第6話 最強の敵・そして… #6 竜神の愁い
遠く離れた惑星ティラ、その月、ノース。
そこで声が、響く。
『サイファシス・・・サイファシス・・・・目覚めて下さい・・・・・サイファシス・・・・』
その声はノースの至るところで響き、地中深くまで届いて行った。
『サイファシス・・・・あなたの力が必要です・・・・・サイファシス・・・・・』
俺とミュウは最初こそ優勢だったが、密度を上げ続けるマジェスティックスにより、力を得始めたオロチの首は、どんどんその力を増し、徐々にこちらが押され始めた。
まさと「くそっ。こいつ、どんどん固くなってくるぞっ!」
ミュウ「そうね。早く終わらせないと、終われなくなる。」
オロチの首『何を言う!? 終わるものか、もう誰にも止める事は出来ないのだ、終わるはずが無い!』
確かに、奴の言う通り、マジェスティックスがやつの力になっているように見える。そう思える。
マジェスティックスは続々と上空から降り注ぎ、魔城を中心に発生した渦は次第に大きくなっている。
渦の大きさそのものが、オロチの首の力の大きさとでも言うのか。
城の動力は止めた。
オロチの触媒も取り払った。
なのに、マジェスティックスの集積はとどまるところを知らない。
むしろ、どんどん激しくなって行く。
オロチの首を倒さない事にはこの異常は納まらないのか。
オロチの首がマジェスティックスを呼び、マジェスティックスがオロチの首に力を与え、今またマジェスティックスを呼ぶ。
その現象は、無限の連鎖反応の様にも思えた。
その連鎖反応を止めるには、オロチの首を倒すしかない。そう思えた。
マーガレット「ううっ。済みません・・・そろそろ限界・・・。」
まさと「あっ・・・。」
マーガレットが下降をはじめる。
マーガレットは長時間の連続した噴射により、その足が熱で溶けかかり、煙を上げていた。
下降は緩やかな物だったが、止める術は無かった。
まさと「マーガレット・・・・もういいよ。ありがとうな。」
マーガレット「いいえ・・・お役に立てませんでした。」
まさと「そんな事は無い。俺を投げろ。マーガレット。オロチの首の頭の上に。あいつの上で暴れてやるさ。」
マーガレット「・・・あ、はい!」
まさと「お前、降りるのは大丈夫だよな?」
マーガレット「え。あ、はい。そのぐらいはまだ持ちます。じゃぁ、いきますよ。」
まさと「ああっ!」
マーガレットは残る力で、俺をマーガレットの上を目掛けて、ほうり上げる。
俺の体は風を切って、飛ぶ様に、舞い上がった。
それに合わせて、ミュウはハッグを繰り出し、オロチの首の動きを一瞬止める。
マーガレットの弾道計算は、見事、オロチの首の頭の上に、俺を導いた。
まさと「うぉっと。」
俺が頭につく頃、オロチの首はミュウのハッグから逃れ、また動き始める。
俺は、振り落とされる前に、くさなぎをオロチの頭に深々と突き刺し、光の波動を発生させた。
オロチの首『ええいっ、小賢しいぃっ!』
オロチは頭の上の俺を跳ね除けようと、腕を大きく動かしてくる。
ミュウは、そのオロチの腕を次々と爆裂とハッグで制し、俺の元に到達するのを防いでくれる。
俺は、光の波動を発散させつづけた。
その様子を見ながらマーガレットはゆっくりと下降して行く。
マーガレット「ホエールで・・・・・ホエールで、お待ちしてますから・・・・・。」
その体は、もう、足だけでなく、体中あちこちがきしみ、火花を散らし、煙を吹き上げていた。
ホエールでは、アスフィーが無事医療室に収容され、手の空いて居る者は、甲板上のファリアとダイアの睨み合いを見守っていた。
いつはじまるとも知れぬ死闘を予感しながら。
シルフィー「ファリアっ! ダイアは! ダイアはっ! お兄様を助ける為にっ!」
ファリア「・・・・・・・わかってるさ。そんな事は。ただ、気に入らないんだよっ! そのやり方がっ!」
ダイア「私を疎むのなら、それもいい。斬ると言うのなら、逃げもしない。償えと言うのならなんでもしよう。ただ、死んでやる事は出来ない。腕を失おうと、足を失おうと、翼もがれようと、わたしは生きなければならない。」
ファリア「命乞いかっ!」
ダイア「そうじゃ・・・・無い・・・よ・・・・。さぁ、お前は、わたしを、どうしたい?」
ファリア「腕を落としてやる、足を切り刻んでやる、羽根を切り裂いてやる、お前の息の根が止まる直前まで、苦しみを味わわせつづけてやる!」
シルフィー「ファリアァァァァっ!!」
ダイア「いいだろう。好きにすればいい・・元はと言えば・・・・元凶は私なのだから・・・。」
ファリア「何をおおおぉぉ!?」
ファリアが剣を抜く。
しかし、その肩を大きな手が掴み、そっと制した。
