第6話 最強の敵・そして… #4 ブラスト!

パール「そろそろ、城が近いわ。具体的な作戦行動は・・・。」
ラルフ「そうだな。」
パール「まず、玉座の間の動力に関して。これは、私も聞いていない。知らされていなかった。だから、これに捕らわれている、パルティアを救出し、動力を止めるか、破壊するか、それが先決。飽和レベルを超えてしまわないうちにね。」
まさと「そうなるんだろうな・・・。シルフィーは・・居所がはっきりしてからになるか。」
ミュウ「城を出るときの記憶がもうちょっとはっきりしていたら良かったんだけど・・・。ごめん。」
パール「それは、しかたないでしょうね。凄く意識が混乱していたはずだから。あとは、向こうがどう打って出てくるか、ダイア、サファイア、エメラルドがどう動いてくるかで状況が変わるから・・・。」
まさと「そうだなぁ。今度こそ、真正面からやり合う事になるか。」
パール「最後に疑問点。マジェスティックスの濃度が上がれば、エルフであるはずのサイファーは生きてはいられない。対応策があるのか、それとも、我が身を賭しての事なのか。そのあたりが不明瞭ね。」
まさと「・・・・そのへん。もう、平気な体だとか言ってた様に思うけど、そんな簡単なもんじゃないだろうし、その為にガルウってのにソーサルブースター作らせてたんじゃないのか?」
パール「あ。・・・・・それを考えてなかった。・・・・・元々ブースターの理論を作り始めたのはガルウだし。ということは、今回サイファーがブースターを着けてくる可能性があるわ。注意しないと。」
まさと「厄介だな。そりゃ。」
ミュウ「大丈夫よ。強化もしたんでしょ。なら、真っ向からの力勝負。引けは取らないわよ。」
パール「・・・・あぁ。」
まさと「・・・・・・いや・・・・・悪い。すげー納得しちまった。今。」
ミュウ「何今更気を使ってるのよ。そういう見方で正しいよ。」
パール「さっきの主砲の話しじゃないけど、集まったマジェスティックスの影響で、威力が大きくなってるわ、ソーサルブースターに関してもこれは同様のはず。派手な戦闘になると思うわよ。覚悟してて。」
まさと「げ。まじ?」
ファルネ『イヨイヨ ノ トキ ハ ブラストス ガ アル アンシン シロ。』
まさと「あ、了解。心強いよ。」
ミュウ「あ、なんて?」
まさと「うん。いよいよとなったらアレ使わせてくれるって。」
長老「では、ラルフにはわしがついていよう。」
ラルフ「いつの間に。」

長老は誰に気付かれることなく、シルビーになっていた。

パール「私のこれも、以前より威力が数段上げられる様になってるわ。期待してて。」

パールは肩口の発射口の辺りをコンコンと叩く。
そしていよいよ、ホエールが城に近づいてきた。

パール『エドさん、そろそろ減速を。突入ポイントは上部の玉座前のテラス。どこにシルフィーが捕らえられているか不明だから、壊しすぎないようにギリギリで接舷よろしく。』
エド「おう、またギリギリかい? よっしゃ、まぁ、やってみるぜ。今度はすげぇ揺れると思うから、根性入れてどこかに捕まっててくれよぉ。」
パール『ええ、了解してるわ。じゃっ。』
エド「つー訳で、減速開始。奥様、状況よろし?」
ミルフィー「周囲に機影、魔獣の陰なし。あ、ちょっとまって、細かいのが出てきた。」
エド「ちいせぇのならかまやしねぇ。良し、上昇かけるぜぇ。」

ホエールは城の障壁の直前で、静止すると、そのままの姿勢で急上昇を開始した。

まさと「ぐわっ。か、体が重いっ!」
パール「我慢してっ。」


クラフトの反作用が起こり、周囲の海水が爆発するかのように巻き上げられる。
その巻き上げた海水の柱を乗り越える様にして、テラスの高さにホエールが姿を現す。
現れてきていた魔獣はそのホエールの急速な挙動に間に合わず、障壁と、海水の柱に激突して次々と数を減らしていた。

