第4話 遠き異国の地にて #3 狼少女現る

あれから、ミュウ達はどうしたのか、ティラはどうなったのか。
俺には知ることができない。
実家に軟禁されたまま、気になるばかりで、本当に落ち着かない日が続いた。
三日目のこと。
促されて、とうとう、法子にだけは何があったのか、話した。鎧が本物だと、法子が気づいたから。

法子「・・・・・・・・・ふぅん。ほんとに?」
まさと「ほんとだよ。」
法子「嘘っぽいなぁ。」
まさと「嘘は言ってねょ。」
法子「異世界はともかく、アニキが、そんなに周りを女の人に囲まれるなんてところがねぇ・・・。」
まさと「・・・・いい、妹だなお前。」
法子「まぁ、しかたないね。それじゃぁ、お父ちゃんは、言っても信じないわ。」
まさと「だろ。どうしたもんかなぁ。」
法子「物的証拠をそろえて証明するか、ほとぼり冷めるか。どっちかしかないね。」
まさと「はぁ。このままだと単位が・・・留年確定だなぁ。」
法子「いいじゃん。そのままおじさんとこで働けば。」
まさと「それは最後の砦なの。」
法子「そーですか。けど、不思議な話だねぇ。スサノオが他の星に行ってたとか、そういう話しでしょ?」
まさと「まぁな。まぁ、親父には黙っとくしかないかぁ。」
法子「そう思うよ。絶対、理解できないだろうし。のうみそ、筋肉だし。」
まさと「・・・・お前も、無茶苦茶言うようになったなぁ。」
法子「アニキほどじゃないよ。」
まさと「はいはい、そーですか、そーですか。」

顔を合わせては親父に頭をぶん殴られる毎日が続いた。
そして、実家での軟禁4日目のTVのニュースで、それは、俺達の前に飛び込んできた。
狼少女現る。
この数日、この近所で、狼少女、もしくは得体の知れない化け物が何件も目撃されているらしい。
俺も、外さえ出歩いていれば、それに出会っていた可能性はあるが。
ニュースを良く聞いていると、一番被害が多いのは、コンビニの食物らしい。
それと、決まった飲み物が一品目。
コーラ。
俺は、このコーラという、キーワードにピンと来て、読みもしなかった、ここ数日の新聞を読み漁った。
一縷の望みを託して。

ミュウがこっちに来てるかもしれない・・・・・。

俺が、熱心に新聞を読む姿がよほど珍しかったんだろう。
法子が声を掛けてきた。

法子「アニキ。抑鬱でとうとう壊れた?」
まさと「ぃやかましいぃ! 探し物してんだっ!」
法子「なに?」
まさと「あ、狼少女。写真とかないかなと思って。」
法子「へぇ。興味あるんだ。けど、新聞にはないよ、写真。」
まさと「・・・・だめか。」
法子「どしたの?」
まさと「いや、思い当たるとこが多くてな。こっちに来てるのかもしれないんだ。」
法子「誰が?」
まさと「・・・・・・・異世界の・・・相棒。」
法子「ふぅん。あ、そうだ。スクープ誌!」
まさと「なに?」
法子「スクープ誌で写真載ったらしいよ。見てないけど。」
まさと「どれだっ?」
法子「んっと。キマエラか、どスコープだったかなぁ?」
まさと「さんきゅうっ!」


俺は、外出禁止令も忘れて、コンビニに走った。
そして、雑誌コーナーのキマエラ、どスコープを読み漁った。
店員の冷やかぁな視線もものともせず。
あった。
キマエラにそれらしい写真が載ってる。
ただ、写り自体はぜんぜん良くない、ピントは来てないし、とっさのことだったんだろう、手ぶれがひどい。
おまけに、モノクロだった。
色で判断しようと思ったのだが、それはかなわなかった。
仕方ないので、そのキマエラだけ買って、コンビニを出た。
店員の目が殺気を帯びてたから。
とぼとぼと家への道を歩く。
そう言えばこの辺だった。
15年前ミュウとはじめて会ったのは。
幼稚園児だった俺が無謀にも不良に戦いを挑み、敗れ、そして、ミュウに助けられた路地。
随分と町並みは変わったが、この辺りだ。

まさと「あの神社、残ってんのかな?」

とにかく懐かしさもあったので、その神社に行ってみることにした。
神社の近くまで来た時、なにやら騒々しく駆けて来る人が居た。
さっきのコンビニの店員だ。
気になったので、呼びとめて聞いてみた。

