第6話 最強の敵・そして… #1 ジェノサイダー

夢を見る。
子供の頃のミュウが一人部屋に籠り、丸くなっている夢を。
母親を失った頃のイメージか・・・・。そんな感じがする。
窓の外にファルネが見えた。
そうだ。フレイアは亡くなってしまったかもしれない。
けれど、その遺志を引き継いだ、ファルネが傍にいる。
そのファルネも、もうすぐ、完全復活する。
その事を早く伝えてやりたい。
ゆっくりと子供のミュウが顔を上げ、瞳を開く。
その瞳に映っているのは・・・俺だった。
そこで、目が覚めた。

パール「んー、ふぅ・・・・・。」

パールはまだ眠ってる。時間は9時頃。
パールは、ひょっとして、朝、弱いのか。
起こすとかわいそうに思えたので、しばらく、そのまま動かないで居る事にした。
そもそも、俺の看病やらなんやらで、普段あんまり寝てなさそうに思ったし。
昼近くなって、ようやくパールが目を覚ます。

パール「あー、おはよう。もう、起きてたんだ。」
まさと「ああ。」
パール「何時?」
まさと「昼前。」
パール「あにゃぁ。もうそんな? ・・・ここのとこ、寝てなかったしなぁ。」
まさと「やっぱりそうか。」
パール「けど、いいね。こういうの。」
まさと「ん?」
パール「起きた時に誰か居るっていうの。なんだか、うれしい。」
まさと「今までそういうことは・・・・・無かったか。」
パール「マーガレットは居たけどね。」
まさと「そうか。」
パール「さて・・・・・っと。」

パールが上体を起こしたとこで、部屋のインターホンが鳴る。

リーヌ『パールさぁん。もう起きてくださぁい。お昼になっちゃいますよぉ。』
パール「ちょ、ちょちょとまて・・・ひゃー。」
まさと「げ。よりによってリーヌ?」
リーヌ『開けますよぉ、いいですねぇ?』
パール「あーーーー。わーーーー。」
まさと「げろまずーーーー。」

ロックを掛けていなかったので、ドアはいとも容易く開けられてしまった。
その後、ホエール中に響き渡るような悲鳴をリーヌに上げられてしまいましたとさ。
皆その悲鳴を聞きつけて、掛けつけてくるわ、リーヌの誤解を解くのが大変だわで、なかなか愉快な朝、いや、昼だった。
一件が無事落着すると、ラウンジで朝昼兼用の食事を摂る。

まさと「はぁ、落ちついたぁ。」
真悟「やるねぇ。まー坊も。」
まさと「なんもねーよ。向こうに行ってからこっち、雑魚寝とか、慣れっこになっちまってなー。感覚が多少プアーになってる。」
パール「はぁ。今日、ちゃんと部屋用意するからね。毎朝叫ばれでもしたら、身が持たないわ。」
まさと「そりゃ、いえてるな。」
リーヌ「・・・・・すみませぇん。阻喪ばかりで。あぅ。」
まさと「まぁ、もうちょっと、落ちついて対処してくれりゃいいさ。今のままだとリーヌの方が持たないぞ。俺の身の回りはこれからどんどんハードでデンジャラスでサプライズになるぞ。」
リーヌ「・・・・はいぃ。」
ファリア「うーん。」
まさと「ん? どうした?」
ファリア「あ、いや。思い過ごしだ。」


腹いっぱいになると、俺は甲板に出た。修理を手伝おうかと思って。
既にパールが修理の作業をはじめてる。

パール「あ、手伝いはいいわ。聖剣の方に専念してて。ちょっとくらい修理する個所が増えたっていいから。」
まさと「修理って・・・あ、寸止めか。」
パール「そうね。それもあるけど、もちろん、剣先を出せるようにする事もね。」
まさと「・・・そうだな。じゃ、向こうのほうでやってるよ。」
パール「ええ。こっちに向かって放たないでね。」
まさと「するかっ。」

甲板のパールが修理しているところとは反対のほうに寄って、外向きに立つ。
これなら、くさなぎを思いきり振り回しても被害は無いだろう。
くさなぎを出して、昨日のように意識を集中する。
剣先に陽炎が立つ。
が、そこまでだった。それ以上の変化は起こらなかった。
なにがなんでも意識を集中する。
が、脂汗が出るばかりで、状況は変わらなかった。