エド「んじゃぁ、ぶちかますぜっ!」

ホエールは前進を開始し、残った魔獣をなぎ倒すようにして、城の障壁に接触する。
大出力の障壁同士は互いに干渉し、次々に消滅。
抉じ開けて進むかのような振動と音を残して、ホエールは障壁内に侵入する。
侵入しきると抵抗がなくなるせいでホエールは急加速、一直線にテラスを目指す。

エド「げっ、減速っ!」

最大減速を掛けながらホエールはテラスに接近、巨大な激突音を残してテラスに接舷した。
ホエールの船体は障壁を抜けたときに受けた傷と、激突時に起きた摩擦で、船首を中心にズルズルになっている。
俺達は、さすがに、その激突時の衝撃に耐えかね、甲板出入り口内で、全員がもんどりうって倒れる事になってしまっていた。

サイファー「・・・・・辛そうだな。そろそろ城砦の生成機能の方に切りかえるか。」
ダイア「お願い・・・。さすがに、こう立て続けだと・・きつ・・・い・・・。」


ホエール進撃が始まってから、ダイアは魔獣を自力で生み出しつづけていた。
それも、数十という単位で。
出現に散漫さがあったのは、インターバルを置いていたせいがあったのかもしれない。
俺達はなんとか、体制を整え直すと、いよいよ甲板からテラスへ飛び移る為に表に出るが、残った魔獣がそれを目掛けて挑みかかってくる。
そこへ、パールが一人前に踊り出た。

パール「皆伏せて。掃討しますっ!」

パールの肩の装備が胸の高さのところ、丸くなっている辺りを軸に外側に倒れる様に回転する。
さらに、その装備の一部が跳ね起きる様に展開。
さらなる発射口のような物を露見させる。

パール「くっ。」

パールが集中すると、その発射口、片側三箇所の中心に光球が発生。
そこから、まるで、マシンガンの様に無数の光球が射出された。
それを避けきれずに全ての魔獣が塵となった。

まさと「おお、なんか、無茶苦茶すげーぞ。」
パール「期待してっていったでしょ? 今度のは、ダイアの障壁だって打ち抜けるわ。さっ、急ぐわよ。」
まさと「おぅっ!」
ミュウ「よぅしっ!」
ラルフ「よしっ! 行くぞ! これで最後にする!」
シルビー「よかろう。フレイアの分も、わしが付き合うぞ。」
ファリア「いよいよ、だな。」

パールに促されて全員テラスを目指す。
ファルネは俺のすぐ後ろを飛んでついてくる。
甲板を越え、船首の上を通り、いよいよテラスにつくと思った時、テラスの床から、にじみ出る様に、人の姿にかなり近い、魔獣らしいのが無数に現れ始めた。

ミュウ「ようし、今度はあたしがっ!」

ミュウの剣の周りに霧のような物が発生、渦を巻く。
これは、昨日のあの黒い霧の変化した物か?
いよいよ渦が勢いを増したところで、ミュウはそれを薙ぎ放った。
突風の様にも見えるその波動がつきぬけると、人の姿をした魔獣は、そのほとんどが塵になっていた。

まさと「こりゃすげぇな。」
ミュウ「おしいっ、残った!」
まさと「上出来だよっ!」

いよいよテラスになだれ込む。

ラルフ「てぃやあぁぁぁぁーーーーーーーーっ!」

ラルフさんの剣圧が数匹の魔獣を瞬時になぎ倒す。
今日のラルフさんはいつにも増して迫力があった。

シルビー「はぁっ!」

長老、いや、シルビーの放った火球が、テラスの床に炎の海を発生させ、次々と魔中を飲み込む。
パールの装備は通常の位置から、つぎつぎと光球を発射、魔獣を確実に射止めて行く。
それによって出来た道を俺とミュウが全力で駆け抜けて行く。
目指すは玉座の間。
そこに見知った影が立ち塞がる。

