第4話 遠き異国の地にて #2 アルヘルド

すぐ朝になり、ミュウにやさしく、いや、ほんとにやさしく揺り起こされた。

まさと「殴られずに起こされるのは久しぶりだな。」
ミュウ「ははっ。殴ろうかと思ったんだけどね。騒がしくすると不味いから今日はなし。」
まさと「ね、寝言は言ってない・・・・と思うが・・・・。」
ミュウ「ちゃんと、言ってたのよ。それが。記憶にないのはある意味幸せかも?」
まさと「ちゃ、ちゃんとかい。何言っちまったんだか・・・・・。」


そうひそひそやりながら、扉は開けずに、壁の大穴から静かに廊下へ出る。
この部屋でミュウと相部屋になるのが都合よかったのは、この早朝、皆に気付かれずに外に出るのが容易だったからだ。
そして、村の出口に急ぐ。

長老「一つだけ。聞かせてはもらえぬか。」
まさと「ばぁさん・・・・止めに来たのか?」
長老「それは、お前さん達次第じゃ。なんの為に魔の城へ行く?」
まさと「・・・・・シルフィーを助けに。・・・・が第一だけど、他にもいろいろある。」
長老「他、とは?」まさと「俺もそうだし、皆も、今のままじゃ納得できないだろうしなぁ。アスフィーのこととかほんと色々。で、その色々を見てくる。あ、決着つけようなんて考えてないぞ。まだ死にたくないし。」
長老「見ても納得できるとは限らんぞ。」
まさと「そりゃそうだ。けど、俺自身知らないこととか多いし、とにかく見てこようと思ってる。」
長老「そうか。では止めぬ。じゃが、これだけは覚えておいておくれ。もしもの時は、シルフィーのことは忘れてくれ。」
ミュウ「長老っ!」
まさと「ミュウ・・・・・。ばぁさん、悪いけど、それは嫌だ。」
長老「なんじゃとっ!?」
まさと「俺は、シルフィーを助ける。それと、色々見てくる。この順序はかわんねぇよ。そして、戻るよ。」
長老「・・・・・・・。」

長老は、ゆっくりと近づいてきて・・・・・・思いっきりはたかれた。

長老「格好つけ過ぎじゃ! このひよっこピヨピヨがっ!」
まさと「いたたた。」
長老「まあよい。シルフィーを頼むぞ。それと、このミュウのこともな。」
ミュウ「はいぃ? あたし?」
長老「必ず生きて戻って来い。」
まさと「ああ、ちゃんと戻るよ。」

長老は、俺達に背を向けた。行けって事だ。
さらに出口に向かう。

パール「遅かったわね。」

パールは既に出口に来ていて、マーガレットと待ちぼうけていた。

まさと「おう。すまない。だいぶ待ったか?」
パール「かなり。ね。一晩ほど。」
まさと「なんじゃそりゃ?」
パール「結論はすぐ出たし、用意もすぐ済んだの。それからずっと、ここで、待ってた。」
まさと「・・・・そりゃまた。」
パール「・・・・私も馬鹿って事かな。心配で仕方ないのよ、これでも。相手が相手だから。」
まさと「そうか、そうだな。超魔導士・・・だからな。」
ミュウ「ルートは決まったの?」
パール「そうね。旧アルヘルドの地下排水路が使えると思うわ。その上に城は建ってるから。」
まさと「んー、こういう場合の順当な線か。」
パール「他に、私なんかの魔族でない者が出入りするルートがあるんだけど、そっちは監視の目が厳しいから。はい、これに水路の地図と城の大体の構造が入ってるわ。」

ゲームパッドみたいな、端末を渡された。
液晶のようなパネルと、十字キーが二つ。それとメインスイッチ。

パール「使い方わかる? こっちが切り替え、こっちでスライド。」
まさと「ああ、いけそうだ。」

俺は、スイッチを入れ、操作して見る。

パール「水路はこのルートを。瓦解して通れない場合は、迂回路の検索はこの部分で出来るようにしてあるから。通行不可はこれでマーキングしておくこと。」
まさと「おう。」
ルビー「あ、よかった、間に合ったわ。」
まさと「あ、ルビー。」

