第5話 闇の力、光の力 #1 魔城降臨

先日の遊園地ドリーミーランドの温水プール等での騒動は、アニマルエリアのワニや小動物が逃げ出した事件として処理された。

まさと「ワニ・・・ですか。白かったよ。確か。」
広江「ああ。白ワニさんだ。」
まさと「・・・・・なんだかなぁ。」
広江「まだ、全て公表できる段階でもないしな。そういうことになった。事件を目撃した人の所へは順次高砂さんが説明に回ってくれている。むやみに他言しない様にと。」

朝、広江さんが俺のアパートにやってきて、今、作戦会議と言うか。意見調整中と言うか。
ティラにまつわる事件は、文明の差異、事件の特殊性から、現状、表沙汰にはしない。隠せる間は隠し通し、隠密裏に解決を図ろう。
地球圏的にはそういう判断になっているらしい。
マリンさんがこっちに来た事で、また新たな情報も入ったことだし、これからのやりようというのも良く考えておかないとな。
実際、そのやりようの部分で、国連等への情報提供の為の招聘をという話しもあったらしいのだが、転送相次ぐ日本から離れさせるわけに行かないと、招聘は保留になり、こちらが出した情報のみが報告されている形だそうだ。
で、こっちのやりようの話しだが、大型移送艇ホエールは、通常航行ではこっちにつくのは半月先になるらしい。
その為、急いで、ホエール自体を転移して、数日中にこっちへこられる様、宇宙空間を地球に向けて航行中の艇内で、パールが頑張って調整中。
その足がかりとして、座標マーカーを持ってマリンがこっちに来たのだという。
転送装置は、今のところようやく生物を送っても平気な段階になったところで、無機物なマーガレット、そして、生き物であるマリン等といった、順次テストを行っても居る、と言うところらしい。
ホエールと言うような大きな物を転送出来るようにするのにもう少し時間が掛かるという事だ。
昨日からその座標マーカーは作動中。
見た目、ピラミッド型のインテリア小物からアンテナが生えたような形をしている。
このマーカーの出す波長を手がかりにより正確な転送を行おうという物だ。
あと、通信機を持ってきていたのだが、これは使えなかった。
どうやら携帯電話の電波に負けるらしい。
これで、綿密に作戦を練ろうと言う狙いだったらしいのだが。
考えてみればパールは今の携帯電話を知らない。これは致し方ないところか。

まさと「あと・・・これなんですけど、携行してて良いものかどうか。」

マリンさんの持っているナイフの事だ。
刃渡りは15cmを越えている。どう考えても法に触れそうなのだが。

広江「ん? 明日には身分証が出るから平気。」
まさと「・・・・・・ご、豪快な。」
広江「必要な物だろう。何とかしなきゃいけない物は何とかするさ。」
まさと「うーわー。超法規的独立愚連隊化・・・・してません?」
広江「そこまではいってない。困る事があったら問題になる前に先に言ってくれ。何とかする。」
まさと「こ、心強いっす。」
広江「ああ。で、身分証に貼付する写真を撮りに来たのだ。マリンさん。こっちへ。」
マリン「あ、はい。」

なんという手際の良さか。
まぁ、ミュウにしろマリンさんにしろ、地球の住人ではないので、身分証といっても半ば偽造に近い物なのだが。
何せ、国籍、という物が無い。
こういったところは、広江さんの采配に感謝したいところだ。
そうでなければ、社会の裏舞台にレッツゴーなのだから。

