第4話 遠き異国の地にて #5 エステなミステイク

漂ってくるバターの香りとぱたぱたと動きまわる音で目が覚める。
もそもそと起きてキッチンのほうを見ると、ミュウとシルフィーが何かを・・・いや、朝食の用意をしてくれていた。

まさと「んー、あー。・・・早いな。」
ミュウ「あ、おはよ。そろそろ用意出来るよ。朝ご飯。」
まさと「ん。すまねー。」


テーブルには三人と一匹分のトーストと、ハムエッグ。そして、紅茶なんかが揃いかけていた。

まさと「はぁ。すっかり覚えちまったか。早いなぁ。夕べまですったもんだで三人掛かりで作ってたのに。」
ミュウ「えへへ。こっちって便利だねぇ。最初は戸惑ったけど、便利な物いっぱいだね。」
シルフィー「難しいのは道具の使い方だけだよね。」
まさと「そか。大抵、インスタントな物が多いからなうちは。どれが何かわかれば大概なんとかなるか。」
ミュウ「うん。なった。ほれ。」

ミュウが最後の皿をテーブルに並べると朝食が完成した。
正直、豪勢な朝食だ。
これまでこの部屋でとる朝食と言ったら、トーストをかじるくらいの朝食だった。
それがどうだ。ハムエッグなんて物までついてくる。
悪くない。いや、ほんとに。

ミュウ「ぼけーっとしてないで、早く顔洗ってきなさいよ。冷めちゃうよ〜。」
まさと「ああ、すまん。感慨にふけっていたのだ。うん。」
ミュウ「ほー。さぁ早く早く。」

ミュウに背中を押されるようにして洗面へ。
その後は美味い朝食を頂かせてもらいました。

まさと「ふぅ。ごっそうさん。」
ミュウ「んー。割りとうまくいったかな。」
シルフィー「うんうん。」
まさと「俺は果報者かも知れぬ。」
ミュウ「ふふっ。恐れ入ったか。」
まさと「ははぁっ。恐れ入りました。で、三食頼んじゃって良いか?」
ミュウ「うん。まぁ、今までも大概出来るときはやってたしね。まかせてよ。口に合う物が出来るかどうかはわかんないけど。」
まさと「いや、それは大丈夫だ。美味いし。文句言ったらバチが当たる。後は、買い物だなぁ。」
シルフィー「なんとかなるよぉ。スーパーっていうとこ行ったら、材料買えるよねぇ? 数字は判るようになったよぉ。」
ミュウ「そだねぇ。値段ぐらいはなんとか。」
まさと「そか。じゃぁ、食費渡しとくか。えっと・・・・。」

俺は予備の財布に今月分の食費を入れて渡す。

まさと「でだ、今日がこの日だから、このバイト代が入る日までを、その中身でやりくりしないといけないんだ。」
ミュウ「んー。っと。ふんふん。」
シルフィー「はぁい。」
まさと「ちょっと予算少なめだけどよろしく・・・。ひどい時はカップ麺ばかりの時があるくらいだから・・・・。」
ミュウ「カップ麺ってぇと。これ?」
まさと「そそ。特売日に買いこんでくるのだ。」
ミュウ「ふーん。これはこれで美味しかったけど、多分、そこまでしなくても良いんじゃないかな。」
シルフィー「うん。なんとかなると思うよ。」
まさと「そうか? じゃぁ、期待してるぞ。」
ミュウ「まかせてよ。」
シルフィー「うん。」

そうこうしてるとマイテーの広夢さんから電話があった。
昨日話してた警察の身内の人に連絡がついたらしい。

小染『でね。ちょっと注意したほうが良いかもしれないんだ。取り越し苦労だと思うんだけど。』
まさと「なんですか?」
小染『いや、今、配属になってる部署がね、行方不明者に関するもので・・・。』
まさと「え、じゃぁ、都合良いんじゃないですか?」
小染『違うんだよ。行方不明は行方不明でも、謎の多いものばかり追っているらしいんだ。得体の知れない獣なんて言葉も聞いたし。』
まさと「え。け、獣って・・・まさか。」
小染『多分。君達の知ってる奴だと思う。とりあえず、連絡がつかなくなった知り合いを探してるらしいと言ってあるんだけど、複雑な話だし、今のうちはそのほうがいいよね?』
まさと「ああ、そうですね。まだ、こっちもはっきりしたことがわかんないし。で、いつですか?」
小染『うん。忙しい人なんでね。早い話しで悪いけど、今日の11時に待ち合わせしてるんだ。』
まさと「えっと、ああ、良いですよ。あ、会社のほうに言っとかなくちゃ。」
小染『ああ、それは大丈夫。ひとみちゃんにもう話しは通してあるから。じゃぁ、時間になったら、僕が車出すから一緒に出よう。あー、そうだ。行くのはまさと君だけが良いかもしれないね。』
まさと「はい。じゃそれまでは俺も会社のほうで。そうだなぁ、ミュウ達はまだあわせないほうが良いかぁ。見た目で何か疑われても困るし。」
小染『だよね。じゃぁ、僕は時間までCGルームのほうに詰めてるから。時間になったらそっちのテストルームに呼びに行くからね。』
まさと「あ、はい。お願いします。済みません無理言って。」
小染『ああ、いいよいいよ、じゃ、あとで。』
まさと「・・・・と言う訳で、警察のほうと連絡つきそうなんで行って来る。マイテーかこの部屋で、留守番しててくれないか? 二人とも。あ、ポチもな。」
ミュウ「あー、話しついたんだ。やっぱり、行くとバレるかな?」