ルビーはなにやら袋を下げてきていた。

ルビー「まったくもう。行くなら行くで、ちゃんと声を掛けてね。はい、これ。」
まさと「あー、そういうのもなぁ。総出で見送られたら笑えるし。で、なに?」
ルビー「エルブン名物ミシュリアサンド。途中で食べて。朝もまだでしょ?」
まさと「・・・・・もう、皆に行動読まれまくってるなぁ。」
ルビー「本当は、加勢したいぐらい。でも、大勢だと動くに動けなくなるから。」
まさと「ああ、そう思う。で、パール、シルフィーが捕まっているのはどこの可能性が高い?」
パール「そうね。多分ここ、鍵の掛けられる檻があるわ。それか、最悪、ここ玉座の間。サイファーの目と鼻の先。最悪の状態でないのを祈りたいとこだけど。」
まさと「見えるとこに置いとくこともあるか・・・。まぁ、とにかく探して見る。」
パール「そうね。私に出来ることはここまで、あとは、あなたの頑張り次第よ。それと・・・あの三人の、かしら。」

見ると、ポチとタマが仲良く並んで、おすわりして待っていた。
ファルネも来ている。

まさと「まったく。ばればれだな。もぅ。」
ポチ「アルヘルドまでは俺達が。」
まさと「ミスティックに抱えて運んでもらう手を考えてたが・・・・・頼むぞ。ポチ。タマ。」
ポチ「わふっ。」
タマ「にゃっ。」

ファルネが慌てて、大きく腕を振りながら自分を指差している。

まさと「わかってるよ、ファルネ。仲間はずれにはしないから。ポチとタマを呼びに行ってたのか?」

こくこくっとうなずいて、胸をなでおろすファルネ。

まさと「よし、じゃぁいくか。」
ミュウ「うん。」

俺は、ポチに。ミュウは、タマにまたがって、出発。ファルネはそれを先導して飛ぶ。
この2匹、驚くほど走るのが早い。あっという間に80km/hは出てるようだ。少し息がしづらい。
瞬間ならこの倍ちょっと出せるらしい。
こいつらまで、そんな凄かったとは。ますます、自分の能力がかすむ気がした。
そんな俺達を見送る、パールと、ルビーと、マーガレット。

ルビー「行っちゃったわね。いいの? ついて行かなくて。」
パール「無理よ。私が行ったら、多分すぐ気がつかれるわ。マーガレットに何か仕掛けがありそうだから。」
ルビー「そうなの?」
パール「マーカーかなにかしかけられてるみたい。一度調べてからでなきゃ。」
ルビー「そう・・・私は、ヘアバンドになにかあったようだけど。」
パール「ところで。ルビー、あんた太った?」
マーガレット「5キロゾウ・・・ア、イエ。」
ルビー「ぎくっ。所帯太り・・・・かしら?」
パール「しょっ・・・・誰よ、その相手は。」
ルビー「あ・・まだ内縁なんだけど・・エルブンの・・・マスター。」
パール「ほぉ。それはそれは。」
ルビー「そういうパールこそ、胸、成長してないわね。というより、縮んでない?」
マーガレット「サイキンリュウコウノ、ペタ・・・ア、イエ。」
パール「う。マーガレット。あんた後で解体してあげるから覚えときなさい。絶対どこか壊れてるわ。」
マーガレット「ヒィ。」
パール「さて。いつまでも見送ってないで、戻りますか。やることやらなきゃ。」
ルビー「そうね。またダイアが来ないとも限らないし。」
パール「そう。あの小悪魔・・・・。」
ルビー「それ。まんまよ。」
パール「なら笑ってよ。」
ルビー「・・・・・・・・・・無理無理。」
パール「はぁ。結局、私が人に自慢できるのは、魔導科学だけね。」
ルビー「いいんじゃない? 私も似たようなものよ。お色気だけよ、今となっては。」
パール「うはぁ。私までむなしくなるから、そういう慰めかたしないで・・・・・。」

その向こうの林の中では、ファリアとマリンさんが俺達をひっそりと見送ってくれていた。

ファリア「行っちまったか・・・。よかったのか? 止めなくて。」
マリン「止めて止まるものならね。」
ファリア「それもそうだな。」

シルフィーの家では、砕け散ってしまった家の跡をおじさんとおばさんが、眺めていた。

ガゼル「今度はどんな家にする?」
ミルフィー「そうね、大きな庭が欲しいわね。パーティーが出来そうな。」
ガゼル「ああ、いいねぇ。爆発で、少し土地が拓けたからちょうど良い。」


この二人、やっぱり侮れない。
それから半日ほど掛かって、アルヘルドの近くまで来た。
大陥没の大きさは直径3kmはあろうか。
ちょっと小高なところからなら、大陥没の中でうねりを上げているマジェスティックスが見える。

