第5話 闇の力、光の力 #2 待ち受けるもの
映像は炎上しながらばらばらになって落下するヘリの映像を写していた。
ダークキャッスルの障壁にぶつかりでもしたのだろう。
そんなもの、こちらの航空機がぶつかったらひとたまりもない。
キャスター「え、あ、こっ、光線です。今度は光線が建造物から発せられ・・・ああっ。」
キャスターの慌てふためいた声に引き続いて、ダークキャッスルから放たれた無数の光線により、他の報道社のヘリが次々に撃墜されていく様が映し出された。
シルフィー「・・・・・あれ、人乗ってるんだよね・・・?」
まさと「・・・・あ、ああ、そうだ。人が乗ってる。報道社の。」
キャスター「あっ、何か出てきましたっ。建造物から何か飛び出てきましたっ。鳥・・・でしょうか?」
キャスターがさっきとは違った慌て振りで新情報を伝える。
続いてTVに写った映像は、紛れもない、飛行型の魔獣を映し出していた。それも、無数に。
ダークキャッスルの周りをうごめく様に飛び回っている。
さらに、キャスターの驚きに満ちたレポートが続く。
キャスター「たっ、只今、上空に浮かぶ建造物に人の姿をした物が、とっ、飛んで行きました。これは、ひそかに噂があった、正体不明の怪物に拮抗する勢力ではないかとの情報が入ってきています。」
まさと「なにぃ!?」
TVには、上空をダークキャッスルに向けて飛ぶ、ミスティック・ミュウらしき姿が一瞬だが、捕らえられていた。
引き続いてダークキャッスルの周りで次々と発生する幾つもの閃光が映し出される。
これは姿は見えないが、ミュウが魔獣を始末していってるに違いない。
まさと「マ、マリンさんっ! ミュウ、スーパーに行ったんじゃ?」
マリン「わ、私にも分からないけど・・・。今のは・・・。」
まさと「出かける時、読めなかった?」
マリン「ううん。その時はそんな事は微塵も。なのに・・・・。」
シルフィー「ミュウ・・・だよね?」
まさと「・・・・・・・ミュウだったよな・・・。」
真悟「一人で乗りこんだって事?」
まさと「ああ・・・・あ、あいつ・・・。なに考えてんだ。くそっ。」
とにかく、これはなにか対処を考えないとまずい。
まず、広江さんに、連絡をつけておかなければ。
運良く携帯が繋がる。
広江『なにをやってる!』
まさと「あっ。ごめん、ミュウが勝手に一人で向かっちまった。」
広江『一人でかっ!? とにかく、今、ヘリの準備をしてる。お前達はそこを動くな。』
まさと「は、はい。でもっ!」
広江『動くな! 頼むから!』
まさと「あ、・・・・・・はい。」
そして、ヘリの到着を待つ。
けたたましいローターの音がアパートの上空まで来て静かになる。ヘリが到着したのだ。
屋上への踊り場で待機してた俺達は、屋上のドアを開け、広江さんを踊り場へ招き入れる。
広江「・・・・戦自が動く・・・そうだ。」
まさと「戦自? 航空自衛隊とか?」
広江「航空自衛隊に、海上自衛隊だ。今、それに合わせて、住民の非難区域が拡大されて、警察はその誘導に追われている。」
まさと「それって・・・攻撃するってことか?」
広江「そういうことだ。現状、城周辺での爆発は起こっていない。ミュウが中に入った可能性はあるか?」
まさと「・・・それは・・・入ったかも。」
広江「まずいな、ミサイル攻撃はすぐにでも開始される。」
まさと「・・・・・い、行かなきゃ。」
広江「行ってどうする?」
まさと「・・・・・・・・・・正直、分からない。中で何が起こってるか分からないし・・・・けど、行かないとっ!」
広江「行くと言ってもな、あの見えない壁はどうするんだ?」
まさと「あれは、多分、切れる。くさなぎで。」
マリン「私でも消せます。」
広江「あの規模がか? ・・・・・・・来たっ!」
真悟「あ。戦闘機?」
遠くで、戦闘機らしいジェットの音が聞こえる。
俺は慌てて屋上に飛び出て、東京湾のほうを見た。
他の者も後を追って出てくる。
ダークキャッスルの周りに居た魔獣は掃討されたのか、姿がない。
