第6話 最強の敵・そして… #3 ホエール出撃
シルフィー「お兄様・・・・お兄様は、何をしようとしてるの・・・・?」
サイファー「知らなくて・・・いい・・・。」
シルフィー「私は、私は・・いいよ。けど、パルティア様は・・・。」
サイファー「そうはいかない。あそこへはお前が入るはずだった。しかし・・・・彼らがそれを阻んだ。だからパルティアが変わりに選ばれた・・・必然なのだ。これは。」
シルフィー「なら、だったら、私が代わります、パルティア様と・・・。」
サイファー「同じ事だよ、もし代わったとしても同じ事なのだ・・・いずれどちらも・・・・ふっ。いや、知らないほうがいい。今は・・・。」
ここはダークキャッスルの玉座の間、玉座にサイファーが座し、その玉座から伸びた鎖に捕らわれているシルフィー。
そこへダイアが戻る。
ダイア「今、戻ったよ。」
サイファー「結果は、余り芳しくなかった様だな。」
ダイア「うん。闇の波動は、面白いけど・・・使えないと思うよ。暴走するだけ。」
サイファー「ふふん。闇の波動による隷属化は失敗に終わったか。彼ら愚かな者達に生き延びる術を残そうとしたが。私が甘すぎたか。はははっ。」
ダイア「・・・・・・・マリンと獣人は結局見つからなかったみたい。ごめんなさい。」
サイファー「そうか。なら、そのうち向こうから現れるだろう。それを待てばいい。ダイア、こっちへ。」
ダイア「はい・・・・。」
ダイアはゆっくりと玉座に歩みより、正面から玉座に膝を乗せる形で、サイファーに身を預ける。
サイファー「もう少しだ。もう少しで、望みがかなう・・・。その為には・・・。」
サイファーの指がダイアの体の上をすべり、胸を、わき腹を、尻をたどって、しっぽを手繰る。
ダイア「・・・・・あ・・・・。」
サイファー「その為には・・・。」
ダイア「は・・・い・・・・・。」
サイファーの指はダイアのしっぽの先を玩び、それを口元に持ってゆき、舐める。
ダイア「ぅ・・・・あ・・・・は・・・。」
サイファーはいきなりそのダイアのしっぽをぎりっと言う音を立てて噛む。
ダイア「ぎひぃっ!」
シルフィー「!」
激痛に顔をしかめるダイア。
噛まれたところが赤く充血し、所々出血してしまっている。
サイファー「いいか。その為には結果が必要なのだ。結果を出せ。そうでなければお前を傍においておく意味が無い。いいな?」
ダイア「ぐ・・・ぁ・・・・・は、はい・・・・・・。」
その場に崩れ落ち肩で息をするダイア。
力無く床に転がり、時折痛みの為か痙攣を起こすダイアのしっぽ。
それをシルフィーがそっと拾い上げ。治癒呪文をかける。
シルフィー「リフレース・・・・。」
ダイア「あ・・・・。」
サイファー「・・・・・・・・・。」
ダイア「あんた・・・・・・・。」
シルフィー「怪我・・・・してるから・・・・。」
ダイアのしっぽの怪我はやがて治癒する。
ダイア「・・・・・・・・・・わたしは魔族だよ・・・・。あんた達兄妹って・・・・・・・。」
そして、東京湾に面する、とある倉庫の片隅。
マリンは、ポチ、タマと共に、ここに潜んでいた。
ポチ「具合は・・・どうですか?」
マリン「かなりいいわ。ありがとう。そろそろ動けると思う。動きは・・・?」
ポチ「はい。ミュウ様が戻られた様です。合流しますか?」
マリン「・・・・・いえ、私達は私達で動きましょう。そのほうがいい。」
ポチ「陽動・・・でしょうか?」
マリン「そう出来るといいのだけどね。私にもうちょっと力があったら・・・。」