まさと「・・・・ふぅ。ダメか。・・・・・・・わっ。」

いきなり、後から汗をぬぐわれる。
それがタオルであるのに一瞬遅れて気がつく。

まさと「び、びっくりするだろうがっ! パール!」
パール「なぁーにーーーーーー? 呼んだぁ〜〜〜?」


パールは向こうのほうで、修理を続けていた。

ファリア「俺だ、俺だ。」
まさと「おお。」
ファリア「苦戦してる、みたいだな。」
まさと「あ、ああぁ。」

パールがとことことこっちにやってくる。

パール「どうしたの?」
まさと「あ、いや。」
ファリア「やっぱり、気がついてないのか?」
まさと「ん? なにがだ? さっきもなにか言いたそうだったけど。遠慮せずに言ってくれ。」
ファリア「お前、一人きりになったことってどのくらいある? あー、ティラに来てから。」
まさと「・・・・・・・・・・・おー、そう言えば、ほとんど無いな。俺が一人で居ると大概誰か来て・・・・。」
ファリア「偶然だと思うか?」
まさと「ん? 偶然じゃないのか?」
パール「偶然も必然のうちとは言うけど。」
ファリア「偶然だと思ってるうちは、その剣は使い物にならない。」
まさと「・・・・・・・・・・・・えーっと。」
パール「ああ、そういうことね。」
まさと「いや、もそっと直球だと助かるんだが。」
ファリア「そも、剣と言う物がそういうものだ。ちゃんと、そうした物が見えないと剣の本当の力は出ない。」
まさと「だから、そうした物って、なんなんだ〜。」
ファリア「お前は、守られてる。まずは、そこだ。」
まさと「・・・・・・あ。じゃぁ、皆、俺を一人にしないように・・・。」
ファリア「そうだ。申し合わせた事じゃないけどな。他の誰かはいきなり居なくなっても情勢にそう影響はない。だが、お前は別だ。居なくなられては、死なれては困る。分かるか?」
まさと「ああ。しかし、ファリア、お前、そんなに流暢だったか?」
ファリア「聞けよ。苦手なの無理して話してんだ。」
まさと「あ、すまん。続けてくれ。」
ファリア「その守られている事に気がつくのが一つ。次は、やはり集中力。」
まさと「それがくるか。」
ファリア「倒す相手に集中しないと勝ちは消えるからな。最後は、守るべき物に気付く事だ。」
まさと「・・・・そりゃみんなだ。」
ファリア「あほ。だから、剣が使えない。」
まさと「そ、そんなもんか・・・?」
ファリア「お前は八方美人過ぎる。」
パール「・・・・・・・・・ああ。」
まさと「なんで、パールのほうが先に納得するんだよ・・・・。」
パール「うん。こういうのはきっと、横で見てるほうが気付きやすいと思うわ。」
まさと「うーむ。」
ファリア「俺が言えるのは、それだけだ。後は、自力で何とかするしかない。それが極めると言う事だ。」
まさと「そうだな・・・闇雲に振ってるだけじゃダメだな。」
ファリア「ああそうだ。振るうな。使うんだ。あー、もっと、分かりやすく説明できるといいんだけどな。」
まさと「いや、ヒントは掴めた気はする。礼にキスの一つでもしてやりたいところだ。」
ファリア「馬鹿。相手を間違うな。それだって弱点だ。」
まさと「ああ、そうか。そうだな。守られてる事、守る物、か。曖昧過ぎるのか、俺。」
ファリア「ただ、生きるだけなら、曖昧もいいがな。」
まさと「ああ、じっくり、考えてみるさ。」
ファリア「そうだな。時間は無いが。考えろ。」

近くで、スリップしながら急発進する車の音が聞こえた。

まさと「なんだ?」
パール「騒々しいわね・・。」

音の方に向かい始めた時、風が唸る音と、金属が擦れ合う音がして、直後に爆炎が上がった。

まさと「変だ・・・行こうっ!」
ファリア「嫌な・・・予感がする・・・。」

慌てて艇内に戻り、通路を抜け、リフトでアパートに移り、大慌てで階段を駆け下りて表に出る。
そこには、長老、ガゼルさん、ミルフィーさん、ルビー、マーガレットが先に来ていた。

長老「・・・・・・・な、なんということじゃ。」

目の前で黒塗りの車が轟々と炎を上げて燃え盛り、すぐ近くの歩道に広江さんが投げ出されていた。
ひどく怪我をしているようだが、まだ動きはあった、息はある。
そして、爆炎を迂回する様に、一人の人物が手前に周り込んで来た。
黒っぽくて張りのある、皮のような衣装。
そして、手に真っ黒な、刃の研ぎ出された部分のみ、焼けるような赤色をした、大きな剣を持って、こちらを見据える。
女だった・・・。

女「戻ったよ。・・・・・・終わらせる為に。」
ラルフ「なぜだぁぁぁぁぁっ!」


ラルフさんが叫ぶ。
その女が誰なのか、その時やっと気がついた。
慇懃な目つきをしていたので、ぴんとこなかったが、間違いなく、この女を俺は知っている。いや、知っていた。
女は・・・・・ミュウだ。

まさと「一体・・・。」

炎と煙を上げつづける車、散らばった、車の部品、そして、パトライト。
今、目の前で燃えているのは、広江さんの乗っていた、覆面パトだ。
すぐ横に、広江さんが居るから、これは間違い様が無かった。
では、これを、ミュウがやったと言うのか?手にしている黒い剣で!?

