第5話 闇の力、光の力 #4 真なる目覚め

目を覚ますと、医療室に真悟が来ていた。

まさと「・・・・あ、真悟。」
真悟「ん、起きたか。」
まさと「あっと、ん、そろそろ起きあがっても平気みたいだな。」
パール「まだ、出歩いちゃ駄目よ。」
まさと「・・・・・誰かと一緒にするか?」
パール「だって。似てるしね。」
まさと「げ。マジ? 俺とおっさん、そんなに似てる?」
真悟「えっと、ラルフさんだっけ? 似てる、似てる。雰囲気が。まー坊、歳食ったらあんな雰囲気になりそうだ。」
まさと「・・・・・・・・うが。」

パールは何やら端末に向かって作業をしてる。
きっと、ソーサルブースターの改修に関することやってるんだろうな。
話しかけるなら、ここは真悟だろう。

まさと「ところで真悟、外はどんな雰囲気なんだ?」
真悟「ゴーストタウンだな。みんな避難しちまったし。あ、俺達も避難しようかと思ったんだけど、結局残っちまった。家へは戻れないし、ここに居るのがとりあえず安全そうだしな。」
まさと「あぁ、そうだな。城のほうは変化無しか?」
真悟「ああ、無いみたいだ。自衛隊とかも来なくなったから、魔獣とかも飛んでないしなぁ。無気味な静けさって言うの? そういう感じだ。」
まさと「そうか。あ、TVのニュースとかは?」
真悟「それがさぁ。完全に報道管制がしかれたみたいで、ほとんど情報は流れてない。それより、ほとんど避難しちゃったんで、局自体が休んでるとこが多い。放送してないんだ。多分、地方へ行きゃローカルは流してると思うんだけど。」
まさと「そりゃぁ、そうか。マイテーのみんなは?」
真悟「誰も居ない。避難したんだろうな。アパートも無人みたいだ。通りも時々パトカーが通るくらいで、静かなもんだよ。」
まさと「そうか、それならいいさ。きっと、みんな無事だろう。」

そこへ、広江さんが入ってくる。

広江「あ。どうだ、具合は。」
まさと「あ、広江さん。散々だよ。調子はだいぶ戻ったけど、主治医が外出禁止だって。」
パール「誰が主治医よ。大人しくしておいたほうが身の為よ。」
まさと「ほら。」
広江「まぁ、体を直せ。それからだ。」
まさと「うん。それはわかってる。で、どうなのそっちの動きは?」
広江「それなんだがな。かなりまずい。」
まさと「うぇ、そうなんですか?」
広江「核攻撃なんて話しが、海外から流れこんできてる。手が無い状態だからな。」
まさと「・・・・・やっぱ、そこへ行くか。けど、効果あんの?」
パール「さぁ? 怪しい物だけど。正直、核で、障壁は破れないと思うわ。マジェスティックスを利用して力場その物を破壊しないと。」
まさと「ああ、そういうものか。やっぱり。で、話してて大丈夫なんかい。」
パール「手と口は別のことやってるから。」
まさと「さすが天才。」
パール「誉めても何も出ないわよ。」
広江「今のところは核攻撃は最後の手段と言う事になっている。ここがあるうちは無いと思ってていいだろう。そも、効果の程は向こうも疑問視してる向きもある。」
パール「そうね。次に私達が失敗すれば容赦なく叩き込まれるでしょうけど。それまでは無いでしょうね。もうちょっとで、ブースターの制御系の改修案がまとまるわ。それが出来上がったら動きましょう。」
まさと「具体的には?」
パール「そうね。ホエールで突入するのが手っ取り早そうね。他にいい案は無いんじゃない?」
まさと「そうなるか。制御系って、すぐ入れ替えられるのか?」
パール「それは大丈夫。要は、プログラムだから、簡単よ。」
まさと「そうか。どんな感じなんだ? 改修案は。」
パール「んとね。とりあえず、外部からアクセスできる部分を全部取り払ってる。それと、リミッターの解除ね。」
まさと「ああ、今回に限って、安全装置無しってとこか。そのほうがいいかもな。で、リミッターって?」
パール「通常は、生命維持モードを優先させてあるの。疲れない様に。その、生命維持を無しにして、体力を削ってでも最大の威力が出せる様に改造中。その切り替えスイッチをつけるってことね。」
まさと「ああ、そういうリミッターか。そうか、決戦仕様、だな。」
パール「ええ。ただ、システムへの負担が大きいから、恐らく、その装着を解いたらコアが壊れると思うけど。」
まさと「うあ。そんなにか。装着を解かなくても壊れるなんてことは・・・。」
パール「それが無い様にレベル調整をやってるところ。そのあたりはまかせてよ。」
まさと「ああ、俺の考え過ぎだった。」
パール「後はあなた自身のことね。」
まさと「俺?」
パール「そう。聖剣と聖盾、これを最大限使えないと、勝ちは見えてこないってこと。」

最大限使う、か。
言われてみれば、今まで、その力に頼りすぎてる気はするし、肝心なとこで、その力を出せなかったりしてる。
返す言葉が無い。

パール「とりあえず、防御は盾任せでいいと思うけど、剣のほうね。出せる?」
まさと「あ、ああ。」

くさなぎを呼び出す。
ここで、くさなぎの形が変わっているのに気がついた。

まさと「あれ? 形が・・・。そうか、そういう物だって話だっけ。」
パール「重さとか、前に比べてどう? ファリアは重くなってるって言ってたけど。」
まさと「んー。大きくなってる様だけど、前と比べて重さは余り変わってないな。」
パール「一時はそれよりももっと長かったの。真の剣先って言うやつ。それが出せないと、駄目だと思うわ。」
まさと「長い? これより? んーーーーーーーーー。」

