第4話 遠き異国の地にて #1 戦いの傷跡

今を遡る事70年前。
アルヘルドにまつわって、良からぬ噂を耳にした若き剣士ラルフ・グレンハートは、現国王ヨハン・ヘブナートの父王である当時のセントヘブン王の勅命を受けて、動向を探っていた。
その最中、情報を得る為に立ち寄ったエルフの村で、運命の出会いが待っていた。
確認の為に足を踏み入れた聖地ノスパーサで、ラルフは一人のエルフの娘と逢う。娘といっても、ラルフよりは各段に年上になるのだが。見掛けはラルフよりも若く見える。
その娘は、小岩の上で、聖地の番人ファルネと楽しそうにやり取りをしているところだった。

ラルフ「はて。番人は話すことが出来ないと聞いたが・・・。」

ラルフはとにかくも声を掛けてみることにした。
声を掛けると娘はにこやかにこちらを向くと、静かに挨拶をする。
ラルフは突然声をかけた失礼をわび、疑問をぶつけてみる。

ラルフ「その妖精は、聖地の番人なのか? 番人は話せないと聞いたが遠くから見ていて話をしているように見えた。君は番人と話せるのか?」
娘「はい。そうです。番人のファルネです。ファルネはもちろん話せません。けれど、私には他人が考えていることを理解することが出来るのです。なので。」
ラルフ「ああ、なるほどな。そういう力を持つ者がいることは聞いた事がある。それでか。・・・私の考えも読めるのか?」
娘「ええ。多分。今は読んでいませんけれど。」
ラルフ「そうか。・・・そうだ。通訳をお願いできまいか。いい機会だからその番人と話したい。」


娘はそれを快諾するとラルフからの質問に対するファルネの答えをラルフに伝える。
結果、ラルフの欲しがっている情報はファルネは持っていなかったのだが。

ラルフ「そうか・・・聖地の番人も何も掴んではいないか。いや、邪魔をしたな。」

ラルフは会釈をしてその場を離れようとする。が、娘が呼びとめる。

娘「待って下さい。あなたは・・・。」
ラルフ「ん? 何か?」
娘「大事な使命を背負ってらっしゃるのですね・・・。」
ラルフ「あ、ああ、国王の勅命だからな・・・。」
娘「いえ。それもありますが。もっと、もっと大切な・・・。いえ・・・。」
ラルフ「?」
娘「・・・・ごめんなさい。読んでしまいました。あなたの行く先を。未来を。」
ラルフ「未来?」
娘「ええ。私もその使命を・・・持っています。そしてその同じ使命を持った方をここで待っていたのです。それが・・・・あなただった・・・。」
ラルフ「使命だって?」
娘「はい。この大地、全ての・・・命運が掛かった大きな使命です。」
ラルフ「それは、どんなものなんだ?」
娘「詳しい事はわかりません。漠然とその使命の重さがわかるだけなので。・・・・・あの、信じてもらえるでしょうか?」
ラルフ「にわかに信じることは出来ない、と思う。が、理解はしている。そういうこともあるのだろう。剣士を目指した時から、そういう覚悟はしているつもりだ。忠告感謝するよ。」
娘「そうですね。では、私も、私も一緒に参ります。お連れ頂けるでしょうか?」
ラルフ「何っ? 危険な旅なのだぞ。」
娘「そうですね。だからこそです、あなたの負担を減らしてあげたい。それが・・・私の・・・。」
ラルフ「使命か・・・・。」
娘「はい。いえ、使命というより願いです。私がそうしたい。」
ラルフ「・・・物好きな話だな・・・。名は、なんと言う?」
娘「はい、フレイア。長老の家にお世話になっています、フレイア・フレイグラードと申します。ラルフ・・・様。」
ラルフ「読めるのだな・・・・。が、様はいい。そうか。術に長けた者を養っていると長老から聞いてはいたが、君だったか。ならば、好きにするがいい。」
フレイア「はい。ラルフ。それじゃファルネ、また。」