ミュウ「どうしたの? 歓迎ぐらいしてよ。せっかく戻ったのに・・・。」

残念そうな顔をして、ミュウが剣を高々と掲げると、黒い霧のような物が、剣に纏わりつき始める。
霧が渦を巻くようになると、ミュウは、剣をこちらに向かって振り下ろした。
霧が突風に乗る様にこちらに飛ぶ。
慌ててみかがみの盾を呼び出し、皆の前に出て、構える。
が、霧はそんな物はものともせず、皆の立っている場所をつきぬけて行った。

まさと「ぐぁ・・・・。」
長老「ぐぬぅ・・・。」
ラルフ「ぐはっ!」


とたんに、ものすごい悪寒と吐き気が襲う。

まさと「な・・・・なんだ・・・これ・・・・。うぐ・・・・。」
長老「なんじゃ・・・この・・・すさまじい嫌悪感は・・・・・。」


何かを感じ取ったパールがソーサルブースターを取り出す。

パール「ソーサル・セットアップ・マジェスティ・パールッ!」
まさと「パールっ!?」
長老「何をしようというのじゃ、相手は・・・。」
まさと「・・・そうか、これは、ミュウじゃ・・・・。」

パールは陣営の前に出て身構える。
そのやり取りをじっと見ていたミュウが意味深な笑みを浮かべて言う。

ミュウ「さすが、寝返るだけのことはあるわね。パール。敵と見方の区別がちゃんと出来るんだ・・・。」
パール「・・・・気をつけて。用心しないと本当にやられるわよ・・・。」
まさと「どういう事なんだ・・・ミュウなのか、ミュウじゃないのか・・・。」
ルビー「少なくとも、幻影の類ではないわ・・・。そこに居る・・・。」
ミュウ「言っておくけど・・・あたしは、あたしだからね。幻でも、サファイアのような作り物でもないわ。ふふっ。」
まさと「ミュウ・・・なのか? 本当に帰ってきたのか?」
ミュウ「言ったでしょ。終わらせる為に戻ったって・・・・。」
まさと「そ、それじゃ・・・。」

俺が一歩前に踏み出した時。

ミュウ「終わるのは・・・・・。ふふっ。」

ミュウの持った剣が俺達のほうを向いている。
俺達が終わる? 用心しろと言うパール。それじゃ、この目の前に居るミュウは、敵なのか!? そんな馬鹿な!?
ミュウ「まさと・・・。生きててくれてうれしかった・・・。」
まさと「あ・・・・。」
ミュウ「ずっと、気掛かりだったから・・・・。今度こそ、楽にしてあげる。これ以上、重荷に苦しまないでいい様にねっ!」

ミュウの目がぎんと見開かれると、振るった剣から剣圧が迫る。
盾で、それに抗うが、その勢いに負け、飛ばされてしまった。
無様に道路を転がる俺。

まさと「ぐ・・・・はっ・・・。」
ファリア「ミュウ・・・・・お前・・・・ほんとに・・・・。」

その様子を上空からダイアが眺めていた。

ダイア「さて、どうするのかなぁ? もう聖剣で斬れない物なんて無くなったと思うけど、倒すか、倒されるか、それとも・・・。くくっ。」

そこへサファイアとエメラルドが現れる。

サファイア「ほおっておいていいの? 加勢して一気に叩いてしまえば・・・。」
ダイア「馬鹿ね。そんな事したら、掛かりやすい私達に攻撃が集中するでしょ。見てればいいのよ。面白いし。」
エメラルド「それは確かに・・・。」
ダイア「それより、あっちを早く探しなさい。生きてたらとどめを、死んでたら死体を持ち帰りなさい。言われた通りにね。でないと、わたしが怒られるんだからね。」
サファイア「わかった。」


サファイアとエメラルドはそこで姿を消す。

ダイア「さぁ、どうなの? ここで終わるのか、仲間を討つか、それとも・・・・。ルーンに認められた者がどれほどのものか、たっぷり見させてもらうからね。」

ファリアとミュウが睨み合う。

ミュウ「ふんっ。ここで勝てない様なら、どうあがいても勝ち目は無いわ。足掻き抜いて、苦しみ抜いて死んでいくだけよ。・・・・・・それなら、私が、今ここで、全てを終わらせてあげるだけ。楽にね。」
ファリア「・・・・・本当にそう思ってるのかっ!」

ファリアが堰を切ったように掛けこんで、剣を振るう。
しかし、ミュウの剣にいとも容易く、受けとめられてしまう。

ミュウ「ふっ。相変わらず軽い剣だ。スピードと切れ味だけで、どこまで勝てると思ってるの?」
ファリア「・・・・な、なに!?」
ミュウ「本当にものを言うのは、絶対的な力、剣圧の重さだってことっ!」
ファリア「あっ!」


ファリアの剣を受けとめていた態勢から、一瞬剣を引き、そこから今また振り抜かれた、ミュウの剣から発生した剣圧に、ファリアは軽々と吹き飛ばされ、壁に激突した。

ファリア「・・・・・がはっ!」
ミュウ「ほら。防御も捨ててるから、そんな事になる。もう・・・動けないわね。」
パール「やめなさいっ! それ以上はっ!」

パールが牽制の為、ミュウの近くにキャノンを撃ち込む。

ミュウ「あっ。ひどい事するねぇ。生身なのに。じゃぁいいわ・・・・。あんたから捻り潰してあげる。」
パール「あ・・・。」

ミュウは胸元に手を入れると、ソーサルブースターを取り出した。
そして、見せ付ける様に目の前に構えると、叫ぶ。

ミュウ「ブレイクアップ!・・・・・・ジェノサイド・ミュウッ!」

ソーサルブースターから漆黒か沁みだし、それが、ミュウを包む。
姿を見せる前に、漆黒の中から、金色の鍵爪のような物が飛び出し、パールを襲う。

パール「あっ・・・・・ぎゃっ!」

飛び出した鍵爪はパールの背中のキャノン砲を剥ぎとって、パール自身をも跳ね飛ばした。
やがて、漆黒がなじんで行き、金と黒のスーツを纏った、ジェノサイド・ミュウが現れた。