???「話しを・・・聞いて・・・みようじゃないか・・・・。」
ファリア「あ、あんたっ!?」
くさなぎを伝って、何かが伝わってくる。
深い、暗い、静かな闇。
上も無い、下も無い、右も左も無い、不確定な空間。
どこまでも続く空間、地平線すらない空間。
距離感がボケる。
無。
オロチの首から『無』が、伝わってくる。
その無の中に漠然とした自分のみが存在する。
光も闇も無い、無の空間では、いくら光を放とうとも、一向に明るくはならない。
俺は、だんだんと、その無に飲み込まれて行く自分を感じた。
ミュウ「まさとっ!」
俺は、オロチの首にくさなぎを突きたてたまま、放心状態になっていた。
オロチの首『・・・・愚かな。我は、無を生み出す存在。光も闇も我に影響を与える事は出来ない。』
ミュウ「・・・無!?」
オロチの首『無に触れた時、光も闇もその力を、ただ、無限に放出して行くのみ! 無である我に勝てるものなど無いのだ!』
ミュウ「くっ!」
ミュウはオロチの首の頭部を目指した。
そのミュウごと、オロチの首の腕は、俺を弾き飛ばした。
ダイアは全てを語り始めた。
超魔導士サイファー、魔導三人衆、アルヘルドでの発起にまつわる全てを。
今から55年ほど前、休眠中だったダイアグローゼ・フォーザーバインは、運悪く、奴隷商人に捕らわれてしまう。
魔族は、サイファシスが封印された事により、薄くなった大気中のマジェスティックス濃度が、わずかでも高い、北の大地へと、移動して行った。
北の大地、すなわち極冠周辺部は極めて気温が低く、魔族は、その生涯の多くを休眠状態で過ごす事を強いられていた。
数百年に一度、そんな間隔で、覚醒し、わずかながらの行動期を過ごし、また、休眠を繰り返す。
その休眠中にダイアグローゼはその住みかを知られてしまったのだ。
稀少生物として、珍獣のような扱いを受け、高価で取引される事となってしまうダイアグローゼ。
取引先は、金に物を言わせ、好き放題を繰り返す男の元だった。もちろん、その男の玩具として。
能力を封印する戒めの角飾りをつけられ、ダイアグローゼは、その能力を発揮する事もままならず、取引される日を待つのみだった。
そこへ、魔導の修行の旅で、その町を訪れていた、アスフィー・ステイリバーがその事実を知る事になる。
その非道さに、嘆き、ダイアグローゼを哀れんで、アスフィーは彼女を救い出す決意をする。
アスフィーは偶然その町で知り合った、ガルウと言う、魔導科学の研究者の助けを借りて、ダイアグローゼを夜陰にまぎれて、無事に助け出す事が出来た。
ダイアグローゼはアスフィーを慕い、行動を共にするようになる。
そこで、円満に解決するはずだった。
やがて、歯車が少しづつ、少しづつ狂い始める。
その後は、幾度と無く、アスフィーは自分の村に帰る事があったのだが、誤解を避ける、と言う理由から、ダイアグローゼは自ら村に立ち寄らず、その間だけ、別行動を取っていた。
魔導科学の力を借りて、魔圏でしか住む事を許されていない魔族の為に、その住まう土地を作る事を誓うアスフィー。
ガルウの協力で、その準備は着々と進んで行く。
その中で、誓いは、野望へと変化した。
アスフィーはサイファーを名乗り、旧アルヘルドにおいて、我城の建設をはじめ、そこを基点に、他の種族を圧倒し、魔族による統治を目指して行く。
この準備のことが、噂として広まり、ついにラルフ・グレンハートの知るところになる。
アルヘルドに近い、洞窟の一角で、ラルフ、ダイアグローゼとアスフィーは鉢合わせする事になり、ラルフの始末を命ぜられたダイアグローゼは禁呪をもって、ラルフの時を封じた。
当然、この時一緒にいた男がアスフィーである事はラルフには確認できなかった。
この頃より、ダイアグローゼはアスフィーに違和感を覚え、彼の事を少しずつ疑い始めていた。
その迷いの部分がとどめをささず、時を止めるなどと言う方法で、ラルフを封じさせたのだ。
10年ほど前になって、ガルウが一人の女の子を連れてきた。
記憶力に優れ、魔導科学の分野に興味を示すその少女に、アスフィーはパールと名前をつけ、共に暮らすようになる。
パールは偉才を発揮し、マーガレット、マジェスティクラフト、ソーサルブースターなど、続々と、研究成果を上げて行き、魔導科学のパールの名を欲しいままにした。
パールが加わったことで、魔城の建設は着々と進行して行った。
近年、幻術に長けたルビー・オーバリーをさらい、加える事で、ルビー、パール、ダイアの魔導三人衆も結成され、準備は一気に最終局面へ向かうと思われた。
パールも東の鍾乳洞に自分のアトリエを作り、セントヘブンに入り、自費を稼ぐ方向へ向かう。