タマ「た、タマもいるにゃ。ポチもいるにゃ。大丈夫にゃっ!」
マリン「そう、ね。ありがとう、タマ。」
マリンはミスティック・マリンのままでいる。
そのスーツは所々破れ、サファイアの放った炎で焼け焦げてもいる。
今でこそここまで回復しているが、海に落下した時点では満身創痍といってよかった。
意識を失ったマリンはポチとタマに運ばれてここまでやってきていたのだ。
マリン「ソーサルブースター・・・・私に・・・・私に力を貸して・・・あの子達を守って上げられるような・・・力を・・・。」
夜が明けてゆく。
朝の光が無人となった東京であっても均しく照らす。
俺は、ミュウの口付けで目を覚ました。
まさと「あ、おぅ。もう朝か。」
ミュウ「うん、朝。ちょっと早かったかな?」
まさと「いや、もうそろそろ起きておいたほうがいい。」
時刻は7時を回ったところ。もっと早く起きていてもいいくらいだった。
ミュウが先にベッドから抜けて、朝食の準備に掛かる。
そこへ、チャイムが鳴る。誰かが来た。
といっても、ホエールのメンバーである事は間違い無いが。
ミュウ「ん・・・・おぉっ。ま、まさと、ふ、服っ。服っ。」
覗き窓を見て、ミュウがこっちにすっ飛んでくる。
そう言えば二人とも服をまともに着ていない。
まさと「だ、誰だ?」
ミュウ「あ・・・・父さん。」
まさと「・・・・うおぉっ!」
大慌てて服を着ると、ラルフさんに入ってもらった。
ラルフ「すまない。少し、早すぎたかな?」
まさと「いんや。丁度、起きたとこだったし。」
ラルフさんは、継ぎ目の出来てしまった、鎧の下の服を着てやってきていた。
とりあえず、朝食がまだと言うことだったんで、ラルフさんの分も用意して、三人で席につく。
いや、ラルフさんが入った時にファルネが一緒に入ってきていたので、四人か。
まさと「あれ・・・? 髭、剃ったの?」
ラルフ「ああ。剃った。もう、必要なさそうだから。」
まさと「そうか。うん、そのほうがいいよ。」
ファルネはテーブルの端にぶら下がって、こちらの様子を見ている。楽しげに。
ラルフ「まさとくん・・・・いや、まさと、昨日は本っ当〜に済まなかったっ!」
突然、ラルフさんが、テーブルに両腕をついて頭を下げる。
目が点になってしまう、俺とミュウ。
まさと「だぁ。いきなりなんなんだ。」
ラルフ「本当に世話になった。男として、正直感謝している。」
まさと「気持ち悪いからやめてくれ〜。いや、ほんと。気楽にしててくれ。」
ラルフ「ただ、私は、正直のところ、まだ、迷っている、悩んでいる。その話しをしに来た。」
なんだか、情けなさそうな表情で、喋るラルフさん。
ラルフ「・・・・・・・・・・・私の事を・・・・父と・・・。呼んでもらえるだろうか?」
まさと「ぐはっ。」
突然、まじめ顔になって、とんでもない事を口走るラルフさん。
なぜか、パタッと音を立ててファルネがテーブルの端から落ちる。
ひょっとして、ファルネ、ずっこけたのか? 今。
ラルフ「どう・・・なんだろうか・・・・。」
まさと「あ、いや、俺は・・・え?」
ファルネが復帰してぷぅんとラルフさんの頭の後ろのほうへ飛んでいくと、その頭をわしっと抱えて、ミュウのほうへ向ける。
ラルフ「あ。」
そうか、そういう事か。ミュウに呼んでもらえるかって事か。
俺はてっきり、夕べの事を読むか何かして、問い詰めに来たのかと思ったよ。
いや、あり得ないよな。それは。
まさと「あー、ほら、ミュウ。ちゃんと呼んでやれ。」
ミュウ「え?」
ラルフ「あ・・・あ・・・。」