とりあえず、剣先が伸びるイメージを浮かべてみるが、くさなぎに変化は無い。

パール「無理・・・みたいね。」
まさと「うー、ファルネ、ヒントくれ〜。」

ファルネは腕を胸の前で交差させて、ばってんを作って、首を横に振っている。

まさと「自分で何とかしろって事か・・・。たはー。」
パール「そうね。使う者の心の問題らしいわ。完全な覚醒に至るのは。」
まさと「修行不足。ってとこか。」
パール「かもね。ファリアにでも本格的に鍛えてもらう? 時間がないからスパルタになると思うけど。」
まさと「なんか、どっかで聞いた事があるような話だなぁ。けど、それしかないかもな。もうちょっと復調したら掛け合ってみる。前のは、付け焼刃その物だったしな。」
パール「じゃぁ、もうしまっていいわよ。」
まさと「ん。」
真悟「んー。真の剣先を出す為に修行かぁ・・・・・なんか、燃えるよな。なっ?」
まさと「おいこら。人事だと思って。お前代わりにやるか?」
真悟「あ、俺無理、根性続かないし。」
まさと「知ってるよ。冗談だ。」
真悟「うーわー。」
広江「で、体の回復はどの程度掛かるんだ?」
まさと「あー、どうだろ。回復の早さから言って、そんな掛からないように思うけど。」
パール「そうね。後、数時間休めば、動きまわっても平気なくらいにはなると思うわ。今夜には少々の無理は効くようになってると思う。」
まさと「じゃぁ、それまでもう一休みするか。って、ところで、全然腹減らないんだけど、大丈夫かな?」
パール「それは、メディカルブースターがエネルギー消費を極力抑えてるからと、やはり、腹部に傷を受けたからと。両方ね。起きる頃にはお腹がすく様になってると思うわ。あと、・・・・・ガス待ち。」
まさと「ガス?」
パール「そう、ガス。」
まさと「・・・・まさか・・・。」
パール「盲腸とかと一緒よ。」
まさと「・・・・・・・・・・・・やっぱり。あぁ。」
パール「この世の終わりみたいな顔になってるわよ。」
まさと「なるよ。」
パール「観念して出しなさいね。通過儀礼というか、そういうものでもあるし。」
まさと「うぅ。まぁ、とにかく休むわ。」
パール「そうね。じゃぁ、他の人はひきあげて。ちゃんと休んでもらわないと困るから。」
真悟「ん。」
広江「私は廷内をいろいろ見学させてもらうよ。」
パール「ええ。そのほうがいいでしょうね。わからない事はブリッジに居るマーガレットにでも聞いて下さい。大概の事はデータ入れてありますから。」
広江「ああ、わかった。じゃぁな、宗方、しっかり休んでくれ。」
まさと「はーい。」

広江さんはさっさと出ていってしまう。こういう時、広江さんは行動が早い。

真悟「じゃぁな。・・・・・襲うなよ。」
まさと「なんじゃそりゃ。」
パール「早くそれぐらい元気になってくれると、安心・・・・あ、いえ、なんでも。」

一瞬、その場の空気が凍ったかと思った。

真悟「あー、まぁ、じゃなっ。」

なんだか慌てて真悟も出て行く。
まったく妙なこというから、妙な雰囲気が漂ってるじゃないか。空気が重いぞ。
気がつけばファルネも居ない。
真悟達と一緒に出て行っちまったのか。おっさんのとこにでも行ったのかもな。
しばらくして、静寂をパールが破る。

パール「迷惑に思わないでね。・・・・はじめて会った頃は、そんな事は考えもしなかったけど、今は、あなたの事がすごく気になるのは、本当よ。」
まさと「そりゃ・・・光栄、だな。最初はなぁ、俺なんて、目の上のたんこぶって言うか、そういうもんだったろ?」
パール「そうね。なんで、こんな男が、邪魔をするんだろうって思ってたわ。思わぬところで、撤退する羽目になったし。」
まさと「うん。そうだったなぁ。ミュウがくさなぎ抜いちまうし、もう無茶苦茶だったけど。」
パール「それが、今はこうやって、お医者さんごっこ。妙な話よね。」
まさと「なぁ。それより、家には連絡とったのか?」
パール「あ、ううん。まだ。10年以上前に死亡届が出されてるのよ。今更、顔出してもね。
大体、もうティラで過ごした時間のほうが長いのよ。」
まさと「・・・・怖い・・のか・・・?」
パール「ふふっ。そうね、それもある。・・・あ、まただ。」
まさと「ん? なんだ、またって。」
パール「面白い話よ。あなたと居るとね、つい、本心が口から出ちゃうの。セントヘブンでも色々話しちゃったでしょ。こう、ぺらぺらと。」
まさと「あ、あぁ、そうだなぁ。喋ってたなぁ。なんでだ?」
パール「知らないわよ。だから、面白い話しなんじゃない。家の事はね、小染さんにも薦められたわ。戸籍は何とでもなるって。けど、決心がつかない。今は、それどころじゃないし。やる事だらけだから。あなたが昔の私の事を覚えてくれてただけで、今は、充分よ。・・・あ。そうだわ、そこからおかしくなったのよ。」
まさと「ああ、ベルで、そうだったなぁ。」
パール「なんだか、はじめて会ったんじゃないような気がしだしたのよ。うん。そうそう。それから、一気討ちに至るまで、暴露しまくったわ。私の素性もばれてたし。」
まさと「そうだったな。俺、正直言って、国王が素性知ってたときは、転びそうになったぞ。」
パール「一気討ちの最中に変なこというバカも居たし。こっちのほうが転びそうになったわよ。」
まさと「ぎくっ。やっぱ、記憶力いいなぁ・・・。」
パール「まぁね。」
まさと「いや、あれ、隙を作ろうと思ったんだよな。」
パール「それで、寝技?」
まさと「うっ。まぁ苦肉の策ってことで勘弁してくれ。」

