第5話 闇の力、光の力 #3 光の妖精
俺の体は時折血飛沫を撒き散らせながら引力に任せ、落下していた。
ダークキャッスルのテラスから海面へ向かって。
その俺に向かって飛んでくるものがあった。
パールだ。
以前のそれとは違うソーサルブースターをまとって、ダークキャッスルに向かって来ていた。
パール「まさかっ!?」
パールの目に落ち行く俺の姿が写る。
パールはなんとか俺に追いつくと、その有り様に驚きを隠せないまま、ゆっくりと俺を抱え、海面ぎりぎりでようやく静止した。
ほんの少しだけ意識を取り戻す俺。
パール「・・・・・・・私がぐずぐずしてさえいなければ・・・あなただけは、あなただけは死なせないからっ!」
俺は再び意識を失う。
パールの目からは、涙が溢れ出していた。
パール「あっ。」
パールはそのまま来た方向へ俺を抱いたまま引き返す。
飛行型の魔獣が次々とそれを襲ってくる。
パール「どきなさいっ!」
パールの背中に装備された、棒のような、筒のような装備から、光球が打ち出され、魔獣は次々に灰になっていく。
やがて、魔獣達が襲ってこないところまで、ダークキャッスルから離れると、背中の装備を元の状態に戻し、パールは、さらに速度を上げ、俺のアパートのある方向へ飛んだ。
アパートの屋上に降り立つと、傍にあった、扉が自動的に開き、パールは俺を抱いたままその中へ入っていった。
扉の中はエレベーターのようになっており、その箱は、下へではなく、上に向かって登って行く。
箱が静止すると扉が開き、そこは金属製の廊下が左右に続いていた。
その一角に居た者が悲鳴を上げる。
リーヌ「・・・・・・・ひぃああああああっ!」
パール「リーヌっ! 手伝って。」
リーヌ「あ、あ、あ・・・・はい!」
パールはリーヌを連れて、奥へ進み。医療室へ入った。
パールは俺を医療漕へ俺を横たえると、ソーサルブースターをはずし、次々と機材を立ち上げて行く。
パール「リーヌ。彼の服を脱がせてあげて。全部。」
リーヌ「あ、はっ、全部、ですか?」
パール「全部。」
リーヌ「ででで、でも・・・。」
真っ赤になって手がおろそかになっているリーヌ。
パール「急いで。彼の命とどっちが大事?」
リーヌ「ごくっ・・・・・・・・はいっ!」
意を決した様にリーヌはてきぱきと、そして、傷に負担をかけない様に服を脱がせて行く。
最後の一枚になってリーヌは少し躊躇するが、それもゆっくりと引き剥がされた。
リーヌ「・・・・・・・・わぁ。」
パール「・・・・わぁ。じゃないわよ。さ、つけるから。」
リーヌ「はっは、はい。」
リーヌが後ろに下がると、パールは持ってきたカプセルを俺の胸に置く。
パール「メディカルブースター・セット。」
カプセルがぱっと広がり、スーツを形成した。そして、傷がある部位にひし形の印しが複数現れる。
パール「・・・・・ふぅ。っと。」
パールは計器盤につくとスイッチに手を掛ける。
ガスが治療漕の中に湧き出し、それで中がいっぱいに満たされる。
パール「これで、後は治癒するのを待つ。」
リーヌ「そ、そうなんですか・・・。」
パール「男の人の裸を見るのははじめて?」
リーヌ「は・・・・・・はひっ。」
パール「声が裏返ってるわよ。じゃぁ、ブースターもはじめて?」
リーヌ「はい・・。」
パール「急でごめんなさい。ほんとに急いでたからね。」
リーヌ「いえ。」
パール「今やったのは、治療をする為の処置よ。魔道科学を使った。これで、彼は助かるからね。」
リーヌ「・・・・はい。・・・・・けど、何が・・・。」
パール「それは、私にもわからないわ。私が着いた時には、彼は既に、こういう状態だったから。」
リーヌ「・・・・そう・・・・ですか。」
そこへルビーが入ってくる。
ルビー「随分早かった・・・けど・・・・あ。」
治療漕の中を見てルビーは言葉を失う。
パール「見ての通り、よ。街はもう、みんな避難しちゃって、誰も居ないし、ほんと、どうしたものか・・・・。」
ルビー「他は?」
パール「わからない。彼がこんな状態だったから、大急ぎで戻ってきたし。」
ルビー「じゃぁ・・・・回復待ち、ね。」
パール「そうね。留守の間に何かあった?」
ルビー「いいえ、何も。ホエールは隠れてるから、誰も気がつかないしね。」
パール「それも、そうね。」
リーヌ「この船、ほんとに周りから見えないんですか?」
パール「ええ、見えないわ。見えてるのはリフトの下側の昇降口だけ。下の建物の屋上にね。」
リーヌ「そうなんですか・・・。すごい事ばかりで、私はもう・・・。」
警報が鳴り響く。
パール「接近警報!?」
パールは計器盤につくとマーガレットを呼び出す。
パール「マーガレット、何?」
マーガレット『はい、ヘリコプターと言うのが降りてきます。このままだと、上部甲板に・・・・あ。』
がつんと激突音が響いてくる。
マーガレット『激突半壊しましたぁ・・・・。乗っていた4名が投げ出された様です。』
パール「はぁ。屋上に降りるつもりだったのか。すぐ人をやって。あ、怪我をしているようなら、こっちへ運んであげて。」
マーガレット『はい。分かりました。』
ぶつかったヘリは着陸脚がひしゃげ胴体も少し壊れていた。
ホエールが中に浮いている事で、激突の瞬間少し下降した為、その程度で済んだ。