フレイアが挨拶をすると、ファルネは聖地の奥へ飛び去り、フレイアは先を行くラルフを軽やかな足取りで追う。

フレイア「その鎧・・・。」
ラルフ「ああ、余りいい趣味ではないか?」
フレイア「いぃえ。似合ってますよ。きっと、私の娘にも似合うでしょう。」
ラルフ「なんと、子がいるのか!?」
フレイア「いいえ。今はまだ。」
ラルフ「なに?」
フレイア「娘は・・・・・・あなたから授けて頂けるのです。」
ラルフ「・・・・・・・・・なにっ! わっ! 私が!? いや、一体何を!?」
フレイア「ふふっ。私では迷惑でしょうか?」
ラルフ「いっ、いや、迷惑というかそう言うことでは・・・・・は、早過ぎる話ではないか?」
フレイア「そうですね。こういうことは順を追う物ですね。けれど・・・。」
ラルフ「・・・・・見えるのか?」
フレイア「あ、はい。けれど、必ずしもそうだとは言えないですけれど。未来は自分で築く物ですから。」
ラルフ「それはそうだが。・・・・・嫌ではないのか?」
フレイア「いえ、そういうことはありません。あなたで良いと思っています。」
ラルフ「・・・・・・・・はっきりというものだな。」
フレイア「私がお嫌いですか?」
ラルフ「いっ、いや、決してそう言うわけでも・・・。」
フレイア「では、あなたのよろしい様に。くすっ。」
ラルフ「そ、そうか。す、すぐ答えねばならんか?」
フレイア「いいえ。いつでも。これからはずっと一緒ですから。ずっと・・・ふふっ。」

そして、二人はアルヘルドの騒乱の中をヨハン、アスフィーと共に、駆け抜ける。
その後、結ばれた二人は、エルフの村のはずれに家を立て、家庭を築いた。
ありふれた家庭とは言えはしなかったが、表裏のない愛にあふれた家庭を。

そして、時代は、現代に戻る。
エルフの村の日が暮れようとしていた。後味の悪さを残して。
エルフの村を襲った魔軍の大群は魔導三人衆最後の一人、鉄壁のダイアが率いていたものだった。
そして、そのダイアの軍勢を囮に、超魔導士サイファーはシルフィーの兄アスフィーとして村に堂々と侵入。騒ぎに乗じてシルフィーを捕らえた。
村に揃っていた三神器、くさなぎの剣、みかがみの盾、りゅうのまもり、それらに手を出さず、シルフィーを捕らえた事の意味は誰もわからなかった。
魔獣をたちまち一掃するほどの力、ソーサルブースターを手に入れていたものの、結局サイファーには瞬時に逃走され、シルフィーを助ける事も出来ず、後味の悪さを残しながら、皆は、焼け落ちた家、家財など、騒動の後始末を、重い足を引きずってやっていた。

ミュウ「見事にやられたなぁ・・・・・。」

ミュウの家は留守であったことと、村のはずれにあったことで、誰も騒動の間見ておらず、見事に出火、焼け落ちていた。
今、気落ちしたミュウを引きずって、家財の整理をやっているところだ。

まさと「まったくだよ、ちくしょう、家財は全部使えないなぁ。ああ、俺の着て来た服も焦げちまってる。」
ミュウ「しかたないか。いいや、捨てちゃお。ダメなのは全部荷車に載せちゃって。」
まさと「ああ、お前が良いならそうするけどな。これ、とか、ほんとに良いのか?」


俺の手には写真立てが、あった。
写真には、幸せそうに微笑んだ、ミュウと、俺と同い年くらいの騎士が並んで写っている。
枠は所々焼けて炭になっていて、ガラスも割れ、写真自体もすすけてしまっていた。
さらに火を消し止める為にまいた水でごわごわになっている。

ミュウ「あ、それ・・・。」
まさと「これ、そうだろ。」
ミュウ「うん。ベクター・ハーバーライト。これしか写真なかったんだよね。あーあ。」


ミュウは写真立てを受け取ると、しばらくそれを眺める。
ベクター・ハーバーライト。
ミュウが日本に転移してきて俺にはじめて合う少し前、遠征に出たまま帰ってこれなくなった、ミュウの恋人だった男。
そんな思い出の品さえ魔獣どもは破壊してくれた。
なんと声を掛けて良いのかわからない。