まさと「こうもはっきり見えるものなんだな。」
ミュウ「そうだね。普段、私達が吸ってる空気の中にもあるものなのにね。」

アルヘルド騒乱。
魔導科学を突き詰めるべく建てられた実験都市アルヘルド。
建立意図そのものは、素晴らしいものだったらしい。
魔導科学によって、種族を超えた、皆の暮らしを楽にしようというものだったとか。
ところが、その計画に、悪しきものが混入した。
大気中のマジェスティックスを全活性させ、魔族のみが住み得る世界を創ろうという動きが出てきたのである。
これがアルヘルド騒乱に繋がった。
エルフやセントヘブンその他隣国、地方諸国の連合と、魔族の対立。
ルーンの加護のもとにあるものと、サイファシスの庇護のもとにあるものとの敵対は、このティラの創世となりたちをも否定しかねない出来事だった。
その為、連合騎士団は、なんとしても、対立を終結させねばならなかった。
その騎士団の中に、それも、かなり先陣を切る形で、ミュウの親父さんたちがいた。
ミュウの親父さん、ラルフ・グレンハート。
後にミュウの母親になる、フレイア・フレイグラード。
セントヘブンの次期領主、ヨハン・ヘブナート。
エルフの村一番の使い手、アスフィー・ステイリバー。
親父さんたちの健闘も空しく、マジェスティックスの全活性化は、目前まで迫っていた。
いよいよとなったとき、親父さんたちは、アルヘルドの領内にある、活性化装置破壊を試みた。
集約したマジェスティックスが不活性化して停留、超飽和状態を起こすことを理解しながら。
さもなくば、魔族のみ生存が許された楽園が完成してしまったであろうから。
まさに、苦肉の選択。
そして残った超飽和状態という傷跡が、ここ、旧アルヘルドの大陥没なのだ。
アルヘルド騒乱の首謀者は、正体を隠したまま、騒動に乗じて姿をくらまし、今もわからないままだという。
また、魔族についても、俺が思っていたのは、ちょっと違うものらしい。
一般的に悪魔などと呼ばれているものとは趣が違う様なのだ。
そこは、光と闇の均衡によって作り出されたこのティラならではということなのだろうが、魔族とは、このティラの大地に純然として発生した種族であり、人などと同じく、ごく普通に生活し、ごく普通に恋愛もしたそうなのだ。
人などと違うのは、魔法に対する親和性の高さと、マジェスティックスそのものがないと、生きていけないということ。
つまり、人間が酸素を吸うのと同じように、魔族はマジェスティックスによって生きているのが、大きな違いであった。種としての大きな違いである。だが、それだけの違いでもあった。
その違いを除けば、人などとも普通に話せるし、感情を共有することも出来たらしいのだ。
らしいというのも、魔王サイファシスが封印されて以降、大気中のマジェスティックスは激減し、魔族はその数を減らしてきており、アルヘルド騒乱において、さらにその数を減らしてしまった為、今となっては、マジェスティックスがわずかに濃い、北の極寒の大地にのみ住まうだけの稀少種族となっていた。
そのため、今はもう、普段、魔族と接する機会はほとんどない。
その魔族が数十年ぶりに動きを見せたのが今次のサイファーの動きという事になる。
そして、その基盤となる城の在り処が、ここ、アルヘルド。
カイゼル。いや、ラルフ・グレンハートが動向を探りに動いたのも納得がいく。その妻フレイアがそれを快諾したらしいのも。
自分たちの関わったことに、起因している可能性があるからだ。
だから、シルフィーを救い出すことと、その関連性の有無を確認する為に、俺達は、ここ、アルヘルドに来たのだ。
カイゼルに声を掛ければ、一もニもなく同行してくれただろう。
だが、パールが言うには、カイゼルの症状はいまだ楽観できるものではなく、予断を許さないという。
回復の遅延以外にも時を封じる魔法によって数々の弊害が起きているらしいのだ。
うかつに声を掛けて無理はさせられなかった。
そして今、俺達はアルヘルド旧市街の地下に潜入した。
大陥没から少し離れたところにある、作業用の入り口から地下排水路に入る。
中は、超飽和状態が起きた時にかなり圧壊しており、初期のルートでは先に進めなかった。
右へ左へ、俺達は排水路内を歩き回った。
幸いなのは、真っ暗な排水路内においても、ファルネが大活躍してくれたことだ。
発光しているので、灯りにもなったし、なにより、正確な方位磁針として活躍してくれたのだ。
正確に東西南北を示してくれたので、排水路内で迷うことは一度もなかった。

まさと「さてと。ここもダメだとなると、後はこっちからだけだな。」
ミュウ「もーめんどうくさいから、いっぺんにぶち抜いて進もうよ。」
まさと「やめてくれ。そんなことしたら、一気にこの地下水路が圧壊してぺちゃんこになるぞ。うまくいって崩れなくても、空ける場所によっては頭っから50気圧で噴出す特濃マジェスティックスの滝だ。」
ミュウ「・・・・だめかぁ。」
まさと「さぁ、行くぞ。俺だって、もう足がへろへろになってきてるんだ、無茶言ってないでちゃんとついてきてくれよ。」
ミュウ「・・・あぃ。」