やがて、怪我をしている一人が連れられてきた。
エド「びっくりしたなんてものじゃないぜ、この人、いきなり物騒な物突きつけるんだぜぇ。」
パール「それは・・・・仕方ないでしょうね。さぁ、こっちへ。手当てしますから。」
女「手間を掛ける。しかし、ここは一体なんだ?」
パール「ホエールといいます。その、船、みたいなものですね。」
女「なに! ホエールだって!」
パール「え?」
女「そ、それじゃ、宗方・・・いや、まさとと言う男を知っているか?」
パール「あ・・・。」
思わず、治療漕を見るパール。
女「ん・・・? はっ、む、宗方っ!! どうしてっ!?」
パール「お知り合い? ですか? こっちの世界の?」
女「あ、ああ、そうだ。すると、ティラからくる援軍というのが。」
パール「そういうことになります。遅くなって、済みませんでした・・・・・。」
パールは頭を下げる。
女「いや、その、なんと言うか、この状況の事情が飲みこめない。宗方はあの城へ入ったはず・・・。」
パール「この状態で投げ出されてきました。腹部に重傷を負っています。」
女「他は?」
パール「分かりません。」
女「そうか・・・・。止めるべきだったのか。」
パール「あの・・・?」
女「あ、済まない。私は警視庁の・・・あ、分かる、か?」
パール「け・・・・警察のかた?」
女「そうだ。小染広江。警部だ。宗方には随分と世話になってる。」
パール「私も同じです。私はパール。です。」
広江「パール!? 向井、向井珠美、さん?」
パール「あ。そうです。向井です。そう・・・警察の協力を取り付けていたなんて・・・。やっぱり、すごい人だ。」
広江「いや、こっちが協力してもらっていた。その結末がこうだ・・・・。色々話したい事がある。よろしいか?」
パール「ええ。こちらもです。小染警部。」
パールと広江さんは、双方の情報合わせを行った。
パール「では、ダークキャッスルの中に、ミュウ、シルフィー、マリン、ポチ、タマが、捕らわれている可能性があるんですね?」
広江「そうなる。で、そちらの言う、パルティアさんを入れて、5人、か。」
パール「そうですね。」
広江「正直のところ彼ら、と言って良いのかな? 狙いはなんなのだ?」
パール「分かりかねています。私も、はじめは魔道科学の国を再興させる目的だと、騙されていたほどですし。けど・・・。」
広江「思い当たる事があるのか?」
パール「ええ、考えたくは無い事ですけど。・・・・・・マジェスティックスの大気密度を極限まであげて、魔族のみ、あるいは、その中で生きる事を許されない種族を排除した、偏った世界を作ろうとしているのではと。」
広江「・・・・・考えられなくは、無いな。」
また警報が鳴る。
パール「今度は何?」
マーガレット『パトカーと言うのが十数台。ホエールの周りを包囲しています。まだホエールの存在自体には気がついていないようですが。どうしますか?』
パール「ああ、ホエールが転送して来た時の大きな電磁波を観測して、駆け付けて来たのね。」
広江「私が説明しに行こう。それで、納まるはずだ。」
パール「そう、ですね。お願いします。あ、念の為、私も行きます。」
広江「ああ、お願いする。フォローを頼む。」
アパートからパールを連れた広江さんが出てくると、数名の警察官が近づいてくる。
広江さんは警察手帳を見せ、事情を説明すると、パトカーの無線を使って、本部と連絡を取り、それに対する命令が来たパトカーは移動用の一台を残し、他はすぐに帰っていった。
パール「お見事ですね。私はする事がありませんでした。」
広江「いや、宗方達のおかげだよ。彼らが情報を教えてくれていなかったら、こうスマートに対応できなかっただろう。」
パール「後は、ダークキャッスルと睨み合いながら、彼の回復を待つしかありませんね・・・。」
広江「そう・・・・・だな・・・。とにかく、宗方のことはまかせた。私は一度署に戻って、調整をしてくる。」
パール「はい。分かりました。」
パールは廷内に戻ると、ホエールの一切を制御中のマーガレット、俺の容態を見守るリーヌを除く一同を作戦室へ集めた。
メンバーはルビー、長老シルビア、ミルフィー/ガゼル夫妻、武器屋エド、駄菓子屋ローリー、エルブンのマスターポップ、ファリア、そして、カイゼルと名乗るのをやめたラルフといったエルフの村の主力メンバーばかりである。
それに真悟と、清美さん。
長老「そんな事になっておるのか。一足遅かった・・・かのう・・・。」
ラルフ「いや、そうでも無いだろう。それぞれの所在がある程度特定出来た。消えてしまっていた状態よりは良い。やりようがある。」
長老「確かにな。で、どうなのだ、ラルフ。あの時と比べて。」
ラルフ「ん? アルヘルドか? かなり状況としては似ている。あの時も、マジェスティックスを収集する装置が動き出してからは、取り立てて向こうから手を出してくる事は無かった。」
長老「・・・・そうじゃな。一定濃度を超えれば、手出しせずとも、自分達だけの世界になるのだからな。あえて消耗するような事はすまい。装置はもう動いておるのか?」
パール「はい、動いている様です。こちらに来てから、定期的に濃度分布を調べていますが、城を中心に徐々に濃度が上がってきています。」