パールがこっちを覗き込んでくる。

パール「だーめ。あれで、本格的に興味が湧いちゃったのよ。何考えてるのかなって。」
まさと「うそっ!?」
パール「ほんとよ。今考えたら、だけどね。でね、ちょっと恥ずかしい話なんだけど、ダークキャッスルで怪我をしたあなたを受けとめた時にね。泣いちゃったの。覚えてるかどうか分からないけど。」
まさと「あ、悪い。そん時俺、もう目がちゃんと見えてなかった。」
パール「あ、そうなんだ。けど、これだけは覚えておいて。ティラに来てからこっち、いえ、それ以前からかな? 誰かの為に泣いちゃったのって、あれがはじめてだったの。」
まさと「うわぁ、なんか俺って・・・。」
パール「あ、勘違いしないでね。責めてるんじゃないから。むしろ感謝してる。自分にそういう感情があることがそれでやっと分かったから。」
まさと「え・・・っと。」
パール「ほら、それまでは、覚える事に熱中したり、魔導科学の勉強ばかりだったから。」
まさと「ああ、そういうことか。そういう相手って、いなかった?」
パール「うん。サイファーに憧れてた頃はあったけどね。けど、ダイアが既に居たし。だから、私はマーガレットを作ったの。」
まさと「あ、ごめん。そういや、それ、きちっと謝ってないな。」
パール「ん? 一度、謝ってた様に思うけど。」
まさと「あ、いや、俺、その大事なマーガレット壊しちゃったんだし。」
パール「ああ、そう言えばそうね。まぁ、そのおかげで、強化改造する気になったし、知らないユニットがあるのも分かったしで、チャラの気分なんだけれど。マーガレットも、あなたの事嫌いじゃないみたいよ。」
まさと「そうか。だと、いいんだけどな。」
パール「そうよ。そういった辺りはもっと自覚しておいたほうがいいわよ。」
まさと「んー、自覚が足りない・・・か。」
パール「よーく考えてみて。あなたの周り、女比率高くない?」
まさと「んー、あー、言われてみれば、そんな気はしないでも。けど、たまたまだろ。」
パール「どういうわけか知らないけど、皆に好かれてるわよ。少なからず。そんなこと言われた事ない?」
まさと「あ・・・・・・・・・・・・・・。」
パール「言われた事があるのね。ほら、間違いないわ。」
まさと「いや、きっと、俺が持ってる看板のせいだよ。」
パール「何言ってるの。それはあるかもしれないけど、それって、あなたを英雄って呼んではしゃいでる、メイド達ぐらいなものよ。ただし、リーヌは本物みたいね。」
まさと「ほ、本物って・・・。そういや、リーヌにも話しやすいとか、妙なこといわれたなぁ。」
パール「でしょう? 大体、看板って言っても、ひけらかす事なんてしないじゃない。」
まさと「あ、いや、俺は、そういうの嫌いだから。俺は偉いんだぞとかは。」
パール「ふふっ。そうね。それに誰かを特別扱いしないで、いつも自分の言葉で話してる。だから、ウケがいいのかも、ね。」
まさと「そういうもんか? 俺、好き放題言ってるだけだぞ。」
パール「またぁ。ほんとに好き放題言ってるのは、あなたが現れる前の竜崎様でしょう?」
まさと「あー、そりゃぁ例えが・・・。わははっ。」
パール「笑ってる場合じゃないわよ。あなたに弱点があるとしたらそこなんだから。」
まさと「へ?」
パール「自分を過小評価して、無意識に能力を下げちゃってるような気がするのよ。」
まさと「うわ、いきなり辛口。」
パール「ふふっ。まぁ、そんなところね。それが克服できたら、くさなぎもちゃんと使えるんじゃないかって思う。そういうことよ。」
まさと「あ・・・・うーん。そうかぁ。おぼろげであるが、何か、見えたような気も。」
パール「そんな気がするなら、きっと、大丈夫だと思うわ。そろそろ休んだほうがいいわね。話しすぎたかも。」
まさと「いや、ちょっと気が楽になった。済まないな。一休みしたら頑張るよ。」
パール「そうね・・・じゃ・・・・・。」

パールは、顔を近づけてくると、軽くキスをしてきた。ちょんと、触れ合う程度の。

まさと「ぅわ。」
パール「驚いた?」
まさと「か、かなり。」
パール「人生分からないわよね。ほんと。私は、一方通行でいいから。やりたい事があるから、あなたを全部受けとめられないし。ね。だから、迷惑に思わないでって事。」
まさと「いや、けど。」
パール「いいのよ。ちゃんと休んで。」
まさと「・・・・・・わかった。おやすみ。」
パール「おやすみなさい。」

パールはまた作業に戻る。
俺は言われた通り、休む事にした。
しかし、あー、びっくりした。
でも、パールの言う、自覚と弱点の話しはわからないでもないな。ほんと。
目が覚めると既に一夜が明けていた。

パール「おめでとう。」
まさと「は?」
パール「あれ? 覚えてないの?」
まさと「いや、何が?」
パール「さっき出たわよ。」
まさと「へ?」
パール「地域によってはそうとも言うわね。」
まさと「・・・・・・・・・・・・・・・・・あ。」
パール「一応全快よ。もうメディカルブースターをはずしても大丈夫だと思うわ。」
まさと「覚えが無い。が、そこはかとなくすっきりした感覚はある・・・。ああ、そうか、もういいんだ。はずそ。えっと、セットオフ。でいいのかな。」
パール「あ、ちょっとま・・・・。あ。」
まさと「うぉっ!?」


全裸で突っ立っている俺がそこにいた。
慌てて治療槽にしゃがみこむ。

パール「・・・・・馬鹿。」
まさと「いやー。こういう事とは・・・・。」
パール「シャツもズボンもどっちも切れちゃってたし、悪いけど、処分しちゃったの。今、リーヌが替えの服を取りに下まで行ってるわ。ちょっとそのまま待つ事になるけど。」
まさと「お、おぅ。あー、ちょっと痕残ってるかぁ。」

俺の腹には縦一文字に傷痕がかすかに見えていた。

パール「そうね。途中、いろいろあったし。完全に消えなかったみたいね。」
まさと「まぁ、しかたないか。完全につきぬけてたし、命があるだけ。」
パール「いずれ、そういう痕を消せるような物もなんとか出来ると思うけど。今は、準備してる時間がそれほどないしね。」
まさと「あぁ、そういうの作れるんだ。まぁ、そうだな。今は。」

リーヌが戻ってくる。

リーヌ「えーっと、こういうのでい・・・・・・ひぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!」

俺の状態を見て、悲鳴上げられちゃいました。
まっかっかになっているリーヌ。

パール「もっとすごい状態の時に全部見てるでしょうに。」
まさと「へっ。そ、そうなんか!?」
リーヌ「す、すすすす、すみません〜。」
まさと「と、とりあえず、その服頂戴・・・・。」
リーヌ「は、はひっ。」

服を身につけると、俺はとりあえず、ホエールの中を見て回る事にした。
医療室のある居住区画、荷物室、工作室。いろんな区画が多層構造になって、ホエールの中にあった。
これは輸送艇と言うよりも、空に浮かぶ城だ。
ブリッジに入ると、SFな世界が待っていた。
役割ごとに分けられた座席、パネルだらけの、けれん味たっぷりの空間がそこにあった。