ミュウは、自分の耳をピコピコと指で動かす。

まさと「んー。普通の人なら生まれつきこう、で、通せるかもしれないけど、警察官ともなるとどうかなぁ。狼少女の件もあるし。疑われたらちょっとまずくなるかも?」
ミュウ「はぁ。そうだよねぇ。うん、わかった。留守番してる。ね。」
シルフィー「うん。」
まさと「まぁ、竜崎とパールが本当にこっちの世界の人間で行方不明になってるかどうか確認するだけだから、そう大したことはないと思うんだけどな。」
ミュウ「上手く確認できると良いね。」
まさと「ああ。で、今日は、何か予定入ってるのか? マイテーの企画のほう。」
ミュウ「あ、うん。今日、衣装が上がって来るらしいよ。午後から着付けだって。」
まさと「そうか。じゃぁ、益々、マイテーで待ってたほうがよさそうだな。」
ミュウ「んー、そー、かもね。」
まさと「よし、んじゃ、出社するぞ。」
ミュウ「あーい。」
シルフィー「はぁい。」
ミュウ「ああ、ポチ。あんたもおいで。一緒に撮るって話しだから。」
ポチ「わふぅ?」
まさと「ああ、なるほどな。考えればこいつもゲームのキャラと符合してるのか。連れてる犬。ほんとに犬だが。」


そう言う訳で、全員でマイテーまで移動。まとまって動くのは久しぶりか。
ポチは上京して以降、この部屋で日向ぼっこ専属になりかけてたからなぁ。
たまには連れ出してやるのも良いだろう。
マイテーの社屋の1階は、喫茶店になっている、喫茶マイ・ティーという。
名前ですぐ分かると思うが、これもおじさんの経営してる喫茶店だ。
時々、ゲームとタイアップ状態で、何か催し物をする事も多い。

ミュウ「あ、そうそう。今度の企画ってやつ。数日だけ、ここのウエイトレスやることになったよ。話した?」
まさと「なにぃ? 聞いてないぞ。」
ミュウ「やるのよ。コスで。バイトだって。そのぶんお給料もらえるみたいよ。」
まさと「ほーかほーか。大丈夫か?」
ミュウ「うん。今朝大体話し聞いたけど、エルブンと余りかわらなさそうだし、なんとか。あ、シルフィーも一緒ね、もちろん。」
まさと「そっか。じゃぁ、もらったバイト代はお前らの小遣いだな。好きに使えば良いさ。」
ミュウ「えー? あんたに渡そうと思ってたんだけど。いいの?」
まさと「いいさ。」
ミュウ「えへっ。じゃぁ、欲しい物買おうっと。シルフィー、ぶいっ!」
シルフィー「ぶいぶいっ!」

やけにうれしそうにVサインの出し合いをするミュウとシルフィー。

まさと「ん? あ、そうか。そういう話しがあったから、お前ら数字覚えるの早かったんだな?」
ミュウ「うん、そだよ。ほんとは、まさとの家計の役に立とうと思ったんだけどねぇ。」
まさと「泣かせるようなこというな。そっちはなんとかなるよ。」
ミュウ「あーい。」

マイテーの社屋に入ると、既に聖子さんがコスを持ってやってきていた。

聖子「やぁ。出来てるよ〜。早速着てみて〜。こっちこっち〜。」
ミュウ「はぁい。」
シルフィー「お着替えお着替え〜。」

聖子さんに引き連れられて二人はロッカールームのほうへ。
しばらく、中からわいのわいのやってる声が聞こえてくる。
コスを着た状態で出てくるのかと思っていたんだが、ミュウ達は元の服で出てきた。

まさと「あれ?」
聖子「いや、まいった。」
まさと「な、何がです?」
聖子「いや、あ、ひとみ〜。」
ひとみ「え、あ、どうだった?」
聖子「いや、実は・・・・。」

聖子さんはひとみさんに何やら耳打ち。

聖子「・・・と言う訳でね。これから直しやるから。明日まで待って。」
ひとみ「ああ、それは気がつかなかった。うん、良いわ。予算は何とかするから。」
聖子「うん。頼むね。じゃ。」

聖子さんは荷物をまとめなおすと挨拶してとっとと返ってしまった。
状況が飲みこめず、ミュウのほうを見てみると・・・。なんか照れている感じが。

まさと「どした?」
ミュウ「あ、やは。うん。失敗失敗。」
まさと「なにがだよぉ。」
ひとみ「ミュウちゃん、あとで、良いところ紹介してあげるからね。大丈夫よ。」
ミュウ「あ、うん。」
まさと「なにがどうしたんだぁ。」
シルフィー「んー、内緒ぉ。」
まさと「だから教えてくれよぉ。」
ひとみ「しょうがないなぁ。ミュウちゃんにエステに行って綺麗度アップしてもらうって話よ。それだけ。それ以上は詮索するのはノーグッド。ね。」
まさと「・・・・・・あ、そういうことですか。了解っす。」


ミュウのやる予定のコスは美女剣士ってな役柄の物なのだが、この鎧が、言ってみればファリアの鎧みたいな物で、肌の露出が多い。
つまり、無駄毛とかその当たりを撮影に当たって整えたほうが良いってことだな。
確かに詮索するのは野暮ってモンだ。
このへんはまぁ、イベントともなれば、鎧の下に着る肉色の全身タイツみたいなのの登場となるのだが、パッケージやらの撮影ともなると、そうも行かんだろうな。
嘘が見える。だからエステ。
そうこうしているうちに待ち合わせ時間になり、広夢さんが迎えにきた。

小染「やぁ、待った? そろそろ出かけようと思うけど、大丈夫?」
まさと「ああ、はい。行けますよ。じゃぁ、ミュウ、後は上手くやっててくれ。」
ミュウ「あい。」


小染さんは普段着、いや、これがいつものトレーナー姿からは想像もつかないカジュアルで、こぎれいにまとまった格好なんだ。これが。
対する俺は、ポロシャツにジーンズなんて、ラフな格好。差がありすぎ。
とはいえ、他にろくな服は持ってないんで、どうしようもないが。
そんないでたちで、広夢さんの愛車で、都会を流す。