後続が出てこないと言う事は、城の外に外敵は居ないと言う事だろう。
ということは、ミュウは間違いなく城の中に突入してる。
魔獣の後続がないのは、内部でミュウが暴れている為、そっちへ魔獣が回っている事を示してると思えた。
まさと「やっぱり、あいつ、中に入ってる。広江さん、攻撃、待った、出来ませんか?」
広江「・・・・間に合わん。もう第一派の発射態勢に入ってる。」
広江さんがそう言ってすぐ、戦闘機から、ミサイルが数発、発射され、ダークキャッスルへ向かって飛ぶ。
まさと「あっ、くそっ・・・けど、効果あるんだろうか・・・・。」
ミサイルは物の見事に、障壁があるらしい空間で、爆発しただけだった。
城には何の影響もない。
広江「・・・・・・・駄目か。」
まさと「すいません・・・・俺、今ほっとしてます。」
マリン「さすがに今のは肝が冷えました。あれが、ミサイル・・・。」
まさと「俺、行きますよ。止めても行きます。」
広江「行ってどうする? どう対処するつもりなのか、それを聞かせてくれ。」
まさと「対処? うーん。」
広江「考え無しで突入するなら容認できないぞ。」
まさと「中の様子を確認してからになるけど、ミュウと合流して親玉を討つか、ミュウを連れて一度脱出するか。かな? ほんと、状況次第。」
広江「そうか。そのつもりならな。しかし・・・今の様子では迂闊に近づけないぞ。近づけば魔獣が出てくるだろう。」
まさと「マリンさんに・・・・あ、一度に運べるのは一人くらいか・・・。」
マリン「そうね。二人も三人も抱えて、思うには飛べないと思うわ。」
まさと「くそっ。どうするかなぁ。なにか、複数名同時に運べて高速で移動できるもの・・・。」
真悟「・・・・・・・あ。」
まさと「ん? どうした。何か知ってるか?」
真悟「あ、うん。俺の入ってる研究室で、高速ボート作ってるんだ。あれなら・・・。」
広江「どんな物なんだ?」
真悟「えっと、水流ジェットを使ったスーパーボートで、最大6人乗りで、300km/h超で走れる・・・予定。」
まさと「よ、予定?」
真悟「一応、通常のテストは出来てるんだけど、最大速のテストを来週やる予定で、まだなんだ。」
まさと「ボートかぁ・・なら、応戦しやすいし、上空からの攻撃の対応に集中すりゃ・・・・。」
真悟「だよなっ。・・・・・あ、そうか、避難してるんだっけ。それじゃ、今、ハーバーには入れないか。倉庫も鍵掛かってる、かも。」
まさと「・・・・・・そん時はぶち破る。」
真悟「・・・おいっ、それはいくらなんでもやばいって・・・。」
広江「・・・・・・・海上警察の高速ボートを借りる手もあるが、的になるだけだろうな。とにかくそのハーバーとやらに行こう。」
まさと「やっぱり超法規的独立愚連隊。」
広江「他に手が無い場合だけだっ。後で、帳尻はつける。」
広江さんは真悟からハーバーの場所を聞いてヘリの着陸できる場所をGPSで調べに戻る。
しばらくして、ヘリから広江さんに手招きで呼ばれたので全員ヘリのほうへ。
広江「なんとかなりそうだ。乗れ。」
まさと「あ、はいっ。みんな、ヘリに乗ってっ。」
ハーバーにつくと、運良く、守衛が今まさに避難し用としているところで、なんとかつかまえる事が出来た。
拝み倒して、倉庫の鍵を開けてもらい、中に入った。
まさと「へぇ、これか・・・。」
真悟「そう。我が研究室の誇る、スーパーボート、SUPERシラトリ12式、だ。」
倉庫の中の船台に波打つような流麗な船体を持ったSUPERシラトリが静かに載せられてあった。
シルフィー「わぁ。」
マリン「ほんと、綺麗な船ね。」
真悟「船体の基本設計は・・・・実は、俺なんだ。へへっ。」
まさと「最高速出したら分解しないだろうな・・・・。」
真悟「しねぇよっ!・・・・理論上は。」
まさと「やっぱ、そのレベルか。」
真悟「だから、それを確認するのが、来週のテストなんだって。」
まさと「そりゃそうか。じゃ、今日に繰り上げって訳だ。」
真悟「そう、だな。よし、出すぞ。前をどいて。」