サファイア「そうは簡単には通さないよ。」
エメラルド「今度こそ覚悟してもらうからね。」


サファイアとエメラルドが襲いかかってくる。
いよいよ俺の番か。
くさなぎに意識を集中する。
剣が振動し、やがて光を放ち始める。

まさと「おりゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

全力でくさなぎを振りぬく。
起こった剣圧が向かってくる二人を捕らえた。

サファイア「・・・・う・・・・・・そ・・・・。」

サファイアが塵になって消える。
エメラルドは瞬時に剣圧をかわしたのか上に飛んで逃げていた。
そこへ。

ミュウ「おおっと。待ってましたっ!」
エメラルド「ひっ!」


ミュウが飛びあがっていてエメラルドの前にあった。

ミュウ「ミスティック・ボンバーーーーーーーーーーーーーーッ!」

炸裂する閃光と爆炎。エメラルドはたまらず消し飛んだ。
威力が上がっているというのがうなずける。
ブースターを強化しているとはいえ、今の爆裂はすさまじかった。
そのままの勢いで、俺とミュウは玉座の間に飛びこんだ。
続いてパール、マーガレットも玉座の間へ。
床から現れる魔獣は絶える事を知らず、次から次へと湧いてくる。

ラルフ「シルビア! ファリア! ここは私達で抑えるぞ!」
シルビー「シルビーちゃんぢゃ! まぁ、このわしらを簡単に抜けると思われたくはないもんじゃのう。」
ファリア「・・・・ちゃんは、いい加減やめてくれ。」


玉座の間では、玉座にサイファーが座し、それに控える様にダイア、鎖に繋がれたシルフィーが居た。
ガルウは居ない。
不思議と玉座の間の中ではあの魔獣は湧いてこない。

サイファー「ふふん。あの程度では、もう、止める事はかなわぬか。」
シルフィー「あぁ・・・まさとさん・・・・ミュウ・・・・パールさん・・・。」
ダイア「・・・・・・・・。」


よし。この玉座の間で目的は全て果たせる。
シルフィーとパルティアさんはここだ。

まさと「あきらめろ、お前の目的は達っせない。」
サイファー「さぁ、それはどうかな? ダイア・・・・。」
ダイア「はい。」

ダイアが迫る。
それを見て、一瞬早くマーガレットが動いた。
パールもそれに構える。

ダイア「今度は・・・本気だからね。」

ダイアの手から炎の柱が伸びる。
しかし、マーガレットはそれをものともせず、突っ切って、ダイアに挑みかかる。

マーガレット「てぇぇい!」
ダイア「なっ、なにっ!?」
パール「今度のマーガレットを甘く見ないほうが良いわよ。」
ダイア「ふっ・・・面白いじゃない。」


ダイアは横にそれをかわし、パールと、マーガレットを横合いに誘導して行く。
本気で、マーガレットは強くなってる。桜田門で見た時と、まるで動きが違う。どんどん、ダイアを押している様にも見えた。

ミュウ「こっちも行くよ!」
まさと「ああっ。」


俺達は玉座目掛けて駆け込んだ。

サイファー「ふん。面白くないな。やるというのかい?」
まさと「当たり前だっ! シルフィーとパルティアさん、返してもらう!」
サイファー「ふっ。それはどうかなっ!?」


サイファーの体から、黒い波動が放出される。
その波動がミュウを包む。

ミュウ「あっ。」

ミュウの装備に変化が起こった。
そうだ。今また、ミュウはジェノサイドに変化しようとしている。
何とかしようと盾を持ってミュウの前に回ろうとした。

ミュウ「ちょっと。」
まさと「うぉ。」

俺は一瞬遅く。
ミュウの装備はジェノサイド化した。
が。
手の甲に鍵爪を生やした手が、俺を静止する。

ミュウ「やめといたほうがいいって。んなの、もう平気だし。」
まさと「え?」


ミュウは、へろへろと指を振って何ともないと言う振りをする。
明かにジェノサイド化している。それなのに。

まさと「平気って・・・お前。」
ミュウ「平気は平気。言ったでしょ、全部あたしなんだって。だから、もう平気。」
まさと「あー。今やっと分かった気がする。無茶意地悪なこと言ったり、俺ぶん殴るのって、ジェノサイドの仕業だったんだな・・・。」
ミュウ「へへへっ。大ピンポン!」
サイファー「・・・・そんなことが・・・・・・・・。」
ミュウ「あるのよねぇ。ふふっ。あたしは、全部ひっくるめて、受けとめてもらえたの。だから、もう、闇に捕らわれる事は無いよっ。」
まさと「いや、捕らわれてないかもしれないが、はばかられるような台詞をぽんぽん吐いてるような。」
ミュウ「聞き流しといてよ。さて、元に戻ろっと。」