小染「ああ、そうだ。会う前にちょっと話しとこう。」
まさと「はい?」
小染「今日会うのは僕の、姉さんなんだ。忙しくて年に数回ぐらいしか会えないんだけど。」
まさと「えー、そうだったんですか。」
小染「で、本題はここから。気難しい人でね。まじめ過ぎるって言うか。今日も、ひょっとしたら何か言われるかもしれないんで、その時は上手く受け流して。」
まさと「あ、はい。そういうことなら多分、大丈夫。かな?」
小染「うん。頼むよ。話しを合わせておくくらいで良いから。正直、僕がこの仕事をやってるのも余り良くは思ってないらしくて。色々ねぇ。ははっ。」
まさと「・・・・誤解が多そうな気はしますね。」
小染「うん。まぁ、社長に呼ばれてマイテーに入るまでは良いことなかったからね。それで余計そう受け取ってるんだろうと思うけど。」
まさと「ああ、確か、その頃入院寸前まで調子崩してたんすよね?」
小染「まぁね。ほんと。いろいろあったから。まぁ、そういうことなんで、よろしくね。判断の付かないこと聞かれても判らないって言ってくれれば良いから。そっち方面は僕が自分で何とかするから。」
まさと「はい。すんません。なんか迷惑になってませんか?」
小染「あ、平気平気。このくらい。そろそろ、向こうからお呼び出しがあった頃だろうしね。丁度良いよ。君のほうの別のネタもあるから気が楽なんだ。ほんとは。」

やがて、待ち合わせ場所の公園についた。
既に相手の広夢さんのお姉さんらしい人影があった。

小染「広江姉さん、お待たせ。」
お姉さん「来たか。なんだ、お前のほうから用件とは。珍しい。」
小染「いやぁ。たまにはこっちから誘わないと、バチが当たるんじゃないかなって思って。」
広江「そう思うんならもっとまっとうな職についてくれ。ん? 彼がそうか?」


そういうと、広夢さんのお姉さん、広江さんはこちらのほうを見る。
俺も見返す。
そして、見覚えがあることに気がついた。
昨日、魔獣を追いかけてリボルバーを構えていた、私服刑事。
そうだ、あの人がこの広夢さんのお姉さん、広江さんだ。

広江「・・・・・・・おや?」
まさと「あ。」


変装でもしてくれば良かったかと思ったが、もはや後の祭。か。
迂闊にも、俺は、驚きを顔に出してしまっていた。

広江「君は・・・昨日・・・広夢、悪いが職務に戻るぞ。」
小染「え、あ、何?」
広江「昨日のことで話しが聞きたいんだが。任意同行、お願いできますね?」


さっきまでとは打って変わってさらにきつい目になった広江さんは、警察手帳を取り出して俺に言う。
そうだ。
昨日、魔獣を退治したとき、この広江さんに、ミュウと俺は顔を見られているはずだ。
万事休す。
いや、まじに。かなりやばいかも。

小染「ね、姉さんっ、ちょっと待って。彼には事情が、いろいろあって、その・・・。」
広江「事情があるならそれは本人から署で聞かせてもらう。広夢。このことは、お前が思っている以上に大事なことだ。ICPOも噛んでいる。口は挟めないよ。」
小染「あ、あいしー・・・国際警察!?」
まさと「・・・・うわ。」
広江「そういう訳だ。大人しくついてきなさい。」


広江さんの目で睨まれるとノーとは言えなかった。

まさと「あ、広夢さん。戻って、遅くなるって皆に言っといて下さい。それだけお願いします。」
小染「あ、ああ、わかった。そ、そうするよ。」

抗うことも出来ず、俺は、広江さんの覆面パトに乗せられて桜田門方面へと。

広江「・・・・大人しいな。つくまでそうしててくれ。」
まさと「・・・・ええ。なんか、暴れたらとっさに撃たれそうで。」
広江「察しが良いな。暴れられたらそうなっただろう。」
まさと「う。」
広江「勘違いするな。それほど大事な事なんだ。さっき言ったろう。君に聞きたいことが沢山ある。」
まさと「や、役に立つかどうかは・・・・。」
広江「私を覚えていたのなら、役に立つさ・・・。覚えているんだろう。昨日の事を。」
まさと「・・・・・・・・・はぁ。」
広江「なら、そういうことだ。」

車は桜田門に着くと、警察庁には入らず、警視庁の庁舎へ。

まさと「け、警視庁・・・・。」
広江「そうだ。警視庁だ。めったに入れるところではないぞ。」
まさと「いや、入りたくは・・・。」
広江「ふ。それもそうか。」


車を降りると、取調室らしいところに押しこまれた。
手荒にされることはなかったが、ドアに鍵が掛けられ自由はなかった。
部屋の中には俺と、広江さんと、なんだか年をとって風格というか落ち着きのある刑事さんらしいのの三人。

広江「さて。任意同行に協力感謝します。私は、警視庁特殊失踪対策部、小染広江警部補。こちらが・・・。」
高砂警部「同じく、特殊失踪対策部部長の高砂警部です。」
広江「で、君の名前は? できれば、本名を。嘘をつけば罪に問われる事がある。」
まさと「詐称ですか。」
広江「そうだな。君の知っていることを包み隠さず話して欲しいというわけだ。まずは、名前から聞かせてもらいたい。」
まさと「む、宗方、柾人・・・。」
広江「字は、・・・・こうか?」まさと「いや、まさは、木辺に正しい・・・。」

広江さんは正確な文字で調書を書いてゆく。
性格が現れているのかも。

まさと「俺からは何か聞いちゃいけませんか?」
広江「君が全てを話してくれるなら、聞かせられる範囲で可能だ。話してくれるのか? 昨日何をしたのか。とか。」
まさと「そ、それは・・・・。」
高砂警部「小染君が言うには、昨日、君をある現場で見た、というのだけどね。ほんとかい?」
まさと「・・・ぅ。」
広江「覚えがないとは言わないな?」
まさと「・・・・・・そっ・・・ぅ。」
広江「黙秘も構わないが、それでは緊急逮捕することになる。いいのか・・・?」
まさと「たっ・・・・そんなっ。俺はっ。・・・あ。」
広江「話してくれないか。昨日のあの正体不明の化け物のことを。どうやってそれを跡形もなく退治できたのかも。」
まさと「あ、あれは・・・・。あれは・・・。」
高砂警部「私達は特殊失踪。つまり原因不明の失踪。古くは神隠しとか言われている、そういった不明点の多い行方不明者にまつわる謎を追っている。表向きはね。」
広江「高砂警部!それはまだ!」
まさと「神隠し・・・・あ。」
高砂警部「小染君。こっちも腹を割らないと、彼も話しにくいだろう。何か知ってるなら。」
広江「しかし・・・。」
まさと「表向き・・・ってことは、本当の・・・。」
高砂警部「どうかね? 話してみてはくれないか。」
まさと「い、いや・・・俺は・・・・。」