長老「すると、一刻も早く止めるべきところじゃのう。動ける物だけで攻め込むか?」
パール「それは無謀です。」
長老「そうか?」
パール「マーガレットで転送テストを行った時に遭遇した、魔獣との交戦データを調べて分かったのですが、魔獣が進化、というか、強化されているようです。だから、マーガレットはあれほど・・・。」
ラルフ「むやみに挑むのは無謀と言うことか。」
パール「そうです。強化した、マーガレット2の性能で、従来の魔獣に十二分に拮抗できるはずが、苦戦しています。障壁も強固になっていたようで、ダメージを与える事が出来なかった様子です。その時は、たまたま居合わせたまさとさん達に助けられてさえいます。」
長老「・・・・やはり、勇者抜きでは事は起こせぬ、と言う事か・・・。」
パール「そう思います。聖剣、ミュウの持つ完全版ソーサルブースター、これら無くして挑んでは、勝ち目は無い物と思います。私やマリンの持っているプロトのブースターの改修版では力不足ですし。」
エド「そうかぁ。どっちにしろ、にぃちゃんの回復を待つしかねぇってことか。」
ローリー「だねぇ。で、聖剣は一体どうなっているんだい?」
パール「それもまさとさんの回復待ちですけど、もう、まさとさん以外には扱えない状態にあるようですね。召還に応えて実体化すると言うのが、どういう現象なのか、伝聞のままではなんとも判断できませんし。高度な偽装で、見えなくなっているだけの可能性もありますし。不明点が多すぎます。」
長老「そうじゃなぁ。聖剣が消えたり出たりなどと言う話しは、今まで聞いた事もないでのう。」
ラルフ「番人のファルネも消息不明。フレイアの話など、分からない点が多すぎる。」
パール「ところで、ラ、いえ、カイゼルさん、加減はどうですか?」
ラルフ「ああ、もうラルフで良い。ここまで状況が進めば隠す意味も無くなってきた。調子はまずまずだな。元々動けている事自体が幸運なのだし。」
パール「そうですか。なによりです。メディカルブースターは?」
ラルフ「ああ、そのままこの下に着けている。」
長老「うむ。あの時を止める呪法はなかなかに厄介での。解いてやりたい所じゃが、そうも行かん。」
エド「解くと、どうなるんです?」
ラルフ「それまで止まっていた時間分の変化が一気に来る。私は、長くこのままでいるから、一気に老衰して、干からびてミイラか、灰になるか・・・だな。」
エド「うわぁ。そりゃ解けませんねぇ。」
パール「現状を維持するのが得策ですね。」
ラルフ「これは元々は、魔族が編み出した物だがな。不老不死を目指していたらしい。ただし、揺り戻しが出たのが予想外で、禁呪となっているようだ。」
長老「わしの若返りのほうが、安全じゃのう。」
ラルフ「・・・・・それはいいというのに。あれは周りがダメージを受ける。」
長老「・・・・あんまりな事を言うな。まぁあれじゃな。ひょっとするとラルフに掛けられた禁呪は、ある意味、稀少な成功例なのかも知れぬな。」
ラルフ「ふっ。皮肉だがそう考えられなくも無いな。確かに、不老に近い状態だ。」
パール「では、私はまさとさんの回復に全力を投じます。マジェスティックスの濃度が飽和点を越えるまでに、まだ数日掛かるようなので、それまでには回復すると思うのですけど。」
ラルフ「飽和点までどのくらいだ?」
パール「正確には分かりませんが、今の増え方を維持するとして、4、5日。それで、飽和濃度を超えると思います。止めるなら、それまでにと言う事ですね。」
ラルフ「そうか。越えてしまったとして、アルヘルドの二の舞ではあるが、止められなくは無い。」
長老「これ、ラルフ。」
ラルフ「いや、失言だった。同じ過ちを繰り返したいわけではない。それまでに何とかせねばな。」
ミルフィー「あの・・・。」
長老「なんじゃ?」
ミルフィー「アスフィーのこと・・ですけれど・・・。」
長老「うむ・・・そうじゃな。」
ミルフィー「あれは、本当にアスフィーなのでしょうか?」
長老「母親にそう聞かれてものう・・・。何かあるのか?」
ミルフィー「いえ、漠然とですけれど。アスフィーと違う物を感じる事があったものですから。」
長老「マリンが言っていたところでは、アスフィーに間違いはないと言う感じらしいのじゃが、村での事といい、大聖堂への進撃といい、にわかに信じがたいところが多いのは確かじゃな。わしとて判断はついておらん。」
ガゼル「そうですねぇ。家を空けていることが多かったですし。旅先で変化があってのことなのか・・・それとも・・・。」
長老「・・・・・全て終わってみるまではっきりせぬかも知れぬな。あまり深く考えないようにして置け。苦しいだけじゃぞ。今は、止める事の方が先決じゃ。」
ミルフィー「・・・・はい。」
パール「では、私は医療室に戻ります。」
ファリア「あ、俺・・。」
パール「はい?」
ファリア「後で、行っていいか?」
パール「構わないわ。けど、まだ、話しは出来ないわよ?」
ファリア「いや。それは分かってる。顔が見られれば良い。」
パール「そう。じゃ、いつでもどうぞ。ただ、失血が多いから、顔色は良くないわよ。」
ファリア「ああ。済まないな。」
ホエールのブリッジ、丁度デザインが鯨の姿になっているホエールだが、口のところが窓になっていて、この辺りがブリッジ、艦橋になっている。