大陥没の底は約500m掘り下がっている。
普通に考えたら底部では50気圧の圧力が掛かっているはずだ。そんな物を頭から引っかぶりたくはない。
結局、最後のルートで、どうにか目的の場所に辿り着けた。

まさと「さぁ、この上が、ダークキャッスルだ。ちょうど、倉庫らしいんで、人目にもつきにくいってとこらしいな。」

パールから受け取った端末は、詳細なヘルプがついていて、実に助かった。
アルヘルドに関することもこれに詳細が入っていた。
さすがパール、天才少女と呼ばれていたことはある。念の入った気の利き方だ。
倉庫に上がると、そこは、旧市街の穀物倉だった様だ、麻袋に入った、米や、豆などが沢山あった。
ただし、数十年前の。
換気も不充分で、そこは、しめじもどきの天国になっていた。異臭がやたら鼻を突いた。
ポチとタマが目に涙を浮かべながら鼻を押さえている。
人間でこの調子なんだ。こいつらにとってはとんでもない物だろう。
そんなところに長居はしたくないので、ゆっくりと扉を空けて次のルートに進む。

ミュウ「なんか、誰もいないね。見張りをぶん殴って気絶させるとか、そんなのを想像してたのに。」

ミュウが残念そうに腕をぶんぶん振りまわしている。

まさと「そんなのは冗談じゃないぞ。」
ミュウ「あによ。」
まさと「いや、なんでもない。お。あれだ。」


上を見上げると、明かに他と違う物で出来た黒光りした天井がある。
これが、ダークキャッスルの基部に当たるらしい。
その黒光りした天井のやや低まったところに、緊急避難用の出入り口があるという。それを今見つけた。
端末にあった指示通りに出入り口を開ける。
脇にある、小さなハッチのパネルを操作して、ソーサルブースターのコアを押しつける。
これで、扉は自動で開いた。ゆっくりと、わずかな振動をたてながら。
脱出口の中は、球形のポッドらしいのが並び、不味い時にはこれに乗って飛び出すということなのだろう。
なんだか、とってもどこかで見たような雰囲気。
それもそのはず、この辺りの設計はパールの担当だったらしい。
つまり、地球のSF文化の恩恵に賜っているのだ。
なので、こうも、SF的だったり、セキュリティの穴も明確なので侵入も容易かったりするのだが。
脱出設備から外、というか、廊下の様子をうかがうが、人っ子一人いない。

まさと「いくらなんでも誰も居なさ過ぎないか・・・・?」
ミュウ「でしょぉ。絶対変だよ。これ。」
???『ようやく来たね。まさと君、それに、ミュウ。』
ミュウ「アスフィー!?」
まさと「なに!」

館内放送、というのだろうか、城中にアスフィーらしい声が響き渡った。

アスフィー『待っていたよ。上がっておいで。玉座の間へ。ここにシルフィーも居る。』
ミュウ「なっ!」
まさと「玉座・・・・最悪のパターンってことかよ・・・。」
アスフィー『大丈夫だよ。途中にはなにも仕掛けはない。君達を待っていたのだから。さぁ、上がっておいで。』


ここはもう、根性を据えて、いわれた通り、玉座の間に向かうしかない。

まさと「ミュウ・・・とにかく上がろう。上に。」
ミュウ「そ、そうだね。はぁ、いきなりばれるとは。」

マップを見ながら、堂々とダークキャッスルの廊下を進む。
アスフィーが言った通り、なんの仕掛けもなかった。
もうすぐそこに玉座の間が近づいてきた。
そしてとうとう、何事もないまま、玉座の間の前に立つ。

アスフィー「どうしたんだい。早く入っておいで。僕に聞きたいことが沢山あるんだろう?」

中から、アスフィーの肉声が俺達を呼ぶ。

まさと「は、入るぞ。ミュウ。一応、ブースター、いつでも出せる準備しとけ。」
ミュウ「う、うん。」
まさと「あ、そうだ。こいつら、ポチとか、タマとか、入っても構わないのか?」
アスフィー「ああ、構わないよ、客人は多いほうが楽しいじゃないか。」