シラトリを載せた船台が海へ向かうスロープをゆっくりとすべり、シラトリはやがて水面に浮かび始める。
水面に浮かぶ、白い船体。
シラトリとつけた気分が分からないでもない。確かに綺麗だ。
広江「さて、誰が乗る?」
真悟「あ、操縦は、俺がやらないと。まだ、癖が強いんで、他の人じゃ無理だ。」
まさと「じゃ、あと、5人か、俺と、マリンさんと、シルフィーと、ポチ、タマ。か。」
広江「いや、操縦は私がやろう。そのメンバーだと、戻りは彼一人になる。」
真悟「駄目です。辿り着けなかったらどうするんです。俺がやります。」
清美「し、真悟っ。」
広江「君の身を心配してるんだ。残ってくれ。」
まさと「あーもう。
ポチとタマに小さくなってもらえば良い事でしょうが。」
広江「あ、そうだな。・・・ところで私は戻り組か?」
まさと「戻り組です。」
広江「・・・・・はぁ。そうだな。50mmも役に立たないし。」
作戦としてはマリンさんが船体に障壁を張って、高速で、ダークキャッスルに近づき、最も近づいたところで、俺と、シルフィー、猫タマ、犬ポチを抱えて障壁を越えて城の中へ。
真悟と広江さんは安全の為、即時回頭、城から全速で離れる。
そういう段取りになった。
帰りの便は無い。
逃げ出すのなら、ミュウとマリンさんが居ればなんとか逃げられるし、そのまま、攻勢に出るなら、勝ってしまえば後はどうとでもなるので、この場合船は要らない。
万が一、負けてしまった場合。
これは余り考えたくは無いが、乗る者が居なくなるので、そも船の必要なし。
と言う事で、帰りの便はまったく考えない。
シラトリは即時離脱で安全第一に考えてもらう。
ということだ。
シラトリに乗りこみ、エンジンに火が入る。
清美「真悟、気をつけて・・・。まさと君たちも。」
真悟「まかせとけって。」
マリン「ちょっと待って、先に装着しておくわ。」
まさと「あ、そうだな。走り出してからじゃ・・・。」
マリンさんはシラトリを一度降りて、ソーサルブースターを取り出す。
マリン「セットアップ! ミスティック・マリン!」
マリンさんはミュウの時と同じように一度光に包まれ、ミスティック・マリンになる。
そのバニールックで今一度シラトリに乗り込む。
シラトリはゆっくりと水面を滑り出し。徐々に速度を増して行く。
まさと「真悟、こんなもんなのか?」
真悟「まぁ、最初はね。はじめちょろちょろ・・ってとこかな。」
まさと「飯炊きじゃないって。」
真悟「いや、ほんと癖が強くって。じゃ、そろそろ、本気で行くよ。がつんと来るから気をつけて。」
まさと「なに? それこそ徐々に・・・。」
真悟「だから、癖が強いんだよ。最高速出そうと思ったら、がつんと行かないと上がりきらないんだ。我慢してくれ。」
まさと「りょーかい。」
広江「んっ、魔獣が出てきたぞ。」
マリン「障壁、張ります。んっ。」
まさと「こっちを見つけたか、真悟、遠慮無くやってくれ。」
真悟「おーらい!」
突如大きくなるシラトリのエンジン音。後で爆発でも起こったかと思ったほどだ。
次の瞬間、どんと背中を押されたような感覚を残して、シラトリが勢い良く前進をはじめる。
船首がやや持ちあがり、水中へ沈むようなラインだった甲板が水平になる。
そうか、これが本来の走行姿勢なんだ。
まさに水上を飛ぶ水鳥。そんなフォルムだ。
しかし、風の勢いが想像以上だ。
低く伏せてないと、風圧で体を後ろへもって行かれそうになる。
この状態なら、渡された、携帯酸素ボンベをつけていなければ、すごく息苦しいはずだ。
はっきりいって、高速走行中は話す事さえままならなかった。
ボンベをつけたままでは喋りづらいし、走行風と風音でどんなに叫んだって届くはずも無し。
ボンベをはずしたら、息苦しくって喋るどころではない。
高速走行中は終始無言だった。
ときおり、こちらを目指して突っ込んでくる飛行型魔獣は、マリンさんが手にキャノン砲みたいなユニットを形成して、それから出る光球で、次々と撃墜していった。
途中、2、3発、城のレーザー砲が上空をかすめたが、どれも上空ぎりぎりをかすめるだけで、あたりはしなかった。