広江「で、今後だが。そのダークキャッスルという城を探し出して、大事になる前に何とかする方向になると思うが、何か、決定打とも言える策はあるのか?」
まさと「そうですねぇ。手がかりとしてはやっぱ電磁波の集中してるところって事でしょうけど。」
マリン「パールによると、ダークキャッスルは、電波や光の波長を歪曲させる事が出来るということです。参考になりますか?」
まさと「それって、見えないし、レーダーにも引っかからねぇってことじゃん。」
広江「そうだな。見つけるのは容易ではないか。」
まさと「やっぱり、ホエール。パール本人の到着待ちかな。アイツがくれば策を何とかひねり出してくれると思うんだが。」
広江「そうなるか。では、ホエールとやらが到着するまでは、今まで通り、電磁波に注意して、対症療法的に善処するしかないな。」
まさと「それか、考えたくは無い事だけど、こちらからは何も出来ないとたかを括って、城自体をどこかに固定して姿を現してくれると、尻尾は掴みやすくはなるけどな。」
広江「それは余り考えたくは無いな。パニックが起きる。」
まさと「だよね。一長一短。まぁ、次にダイアを見かけたらしっぽを握って放さない様にでもするか。」
広江「そのダイアというのの容姿を教えてくれないか。手配書を作成したいから。」
まさと「あ、そうだなぁ。背格好は、丁度シルフィーぐらいで・・・・・。」
シルフィー「なぁに? ダイアの写真?」
まさと「ああ、手がかりをつかむ為に必要なんだ。」
シルフィー「んー。今の写真を使えば出来る・・・・かな?」
まさと「え、さっきのって、ポラロイド? あ、そっちの写真って、どういうもの?」
シルフィー「うん。マジェスティックスで紙の色を変えさせて作るの。」
まさと「あ、じゃぁ、ポラロイドのフィルムに光かなにかの魔法でイメージを焼きつけるってことが・・・。」
シルフィー「うん。」

シルフィーはさっきから出来あがったマリンのポラロイド写真を眺めながらいう。

まさと「あ、じゃぁ、試しにやってみてくれる?」
シルフィー「はぁい。」
広江「あー、つまり・・・。」
まさと「まぁ、念写・・・・みたいな物ですね。」

シルフィーにポラロイドカメラを渡す。
シルフィーは両手をカメラにかざし、ぶつぶつと呪文を詠唱している。
なんか、見た目も念写っぽい。

シルフィー「・・・・・できた・・・・・かな?」
まさと「ん・・・・。」

レンズを塞いで、感光しない様にしてからシャッターを押してフィルムを取り出す。
出来あがった写真にはぼんやりとだが、ダイアらしい姿が写り込んでいた。

まさと「おお、すげっ。これで充分じゃ?」
広江「ああ、こういう娘か。角があるのか・・・・うん、これでいけるだろう。しかし、凄いな。」
シルフィー「ほんとは、器に魔法を掛けてそれで撮るものに向けて写すんだよ。それならはっきり写るの。」
まさと「ああ、あの、ミュウの恥ずかしい写真とか。そうやって撮ってたのか。」
シルフィー「そう・・・これ。」
ミュウ「だっ、出さないでっ。もう。」
まさと「写真といえば。あのエステティック・ミュウを写真に撮って残しとくべきだったかなぁ?」
広江「なんだ。そのエステティックというのは。」
まさと「あ、ほら、俺が最初に任意同行で警視庁行ったときに、ストレートにしたミュウが来たでしょ? あれ。」
広江「ああ、あれか。なかなか可愛いかったな。」
シルフィー「できるよ。んー・・・・・・・・・・はい。」
ミュウ「あ、もう。勝手に〜。」
まさと「・・・・うぉっ。」

出来あがった写真を見る。
と、俺とそのエステティック・ミュウとのキスシーンが写っていた。シルフィー・・・よりによってこれかい。
誰にも見せず慌ててポケットにしまう。

ミュウ「な、何っ?」
まさと「いや、見たら卒倒するからやめといたほうがいい・・・・。」
マリン「ふふっ。」

あ。またマリンさんにはばれたな。

ミュウ「写ってるのあたしだよ〜。見せてくれたって良いじゃない。」
まさと「あー・・・・・ほれ。」
ミュウ「うがっ。」

他に見られない様にこそっとミュウに見せてすぐさまポケットに戻す。

ミュウ「は・・・・ははは。誰にも見せないでね。」
まさと「ああ。見せられるかい。」
広江「さて。私は、広夢のところに一度顔を出して署に戻る。」
まさと「あ、はい。」

広夢さんのとこなぁ。また、広夢さんとか、バイト達とか恐縮しまくらないといいいけど。

広江「そう心配そうな顔をするな。新作を分けてもらいに行くだけだ。」
まさと「新作? 今度の? いや、あれって・・・。」
広江「どういうものかは知ってる。広夢の作った物に興味が湧いた。絵が綺麗だったしな。」
まさと「そ、そうなんすか。いや、広夢さん、喜ぶと思いますよ。多分。」