正直迷った。本当のことを話すべきかどうか。
話したところで、一笑に伏されるだけじゃないのか。
そういう思いがあって、口を自然とつぐむことになった。

高砂警部「いや、どうしたもんかねぇ。そこで、警視総監も見てられるんだが・・・。」

自分の背中側にある、大きなミラーをちょちょっと指差す高砂警部。
ミラー。そうか、これは、マジックミラーか。
向こうからはこちらが見えるがこちらからは向こうを見ることが出来ない。

広江「話さないと為にならない。これは理解しているな?」
高砂警部「まぁまぁ。小染君。慌てても仕方ないよ。とりあえず、昼も近いし何か食べよう。」
広江「け、警部・・・正攻法で・・・・。」
高砂警部「いや、人の道だよ。人の道。宗方君は、何が食べたいかな?」
まさと「・・・・・やっぱ、丼物っすか?」
広江「なっ!」
高砂警部「あはははは。いや、出前注文できる物なら何でも良いよ。好きなものを言いなさい。」
まさと「・・・・変なこといいましたか?」
高砂警部「いいや。何にするね。」
広江「・・・・・・・はぁ・・・・。」
まさと「あ、でも・・・。」
高砂警部「あー、でも、今からじゃ出前は混んでるかなぁ。」
まさと「あ、ピザなら早いと思いますけど・・・。」
高砂警部「ああ、そうだねぇ。それを注文しよう。」
広江「け、警部っ。」

広江さんの凄く嫌そうな顔を裏腹にピザの注文は実行された。
その店のうたい文句通り、ピザは30分でほんとに到着した。

まさと「・・・・交通法規守ってるんだろうか。ほんとに。」
高砂警部「どうだろうね。バイト君それぞれかな?」
広江「・・・・そういう問題では無いと思いますが・・・。」


その頃、マイテーでは、勇者まさと警察に囚るの報で蜂の巣をひっくり返したような騒ぎになっていた。

バイトA「だから、信用なんないっていってたんだよ。あんなやつ・・・。」
バイトB「やばい橋渡ってたんですね・・・やっぱり・・・・。」
小染「いや、やばいとかやばく無いとかじゃな無くて・・・・ほんとにやば・・・ああ、そうじゃなくて・・・。」
ひとみ「落ち着いてっ。広夢君っ。」
ミュウ「うーん。警察ってやっぱりまずいとこだったんだ・・・。」
シルフィー「・・・・拷問・・・されちゃうのぉ?」
小染「いや、だから、落ち着いて、やばいからっ。」


もう、なにがなんやら。

丸尾「んー。とにかく、連絡しないといけないか、大ちゃんに。」
ひとみ「ええ、身元の引きうけとか必要になったら家族が1番でしょうし・・・。けど・・・・。」
丸尾「んー。そうなんだよねぇ。話したら、速攻飛んできて、殴り込んじゃうよ。大ちゃんは・・・・。例えそれが警視庁でも・・・。」

取調室では広江さんがピザと真っ向から戦っていた。

広江「ううっ。」
まさと「?」
高砂警部「どうしたね。」
広江「いえ・・・・ピザ・・・・苦手で・・・匂いがその・・・やっぱりやめておきます・・・。」
高砂警部「あれ。そうだったか? 早く言ってくれれば別の物にしたのに。」


ほんとにダメそうだ。
俺と警部さんがピザを食べ終わるまで広江さんはずっと鼻を押さえていた。
ピザを食べ終わると、またにらめっこ。
話すべきなのか、それとも話さずに何とかやり過ごすべきなのか。
ほんとうに、その判断もつかないまま、時間が過ぎた。
すでに、もう、日が暮れようとしていた。

広江「・・・・いい加減に話さないか? 本当に逮捕することになるぞ。」
高砂警部「うーん。こっちも全部話さないとダメですかねぇ。」
広江「警部!」
高砂警部「あ、はいはい。一応部外秘だからね。」

警部の傍の電話のベルがなる。

高砂警部「あーはいはい・・・・うん。・・・・ほぅ・・・・ああ、繋いでやってくれ。」
まさと「?」
高砂警部「君にだ。妹の法子さんだそうだ。」
まさと「のっ・・・・い、いいんですか? 出て。」
高砂警部「ああ、構わないよ。心配して掛けてきた様だ。いい妹さんだねぇ。あ、長距離らしいから。」

警部に促されて電話に出る。

まさと「もしも・・・・・。」
法子『こぉの、ぶぅわかアニキぃいいいいいいいいーーーーーーーーーーーーーーーっ!』
まさと「ぅわっ。」

高砂警部「ああ、割れてる割れてる。元気な妹さんだねぇ。」
まさと「いきなりそれか。」
法子『いい!? 知ってること洗いざらい吐いちゃいなさい! それしかないから! わかってるよねっ! じゃっ!』
まさと「のっ、のり・・・・・あ、切れた・・・・・。言いたいことだけ叫んで切りやがった・・・・。」
高砂警部「・・・・・やぁ、長距離らしいからねぇ・・・・・。」
まさと「・・・・・・誰だよぉ、法子に知らせたのぉ・・・・・・あ・・・お騒がせしました。」
高砂警部「いや。」
広江「・・・・・・・・・・・・・。」

なんだか突如としてしらけてしまった雰囲気に、三人とも黙りこむ。
すると再び電話が鳴る。

高砂警部「・・・・・・・え? いや、それは・・・・うーん。わかった。通してやって。」
まさと「今度は?」
高砂警部「いや、びっくり。今度も妹の法子さん。」
まさと「へ?」
高砂警部「それも、下まで面会にきてるそうだ。ので、上がってもらってるのだけども・・・。」
広江「・・・・さっきの、長距離電話では?」
まさと「ど、どうなってるんだ・・・・・?」