ひょっとしたら、水面ぎりぎりへは打ち出せないのかもしれない。
それ以降はレーザー砲は静かになった。
ダークキャッスルは既に着水していて、下半分が海の中に沈んでいる。
四方に突き出していた、爪のついた大きなアームが展開、水面の位置まで下がってきて、四方に踏ん張った形になってるように見える。
そのアームのすぐ外が障壁、バリアーが発生している位置になる。
良く見ると、障壁の内側の水面は波打つことなく、極めて平坦な状態で、海に段差が出来ているように見える。
その段差に沿って周回するような体制にシラトリを持っていくと、真悟はこちらを向き、行け、とばかりの雰囲気で頭を動かす。
まさと(えっと、マリンさん。このまま離れます。)
マリンさんは俺の意思を読んで、頷く。
両腕に俺とシルフィー、肩に猫タマと犬ポチ、といった形で、俺達を抱え、ミスティック・マリンが飛びあがる。
俺は、すぐさまくさなぎを呼び出す。
まさと「まず、俺が切ってみる。」
マシン「ええ。」
くさなぎを障壁に向けて一振り。
障壁の一部が崩れ落ちる。
崩れ落ちた障壁の断面がじりじりとぎらついて見えるので、そこだけ障壁が無くなっているのが見て取れた。
しかし、それもじわじわと狭くなって行く。障壁が元に戻ろうとしている。
マリン「んっ!」
それを見て隙間の大きいうちに中へ飛びこんだ。
背後でびしっと元に戻って見えなくなる障壁。
障壁の外を見ると、シラトリは既に離脱コースに入っていて、広江さんが獣で魔獣を牽制しながらどんどん離れていく。
まさと「よし。シラトリはうまく離脱できそうだな。さて。どこから行くか。」
マリン「やっぱり、玉座、かしら?」
まさと「そうだなぁ。アイツなら真っ先にそこへ向かうだろう。向こうさんだって、俺達が来てるのは気付いてるだろうし。やっぱ、玉座だな。」
マリン「そうね。じゃぁ、壁伝いに上に向かうわ。」
まさと「うん。行ってくれ。」
四隅に張っているアームの一本の影に隠れる様に玉座前のテラスになっているところを目指す。
次々と飛行型の魔獣が襲ってくるが、シルフィーの火球がそれを炭に替え、マリンさんのソーサーが意思を持つように飛びまわり両断して行く。
まさと「あの円盤・・・。」
マリン「そう。思った通りに飛ばせるわ。いいでしょ?」
まさと「ああ、ばっちり。」
そしていよいよ、テラスの淵に差し掛かった。
ミュウが来ている割には妙に静かだ。かなり嫌な予感がする。
まさと「マリンさん・・。」
マリン「ええ、気をつける。」
少し速度を落として、淵から上に上がる。
その時、突然、こちらに向かって、水平方向に火柱が走る。
マリン「くっ!」
寸でのところでそれをかわし、マリンさんは俺たちを無事テラスの上に運んでくれた。
飛び降り、戦闘形態になる、タマと、ポチ。
火柱が来た先に人影が2つ。どちらも女らしい。
女1「ようやく来たね。」
女2「ほんと。遅いよ。」
まさと「なに!?」
一人は、赤毛で動きやすそうな服に、所々メタルプレートが張りつけられた物を着込んでいる。
もう一人は見た目、ミスティックとか、ソーサルブースターを着けたようなつるんとした姿。
赤毛のほうが手の平の上で、赤々と炎を燃やしつづけている。
さっきの火柱はこいつか。
この二人は一体・・・。
女1「あたしは、新生魔導三人衆のサファイア。」
女2「同じくわたしはエメラルド。」
サファイア「あ、あんた達の事はよく知ってるから自己紹介しなくていいからね。」
まさと「魔導三人衆? 新生!?」
サファイア「そうそう。ルビーとパールが抜けちゃったからねぇ。あたしとエメラルドが入ってまた三人衆ってわけ。」
エメラルド「そうそう。」
マリン「こ、この二人・・・・そんな馬鹿な・・・。」
マリンさんはこの二人から何かを感じ取ったのか動揺を隠せない。
まさと「マリンさん?」
マリン「この二人から・・・ミュウと・・・シルフィーの・・・・いや、そんなわけないわ。シルフィーはここに居るし。」
まさと「な、何?」