ミュウは、すっと装備を元の状態に戻す。
ここまでブースターを好きに変化させるようになるとは。

サイファー「くっ。そうか。ならばっ!」

サイファーの目がギンッと開かれ、俺達の周りの空気が静止する。
俺も、ミュウも、ファルネでさえも動く事が出来なくなった。

サイファー「・・・・何度来ても、無駄なのだよ・・・・・。」
まさと「くっ。」
ミュウ「うぅっ!」


テラスではラルフさんたちが魔獣相手に善戦を繰り返していた。
が、次々に現れる魔獣に少しずつ押されてきていた。
ホエールのほうもデッキの入り口に魔獣が押し寄せてきていて、ガゼルさん、ポップさん、ルビーが、これを押し返すので、手一杯で、とてもテラスまでは手が回らなかった。

ラルフ「さすがに・・・・。」
シルビー「そうじゃのぉ、そ、そろそろ一息・・・・。」


そこへ数匹の魔獣が一気に飛びかかる。
が、それは、横合いから発生した衝撃波のような物に打ち据えられ、消滅する。

ラルフ「ん! お前は!」

玉座の間では、ダイア、マーガレットとパールの激戦が続き、こちらはこれで手一杯。
俺達はサイファーに見据えられて動けない状態が続いていた。

シルフィー「もう、やめてよぉ。」
サイファー「そうはいかん。目的達成の時はすぐそこまで来ているのだ。もう、一歩も引く事は出来ん。」


その時不意に、俺達を拘束していた力がすっと消える。

まさと「あっ。」
ミュウ「とっ。」
???「・・・・・間に合った様ね。」

玉座の間の入り口に人影があった。

マリン「今度こそ、バッチリ決めましょう!」

マリンさんだった。
しかし、その姿は例のバニースーツではなく、ミュウのそれに近い物だった。

サイファー「なに!? 私の力を破る?」
マリン「もうその手は使えませんよ。私が干渉波を出していますから。」


干渉波? すると、サイファーによる拘束を、マリンさんが解いてくれたのか?
いける! これなら、とことんいける!

パール「そんな機能を・・・・まさか、自力でリミッターを解いて、ブラスト化を!?」
まさと「ポチや、タマは?」
マリン「表を手伝ってるわよ。」


見ると、時折、入り口のすぐ外をポチとタマが、それは強そうな変化をして掛け抜けるのがかいま見えた。
間髪を居れずにミュウがサイファーに挑みかかる。

ミュウ「もうこれまでにしてっ! 兄さん!」
サイファー「くっ!」


サイファーはミュウの拳を交わし、飛び上がって、玉座の背もたれの上に上る。

サイファー「困ったな。それじゃぁ、本気で行かせてもらうよ。・・・・・これでね。」

サイファーが取り出した物は、ソーサルブースターだった。
形は若干違っていたが、間違い様はなかった。
その証拠に・・・・。

サイファー「ブレイクアップ! アルティマジェスティ・サイファー!」

サイファーはブースターを装着して見せたから。
サイファーはミュウに飛びかかった。
打ちこまれた拳を両手をそろえてガードするミュウ。

ミュウ「・・・くぅっ!」

二人はそのまま勢いに任せ玉座から離れて行く。
これは、考えようによってはチャンスだった。

まさと「マリンさん! パルティアさんを!」
マリン「ええっ!」


俺は、目の前のシルフィーを助けようと駆け寄る。
マリンさんは玉座の間の天井すれすれを飛んで、後方にある、動力装置のところへ。

ガルウ「・・・・勝手な事をされては困るのですけどねぇ。」

いきなり、ガルウが俺の正面に現れ、俺は玉座までの最短コースを阻まれた。
やっと現れたか、この胡散臭いプロフェッサー。
しかし、そうなら、マリンさんのほうはパルティアさんを無事助け出せるに違いない。