飛行艇的に下が見やすい位置にある。
ここでは、こちらに来てからずっと、マーガレットが操艇席に座っている。
時折、周囲の状況を確認する為に頭を動かしたりはするが、まず動かない。
そこへ、エドが上がってくる。
エド「よぉ。ご苦労さん。会議終わったよ。」
マーガレット「エドさんもご苦労様です。現在異常はありません。」
エド「代わろうか?」
マーガレット「いえ。まだ、大丈夫です。」
エド「気負うなよ。お前さんが丈夫なのは知ってるけど、逢いたいだろうがよ。アイツに。」
マーガレット「はい。けど、私にはやる事がありますから。」
エド「だーからー、おいらが代わってやるって言ってんだって。扱いはパールちゃんに叩きこまれたからな。心配せずに逢いに行ってこい。」
マーガレット「でも。」
エド「行けよ。」
マーガレット「はい。そうします。モード、停泊状態で現状キープに固定。」
そういって、マーガレットは席を空け、エドがそこへ座る。
エド「モード、停泊状態キープ。操作はマニュアルに変更。さぁ、もう行って良いぞ。」
マーガレット「はい、お願いします。」
マーガレットは一礼して軽やかな足取りでブリッジを出ていった。
エド「なんでぇ。うれしそうに行くじゃねぇか。やっぱ。はっはっは。」
パールが医療室に戻ると、リーヌはジッと治療槽を覗きこんでいる。
パール「何か変化は?」
リーヌ「あ、いえ。特にありません。グラフも同じ動作を規則的に表示してます。」
パール「そう・・・そろそろ、もうちょっと良い値が出てくれると良いんだけれど・・・。」
リーヌ「よっ、良くないんですか?」
パール「まぁ。全体的に数値が低いのよ。気は抜けないわ。悲観的になる必要も無いのだけどね。」
リーヌ「そうですか。何か出来る事があれば良いんですけど・・・。」
パール「そうね。それは私も同じ。今は祈ってあげる、想ってあげるくらいしかないわ。」
リーヌ「はい・・・。」
パール「うーん。やっぱり数値が低いなぁ。出血の多さがこたえてるか・・・。」
蓄積した留守中のデータを眺めて眉間にしわを寄せるパール。
パール「あ、長丁場になるわ、そろそろ休んでて。私と、交代で看てもらう事になると思うから。」
リーヌ「あ、はい。じゃぁ、そっちのベッドを使わせてもらいます。」
パール「自分の部屋でも良いわよ。」
リーヌ「いえ、平気です。必要になったら起こして下さい。無理やりでも。」
パール「そうね。その時は容赦せずに起こす事になるから、休める時にしっかり休んで。」
リーヌ「はい。」
リーヌは横合いのベッドで毛布に包まると目をつむる。
しばらくして、ファリアと、マーガレットが一緒に入ってくる。
ファリア「邪魔する。」
マーガレット「あの、私も・・・。」
パール「どうぞ。マーガレット、ブリッジは?」
マーガレット「エドさんが代わってくれました。行ってこいって。」
パール「そう。」
ファリア「・・・・ほんとだ。顔色良くないな。」
ファリアは治療槽を覗き込んで言う。
マーガレット「でも、数値自体は低いですが、安定はしてます。」
ファリア「そうなのか?」
パール「そうね。そんなところ。乱れが出たら大慌てしなくちゃいけない所だからね。」
ファリア「そうか。おい・・・・早く良くなれよ・・・俺はお前と一緒に戦う為にこっち来たんだからな。」
パール「あ、じゃぁ、私はしばらく別の作業をさせてもらうわ。しばらく居てあげて。」
ファリア「そこでか?」
パール「ええ。ソーサルブースターの制御部分の改良案を。気になってるところもあるしね。」
ファリア「そうか。じゃ、椅子、借りるぞ。」
パール「ええ。何か変化があったら声掛けて。」
パールは端末に向かうと別室にある開発用端末を呼び出し、ここからなにやら操作をはじめた。
会議室ではラルフと長老がまだ居残って話しを続けていた。
長老「のぉ、ラルフ。」
ラルフ「ん?」
長老「いや、なんでも無い。」
ラルフ「・・・・まぁ、思い悩む事は多いな。」
長老「そうじゃな。わしが一番しっかりしておらんといかんのじゃが。」
ラルフ「誰でも得手、不得手、と言うのはある。出来る者がやれば良い事だ。」
長老「ほんにのぉ。その通りだとは思うんじゃが。だからこそ、今の自分が飾りでしかないのが・・・。」
ラルフ「シルビア。私だって同じだよ。看板ばかりだ。村に戻ったものの何も出来なかった。」
長老「うむ。それはわしとて。伝記に振りまわされるばかりでのぉ。」
ラルフ「そうだな。私もなぞっていただけだと思う。自分の意思で動いていたのは、彼らだけ、かもしれん。」
長老「じゃな。でなければ、この状態にまで到達できていなかったろうな。なにも知らないまま、全てが終わっていたやも知れんて。」
ラルフ「ふっ。終わりを迎えられたなら、良いほうだろう。私など、それ以前に息絶えて居たはずだ。パールが居なければ。」
長老「そうだったのぉ。あの娘がこちら側にこなんだらと思うと、ぞっとするわぃ。良く、真実を見据える気になってくれたものじゃ。で、お前さんはどう見ておる?」
ラルフ「何をだ?」
長老「アスフィー、それに魔族の娘の事じゃよ。」