ミュウ「あ、ああ!」
ラルフ「うむ。」
ミュウ「馬鹿親父、放蕩親父、嘘吐き親父・・・・」
ラルフ「うぐが・・・・・・。」
ラルフさんはテーブルに突っ伏して、あがいている。そりゃあがくか。
まさと「あ、死んでる死んでる。」
ミュウ「ははっ。御免。冗談だから、ね、父さん。」
まさと「・・・・・いや、マジで言ってた気がするが・・・・。」
ラルフ「済まない。本当に。早く話してやりたかったが・・・。」
ミュウ「いーよ、いーよ。最初から大体は気付いてたし。」
ラルフ「なに?」
ミュウ「太刀筋とか、振舞い方とか、覚えてたのとかわん無かったから。そうじゃないかなぁ〜と。」
ラルフ「・・・・・・・・・。」
ミュウ「でも、名前隠してる以上、何か、訳があるんだろうって、知らない振りしてた。」
ラルフ「うあ・・・・。」
また、ファルネがパタッと落ちる。
俺も、半分椅子からずり落ちそうになる。
まさと「ちょっと待てよ、マリンさんは、気付いてないらしいって言ってたぞ・・・・。一体いつから気付いてたんだよ。」
ミュウ「そぉ? えっとね、そうかなぁって思い始めたのは、やっぱ、パールが聖地に来た時くらいかなぁ?」
まさと「・・・・・・どうなってるんだ。辻褄合わないぞ。それ。」
ミュウ「ああ、すぐ忘れる事にしたから。じゃないかな?」
まさと「す、すると、自己暗示掛けてたか、そういう状態に・・・。」
ミュウ「多分ね。」
まさと「・・・・お、恐るべし・・・・・。」
ラルフさんは、完全に目が点になって言葉を失っている。
ファルネはまた飛びあがると、テーブルの、ミュウに近いとこに着地して、座る。
ミュウ「あ、ずっと、そうやって、傍に居てくれたんだね。」
ファルネはゆっくりと一度頷く。
まさと「・・・・・・・・えっと。八方丸く納まった・・・?」
ミュウ「うん。あと、姉さんが帰ってくれば完璧ね。家族水入らず。」
まさと「はは。済まんな、水差して。」
ミュウ「え・・・・・・。」
まさと「なんだ、その、え、って。」
ミュウ「・・・・・・・。」
まさと「・・・・・・・はっ!」
まさか、俺も既に家族の一員と言う事になっているのかっ!? まさかっ!? まさかぁっ!?
ラルフ「・・・・・・・ん?」
そこで、ラルフさんが正気に戻る。
ラルフ「もしや? お前達・・・・。」
ミュウ「あ、うん。昨日、ちょっと、ね。これ、今一つ煮えきってないみたいだけど。」
まさと「こ・・・・これって・・・・・げげげっ。」
ラルフ「そうか。うん、そうか。」
ファルネも目をつむって何回か頷く。
しかし、それにしても、ラルフさんの反応が、もの凄く淡白なのが、空恐ろしい。
まさと「あの。」
ラルフ「いや、実はな。マリンから、いずれ、そうなるだろうから覚悟はして置くようにと、釘をな・・・。そうか、うん。」
うえー、なんか怖い。
うちの娘を〜とか、怒鳴られるほうがよほど気が楽。
ミュウ「まぁ、そう言う訳で、あたしは、もう、怖いものなんて無いから。うん。あ、でも、ぎゅむっ、だけはダメかな?」
まさと「あ、しなくていいから!」
嫌な予感がしたので、ファルネに釘を刺す。
案の定、ファルネは、ぎゅむっ、の準備に入っていたらしい。
なにやら、両手で自分の頬の辺りを引っ張って、むいむいと、伸ばしたり戻したりしてる。
危ないところだった。どうにか朝の惨劇は免れた、かも。
ああ、そこの部分のデータだけは失ってて欲しかったよ。完璧に復活してるのではあるまいか。
にしてもアレだ。