マリン「あっ!」

動力装置のパルティアさんの収まっているところに取り付こうとした時、マリンさんは何物かに弾き飛ばされた。

ガルウ「だから、勝手をするのは困るというのです。ふっふっふっふ・・・。」

そこにガルウが現れた。
ガルウが二人?
二人のガルウは共に、目に見えない圧力を発し、容易に近づけない。マリンさんでさえも。
俺は、その圧力をくさなぎで斬る。
しかし、なんの手応えもなく、その圧力をどうする事も出来なかった。
そうしているうちに、玉座の間に絶叫が響く。

ダイア「ぎゃぁぁぁっ!」

パールの放った光球がダイアを捕らえたのだ。
さらに端のほうへ飛ばされて、そこで動かなくなるダイア。
その衣服は、マーガレットとの格闘と、受けた光球によって、ずたずたになっている。

パール「はぁ・・はぁ・・・・。やっと・・・・・・。」

いつになく、息の上がっているパール。
そうか。今のソーサルブースターは、体力を温存せず、最大出力を出す方向で動いてたんだ。
その為、過度の負担がパール自身に掛かっている。

手前のガルウ「おやおや。もうおしまいですか。鉄壁の名が泣きますねぇ。」

そうしている間も、ミュウと、サイファーは、全力で飛び回り、激闘を繰り返していた。
互いが放った爆炎で、天井や壁面が見る見る崩れて行く。

ミュウ「てやぁぁぁぁ!」
サイファー「ふんっ!」


互角だった。
互いに一歩も譲らず、無駄に体力を消費して行く。
ひょっとすると、これは、ブラスト化している、ミュウのほうが部が悪いかもしれない。
体力が消耗して行くのだから。

奥のガルウ「そちらはそちらで、そろそろ終わりにして頂けませんかねぇ。これ異常破壊されては・・・・。」
手前のガルウ「堪りませんからね・・・・。」


ガルウ達がそういうと、動力装置の上部。
放射状の模様のように見えていたところが開く。そして中の飾りがゆっくりと開いて行った。
開いて行ったそれは、良く見ると刃物の様に見えた。

手前のガルウ「さぁ、いよいよ最後の仕上げです。」
まさと「なに!?」
シルフィー「あっ!」


シルフィーの体が浮き上がったかと思うと、一瞬で、その動力部の開口した部分にシルフィーの体は転移していた。
そして、その四肢は装置の隙間に吸い込まれる様にして固定された。

まさと「なにを!? なにをするつもりだ!?」
奥のガルウ「ええ。彼女には、動力に最終的な力を与える役目をになってもらいます。」

奥のガルウが嫌な笑みを浮かべると、刃物に見えた部分が元に戻り始める。
まさか!? このままあの開口部が閉じれば・・・シルフィーの体は!? シルフィーはっ!?

手前のガルウ「お気づきですかね。あのまま彼女の体は微塵に砕かれ、その体から流れ出る血が下におられるパルティアさまに注がれるのですよ。」
まさと「や・・・やめ・・・。」
奥のガルウ「その注がれた血が、パルティア様に絶望を喚起させ、その絶望が、さらなる力を動力に注いでくれるのです。最終段階の為に。」
まさと「やめろぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
ミュウ「シルフィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」


俺は、とにかくくさなぎを振った、なにがなんでも振った。
目の前のガルウを倒し、一刻も早くシルフィーの元へ掛けつける為に。
ミュウも、シルフィーの元へ行こうとするが、サイファーに阻まれ思うに動けない。
マリンさんも、奥のガルウに邪魔されて、いかようにも接近する事が出来ない。
そうだ。パールだ。パールとマーガレットが!
しかしその希望は無残にも裏切られた。
パール達のところへもガルウが現れていたのだ。
どういうことだ。
なぜ、ガルウがこう何人も現れる?