しばらくして、ドアがノックされ、その妹の法子という面会者が入ってきた。

法子「・・・・兄がご迷惑お掛けしております・・・。」
高砂警部「・・・・い、いえいえ。迷惑などと。任意同行ですので。」
法子「・・・? そうですか? ではすぐ・・・。」
広江「そういうわけにもいきませんよ。色々事情がありますので。」


入ってきた法子は、俺が知っている法子ではなかった。
しっかりとした体つき、丸顔、茶色いストレートヘア、そしてカチューシャ。
見ると、着ている服はひとみさんの私服らしい。
その法子は薦められて、広江さんと変わって俺の前の席につく。

法子「お兄様、どうなっているのでしょうか?」
まさと「・・・・誰だ、お前。」
法子「・・・・・・法子。妹の顔忘れたの?」
まさと「そうか・・・・。こんな立派な体つきの妹が居たとは、今の今まで知らなかったぞ。」
法子「・・・まぁ・・・。お兄様ったら・・・。」


机の下の俺の足をその法子はこつこつと蹴ってくる。
そして。

法子「ばか、あたしよっ」
まさと「・・・・・どのあたしだ。」

その法子は口元を隠しかろうじて聞こえるような小さな声で話し掛けて来る。

法子「あたしったら、あたしでしょうが、このとんちきっ。」
まさと「いや、見違えたモンでな。ミュウ、何やってんだお前。」
法子のミュウ「なにもへったくれもないでしょうが。助けに来たのよっ。バカっ。」
まさと「いや、バカは、俺じゃないかも知れんぞ。」
法子のミュウ「何いってんのよ。とにかく早く逃げ出さないと。早速、殴る? 倒す? やっつける?」
まさと「いや、それは、さすがにまずいと思うぞ。もっと穏便にいかねば。」

そうやって、ちょっと長めのひそひそ話し。

広江「こほっ。あのね・・・・聞こえてるのだけど。全部。補聴器つけてるから。ほら。」
まさと「う。」
ミュウ「え、あ。」
まさと「いや、さっきな。奈良から法子からの長距離電話があったのだ。」
ミュウ「・・・・・わ。ばれてる?」
まさと「うん。法子って名乗った時点で。な。」


シーンと静まり返る取調室。

広江「説明、してもらいましょうか?」
まさと「見てみろ。かえって窮地に陥ったじゃないか。」
ミュウ「な、なによう。心配して来てやったのに。」
広江「高砂警部、二人とも逮捕しますか?」
高砂警部「いやぁ。どうしたもんかねぇ。仕方ないのかねぇ。うーん。いや、ほんと、そろそろ話さないか。お互い。役者揃った様な気もするし。」
広江「話して欲しいですね。」

広江さんはこちらをじっと睨む。

まさと「んー・・・・じゃぁ、俺が調べたいことを教えてくれるなら、話します。」
ミュウ「ちょ、ちょっと。いいの?」
まさと「しかたないよ。話さないと逮捕だ。」
ミュウ「うう。」
広江「調べたいって言うと、広夢から聞いた二人の事?」
まさと「そうです。それがはっきりしないと、俺も確証持て無いんで。」
広江「・・・・・・・・なるほど。ちょっと待って。そろそろ判ってると思う。」


広江さんはそう言うと、電話機をとってどこかしらに掛けている。

広江「ええ、そう、その件。・・・うん・・・そう・・・で? ・・・・・・あ・・・・うん・・・・・そう。ありがとう。」

広江さんは電話を切ってこちらに向き直る。

広江「本当に話してくれますね?」
まさと「ええ、はっきりしたら。」
広江「いいでしょう。・・・・・まず。向井珠美。こちらは既に死亡届が出されてるわ。バスの転落事故で。遺体は発見されていない。」
まさと「そうか・・・。」
広江「それから、竜崎守。こちらは、捜索依頼が出てるわ、1週間ほど前に。現在も行方不明。住所地は東京都内。」
まさと「・・・・・・そうか。やっぱり、そうなのか。」
ミュウ「・・・・。」
広江「さぁ、話してもらいましょうか。」

パールが言っていた事は本当だった。竜崎の言っていた事も。
そうだ。全て現実に起こったことなんだ。
そして、今がある。俺とミュウがここに居る。

まさと「お話します。」
ミュウ「い、いいの?」
まさと「ああ。」
広江「助かる。二週間ほど前から奇妙な転移現象が相次いで居る。心当たりはあるか?」
まさと「はい。多分。俺達が経験したのと同じ物だと思います。」

俺は、その二週間前にさかのぼって、俺が、自分の部屋からティラへ転移し、そして、今またこっちに戻ってくるまで、そして今日までの経緯を、大きな流れだけ話した。
ただし、ソーサルブースターに関することはまだ話していない。

広江「なるほどな。話さなかったわけだ。いきなりでは信じられんことだ。」
まさと「ええ。で、転移現象が相次いで居るってのは?」
高砂警部「うん。君達以外にもそのティラと言う星らしいところに、行って帰ってきた者が何名か居る。それと、目の前で人が光って消えたと言う報告もある。その場合、戻ってこない例が多い。それと、昨日の様に・・・。」
広江「正体不明の化け物や、獣が忽然と現れたり消えたりしているんだ。」
まさと「そんなことが・・・。」
高砂警部「主に、その転移現象が見られるのは関東近辺。もしくは日本国内に限られている。といった状況でね。その謎を追う為に設置されたのがうちの特捜部だよ。内部呼称はPT特捜部。PTはポーテーショントラブルだ。」


なんということだ。
それだけの大事として、国、いや、ICPOも絡んでると言ってたから、世界のトップが監視している事柄だったのか。

まさと「じゃぁ、なぜそんな、転移が起きるかまでは?」
広江「解明されてはいない。ただ、転移が起きる場合に特定の電磁波が観測されるらしいことはわかった。」
まさと「ああ、それで、昨日はあの場所に。」
広江「そういうことだ。事前に何かが現れるか何かするのは判っていた。」