罠であったときのことを考えて、ゆっくりと玉座の間へ入る。
が、やはり何事も無い。
目の前の玉座にアスフィーが座っている。

アスフィー「あらためて。ようこそ、僕の居城、ダークキャッスルへ。歓迎するよ。」
まさと「い、一体どう言うことなんだ? あんたはアスフィーなのか? それともサイファーなのか?」
アスフィー「言ったろう? 君達を待ってたって。僕は、アスフィーだよ。もちろん。そして、今はサイファーでもある。仕事上の名前だと思ってくれれば、わかりやすいんじゃないかな?」
まさと「芸名ね。で、なんで、俺達を待っている必要があるんだ?」
アスフィー「そりゃぁ、色々話したいからさ。村では、勇者に関する事はなにも話してくれなかったからね。君は。」
まさと「・・・・話せるわけないだろ。」
ミュウ「にぃさん。どう言うことなのよ。どうして、にぃさんがサイファーなのよ。どうして・・・。」
アスフィー「んー。そうだねぇ。何から話すのが良いのか。しいて言えば、世界を改革したいから、かな?」
ミュウ「改革? 何を改革するって言うのっ!? 魔獣まで使ってっ!」
アスフィー「うん。僕は、魔法の修行の為に、世界を旅してまわった。そして、今の世界に生きる者が、ことごとく大切な物を失っていると感じた。独善的、偽善、身勝手、そんな欲望でいっぱいだ。だから、世界を改革する事を思い立ったんだよ。」
ミュウ「それが、どうして魔獣に繋がるのよっ!」
アスフィー「繋がるんだよ。それが。魔獣は絶対服従だ。独善的に動くことはしない。言われたことをけなげにこなす。素晴らしい存在だよ。世界の改革にふさわしい道具だ。そうは思わないかい? そして、魔族。純粋な存在。自分の意思を包み隠すことなく、真っ向からそれを体現する種族だ。それに、人間などのように、必ずしも他の生き物を食すことはしないでも生きて行ける。豊富なマジェスティックスがあれば。他の命を脅かさない。素晴らしいじゃないか。そう、魔族こそ、正しい生き物なんだよ。」
まさと「な・・・・何を言って・・・。」
ミュウ「ま・・・・・魔族・・・・・脅かさ・・・・うそっ、にぃさんっ!」

アスフィーの言うことにももっともな面はある。
けど、それは都合よく言い替えた極論でしかない。それはわかっていた。
けれど、自信たっぷりに語る、アスフィーの前に、俺達は翻弄されるしかなかった。

???「ち・・・ちがう・・よぉ・・・。」

この声は。
部屋のどこかから、シルフィーの声がする。

まさと「シルフィー! アスフィー、シルフィーも部屋に居るといったよな? シルフィーは!? どこに居るんだ!?」
アスフィー「ああ、居るよ、ほら。」


そう言うと、アスフィーの座っている玉座が床ごとスライドをはじめ、脇に回転しながら移動する。
そして、俺達は、その今まで、玉座があった方向に、シルフィーの姿を確認した。痛々しいシルフィーの姿を。

まさと「お・・・・・おい・・・・。」
ミュウ「シルフィーっ!!」


シルフィーは部屋の奥にある、何か巨大な器のようなものに括り付けられている。
それも全裸で。
シルフィーの目はうつろになっている。

シルフィー「・・・・まさと・・・さん・・・・ミュウ・・・・ごめん・・ねぇ。」
まさと「あ、なんで謝るんだよっ。なんでシルフィーが謝るんだよっ!!」
ミュウ「アスフィー・・・・・・説明して・・・・・・。」
アスフィー「何をだい。見ての通りだと思うけれど。」
ミュウ「説明してっ!!」
アスフィー「仕方ないねぇ。シルフィーが今入っているのは、この城の動力だよ。シルフィーは、この城を動かす為の力を動力に注いでくれているんだ。」
まさと「な、なに!? 動力? 城を動かす?」
ミュウ「城を・・・動かす・・・?」
まさと「そうか、シルフィーの生命力とか、魔法力とか、とにかくそう言うものを吸い出して、この城は機能してるって言うのか!?」
アスフィー「そうだ。まさと君。」
ミュウ「そんなっ。」

俺達は、シルフィーの傍まで駆け寄る。そして装置をくまなく調べる。

アスフィー「勝手なことをされると困るよ。」
まさと「うるさいっ。シルフィーをここから出せっ! もうこんな事やめろっ!」
アスフィー「そうはいかないんだよ。そこからシルフィーが居なくなればこの城が動かせなくなるからね。それは困る。出来ないよ。」
ミュウ「・・・・・・。」
まさと「勝手なことを言うなっ! 自分の妹だろうがよっ!」
アスフィー「だからこそだよ。妹自ら協力してくれないと、僕の立場がねぇ・・・。」
まさと「それこそ身勝手だろうっ!」
ミュウ「・・・・・いい。」
アスフィー「ん?」
まさと「おいミュウ・・・。」
ミュウ「もういいよ。まさと。・・・・・・・・・倒すから。例えそれがにぃさんでも。」
まさと「!」