ラルフ「ああ。いや、掴みあぐねている。魔圏を拡大したい、と言うのは、正当な理由だし、裏は感じなかった。その裏を探ろうとした矢先に時を止められたからな。ダイアに。後は、皆が知っていることしか私も知らん。アスフィーについても同様だ。唯一、アスフィーらしいのとダイアが連れ立っていた事が最近分かったぐらいだ。」
長老「なんじゃ、連れ立っていたとは?」
ラルフ「時を止められる直前。長身長髪の男と、ダイアが一緒に居るのを追い掛けていたのだ。男が誰か分からなかったのだが。その途中で、禁呪を掛けられた。今にして思えば、あれはアスフィーだったのだろう。そう思えるようになった、と言う事だ。」
長老「なるほどの。そうかも知れぬなぁ。一体、あやつらの間で何があったのか・・・。ひどく世の中を恨んでいるような素振りもあったようじゃし。」
ラルフ「私もそれを確かめてみたいところだがな。」
長老「じゃが、急いては・・・かのぉ。」
ラルフ「そうだと思う。今は、待たねばならんだろう。彼の復活を。城の中で何があったのか。それからだ。」
治療室の計器がけたたましく警告音を鳴らし始めた。
呼吸数、心拍数、血圧、どれもが不安定かつ、低いものになっていた。
パール「なぜ? なぜ回復しないの?」
ファリア「どうなってるっ?」
パール「・・・・・・・これ・・・は・・・・。」
マーガレット「傷口が塞がらず、出血が止まない様です。原因不明。理論上あり得ません。」
パール「傷口が・・・一体、何で貫かれたの・・・・・彼は・・・。」
メディカルブースターによるスーツの表示にある傷口の部位に現れるひし形の印しはおさまる事もなく、より赤い、出血量の多さを示す状態になっていく。
パール「治療槽の活性化レベルは最大なのに。メディカルブースターも・・・・。なのにっ! なのにっ!」
リーヌ「どうしたら良いんでしょう・・・?」
パール「打つ手が・・・無いのよ。・・・・もう。このままでは失血によって命を失うことになるわ。」
リーヌ「そんなっ。針と糸で、傷口を・・・・。」
パール「無理よ。この治療槽で消えない傷が、そんなくらいでは塞がるとは到底思えないわ・・・・。」
リーヌ「そんなぁっ!」
パールは治療槽の縁に両手をついてうなだれる。
パール「傷口が広がるような効果を持つ物・・・・・・はっ! まさか! マーガレットスキャン準備してっ。」
マーガレット「あ、はい。タイプは?」
パール「マルチ。どんな変化も見落とさないで。」
マーガレット「はい。スキャン開始します。」
光による走査線が治療槽内をめまぐるしく駆け巡る。
やがて、その結果が横合いの機器のモニターに映し出される。
パール「・・・・・・・・・・・・・そんな。傷口に障壁!?」
ファリア「なんだそれ!?」
パール「傷口を開く形で、障壁が発生してるわ。小規模だけど。それが邪魔をして傷口が塞がらなくなってる。けど、なぜ、それが持続してるのか・・・。」
ファリア「おかしいのか?」
パール「ええ。メディカルブースターの内部に別の障壁が発生する事は理論上無いわ。もし、強引に発生させられる要因があるとしたら、体内に発生源があることになる。」
ファリア「・・・・・・なんだよ、それ。あり得ない。それは無いはずだ!」
パール「その発生源を探してるんだけど、体内のどこにも無いの。そんな異物は・・・。」
その時、治療槽の上の空間に、光る物が現れ始めた。
パール「何っ? これっ!?」
マーガレット「マジェスティックスと周囲の粒子が凝縮して行きます、危険です。離れて下さい。」
ファリア「んなこといったってっ!」
やがて無数の光る点が現れ、渦を巻いてどんどん凝縮して行く。
やがてそれは、人に似た四肢を持ち、4枚の羽根を持った姿になる。
パール「・・・・・・番人・・・・ファルネ!?」
リーヌ「あぁ!」
それは、消えてしまったと思われていたファルネだった。
ファルネは俺の顔のところまで来ると、しがみつく様にする。
やがて、顔から離れ、今また強い光を放って、子供のようなサイズにまで大きくなって行った。
ファルネ「くさなぎが刺さったままになっています。」
パール「は、話せた・・の?」
ファルネ「本来は話してはいけないのですが。大きくなれば話せます。」
パール「あなたは一体・・・。それにくさなぎはどこにも・・・あ。見えないのね。くさなぎが見えないままそこにあると言うの!?」
ファルネ「そうです。これからくさなぎの偽装を強制的に解きます。現れたら・・・・あなたが抜きとって下さい。傷口を広げない様に。ゆっくりと。」
ファリア「俺っ?」
ファルネ「ここに居る者で、くさなぎを抜ききる事が出来る技量を持っているのはあなただけですから。」
ファリア「わ、わかった。」
ファルネが傷口のあたりに手をかざすと、粒子の粒がざわめくように、くさなぎが姿をあらわした。
深々と傷口のところに突き立った形で。
ファルネ「今です。」
ファリア「ぐ・・・。」
ファリアは、柄を両手でしっかり持つと、じわじわと抜き取り始める。
ファリア「お、重い。以前に持ったときより、重くなってる、洒落にならねぇ・・・・。くぅっ。」
やがて、傷口から剣先が抜け出す。
しかし。
ファリア「変だぞ。抜けたんじゃないのか? まだ抵抗があるぞ。」
ファルネ「まだです。まだ、剣先が、本当の剣先が抜けていません。」