サファイア「はいはい。混乱してるみたいね。教えてあげて良いのかな?」
エメラルド「そうだね。わかっても平気かも。」
サファイア「私達は作られた存在なのよ。ミュウと、シルフィーの情報を元にして。」
まさと「なっ!? そんなこと・・・。」
サファイア「嘘は言ってないよ。」
マリン「そうか。そうなのね、この二人はマーガレットみたいなもの。」
まさと「マーガレット? そうか! そういうことか。人格を真似て手っ取り早く・・。」
サファイア「そういうこと。納得した? じゃ、悪いけどそろそろ行くわよ。」
まさと「あっ。」
俺は慌ててみかがみの盾を出し、くさなぎを握り直す。
マリン「まさとさん、あなたは中へ。ここは私とシルフィーで何とかするから。ポチ、タニア、まさとさんと中へ!」
まさと「わ、分かった!」
ポチ「はいっ!」
タマ「にゃっ!」
驚くような早さでエメラルドが駆け寄ってくる。
サファイアもエメラルドほどではないが、移動しながら火炎を放つ体制に入っているのが分かる。
シルフィー「ボルテリア!」
シルフィーが放射状に電撃系の魔法を放つ。
スピードに対抗するのに、足の速い電撃系を牽制に使ったのか。
それを避ける様に、サファイアとエメラルドは上空へ飛ぶ。
マリン「今よ! 行って!」
まさと「おうっ!」
サファイアとエメラルドが飛びあがり、空いた空間をぬって、俺は、玉座の間の入り口に向かってダッシュする。
ポチ、タマもそれに続く。
サファイア「あっ! させるか!」
マリン「それはこっちの台詞よっ!」
サファイアが上空でこちらに向きを変える。
が、その目の前をマリンさんのソーサーがかすめる。
サファイア「ちっ!」
マリン「あなた達の相手は私達よ。」
シルフィー「行かせないからね。」
エメラルド「へぇ・・・。」
俺と、ポチ、タマは、その間に玉座の間に飛び込めた。
サファイア「じゃぁ、せいぜい、頑張って相手してよね。」
エメラルド「ほんと。すぐに潰れないでね。」
サファイアとエメラルドは口元に笑いを浮かべると、マリンさんと、シルフィーに飛びかかって行く。
玉座の間に入った俺達をサイファーとダイアが悠々と待ち構えていた。
ダイア「ほんと。遅かったねぇ。」
まさと「何!?」
そして、ようやく状況が理解出来てきた。
玉座の間の正面、上のほうに何かが吊るされている。
いや、ミュウだ!
ミュウ「・・・・・・・ご、ごめん・・・・・。」
まさと「ぐっ。」
その状況にどう打って出るか、一瞬たじろいで立ちすくんでしまった。
サイファー「本当に面白いね。君達は。どうしようもないくらいに・・・。」
まさと「なにぃっ!」
サイファー「どういうつもりか知らないが、無茶をするにも程がある。ソーサルブースターごときでは太刀打ちできないという事に、いい加減に気付いてもいいと思うのだけどね。」
ダイア「こんなもの、こっちで簡単に操作できちゃうのに。もうちょっと考えないと早死にするよ。」
まさと「え・・・あっ!」
今気がついた。
ミュウを拘束して、吊るしている物、それがなんなのか。
ソーサルブースターだ。
ミスティックになっている時のスーツが変形して、ミュウを拘束してるんだ。
そんな、外部から制御できる物だったなんて。
ガルウ「驚くのも無理は無いがね。」
石柱の陰から老人が現れ、ニヤニヤしている。
ミュウがこうやって捕まっている状況じゃ、下手に手出しできない。
まさと「く・・・くそっ。」
ガルウ「いいかね。ソーサルブースターの基礎理論は、完成こそさせたのはパールだが、元々はこの私、ガルウが考えた物なのだよ。自在に操るなど簡単な事なのだよ。」
そういってガルウは片腕を上げる。
とたんに、ミュウを包んでいるスーツがぎゅっと締め付けに掛かる。
ミュウ「ぐっ!・・・・あぐぅ・・・・。」
ガルウが腕を下ろすと、締め付けが緩む。
まさと「そんな・・・パールが創り出した物じゃなかったのか・・・・。」
ガルウ「ふっふっふ。浅はかだねぇ。パールに魔導科学を教えた人物が誰かを考えてみれば、わかりそうな物なのだが。」