ミュウ「さぁ。もう、誰にも止められないよ。終わるまでね・・・・。あーーーっはっはっはっはっ。」

勝利を確信したようなジェノサイド・ミュウの笑いが通りに響き渡る。

ラルフ「くっ・・・。」

ラルフさんが掛かる。

長老「いかんっ!」
まさと「おっさん! よせっ!」

ラルフさんは、まだ鎧を着けず、剣だけを持っている。
いくらなんでも、これはまずい。

ミュウ「あ・・・・・・・来るんだ。・・・・・・そんな顔して・・・・。ずっと隠したままの癖にっ!」
ラルフ「なっ!」
まさと「・・・・・・知って、たのか・・・・。あいつ・・・・。」

一瞬出来た隙を狙われ、ラルフさんは、ミュウの断ちに捕らえられてしまった。

ラルフ「・・・・・ぅぐはぁっ!」
ミュウ「・・・・・浅い・・・・・なに?」


道端のほうへ転がったラルフさんを見ると、服の切れ目からメディカルブースターのスーツが見えた。
斬られてはいない。
そうか、あれって、障壁の機能も持ってたのか。
しかし、剣を受けた衝撃は、少なからずダメージを残して、ラルフさんは動く事が出来ない様だった。

ミュウ「そうか。じゃぁ、頭でも狙ってあげようか・・・・。」

ゆっくりとラルフさんに近づくミュウ。そして、頭を目掛けて、剣を構えて行く。
俺は、それを止めようと、とっさに、傍に転がってきていた車のどこかの部品を拾い上げ、投げていた。
それは、ミュウの持っている剣に当たり、甲高い音を立てて、転がった。

ミュウ「・・・・・・・そうね。」
まさと「ミュウ・・・。」

ミュウは向きを変え、ゆっくりとこちらに歩いてくる。

ダイア「あいつ・・・・。よっぽどの馬鹿か? それとも・・・・。」

ミュウは俺まで後2、3歩と言うところまで来て立ち止まる。

ミュウ「変わってないんだ。」
まさと「・・・・・・・・そうか?」
ミュウ「変わってないね。お人好しで、馬鹿で、後先考えてなくて、実力もないのに、前にばかり進んで、回りをまきこんで・・・・。」
まさと「おい、そりゃぁ・・・。」
ミュウ「しなくていい苦労背負い込んで。」
まさと「違うっ!」
ミュウ「違わないよ。勇者じゃなかったんだから。平々凡々と生きていれば、幸せになれたかもしれないのに。でも、伝説に首を突っ込んで行った。」
まさと「そ、そんないい方をするなっ!」
ミュウ「りゅーざきに任せておけば、簡単に解決したかもしれないのにね。」
まさと「そんなことあるかっ!」
ミュウ「さぁ、どうかな? りゅーざきなら、くさなぎを難無く使いこなしたかもよ? どう思う?」
まさと「そん・・・な・・・・。」
ミュウ「りゅーざきなら、もっと早く、解決出来たかもよ。思い込みは激しかったからね。あの思い込みは、最強の武器になったかもしれないのに・・・あんたはそれを抜いちゃった。彼の牙を。あの時点で、負けが決まったかもね。ふふっ。」
まさと「・・・・くっ。」

ダイア「へー。面白いことになってきたじゃない。さぁ、どう返すのかなぁ?」

まさと「じゃぁ、ほおって置けば好転したとでもいうのかよ・・・。」
ミュウ「なるようになってたかもね。今みたいに、出来ないことで、悩んで、苦しんで、少なくともそういうのは無かったはずよ。」
まさと「あ・・・・。」

見ると、ミュウは涙を流していた・・・。慇懃な目と裏腹に。

ミュウ「ほおって置けば、帰る帰らないは別で、あたし達だけでも、幸せに暮らせたかもしれないんだよ・・・。」
まさと「それは・・・・。」
ミュウ「あたしは、あんたがそれを望むなら、村を逃げ出てでもいいから、ついて行こうって思ってたのに。」
まさと「ちょ、ちょっと待てよっ! なんの話しをしてるんだっ!」
ミュウ「あんたが望むなら、好きに抱かれたっていいって思ってたのに・・・。」
まさと「待てってっ!」
ミュウ「微塵もなかったよね。そういうの。」
まさと「聞けよっ!」
ミュウ「りゅーざき否定して、やばい話しに首突っ込んでっちゃったよね・・・・?」