パール「本当の剣先? まさか、くさなぎにはまだ見えてない剣先があると?」
ファルネ「そう・・・です。くさなぎは見た目の1.5倍の長さがあるのです。その分も引き抜いて下さい。」
ファリア「そういうことか・・・ぐっ。」
引き続きファリアはくさなぎの見えない剣先を抜いていく。
ファリア「前々から太短けぇ剣だな・・・と思ってた・・・が・・・く、こんなに長いのが・・・短く見えてた・・・って・・・ことか・・・・よっ! ぬ、抜けた!」
そのとたん、メディカルブースターの傷口の辺りの表示が徐々に小さくなり、色も徐々に薄くなっていく。
パール「効果が出始めた。」
計器のグラフもだんだんと安定して、やがて、エラー音も出なくなった。
ファリアは抜き取ったくさなぎを掲げて眺める。
所々血糊が着いて、見えないはずの剣先の形がなんとなく分かる。
ファリア「でけぇ。でけぇよ、この剣。重いのが納得いく。」
やがて、その見えないはずの剣先は徐々に短くなり、見えている部分と同じ色になって定着する。
ファリア「あ・・・・重さはかわらねぇのに、短くなった。」
パール「まさか・・・くさなぎは・・・・形態を変化させる事が出来る剣・・・。」
ファルネ「それに近い物です。覚醒の度合いによって形態が変化するのです。持ち主次第で。」
パール「・・・・・・そういうこと・・・。か。鍵になっているのは・・・持ち主の・・・・・遺伝子?」
ファルネ「・・・・・・・・・・そうです。今まで、彼の体に刺さったままになっていた為、くさなぎは70%以上覚醒を果たしました。その為、今のような形になっています。後の覚醒は、持ち主の意思が関わります。」
ファリア「なんて剣だ・・・。まさか、その為の覚醒の・・・・。」
ファルネ「あれは、本来必要とする物からかけ離れてしまっています。が、そういうことです。持ち主の遺伝子情報を登録する事により、持ち主だけが使いうる、本来の能力を覚醒させるためのものなのです。」
真実に唖然とするパール、ファリア。
リーヌに至っては、もう完全についてこれていない。あうあうと口を動かしているだけ。
パール「くさなぎの事はわかったわ。今度はあなたの事を教えて。貴方は一体、何?」
ファルネ「本来、話してはいけないのと同じく、それも知らせてはいけない事です。けれど、問題がティラのみで済まなくなった今、お話しするべきでしょう。私はが何なのか。何の為に居たのか。何の為に再生したのか、も。」
パール「ええ、是非、聞かせて欲しいわ。」
ファルネ「まだ、他に知らせておいたほうがいい方がおられますね? その方達を集めて下さい。それからお話します。」
パール「・・・・わかったわ。」
俺が、意識を取り戻したのはそれから2日後の事だった。
一度意識を取り戻し、ファルネが無事であった事を確認して、俺は再び意識を失い、それから半日ほどしてまた意識を取り戻した。
パール「もう・・・話せそう?」
まさと「あ・・・・うん・・・少しくらいなら大丈夫そうだ。」
パール「無理はしないでね。疲れたら言ってくれればいいから。ダークキャッスルの中で何があったの?」
まさと「あー、何から話すかな。」
パール「あ、そうそう。小染警部にはもう会ったわ。それで、彼女の知っている話は大体聞かせてもらったから。」
まさと「そうか・・・・ミュウを追って俺達は城に入ったんだ。けど、新生魔導三人衆のサファイアってのと・・・・エメラルド・・・・ってのに邪魔されて、戦力をばらばらにされて・・・。」
パール「なに? 新生? 知らないわ、サファイアって言うのも、エメラルドって言うのも。」
まさと「ああ、だと思う。えっと、マーガレットみたいなものだって言ってたよ。ミュウと、シルフィーの人格を基本に作ったって。」
パール「・・・・・・・・きっと、ダイアね。」
まさと「それから、俺と、ポチと、タマで、ミュウを助けに玉座の間に入ったんだけど・・・・。」
パール「何か、起こったの?」
まさと「ソーサルブースターを逆利用された。」
パール「え、ぎゃ、逆利用?」
まさと「・・・・・・・・・意思に反してミュウが操られた・・・。」
パール「!」
パールは何かに思い当たった様にうつむき、口を硬く閉ざす。
しばらく沈黙が続き、やがて、ゆっくりとその口が開く。
パール「それは・・・・・・・私のせい・・・・ね。」
まさと「え、なに?」
パール「ブースターの緊急時用の外部コマンド受信シークエンス。ブースターが暴走した時に外部から操作出来るようにこっそり着けておいた安全装置をガルウに見破られた・・・そういうことだと思う。だから、私のせい・・・・・。」
まさと「・・・・・・安全装置、か。」
パール「本当にごめんなさい。そのあたりの機密部分が漏れているのに気がついたのが、貴方達が城に向かった後、だったのよ。だから、間に合わなかった。」
まさと「そうか・・・・けど、どうして・・・漏れたんだ?」
パール「マーガレットよ。マーガレットにいつの間にか仕掛けがしてあった。強化改造する為にばらしててはじめて、知らないユニットが増えてるのに気がついて・・でも・・・その時には・・・。はじめから、信用なんてされてなかったって事よね・・・・・私は、駒だったから・・・・・。うぅ・・。」