そうか。事前に転移があることがわかれば対処は出来る。
未然に大事故などに繋がらないようにしたり、いたずらに情報が広がらない様にする事も出来る。
道理で、今まで、その転移に関する情報が流れていないわけだ。

まさと「じゃぁ、情報は、今はまだ止められてるんですね。」
高砂警部「ああ。そういうことだよ。君らも含めての当事者以外は知らないことばかりだ。」
広江「で、昨日のことだが。君は大きな刃物を所持してたようだが。どこに隠しているのだ? あれは、大き過ぎる。」
まさと「え、不法所持・・・ですか?」
広江「まぁ、そういうことになるな。出しなさい。」
まさと「・・・・・・・・びっくりしますよ。」
広江「出しなさい!」
まさと「はいはい。・・・・・・・・くさなぎっ!」


俺は、腕を突き出してくさなぎを呼ぶ。すっと俺の手の内に現れるくさなぎ。

広江「なっ!!??」
高砂警部「なんと!」
まさと「こいつは・・・俺が呼ぶと出てくるんです。出て来てない時どこにあるのかはまだ判りません。」


すっと消える、くさなぎ。

広江「・・・・・それでは、押収する事も出来んのか。」
まさと「残念ながら、そういうことだと思います。あと、同種の盾があります。」
高砂警部「あ・・・・・今のは、護身用のナイフ・・・・という事にしておこうか。普段ぶら下げて歩いてるわけで無し。」
広江「警部!」
高砂警部「まぁまぁ。どうしようもないでしょ。それに、彼らはこの転移現象の中心に近いところで自分を守らなきゃいけないんだ。あれは、護身の為の物でしょう?」
広江「・・・ですが・・・。」
高砂警部「ねぇ、警視総監。特例として認める訳にいきませんかね。私らの監視下におくと言う事で。」


警部はマジックミラーのほうを向いて伺いを立てる。

???『よかろう。もし、なにか事件の引き金になる様であれば、その時は彼の身柄を剣ごと拘束せねばならなくなるが、その危険性は話しを聞く限りは少ない様に思う。監視下に置くという件を重視するならば特例を認めよう。』

スピーカーから声が響く。
ほんとに居たのね。ミラーの向こうに。はったりかと思ってました。

高砂警部「はい。では。うちの特捜部から人員を裂いて同行でもさせましょう。」
広江「・・・・・わ、私ですかっそれはっ。」
まさと「えっと、なんで、そういう警部補がということになるんですか?」
高砂警部「いや、うちはまだ人員不足でね。私と警部補だけなのだよ。うん。」
広江「ああ。他にも仕事があるというのに。」
まさと「ああ、自動的にそうなっちゃうんですね・・・。」


落ちこんでいたかと思うと広江さんはすぐ復帰して、俺の方を向く。

広江「まだある。昨日は、剣だけではなく。別の女性が同行していたと思うが。ビルをひとっとびする女性が。」
まさと「あ。そ、それは。」

その時だった。
遠くで爆発音が聞こえ、足元が揺らぐ。

まさと「なっ。これ、近くで何か!?」
広江「そうらしいな。ちっ。電磁波の監視がここからでは出来なかったか。お前達はここに居ろ。様子を見てくる。」


広江さんが部屋を出ようとしたときだった。
恐らく桜田門交差点側に面してると思われる壁が轟音と共に吹き飛んだ。
表に居る何かが警視庁の庁舎に爆発で穴をあけたらしい。

まさと「うわっ。いくらなんでも、こりゃ・・・。」
広江「き、気を付けろっ。穴から頭を出すなっ。」
まさと「そうもいかねぇでしょ、この場合。状況を確認しないと。あ、盾出しとくか。・・・みかがみの盾!」


現れた盾を持って、じわじわと穴に近づいて、下を見下ろす。
すると、交差点内で、今まで見たことも無い、大きな人形をした魔獣らしいのと、どこから見ても子供にしか見えない何かが火花を散らしながら肉弾戦を展開していた。

まさと「なんだよ・・・ありゃぁ・・・見たこと無いやつだぞ・・・。」
広江「私もはじめて見る。あの小さいほう・・・ロボットか? 金属質の様だが。昨日のあの女でも無いようだが・・・。」
まさと「ああ、昨日のなら、ほらそこに。」
広江「ん・・・・・?」


指差されて改めてミュウを見つめる広江さん。

広江「・・・・あ。」
まさと「ミュウ、行くか?」
ミュウ「止めないといけないよね。この穴から出るよ、この高さならなんとかなると思うし。」
まさと「おう。悪いが俺も下ろしてくれ。」
ミュウ「わかってる。じゃ、5メートル下がりましょう。はいはい。急いで。」
まさと「ああ、って、これじゃ、ほとんど壁に張り付いてるような物だな。」


促されて、警部さんも広江さんも訳がわからないまま壁に張り付く。

広江「な、何をやるのだ?」
まさと「って、おいミュウ。ブースター持ってんのか、手ぶらだろお前。」
ミュウ「ふふふぅん。持ってるよ〜。女のコは隠すところがいっぱいあるのだよ。じゃ、いくよっ。」
まさと「そ、そうか。」


ミュウは穴の淵に立つと、足を大きく開いて立ち・・・。

ミュウ「瞬っ着っ変身っ!」
まさと「なっ、まさかっ!」
広江「ええっ、まさか!」
ミュウ「ミスティィーック・ミュウッ!!」


なんと、どこかで見たような見なかったような腕をぶんぶん振りまわしてのポーズを取ったかと思うと、ミュウはミスティックにヒーロー変身を遂げた。
そうか、ビデオ見まくりの成果が、こういうところで出てしまったというわけだ。

まさと「ヒーロー変身を体得したか・・・っておい。装着の掛け声違ってるのになんで動作すんだよ。」
広江「こ、このコが・・・・。昨日・・・の・・・。」
ミュウ「なんでって・・・んー・・・・やっぱ。愛と正義の為? なんてね。んじゃ行くよ。」