まさと「そ・・・・あ。パールは・・・・。」
ガルウ「そうだよ。彼女は、サイファー様に拾われ、そして、私の元で、魔道科学を学んだのだよ。」
まさと「・・・・・・くそっ!」
ミュウ「まさとっ! あたしのことはいいから! あきらめちゃ駄目っ!」
サイファー「ミュウ・・・もう遅いんだよ。全ては動き出した。この世界を私達のものにする計画はもう誰にも止められないんだよ。」
まさと「なっ、そ、そんな事を!? ・・・・・あ。」
そしてようやく気がついた。
前にここに入ったときにシルフィーが捕らえられていた、この城の動力源。
この玉座の間の奥にある、装置の事に。
そこには、また、誰かが捕らわれていた。
ガルウ「ああ、気がつきましたか。彼女はルーン大聖堂の神官。パルティアさんですよ。あなた達がシルフィーさんを連れて行ってしまったので、代わりに入っていただきました。さすが神官。動力の調子が良いですよ。」
まさと「な、なんだ・・・と・・・?」
ルーン大聖堂といえば、俺に覚醒の儀を受けさせる為にシルフィーが行っていたところじゃないか。
そこの神官が代わりになっただなんて・・・・。
人質が二人になってしまった。一体どうすりゃ良いんだ。
ポチとタマも動く事が出来ずに傍で低く唸り声をあげているだけだ。
そうしている間も、外の激しい戦いが続いている。爆音が鳴り止まない。
まさと「世界を自分達の物にするって・・・・言ったよな? 進撃もせずにそんな物・・・。本当にそれが目的なのか?」
サイファー「そうだ。闇に属する者の楽園を作る。他の者を全て排除してね。」
まさと「出来るものか・・・。」
サイファー「いや、出来るよ。この星をマジェスティックスで満たせば良い。そうすれば、他の者は全て排除できる。勝手に死に絶えてくれるんだからね。もちろん、進撃はしない。だって、そんな事をしたら、私達が住む大地が汚れてしまうじゃないか。」
まさと「そ、そんな事をすれば、あんただって・・・。あ、アスフィー。あんただって死んじまうだろうがっ!」
サイファー「は・・・・は・・・はははははははっ。何を言うのかと思ったら。」
ガルウ「いや、ほんとにお笑いですな。」
まさと「な、なにがだっ!」
ガルウ「いいですか。サイファー様は既にマジェスティックスの中でも平気な体なのですよ。ご心配には及びませんよ。」
まさと「なに!?」
ガルウ「そういうわけです。そろそろ、表のほうもかたが着きそうですし、あなたにもそろそろ覚悟していただきますよ。」
まさと「え?」
慌てて、後を見る。
サファイアの放った爆炎が間近で起こり、飛ばされたシルフィーがテラスの縁に叩き付けられ、崩れ落ちる。
まさと「し、シルフィーーーーーっ!」
ガルウ「ほぉら。」
それに気を取られたマリンさんが、目にもとまらぬ早さで飛びまわるエメラルドに翻弄され、どんどん傷ついて行く。
マリン「うっ・・・・・あっ・・・・ぐっ!」
サファイア「エメラルド、遊んでないでそろそろ決めちゃえば?」
エメラルド「そうだね。そろそろ、決めないと怒られちゃうね。」
タマ「ギニャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
ポチ「あ、よせ!」
見かねたタマがエメラルドに向かって行く。ポチもそれを追う。
俺は、打つ手も無く、ただ、状況を見ているだけしか出来なかった・・・。
ダイア「所詮、この程度か。他愛ないね・・・・・。」
ガルウ「さて。君の相手は・・・・彼女です。」
ガルウが再び腕を上げる。
すると、ミュウを包んでいたスーツが、元の通常のものになり、ミュウが、俺の目の前に、降りてきた。
ミュウ「・・・・え?」
まさと「あ。なに!?」
ミュウ「う、あっ!」
突然、ミュウが俺に拳を叩きつけてきた。
とっさの事で慌てたが、なんとかそれをかわす。
まさと「ミュウ!」
ミュウ「ち、ちがう! あたしじゃない! 勝手に! あっ!」
今度は、回し蹴りが襲ってくる。一体どうなってるんだ!