店員「あ、あんたさっきの。それよりっ、狼少女がでた、うちの弁当と、コーラをかっさらって行ったんだ。こっちに来たみたいなんだが、見なかったかっ?」
まさと「で、でたのか! よ、よし、俺も探す!」

店員と分かれて神社の周りを一回り。
とりあえずは、見かけない。
その後も、近くを練り歩いて見たが、一向に姿はなく。
もう諦めて店に戻るという、店員と別れて、俺は神社に入った。
15年も経っているから、その神社は結構ぼろぼろになってる。
地主と何かあったらしく、今は放置されてるとその店員からの情報収集も忘れない。
確かにここだ。
この神社の賽銭箱の前で、ミュウとコーラを飲んだんだ。
ゆっくりと近づいて、そこの階段に座る。
確かにこの景色だ。
で、目の前に・・・・・・薄汚れた犬が一匹。
俺に向かって尻尾を振っている。

まさと「?」
犬「わふっ。」


聞き覚えのある鳴き方。

まさと「!・・・・・・・・ぽ、ポチか?」
犬「わふっ。」
まさと「ぽるぐれ・・・・ああ、やっぱ言いにくい。」
犬「ニヤ。」
まさと「笑ったか? 今、お前笑ったか?」
犬「わふっ。」

その犬はたっと神社の裏手に走る。
俺は慌ててそれを追う。
犬は角、角で、俺がついて来てるのを確認しながら、どんどん裏手へ。
そして。

????「もう、ポチぃ、だめだよぉ、勝手に出ていったら、見つかっちゃうんだからねぇ。」

一人の少女がその犬を抱きかかえる。

まさと「し・・・・・・・・・・・・・・・シルフィー・・・・・。」
シルフィー「ふぇ? ・・・・・・・・・あ。・・・・・・・あ。」
ポチ「きゃん!」

とっさにポチを落としてしまうシルフィー。
そしてシルフィーは俺に向かって駆け出してきていた。
俺は、シルフィーを抱きとめる準備をしよう・・・・としたその時、すぐ横の植え込みからなにかが飛び出してきた。

???「でやぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
まさと「うわぁっ。」
シルフィー「ああ、だめぇっ!」
???「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
まさと「お?」
???「ま。ま、ま、ま、ま、ま・・・・・・・まさとっ!!」
まさと「お、おう。久しぶりだな。」

横合いから飛び出してきたなにかは、ミュウだった。
服なんかもう、びりびりだったが。
髪の毛も薄汚れてどろどろだったが。
俺の前で呆けて立っているのは間違いなくミュウだった。

ミュウ「シルフィーの声と、ポチの声が聞こえたから、てっきり暴漢かと思った。ややこしいなぁもう。」
まさと「最初に言うことがそれかい。」
ミュウ「そうだよっ。そうだ・・・よ・・・そ・・・・。」
まさと「あ、おい。」

ミュウはこれでもかという勢いで、俺にしがみついてきた。
そして。

ミュウ「ぅ・・・ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!」

これでもかって大声で、泣き始めた。
あの、エルフの村で、泣き声を殺していたミュウが、今度は大声を出して泣いた。
しかし、その状況もすぐ打ち破られた。

???「まさとぉっ! お前なにやったぁぁぁぁぁぁっ!」

すぐそこに腕組みをして凄い形相の親父が立っていた。
それからはもう凄いことになった。
何を勘違いしたのか、親父は俺を凄い勢いで殴り出すわ、それをまたミュウが勘違いして、俺の親父ぶっ飛ばして大乱闘に進展するわ、シルフィーは余りの状態に泣きべそかきまくるわ、ポチは気絶したまんまだわ。
よく、死人出ずに済んだと思う。

シルフィー「ぐすっ・・・・くしゅ・・・・。」
親父「すまん。」
まさと「すまんじゃねぇ。」
ミュウ「ああぁぁ、いいパンチもらったわぁ・・・・。」
まさと「お前も喜んでんじゃねぇ・・・。」
ポチ「うー・・・・。」
まさと「ポチ、いい加減起きろ・・・・。はぁ、まったくもう。」
法子「あ、いたいた。」

法子が俺達を見つけて境内に入ってくる。

法子「ふーん。まぁ、いいんじゃない? とりあえず、うち帰えろ。ほら、あんた達も。」

法子に諭されて家路につく。
が、途中で、さっきの店員に会った。

店員「あっ。おいこらっ。」
親父「おう? なんやこら?」
店員「ひぃぃ。」


すまんな。店員、強暴な親父で。
結局、店員と話して、適当な理由つけて事情は理解してもらった。
で。

親父「いくらだ?」
店員「は?」
親父「この娘が持っていったもんの値段だ。」
店員「え、あ、鯖煮込み弁当三つと、こ、コーラ3本で、しょ、消費税込みで、1575円。」
親父「そうか。・・・・・・・・ほれ。」