まさと「・・・・・・お前のせいじゃないだろ。それ。」
パール「ごめんね・・・。」
まさと「対策はあるんだろ?」
パール「え、ええ。まだ、出来あがってないけど、制御部分の改修をやってる・・・わ。けど・・・・それじゃ・・・あなたを襲ったのは・・・。」
まさと「・・・・・・ああ。ミュウだ。もうどうにも出来なかった。他もサファイアとエメラルドにみんなやられた・・・。無事だといいんだけど。」
パール「・・・・・う・・・うぁ・・・・あぁぁぁっ・・・・。」
パールは泣き崩れてしまう。
ファルネがそれを慰めるようなそぶりをする。
まさと「・・・・・・泣くなよ。お前、もっと気丈だったろ?」
パール「・・・・・でも・・・・でも・・・。・・・・・・・私が・・・私が・・・・。」
まさと「ほら、泣きやめよ。こんな、ちっちゃなファルネだって心配してっぞ。」
パール「う・・・・・そ、そう・・・ね。ちょ、ちょっと待って・・・。」
そこへ、リーヌが入ってきた。
リーヌ「・・・・・・あ。」
まさと「・・・・・・よぉ。あー、元気だったか?」
リーヌ「ぅ・・・・・・わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
リーヌまで大べそをかき始めた。正直まいったね、こりゃ。
二人が泣き止むのをファルネをなでながら待つ事にした。
パール「ねぇ・・・・すごい物なでてるのに気付いて、居ないわよね・・やっぱり。」
まさと「あん?」
パール「ふふっ。そうでしょうね。私達もてんで知らなかった事だし。」
まさと「なにが?」
パール「いいわ。順を追って説明してあげる・・・・。」
パールは俺を拾って以後の出来事を分かりやすく説明してくれた。
くさなぎを引き抜いたところまで。
まさと「・・・・・・・・ずいぶんと世話になっちまったなぁ。じゃぁなに? これ、マリンさんの言ってた医療用のやつ?」
パール「ええ。メディカルブースター。試作品だけどね。ラルフさんがジッとしてないから急いで作る事にしたの。」
まさと「ああ、なるほどねぇ。」
パール「ほんと。目を離すとすぐ治療槽から居なくなってるんだもの。あの人。」
まさと「ははっ。そうか、それで、治療槽ごと歩ける様にこれを。」
パール「ええ。で、ファルネ・・・の事なんだけどね。」
まさと「ん?」
パール「えーっと、どうしよう。自分で話す?」
パールが問いかけると、ファルネは頷いて俺の手から離れると、光を放って大きくなった。
まさと「あー、いや、俺、これ知ってるよ。やばい所を大きくなって救ってくれたから。」
パール「ああ、そうじゃないわよ。その先があるから。ね。」
ファルネ「はい。」
まさと「なっ!? 今、普通に喋ったか?」
ファルネ「はい。喋りました。今まで、あなたには過度の苦労を強いてしまいました。本当にごめんなさい。」
まさと「うわぁ。」
ファルネ「約束事があって、今までは安易に話せなかったのです。」
まさと「そ、そういうことなのか・・・・?」
ファルネ「私の事をお話したいと思います。私は・・・。」
かたつばをのんで、次の句を待つ。
ファルネ「私は、惑星維持管理システム、ルーンの端末であり、自律思考型のユニットなのです。」
開いた口が塞がらなかった。
惑星維持管理システム? ルーン? 自立思考型ユニットぉ!?
それじゃ何? 神様だとか言われてるルーン、月光神ルーンてのは、コンピュータとか、プログラムとか、そういうものだったのか?
で、その端末、それがファルネだって言うのか!?
まさと「ほんと?」
パール「ええ、そういうことらしいわ。現に、くさなぎを自在に操ってたし。」
まさと「・・・・・・・うわぁ・・・・。」
ファルネ「本当は、話してはいけない事になっているのですが、他天体に影響を及ぼす状況になってきたので、あなたたちには話しても良いだろうと判断しました。」
まさと「えっと、じゃぁ、ルーンは、惑星ティラの星その物とか、生態系だとか、そういうのを・・・。」
ファルネ「はい。管理しています。誤った進化を遂げない様に。本来はサイファシスと言う、もう一つのシステムとバランスをとりながら作動するのですが、サイファシスは現在休眠中で、私が全てを預かっています。」
まさと「・・・・・・・・・・・・・・・そういうことか。じゃぁ、サイファシスは、誤作動して、ペナルティ、今、食ってる?」
ファルネ「はい。」
まさと「じゃぁ、ペナルティになった原因って・・・。」
ファルネ「自律機動防衛ユニットを独断で製造、それが、さらに誤作動を起こして、ティラその物を危険にさらしたからです。」
まさと「や、ヤマタノ・・・・オロチ・・・・・・。」
ファルネ「そう呼ばれていました。それを鎮圧する為に地球から協力者を連れてきたのが、皆さんの知っている勇者の伝説の元になったようですね。」
まさと「で、それがまた再起動するかして、二人目が・・・。」
ファルネ「ええ。」
まさと「じゃ、三人目が俺とかいう?」
ファルネ「いえ。それはちょっと違います。今回に限っては。」
まさと「あれ、違うの?」
ファルネ「今回騒動を鎮圧する為にルーンが呼び入れたのは、竜崎守さんです。結果、失敗でしたが。」
まさと「な、なんだよ、失敗って・・・。んじゃ、俺はなんなんだよ。」