ミュウ「ん? あれ? ひょっとして、気に病んでる、とか?」
まさと「あ、いや、考え事してただけだ。」
ミュウ「嘘つけ。掛ける言葉探してたんでしょうに。」
まさと「・・・・図星だ。けど、掛ける言葉は見つからなかったから、掛けないぞ。」
ミュウ「うん。いい。捨てて。」

ミュウは俺に写真立てを渡す。

まさと「けどな。こういうもんは形が残ってる間は残しといたほうがいいぞ。」
ミュウ「・・・・・・・・。」
まさと「・・・・そうか。じゃぁ、捨てるぞ。」
ミュウ「あ、ちょっと待って。」

慌てて写真立てを取り戻すと、またしばらく眺める。

まさと「なぁ、残しておかないか、そ・・・。」
ミュウ「さよなら。ベクター。」


ミュウは、もう一度俺に写真立てを渡す。
俺は、もうなにも言わずにそれを受け取り、屑を積み込んでいた荷車にそっと入れた。
荷車の傍ではポチが済まなさそうに座っている。
結局、あの時ポチも、俺達が堪えていたのとは別のルートからの侵入を一所懸命防いでいたらしく、この家を守ることは出来なかった。
そのことをこいつなりに気にしているらしい。

まさと「ポチ。お前だってよく頑張ったんだからな。」
ポチ「・・・・・へい。」


ミュウのところへ戻ると、ミュウは膝を抱えて座りこんでいた。
どう見ても、なにかを堪えてるように見えた。
俺はゆっくり傍に行くと、横に座る。
しばらくすると、ミュウはなにも言わずに頭を俺の肩に乗せてきた。

まさと「あの、さ、泣きたかったら、・・・泣いとけよ。泣ける時に。」
ミュウ「・・・・そんなこというと、惚れるぞ。付きまとうぞ。無茶言うぞ。ぶん殴るぞ。」
まさと「ああ、好きにしていい。」

とたんに、ミュウは、俺にしがみついてきて顔を胸に押し付けてきた。
けど、大声を上げたりはしなかった。声を押し殺していた。
泣いていたのは、ミュウが顔を離した後、ミュウが顔を押し付けていた辺りが濡れていたので、すぐ分かったのだが。

ミュウ「ふぅ・・・・・すっきりした。あっ。やばっ。」
まさと「あ、これか。あー・・・・俺のよだれ。今疲れて寝てたから。うんうん、そう。こんなのすぐ乾いちまうよ。」


ほっぺたをペちっとやられる。軽くペちっと。

まさと「痛てぇよ。」
ミュウ「似合わないこというからだ。さぁ、片付けちゃおうか。」
まさと「ああ。」

結局、ほとんどの荷物を処分することになった。
残ったのは、兜が割れてなくなっちまった、俺の鎧一式。と三神器。ミュウの着ている服。と、ソーサールブースター。
ほんとうに、それだけになってしまった。
荷物をいっぱい積んで、クソ重たくなった荷車を引っ張って、村の中央へ。ポチも人間になって押すのを手伝ってくれる。
村の中央で、ダメになった家財などを全部一緒に燃やすことになっている。
中央につくと、既に大きなゴミの山が出来ていた。
どこも、同じような感じだったんだな。
俺達の持ってきたゴミも山へ移す。
よく見るとゴミの山の端のほうで、ファルネがぽつんと立ちぼうけている。

まさと「そんなとこで、ぼーっとしてると、踏まれるぞ。」

ファルネは、俺に気がつくと飛んで、肩の上に乗ってきた。

ファルネ「マモリキレナカッタ。ゴメンナサイ。」

ファルネは、サイファーがシルフィーをさらった時に必死になって抵抗してくれたらしい。
村の端のほうで気絶して落っこちていたのを後になって見つけた。

まさと「お前のせいじゃないだろ。誰だってきっと同じだったさ。」

俺がそう言うと、ファルネは俺の顔にしがみついてくる。その間、頭をなでてやった。
しばらくすると長老の掛け声があって、ゴミの山に火をつけた。
ミュウも火種にしかならない炎の魔法で山に火をつける。
燃え盛る炎。