ダイア「・・・・・・・・さすがに、臆面も無い事口走ってるなぁ。なるほどぉ・・・。」

ミルフィー「もうよしなさい。あなたがミュウなら、それ以上は・・・。」
ガゼル「いや、私達も止めるべきだったのかもしれない。彼は、そんな苦労を背負うべきではなかったのは・・・。」
長老「やめい。今のあやつに何をゆうても無駄じゃ・・・・・。」
マーガレット「おかしいです。ミュウさん、おかしいです。」
ミュウ「おかしくはないよ。ほんのちょっと素直になっただけ。自分の気持ちに、ね。」
まさと「素直って・・・お前・・・。」
ミュウ「言ったでしょ。勇者かどうかはどうでもいいって。覚えて無い?」
まさと「・・・・・・あ。」
ミュウ「苦しいでしょ? 辛いでしょ? 背負った荷物が重いんでしょ?」
まさと「だから、それはっ!」
ミュウ「・・・・ここまで来ちゃったら、もう降ろせないよ。そう思ってるでしょ? それはそうよね。だから・・・・。」
まさと「・・・・・。」
ミュウ「私の手で、楽にしてあげる。これから先に待ってる苦しみを味わう前に。皆楽に死なせてあげる。」

ミュウがゆっくりと剣を振り上げる。
俺に向かって振り下ろすつもりだろう。

まさと「ミュウっ!」
ミュウ「動かないでね。動くと苦しむ事になるよ・・・・。」


ミュウが剣を振り下ろす。
当然俺は盾でそれをはじく。押されはしたが、なんとかはじき返した。

ミュウ「くっ。・・・・・・・なんで抵抗するの? そのままだと苦しいんでしょ?」
まさと「だからって・・・。」
ミュウ「もういいの。苦しまなくていいから、ほら・・・じっとしてて。」
まさと「だからって、死ねるかっ!」


ミュウとの距離をとる。
思わず、弾みでくさなぎを真正面に構えてしまい、慌てて剣先を下げる。

まさと「・・・あ。」
ミュウ「私を殺す? いいよ、それでも。殺されてあげる。それで楽になるなら、殺されてあげる。」
まさと「そ、そうじゃない!」
ミュウ「無理よね。まさとには。だから、あたしのほうから来たの。あんたを殺して、私も死んであげるわ。それで、もう、苦しまないで済むから・・・。」

ミュウの振り上げた剣が唸りをあげ出す。
今度こそ本気の一撃が来る!
避けるか、それ以上の力で跳ね飛ばすしかない!けど・・・。

ミュウ「もう苦しまないで・・・・愛してるから。」

ミュウの剣が振り下ろされる。
今までにない剣圧が俺に向かってくる。
正直、死を覚悟していた。
しかし、剣圧は俺まで届かずに、空中で霧散した。
そしてそこに、ファルネが現れた。まぶしいまでの発光を伴って。

ミュウ「っ!」
まさと「ファルネっ!」
ファルネ「あなたは、私が守ります。」

ファルネの体は今また大きくなり、そして語りかけはじめた。

ファルネ「ミュウ。よしなさい。愛する人に手を掛けようというの?」
ミュウ「なに? 邪魔するの?」
ファルネ「邪魔もします。生きていてこそ出来る事に気付きなさい。闇に心を捕らわれている自分に気付きなさい。」
ミュウ「捕らわれてなんかいないわっ! 今の実力で、勝てないのは目に見えてる! だから、不幸になる前に終わらせるの! 幸せなうちに!」
ファルネ「なんと言う事を。・・・では、力が足りないというのなら、私が、彼に力を与えましょう。」
ミュウ「なにっ?」
まさと「力!?」


ファルネの体が徐々に光の粒に変化し、俺のほうへ流れこんでくる。

まさと「え・・・・これ・・・は・・・・。」
ファルネ『ルーンの力の流れが見えますか?』
まさと「力? ルーン? 流れ・・・・? 光が向かってくるのは見えるが・・。」
ファルネ『・・・・・ルーン・ブラストス。その力を今、貸し与えます。お願い、あの子を、娘を止めてあげて・・・。あなたならそれが出来るはず・・・・。』
まさと「娘・・・・フレイア? 俺が止める・・・・?」
ファルネ『手の掛かる子で、ごめんなさいね・・・・。』

辺りが閃光で包まれ、フレイアのイメージが見える。

フレイア『あの子は、闇の波動に支配されている様です。それを遮断できれば正気を取り戻すはず。』
まさと「闇の波動。ってことは、コントロールされてるって事?」
フレイア『いえ。闇の波動によって、心の闇だけが表に出ているのです。あの子の口にしている事は、少なからず本心です。』
まさと「そうか。納得できるとこがあったりするのは、そういうことか・・・・。」
フレイア『闇の波動を発している物を、くさなぎで斬って下さい。』
まさと「けど、もし、それが埋め込まれた物だったら・・・。」
フレイア『くさなぎは・・・そういうことの出来る剣です。だから、くさなぎの真の剣先は実体を持たず、普段見えぬのです。今のあなたなら、きっと、真の剣先を操る事が出来るはずです。娘を、ミュウを助けてあげて下さい。』
まさと「そういうことだったのか。闇の波動を発している物はどうやって?」
フレイア『ルーン・ブラストスの力を宿している間はそれを感じる事が出来るはずです。意識を集中して下さい。』
まさと「ははっ。また集中か。おっけー。やってみる!」