ミュウは俺を脇に抱きかかえると穴から外へ飛び出して、弧を描く様に飛んだ。

まさと「おお。ちゃんと飛べてるじゃねぇか。」
ミュウ「うん。昨日の練習のおかげだね〜。うまく行ってる。」


交差点のほうでは小さなロボットみたいな女の子が魔獣相手に奮戦している。
見ていると、その戦法はミュウがエルフの村で見せた物に限りなく近い。
それにプラスすることの、体のあちこちからロケットか何かを噴射して、加速度を上げてキックを繰り出すなど、その攻撃は多彩だった。
魔獣にさほどダメージは与えられてはいないようだったが、足止めすることは出来ていた。
魔獣は、応戦するだけで、他を気にする余裕など無い様子だった。

まさと「あれ、なんか、お前の戦い方に似てないか?」
ミュウ「んー。そういわれて見れば確かに。えっと、ちょっと離れたとこに降りるよ。態勢整えてから掛かるから。」
まさと「ああ。」


交差点から少し離れたところへ向かってミュウはゆっくりと下降して行く。
その間も、女の子はいや、ロケットが噴射出来るんだ、あれはロボットに違いない。
そのロボットは賢明に魔獣に攻撃を掛ける。しかし、どうにも魔獣に痛手を負わせられない。
良く見ると、ロボットの攻撃は全て魔獣の少し手前で止まっている。
まさか、この魔獣・・・・。
ミュウが軟着陸し地上に降りた俺はミュウに気になったことを話してみた。

まさと「あの魔獣。バリア、障壁持ってないか?」
ミュウ「ん? あ、そうだね。ちゃんと拳入ってないし。じゃぁ、やってみるかなぁ。」
まさと「な、なにをだ?」
ミュウ「ちょっとね。思いついたことがあるんだ。出来るかどうかはわかんないけど。まぁ、見てて。」


ミュウがそういった時。とうとう魔獣の爪がロボットを捕らえた。
飛ばされガードレールにぶち当たるロボット。
それを見たミュウは、魔獣のほうを向くとすっくと立ち。腕を体の前でクロスさせた。

ミュウ「ソーーーーサル・ウェェェイブッ!!」

ミュウの掛け声と共にあたりに高周波のような物が響く。
そして、それが魔獣にまで届くと、魔獣の周りにあったらしい障壁が結晶化し、パリンと音を立てて粉微塵に吹き飛ぶ。

まさと「すっ、すげっ。」
ミュウ「そこまでよっ!」


自分の障壁が破られたことに気がついた魔獣は、ミュウのほうを向き直る。

ミュウ「世の為人の為愛の為! 荒ぶる魔獣は、このミスティック・ミュウが許さないっ!」

また変身した時の最後のポーズを取る。と、ミュウの背後でどーんと爆炎が上がる。
ひょっとして、ポーズ取ったときに後に向けてシュートか何か撃ったのか?
なんにしても、カッコ良すぎ。
つーか、バレたら後で怒られないか。今の。

ミュウ「でぇやぁぁぁぁあああああああああっ!!」

台詞を言いきるとミュウは猛然と魔獣目掛けてダッシュして行く。
遅れまいと俺も、くさなぎを呼び出し、後を追う!
魔獣も、こちらを敵と定めて、突進してきていた。

ミュウ「ミスティィィック・ボンバァァァーーーーッ!!」

ミュウの最初の一撃、ボンバーが魔獣の肩口に決まる。
が、障壁が無くなったとはいえ、さすがは最新型、とでも言うのだろうか、魔獣はバランスを崩し、走るのをやめ、その場に立ち尽くす。
その程度しかダメージを与えられなかった。なんて固いやつ。ロボットが苦戦してたはずだ。
そこへようやく俺も掛けつける。
立ち尽くしている魔獣の隙をついて走ってきた勢いで、くさなぎを振るう。

まさと「どぉりゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!」

くさなぎは魔獣の足を切り裂き、魔獣はその場にしゃがみこむしかなかった。
次は、またミュウの攻撃が入るだろう。あいつならきっとそうする。
そう思って当たりを見まわしたがミュウの姿が無い。

ミュウ「やぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

頭の上からミュウの声がする。
見上げると、高空まで舞い上がったミュウが、足を先端に光の渦を描きながら回転、魔獣目掛けて猛スピードで下降してきていた。
大技だ。空を飛べるようになったから出せる大技。

ミュウ「メテオ・ドライヴァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」

光の渦になったミュウが魔獣を貫いた。
飛行能力による加速、重力による加速、回転による破壊力、それに、魔法力による爆裂。
これほどの大技は無いかもしれない。
大技を受けた魔獣は交差点に大きな窪みを残して、破裂、そして空中で泡になって消えて行った。

まさと「ミュウは!」

ミュウは交差点に出来た窪みの中心に、すっくと立っていた。そして、こっちを振り向いてにっと笑う。
俺が、ミュウの近くまで駆けて行くと、ミュウはこっちに小走りに近づく、そして腕を上げた、俺も同じように腕を上げる。
そして。

<ぱぁん!>

俺とミュウはお互いの手の平をぶつけ合った。

「おっしゃぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
まさと「あっと、そう言えばあのロボットは?」
ミュウ「あ、あそこ。」


ロボットはガードレールのところで座りこんでいる。動けないのか。
近づいて行くと。ロボットは、俺立ちを見て微笑んだ。

ロボット「無事だったんですね。よかった。」
まさと「無事って・・・・? はじめて会うと思うんだが。」
ロボット「そんなことはないです。まさと様。ミュウ様。」
ミュウ「んー?」
ロボット「私です。マーガレット。」
まさと「な、なに! マーガレットぉ!?」
マーガレット「はい。強化改造してもらいました。マーガレット2(に)です。」
まさと「あの、マーガレットなのか?」
マーガレット「はい。」
ミュウ「これが、あの? えー?」
まさと「マーガレットだって言うなら、パール達はどうした。こっちに来てるのか?」
マーガレット「いえ・・・け・・・ガガ・・・けど・・・ガ・・・・もうすぐ・・・ガガガガガ・・・・・ザッ・・・・・。」