親父はポケットからしわくちゃのお札を取り出して、店員に渡した。

店員「え?」
親父「それでいいだろう。あれは、俺が買ったんだ。」
店員「え、でも、おつりとか出せないっすよ。店もどんないと。」
親父「釣りはいらん。お前がもらっとけ。」
店員「え? いいんすか?」
親父「ああ。」
店員「あ、じゃぁ、えっと。ありがとぉざっしたぁ〜。」

店員はお金を持って店のあるほうへ走って行った。

まさと「親父・・・・・。」
親父「・・・帰るぞ。」
まさと「あ、うん。」
法子「へっへー。かっこいいっ!」
親父「ばっ・・・・ふん。」

で、帰るなり。
ミュウ達の服のサイズを法子に調べさせ、まだ店は開いてるからと、法子にミュウ達の服を買いに行かせ、さらに、たきたての風呂にミュウ達を押しこむと、親父は、俺を、目の前で正座させた。
ポチは庭で寝転んでる。やっぱり犬。

親父「説明はあるんだろうな。」
まさと「あ、いや、説明して・・・・理解できるんか?」
親父「う・・・・・・自信はない。が、聞かせろ。」


仕方ないので、もう、話すことにした。
ミュウ達って物的証拠も出来たことだし、親父だって、少しは理解できるだろう。

まさと「・・・・てとこで、こっちに戻ってた。気がついたら。で、その後、法子に見つかって、事務所で、親父に殴られ倒したんだよ。」
親父「・・・・・・・・・・・・もっと、簡単にならんか?」
まさと「ならんわーーーーーっ!」
親父「で、どっちなんだ。いや、両方か?」
まさと「なにがだ。」
親父「隠すんじゃない。」
まさと「何をだ。」
親父「だから、どっちがお前のこれかと聞いてるんだっ!」


そういいながら小指を立てている親父。

まさと「ああ、そういうことか。まだ、そういうんじゃねぇよ。何を聞くのかと思えば。」
親父「お前・・・・そんなに奥手だったか・・・。」
まさと「なっ。手が早いほうが良かったんかい。」
親父「いや、仲がよさそうだった物でな。」
まさと「ったりめぇだ。一緒に死線をくぐった仲間だっ。」
親父「言うようになったな。」
まさと「・・・そりゃそうだ。何度も死にそうな目にあってる。一回三途の川渡りかけたみたいだし。」
親父「・・・・・・・そうか。」

これで、納得してくれるといいが。まぁ、嘘は言ってないぞ。脚色はしたが。特に三途の川辺り。

親父「で、ほんとのとこ、どっちだ?」
まさと「もどるなっ!」

で、法子が戻ってきた頃、ちょうど、ミュウ達も風呂から上がってきた。
小奇麗な服に着替えてミュウ達もさっぱりした様だ。
なんか、親父が台所からビールやらつまみやらいっぱい持ってくる。

親父「まぁ、遠慮なくやってくれ。」
ミュウ「くんくん。あ、お酒だ。もらう〜。」


ミュウはビールの匂いをかいで、気に入ったらしく、早速ぐびぐびやっている。
と、ここで、大変危険な要因に気がついた。

親父「さぁ、そっちの嬢ちゃんも遠慮なく・・・。」
シルフィー「はぁい。」
まさと「・・・・・・・はっ! やめーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ! 親父、この子には飲ませるな。」
親父「だめなのか?」
まさと「ちょっと、いけるクチ過ぎてな・・・・。」
シルフィー「ぶー。」
まさと「シルフィーは、この、こ、コーラで・・・。なっ。」
シルフィー「くすっ。はぁい。」


ええい。ここで、シルフィーにトラになられてなるものか。
あの、身の毛もよだつシルフィー大トラ騒動を覚えているかたはおりゃりょうか?
そうなったら、どんどん面白い話しに展開しそうで、おっかなくってしょうがないぞ。

法子「あれ? アニキ。ここ置いといたコークハイしらない?」
まさと「・・・・・・・・・・おーまいがっ。って法子、お前、未成年だろうがっ。」
法子「ちっ。」
まさと「は。」