そこへ、このティラに現れた勇者の波動をサイファーが感じ取り、エルフの村にルビーが送り込まれる事となる。
その勇者の波動は、俺のものなのか、竜崎の物なのか、明確にはなっていない。
そして今へと続く。
サイファーとガルウ。
今となってはその力関係、主従関係がまったく見た目と逆である事に疑いを抱く物はいなかったが、確証の無い時期からダイアグローゼはそれを懸念し、力加減をしながら魔軍とその準備を進める事で、裏を探り、また、いざと言う時、ガルウの尻尾をつかむ事の出来る力量を備えさせる為、勇者と思しき人物を活かさず殺さずギリギリの手加減をしたりもした。
そして、ダイアグローゼの懸念がはっきりと形のあるものとして見え始めたのが、パールがこちらの陣営に寝返る頃。
魔の者の国建設が、ティラでなく、地球または、テラと呼ばれる、ティラの双子星のほうである事を知らされてからだった。
それに加えて、動力の触媒に自分の妹シルフィーを使う計画を立てる、それを追って来る勇者を予測して、手薄になったエルフの村を襲わせるなど、以前のアスフィーとは思えぬ行動が後押しをする。
魔城を地球に転移させて後、ますます、サイファーとガルウを疑り出したダイアグローゼは、魔城の固定ポイント特定の為の調査をわざと遅らせ、勇者サイドの動きを監視し、サイファー達を追い詰める事が出来る環境を用意し始めた。
もちろん、力の及ばない勇者サイドに対して、段階的に強くした、魔獣の送りこみ、新生魔導三人衆等による、力量アップの為のてこ入れ、魔剣むらくもをミュウに与えるなど、戦力がアップする様にも状況を操作した。
勇者サイドを脅かしつつ、ミュウのピンチをわざわざ伝えるなど、意図の読めない行動が多かったのも、全て、サイファー達に気付かれぬ様、道化を演じ、ガルウを追い詰め、その正体に迫ろうとしたからだった。
その事が、真実のアスフィーに近づく事の出来る唯一の方法と考えて。
長老「・・・なるほどのぉ。わしらが一気に殲滅させられんかった訳が、ようやくわかったわい・・・・・・・。」
ファリア「けっ。それじゃぁ、俺達はお前の駒だったって事かよ。」
ダイア「好きにとればいい。わたしは、嘘は言っていない。」
マリン「そうね。嘘は無いわ・・・。」
ファリア「だったら、最初から俺達に協力をお願いしにくりゃよかったんだ。」
長老「ファリア、お前さんにだって、そうは行かぬ状況だったのはわかる事じゃろう。」
ファリア「ふん。」
ダイア「しかし。しぶといな・・・ラルフ・グレンハート。」
ラルフ「あいにくとな。」
ダイア「来い・・・禁呪を少し緩めてやる。どうやって生き延びた?」
ラルフ「これのおかげだ。」
ラルフは生きていた。
ラルフは、服の胸を開くと、中のメディカルブースターのスーツを見せる。
ダイアはラルフに手をかざし、禁呪の調整を行っているらしい。
ラルフ「気がついた時にはホエール内に転移していた。」
ダイア「パールに救われたか。」
ラルフ「そういうことだ。一定以上のダメージがあったとき、自動で転移するようになっていたそうだ。」
ダイア「パールは・・・確か悲鳴を上げていたと思ったが・・・。」
ラルフ「仕掛けの動作が間に合わなかったと思ったらしい。ん。楽になってきたな。」
ダイア「これで、以後は普通に時が流れるだろう。」
ダイアは、ファリアの前に歩を進める。
ダイア「さぁ。話すことは全て話した。」
ファリア「・・・・・・ふん。」
ファリアはゆっくりと剣を抜き、ダイアの眼前に剣先を持って行く。
ダイア「どうした?」
ファリア「この剣、ルーン・ブレスナー・・・・・魔族の血で汚すには惜しい。それだけだ。」
ファリアはそういうと、剣を鞘に納め、ホエールの中に消えて行った。
ダイア「・・・・・・・・・・それほど嫌われたか。」
長老「どうじゃろうのぉ。」
入れ替わりにパールが戻ってくる。
パール「どうしたの? ファリア・・・偉くご機嫌そうだったけど・・・。」
ダイア「アスフィーはどうだ?」
パール「一通りの検査は済んだわ。今のところ衰弱が激しいけど、それ以外には何もないみたい。闇の波動の影響のような物も認められなかったし。で?」
パールは一通りの経緯を聞いて、納得の言った顔をする。
パール「なるほどね。これでようやく、エルフの村へ第二襲を掛けてきた時に、堂々と地球行きを宣言した意味がわかったわ。」
そこへ、吹きすさぶ風の中をヘリが接近してくる。
デッキに着陸すると、広江さん、真悟、清美ちゃん、リーヌが降り立つ。
広江「急げっ! 全速で離脱したほうがいいっ!」
パール「なにがっ?」
広江「ICBMが発射されるっ。既に秒読みが開始されたそうだっ。着弾は・・・・10分後っ。」