それ以上はマーガレットだと言うロボットは喋れなくなった様だ。
さっきの魔獣の一撃か何かでどこか壊れたんだろう。

まさと「あ、話せなくなっちまったか。立てるか?」

そう俺が聞くと、マーガレットは微笑んで、ゆっくりと立ちあがろうとした。
が、ダメだった、上手く立ちあがれない様だ。がくんと腰を落とした。

まさと「あ、無理するな。かなり痛んでるから。」

そうしているうちにマーガレットのボディが光り出した。
その事にマーガレット自身も驚いた様だが、すぐ笑顔に戻って、こちらに会釈する。
そして、マーガレットの姿は光の中に消えた。

まさと「て、転移した・・のか?」
ミュウ「飛んでっちゃった・・・のか。色々聞きたかったんだけどな。」
まさと「そうだな。けど、なんか、もうすぐ、とか言ってなかったか?」
ミュウ「ああ、いってたね。また・・・会えるのかな・・・。」
まさと「だと良いな。」


で、ここまで状況が進んで、何か違和感があるのにようやく気がついた。

まさと「ああ、そうか。なんか変だな〜と思ってたら。」
ミュウ「なに?」
まさと「それ。髪の毛。色は元の赤に戻ってるけど、髪形がストレートのままだぞ。」
ミュウ「あー、ほんとだ。変?」
まさと「んー。ミスティック・ミュウというより、ミステイク・ミュウか?」
ミュウ「あ、ひっどぉ。せっかく綺麗にしてもらったのに〜。」
まさと「いや、かわいすぎてな。そのカッコにあってないんだ。これが。」
ミュウ「んー。ああ、ひゃーほんとだー。なんか変。」

窓ガラスに写った自分を見て俺の言ってることにようやく気がつくミュウ。
その場ですっと変身をといて法子を名乗っていた姿に戻る。

ミュウ「こっちは?」
まさと「ん。ああ、そっちは良いな。かわいいぞ。」
ミュウ「わ。ほんと? さっきエステいってから来たの。耳もこうやってカチューシャではさみこめば、ほぉら。別人。」
まさと「わはは。最初、ほんと誰かと思ったぞ。」
ミュウ「エステティック・ミュウとでも呼んでくれたまへい。」
まさと「どわは。いいな。その呼び方。まんまだが面白い響きだ。」

そこへ、ようやく階下へ降りてきた広江さんたちがやってくる。

広江「何ぼさっとしてるの。早くこっちへ。」
まさと「あ、そのまま居たらやばいか。」
ミュウ「ああ、そだね。」


広江さんの誘うまま、近場の地下駐車場へのスロープへ掛け込み隠れる。

広江「あなたがそうだったとはねぇ。一体なんなの、あれは。」
まさと「どれ?」
広江「えっと、さっきの化け物と、彼女のミス何とか。」
まさと「んー。さっきのはどうも新しいタイプの魔獣らしいです。やたら固い上に、バリア持ってたし。」
広江「ま、魔獣?」
まさと「ええ。そう呼んでます。正確には生き物じゃないらしいんですけど。ゴーレムとかそういう表現が合うのかなぁ。」
広江「そういうものだったか。で?」
まさと「ああ。さっきこいつが変身したのは、ミスティック。変身アイテム使った、まぁ、パワードスーツみたいな物ですね。俺の知り合いが作ったもんです。その、向井珠美が。」
広江「パワードスーツ! 向井!? 彼女は死んだはずじゃ・・・。」
まさと「いえ。生きてます。ティラに居るはずです。事故の時に向こうに転移してそのまま向こうで生活してます。竜崎も向こうで元気にやってるはずですよ。これ、親御さんに知らせてあげたほうが良いのかなぁ?」
広江「はぁ。想像を超えたものばかりで。どう扱っていいか。さすがに即答は難しい。」
まさと「あ。消えちゃいましたけど、さっきまで魔獣を牽制してたロボット。あれも、どうやら向井珠美作のようです。確認までは出来なかったけど。」

ちょっとため息をつくような仕草をして、それから再びしゃきっと背を伸ばすと広江さんは右手を差し出してきた。

広江「・・・・これからも、手助けお願いできますか? その、危ない目に合わせるのは本意ではないのだけど。特に情報面。判らないことが多いから。」
まさと「ああ、気にしないで下さい。乗りかかった船なんで、どの道。やれることやるだけだから。」

広江さんの手を握り返す。

ミュウ「えっと? 味方ってこと?」
まさと「ああ、そうだ。」
ミュウ「あ、じゃぁあたしも。」
広江「そうね。よろしく。」

ミュウも広江さんに向かって手を差し出す。広江さんがそれをまた握り返す。

広江「それから・・・その、変身ユニットのことも調べたいんで、また上に上がってもらえる? もうちょっと詳しい話しもしたいし。今回のこととか規模が大きくなってきたから相談も必要そうだし。」
まさと「ああ、それはいえてるなぁ。交差点1個ぶっつぶれたわけだし。」
広江「交差点一つで済んだのかも知れないけれどね。まぁ爆弾テロと言うことになるでしょうね。いつまでも隠せる物でもないでしょうけど。」

その後は、取調室ではなく、ちゃんとPT特捜部の本部で話しをさせてもらった。晩飯つきで。
こちらから携帯で連絡をして、事が無事済んだことをマイテーに居る皆に伝え、今出来ること、今後についてのご相談に集中した。
色々と話しはしたものの、やはり、ただ使っているだけの俺達では、明確な説明にならないことが多く。
謎はまだまだ多いという結論に行きついた。
それに、今後もさっきのような強力な魔獣が出て来るようなら、いつまでも隠し通す事は出来ない。
情報公開の方法とそのタイミングも早急に決めなければいけない。
という方針だけは決定した。
明日以降は、時間の許す限り、小染広江警部補が俺達の傍に張りついてフォローしてくれるらしい。
高砂警部は、その他の事務的な準備などに当たるという。
そんなあたりが決まったところで、俺とミュウは警視庁を離れた。