タニア「タダでは済まさないにゃ。」
まさと「あれ。猫、お前、来てたのか。」
タニア「さっき、来たにゃ。留守番してたにゃ。」
まさと「そうか。」
タニア「マリン傷つけたやつ、絶対に許さないにゃ。マリン、傷、残ったにゃ。」
まさと「え・・・そうなのか?」
マリン「こら、タニア。人に言っちゃダメって言ったでしょ。」
タニア「うにゃ!」

後ろ、エルブンのほうからマリンさんが俺達を見つけてやってきた。

まさと「あ、具合どうですか?」
マリン「うん。大丈夫。パールの手当てはちゃんと効いてるわ。起きた時はびっくりしたけど。」
まさと「ああ、水槽の中でしたもんね。」
マリン「魚になっちゃったかと思ったわよ。」
ミュウ「ねぇさん、傷って・・・。」
マリン「え、あ。ちょっとね。どうしても消えないのが残っちゃった。恥ずかしいとこに。」
ミュウ「は、はずっ・・・!?」
マリン「・・あうぅ・・大きな誤解が生まれたみたいだから説明しとくとね。この辺にちょっと。」

マリンさんは自分の右胸のちょっと下あたりを指でなぞって、ちょっと舌を出す。

ミュウ「うわ。そんなとこ。」
マリン「あ、まさとさん、後でこそっと見せてあげますね。」
ミュウ「・・・・・じっ。なに考えたっ!?」
まさと「・・・考えてない考えてない。」
マリン「ふふ。冗談。ところで、エルブンのほうで炊き出しやってるから、食べに行ってきたら?」
まさと「ああ、そうなんだ。おい、ミュウ、行くぞ。」
ミュウ「うん。」

エルブンは皆の健闘の甲斐あって、ほとんど無事で済んだ。しばらくはここで、寄り合い所帯になる。

マスター「・・・・と言う訳で。今までのつけは全部チャラ!」
駄菓子屋「豪気だねぇ。」
マスター「まぁ、それどころじゃないってのが本音だね。うちも、皆も。」
駄菓子屋「そうだねぇ。まぁ、ここらが踏ん張りどこだねぇ。」

そんな会話をしているところに入る。
入ると、エドさんから声を掛けられた。

エド「おう。頑張ったみたいだな。」
まさと「いや、ぜんぜんダメ。諦めるとこまで行った。」
エド「ははぁ。なにいってんでぇ、人間諦めが肝心よぉ。」

・・・・・酒入ってるな、コリャ。
さらに奥に進むと、ファリアが来い来いと手招きしてる。
断る理由もないのでそっちへ座ることにした。
ファリアは珍しく鎧をはずし、簡易な服を着ている。布が少ないのは鎧の時と一緒。