今の広江さんなら、恐縮とかは危惧でしかないか。

ミュウ「あ、こんな時間か。あたしたちもそろそろバイト〜。」
まさと「ん? ああ、マイ・ティーか。」
シルフィー「うん。」
マリン「あ、あとで見に行くね。」
ミュウ「あは。はずかし。うん。お客さんは少ないからいつでも〜。」

と言う訳で、部屋に残ったのは俺と、マリンさんと、のうのうと朝寝中のポチ。
といった具合に。
タマはしばらく真悟のとこに世話になる事になった。
タマも今までの恩返しに何か手伝いたいといったとこらしい。
数日したら、こっちにきて一緒に行動する予定になってる。
まぁ、のんびり恩返ししてくれば良いさ。

まさと「あ、そうだ。カイゼル・・・いや、親父さんの調子はあれからどうなの?」
マリン「良いわ。無理は出来ないみたいだけど、ホエールの中をうろうろして、パールにいつも怒られてるわ。」
まさと「ならよかった。そうか、ホエールで一緒にこっち向かってんだな。」
マリン「ええ。あと、村の主力級の面子は皆乗ってるわ。セントヘブンの人は向こうを空けっぱなしにも出来ないんで残ったけど。」
まさと「へぇ、竜崎とか、レーア王女とかは残ったってことか。」
マリン「あっちの勇者様は来たかったらしいんだけど、城を守るべきだって、結局残る事にしたらしいわ。」
まさと「そうか。あいつ、あれからもちゃんと考えて動いてんだな。また見直したり。」
マリン「そうね。」
まさと「ところで、それ、ソーサルブースターって量産はじめたの?」
マリン「ううん。これ、ミュウが持ってるやつの前の型。改修品だって。あともう一つ、一番はじめに作ったのをパール自身が持ってて、合計三つしかないはずよ。使ってるコアを作るのが手間なんだって。」
まさと「そうなんか。ブースターつけた一団でも出来れば心強いかと思ったけど、そうもいかないんだな。」
マリン「そうみたいね。あ、そうそう。セントヘブンから一人乗ってたわ。確か、リーヌ。」
まさと「へ? いや、それって、危険じゃないか。あの子は戦ったりは・・・。」
マリン「あなたの身の回りの世話をしたいんだって。かいがいしいわよね。」
まさと「はぁ、そんな事の為に。いい子だよなぁ、あの子は。」
マリン「それがねぇ。セントヘブンのメイド全員乗りこむなんて話しになりかけて。」
まさと「なにぃ?」
マリン「いくらなんでもそんなにメイドが押しかけたら逆に迷惑ってことで、リーヌが代表で乗ったらしいのよ。」
まさと「うーわー・・・・。」
マリン「英雄熱覚めやらず、ね。」
まさと「覚めるどころか拍車掛かってない?」
マリン「かもね。あ、さっきの写真見せて。」
まさと「え。あ、これ? はい。」