ガルウ「言ったでしょう。自在に操れると。」
まさと「くそっ、そういうことかっ! ミュウ! なんとかならないのか!?」
ミュウ「だめっ、勝手に動いて、止められない! ・・・・・・逃げてっ!!」
表ではマリンさん達がサファイアとエメラルドに翻弄されつづける。
そして、とうとう、サファイアとエメラルドが合わせて放った、電撃をまとった火球にマリンさんが捕らわれてしまった。
それをかばう様に立ちはだかった、タマと、ポチをも捲き込んで。
ポチ「ぐぅっ!」
タマ「ぎにゃっ!」
マリン「うあぁっ!」
そして、マリンさん達はテラスの縁を乗り越えて、向こう側へ落ちてしまった。
それに気を取られた俺に、ミュウの蹴りが入る。
まさと「ぐっ。」
特殊な技ではなく、ただの蹴りだったので、大事は無かったが、その衝撃で、俺はくさなぎを落としてしまった。
俺が態勢を立て直そうとしている間に、落としたくさなぎをミュウが拾う。
ミュウ「ちょ・・・何を!」
まさと「う・・・・・・。」
ミュウはくさなぎを両の手で握り、俺に向かって斬りつけてくる。
ミュウ「う・・・・・・あ・・・・・・まさと! 早く・・・逃げ・・・くっ。」
まさと「うおっ・・・・んなこといったって・・うわっ!」
俺は、みかがみの盾を使って、なんとか、くさなぎを制し、じりじりと後へ下がる。テラスに向かって。
ミュウ「くさなぎを消して! 早く!」
まさと「そっ、それが、さっきから消そうと・・・・けど、消えないんだ!」
ミュウ「な、なんで・・・・よっ。くっ。」
そうだ。くさなぎを引き抜いたのは、ミュウだ。
だから、ミュウが持っている間はくさなぎは消えない! そういうことか!
ガルウ「ああ、これは面白いですね。お二人ともその剣の持ち主でしたか・・・これはいい!」
まさと「くそっ! よくねぇっ!」
やがて、テラスの縁まで辿り着いてしまい、縁に当たった瞬間、俺の態勢が崩れ、隙が出来た。
その隙に容赦無く、操られたミュウの剣先が滑り込んでくる。
ミュウ「・・あっ! やっ!」
まさと「うぐぁっ!」
避けられなかった。
俺は、どてっ腹にくさなぎを突き立てられた。
俺の体を突き抜けるくさなぎ。
まさと「う・・・・・・ぐっ・・・・・・ぅ・・・・・・・。」
ミュウ「!」
ガルウ「終わり・・・ですね・・・・・・。」
ガルウが不気味に笑う。
ミュウ「ぅああああああぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
俺は、痛みと苦しみで声も出せず、動く事も出来なかった。
絶叫するミュウ。
そのミュウの手のほうへ向かって、俺の体から溢れ出た血が、どんどんと伝って流れて行く。
失血で、意識がだんだんと遠のいて行く。
ミュウ「こっ・・・・こん・・・な・・・・いやだっ・・・わぁぁぁぁっ!」
ガルウ「・・・・・・・・・最後です。」
ミュウ「あっ!」
まさと「ぐぁっ!」
ミュウの体が勢いよく前へ突き出されてくる。
さらに深々とくさなぎが俺の体に押しこまれ、その勢いで、俺はテラスの外へ押し出された。
弾みでミュウの手がくさなぎの柄から離れ、くさなぎはようやく、ゆっくりと掻き消えて行く。
ミュウ「まっ・・・・まさとぉーーーっ!」
ミュウが俺を拾い上げ様と手を差し出すが、俺はそれをつかみ返す事も出来ず、重力に捕らわれ、落ちて行くしかなかった・・・・・。
ミュウ「い・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー・・・・・・・。」
いつまでも、ミュウの絶叫が小さくなりながら聞こえつづけた。
俺は、落ちて行く途中で、意識を失った。
俺は・・・ここで、終わるのか・・・・・・・。何も出来ずに・・・・。
テラスでは、ミュウが力なく座り込んでいた。
ミュウ「あたしが・・・・あたしのせいで・・・みんな・・・・・嘘・・・だよね・・・・・・こ、こんなの・・・・・・・・・・・・・・。」