ファリア「おお、番人も一緒か。まぁ、食おう。」
まさと「ああ、傷、あれから平気だったか。」
ファリア「当たり前だ。でなきゃ生きてねぇ。ほら、ミュウも座れ。」
ミュウ「うん。傷って?」
ファリア「おお。そうだ。それだ。お前、こいつに回復魔法譲っちゃったって?」
ミュウ「あ、うん。そうそう。セントヘブンでいろいろあって。そん時に。」
ファリア「ほんと馬鹿なー。コイツもお前も。」
ミュウ「あはは。まぁね。」
まさと「あぅ。また馬鹿馬鹿言われタイムか。」
ファリア「まぁ、そのおかげで、コイツが何をとち狂ったか、俺に掛けてくれたんでな。命拾いしたって話しなんだがな。」
ミュウ「ほー。思わぬところで、役に立ったわけだ。」
ファリア「なんだ、その思わぬ、というのは。まぁ、とにかく譲っちまったもんはしかたねぇ。もう戻せないだろうから、しっかり考えて使えって、釘刺しとこうと思ってな。」
まさと「え、戻せないのか?」
ミュウ「あー、多分無理だろうね。まさとのほうが魔法力は低そうだから。あれ、高いほうから低いほうへしか出来ないから。」
まさと「あー、そういうことになるのか。俺がその魔法力を上げるとかしない限りは。」
ファリア「そういうことだ。言いたいことはな。あとは好きにしろ。そんな馬鹿でも、馬鹿は馬鹿なりにやってるみたいだから、俺は文句ねぇ。」
ミュウ「そだね。」
まさと「ほ、誉められてる、のか?」
ミュウ「多分。」
ファリア「ああ。ただし、それでのぼせ上がるなら斬る。」
まさと「でた。ひょっとして、斬る、って好きなのか?」
ファリア「・・・・・・・・いうな。味気なくなるから。」
ミュウ「ぷっ。やっと気付いた。」
まさと「・・・あ。・・・そうか。あぁあ。」
ミュウ「最初の時は必ずあれやるからねぇ。どうしようかと思ったわよ。話してももっと誤解されるだけだし。」
まさと「ん。最初? ああ、そうか。すまん。俺、すげぇ悪いやつだと思ってた。あー、今はそうは思ってないからな。」
ファリア「ふふん。仲よしこよしなんて最初から出来るか。びびらせとくに限る。」
ミュウ「損するよー、ファリア。そろそろ、そーゆーのやめにしないと、貰い手なくなるよ。」
ファリア「いく気はない。安心しろ。」
ミュウ「これだ。」
ファリア「ああ、そうだ。礼をしておかないとな。」
まさと「ん? 俺?」
ファリア「そうだ。女抱きたくなったらいつでも言え、相手してやる。」
まさと「ぶ。いや、それは。いくらなんでもストレート過ぎないか?」ミュウ「ぷくくっ。」
ファリア「俺は、魅力ないか。なんだったら、今からでもいいぞ。上は空いているようだ。」
まさと「おいおい、しゃれんなんねーってば。」
ミュウ「ぷははっ。」
ファリア「遠慮をするな。女に恥をかかせるもんじゃない。さぁ立て、部屋に行くぞ。ほら。」
まさと「うわ、うわうわ、腕を引っ張るなっ。おいミュウ、お前も笑ってないでなんか言ってやってくれっ。」
ミュウ「ぎゃはははははっ。」
ファリア「それとも、ミュウにしとくか?」
ミュウ「ふんっ・・・それは笑えない。」
ファリア「痛いぞ。」

ファリアの顔面にミュウのパンチがそれはもう見事に決まってる。
そうか、そういうことか、ミュウのコンビネーションの良さは、こいつとの掛け合いの中で生まれたのか。
いや、きっとそうに違いない。

まさと「はぁ・・・・冗談だったか。」
ファリア「いや、本気。」
まさと「いや、俺にはもったいない話だぞ。」
ファリア「冗談か?」
まさと「いや、本気。」
ファリア「そうか、よし。」

ファリアはすっと席に戻る。
意外と、ファリアも面白いやつかもしれない。噛めば噛むほど味が出るというタイプか。根性要るけどね。
そんなファリアと俺のやり取りを見ながら、ミュウはうれしそうに、炊き出しのお握りを食べている。

まさと「美味いか?」
ミュウ「あい。」
まさと「あぁ、喋ってないで俺達も食うぞファリア。全部ミュウに食われないうちに。」
ファリア「ああ。」
ミュウ「げほっ。あ、それ、なんかひどいぃ〜。」
まさと「むせるな。その程度のことで。」
ミュウ「あう。」

時々馬鹿話を交えながらしばらくお握りにかぶりつきつづけた。
正直のところ、ミュウがいつも通りに食べてるので、少し安心したが。
しばらくして、ミュウは長老のとこに話をしにいくと一人席を離れる。

まさと「あ、なら俺も。」
ミュウ「すぐ戻るからファリア達と待っててよ。家のこととかの報告だけだから。」
まさと「そうか?」
ミュウ「うん。じゃ、ちょっと行って来るね〜。」