マーガレット「あ。もう、いいんですか?」
まさと「あ、もういいよ。心配かけた、のか。やっぱり。」

操艦席らしいところで、マーガレットがうれしそうに話しかけて来る。

マーガレット「それは。私にとっても主人にとっても大事な方ですから。」
まさと「そーか。ありがとうな。」
マーガレット「で、どうかされたんですか?」
まさと「いや、ブリッジを見せてもらいに来たんだ。」
マーガレット「そうですか。ゆっくりしてらして下さい。私はこの席を離れられませんが、わからない事はお答えできますので。」
まさと「そうか。まぁ、とりあえず見てるだけでいいや。」
マーガレット「椅子に掛けてもらったりは構いませんが、計器に触れない様に注意してくださいね。主砲が発射されたりしたら大変ですから。」
まさと「あー、そりゃそうだ。ところで主砲って?」
マーガレット「はい、このブリッジ前方、艦首にある、マジェスティ・カノンの事です。マジェスティックスによって高圧縮された微粒子を、高加熱高荷電状態にし加速して大量に打ち出す物です。最大で着弾地点から半径2kmほどを灰にする威力を持ってます。」
まさと「わかった・・・・計器には本気で注意する。」
マーガレット「ほんとですよ。一度発射態勢に入ると途中で止められませんから。」
まさと「へー、そういうものなんだ。」
マーガレット「やめる事は出来るんですが、充填状態によっては艦首砲塔内でその爆発が起きてしまうので。自爆するような物です。」
まさと「うわぁ、おっかねぇ・・・・。死ぬほど本気で注意するからな。」
マーガレット「はい。お願いします。ホエール自体、まだ建造中の物なので、あちこちにそういった、都合の悪い物があったりするので、我慢してくださいね。」
まさと「こ、これで、建造中なのか・・・。」
マーガレット「村の人を避難させるのに、無理に動かしてそのままなんですよ。」
まさと「あ、ダイアの第二襲の時に・・・か。」
マーガレット「ええ。そうです。」
まさと「それで、良く動いてる物だなぁ。」
マーガレット「それは、主人の設計された物ですから。」
まさと「そうか。そうだよな。パールが作った物なら、バランスは取れてそうだ。」
マーガレット「ありがとうございます。主人が聞いたら喜ぶと思いますよ。」
パール「しっかり聞かせてもらったから。うふふっ。」
まさと「わぁ。」

すぐ後にパールがやってきていた。

まさと「あーいや。はははっ。」
マーガレット「ほら。」
パール「なにが、ほら、よ。もぅ。で、異常は無い?」
マーガレット「はい。現在何の支障もありません。城のほうも動きは無いようですね。」
パール「おかしいわねぇ。そろそろどこか壊れてもおかしくないんだけど。」
まさと「おいおい。壊れてもらっちゃ困るよ。」
パール「うん? 壊れないから怖いのよ。壊れるような個所は今のうちに壊れてもらったほうがいい。それはわかるわよね?」
まさと「あ、ああ、無理に動かしてたんだっけ。肝心な時に壊れられたら困るから、壊れるなら今のうちに、か。」
パール「そう。ま、そう、都合いい時に、都合よく、ってのは難しいけどね。あ、あったあった。」

パールは脇のパネルの最も多い席で色々操作をすると、何か異常があるところを見つけ出したらしい。

パール「ヘリの激突が原因でしょうね。スタビライザーに若干の狂いが出てるわ。矯正しておかないと。」
まさと「若干? その程度のことで調整が必要なのか?」
パール「今はいいけどね。気がつかない程度傾くだけだから。けど、いざ最大戦速まで持ち上げたら、狂いを吸収できずに、どんどん進路がそれるとか、最悪船体がドリルみたいに回っちゃったかも?」
まさと「・・・・・そりゃ、やべぇ。」

いいながらパールは計器を操作している。

パール「はい、矯正終了。よしよし。」
まさと「うれしそうだな。」
パール「まぁ、験担ぎみたいなところね。非科学的?」
まさと「いや、いいんじゃないかな。ところで、この船って、元はどういうものだったんだ?」
パール「ああ。資材、兵力の運搬用や、後方の支援基地、そういった生命線を繋ぐ物にする予定だった物よ。」
まさと「そうか。それで、大概の事が中で出来るようになってるんだな。」
パール「そう。空に浮かぶ砦。建造が遅れてて、城には収納せずに私のアトリエにおいてあったのよ。」
まさと「はぁ、それで、こっちで使う事が出来たって訳か。でも、アトリエって、偉くでかそうだな。」
パール「広いわよ。東の鍾乳洞を半分以上占有してるから。」
まさと「なにぃ? それって・・・。」
パール「うん、フレイムドラゴンの巣の跡を利用してるの。」
まさと「・・・・御立派。良く、ドラゴンに襲われなかったな。」
パール「そうね。なぜか、そういうのは無かったわ。良く、すれ違ったりしてたんだけど。」
まさと「まぁ、あのフレイムドラゴンなのかな。なら、わからない気もしないでもない。温厚だったし。」
パール「ああ、そうね、そのフレイムドラゴンだと思う。しばらく前からみかけなくなってたから。」
まさと「なんだかなぁ。さて、そんじゃ、俺はファリアんとこでも行ってくるわ。」
パール「あ、そうね。でも、ファリアはさっき、ラウンジで朝酒かっ食らってたけど・・・・・。」
まさと「あらー。そりゃ今日は駄目かな? ま、ダメならおっさんにでも当たってみるよ。」
パール「ん。ラルフさんには余り無理をさせない様にね。」
まさと「まだ、具合悪いのか?」
パール「ええ、呪法のせいで回復しきってないから。動けはするけどね。」
まさと「わかった。心得とくよ。」

俺は、ブリッジを離れると、ラウンジのほうへ向かった。
パールの言う通り、ファリアは酒飲んで、沈没していた。

まさと「ありゃ。ダメかこりゃ。」
ファリア「・・・・・・・待て。誰がダメだ。」
まさと「あ。 ・・・・・いや、寝てるかと思って。」
ファリア「起きてるぞ。どうした?」
まさと「くさなぎ使いこなすのに手合わせとか、頼みたかったんだが・・・。」
ファリア「あー、そういうことか。なら無理だ。」
まさと「・・・・だろうな。寝ててくれ。」
ファリア「ん。」