まーなんだ。マリンさんにはこういうのは隠せないし、見せるのも仕方ないか。
マリンさんはうれしげに写真に見入っている。

まさと「なんか恥ずい・・・。」
マリン「ん? この時のこれは、気の迷い?」
まさと「えっ。あ、いや、それは無いな。」
マリン「じゃぁ、これは大事に持っててあげて。」
まさと「そうだな。そうする。」
マリン「あと・・・大事な話しをすると。」
まさと「どきっ。」
マリン「ふふ。悪い話じゃないわ。私もミュウと同じぐらいあなたの事が好きって事だから。」
まさと「あ、あのーっ。お義姉さん?」
マリン「そういう時だけそう呼ばないで。」
まさと「いや、けど。俺、今プロポーズされてる気分なんだけど。」
マリン「まぁそうね。」
まさと「そうねって・・・。」
マリン「もし仮に、今、あなたが私を抱きたいって言ったら、抱かれるわ。それくらい好き。」
まさと「ちょ、ちょっとちょっと。」
マリン「けど、それ以上にミュウには幸せになって欲しいの。あなたを独占したいって気持ちは、それで消えちゃうの。だから、ミュウの事よろしくね。と言うお話し。・・・・悪い話ではないでしょ?」
まさと「あー。うん。それならわかる。あー、びっくりした・・・・・。」
マリン「けっどっ。」
まさと「え、まだ続く?」
マリン「うん。あなたと仲良くして居たいのは変わらないわよ。だから甘えたい時は甘えて。そのくらいは応えてあげられるから。」
まさと「あ、やー。やっぱり、プロポーズだね。これ。」
マリン「そうね。ミュウに聞かれたら、多分、ひっくり返って笑うでしょうけど。」
まさと「ぷ。そ、そうだよなぁ。怒ったりするもんなんだけどな。普通。」
マリン「それとね。」
まさと「わ、まだ、あるの?」
マリン「あるの。あなたを好きな理由をちょっとだけ、ね。」
まさと「あ、聞いとこうかな。興味ある。」
マリン「タニアと同じなの。」
まさと「・・・・・・うーわ。猫レベルっすか俺は。」
マリン「あは。まぁ、可愛いと言う点ではそうね。まぁ、気が楽なのよ。私の能力のこともあって。」
まさと「あ、読んじゃうやつ? けど、俺のは読めちゃう、よね? タマは読まずに済むから。ってことだったと思うけど?」
マリン「怒らないでね。・・・・・・・読むのが怖くないの。表裏がそんなに無いから。」
まさと「ぅぐあぁ。」
マリン「ごめん。」
まさと「い、いや、いい。否定は出来ないし。そーか、そりゃ、マリンさんにとっちゃ、気が楽なわけだ。」
マリン「しょうもない理由で、ごめんね。ほんとに。一緒に居て気が楽だって言うのは大事だから。ね。けど、それだけじゃないからね。もっといっぱいあるんだけど、キリが無いから。」

マリンさんは中腰になって俺の頭を胸に抱えてきた。

まさと「わ。」
マリン「好き。大好き。だから、ミュウの事これからもお願いね。」
まさと「そ、それはわかるんだけど、あ、あの、この状況まずいっす。こんなことしたら襲われるよ、普通。」
マリン「いいわ。その気があるなら。でも、しないんだよね。そう言うとこも好きよ。」
まさと「・・・・・・・なんだかなぁ。や、不器用だってのは認めるけど。」
マリン「うふふ。ね。昨日はそんなに眠れてないでしょ?」
まさと「あ、まぁ、騒いでたしね、遅くまで。」
マリン「少し休んで。ひざまくら、してあげるから・・・。」
まさと「えー。けど。」
マリン「甘えて、欲しいな。眠ってる顔、見たいな。はじめて会った時みたいな。」
まさと「じゃ、そうします・・・。ってあれ、気絶してたんだって。」
マリン「ふふ。そうね。じゃぁ、また気絶する?」
まさと「それは勘弁して・・。」

マリンさんがベッドの上で、壁にもたれるように座る。
そしてそのひざの上に俺の頭。
なんだかすげぇ恥ずかしい構図なんだけど、ひどく落ちついた。
今までもそうだったけど、マリンさんと居ると、翻弄されたりはするんだけど、すごく落ち着く気がする。
マリン。マリーン。海。か。
そうなのか。
マリンさんは海なのかも知れない。
海の上で浮かぶと安らぐ事がある。
その安らぎと、今のそれが同種の物なのにやっと気がついた。

マリン「・・・・そうよ。マリンは、海の様に心の広い娘になるようにって・・・。」
まさと「あ、そうなんだ。じゃぁ、ミュウは・・なんなんだろ。」
マリン「私達の国の言葉で、新しく創り出すとか、そういう意味、よ。」
まさと「そうか、むちゃくちゃ前向きな名前だ。うん。」
マリン「柾人っていうのは?」
まさと「あ、俺? まぁ、正しい人って事らしい。一説によると、字を間違えてつけたって噂もあるけど。征の字と。征人でまさとと当て字にしたがったって話しを聞いた事はある。こっちは遠征とか、前向きに進んでくような、そういう意味ね。」
マリン「ふぅん。・・・・・前向きカップル?」
まさと「は・・・・・・うあはははは。そう言われりゃそうか。やりたいように突き進んでるだけかもだけど。」
マリン「いいんじゃない? 私はいいと思うわ。方向を間違えなければ。」
まさと「だね。せいぜい方向を間違えない様にするよ。」
マリン「ん。じゃぁ、そろそろちゃんと休んで。私はいいから。」
まさと「ん・・・そだな。眠くなってきた・・・。」
マリン「おやすみなさい。」