まさと「・・・くそっ! ・・・・くそっ! ・・・・・このぉっ!」

ダメだった。
何度斬ろうがガルウの発した圧力は消えることなく、ガルウの体に届かない。
そうしている間にもじわじわと動力装置の刃はシルフィーに迫ってゆく。
やがて、蓋になっていた部分も、それに呼応する様にゆっくりと下がり始めた。
シルフィーは、その自分に迫るものが刃物である事に気がつき、必死になってもがいているが、四肢は抜ける事はなく。
シルフィー自身もこの状況に飲まれて声すら出ない。

まさと「くそっ、どうする事も出来ないのかっ!」

その時、目の前を光が飛ぶ。
ファルネだ。
ファルネがシルフィーのほうに向かって飛んだ。
今また、現れた五人目のガルウをすりぬけて装置に滑りこんだ。
が、そこまでだった。
装置は、鈍い音を立てて塞がれてしまった。
次いで、天井から下がってきた柱のような物がパルティアさんの入れられた場所に繋がり、視線を妨げられる。

まさと「あ・・・・・あ・・・・・・・。」
手前のガルウ「どうやら無駄な足掻きだった様ですね。さぁ、いよいよ時が満ちました。この城が完全稼動する時です!」
まさと「ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!」


俺の声は玉座の間に木霊した・・・・。
誰も動けなかった。
俺も、マリンさんも、パールも、マーガレットも。
ミュウも、いつしか着地して、四つんばいになった状態で、装置のほうをただ見つめているだけだった。
にわかに振動し始めた魔城。それは、完全稼動を意味するのか。
やがて、衝撃的な事が起こった。
ミュウ達、いや、サイファーも含めたソーサルブースター装着者が一斉に装着を解かれたのだ。

ミュウ「え? なに?」
マリン「こ、これは?」

それぞれの傍にコアの入っていた部分がからになったブースターが転がる。

パール「これは・・・・まさか、コアが装置に解体されて・・・。」

傍にいるマーガレットは必死にコアの吸収を拒んでいるのか、自分の体を抱えて、振るえていた。
テラスのほうでも変化が起きていた。

ラルフ「これは・・・・いかん、はじまったっ!」
シルビー「なにっ!?」
ラルフ「見ろ、マジェスティックスが、その流れが見え始めた。すぐにこの辺りは息が出来なくなるぞ!」
シルビー「なんじゃと!? 中は何をやっておるのぢゃ!? とはいえ、ここは、離れられん・・・・。」

マジェスティックスの集積が始まった。
これから何がどうなるのか、俺達はどうなるのか、やれる事はまだ残っているのか、頭の中は混乱するばかりだった。

パール「ホエールに戻りますっ。」
まさと「あ・・・・。」
パール「こうなったら、もう、この城ごと全てを破壊するしか・・・・。」
ガルウ「そうは行きませんよ。さぁ、今、全ての力を解き放つのです。超魔導師サイファーよっ!」
サイファー「ぐ・・・・・・・ぅ・・・・・・・・。」

突如として、サイファーが小刻みに震え始め、その体はめきめきと大きくなり、異形の者へと変化していった。

ミュウ「な・・・・・なに!? 一体何が!?」

まずい、この位置関係では真っ先に一番近いミュウが狙われる。
俺は、慌てて、ミュウとサイファーの間を目掛けて走った。
今は、皆、ブースターの装着を解かれ、戦力といえるのは、俺だけしか居なかったから。
サイファーが変化を終える頃、俺は何とか、中間地点にたどり着いていた。
そして、くさなぎの剣とみかがみの盾を構え直す。
こうなったら、それら神器と、エンペリオン、そして、自分の力を信じて戦うしかなかった。それしかないと思えた。

ガルウ「なんと勇ましい事で。さぁ、思い通りに行きますかな?」
まさと「ミュウ! マリン! パール! マーガレット! ホエールへ走れ!」


しかし。
その願いもむなしく、蛇のような姿に変化したサイファーの長い胴体がうねうねとはいまわり、全員、幾度となく床に叩きつけられ、移動する事もままならない。
雄叫びを上げながら荒れ狂うサイファー。
もう手も足も出せなかった。
俺はもう、くさなぎを構えて飛びかかって行くほかなかった。