恐る恐るシルフィーのほうを見る。

シルフィー「んでね、んとね、松とね、竹とね、梅があってねぇ〜。松は凄いんらろぉ〜。」

ああ、万事休す。

シルフィー「まぁ飲め。おやじ。」
親父「おう。」
シルフィー「でな、松はなぁ、刀で切るんら、こうっ、こうっ、こうっ。」
親父「い、痛そうだな・・・それは・・・・・・。」
シルフィー「でなっ、竹は、くすぐったいんだお〜。」
親父「おお、そうか。」
シルフィー「梅はなぁ〜。忘れた〜。」
親父「そうかぁ〜。」
まさと「ああ、しょうもない話しで良かったよ・・・・。」

そうかと思うと、今度はミュウが親父に腕相撲の挑戦状。

ミュウ「ぬぅうううううううううううううううううううううっ!」
親父「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


一瞬、なかなかいい勝負に見えたが。

ミュウ「へへ・・・・・おりゃっ!」
親父「うおっ!」

ミュウの圧勝。さすが怪力岩投げ女。

ミュウ「ん? なんかいった?」
まさと「いんや。」
親父「おお。びっくりしたぞ。細腕で案外やるもんだな。」
ミュウ「おう。」

そうしてなにやら騒がしい宴会は夜遅くまで続いた。
深夜。
ミュウとシルフィーはそれぞれ、毛布に包まって、よく眠っている。
ここ数日は、神社の裏にある、防空豪の跡で寝泊りしてたらしく、熟睡するのも久しぶりだろう。
その様子を眺めてると、親父に声をかけられた。

親父「で、どうすんだ。これから。」
まさと「ああ、うん。東京、戻ろうかと思ってる。」
親父「なにか、あるんか?」
まさと「わかんねぇ。けど、こいつらがこっちに来てるんなら、東京で調べなきゃいけない事もあるし。」
親父「・・・・・・そうか。困ったら、大造に相談すんだぞ。」
まさと「あ、うん。まず住むとことかあるしな。」
親父「ああ、戻るなら、朝一で切符用意しといてやる。」
まさと「うん。・・あ、4枚な。」
親父「なんでだ、嬢ちゃん二人と、お前・・・。」
まさと「ああ、あいつだよ。見たらびっくりするぞ。・・・・・おい、ポチ。起きてるか?」
ポチ「わふ?」
まさと「お、起きてたな。悪いけど、こっち来て人間になってくれ。」
ポチ「わふっ。」


ポチはパタパタと上がりこんできて、ポンっと変身。

親父「ぅお・・・・・・。」
まさと「な、こいつも連れてく。仲間だから。」
親父「・・・・はぁ、たまげた。わかった、4枚だな。」
まさと「うん。ごめん。」
親父「しかし、お前が勇者ねぇ。」
まさと「似合わねぇだろ。」
親父「ああ、ぜんぜんっ。」
まさと「そうなんだよ、やんなきゃなんない事も出来ないまま戻っちまったし。」
親父「いいんじゃねぇか。やんなきゃなんない事が見えてるんならよう。」
まさと「んー、そうかな。」
親父「見えてりゃそのうちなんとかなるって。それよか、まぁ、なんだ。あんまり嬢ちゃんたち泣かすんじゃねぇぞ。この放蕩息子。」
まさと「お。あ、ああ、そうだな。じゃぁ、俺ももう寝る。」
親父「おう。」

翌朝。
学校があるから見送り出来ないと、しぶしぶ登校していく法子を見送った後、俺は、親父に思いっきり頭下げて家を出てきた。
今は、登り新幹線の中だ。

ミュウ「へー。早い早いっ。」
シルフィー「ふぅぅぅぅん。」


二人とも何かにつけ、興味深そうだ。
ポチは・・・人間の姿でそわそわしながら座ってる。

まさと「落ちつかねぇか?」
ポチ「ええ、まぁ。」
まさと「東京まで、あと1時間ほどだ。耐えろよ。」
ポチ「・・・へい。」

東京に着くと、人の多さに皆びっくりした様だ。

ミュウ「な、なんで、こんなに人が居るのよっ。うわぁ。」
まさと「なんでってもなぁ。まぁ、増えたんだよ。長い歴史の中で。」
シルフィー「あの箱、なぁに?」
まさと「ああ、自動車、車、だ。まぁ、マーガレットの地上専用版みたいなとこだ。引っ張らなくても動く、荷車みたいなもんかな。」

そうやって、添乗員気分でなつかしのアパートへ。
アパートに着いたらとにもかくにもマイテーの事務所にいって、挨拶しておくことにした。

ひとみ「彼女?」
まさと「・・・・やっぱ、そうきますか。」


で、ここで、いきなり連れて行ったのは間違いだったと気がついたのは、社員総出の歓迎パーティになってからだった。
そうなんだよね。
ミュウって、開発中のゲームのヒロインにそっくりなのだった。
こりゃ迂闊。
おじさんは目を丸くするわ、絵師の小染さんはあうあういってるわ、高井田さんは卒倒するわ、他のバイトどもは記念撮影はじめるわで、大騒ぎ。
呑気に構えてるのは、ひとみさんくらいのものだった。
けどまぁ、俺の同居人として、歓迎はしてもらえたので、結果オーライだけど。