パール「ICBMっ? まさかっ、核爆弾っ!?」
俺は、意識が朦朧としたまま、オロチの首の胴体にそって落下していた。
光でも、闇でも太刀打ちできない、無、の存在。
オロチの首がその無の存在なら。どうやって立ち向かえばいいんだろう?光が無ければ闇は存在しない。
闇が無ければ光があっても認識できない。
光と闇。
対なるもの・・・。
ルーンと、サイファシス。
そうか。
オロチの首。つまり、オロチはサイファシスによって、何物かを無にする為に作られた物。
だから、無。
それに抗えるのは、光だけではなく、闇のみでもなく、その両方を兼ね備えた物、なのか!?
そんな物どうやって・・・・。
いや・・・。
ある! 光の力を備えた物と、闇の力を備えた物が!
くさなぎと、むらくも。
この二振りの剣の同時攻撃ならあるいは!
しかし。
それがわかったからと言ってどうなる。
俺は、今、落ちているのだ。引力に引かれて。
ミュウ「まさとぉっ!」
意識がはっきりしてくる。
上空からミュウが全速で追い掛けて来るのが見えた。
そうだ、まだあきらめちゃいけない!
俺は、ミュウに向けて手を伸ばした。
『彼の者に力を』
どこからか声が響いてくる。
『彼の巫女に愛を』
さらに声は続く。どこかで聞いた一節。
『彼の者達に永劫の祝福と誉れを』
俺は、力の限り叫んだ! 無意識に、しかし、力強く!
まさと「ルーンよ、いざ力をっ!」
俺の体を光が包み落下が止まって行く。
その変化をルーン・ブラストスの力を借りているシルフィーが感じ取っていた。
シルフィー「やっぱり・・・・まさとさんは・・・・・勇者!」
長老「なに! どうしたシルフィー!」
シルフィー「ダイア! 障壁を代わってっ、お願い! ルーンの力、全て・・・送ります! あの人へ!」
ダイア「障壁? ルーン? 送る? ・・・まさかっ!」
シルフィー「・・・・・・・・・・・・・・・・・ルーン・マスター。」
シルフィーのかざした手から光の柱が伸び、上空へ向かう。
それと同時に、障壁が失われ、マジェスティックスの嵐が吹きこみ始める。
ダイアは障壁を慌てて張り、それを支える。
光の柱が全て上空に向かうと、シルフィーは元の姿に戻り、甲板に降り立った。
シルフィー「ごめんなさい。急で。」
ダイア「いや。それより、あいつか?」
シルフィー「ええ。まさとさんが、ルーンの力を継承します。」
包む様に発生した光と、下から登ってきた光の柱がひとつになる。
ミュウ「なに? なに? あの光!?」
光が消失すると、俺は、宙に浮いていた。自分の意思で。
その姿は、エンペリオンではない、別の鎧を付け、くさなぎの剣、みかがみの盾、どちらも、今また大きな変化を起こして、さらに大きなものになっていた。
ミュウ「ま、まさと、それっ!」
まさと「あ、ああ。ルーンだ。ルーンが力を貸してくれた!」
ミュウ「そう。じゃぁ、まだやれるね。」
まさと「ああ、これからだ! ミュウ、むらくも出せるか? 出来たら闇の力を持ったやつ。」
ミュウ「闇? どうだろ・・・・・。」
『我が力、しばし貸し与えん。』
ミュウ「え?」
ミュウがむらくもを呼び出すと、最初は透明のやつだったが、表面がぎらぎらとざわついて、黒い剣になった。
ミュウ「あ、いけたいけた。このほうが良いの?」
まさと「ああ、俺の光の剣と、お前の闇の剣。両方の力でオロチの無を押し破る。」
ミュウ「あぁ、そういうこと、じゃぁ、どうせなら合わせ技で行ってみようか?」
まさと「なんとかドライバーか? そうだな、今ならついて行けるかもしれない。」
ミュウ「うん!」
俺とミュウは一気に飛び上がり、高空を目指した。
オロチの首『な、なにっ!』
より高いところで、盾をはさむような形で、俺とミュウは横並びになる。
そして、それぞれの剣を盾に沿える形で、前に突き出した。
まさと「よぅし。行くぞ、ミュウ!」
ミュウ「ん!」
俺達はオロチの首目掛けて突進をはじめた。
盾から発生する障壁が俺達を包み、剣から発生した、光と闇の波動が渦を巻いて行く。
そして、それにドラゴンの炎が混ざって、螺旋を描いて行く。
螺旋は、どんどん勢いを増してオロチの首へ迫って行った。
まさと「うおおおおぉぉぉぉぉっ!」
ミュウ「やあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
オロチの首『なに! 光と・・・闇の力!?』
「ストリィィィィーーーーーム・ドライバァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
螺旋はオロチの首の鼻先を捕らえた!