まさと「でやぁぁっ!」

くさなぎは確実にサイファーの体を捕らえ、傷つけて行った。
しかし、サイファーの今の体の大きさはそんな傷などものともせず、暴れつづけた。

ミュウ「てやああああぁ!」

うねる胴体を乗り越えて、ミュウがむらくもを構えて飛び上がる。
その剣先はサイファーの喉元をかすめ新たな傷口を作る。
ミュウが、そのまま、勢いに任せて着地したのは、俺のすぐ横だった。

ミュウ「やろう・・・あたし達で。」
まさと「本当にいいのかっ、憧れてたんだろうがっ!」
ミュウ「もう・・・・無理だよ・・・・。」


ミュウは荒れ狂う変わり果てたサイファーを見上げる。
その姿は、もう、元に戻れるなどとは到底思えなかった。
異変はここ東京だけではなかった。
ティラでも、こちらの動きに合わせて変化が起きていたのだ。
アルヘルドの跡地、ここへ、調査の為やってきていた、セントヘブンの騎士団がその変化を目の当たりにする。

騎士「隊長、技師の方でもこれは異常だと。」
技師「いけません。早く退去して下さい。でないと、我々も巻き込まれてしまいますっ!」


アルヘルドでは飽和状態になっていたマジェスティックスの海が渦を巻き、竜巻の様に空に吸い上げられていた。
吸い上げられた竜巻はまるで、中空で吸い込まれる様に消えてゆく。

竜崎「・・・・・何が起ころうとしてるんだ・・・・。まさと・・・そっちでは何が・・・・。」
騎士「隊長!」
竜崎「っ! よしっ、総員退去、ただし、安全な位置から監視は続行するっ!」
騎士「はっ!」

俺の実家でも、渦を巻き始めた魔城の様子はTVで見ることが出来た。

法子「アニキ・・・・。何やってんだよぉ・・・。」
大「・・・・・・・・・踏ん張らんかぁっ!」


玉座の間では俺達の激戦が続く。
ミュウの剣の威力を持った突風が、俺のくさなぎの光る剣圧が、サイファーを切り裂いてゆく。
徐々に・・・徐々に・・・。

ガルウ「ふふふ・・・ひどい人達ですねぇ。その娘は助けて、アスフィーは斬って捨てるのですね?」
まさと「・・・・・・ぐっ。」
ミュウ「そ・・・・・・それ・・・は・・・。」


もっともな一言だった。何もいい返せない。確かにその通りだ。
しかし、だからといって、今は、他に、成す術が無い。
俺達はその事を考えて、一瞬だけ、とんでもない隙を作ってしまった。
その隙をサイファーは見落とさず、最大の一撃を繰り出してきた。
大振りのしっぽの一撃。
これをもろに食らってしまう。

まさと「ぐぁっ!」
ミュウ「ぎゃっ!」


俺達はそれぞれ違う方向に飛ばされ、叩きつけられ、意識を失いかけた。
意識を失ってはまずいと、必死になって意識だけは失わないでいた。
しかし、それで、精一杯だった。
体中を走る激痛に、もう、腕一本動かせない。
正直、覚悟をしなければいけない状態だった。

ガルウ「さぁ、見なさい、マジェスティックスが集まってくる、魔の者の楽園が今、誕生するのです! わぁーーーーーっはっはっはっ!」

それに呼応する様にサイファーも雄叫びを上げる。
そこへ、どんどん悪化する状況に、ラルフさんが中に加勢に入ってきた。
いや、入ってきてしまった。

ラルフ「こっ、これは・・・なんだっ、なんなのだっ!?」

そのラルフさんに気がついたサイファーが、炎を放つ。
炎は、あっけに取られたラルフさんを捕らえてしまう。

ラルフ「うぐぁ・・あ・・・・・・・・。」

ラルフさんは苦悶の声を発し、炎の中でどぉっと倒れる。

パール「きぃゃぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

それを眼前で見たパールが絶叫を上げる。
直後、ミュウの飛ばされた辺りから、火柱のようなものが上がり、辺りを赤く染めた。

パール「なに? ミュウ?」
まさと「あれは・・・・。炎の中に?」


炎の中にゆっくりとミュウの姿が浮かび上がってきた・・・・・・。