仕方が無いので、今度はラルフを探す。
が、ここで、俺は大いなる勘違いをしていたことに・・・・・後から気がつくんだが。
とにかくラルフ、つまりカイゼルのとっつぁんが見つからない。
廊下では何人かとすれ違うが、カイゼルの姿が無い。

まさと「おんやぁ?」

しばらく悩みこんでいると、廊下の向こうからなんだか地味〜な服を来た男が来る。
そう言えば、何度かすれ違っていたなぁ。
念の為、この男に尋ねておこうか。

まさと「えっと、カイゼ・・・いや、ラルフさんみかけませんでした?」
男「ん?・・・・・ん。」


男は、一瞬おやっと言った顔をすると、自分を指差す。

まさと「あ、いや、ラルフさんみかけ・・・・・・・・・・・・あっ!」

そうだ。目の前の地味な服装の男こそ、ラルフ・グレンハート、だったのだ。
白い鎧をつけずに黒っぽいアンダースーツの部分だけを着ていたので、ぴんとこなかったのだ。
白のイメージがこれほどまでに自分の中に定着していたかと思うと、笑えてくる。

まさと「いや、マジで、白い固まり探してたかもしれない・・・・。ははっ。」
ラルフ「うわははははははっ。それはいい。傑作だっ。」
まさと「おっさん、今、普通過ぎ〜。」
ラルフ「で、どうだ。もういいのか?」
まさと「ああ。完全復活。」
ラルフ「・・・・・ああ、若いって・・・若いって・・・。」
まさと「・・・・おーい。」
ラルフ「いや、済まん。訳あって、ちょっと老け込んだ気分なんでな。」
まさと「んー? あ、ファルネの事とか?」
ラルフ「他にも色々な。」
まさと「そうだ。俺、まず、謝っとかなきゃいけないんだった。」
ラルフ「ん? 現状の事か? なら必要無いぞ。そのあたりはなんとでもなるだろう。」
まさと「無茶、楽観的っすね。」
ラルフ「悲観的になるよりはいい。それより、用と言うのは、謝る事だけだったのか?」
まさと「あ、それだそれだ。実は、くさなぎの扱いに関して、特訓してもらおうかと。」
ラルフ「ああ、ファリアが昨日、真の剣先がどうとか言っていたが、それか?」
まさと「それです。どうしても真の剣先ってのが出せなくって。」
ラルフ「んー。私にもくさなぎに関しては良く分からないところが多いのだがな。ま、まずは、軽く流してみるか。」
まさと「お願いします。」

おっさんと連れ立って、一番ホエール内で広いと思われる、格納庫へやってきた。
ここでなら、思う存分練習できるだろう。
とにかく、手合わせ開始。その5分後。
ホエール内に襲撃警報が鳴り響く事になった。

まさと「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー・・・・。」
ラルフ「いや、これは、うかつだったな。」


そこへ、パールが掛け込んでくる。

パール「ホエールを解体するつもりか、あんた達はぁーーーーーーーーーーーっ!!」

おっさんと手合わせしている間は気がつかなかったのだが、よくよく周囲を見ると、格納庫の壁がずたずたになっている。
その理由に気がつくのに数分掛かった。

まさと「・・・・俺? 俺か?」
ラルフ「そのようだなぁ。」
パール「まったく。」

つまり、俺が振るったくさなぎから剣圧と言うか、そういうものが発生し、それによって内壁が次々と傷つけられて行ったのだ。
それを関知したホエールの警備システムが、襲撃と勘違いして警報を流した。そういう事なのである。

パール「練習するなら、棒切れかなにかでやって。お願いだから。」
まさと「すまん。これほど威力が上がってるとは思ってなかった。なんか、シミュレーターでもあれば・・・・。あ、そうか!」
ラルフ「ん?」


ラウンジの洗い場で皿洗いをしていた、ルビーを呼び出す。

ルビー「なにかしら?」
まさと「うん。ちょっと協力してくれ。ミラージュ使って仮想敵を出してもらって、それで練習させて欲しいいんだ。」
ルビー「ああ。お安いご用だけど・・・。マスター、いい?」
マスター「ああ、いっといでー。」


エルブンの役割分担がここホエールのラウンジにそのままスライドしてきている状態。
さながら出張版エルブンである。メニューもそのままらしい。

ルビー「じゃぁ、先にいってて。用意が出来たらすぐ行くから。」

というわけで。俺達は先に移動。
格納庫は、さっきのあれで、修理の為、使用禁止。
それとは別にちゃんとした練習用の部屋があると言う事で、そちらへやってきた。
そこでしばらく待っていると、ルビーがなんだかとても懐かしい衣装でやってきた。

ルビー「魅惑のルビー、お呼びにより只今参上。ってね。」

ルビーは、俺達を襲撃、いや、俺を個人的に襲ってきたときに着ていたやったら露出の多い、あの衣装を着けていた。

まさと「こりゃまた。大丈夫なのか、それ。」
ルビー「ええ。パールに全部チェックし直してもらったわ。さて、じゃぁ、どんなので行きましょうか。」
まさと「えっと。ルビーさんが沢山出てきて誘惑してくるやつ。」
ラルフ「ぐはっ。」
ルビー「・・・・・・・・ほんとにやるわよ。」
まさと「ごめん。今のは掴みとかいう奴。まぁ、適度に魔獣とか、そういうのが複数って感じで。」
ルビー「わかったわ。ラルフさん、もうちょっと下がって下さい。巻き込まれますよ。」
ラルフ「いや、私にも見えないと、意味がないと思う。私は木かなんかだと思ってくれ。」


つまり、ルビーの幻惑魔法で、敵を出してもらって、それを相手に訓練。
ラルフさんに指示をもらおうと、そういうことだ。
俺はくさなぎの代わりにファリアの剣を借りて握っていた。

ルビー「では、掛かります。」
まさと「おう!」
ルビー「・・・・・・・・・ミラージュ!」


すると、すんごく可愛い、大きなクマのぬいぐるみの団体さんが俺の両脇をきゃいきゃい言いながらすり抜けていった。
予想だにしない展開に俺は動く事すらままならなかった。