閃光がやむと、俺の姿が変化していた。
ソーサルブースターをつけたときのような。
体が軽い。

ミュウ「あ・・・なに?」
長老「な、なんじゃ・・・・!?」

長老でさえ知らない物なのか、これは。

フレイア『ルーン・ブラストスはファルネを通して提供される、本来ルーン大聖堂の神官のみが使用する事を許される物です。その時が来るまで、神官自身も知りません。』
まさと「あ、悪いな、そんな物使わせてもらって。」
フレイア『後で、ルーンにしかられるかもしれませんが。ルーン自体も手を焼いている現状ですから、良いでしょう。
今は、その神官自身が捕まっていますから、ね。』
まさと「了解だ。」

俺はくさなぎを構え直す。いつぞやのようにくさなぎが熱い。

まさと「ミュウ。俺は死ぬのは御免だ。誰かが傷つくのも御免だ。だから、お前を助ける。何があっても!」
ミュウ「・・・・・・何を言うかと思えば。変わらないのね、やっぱり。・・・・・苦しむよ、抵抗すると。」
まさと「さぁ、どうだろうな。」

闇の波動というのは今は見えない。どうしたものか。
ミュウが剣を振り上げ挑みかかってくる。それをかわす。それも、難無くかわす事が出来た。
しかし、かわした分、剣圧が周囲を襲う。

フレイア『空へ。上空へ上がって下さい。』
まさと「あ、飛べるのか。よしっ。」

路面を蹴って、高空へ舞い上がる。それを追って、ジェノサイド・ミュウも飛ぶ。

ミュウ「逃げるのかっ!」
まさと「そんなわけね〜だろ。場所を変えただけだ。」
ミュウ「いい、覚悟ね。じゃ、行くよ・・・。」

ミュウが加速して飛びこんでくる。
それを寸前でかわして、背中をとんと押してやる。

ミュウ「あ・・・・。」

バランスを崩して、空中を一瞬漂う。まだ、飛ぶのは苦手なのか。

まさと「おいおい。まだ空が苦手だったのか?」
ミュウ「そ、そんな事は・・・。これならどうだ!」


ミュウは、肩口に突き立っている鍵爪を抜き取ると、それはブーメランの様に変形し、それを投げつけてくる。

まさと「うわっ。飛び道具とは卑怯だぞっ。」
ミュウ「言ったでしょ。抵抗すると苦しむって。」


まるで意思を持つかのようにブーメランは空中を舞いつづけ、たびたび俺を襲う。
そして、出来た隙を目掛けて、ミュウが斬り込んで来る。くさなぎとみかがみの盾を使って、なんとかそれを払う。
そんな事を幾度と無く続けた。
まだ、闇の波動を出す物は見つからない。

まさと「一体どこなんだか。」
フレイア『闇の波動がより必要になる状況を。そうすれば、見えやすくなるはず。』
まさと「・・・・なるほど。」

闇の波動が必要になる状況ねぇ。
と言う事は、喜ばせるとか、そういう誘導を掛けろってことか。
ミュウが両手を体の前に突き出して拳を合わせた。
次の瞬間、何か、目に見えない物に鷲掴みされたようになる。

まさと「うがっ。なんだこれっ。」
ミュウ「ジェノサイド・ハッグ。このまま握り殺してあげる。ふふっ。」
まさと「なんつー。ぐ。あ、あばらが。」

まさしくあばらがみしみし言ってる。
これは、まずい。
盾を構え直して、掴んでいる物がありそうなところへ、盾でアッパーをいれるような感じで突き上げた。
手応えあり。
ジェノサイド・ハッグから、抜け出す事が出来た。

ミュウ「くっ。」
まさと「ぐは・・・げほっ。まじ、今のはきついぞ。」
ミュウ「なんでそんなに抵抗するの! そんなに私がいや?」
まさと「・・・んなわけないだろ。生きててくれたんで、安心はしてるんだぞ。」
ミュウ「あ。」


一瞬。ミュウの周りに黒い壁が見えたような気がした。
そうか、やはり、そういう、闇以外の感情を起こさせればいいんだ。

まさと「ああ、そうだ。ファルネのこと色々分かったぞ。」
ミュウ「何がよ! ルーンの端末がなんだって言うのよ!」
まさと「あ、なんだ。それ知ってんだ。いや、もっとすごいのが分かったんだが。」

そんな何気ない会話をしつつ、空中戦を。

フレイア『私の事は・・・。』
まさと「いいんじゃないか。おっさんの事も気にしてたみたいだし、教えてやろうよ。」
フレイア『しかし・・・・。私は・・・。』
まさと「いいの。俺、教えちゃうから。」
ミュウ「何をぶつぶつ言ってる!」
まさと「ファルネと内緒話。実はな・・・ファルネって、お前の母さんらしいぞ。」
ミュウ「・・・・・・え?」


一瞬剣の方から、黒い壁が現れた様に見えた。

ミュウ「何をバカな事を!」
まさと「そうかなぁ。」
ミュウ「そうだ! 母さんは死んだ! 死んだんだ! 私を残して!」
まさと「あら。藪蛇だったかな? いや、厳密に言うと、コピー、いや、生き写しとか、そんなんらしいけど。お前の事とか、心配でそうしたらしいぞ。」
ミュウ「え?」


剣の飾りを中心に黒い壁が現れているように見える。
あれか!