オロチの首『グギャアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッ!』
オロチの首は、ドライバーであいた穴から次から次へと連鎖反応的に灰となり、崩れ落ちて行く。
さらに螺旋の渦はオロチの胴体を押しつぶす様に、一直線に魔城目掛けて駆け下り、瞬く間に、魔城のところまで達し、オロチは魔城ごと、粉々に吹き飛んだ。
そして、飛び散った欠片は光を放って消失して行く。
シルフィー「ああっ!」
ダイア「・・・・・・・。」
突如として粉砕した、オロチの胴体と魔城、上から駆け下りる様に発生した光の柱に、ホエールの皆は、飲まれた様になっていた。
俺とミュウは、それまで魔城のあった場所の空中に浮かんでいた。
ミュウ「やったね!」
まさと「ああ! やった!」
そこへ、大きな船体を軋ませながら、ホエールが接近してきた。
エド『急いで乗んなっ! 四角い爆弾が落ちてくるってよぉ!』
パール『ちょ・・・・か・く・ば・く・だ・んっ!』
エド『あー、それそれ。』
まさと「なに!」
ミュウ「あ、あれかな?」
ミュウが見ている方向にきらきらと瞬く星一つ。
ICBM、大陸間弾道弾。その核弾頭装備のやつがこっちに向かってきている。
まさと「うん・・・何とかできそうだ・・・。」
俺には何をどうすればいいか、手に取るように分かった。
なぜ、そんな事が分かったかは、理由がはっきりしない。
もしかして、ルーンの力を借りているからなのか。
広江『・・・・・・・・・・・・・・・いかん! 着弾時間だ!』
エド『どひゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーー・・・・。』
ミサイルは東京湾に大きな水柱を上げて落ちた。
しかし、起爆はしない。
だって、弾頭を分解しちゃったから。俺が。
ホエールのデッキに降り立つと、皆が出迎えてくれる。
広江「・・・・肝が潰れたぞ・・・・。」
まさと「冷えた・・・では・・・?」
広江「いや、潰れただ。・・・・・それより・・・・・・・お疲れ様。」
まさと「まぁ、なんとか。」
長老「また、剣が変化したようじゃのう。」
まさと「ああ、そうなんだ。どうやらこれが、くさなぎの本当の姿らしい。マスターブレード。真皇剣。」
ダイア「・・・・やったか。」
まさと「おう。ちゃんといたか。」
パール「・・・・安心するのはまだ早いわ・・・。」
パールが奥から辛辣な面持ちで歩み出てくる。
パール「マジェスティックスの流れがおかしいの。拡散せずにどんどん東京湾に集まってくる。上空からも降り注ぎ続けてる様で・・・・。」
まさと「止まらないのか?」
パール「既に限界濃度を超えていたのかもしれない。マジェスティックスがマジェスティックスを誘引してる。起きるわ・・・飽和状態が・・・・。」
ミュウ「ええっ!?」
パール「マーガレットが・・・・・戻っていない・・・マーガレットがいれば・・・・あるいは・・・。」
まさと「え、戻ってないのか? ダイアが降りてすぐ降下していったんだが・・・・・。」
マーガレット「ここですぅ・・・・。」
声のするほうを見る、ホエールの主翼の端に必死になって捕まってるマーガレットがそこにいた。
パール「マーガレットぉっ!」
マーガレットを引き上げると、作戦会議が始まる。
パール「マーガレットのチャンバーを使って、マジェスティックスを宇宙まで放出しようと思うの。」
まさと「そ、そんな機能があったのか!?」
パール「後付けだけどね。集めたマジェスティックスを放出する役目は、全てのソーサルブースター装着者、それと、マジェスティックスを扱える者、って事になるわ。放出点はドライバーとか、そういうののリバース、つまり逆作動させた物を。」
ミュウ「ん? あたし?」
パール「そう、ミュウと、まさとさんが適任でしょうね。で、そこへマーガレットとあなた達とを繋ぐパイプ役が必要になるの、多ければ多いほどいい。現在、ダイアがマジェスティックスを扱えるのと、それから、ソーサルブースターが二個あるから・・・。」
まさと「・・・ええっと。三個じゃなかった?」
パール「ミュウの使ってたのを回収してないのよ・・・。」
ミュウ「あ、そう言えば・・・・。」
ファリア「三個目。」