まさと「・・・・・・えっと。フェイント?」
ルビー「・・・えー・・・・もうちょっと集中します。」
まさと「・・・・よろしく。」
ラルフ「私は木。」

今度は、いきなり目の前にルビーさんの姿が現れた。

ルビー(イメージ)「うふぅ〜〜〜〜〜〜〜ん。」

力無くその場にかた膝ついてしゃがみこんでしまう俺。

まさと「・・・・・・・。」
ラルフ「わ・・・わた・・・・私は・・・ききききき・・・・・木。」


取り乱すおっさん。
そこへ、真悟がやってくる。

真悟「アトラクションやってんだって? 俺も混ぜてよ〜。」
まさと「・・・・・ああ。楽しいぞ。」

なんなんだ、そのアトラクションと言うのは。
ルビーさんが勘を取り戻すまで、真悟にモルモットになってもらおう。

ルビー「えっと。それじゃ・・・・。」
ラルフ「私は木なんだっ!」

ぽつねんと突っ立っていた真悟の四肢に突如緊張が走り・・・・・・真悟はにやけた。

真悟「う、うはうは〜〜〜。」
まさと「なにぃ!?」


一体真悟は何を見せられたのか。
俺は、壁にもたれて見ていたので、見ることが出来なかった。

まさと「ルビー・・・・言っちゃ悪いと思うんだが、腕落ちてるか?」
ルビー「えーん。ちょっと、今日は調子が悪いだけよぉ・・・・。」
ラルフ「私は・・・木なんだがな・・・。」


これは、今日はあきらめたほうがいいのかも。
そこで、中止にして、俺は、色々考えるために上部甲板に一人で出た。

まさと「うーん。やっぱりでかいな。このホエール。まんま鯨だし。」

上部甲板に出ると、ホエールの全体像が目に入ってきた。
甲板にいる間は、こうやって見ることが出来るが、ちょっと離れると、カムフラージュが掛かって、見えなくなるらしい。
ここからビルの間をぬって、東京湾に浮かぶ魔城の天辺のみが見える。
魔獣も飛んでおらず、都市や交通が全て止まったせいか、空もどこかしら綺麗で、澄んだ色をしている様に思えた。

まさと「こういう時だけ綺麗に見えるってのも、おかしな話しだよな。」

そこへ、長老がやってくる。

長老「あまり、一人になるものではないぞ。」
まさと「ああ、ちょっと考えたら、すぐ戻るよ。」
長老「そのほうがええ。おや?」


出入り口からファルネが飛んでくる。
ファルネはふわふわと近づいてきて、俺の肩口に座る。

ファルネ「ムズカシイカ?」
まさと「まぁな。」
ファルネ「シンナルケンサキハ、ココロ デ セイギョ スルモノダ。」
まさと「心ねぇ・・・。」
ファルネ「ソレイガイ ニ オシエル ホウホウ ガ ナイ。」
まさと「そうかぁ。一回こつを掴めば、後は早いんだろうけどな。」
ファルネ「ソウオモウ。」
長老「・・・・それじゃぁ、わしは先に戻るよ。」
まさと「あ、ああ。ごめん。」

長老が戻ると、俺はその場に座り込み、くさなぎを呼び出して宙に向かって構える。
そして、しばらく剣先を眺めつづけた。
気がつくと、日が沈みかけている。
いつの間にか、俺は甲板で眠ってしまっていた様だ。
起きあがって、そこでようやく誰かの気配に気がつく。
背後に誰かいる!

まさと「くっ!」

慌てて飛び起きてそちらを向く。
ファルネですらその事に今気がついたようで、慌てて飛びあがり、構える。

???「よーやく気がついたぁ。」

そこにいたのは、ダイアだった。甲板の縁に腰掛けて尻尾をいじっている。

まさと「ダイア・・・・・・。」
ダイア「生き延びたのは誉めてあげるね。けど、じきに死んじゃってたほうが楽だったと思うかも?」
まさと「なんだ・・・それ・・・・。」
ダイア「まぁ、すぐ分かることだから。ああ、今は何もしないよ、様子を探りに来ただけだし。」
まさと「す、スパイって訳か。」
ダイア「そうだね。けど、ルビーって腕なまったねぇ。」
まさと「なにがだ?」
ダイア「だって、わたしの干渉波に気がついてないんだもん。」
まさと「まさか!?」
ダイア「うん。ミラージュ失敗したの、わたしがいたずらしてたから。くすすっ。」
まさと「・・・・・・・そんな事が・・・・。」
ダイア「クマ、かわいかったでしょ? それと、あんたもね。」
まさと「俺?」
ダイア「そうそう。朝、廊下ですれ違ったのに気がつかないんだもん。大声で笑っちゃいそうで大変だったんだよ。」
まさと「な・・・・・・。ばかなっ!」
ダイア「じゃぁ、長居してると怒られちゃうから、もう帰るね。」
まさと「ちょ、ちょっと待てっ。」
ダイア「あっ。しっぽは握らせないからねっ。生きてたらまた遊んだげる。じゃぁねぇ。」

一歩も近寄る隙を与えず、ダイアは飛び去ってしまった。

まさと「・・・・・・・・くそっ。」

俺は大慌てでブリッジに掛け込むと、そこにいたパールに今あった出来事を伝えた。

パール「・・・・・ヘリね。あのヘリの激突を確認されたか、ヘリにまぎれこんでいたか。残骸はすぐに片付けたんだけど。」
まさと「・・・・・良く、ぶっ倒れてる間にとどめさされなかったな。俺。」
パール「そう・・・ね。私達は、ダイアの言うように遊ばれているだけなのかもしれないと思えるようになってきた・・・。」

会議室に全員が集められ、急遽、ミーティングが行われた。

長老「すると、他にダイアを見たものはおらぬのか。」
ルビー「なまった。なまってる。あぁ・・・・。」
パール「はぁ。セキュリティ強化しないと・・・。」
ラルフ「・・・・・いや、ちょっと妙だと思うところもあるのだがな。」
長老「んん?」
ラルフ「ダイアだ。アイツは、以前はあんなに砕けた雰囲気ではなかったのだが。もっとこう、鋭利な刃物のような、そんな空気の張りを伴っていた。それが無い。」
長老「やはり、遊ばれておるからかのぉ。」
ラルフ「それだけとも思えないのだがな。実力はもっと圧倒的だったと思う。確証は無いが。」
パール「何にしても、各人、周囲の異変に気をつけて下さい。どんな小さな変化も見落とさない様に。と、言いたいところだけど・・・・。」
エド「難しいだろうなぁ。」
パール「ですね。魔族相手ですから。とにかく気を緩めないで、と言うところです。」