ミュウは、両足でしっかりとアスフィーを見据えて立ち、ソーサルブースターを掲げていた。

ミュウ「ソーサル・セットアップ・ミスティック・ミュウッ!」

閃光とともに、ミュウはソーサルブースターを装着、いや、ミスティック・ミュウに変身した。

シルフィー「ご・・・めん・・・ね・・・ミュウ・・・・・・・。」
まさと「シルフィー・・・・・・。くそっ!」


俺はとにかくシルフィーを助け出す方法を探した。
装置のシルフィーが入っているところは透明なガラスのような物が張られており、叩こうが蹴ろうがびくともしなかった。
変身したミュウは、アスフィーに挑みかかって行く。

ミュウ「うああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
アスフィー「ふふん・・・。」

アスフィーが鼻で笑ったかと思うと、その姿は、冠をつけマントを羽織ったまがまがしい姿に変わる。
やはり、アスフィーは超魔導士サイファーなのか。
サイファーはミュウのパンチをいとも容易く避ける。
目標を失ってふらつくミュウ。

ミュウ「くっ。」
サイファー「やはり、わかってはもらえないんだね。だから、人もエルフも、他の命を脅かす生き物はダメなのだ。攻撃的なだけで受け入れると言う事を知らなさ過ぎる。」
ミュウ「・・・・誰がそうさせたのよっ!」


再び挑みかかっていくミュウ。ポチとタマも挑みかかって行く。
しかし、避けられるのは目に見えている。
これは、早いとこ、シルフィーをなんとか助け出して、脱出したほうがよさそうだ。
装置の使い方さえわかれば。

ファルネ「キレ! クサナギデキレ!」
まさと「そうか!」


俺は、くさなぎを構えて、装置の前に立つ。
それを見てシルフィーは目をつむった。
いつにも増して、くさなぎが軽い! くさなぎを振るう!
軽やかな音を立ててガラスのような物は砕け散った。

サイファー「く。困るといったろう。」
まさと「うわっ!」


突然、俺の前にサイファーが現れたかと思うと、思い切り突き飛ばされた。
コイツは、格が違いすぎる!
そのサイファー目掛けてミュウが光球を放つ。
が、当然、その光球はサイファーの間近ではじけて消えた。

サイファー「ミュウ・・・聞き分けがないね。君も。」

サイファーが手をミュウのほうへ向けると、衝撃音とともに、ミュウが跳ね飛ばされる!

ミュウ「う・・・がっ。」
サイファー「そんなおもちゃで、僕にかなうと思っていたのか・・・・。愚かな。」


ミュウに近づいて行くサイファー。
こちらとの距離が開くのを見計らって、俺はまた装置にとりつく。
またそれを見て、サイファーにかぶりつく、ポチとタマ。
だが、ポチとタマは苦もなくあしらわれ、サイファーはそれをミュウに投げつける。
ミュウはポチとタマをかばってしまい、そのまま衝突してしまう。

ミュウ「うあっ!」

そうしてる間に、なんとかシルフィーを装置から引き上げると、そばに脱ぎ捨てられていた、シルフィーの服を拾い、シルフィーを背負って、サイファー達がいるのとは反対方向から、玉座の間の出口に走る。

サイファー「させん。」

そこまでだった、俺は、動けなくなった。
足はおろか、指一本さえ、動かせなくなった。
その為に、こちらを向いた、サイファー目掛けて、ミュウ達が一斉に飛びかかる。
が、ミュウも、ポチも、タマも、空中で掌握され、こちらへ投げ飛ばされてきた。
俺の足元にミュウ達は転がる。

サイファー「はぁ。もういい。君達には、もう期待しない。巫女もまた探すよ。消えてくれ。」

サイファーがこちらに突き出した手の平から、大きな火球が飛び出し、勢い良くこちらに飛んでくる。
その時。
なにか、いや、誰かが俺達の前に立ちはだかった。

???「させないっ!」

ファルネだった。
ファルネが俺達の前に割って入ったのだ。
そして、ファルネの体は今までにない強い光を放ち、大きくなって行く。

ファルネ「ルーンの力、ここに今示さん!」
サイファー「なにっ!?」


ファルネはちょっと小柄な女の子の姿にまで大きくなると、サイファーの放った火球をはじく。
ファルネはそのまま大きく腕を広げ、俺達をかばっている。
が、俺は動けない。
ミュウ達も動けなくなっている様だ。