ファリアが、ミュウのブースターを持って立っている。
まさと「でかした!」
ファリア「玉座の間に入った時に転がってたから拾っておいたんだ。」
パール「後は・・・ブースターに使うコア。これを準備するのに数時間掛かるから・・・それまでに飽和が起きないといいんだけど。」
ダイア「それならわたしが作るか?」
パール「あ。それ・・・。」
ダイア「純粋な結晶球を作ればよかったんだろう?」
パール「そう。何も念や命令を含まない純粋な・・・できる? 三つ。」
ダイア「訳はない。結晶核だってなんだってどうにかなる。材料のマジェスティックスは腐るほどあるし。」
ミュウ「あっ!」
ダイア「・・・・・はっ。」
まさと「そういやそうだったな。墓穴掘ったか?」
ミュウ「・・・・・・・・。」
ダイア「あれは・・・・飛んで来た石とか岩とかの・・・・・痛かったんだからな。」
ミュウ「なんだ。やっぱ、あれ、効いてたのか。あははっ。」
俺と、パールが一騎打ちをやった時。
ミュウの投げた石や岩がダイアをヒットしたことがあった。
それに対して、ダイアは去り際に結晶核を打ちこんで行った。
その時の事だ。
まさと「俺、あの時の事で、疑問があるんだが。どうして、パールの光球をはじけて、ミュウの投げた岩が当たるんだ?」
ダイア「特性の違いもあるが・・あれはなぜか、素通りしてきた。」
パール「最近ようやく判って来たんだけど、あの辺って、ミュウの資質みたい。」
ミュウ「なぁに? それ。」
パール「ミュウって、魔法、まともに使えなかったんでしょ? その理由に関係ありそうなんだけど、どうやら、一瞬だけ、重力偏向させてみたり、速度を上げてみたり、といった、魔法効果を引き出してるみたいよ。意識してるかどうかは知らないけど。」
ミュウ「・・・・・・・ぜんぜん・・・。」
パール「そういうスペル無しで魔法効果が使える分、通常のスペルで呼び出す分が使えなくなってるんだと思うわ。いわんや、体質といった辺り。」
ダイア「・・・・それならば納得がいく。」
まさと「はぁ、俺、殴る時とか、やたら早いの・・・・・それか・・・・・。」
パール「・・・・・多分。」
ミュウ「ひーん。なんか、うれしいような、うれしくないような。」
パール「それより、ダイア、そろそろコアをお願い。」
ダイア「ああ、そうだったね。三つか。」
ダイアは、宙に手をかざし、意識を集中している。
見る見る、マジェスティックスが渦を巻き、ダイアの手の中に集まってくる。
そして、ぎゅっと凝縮して、三つの球になった。
パール「は、早いわね、さすがに。」
ダイア「まぁ、即席だ。一回使ったら散ってしまうだろうがな。」
パール「そうね。一回でも、使えれば充分よ。」
まさと「で、ミュウが使ってたブースターは誰が使うんだ?」
パール「そうねぇ。やはり、体力のある人がいいとは思うけど・・・・。」
まさと「・・・・・・・・ファリアか。」
パール「そうね、功労者だし。」
ファリア「お、俺か!?」
いよいよ、作戦実行だ。
急がないといつ飽和状態になるか分からない。
ホエールの甲板に、俺、ミュウ、ミスティック・パール、ミスティック・マリン、ミスティック・ファリア、ダイア、マーガレットが並ぶ。
ほかの者は安全の為、ホエールの中に入ってもらった。
マーガレット「マジェスティックス・チャンバー開きまぁす。」
マーガレットの一見ヘルメットの様に見えていた後頭部のパーツが左右に展開して、中からファルネの羽根のようなフィルム状の物が広がる。
そのマーガレットを起点にして、順々に並び、先頭に俺とミュウが突く。
パール「いい? はじめたら否応無く、マジェスティックスの流れが先頭の方に流れると思うけど、できたらそれをイメージして、効率を上げて。それをまさとさんとミュウが打ち上げる。」
まさと「おう。」
ミュウ「あい。」
マリン「ええ。」
ファリア「ああ。」
ダイア「ん。」
マーガレット「では、作動させまぁす。」
マーガレットがチャンバーを作動させると、マーガレットの後方にどんどんマジェスティックスが集まりチャンバーに吸い込まれていく。
やがて、そのマジェスティックスは皆のスーツなどを通過し、加速度を上げて、俺のところまで伝わってくる。
まさと「お、来てるか。よし、ミュウ、打ち出すぞ。」
ミュウ「うん。」