ひとみ「だけど、まさと君も隅に置けないね〜。」
まさと「ひとみさん。まだ誤解したままなんすか?」
ひとみ「えー、そうでもないよ。」
まさと「そうでもある気が凄っごくするんっすけど。」

ひとみさんは、パーティーの間中、俺とミュウ達を見比べてニヤニヤしてた。
何か良からぬ妄想してそうな気もしないでもないが。

ひとみ「社長! 提案!」
まさと「わぁ。」
丸尾「なに? ひとみっちゃん。」
ひとみ「ソフトに実写で何かおまけつけましょう! 初版特典! コス流行ってるからウケます! ねぇ、ミュウちゃんたちもいいよね? 写真つけるの。」
ミュウ「うー?」
まさと「あ、まだ、ゲームのこととかわかんないと思うよ。」
丸尾「そうだなぁ。まさ坊、明日にでも説明してみてよ。」
まさと「そうすね。まずはパソコン自体知らないんで、そのへんから。」
丸尾「うん。あ、ちゃんと出演料も出せるように考えるからさ。」
まさと「はーい。」

そうか、ひとみさんのニヤニヤはこれか。売上倍増作戦だな。
まぁいいけど。
実のところ、ひとみさんは、マイテーの企画の要でもある。
彼女が居るからマイテーの出すソフトはスタンダードに売れつづけ、経営がうまくいっているのだ。
彼女が寿退社でもしようものなら、その時点で、マイテーが転覆するとさえ言われている。
これでまぁ、住む場所の問題、マイテーとの関係もうまくいけそうだ。
あとは、俺が学校いってる間とか、そういう時どうするかだなぁ。
この辺は、あとで、ミュウ達と、相談してみるしかないか。
で、気がつくと、隠し芸大会になっていたりして。
そこで何を考えたのか、ミュウが、変身しちゃいました。ミスティック・ミュウに。
目が点になる皆。

まさと「あ。いや・・・・・・。これは。」
丸尾「小染ちゃん・・・・次、変身ものやろうかぁ。」
小染「ああ、いいですねぇ・・・・。」
丸尾「高井田くん、変身のエフェクト考えといてね。」
高井田「うぃっす。いいサンプル今見ましたから。」


・・・・転んでもタダでは起きない。さすが。

まさと「あー、とりあえず、ミュウ。こっちの世界は変身するお話はあっても、実際に変身できる人は居ないからな。ほいほい変身しない様にな。」
ミュウ「あ、そーなんだ。てっきりこっちはそういう人ばかりだと。」
まさと「あはは。それはない。」


ああ、一部屋借り切ってのパーティーで良かったよ。
ソーサルブースターを使ってしまったのでは、もう仕方ない。
掻い摘んで、経緯を皆に話した。
その後はミュウの変身で妙な方向へ勢いがついたのか、アニメ、特撮の映像の出るオケ大会に。
ミュウも、興味深そうに映像に見入ってる。

ミュウ「まさと・・・・。」
まさと「ん?」
ミュウ「あたしなんか、まだまだね。ポーズのつけ方がなってないのに今気付いた。」
まさと「あ、そーですか。」
ミュウ「今度、持ってる資料っての見せてね。」
まさと「へ?」
ミュウ「え? ひとみさんにさっき聞いたよ。沢山持ってるって。」
まさと「あ、あれか。あー、うん。俺の部屋に沢山あるから今度な。」
ミュウ「うん。」

要するに、ヲタもの見せりゃいいわけですね。はいはい。
まぁ、確かに何かしらの効果はあるかもしれないけどな。そういう概念のものだし。

丸尾「まさ坊、ほんとありがとうな。」
まさと「あー、まー、あはははは。」


だからって、感謝されてもなー。・・・・・・いいか。喜んでくれてるなら。
とことん、日本て平和なんだなぁと思ってしまった。
その頃。

パール「今のは!?」
ルビー「どうしたの?」
パール「ソーサルブースターの作動ビーコン。」
ルビー「え、じゃぁ? 場所は?」
パール「範囲を特定しきれないけど、ティラから見ると、ちょうど太陽の反対側。よ。」
ルビー「これで間違いないわね。」
パール「ええ。進路そのまま。全速航行。」
少女「了解。進路そのまま。全速航行。」
パール「さぁて。ここはまかせたわよ、マーガレット。私はあっちの開発を進めるわ。」
少女「はい。」