ファルネ「あなたは、先代ファルネの人格部分をになっていた、フレイアの意思が転送システムを起動、呼び入れられたようです。」
まさと「ふ、フレイア・・・・? ようですって、偉く人事・・・・・え、先代? なに?」
パール「あ、やっぱり混乱したわね。」
まさと「あ。まぁ。」
パール「つまり、ここに居るファルネはティラであなた達をかばったファルネとは違うファルネなのよ。」
まさと「あ、それで、先代・・・。か。言われてみればちょっと色が違う・・か。じゃぁ・・・あのファルネは・・・・。」
ファルネ「はい。残念ながら先代ユニットはあの時に遺失してしまいました。最後のシークエンスであなた達を地球に送って・・・・。」
まさと「・・・・・・・・・・・じゃ、あのファルネは・・・フレイアの意思を引き継いだってのは・・・。」
ファルネ「フレイア・グレンハートは先代と近しい存在でした。真実も知っていました。その上で、自分の死期を感じた彼女は、自分の思考のコピーをユニットに保存する事を望んだのです。愛おしい人々を守り続けたいが為に。」
パール「ここで、ラルフさん、大泣きしたのよね。」
リーヌ「そうでしたねぇ。なんだか、本当にお可哀想でした。」
まさと「・・・・・・・・・そりゃ、泣くか。それって、自分が固まってる間に起きた事だろ?」
パール「そうね。」
まさと「うう・・・・さぞかし見物だったろうな。じゃぁ俺はそのフレイアに呼び入れられのか・・・・・・ミュウを守る為とか?」
ファルネ「はい。その前に一度、ミュウがあなたを助けにそちらの元に現れているはずです。」
まさと「・・・・・・・・ああ。そうだ。15年前だ。」
ファルネ「先代はあなた達二人がくさなぎを引きぬいて以後、一緒について回る事で、メインシステムである、ルーンに、情報を届けていたのです。協力をしていたのも、事態を改善したいが為に。」
まさと「・・・・・知って驚くなんとやら、だな。けど、納得は出来た。そうか、前のファルネは居なくなっちまったのか・・・。」
ファルネ「ええ。ですが、バックアップと残存データがありますから、しばらくすればそれらを元にかなり再現性の高い形で、フレイアとしての人格部分は復活できると思います。出来次第、私にデータ追加が予定されています。」
まさと「あ、そうか。そういうことなら、うん、それが良いと思う。」
ファルネ「以上が現在話せる全て。です。」
まさと「ふぅ・・・・。そうか。やっぱ、ルーンは神としての存在だな。例えそれがシステムでも、星の行く末を見守ってるとか、そういう部分とか。」
パール「そうね。そう思っていいと思うわ。」
まさと「あ、これだけ確認しとこ。今、話してたのは、ルーン? それともファルネ単体?」
ファルネ「ファルネユニットの基礎人格ですね。私は。」
まさと「そか。じゃぁ、ルーンによろしくってことで。」
ファルネ「はい。」
パール「さすがに、馴染み切るのは早いわね・・・。」
まさと「そうか? まぁ、疑う余地無かったし、納得も出来たしな。そういうもんならそれでいいさ。」
なぜか、パール、リーヌ、ファルネは俺をじっと見てる。
まさと「なんだ? どうかしたか?」
パール「ううん。やっぱり、適任者として選ばれただけのことはあるのかなと思っただけ。」
リーヌ「そうですねぇ。」
ファルネ「私は先代からの引き継ぎと言う形になりますので、お二人と同じ思いですね。」
まさと「・・・・・な、なんか気持ち悪いからよしてくれ。笑顔で見つめないでくれ。頼む。」
ファルネ「それじゃ私は元のサイズに戻ります。この大きさは消費が激しいので。」
まさと「ああ、そか。」
ファルネはちょこっとお辞儀して元の小さな姿になって、俺の入れられている、治療槽の縁に腰掛ける。
まさと「ああ、そうだ。今のこと知ってるのって?」
パール「ああ、ホエールに乗っている人には全員に聞いてもらったわ。そのほうが都合はいいでしょうから。あなたのお友達もね。それから、小染警部には次に会った時に私から話しておくわ。あなたは体を直すのに専念してて。」
まさと「ああ、頼む。まぁ、俺は寝てるだけだがな。」
ファルネは縁に座ったまま足をプランプランさせている。
そうか。こいつがルーンの端末ねぇ。今更納得してみたりする。
それでも良くその事を教えてくれたもんだ。
ファルネ「ソレハ・・・アナタ ヲ シンジタ カラ・・・。」
いつもの頭にだけ響くファルネの声が届く。
ファルネはこちらを向き小首を傾げ笑っている。
俺は少し軽く動くようになってきた腕を動かして指先をファルネの膝頭まで持っていく。
すると、ファルネはそれをちっさな手で、きゅっと掴んでくる。
まさと「まだ例を言ってなかった。お前のおかげで命拾いしたんだよな。ありがとうな。」
パール「殊勝ね。」
まさと「ほっとけ。」
パール「ふふふっ。」
ファルネ「レイハ イイ。 クロウ カケタ カラ・・・。 コレカラモ ワタシハ オマエヲ マモル・・・。」
俺は笑みを返してゆっくりと手を戻し、休む事にした。
いい方を替えれば、神様の使いの光の小妖精に守られてるってことだ。
これはなかなかどうして、悪い気分ではない。
一刻も早く調子を取り戻して、事態を解決しなきゃな、と思った。