剣と盾を上方へ向けて、マジェスティックスを放出する。
渦を描いて上昇するマジェスティックスは周囲のマジェスティックスをもまきこんで、どんどん空高く上っていった。
まさと「こんな感じでいいのか?」
パール「ええ、いい調子よ。続けて。」
俺達がマジェスティックスを目視で見えない程度まで放出すると、ブリッジ要員を除いて、皆がデッキに上がってきた。
俺達も、元に戻る。
案の定、ブースターに使っていたコアは、音を立てて砕け散ってしまった。
ミュウは、まだそのままで居る。
ようやく全てが終わる。
ティラへ飛ばされてからこれまでの数々のやばい状態。
その全てに終止符が打たれる時が来た。
この後ダイアの口から事の経緯を聞かされて、正直切なくもなった。
まさと「ダイア。正直、俺は、無茶苦茶怒ってる。腹が立ってる。」
ダイア「そうだろうな。」
まさと「だからって、お前をぶん殴ったって、足げにしたって、何もかわらねぇ。第一、お前が居なかったら、解決できなかったかもしれないし。だから、今は、お疲れさんって言っとく。」
ダイア「それでいいのか?」
まさと「さぁな。いいのかどうか、わかんねぇよ。魔族についてだって、知ってることは少ないし、会ったのは、お前だけだからな。判断基準がまだ出来てないんだ。」
ダイア「そうか・・・。」
まさと「でも、お前が放った魔獣のせいで、怪我したり、家財を失ったり、そういう目にあった人が居る。その分の帳尻合わせみたいなのは、どっかでしなくちゃいけないかも知れねぇぞ。それだけは覚悟しておいたほうがいい。」
ダイア「そうだな。覚悟はしてるつもり・・・。」
まさと「そうか。まぁ、お前も、考えてみりゃ被害者なんだしな。一方的に責める気はないよ。俺は。」
ダイア「そうだ・・・きちんと名前を聞かせて欲しい。」
まさと「ん? 俺は、宗方柾人。勇者なんてつけんなよ。まさとでいい。」
ダイア「まさと、だな。わたしはダイアグローゼ・フォーザーバイン。魔族の総統府の家系の出だ。」
意識を取り戻した、アスフィーがやってきた。
アスフィー「迷惑を・・掛けた・・・。」
まさと「経緯は・・・まぁ、聞いた。散々だったね。」
アスフィー「ダイアの事は許してやってくれ。みんな、僕が弱かったせいだから。」
まさと「オロチの首のせい。」
アスフィー「・・・・・・ありがとう。」
ミュウはデッキの端のほうで魔城のあったあたりをじっと見つめている。
気になって仕方ないので、そっちへいく事にした。
まさと「よぉ。どうした?」
ミュウ「ん? まぁ、色々あったなぁって。」
まさと「そうだな。」
ミュウ「結局、あんまりちゃんと呼んであげてなかったなぁ・・・。父さん・・・。」
まさと「そうか・・・・時間、無かったしな。・・・・・・・・・あ。」
ミュウ「ん?」
遅れて、ラルフさんがデッキに上がってくる。
ミュウ「あ・・・・・・・父・・・・・さん・・・・。父さんっ!」
ミュウはラルフさんに向かって飛びついて行った。
代わりに俺のところにマリンさんが来る。
マリン「ほんとうにお疲れ様。」
まさと「なんか、顔、笑ってるよ?」
マリン「それは、うれしいから。ふふっ。」
まさと「マリンさんも無事でよかったよ、ほんと。」
マリン「ありがと。これから・・・・大変ね。いろいろと。」
まさと「あ、まぁね。けど、なんとかなるよ。きっと。いよいよとなったら、俺がそっち行きゃいいんだし。」
マリン「うん。」
広江「国籍の事か?」
まさと「わぁっ! ああ、びっくりした。」
広江「ああ、すまん。今回これだけ大きい事件が起こってるんだ。もうもみ消す事も出来ない。そのうち、基盤も整うだろう。時間は必要だがな。また、協力してもらう事になるぞ。色々とな。」
まさと「ですね。」
パール「じゃぁ、応急処置も済んだので、アパートのほうへ戻るわね。」
ホエールは元来た方向へゆっくりと進む。星空の東京を。
アパート上空へ着くとミュウは俺を引っ張って、大慌てで、俺の部屋に走る。
まさと「はぁ・・・はぁ・・・なんなんだ一体。」
ミュウ「あ、いや・・・こういうことで・・・・・・ねぇ?」
ミュウは元に戻る。
生まれたままの姿で目の前に立ってるミュウ。
まさと「うぉう。そういうことか!・・・・燃えちまったのか?」
ミュウ「そう。ボッて全部。変わった時にね。あれ?」