沢山のパネルと、座席の並ぶ広い部屋。
そこで、何かをやろうとしているパールと、マーガレットという名の謎の少女。
ティラのほうでも確実に何かが動いてる様だ。
パーティーを終えて、俺達はようやく、アパートの俺の部屋に戻った。

ミュウ「おっじゃまぁー。」
シルフィー「しまぁすぅ。」
まさと「今更他人行儀でもないだろ。」
ミュウ「あー、まーね。一応。そっかぁ、これがまさとの部屋か。ふぅん。」
まさと「多分、わかんない物だらけだと思うけど、興味あるところから聞いてくれ。全部いっぺんだと大変だろうから。」
ミュウ「そだね。そうする。」
シルフィー「探検探検〜。」
まさと「ところで、ポチ。」
ポチ「わふ?」
まさと「なんとか、上に上がってくれ、というか、慣れてもらわないと困るかもしれない。」
ポチ「わふふ?」
まさと「いつまでもその土間のとこに居ると、ほら。」
ポチ「あふっ。」
まさと「ほら、ドアを開けるときに結構邪魔になるんだ。だから、板の間だけでもいいから慣れてくれ。な。」
ポチ「わふふ。」

ポチは、相変わらず都会の建物とか、そういうものに慣れないらしい。
しぶしぶ、という感じで、板の間に上がる。
まぁ、頑張って慣れてもらうしかないが。
この後は、結局、ミュウと、シルフィーのこれ何?攻撃に遭うんだが、それもまた楽しからんや。
一晩で、ほとんどの部屋の物を説明しきった気はする。

まさと「さて。後は、タマだなぁ。見てないんだよな? ぜんぜん。」
ミュウ「うん。あたしたちはまとまってあの神社ってのに出たんだけど。その時、タマは居なかったし、近くでも見かけなかった。」
まさと「そうか。村に戻るか、こっちのほかの場所に居るか、してくれてるといいんだけどな。」
ミュウ「そだね。」
ポチ「わふ。タマでしたら、さっきから、匂いがします。この近くに来ていそうです。」

ワーウルフに戻って、ポチがいう。

まさと「お、そうか。無事は無事なんだな。じゃぁ、そのうち会えるだろう。」
ポチ「へい。」


これで、ほぼ安心出来た。
ファルネを除いて、あの場所から全員脱出できたことになる。
ファルネは残念なことをしちまったが。
けど、姿が消えてから、声が聞こえるってのも、なんだか。
その辺が気になったので、ミュウ達にも確認して見た。

ミュウ「うん。母さんに会った。厳密に言うと、母さんその物じゃなかったみたいだけど。」
シルフィー「私も見たよ。」
ポチ「私も見ましたね。頑張りなさいと声を掛けられただけでしたが。」
ミュウ「うーん。」
シルフィー「私の時は、もっと気を楽にやりなさいっていわれたのぉ。」
ミュウ「ううーん。」
まさと「どうした、ミュウ。」
ミュウ「いや、あんまり困らせちゃダメだって・・・・・・なんのことなんだか。」
まさと「・・・・・・・・・・そうか。」
ミュウ「え? なに?」
まさと「いや、俺も確証がない。から。」
ミュウ「ええん。わかんないよぉ。」
まさと「じっくり考えりゃいいんじゃねぇか。時間はありそうだ。」
ミュウ「んー。そだねー。」
まさと「結局全員見てそうだな。それぞれ、言われた事が違うみたいだが。ファルネ=ミュウのお袋さんってことでいいのか?」
ミュウ「んー。それも違う気がする。引き継いだとか、そんな事言ってたでしょ?」
まさと「それもそうだな。大体ファルネ自体が俺はぜんぜん理解できてなかった。大きくなるなんてのも知らなかったし。」
ミュウ「そだね。シルフィーは何か知らない?」
シルフィー「んとねぇ。ファルネはぁ、ルーンの使いだって言うのは聞いた事あるよぉ。でも、それだけぇ。おっきくなるのも知らなかったぁ。」
まさと「そか。あと、そうだ、あれ、ぎゅむってなんだ、あれ。」
ミュウ「よくわかんない。いつからか、ファルネはやるようになってた。」
シルフィー「あ。あれかな?」
まさと「どれ?」
シルフィー「怖いやつだよね?」
ミュウ「うんうん。」
シルフィー「わたし。」
まさと「へ?」
シルフィー「あれ、教えたのわたし・・・・・。」
まさと「・・・・・・・・・。」
ミュウ「・・・・・・・・・。」
シルフィー「二人とも顔が怖いよぉ・・・・・・。」