フレイア『あれです! くさなぎを!』
まさと「おう。」

俺は盾を消し、両手で、くさなぎを構え直し、意識を集中する。
あの飾りの部分だけを狙って斬る!それだけに意識を集中していく。
出来るのか、目標物だけを斬る。そんな事が。
いや、斬って見せる。やって見せる。
俺は、ミュウを、アイツを助けたい!

ミュウ「母さんが・・・・。」

幸い、今ので、ミュウは呆然となっている。
やがて、くさなぎの剣先の陽炎が現れ始め、その周期がどんどん早くなる。

まさと「そうか! こういう感じか!」

何かが見えた、そんな気がした。
その見えた物に向かって意識を集中していく。
陽炎の周期はどんどん上がり、やがて、発光し始める。
その発光は、周期をどんどん縮め、形となって明滅を止め、光ったままの状態で定着する。

まさと「これが・・・・。」
フレイア『くさなぎの真の剣先。』
まさと「よしっ!」


剣の飾りを見据え、くさなぎを振る。飾りを居抜くイメージを思い描きながら。

まさと「いけぇぇっ!」

くさなぎから放たれた閃光がミュウの持つ剣の飾りめがけて一直線に飛ぶ。

長老「あ、あれは!」
ラルフ「聖剣の・・・・ひ、光か・・・?」
ファリア「ああ、やりゃぁできるんじゃねぇか・・・。」


閃光は、見事、飾りを射抜き、飾りはこなごなに吹き飛んだ。
同時にミュウを包んでいた黒い壁も霧散した。

まさと「・・・・・・・・・ミュウ。」
ミュウ「あ・・・ぅ・・・。」
まさと「あっ。」


ミュウは、全身の力を失うと、地面に向けて急速に落下して行った。
慌ててそれを追う。

ダイア「ルーンか。余計な事を・・・・・。けど、なるほどね。面白い物を見せてもらったわ。」

ブースターをつけているから、大概の事は大丈夫だと思うが、この高空から落ちたとなると、洒落で済まないかもしれない。

まさと「ミュウ!」

いよいよ地面が迫った時、下から、パールが上がってきて、ミュウを抱えて減速。
無事に着地した様子。
ちょっと遅れて、俺も地面につく。
ミュウが持っていた剣はその手から離れ、地面に転がっている。

まさと「パール。助かった。」
パール「いいえ。それより・・・済んだの?」
まさと「多分。もう大丈夫だと思うけど。」

ミュウに近づいて、ゆっくりと、抱き起こす。

ミュウ「ぅ・・・・・・。」
まさと「おい、ミュウ。ミュウ!」


ゆっくりとミュウの目が開く。

ミュウ「・・・・ぅ・・・・あ・・・・・。」
まさと「大丈夫か?」
ミュウ「あ。」

ミュウはぺたんと地面に座ったままぼおっとしている。

まさと「ミュウ?」
ミュウ「あ・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


しばらく、きょとんとしたまま、声にならない声を出していたが、ミュウはうつむいてしまう。

まさと「元に戻ったか?」
ミュウ「・・・・・・・・・す。」
まさと「ん?」


急にミュウは顔を上げ俺に飛びかかってきた!

ミュウ「殺す! 殺す! 殺すっ!」
まさと「うぁ、こ、こいつ・・・まだ・・・・?」

俺が慌ててそれをはねのけると、ミュウは、傍に転がっていた剣を拾い、斬り掛かってきた。
大慌てて、くさなぎでそれを受けとめる。
剣の刃と刃がギリギリと音を立てる。

まさと「みゅ、ミュウ!」
ミュウ「ぐっ・・・・・殺すっ! 殺すっ!」
まさと「くっ!」

力を入れなおしてミュウの剣を払う。
剣は宙を舞い、少し離れたところの地面に突き刺さった。
剣を失ったミュウは、再び素手で俺に飛びかかり、首を締めて来た。

まさと「くっ。」
ミュウ「殺す・・・ころ・・・す・・・・・・。」
まさと「・・・・ミュウ?」


ゆっくりと、ミュウの手から力が抜けてきていた。

まさと「ミュウ?」
ミュウ「・・・・・・・・・どうして?」
まさと「・・・・・・・?」
ミュウ「どうして、殺さないのよ・・・馬鹿・・・。」


ミュウの目から大粒の涙がこぼれ始めた。

まさと「戻ったか?」
ミュウ「う、うん。」

向こうのほうでは、パールが怪我をした者の様子を見ている。

パール「まずい。心拍数が下がってきてる。マーガレット、運ぶわよ。急いで!」
マーガレット「はい。」


広江さんが運ばれて行く。
足に大きな怪我があるらしく、血が止まっていない。

ミュウ「あ・・・・・・あぁ・・・・・・。」
まさと「あ、ミュウ。お前が悪いんじゃないぞ。」
ミュウ「違う。」
まさと「そうじゃねぇよ。」
ミュウ「違う! あたしがやったんだ! みんな! みんなっ! ああっ!」


地面に頭を押し付け、体を振るわせる、ミュウ。
記憶があるのか。闇に支配されてる時の。
ミュウはやがて、俺にしがみついてきた。

ミュウ「お願い・・・・・殺して。」
まさと「おい・・・。」
ミュウ「まさとを怪我させたのもあたしっ。みんなを怪我させたのもあたしなんだっ。だから、だから・・・・殺してっ。お願いだからっ。殺してぇっ!」
まさと「そ、そんなこと、出来るか馬鹿っ!」
ミュウ「あ・・・あぅ・・・・あああぁぁぁぁぁ・・・・。」