服を取り出して着替えながらミュウが何かに気がついた。
ミュウ「背、伸びた?」
まさと「は?」
ミュウ「ほら、前は、もっと低かったような・・・・。」
ミュウと背比べ。
確かに、以前は頭一つ分近く違っていた気がするのだが、今比べてみると、俺がほんの少し、低い程度、その位になってる。
俺もエンペリオンを脱いで、自分の服に着替える・・・・。
まさと「あ、ほんとだ。丈が短くなってる。妙な事もあるもんだ・・・・。」
ミュウ「早くあたしが背伸びできるくらいに頑張って伸びてね。」
まさと「原因がわからんのに、そんな簡単に伸びたり出来るか〜。」
ミュウ「そりゃそうだね。まさと・・・えっと・・・お疲れ。」
まさと「ああ、お前もな。さぁ、ホエールに一度戻るぞ。今日は、色々皆で相談しないといけないだろうからな。」
ミュウ「んーー。そうだね。これからどうすんの。ってとこ?」
まさと「だ。」
その夜はホエールのラウンジで、皆揃って、色々話し合った。
当面の事とかほんと色々。
結局、ティラから来た者は、一旦帰るという事になった。
行き来する為の基盤が整備できるまでは、おおっぴらに行き来はしない、と言ったあたりで落ちついた。
パールも向こうでやる事が山ほどあるらしく、戻る事になった。
エルフの村再興の事もある、きっと、その作業でも、パールの研究してきた事が役に立つだろう。
ミュウは、ほとんど悩むことなく、帰るという決定に従った。
まさと「俺も手伝いにいこうか?」
ミュウ「ん? 大丈夫。やる事沢山あるし、まさとの事、ほったらかしになっちゃうよ。」
まさと「いや、そういう気は確かにする。広江さんもなんか睨んでるしなー。俺も、こっちで色々事後調整とか、今後の事とか、やっとかないと、いけないわな。」
ミュウ「そうなるよねぇ? ほんとのとこは、寂しいんだけどね。あたしも。」
まさと「おう。やっと本音吐いたな。」
ミュウ「へへっ。まぁ、父さんのこともあるしね。あたしが頑張らないといけなさそうだから。」
そして、一夜明けて、いよいよ、ホエール出発の朝が来る。
朝一に発つ事にしたのは、避難勧告が解除され、野次馬が集まってしまう前にというところがあった。
朝起きると、ミュウは俺のシャツを着ていた。
それがなんだかよくわからんが、今度こそ、水入らずのグレンハート家の朝食をとってから、ミュウ達が荷物をまとめるのを手伝う。
俺達が屋上に上がる頃にはホエール発進の準備は全て整っていた。
ミュウ「じゃ、一旦戻るね。」
まさと「ああ。そういう時間はあんまり無いかもしれないけど、親父さんにたっぷり甘えるんだぞ。」
ミュウ「へへっ。そうするっ。じゃ。」
まさと「おう。頑張って行って来い。」
俺の行って来いの台詞にミュウの足が止まる。
そこで気がついた、ミュウはまだ、俺のシャツを着たままでいる。
ミュウが振り返る。
ミュウ「シャツ・・・・貸しといてよね? ちゃんと、返しに戻るから。」
ああ、そういう事か。味なまねをするやつ。
まさと「ああ、忘れんなよ! まーそうだな。忘れてる様なら俺がとりに行くから。うん。」
ミュウ「戻るよ。絶対。」
ミュウは俺のところまで、駆け戻ると、キスをする。
長くて短い時間が過ぎる。
ミュウ「いい男になれるおまじない。なんてっ。」
満面の笑顔を残して、ミュウはリフトに消えた。
リフトを収納すると、ホエールはゆっくりと上昇し、空に消えて行った。
・・・・・・俺の肩にファルネを残して。
まさと「・・・・はっ!・・・忘れ物!?」
ファルネ「ワタシ ハ イツデモ イキキ デキル シンパイ スルナ。」
まさと「そりゃ、そうだな。」
『彼の者達に永劫の祝福と誉れを。』
『ありがとう、サイファシス、無事に済みました。』
『そのようだな、オロチの首が生き延びていたのは計算外だった。本当にあれは失敗だった。』
『私も計算違いがありました。結果うまく行ったので本当によかった。』
『ティラも、テラも文明レベルはかなり高くなった様だな。私が眠っている間に。』
『もうすぐナグの文明に等しくなるでしょう。忙しくなりそうですよ。』
『そうだな。その先に待っているのが、繁栄か、滅びか。いずれにしても悲劇は繰り返すまい。』
『ほんとうに。』
−ミスティック・ミュウ All Over−