そうか、犯人はこいつか。
まぁ、あれで助かったのだから、お手柄だが。
ファルネが消えたことについては特に聞かなかった、多分、誰も答えられないだろうから。

まさと「あと、くさなぎとかなんだけど。俺がこっちに戻った時はなくなってた。跡形もなく。なんだと思う?」
ミュウ「えっ。りゅうのまもりはあるのに。ほら。」
まさと「だよな。ああ、一体どうなっちまったんだか。くさなぎ〜・・・・。」

そのとたん、ドズンと音を立てて、くさなぎがたたみに突き刺さって現れた。

まさと「うわっ!」
ミュウ「ひゃぁ。」
シルフィー「あやや。」
まさと「え、えーっと・・・・・。今、急に出たよな?」
ミュウ「うん。」

しばらくすると、すっとくさなぎは消えた。

まさと「おいおいおい。消えたか!? 今消えたか!?」
ミュウ「う、うん。」


現れては消えたくさなぎ。
これはひょっとして・・・・。
俺は、手を前に突き出して、叫ぶ。

まさと「こほ・・・・・・・・・くさなぎっ!」

現れた。
柄の部分が俺の手の位置になるように。
俺はくさなぎを握る。

ミュウ「ひょっとして。」
まさと「多分。俺が呼べば現れる。集中力が途切れると、ほら。」


気を抜いてみると、手の中からくさなぎが消えた。

ミュウ「ほー。じゃぁ盾は?」
まさと「ああ、今やってみる。・・・・・・・・・みかがみの盾っ!」


出た。
みかがみの盾を掴む。

まさと「なるほど。やっぱりそう言うことらしいな。普段はどこかにあって、俺が必要に感じた時に出てくるとかそういう。」
ミュウ「・・・・・曲芸。」
シルフィー「ぱちぱち。」
まさと「ああ・・・・・・・・・なんとでも言ってくれ。」

そこで、盾も消える。集中力切れたから。
まぁ、なくなったわけじゃないのが幸い。
必要な時は出てきてくれる。それで充分だ。

まさと「まぁ、都合はいいかもな。こっちの世界ではあまり剣を持って歩いてると、怒られるから。」
ミュウ「はぁ。そう言えば剣持って歩いてる人は居なかったねぇ。じゃぁ、いいんじゃない?」
まさと「そうだな。何事もなけりゃ呼ばなきゃいいし。普段持ち歩く手間もないからな。」
シルフィー「ぱちぱちぱち。」
まさと「はぁ、とりあえず、やれやれってとこか。」
ミュウ「寝言で呼ばない様にね〜。危ないから。」
まさと「ははっ。それはないと思うが、気をつけるよ。あー、寝言といえば。聞いてなかったな。」
ミュウ「え? あ、ああ。あれね。」
シルフィー「なぁに?」
まさと「いや、アルヘルドに向かって出る朝にな。夢は見てなかったんだが、俺、寝言言ってたらしい。」
ミュウ「ははは。」
シルフィー「聞きたぁい。」
まさと「なぁ、聞かせてくれよ。」
ミュウ「・・・心臓止まるよ。」
まさと「うわ。またそういう方面かい。・・・・っよし。聞いてやろうじゃないか。この際。」
ミュウ「えっとね・・・・・・シルビーがどうとか・・・・。」
まさと「いや、聞かないことにする。うん。そうする。怖い。」
ミュウ「嘘だよ。」
まさと「なに? んじゃ、ほんとはなんて言ってたんだよ。」
ミュウ「まぁ、そのうちね。」
まさと「そのうちかよ。」
シルフィー「ぶー。」
ミュウ「まぁ、ほっといても明日、新しいの聞けるんじゃない?」
まさと「うわ。なんかそれもこえぇ。まぁ、変なこと言い出したら聞き流してくれ・・・。」
ミュウ「はいはい。」
まさと「さて、寝る時どうするかなぁ。ベッドは小さいから全員は無理だし。布団は余裕あるから、床に敷き詰めて転がるか? あー、ポチはそのクッションでいいか?」
ポチ「わふん。」
ミュウ「んー。そだねぇ。ベッドか床布団かはいつもみたいに成り行きで〜。」
シルフィー「うん。」
まさと「ほんじゃ決まり。じゃぁ、お前ら先風呂入ってこいよ。今日は疲れたからとっとと寝るぞ。」
ミュウ「あーい。いこっ、シルフィー。」
シルフィー「うん。」