夢を、見た。
青い、青い海の中を、ゆっくりと、ゆっくりと浮き上がって行く夢を。
時折、潮の流れが体をゆするが、それさえも心地良い、たゆたう、そんな言葉が似合う夢だった。
やがて、水面が近づき、海上に顔を出す。日の光がまぶしい。
そこで、目が覚めた。

ミュウ「あ、起きた。」
まさと「あ、はよぉ。」
ミュウ「良く寝てたね〜。目、腐ってない?」
まさと「何時?」
ミュウ「んっと。9時。そんなに疲れてた?」
まさと「もうそんなか。いや、まぁ、昨日あんまり寝て無かったしな・・・。ん?」


俺はまだ、マリンさんに膝枕してもらったまま、眠っている。
マリンさんも寝てた、上体を倒して俺の上に折り重なる様に。
まだ、すやすやと寝息を立てている。
こ、これはちょっと気まずい。

まさと「あ。こ、これは・・・。」
ミュウ「まだ、起こしちゃダメだよ。良く眠ってるみたいだし。」
まさと「そ、そうだな。」
ミュウ「んー。」

ミュウはマリンさんの寝顔をニヤニヤと覗き込む。

ミュウ「心配、掛けすぎたかな?」
まさと「いや、いつも心配してくれてるよ。」
ミュウ「ん。そうだね。あ、食事できてるからね。姉さん起きたら一緒に食べて。」
まさと「そうか、悪りぃな。あ、シルフィーは?」
ミュウ「ほれ。」

ミュウは自分の後ろを指差す。
シルフィーは毛布に包まって寝息を立てていた。
まぁ、俺だけじゃなく、昨日はみんな寝てないんだ。きっと、お腹いっぱいになったところで寝てしまったんだろう。

まさと「今日ぐらいゆっくりこういうのもいいか。」
ミュウ「だよね。あたしももう寝ちゃお。」
まさと「あ、おい。」


ミュウは俺のすぐ横で、添い寝する形で横になる。

ミュウ「いい、よね?」
まさと「あ、そうだな。ああ、いいさ。寝ろよ。」
ミュウ「うん。」
まさと「あ、広江さんから呼び出しとかは?」
ミュウ「ううん。なかった。今日は、魔獣もお休み、かな?」
まさと「そうか・・・かもな。」

11時近くになってマリンさんは目を覚ました。

マリン「あら、あら、あら?」
まさと「はは。みんな寝ちまってます。」
マリン「あらー。」

マリンさんはちょっと頬を赤くして笑ってる。

まさと「やっぱり疲れてた?」
マリン「んー、そうでもなかったのだけど。安心したから・・・つい、ウトウトと。ミュウ、何か言ってた?」
まさと「いや、特に。心配掛けたかなとは言ってたけど。で、起こさない様にって。」
マリン「あやー。お姉ちゃん形無し?」
まさと「でもないでしょ。」

俺は、マリンさんの膝枕から起き上がる。

まさと「よっと。それより、飯、食いません?」
マリン「あ、そうね。すっかり暗くなっちゃって。」


食卓には、なぜか和食然とした物が並んでた。

まさと「あれ?」マリン「見たこと無いけど、こっちの料理?」
まさと「・・・・・うん。あれ。なんかメモがあるな。・・・・・・読めん。向こうの字だ。」
マリン「ああ、試しに作ってみた。って書いてあるわ。・・・ミュウの字ね。・・・これはひょっとして・・・。」
まさと「いや、言わなくていい。」
マリン「・・・・花嫁修行?」
まさと「・・・・・・・・・・・・わぁ。まっ、まさかっ! けど、いつの間に覚えたんだ。」