この間、エルフの村と言う大家族の中に入りこんでいた事に気が付いたとこだったが、それ以前に、俺は、ずっとグレンハート家の中に完璧に入りこんで居たんだ。そうとは知らずに。
そうとは知らずに、好きに振舞ってたのね。俺は。
今更ながらに冷や汗が出たりもする。
ラルフ「ああ。そうだな。これは言っておいたほうが言いか。」
まさと「ぎくく。」
ラルフ「いや、そう、構えなくて良い。グレンハートの家系は代々、流浪の家系なのだ。」
まさと「は?」
ラルフ「その代その代で、それぞれ、好きな国に住まい、一定の主に従うでもない、剣を持った渡り鳥。そういった流浪の生活を・・・・。だから、堅苦しく考えないでくれ。」
まさと「流浪・・・・。」
ラルフ「自分の道を進んでいるだけなのだ。私も、ミュウも、な。二人が傍に居たいと思うなら、いくらでもそうしてくれ。そういうことだ。」
まさと「そ、そういうこと・・・・ですか・・・。」
ラルフ「そもそも、家をおいて出た身だしな。私は。娘の幸せを邪魔する権利など無いよ。」
ミュウ「んー、そうでもないと思うけどなぁ。父さんは、父さんでしょ、やっぱり。」
ラルフ「そう思ってくれるのか。」
ミュウ「うん。」
ラルフ「いや、娘を欲しくば私を超えてみろ。とか、そういうほうが良かったか?」
ミュウ「あはははははは。良い勝負になったかも。」
まさと「・・・・・・・・・・・あのな。」
ラルフ「良い勝負か。そうだろうな。が、勝負の必要は無かっただろう。でなければ、こうして、揃って食事などするまい。」
ミュウ「あ、深い。深い。今の一言。そうだよね。美味しいもん。」
ラルフ「ああ、そうだな。美味い食事だ。あ、一つだけ、聞かせてくれないか?」
ミュウ「あたし?」
ラルフ「まさとは、彼は、お前にとって・・・。」
ミュウ「うん。この上ないよ。」
ぐわぁ。大赤面。
間髪入れずに、そういう台詞が出るか。
ラルフ「そうか。ならばいい。言う事は何も無い。まさと。」
まさと「あ、はいっ。」
ラルフ「ありがとう。」
まさと「あ、いや。なんつーか。ええ、まぁ。まいったなこりゃ。」
ミュウ「とにかく。そろそろちゃんと食べないと、冷めちゃうよ、それに遅れちゃうし。」
ラルフ「ああ、そうだな。」
なんか、うまく話しがまとまりすぎて、怖いと言うかなんというか。
グレンハート家の一員。
それが嫌だと言うわけではないから、問題があるわけでもないけどな。
実際、この一家、ものすごく世間と言う物からずれてる。
だが、そこが肌に合うような感覚はあるのがほんと。
流浪の家系。
自分が自分の道を進み、なおかつ互いを認めてる。
悪くない。
食事が終わると、一家でアパートを出た。
ホエールでダークキャッスルへ向かう為に。
結局、事態がどう転がるか分からなかったので、広江さん、リーヌ、真悟、清美ちゃん、は、俺の部屋で待機する事になった。
リーヌ「あの。お帰りをお待ちしていますからっ。」
真悟「なぁ、俺からは、何も言ってやる事無いけど、頑張れよな。」
清美「うん・・・いい顔してる。大丈夫。だね。」
広江「こっちはまかせてくれ。そっちも、しっかりな。」
まさと「ああ、やれるだけの事をやるよ。」
真悟達を見送ると、会議室で、ミーティングが始まった。
パール「じゃぁ、最終的なシフトを。操艦、エドさん。砲手、ローリーさん。管制、ミルフィーさん。それから、ガゼルさん、ポップさん、ルビーは、艦内の異常の調整と、防備で艦に残ります。他の者はデッキの出入り口に待機して突入の時を待ちます。以上です。」
