」
まさと「ああ、お前も聞いたか。」
ミュウ「うん。法子ちゃんとか、特捜部の人にちょっとずつ。で、出てきてていいの?」
まさと「・・・・手が足りないって、狩り出された。」
ミュウ「たーいへんだねぇ。国の命令とは言え。」
まさと「まぁな。出るかもしれないってんじゃ、ほうっても置けなかったし。」
ミュウ「だね。あたしも、それで、大急ぎですっ飛んできたとこ。特捜部で話し聞いて。」
まさと「なにぃ!? んじゃ、東京からずっと飛んで来たのか?」
ミュウ「うん。ブースターつけてるからへっちゃら。」
まさと「おーおー。最初は飛ぶのに苦労してたのにー。それより、どうしたんだ、急に。何か起きたか?」
ミュウ「あー、うん。なんか、転送が起きとるようでの、しばらくあっちの様子を見てくるのぢゃ、と、シルビーちゃんに急かされて。」
まさと「あー。物真似はいいから。そうか。向こうでも確認してるか。原因は・・・。」
ミュウ「ううん。パールもダイアも原因がわからないって。」
まさと「そっか。お前、住むとこは大丈夫だな?」
ミュウ「うん。誰かさん家で、法ちゃんと一緒。」
まさと「そーか。じゃ、俺、報告しに戻るわ。結果聞いたら怒るだろうけど。あそこの所長。まぁ、とんびに油げさらわれたとでも言っとくわ。」
ミュウ「とんび? あたし?」
まさと「そーそー。」
ミュウ「はははっ。じゃぁ、とんびも空飛んで、戻るね。こっちも報告しないと。」
一度、振り返りかけて、こっちに向きなおす。
ミュウ「また・・背、伸びたね。ほら、背伸びできるよ。」
まさと「お。ほんとだ。お前縮んでないか?」
ミュウ「縮まない縮まない。でも、顔見れたんで、安心した。」
どちらからとも無く、キスをする。
背伸びが出来たからか、なんか、満足げなミュウ。
まさと「ああ、そうだ。転送されなくても、魔獣が出る事があるらしい。気をつけろよ。その内、政府経由で情報いくかもだけど。」
ミュウ「ん、わかった。」
超音速で東に向かう我が相棒を見送る。
そうだ。音速超えてないと、さっきのタイミングで、間に合わないよな絶対。
超音速の相棒、素敵過ぎ。
亜深「で、とんびは音速超えて飛んで帰ったのね。」
まさと「ええ、まぁ。役に立てずで、申し訳無いけど。」
亜深「一件いくら入るはずだったと思ってるのよ・・・まぁ、こっちも、無理言ったから仕方ないけれど。」
まさと「いくら入るの?」
亜深「企業秘密。」
まさと「あ、やっぱり。」
亜深「ところで・・・。」
なぜか、亜深さんはニヤニヤしている。あれ? 怒っていないのか?
亜深「なんで、そのまま東京へ帰らなかったの?」
まさと「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あっ。」
亜深「あははははははははっ。いいわ、また協力よろしくねっ。」
まさと「いや、ぜんぜん考えてなかった。俺も、調べたい事いっぱいあったし。ねぇ。」
亜深「そうね。そのうち、その恋人、紹介してね。ミュウさん、だったわね?」
まさと「調べたいから?」
亜深「ええ。」
まさと「本人がオッケーって言ったらね。」
亜深「大丈夫よ、私の眼力を持ってすれば。」
まさと「・・・・・怖いって、それ。」
亜深「あ、そぅ。まぁ、そういうことなら、そろそろ本腰入れますか。」
まさと「えっ。今までそうじゃなかったの?」
亜深「ぜんぜん。」
まさと「うーわー。」
亜深「誰かさんが協力的になるのを待ってたのよ。覚悟しておいて。」
まさと「うわうわうわうわ。」
亜深「これからは必要なときは出掛けてもらっていいわ。逃げたりはしないでしょうから。ただし、制服眼鏡着用で、私に声掛けてからにして。」
まさと「はーいー。そーしますー。」
なんか、まんまと亜深さんの策略にはまった気がする。
が、パールがこっちに来ていない以上、情報面、頼りに出来るのは、やっぱ、この人だよなぁ。と思う。
怖いけど、悪人じゃないのもわかってきたし。
まっ、調べものしながら、じっくり掛かりますか。なんだか、また動きがありそうな予感もするし。