二人が風呂に入ってる間に少し荷物を動かして、布団を敷き詰める。
なんか、あいつらに会ってから、たった、2週間か、3週間なのに、こんな生活が板についてきた。
慣れちまうもんだな。
けど、こんな生活とは呼んでも、こういう生活に戻れたことはありがたいと思う。
マジな話し、ダークキャッスルで、おっちぬと思ってたからな。あの時は。
タマや、ファルネにも、早く会えるといいんだけど。
さて。明日からどうするか。
おじさんにも頼まれちゃったから、ゲームの特典の撮影協力の話しをミュウ達に説明はしなきゃなんないとして、タマ探しに、無事ならファルネも、でもって、竜崎やパール、いや、珠美のことも調べておいたほうがいいのか、裏づけとして。
それと、大学のほうも、一回顔出して様子を見てこなきゃなぁ。
ほとんど留年を確認しにいくような物だとは思うけど。
大事な物の期限が居ない間に過ぎてるとか、ありそうだし。
しかし、竜崎と珠美の裏づけかぁ。
どうするかな。
行方不明者名簿とかに載ってる可能性はあるけど。そんな簡単に見れないだろうしなぁ。
とは言うものの、警察に調査強力なんてのも頼んだ時点で、怪しまれそうだし。
裏付けとるのは以外に難関だな。こりゃぁ。

ミュウ「どしたの? 難しい顔して。」
まさと「あ、おお。いやな、明日、服とか買いに出るか? 着の身着のままで居る訳にもいかないし。」
ミュウ「あー、そだねぇ。いいの?」
まさと「ああ。じゃ、そう言う事で。」

ミュウ達に替わって俺も入る。
風呂の中でもあれやこれやと考えすぎちまって、ちょっとのぼせてしまった。
ふらふらと風呂から出る。

まさと「ふぇぇ。」
シルフィー「茹でダコぉ。」
まさと「おぅ。さぁ、寝るぞ寝るぞ。ばふーん。」


大げさなリアクションで、ベッドに倒れこむ。

ミュウ「あはは。ばふーん。」
まさと「ぅぉ。」
シルフィー「きゃは。ばふーん。」
まさと「ぉ。」

なんだか俺の真似をして、俺の上に乗っかってくる二人。

ミュウ「このまま3人とも寝ちゃったりして。」
まさと「・・・・・・起こしに来た誰かに見られたらすげー気まずいからそれだけは勘弁してくれ。」
シルフィー「きゃははっ。」


なんやかやで、今夜は俺ベッド、ミュウとシルフィーが床布団、という事で寝床は決定。
早々に灯りを落とした。
眠りに落ちた頃、だと思う、いきなり誰かにしがみつかれて起きた。

まさと「・・・・うぉ。あ、朝か?」
シルフィー「・・・違うよ。」
まさと「ん? あ、どした? シルフィー。」
シルフィー「・・・・うん・・・・。」
ミュウ「眠れないんだって。夢見ちゃって。」
まさと「ん? 怖い夢でも見た?」
シルフィー「う、うん。・・・・・お兄様が出てきたの・・・。」
まさと「あ。」

ダークキャッスルでの出来事から日もたってない。
まだ、気持ちは整理しきれてなかったんだろうな。

ミュウ「しょうがないから、そっちで寝かせてやってよ。」
まさと「な、なにっ、俺とか!?」
シルフィー「・・・うん。」
ミュウ「あんたの背中が気にいったらしい。」
まさと「そ、そうなんか?」
シルフィー「うん。」
まさと「お、俺、なんかするぞ。」
シルフィー「うん。」
まさと「いや、うん、って・・・・。」
シルフィー「うん。」
まさと「・・・・・。」

もう不安で不安で仕方ない。そんな感じに見える。
これは、もう、ミュウの言う通り、しょうがない。というやつ。

まさと「ほ、ほら、そんな向きで布団もかぶらずに居たら風邪引くぞ。ちゃんと布団の中入れ。ほれ。」
ミュウ「じゃぁ、頼んだね。お休み。と、ひろびろ〜。」
まさと「おい、ミュウ。ひろびろはいいが、腹出して寝て風邪引くなよ。」
ミュウ「あーい。」
まさと「シルフィー、どうだ、眠れそうか?」
シルフィー「うん。おちつく・・・よ。ふにゃ。」
まさと「そか、どうにか眠れそうだな。じゃ、お休み。」

その後、俺は何度か寝つきかけた頃痛いくらいにしがみつかれて起こされたが、どうにか、シルフィーも寝つくことが出来たようだ。