長老「さて。あやつらの最終目的じゃが、どう見たほうがいいんかのう?」
パール「そうですね。やはり、マジェスティックス濃度をあげて、地球全土を魔の属性を持つものの星にする。これではないかと思います。なので、マジェスティックスの誘引装置、これの停止、もしくは破壊。これがこちらの最終目的でいいと思います。同時に、捕らわれて居る者の救出。」
ラルフ「では、装置の場所や捕らわれて居る者の居所は。」
パール「私が知っている限りでは、制御は全て玉座の間から行うようになっています。その後設計変更が成されていなければ。人質に関しても、先の例から考えると、これも玉座の間、でしょうね。もちろん、そこに居なければ、城内を探さねばならないですけど。」
まさと「じゃぁ、ホエールをいきなり玉座の間のある天辺にぶつけるってことか。」
パール「ええ。かなり強引だけど、それが一番近道だと思うわ。ホエールはそれに耐える強度もあるし。問題は、それまでの接近ね。」
エド「そうだよなぁ。いくらホエールが硬いって言っても、うじゃうじゃ邪魔されたら、そうも言ってられねぇ。」
まさと「それに、あの光線だってあるし。」
パール「ええ。そういうこと。だから、ホエールでの接近は、海面ギリギリを全速で進行する事になると思います。」
エド「海面ギリギリ・・・。」
パール「張った障壁と、それが海水に触れる事で巻き起こるカーテンを盾に、襲撃や光線を避けて進行。これがベストではないかと。光線に関しては、あれは、ホエールに搭載しているマジェスティ・カノンと同種の物ですが、射角に限界があります。水面に城がある場合、水面ギリギリには安全装置が働いて発射できません。これも、設計変更されていなければですけど。」
エド「なるほどなぁ。よっしゃ。操艦のほうは、一つ、まかせてくれ。で、その状態だと表が見えないと思うんだが、それは?」
パール「ええ、目視で確認は出来ません。艦首のセンサーと、こちらで使われているGPSによる、複合システムで、位置を確認しながら進む事になります。海面との距離もセンサーに頼る事になりますが、勘も必要になってくると思います。」
エド「おう。わかった。なんとかすらぁ。」
パール「突入してからは、状況次第、と言う事になりますが、大まかな指示は・・・・・・・まさとさん。お願い。」
まさと「お、俺? ・・・・・・・・っても、皆、勝手に動いてるよ、いつも。それで良いんじゃないのか?」
パール「一応のことよ。進撃するか、分散するか、撤退するか。いつも何気なしにそうしていたのなら、いつも通りってことでもいいわ。」
まさと「ああ、じゃぁ、そのいつも通りだ。それぞれが得意なとこで、本領発揮大作戦。」
ラルフ「そうだな。」
パール「じゃぁ、作戦会議は終わり。準備に掛かって。」
皆めいめいの役割にしたがって装備の点検と準備に入る。
その段になって、どんな格好で挑むか、考えあぐねていたところに、エドさんが大きな袋を持ってやってきた。
エド「おーい。これ、使ってやってくれねぇか?」
袋の中からは、あの、懐かしい赤い鎧が出てきた。
エド「エド・エンペリオンIII。おいらの自信作だよ。勝手やって悪いけど、お前さんの持ってた鎧と、壊れたエンペリオンIIを合わせて仕立て直してみたんだ。」
まさと「エド・エンペリオ・・・え、この赤いのって・・・。」
ラルフ「そうだ。その鎧は、エドが作った物だ。魔法効果をある程度跳ね返せる、稀に無い鎧だ。」
まさと「なに? じゃ、そのエドさんが作った物をおっさんが使ってて、それをまたエドさんが手直しして、ミュウが・・・。」