とにかく、頂く事にした。
味付けはちょっと濃かったけど、それなりに美味かった。
うーん。食に対する情熱。侮りがたし、ってとこなんだろうか。

まさと「まいった。結構美味いよ、これ。」
マリン「こういう味ははじめてだけど、確かに美味しい・・・。」
まさと「だよね。」
マリン「そうね。」

二人して何を真顔で納得しあってるんだか。

マリン「まぁ、共通の見解といったとこね。」

モノローグに返事しないでくれ。

マリン「ごめん。でも、今、すごく隙だらけよ。」
まさと「あ、読もうとするまでも無く。か。」
マリン「そうそう。」

食べ終わると、マリンさんが食器を洗ってくれている。
なんかもう、みんななじむの早いなぁ。
夜中を過ぎた頃にミュウとシルフィーが起きてきたので、風呂を沸かす。
今までそうした事ないって事だったので、ミュウとマリンさんに先に入ってもらう事にした。

マリン「意外と・・・・・肌きれいね。」
ミュウ「なっ!? あ、いや、もうちょっと荒れてたんだけどなぁ。なんか、ここのところ整ってきて。うん。エステも行ったし。」
マリン「ああ、じゃぁ、ソーサルブースター使ってるからかも?」
ミュウ「え、なんで?」
マリン「パールが言ってたの。体調を整える作用があるって。」
ミュウ「あー、そうなんだー。そう言えば、魔結晶うち込まれた時、楽になるからってつけたなぁ。」
マリン「そうね。そういう作用を強化したのも研究中みたいよ。」
ミュウ「ふーん。武器だけじゃないって事か。」
マリン「そうね。」
ミュウ「言われてみれば、パールって、ツルツルプリプリしてたなぁ。そうかぁ。ブースター使ってたせいもあるのかも。」
マリン「ほらほら。人の事気にしてないで、自分もツルツルプリプリにならなきゃ。嫌われちゃうわよ。」
ミュウ「うぁ。やっ、別に・・・・そっ・・・・・・・・そうかなぁ?」


はずかし会話丸聞こえ。壁薄いんだから。
おかげで、さっきから、シルフィーがニヤニヤしながら肘でこついてくる。

まさと「・・・・勘弁してよ。もう。」
シルフィー「だーめ。」
まさと「わぁ。だめですか。でも、なんで、そんな積極的になれんの? 友達だから?」
シルフィー「あぁ〜。違うよ。育ての親さん。」

シルフィーは自分を指差して言う。

まさと「あっ。そうか、そういうことなんだ。」
シルフィー「うん。仲良くしてくれるとうれしいの。」
まさと「そうか。そうなんだ。それをすっかり忘れてた・・・・。」

シルフィーとミュウは成長の早さが違うんだった。
それで、シルフィーが赤んぼのミュウのオムツを替えたリ、今まで、世話をしてきていたって事なんだ。
母親が娘の恋愛を気にする気分。
そりゃ、ちょっかい出すわ。うん。
あー、それで、ミュウはシルフィーに頭があがらない雰囲気あったんだ。
早く気付けよ俺ってとこだけど。

まさと「ははっ。気付いてなかった。シルフィーもミュウのお母さんだったんだな。今まで、お姉さんだって思ってた。」
シルフィー「うん。半分半分かな?」
まさと「そか。まぁ、これからもよろしくしてください、育てのお母さんのお姉さん。」
シルフィー「はぁい。こちらこそ〜。うふふっ。」
まさと「てっきり、シルフィーんちのおじさんおばさんに育てられたんだと思ってたよ。」
シルフィー「うん。私がついてる事が多かったけど、みんなで育てた、が正しいのかなぁ。」
まさと「ああ、村中そういう雰囲気あったなぁ。なるほどぉ。そうかぁ・・・。」

つまり俺は、今までそうと知らずに、大家族の中にポンと放り込まれた状況にあったわけだ。
今も、その渦中に戻りつつあるといっていい。
その大家族が今、ホエールでこっち向かってるんだから。頼もしくもあり、恥ずかしくもあり。
この日も結局、広江さんは、こちらに泊りにはこなかった。
そして、こちらは、地球のどこかに潜んでいる、ダークキャッスルの玉座の間。