妙な事ばかり言い残して行ったダイア。
その真意はどこにあるのか。おちょくられているだけなのか。
謎な魔族である事はかわり無い。
そも、他に、魔族らしいのがいないから、比較する物が無くて、判断つかないとこもある。
ただ、よくよく思い返してみれば、ダイアが今まで口にした事に嘘は無かった。
それを思うと、気を抜けないのは確かだ。
そこへ、警報が鳴る。

マーガレット『上部甲板に魔獣出現!』
まさと「なに!?」

皆、慌てて、甲板に出る。そこには、あの、人型の魔獣と、ダイアがいた。

ダイア「忘れてた、忘れてた。これ、置き土産ね。」
まさと「いらん。」
ダイア「そう言わないで、練習台にでもどぉぞ。強いから役に立つよ。ふふっ。」


そういうと、再びダイアは飛び去ってしまった。

まさと「あっ、このっ!」

魔獣は雄叫びを上げ、こちらに向かい始めた。
練習台か。確かに、言い具合に出てくれたとも思える。

パール「あぁ、ブースター調整中だったから下だ・・・。」
まさと「俺がやるよ。みんな下がって。」


俺がやろうとしていることは皆すぐ理解できた様だ。
そも、ちゃんと剣を持っているのは俺ぐらいだったし、効果のありそうな魔法を使えるのは長老だけ、そんな状態だ。
やってみるより他無い。

まさと「くさなぎ!」

盾は呼び出さない。
両手でくさなぎを握り全力で振り切るつもりだからだ。
くさなぎを突き出し、魔獣を見つめて意識を集中して行く。

まさと「やれるか・・・。」

格納庫の気分でも、あれだけ、周りを痛める事が出来るなら、全力を集中して掛かれば、くさなぎの力を全て引き出せるかもしれない。
それに賭けたかった。それに賭けるしかないと思えた。

まさと「すぅ・・・・・。」

ゆっくりと深呼吸し、さらに集中して行く。
一歩一歩確実に迫ってくる魔獣。
これ以上は無理だろうと思えるところまで集中した時。
くさなぎの剣先の向こうが陽炎の様に揺らぎ、わずかに振動が手に伝わってくる。くさにぎに変化が起こったか、起ころうとしている。

ファルネ「ヤレ!」

俺の肩に乗っていたファルネが言う。
俺は、くさなぎを振りかぶり、魔獣に向けて全力で縦一文字に振り下ろした。

まさと「でやあああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

一瞬、くさなぎの剣先のその先、真の剣先があるといわれてる部分が何かの光を反射して光った。
そして、縦一文字の突風が魔獣を突き抜ける。

魔獣「グギャッ!」

次の瞬間、魔獣は、左右に分断され、さらに四方に破裂して閃光となって消えた。

まさと「・・・・・・・・あ。」
ファルネ「85テン。」
まさと「渋い点数だな。」
ファルネ「イヤ、チョットアマイ。」
まさと「・・・・・そか。まだまだか。あー、そいじゃ、これまでの俺って、何点?」
ファルネ「ンー・・・・45テン。」
まさと「そか、納得しました。」

下がっていた皆が駆け寄ってくる。

パール「まぁ、剣先は出てないけど、いいんじゃない?」
ファリア「ふ。素直に誉めてやる。俺のサルテより、威力があったんじゃねぇか?」
まさと「あんがとよー。」
ラルフ「ん。」

おっさんは、それだけ言って、俺の肩を力強く掴む。

真悟「よくやった。勇者まさとよ!」
まさと「じゃかぁしいっ! 雰囲気台無しにすんじゃねぇっ! このタコぉ!」
真悟「あー、誉めてやってるのに。」
パール「ふふふっ。・・・・・・・・あっ。」


パールが甲板を見ると、大きな溝が掘れていた。

パール「また直すのー? ううぅ。」
まさと「て、手伝える事があったら言ってくれ。」
パール「うん。大丈夫ぅ。あぁ。」


その様子を、飛んで消えたと思っていた、ダイアがじっと見守っていた様である。

ダイア「ふっ。これで、面白くなるかな? うふふっ。」

そして今一度振り返って、ダイアは城に向かって飛んでいった。
深夜。
パールにくっついて、甲板の修理を手伝う。
といっても、材料を運ぶぐらいで、修繕作業その物は、ほとんど、パールが、と言うより、パールが扱っている、魔導科学による、建築マシンが行ってしまうので、まぁ、半分は見ているだけといったところである。

パール「ん? どうかした?」
まさと「いや。見慣れないんで面白いだけ。」
パール「そう。まだ、制御系がお馬鹿さんなんで、こっちのやる事は多いんだけどね。ホエールはこういうのの大小取り混ぜた環境で建造してるのよ。」
まさと「はぁ。なるほどなぁ。いや、作業員とかそういうのがいないよなぁって、思ってはいたんだが、そういうことか。」
パール「そういう事なの。あっちの陣営は人手不足だから、魔導科学のこうした便利さが必要だったんでしょうね。そも、魔族はほとんどが魔圏で休眠状態だから。」
まさと「向こうが少数精鋭なら、こっちだってそうだぞ。」
パール「そのかわり、一人一人の責任が重くなっちゃうんだけどね。」
まさと「まぁ、それはな。けど、それもかなり偏ってるぞ。ってところで代わろうか? 暇で暇で。」
パール「そうね、お願い。扱い方は・・・。」
まさと「基点の設定と実行の繰り返しだろ。見てたら覚えた。」
パール「うん。」