エド「そうそう。ラルフのがエンペリオン、ミュウちゃんの時がエンペリオンIIよ。」
ミュウ「へー、胸当てのとこ、こうしたんだぁ。飛ばされて、もう使えないと思ってあきらめてたけど、拾って直しててくれたんだ。」
エド「いや、使い物になるかどうか、怪しくてな。今まで、触ってるの言えなかったんだ。ここの工房使わせてもらって、なんとか出来たようなもんだけどな。いいよな、ミュウちゃん?」
ミュウ「うん。あたしはブースター使うから、これは、まさとね。ほらほら、早速着替える着替える。」
まさと「あ、うん。」
言われた通り、エンペリオンを身につける。
軽い。この鎧は見た目より、相当軽くできている。
しかも、それでいて、強度的にはしっかりしている。
これは、体力に乏しい俺には非常にありがたい。
エド「おう。サイズもいいみたいだな。よっしゃ。あー、悪いけど、剣とか持ってるとこ見せてくんねぇか?」
まさと「ん? ああ、いいよ。」
くさなぎを呼び出す。
すると、くさなぎに変化が起こっていた。
姿を現したと思ったとたん、何か、振動するような音を立てながら、形状が変化していったのだ。
つばの部分が大きくなり、何より、剣先に大きな変化があった。
直前まで、剣先は少しだけ変化していて、ひし形の追加された剣先が付いているようになっていたのだが、今度はそれを凌ぐ変化が起きていた。
まさと「あ・・・・・また・・・形が・・・。」
くさなぎの剣先。
昨日見せたあの光の剣先が、実体化していたのだ。
ラルフ「これは・・・真の・・・剣先か?」
まさと「たっ、多分・・・。昨日は光ってるだけだったんだけど。」
横合いに居た、ファルネが俺の肩にとりついてくる。
ファルネ「ルーン ノ カゴ ハ トモニアル。マヨウ コトナク ススメ。」
まさと「じゃぁ、俺は・・・・。」
ファリア「剣に認められたか。いや、ルーンか?」
まさと「まさか・・・・盾も?」
みかがみの盾を呼び出すがこちらは変化していない。
まさと「ま。そうはうまくばかりは事運ばねぇか。」
ラルフ「くさなぎの真の剣先が現れただけでも大した物だろう。気を落とす事は無い。」
エド「うんうん! 大したもんだよ、まったく! さぁ、おいらもブリッジで頑張るゼぇっ!」
エドはブリッジのほうへ去っていく。
パール「出発前に、ブースター付けておいた方が良いわ。」
ミュウ「え、あ。」
まさと「おう。悪い悪い。渡してなかった。」
俺は、ズボンのポケットに入れっぱなしだったブースターを渡す。
パール「キーワードが違うから気をつけて。じゃぁ先につけるから・・・・・ブラストアップ! ミスティック・パール!」
まさと「ブラスト!?」
パールがブースターを装着すると、昨日までのそれではなく、以前のに似て、それで居て、洗練された感じのスーツに変わった。
ミュウ「ミスティック・パール?」
パール「ごめん。あやかりたかったから。」
ミュウ「ああ、ううん。間違えたのかと思った。じゃ、あたしも。・・・・・・ブラストアップ! ミスティック・ミュウ!」
それでもミュウは変身ポーズを取る。
ミスティック・ミュウの姿も、以前のそれに似つつも、どこかデザインが変わっていて、強そうだった。
と、ミュウの目の前で、何かが揺らぐ。
ミュウ「え? なに?」
その揺らぎはやがて形となって固定した。
剣だ。
剣が中空に浮いている。
しかも、その剣は透明で向こうが透き通って見えていた。
ミュウ「なに、これ?」
パール「いえ、私も知らない・・・・あれ・・・・この剣・・・・。」