サイファー「やはり、そういうことだったか。だが、消えてもらう。邪魔だからね。ルーン・・・・。」

サイファーは今度は拳から光の柱を放つ、ファルネはそれをはじくがサイファーの拳から出る光は弱まることなく、どんどん威力を増してくるようだ。
そして。

サイファー「さらばだっ!」

ぱっと、光の発射をやめ、手刀を構え腕を振るうサイファー。
そしてその腕からは鋭利な空気の刃が放たれた。
急に光の発射を止められ、態勢を崩したファルネを避ける間もなく空気の刃が襲った。
両断される、ファルネ。

ファルネ「ぐぅっ!」

そして、ファルネは両断された場所から細かな光の粒になって、俺達の前からかき消えた。

まさと「!」
サイファー「さぁ、君達の番だ・・・・。」


とたんに、俺達の周りを閃光が包む!いつか見た、空間転移の時に見える白い光。が。

サイファー「おのれっ!」

どこからか、サイファーの悔しげな声が聞こえる。
それは既に遥か遠くからわずかに聞こえてくる物だった。
そして、今また、別の声が響いてくる。
サイファーのそれとは違う。あたたかな、やさしい響きを持った声が。

????「守りきれなかった。ごめんなさい。」

いつか聞いた台詞。
ファルネが家財の屑の前で俺に漏らした台詞。

まさと「ふぁ、ファルネか?」
????「私は聖地の番人ファルネ。そして・・・・。」


俺の目の前にその声の主だろう姿がぼんやりと見え始める。

フレイア「そして、私は、フレイア・グレンハート。その心を引き継いだもの。」

フレイア。
ラルフの妻であり、ミュウ、マリンの母親。既に亡くなったはずの人。
その人がなぜ? 心を引き継いだ?

フレイア「今は逃げなさい。生き延びなさい。その時がくるまで・・・。」

そして、白い閃光が和らぎ始め、周りがはっきり見えるようになった時、俺は、アパートの自分の部屋で倒れていた。
どこか遠くで、雷が鳴っている。
なんだか、体が凄く疲れてもいる。
一体なにが起こったのか。
俺は、混迷の中、徐々に意識を失って行った・・・・。
夢を見た。
幼い赤毛の女の子が、雷の中、果物を抱えたまま、森をさ迷い歩く夢を。
いつしか、女の子は洞窟に入りこみ、何かに出会った、そして、自分が抱えていた、果物をその出会った何かに差し出す夢を。
そして、俺は目が覚めた。

まさと「ん・・・・ここ・・・は・・・。」

俺の部屋だった。
夜だった。
全ては夢だったのか。
俺が飛ばされたティラの世界。
そして、ミュウ達との出会いと沢山の出来事。
それらは、俺が眠っている間に見た夢だったのか。

まさと「うう。頭、痛てぇ・・・。」

ゆっくりと起き上がると体の各部に硬質な抵抗がある。
自分の体を確認する。
俺は、甲冑を鎧を着けていた。

まさと「ゆ、夢なんかじゃねぇ・・・。」

慌てて、鎧の一部を脱ぎ捨て、胸に残ってあるはずの聖印の跡と傷を見る。
それらはそこにあった。

まさと「夢なんかじゃないんだ!」

俺は慌てて周りを見まわす。
周りには、誰も居なかった。
ミュウも、シルフィーも、ポチも、タマも、そして、ファルネも。
くさなぎやみかがみの盾も見当たらない。

まさと「俺だけ、戻ってきちまったのか・・・。」

不安がよぎる。
あの出来事が現実であることは間違いない。
だとして。
あそこから、俺だけが戻ったのだったら、ミュウ達は・・・。
勇者と呼ばれていた男が居なくなってしまったティラはその後・・・。
不安はいくらでも生まれてきた。
ベランダに出る。
ミュウ達が近くに居ないかと目で追う。
しかし、誰も居ない。
俺はその場で立ち尽くした。
しばらくして、部屋に戻って明かりをつける。
やがて俺は、ビデオと自分がしている腕時計の時間がそうずれていないことに気がついた。
俺が、ティラに飛ばされた日から数えて、14日目。日付は合っている。
時間も一分とはずれていなかった。
やっぱり間違いない。
俺は、14日間、ティラに居たのだ。
太陽を挟んで、地球の反対側にある双子星に。
そして、戻った。
戻ってきてしまった。
成すべきことの途中で。