ミュウはまた力無く地面に伏せると、変身が解けた。
幸い、出血が多かったものの、広江さんの傷は浅かった。
メディカルブースターのおかげで、もう、喋る事が出来るようになっていた。

広江「いや、心配掛けたな。宗方。」
まさと「痛みますか?」
広江「まだ、ちょっとな。だが、桜田門のあれを見たときから、こういうのは覚悟して居たさ。気にするな。それより、お前の活躍を見れなかったほうが心残りだ。気を失っていたからな。」
まさと「活躍って、言えるのかな・・。あれ。」
広江「怪我人は出ているが、その場を凌いだんだろう? 私はもっと胸を張っていいと思うが。」
まさと「そうなんですが。ミュウが・・・・。」
広江「どうかしたのか?」
まさと「うん。あれから塞いじまって、様子が・・・。」
広江「そうか・・・・。もし、私の事を気にしてるようなら、コーラ一杯で手を打つぞ、とでもいってやれ。」
まさと「あ、そうですね。気にするなっていうより、アイツにはそのほうがよさそうだ。そうします。出来ればだけど。」
広江「・・・・? そんなに塞いでるのか?」
まさと「まぁ。アイツ、全然喋らなくなっちまって・・・・。」
広江「無理も無いか・・・。とにかく、今は、傍にいてやるしかないな。早く戻ってやれ。」
まさと「はい。そうします。」

広江さんに伝えたとおり、ミュウの様子がおかしかった。
まず、会話その物が出来なくなっている。
こっちが言ってる事は理解できている様なんだが、どうにも喋らない。
じっと、地面か、俺の方を見ているだけ。
自閉症とでも言うのだろうか。
広江さんを見舞っている間、ミュウは、扉の外で待っている。
広江さんの話しをしたとたん、どうにも、ぐずって入りたがらなかったから。

まさと「おう。済んだぞ。」
ミュウ「ん。」
まさと「気にしてるのか?」
ミュウ「ぅ・・・。」
まさと「気にしてないってよ。コーラ一杯で勘弁してくれるって。」
ミュウ「ぁ・・・うん・・・・・・。」

服も、さっきのままではいかつすぎるんで、適当な物を持ってきてもらったが、ミュウが選んだのは、なにやら、可愛い感じの、それまでミュウが着る事の無かった、ピンク色のワンピースだった。
さらに移動の間、ミュウは、俺の腕を掴んで離さない。
何がなんでもついていく。そういう感じである。
誰かに会うのが気まずそうなんで、歩き回らずに、与えられた自分の部屋に戻る事にした。
ゆっくり、ミュウがいつもの自分に戻るのを待ってやればいい。そう思ったから。

まさと「と言う事で、ここが俺達の当面の部屋だってさ。」
ミュウ「ん。」

座るところといっても、金属丸出しの床か、ベッドかしかないような状態なので、ベッドに腰掛ける。
するとミュウはひざまずいて、だらしなく投げ出した俺の両足の間に体を入れ、太腿に頭を乗せてくる。
丁度、甘える子供か、小動物の様に。

まさと「普通にこっちに掛けてていいんだぞ?」
ミュウ「んーん。」

ミュウは、ゆっくりと首を振り、また、太腿の上に頭を置く。

まさと「このほうがいいのか?」
ミュウ「ん。」
まさと「そぅか。じゃぁいいさ。」

なんとなく、手持ち無沙汰で、空いてる手で、ミュウの頭をなでてやる。
すると、ミュウも手で太腿や膝の辺りをなで返してくる。
なんだか、妙な気分である。
そのまま、特に会話することなく、ゆっくりとした時間が流れる。
シルフィー達の事も、聞いてみたかったが、今は、あえて、そういう話題は避けた。

ミュウ「すぅ・・・・・・すぅ・・・・・。」

気がつくと、ミュウは寝息を立てている。
さすがに冷たい床に膝をつけた状態ではかわいそうに思ったんで、ゆっくりと立ちあがって、ミュウを抱えあげると、ベッドに寝かせてやる。
そこで、ミュウは目を覚まし、何か、聞きたそうな目で見ている。

ミュウ「んー?」
まさと「ん? どうした?」
ミュウ「ん。」

ミュウは、目をつむって、両手を俺の肩に掛けて来る。
これは、なにか、ミュウに勘違いさせてしまったのかもしれない。

まさと「あー、悪い悪い。ちゃんと寝かせてやろうと思ったんだがな。起こしちまったな。」
ミュウ「ぅぅ。」
まさと「なんだよ。俺も寝ろって?」
ミュウ「ん。」

離れる事が怖いのか?
そう思えるふしがあったので、俺は、添い寝して、腕枕してやる事にした。
なにか、どこか、うれしそうに引っ付いてくるミュウ。

ミュウ「んー。」
まさと「うれしい、か?」
ミュウ「・・・・・・ん。」
まさと「そぉか。」

そのまま考え事でもしようかとも思ったが、俺も、そのまま、寝ちまう事にした。
ミュウも、既に寝息を立て直している事だし。