その傍にサファイアとエメラルドが余裕のポーズで立つ。
サファイア「・・・・・弱い者は負ける。それだけのことね。あんたも覚悟しなさい・・・・。」
やがて、俺は、今一度意識を取り戻した。何者かに支えられている感覚に気がついて。
もう、目がよく見えない。目の前の人物が誰なのかはっきりと分からない。
???「・・・・・・・私がぐずぐずしてさえいなければ・・・あなただけは、あなただけは死なせないからっ!」
どこかで聞いた事のあるような声だった。
だが、誰なのかももう思い出せない。
傷の痛みの感覚さえない。
目の前がどんどん暗くなって行く。
そして俺は再び深い闇の中へ落ちていった・・・・・・・・・。
もう二度と覚めないかもしれない眠りの中へ・・・・・・・・・・・・・・。
俺は。
死んだ、のか。
ここで。
そう思った時、目の前に誰かが居るのに気がつく。
母さんだ。
俺が4歳の頃、突然の事故で先に逝ってしまった母さん。
その母さんが目の前にいる。
俺を迎えにきたのか。
しかし、母さんはひどく怒っていた。突き放すような目で俺を責めていた。
確かに、俺は出来る事をやったとは言えない。何も出来ないまま死のうとしてる。
そして、もう一人傍に誰かいるのに気がついた。
ミュウの母さん、フレイアだ。ティラから地球へ戻された時に見た。
フレイアはひどく悲しんでいた。俺を哀れむ様に。そして、自分を責めるように。
目の前がぱっと明るくなる。
二人の姿は消え、誰かが泣きじゃくる声が聞こえてきた・・・。
いつか夢で見た、赤毛のちっちゃな女の子。
母親をひっきりなしに呼び、泣きじゃくる。
女の子の首に見覚えのあるものが下げられているのに気がつく。
りゅうのまもり。
この女の子は、ミュウ?
病気で母を亡くし、悲しみに捕らわれミュウなのか?
そのちっちゃなミュウは延々と母親を呼び続け、いつまでたっても泣き止まない。
見かねて俺が肩に手をやると、ゆっくりと泣きやみ、そして・・・・・。
ミュウ「・・・・・・・・・・・・・・・まさと。」
俺の名を呼んだ。
なぜだ。
この頃のミュウは俺のことなんて知らない。
そこで世界が時が凍った様に固まり、ゆっくりと暗くなって行く。
そうだな。
ミュウは、俺が死んだことを今、きっと、悲しんでいるだろう。
自分の腕を抑さえきれなかった事にひどく後悔しているだろう。
そのことを自分に非があることとして、自分を責め続けていることだろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
いいのか?
アイツをそのままに死んじまっていいのか?
俺は。
俺は!
俺はっ!
俺は死ねるものかっ!!
そう思った時、目の前がぱっと明るくなり、俺は目を覚ました。
まさと「う・・・・あ・・・。」
俺はどこか見覚えのある場所に寝かされている。
そうだ。これは、あの医療装置の中だ。
???「あ・・・・・・・。」
誰かが俺を覗きこむ。
パールだ。
そして視野の端の方に見知った小さなものが見えた。
ファルネ。
ティラに居た時、玉座の間で、目の前で俺達をかばい消えてしまったファルネがそこにいた。
それが、幻でない事を確認したくて、手をファルネのほうへ持っていく。
ひどく腕が重い。
ファルネのほうがそれに気がついたのか、俺の指先に、そのちっさくて細い腕を絡めてくる。
おぼろげではあるが、感覚はあった。
まさと「よか・・・た。無事・・だったんだ・・おまえ。」
パール「まだ・・・動かないほうが良いわ・・・。」
まさと「ああ、うん・・・。」
まぶたが重くなってくる。
パール「もう大丈夫よ。けど、もう少し休んだほうが良いわ。回復しきってないから。」
まさと「あ、そうだ・・な・・・。」
俺は再び闇の中へ。
しかし、今度は、自分が眠っているのだという感覚はあった。
俺は生きてる。
それだけで今は充分だった。