よく見ると、その剣は、昨日ミュウが握っていた、あの黒い剣によく似ていた・・・。
まさと「おい・・・これは・・・・罠か?」
ミュウ「うーんどうだろ。なんか、剣に呼ばれてるような気がする・・・。」
恐る恐る、ミュウは剣に手を伸ばす。
まさと「あ、よせって・・。」
ミュウ「あ、ううん。きっと大丈夫。」
とうとう、ミュウはその剣を握ってしまう。
ミュウ「・・・・・・・・・・・・・ム・ラ・クモ?」
まさと「なんだ・・・剣の名前か?」
ミュウ「多分そう・・・・やっぱりそうだ。昨日の剣だよこれ。」
パール「別段、なんの異常もないわね・・・・。」
パールが端末を使って調べている。
ミュウ「あ、あたし、この剣使える。覚えてるよ・・・。いいのかな・・・使っちゃって。」
パール「扱いきれるなら。ね。呼応して出てきたってことは、あなたの剣とも言えるし。まずい感じを受けるなら捨てればいいわ。」
ミュウ「あたしの・・・剣・・・むらくも? やっぱり魔剣って呼ぶのかなぁ?」
パール「好きに呼んで良いんじゃない? 自分の剣なら。」
ミュウ「じゃぁ、魔剣むらくも!」
まさと「聖剣に、魔剣かぁ。妙な事になってきたな。こりゃ。」
ミュウ「まぁ、戦力にはなると思うよ。これ。」
まさと「ああ、思い出した。日本の伝記にあるぞ。退治したヤマタノオロチから剣が出てくるんだけど、それが、草薙の剣か群雲の剣か、どっちかだ、諸説乱れてるけど。」
ミュウ「へぇ。そんな話しになってるんだ。ふーん。」
まさと「さらに余談だけど。その伝記には後日談みたいなのがあってな。スサノオはオロチを退治した後、その生贄にされかかってた巫女かなんかと一緒になるんだ。」
ミュウ「へー。んで?」
まさと「うん。その巫女、つまり、嫁さんが、よもつなんとかって別の国にいっちまったのをスサノオが連れ戻しに行ったなんて話しもある。」
パール「ティラとか、転移とか、そういうのとすりかえてみると、面白いかもね。」
ミュウ「ほぉほぉ。じゃぁ、ひょっとしたらこの剣、こっちのヤマタノオロチから出てきた物かもって事かな?」
まさと「かもな。草薙で大蛇を退治して、出てきた剣が群雲ってのが、一番分かりやすいけどな。俺は。」
ミュウ「そだね。」
パール「さぁ、準備も整った事だし、いよいよ出発かしら?」
まさと「ああ。そうだな。」
ブリッジに艇内放送でパールの声が響く。
パール『エドさん、そちらの準備済み次第。ホエールを発進させて下さい。』
エド「おうよ。もう準備は出来てるぜぇ。いつでもいけらぁ。」
パール『そう、では、偽装解除、ホエール発進!』
エド「了解! リフト収納! 偽造解除! アンカーカット! 大型移送艇ホエール、発っ進っ!」
偽装が解け、いよいよホエールがその姿を現し、ゆっくりと上昇して行く。
その姿をアパートのベランダから、広江さん達が見ていた。
広江「・・・・いったか・・・戻れよ。ちゃんと・・・。」
ホエールは300mほどの高度に達すると、向きをダークキャッスルに向け、加速を開始した。
東京上空を徐々に速度を上げながら進むホエール。
その様子を地方のテレビ局が報道特番として流していた。
奈良の俺の実家では、親父と、法子がその様子を見ている。
法子「でかい鯨・・・・。」
大「あれに、まさとが乗っとるんか・・・。」
法子「乗ってるんでしょ。警部さんがそう言ってたし。」
大「今更だが、何かしてやれる事はなかったんかなぁ。」
法子「お父ちゃん! 何言うてんの。応援があるやん!」