サイファー「プロフェッサー、準備は?」
ガルウ「ほぼ。といったところ、ですね。まだ、不足している物があります。が、動き始めても良いでしょう。」
サイファー「いよいよ、念願の・・・・。」
ガルウ「そうですな。もう少し早く分布が調査できていれば、今日まで掛からなかったのですけどね。・・・・・ねぇ、ダイアさん。」
ダイア「わたしのせいだって言うの? ひどぉ〜。わたしだから、今日までにある程度まとまったんじゃない。」
ガルウ「ほぉ、そうですか。それはそうかもしれませんねぇ。まぁ、ほぼ条件が揃ったのですから、それ以上は望むべくもないのですけれどね。ふっふっふ・・・・。」
ダイア「・・・・・ふんっ。これでうまく行かなかったら、プロフェッサーでも潰すからね。」
ガルウ「ほっ・・・。それは怖い。心して掛かりましょう。」
サイファー「では、そろそろ、動かそう。その時が来た。」

一体何を動かそうと言うのか。城か、計画か・・・それとも別の何かか。
早朝。
東京湾上空に巨大な影が現れた。
地上からも、それはぼんやりとではあるが見ることの出来るところにあった。
ミュウに叩き起こされて、TVの朝のニュースを見る。

キャスター「・・・・と言った状況で、今、早朝より、忽然と現れた、謎の大きな影は今も、不気味に東京湾上空にあります。一体なぜ、このような物が現れたのか、何を目的としているのか、一切が不明。依然、細心の注意が必要です。政府は、臨時の閣議を召集、対策を討議中です。関東周辺の皆様は外出は出来るだけ控える様にして下さい。」
まさと「あの形・・・ダークキャッスルか・・・?」
ミュウ「だと思う。こんな近くに居たなんて。」
まさと「いや、兆候はあったんだ。東京湾で電磁波が観測されてたから。あれが・・・後手に回っちまったなぁ。」
ミュウ「けど、まだこれで決まったわけじゃないよねっ?」
まさと「そりゃそうだ。こんなんで、決まられてたまるかって。」
ミュウ「じゃ、いく?」
まさと「いや、ちょっと待て。ここまで、大々的に動きがあると、単独で動くのはまずい。で、さっきから広江さんに連絡とろうと思ってるんだけど、携帯が繋がらない。ちょっと、警視庁まで行って、本部覗いてくる。」
ミュウ「でも・・・。」
マリン「まだ、動きがないし、ホエールの到着を待ったほうが得策、でしょうね。」
ミュウ「そ、それは・・・。まぁ。」
まさと「と、とにかく署に行って来る。」

俺は、慌ててアパートを出て警視庁に向かった。
道すがら、歩道など町の様子を見ていると、ほとんどの人が上空の影を見上げ、手に手に携帯を持ってどこかしら掛けている様子。
そうか。
この状況に、みんなして一斉に携帯や電話を使った物だから、回線がパンクしてるんだ。
さらに、上空を見上げたりのわき見運転の為か、この朝は事故が多く、道はとんでもない渋滞がそこかしこで起こっていた。
警視庁に辿り着くのに思っていた倍以上時間を食ってしまった。
署内は慌しい空気に包まれていた。
部署など関係のない、蜂の巣をつついたような騒ぎになっている。
その騒ぎの中から、ようやく広江さんを見つけ出し、近づいて行った。