まさと「勇者だなんて、とても言えなかったよな・・・。」

今までに、自分のやれたことやり残したことを考えると、そんな台詞しか出てこなかった。
その時、ドアを凄い勢いで叩く音と、俺を呼ぶ声が聞こえた。

???「帰ってるの!? アニキっ! 帰ってるんだろ! アニキっ! あけてよっ!」

聞き覚えのある声。
郷里に残してきたはずの、妹、法子(のりこ)の声。
法子がどうしてここに? 俺は慌てて鍵をはずしドアを開けた。

法子「アニキっ!」

飛び込んできた法子は俺の顔を見るとしがみついてきた。

法子「い、たたた。なにこれ?」

法子は俺の着こんでいた鎧に気がつかなかったんだろう、しがみついた時にどこか引っ掛けたようだ。

まさと「あ、・・・・鎧。」
法子「よろ・・・・それより2週間もどうしてたんだよっ!」
まさと「あ、まぁ、旅行、みたいなものかな・・・。何かあったか?」
法子「な、旅行って・・・何かも何も。来てるよ。お父ちゃん。」
まさと「・・・・・・・・なにぃぃぃぃっ!?」

その一言で、俺は我に返った気がする。
法子が上京している時点で、気付くべきだった。
親父が上京してきている。
この状況で、その事実は、俺には死刑宣告のようなものだった。

まさと「い、今どこに居る?」
法子「えっと、おじさんとこ・・・事務所に。」
まさと「そうか・・・。」


事務所。おじさんの経営している、ソフトハウス。
つまり、俺がテストやってたゲームを開発しているところ、マイテーの事務所のことだ。
俺は覚悟して、事務所に向かった。
なぜ覚悟が必要なのかは、扉を開けた直後にはっきりするだろう。
法子が先に入り、数秒後に起こるどよめき。
マイテーの皆も集まっている様だ。
俺は、深呼吸して、事務所に入ると、次の瞬間、鈍い音とともに、廊下に戻っていた。

???「こぉぉぉぉの、ばかやっろぉぉがぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああっ!」

親父だ。
今俺は、親父の豪快な一発を食らって廊下に押し戻されたのだ。
ひどく顔が痛む。

まさと「ってー。」
親父「2週間もどこほっつき歩いてたんだっおまえはっ!!」


言えないよな。ほんとのことは。
多分、言っても信じてもらえない。
よろよろと、立ちあがると、俺は無言で、事務所に入った。鎧姿のままで。
しかし、そんな俺の着ている物などはものともせず、親父は俺をどつき回す。
おまえはっ。を繰り返しながら。

???「だいちゃん、だいちゃ・・・そのぐらいにしとかないと、まさ坊壊れちゃうよ。」
親父「ふーーーーっ!ふーーーーっ!ふーーーーっ!」


やっと沈静化。
助けてくれたのはマイテーの社長こと、俺のおじさん。丸尾大造。
部屋の中を見まわすと、マイテーきっての絵師、小染広夢さん、メインプログラムの高井田一さん、広報、事務兼任の神埼ひとみさん、と、マイテーの主力メンバーはほぼ集まっていた。

丸尾「ひとみちゃん、拌創膏、拌創膏。」
ひとみ「は、はい、今。」


ひとみさんに手当てしてもらってる間も、親父はすげぇ顔で俺を睨みつづけていた。

丸尾「まさ坊、一体、どこ行ってたんだい。」
まさと「う、どういって良いのか・・・。」
親父「お、お前はぁっ!」
まさと「わっ。俺だって、俺だってなぁ。説明したいんだよ・・・したいんだ。けど、誰が・・・。」
親父「おう、言ってみろっ、言ってみろっ、なんぼでも聞いたるわぁ!」
法子「お父ちゃん、それくらいでやめとき。」


法子のぎんっとした目つきで、とっさに黙る親父。
まぁ、割りと、こんなだけど、親父は法子に逆らえない様だ。

法子「アニキ。ほんとのとこ、いったいどうなん? なんで、そんな格好・・・・。」
まさと「話して、信じられることじゃない・・・。」
親父「ふぅぅぅ・・・・・・。大造。悪いがなぁ、連れて帰るわ、この馬鹿。」
丸尾「そうかい? なんだか、訳がありそうだけど、なぁ、まさ坊。信じられるかどうかはともかく、理由だけでも。」
まさと「・・・・無理です。」

とたんに親父にまた一発食らう。
結局俺は、ティラでの話のことは一切話さないまま郷里、奈良へ連れ戻されることになった。
久々に戻った俺の部屋は、何か、他人の部屋になったみたいな気がして落ち着かなかった。
おまけに、理由を話すまで外出禁止という、きついお達しまで出てしまい。それから数日、落ち着かないまま家で過ごすことになった。