パールのところまで行って、マシンを受け取ると、作業をはじめる。
言ってみりゃ単純作業なんだな、とどのつまり。

パール「そうそう。うん。そうやって、次々に掛かって行ってくれればいいわ。」
まさと「うぃーす。話した事無かったけど、うちの親、建築関係だから、まぁ、こういうのはわかりやすい。」
パール「そうだったんだ。今度、挨拶しに行っていい?」
まさと「ばーか。その前に自分家行けよ。」
パール「はいはい。言われると思ったわよ。」
まさと「しかしなんだなぁ。こうやって、目標以外の物が一緒に斬れちゃうとか、なんとか出来るといいんだけどなぁ。」
パール「出来れば便利でしょうね。入れ物斬らずに中身だけ斬る、そういう事も出来そうだし。」
まさと「それじゃ、手品だよ。」
パール「そうでもないと思うんだけどなぁ。医学的に言えば、切開せずに癒着部位を引き剥がすとか。かな?」
まさと「・・・・・・・あー、それならわかる。んー。ひょっとして、お前ん家の親、医者かなんか?」
パール「あたり。産婦人科。今でも医院を続けてるかどうかは知らないけどね。」
まさと「へー。」
パール「見学は不可。」
まさと「うがっ。先手打たれた。」
パール「具体的な対策考えると、寸止めの練習すればいいんじゃない?」
まさと「ん、ああ、そうか。全部振り切ったりせずに寸止めして斬らなきゃいいんだ。確かに現実的。」
パール「複雑に入り込んだものとか、そういうのは、まず、考えにくいから、周囲を斬らないに限定して、それで大概解決できるでしょ?」
まさと「そうだな。勢い誤るなってか。」
パール「そうね。」
まさと「俺・・・こんなんで、ちゃんとやれてるのかなぁ・・・・。」
パール「さぁ? 元々、勇者として招き入れられたほうじゃないんだし、頑張ってるんじゃない?」
まさと「・・・・そだな。すまん。」
パール「あら? 私は、お世辞は言わないわよ。」
まさと「そうだな。」
パール「さて、半分ぐらい済んだわね。残りは明日にしましょ。寝ないと。」
まさと「ん? けど、ここだけ弱くならないか?」
パール「あ、それは大丈夫。構造的には装甲の上に甲板を載せてあるだけだから、強度の心配は無いわ。出来る時でいいところ。」
まさと「ん。切り上げよう。じゃぁ、ホエールってかなり丈夫なのか?」
パール「うん。城砦に強行突入して、兵員を降ろす、そんな使い方も出来るわ。多分、ダークキャッスル突入はその戦法になると思うけど。」
まさと「じゃぁ。向こうにホエールがあったら、厳しくなるな。」
パール「あ、そうね。私が知ってる範囲では、ホエールに近い強度があるのは、小型の攻撃艇ジャークしかないはずだけど。ホエール級の事も考えておかないといけないか。」
まさと「ジャークって大きさどのくらい?」
パール「ホエールの三分の一くらいかな。質量的に言って、九分の一以下だから、強度で負ける事は無いわ。」
まさと「そうか。そいつが出てきても、はじいちゃえばいいわけだ。」
パール「ええ。突き進んで平気。ホエール級が出てきたら、操艦技術の高い方が有利ね。その点ではマーガレットにまかせておけば大丈夫。交代用員のエドさんも筋いいしね。」
まさと「エドさん? そうなのか?」
パール「そうなのよ。驚いたわよ、やらせてみて。元々、鍛冶やる前は船乗り志願だったらしいし。」
まさと「へー。エドさん、そうだったんだ。」
パール「船の大きさがちゃんと理解できるみたい。」
まさと「ほー。でも、なんで、船乗りにならなかったんだろ。」
パール「あ・・・・・・内緒だって言われたんだけどね。波に弱いんだって。酔っちゃうみたい。」
まさと「あらら。そりゃダメだ。あー、そうか、ホエールなら酔わないもんな。」
パール「そう。宙に浮いてるからね。適任かも。ホエールの船長は都合私だけど、2号艦とか作るなら、船長候補ね。」
まさと「飛びあがって喜びそうだな。ほんとけぇ!? とかいいながら。」
パール「ぷ。それ、交代用員の話しした時に見たわよ。さ、そろそろ、ほんとに寝ましょ。」
まさと「あいよ。」

パールに連れられて廷内を行く。

パール「ここが私の私室。とりあえず、今日はここで寝て。」
まさと「はい!?」
パール「明日、きちっとした部屋を用意するから。ホエールって、使えない部屋が多いのよ。特に居住区は。機能に関係するところと、外側を優先したから。」
まさと「お前はどうすんだ?」
パール「もちろん、寝るわよ。ここで。」
まさと「あー、俺、医療室の水槽で寝るわ。」
パール「残念。あれは、今、自動メンテ中。安心して、何も無い部屋だし、襲ったりしないから。」
まさと「マジに他、無いの?」
パール「無いわ。どこも皆相部屋してるし。ほら、観念して入りなさい。」
まさと「わ、わ、わ。あ、俺、アパートの部屋で・・・。」
パール「あっちで、一人は危険でしょ。はい。主治医の言う事は聞きましょうね。」
まさと「・・・・・・うーい。」

しぶしぶ部屋の中に入る。

まさと「ほんとに何も無いな。」
パール「でしょ? ほんとに眠るだけの部屋だから。使えない部屋はベッドすら入ってないわよ。」
まさと「うーむ。じゃ、俺、床。」
パール「はい、奥に詰めて。」
まさと「うぉ。お、押すなぁっ。」
パール「押さないと二人入れないでしょうに。」
まさと「まじ?」
パール「ひょっとして、私の事が嫌い?」
まさと「いや、そうじゃないんだけど。」
パール「じゃ、問題無し。」
まさと「はひー。」

なんだかんだで、ベッドを二人で使って眠る事になっちまった。
こういうのばっかだね。なんともはや。蛇の生殺し。ですか。
なるほどな。広江さんが寝に帰る訳がわかった。部屋が無いんじゃどうしようもない。そしてここには、抱き枕も無い。

パール「そうそう。この部屋ってね。ホエール自体が危うくなった時は、部屋単位で、ブロック射出されて、救命艇になるの。だから、安心して眠ってていいわ。」
まさと「あ、そんな風になってるんだ。」
パール「医療室だけ移動させてたでしょ。あれ、緊急システムを切って、マニュアル操作にして移動させてたの。」
まさと「ははぁ。そういうことだったのか。じゃ、使えない部屋ってのは・・・・・。」
パール「まだ、システムに繋がってないから、その機能が働かないわ。だから、この部屋なの。」
まさと「了解。つくづく、すげーな。」
パール「ホエール? それとも・・。」
まさと「両方。」
パール「ありがとう。じゃ、そろそろ休みましょ。」
まさと「ああ、おやすみ。」
パール「おやすみなさい。」

救命艇になる、部屋ね。
とにかく、安心して眠れそうだ。
全力でサポートすると聞いてはいたが、これほど強力だとは正直思っていなかった。
パールには、ほんと感謝したい。そう思った。