まさと「広江さんっ!」
広江「いいか、この件が優先だ、後に回せる物は回して、関係する情報を取りまとめてくれ。・・・ようやく来たか。」
まさと「あ、は、いや、遅くなりました、でしょうね。」
広江「一般の電話回線、携帯電話などの連絡手段が、一斉使用でパンク状態だからな。こんなことで、大慌てする事になるとは。で、あれは、なんだ?」
まさと「・・・・・ダークキャッスル、です。あの形は見覚えがありますから。」
広江「やはりそうか。今のところ動く気配がないので、政府が対応策に困っている。」
まさと「俺は・・・・今は攻めかもとも思うんですけど、何か条件ありましたよね?」
広江「ああ、警察では手におえんし、自衛隊は今のぽっかり浮いてる状態じゃ出動要請も出来ん。困った。と言うのが本音だな。お前だけか? 他の者は?」
まさと「あ、はい。俺の部屋で皆待機してます。」
広江「そうか。皆、こっちで待機してもらっても良かったのだがな。」
まさと「あっ。すいません。そうだよ、こっちにみんなでくれば良かったんだ。」
広江「まぁ、それはいい。必要なら迎えのヘリぐらい出せる。それより、今はどうするか、だな。」
まさと「ですね。街中はとんでもない状態っすよ、みんな上見てるし、おかげで事故渋滞がひどくて。」
広江「まったくだ。交通課は手が足りずにひどい有り様だ。応援を呼ぼうにも、あの渋滞では応援すら・・・・。」
まさと「お手上げ・・・・ですね。さて、どうするかなぁ。俺達だけで乗り込むのって、前に一度失敗してるから、避けたいとこなんですが。いざとなったら、乗りこまざるを・・・。」
広江「そうだな。なにより不気味なのは、魔獣が一匹も出てこない事だ。」
まさと「はい。来る途中でも、見かけませんでしたから。空を飛ぶタイプも居るんで、出すなら、とっくに出してると思います。」
広江「電磁波も観測されていない。占領等が目的なら、武力制圧するのが常套手段だと思うのだが。その動きがまったくない。読み切れんな。」
まさと「そう思います。目的が掴めませんね。」
広江「恐らく、東京湾近辺から順次避難が勧告されるだろう。最悪その間は、お前達は待ちと言う事になるかも知れん。」
まさと「・・・ですね。俺達が向かうにしろ、自衛隊がしかけるにしろ、まず、人命優先かぁ。」
広江「そういうことだ。私はまだここでやる事がヤマほどあるから、動けないが、お前はどうする? 一度アパートに戻るか?」
まさと「ああ、そうだな。状況を皆に伝えないといけないし。」
広江「うん。そうしてくれ。必要があれば、さっきも言った通り、ヘリでもなんでも用意して迎えをやるから。」
まさと「はい。」

そういうわけで、帰途につくんだが、渋滞がさっきよりひどくなってる。
ぴくりとも動かない。
事故が何箇所かで多重発生してるから、状況はひどくなる一方なんだろう。
俺は、スクーターでの移動をあきらめて、スクーターを適当なところで駐め、電車での移動にスイッチした。
こちらはこちらで通勤ラッシュと重なってしまったので、快適とはとてもいえないものだったが、まったく動かないよりはまし。
最寄駅まで辿り着くと、今度はアパートまでダッシュ。
本当は高くても良いからタクシーなり拾いたかったところだが、この当りも渋滞がひどくなってきており、歩いたほうが早いような状態だった。
やっとの思いでアパートに辿り着くと、真悟と清美ちゃんがアパートの敷地へ入ろうとしているところだった。

まさと「真悟っ!」
真悟「あ、まー坊。なんか、すごいことになってんじゃないのか?」
タマ「にゃっ。」
清美「このこが行かなくちゃって言うものだから。連れてきたの。」
まさと「そうか。タマ。ご苦労さん。」
タマ「にゃっ!!」
まさと「二人ともわざわざごめん、とにかく部屋に上がってくれ。」
真悟「あ、そうだな。町の様子だと、帰るのも厄介そうだし。」

部屋に戻ると、TVはまだ臨時ニュースを流しつづけていた。
それによるとダークキャッスルはゆっくりと降下してきているらしい。東京湾上にでも着水するつもりなのか。
確かに、構えるには格好の場所だろう。
四方の見晴らしが良く、城自体が恐らく障壁を持っているだろうから、守りは完璧だ。
難攻不落。そんな言葉が浮かぶ。
広江さんからの待ちの指示を伝えようと思ったが、頭数が足りなかった。

まさと「あれ? ミュウは?」
マリン「あ、さっきスーパーとかに行くって出かけたところ。お昼の買い出しに。」
まさと「そっか。まぁ、とりあえず、今は待ちだから、そういう風で良いや。何かあったら、迎えが来るはずだ。多分、空から。」
マリン「空? 乗り物?」
まさと「ああ、そんなもん。」

突然、臨時ニュースの映像が慌しく切り替わる。

まさと「ん? 何か動いたか?」
キャスター「えー、しっ、信じられない事態が起こりました。当社のヘリが建造物に接近して撮影しようと試みたところ、と、突如として、機体が分解、爆発炎上致しましたっ。」
まさと「・・・なんてバカな事を・・・。」


映像は炎上しながらばらばらになって落下するヘリの映像を写していた。