大「おお、そうだ。応援だ! 宗方柾人ばんざぁーい!」
法子「・・・・ずれてるずれてる。まぁ、外れてもないか。」
大「しかし、心配で堪らんな、実際。」
法子「大丈夫、ミュウ姉とか、仲間が居るんだもん。」
ホエールはどんどん加速して半時間ほどで東京湾に出る。
エド「ようし、海に出たぞ。げっ!」
東京湾上空にはホエールの動きを察知して、既に、無数の魔獣と、小型の戦闘機のような物、そして、ジャークとかいう、戦闘艦が待ち構えていた。
パール『エドさん、予想の範囲です。予定通り海面ギリギリを。』
エド「おう。じゃぁ行くぜ、かなり揺れると思うから、皆ちゃんと捕まっててくれよぉ!」
ホエールは急下降し、海面を目指す。
魔獣達も徐々にホエールめがけて集まり出していた。
水面に近づくと障壁に触れ、跳ねあがった海水がホエールの姿を隠す。
正面から来る魔獣などは海水と障壁に跳ね飛ばされ、ことごとく散っていった。
ジャーク、サメのような形をした戦闘艦、これのみが厄介だといって良かった。
ジャークはこちらに照準を定め、マジェスティ・カノンを放ってくる。
これは、先の障壁と海水で、拡散され、どうと言う事はなかったのだが、ジャークは足が速かった。
あれよあれよと言う間に、バックをとられる形になった。
それも、ほとんどのジャークが後ろに集まってきている。
まさと「おい、これ、まずいんじゃねぇか?」
パール「ええ、このままでは的になってしまうわね。エドさん!」
エド『おうよ! 花火ぶっ放すかい!?』
パール「ええ。進路と、速度はそのままで回頭できますか?」
エド『あん? そんなのわけねぇぜ! おんじゃ行くぜ、ローリー! 主砲発射準備!』
ローリー『あいよぉ。』
エド『そんじゃ、一生一代の大曲乗り! おっぱじめるぜぇ!』
ホエールは進行方向はそのままに、ゆっくりと海水のドームの中で回頭する。つまり、後向きに爆走する状態となる。
ホエールは真後ろに噴出するような推進システムではなく、船体周囲4箇所、ひれのようになっている所にあるドーム状のユニット、マジェスティクラフトによって、その船体の保持、及び推進を行っている。
だから、こんな後向きに全力加速するような姿勢がとれた。
回頭し切ると、艦首の紋章のようなところが開き切り、そこに光が集まり始めていた。
ローリー「はい、はい、はい、はい、いいよぉ、準備完了。射角バッチリ、照準来てる、いつでも行けるよ。」
エド「おっしゃぁ、ぶっ放せぇ!」
ローリー「あいよ! マジェスティ・カノン、発射っ!」
主砲塔から閃光が走る、ジャークのそれと比べてけた違いに光量のある閃光の帯が。
ホエールのバックに付けていたジャークはみなその光の帯に捕らわれ、爆発、海中に没して行った。
まさと「す・・・・すんげぇ・・・・・。」
マーガレット「あれがホエールの主砲です。」
ホエールは主砲口を閉じ、艦首を進行方向へ戻す。
法子「す、すごぉ、あの鯨!」
大「映画みてぇだったな・・・・。」
デッキの出入り口ではなぜかパールが渋い顔をしていた。
パール「効果が大き過ぎる。計算の倍以上の威力が出てる・・・。」
まさと「お? 良いんじゃないのか? それはそれで。」
パール「ううん。効果が大きいという事はマジェスティックスの濃度が上がってきている証拠よ。」
まさと「あ、そうか。触媒が多すぎるって事か。」
パール「ええ、だから、本気で阻止しないと、まずい、そんな状況ね。」
まさと「そう・・・・・・だな・・・・。」
パール「そろそろ、城が近いわ。」