さっきまでと違って、いつもの元気のいい歩き方でエルブンを出て行くミュウ。

ファリア「・・・・なぁ。」
まさと「ん?」
ファリア「・・・・いや、なんでもない。あいつが元気になって良かったよ。」
まさと「・・・・・・・・ああ、そうだな。こんな時だし。」
ファリア「ところでな。」
まさと「ん?」
ファリア「その、聖剣、握らせてもらっていいか? 一度振ってみたい。」
まさと「くさなぎ? あ、ほれ。」


傍に立てかけていたくさなぎを鞘ごとファリアに渡す。
が、受け取ったとたん、ファリアはくさなぎを落としそうになった。

ファリア「う・・・・・わっ。」
まさと「なに冗談やってんだよ。」
ファリア「いや、冗談は・・・お前、こんな物振ってたのか?」
まさと「は? いや、言ってる意味が良くわかんねぇんだけど。」
ファリア「この剣・・・・・見た目の倍の重さはあるぞ。」
まさと「・・・・そんなはずはないが・・・。」
ファリア「・・・・・いや、俺の剣よりも数段重いぞ。」

ファリアは自分の剣とくさなぎを片手づつで持って重さを比べて言う。
不思議に思ったので、ファリアの剣を持たせてもらった。

ファリア「どうだ。相当軽いだろう。」
まさと「いや、それが・・・・重いぞ。どうなってんだ・・・・これ。倍とは言わないが、くさなぎよりこっちのほうが重いぞ。」
ファリア「なに!?」


慌てて、自分の剣を取り戻してまた持ち比べるファリア。

ファリア「おい。嘘言うなよ。俺の剣のほうが・・・・あ、そういうことか。」
まさと「どうした。」
ファリア「この聖剣だよ。コイツは、持ち主を選ぶ代物だ。だから、持ち主以外には極端に重くなるんだ。そういうことだろう。」
まさと「ああ、そういえば、急に軽くなったりする時は・・・・あったな。あの、投げた時とか。」
ファリア「そうだな。お前の腕力で、この重さを投げられるとは思えない。お前が持つと、この剣は軽くなる。そういうことなんだろう。」
まさと「あ、いや、でも、ミュウも引き抜いた時軽々と持ってたような。いや、待てよ、平気で岩ぶん投げられるやつだから、重さは・・・。」
ファリア「・・・・とうとう岩までいったか。」
まさと「あ、ああ、岩までだ。うん。そうかぁ、くさなぎは・・・。」
ファリア「そうだ。くさなぎの持ち主はお前だってことだ。残念だ。そいつで技を出せばどうなるのかやってみたかったんだが、とても振るえそうにない。」
まさと「あ、あれか。あれは、確かに重いと難しそうだな。飛びあがるし。」
ファリア「そういうことだ。」
まさと「そうか。・・・・・けど、重さは考えもしなかった。一度、竜崎にも持たせてみれば良かったなぁ。」
ファリア「りゅーざき? あ、セントヘブンのほうの。」
まさと「そうそう。」
ファリア「結果は出たんじゃないのか? 覚醒の儀、やったんだろう?」
まさと「まぁ、そうなんだけどな。今一つ、大きな変化がなくってな。」
ファリア「そうか、じゃぁ、あとで、俺と手合わせしてみないか?」
まさと「ん・・・そうだなぁ、ミュウが戻ったらやりにいくか。」
ファリア「お、もどってきたぞ。」

戻ってきたミュウを引きつれて、俺達はエルブンを出た。
川原に出て、ファリアと二度三度と手合わせをする。
結果、俺のストレート負け。いや、勝てるとは思ってはいなかったが。

ファリア「ふーむ。」
まさと「はぁ・・・はぁ・・・剣の早さについていけねぇ・・・・。」
ファリア「いや・・・・・。」
まさと「なんだ?」
ファリア「いや、ここまで俺に付いてきた奴ははじめてなんだ。俺は夢でも見てるのか?」
まさと「そ、そうなのか?」
ミュウ「そうだねぇ。まさと、動きが速くなってるし、ちゃんと相手見れてるよ。前とはぜんぜん違う。」
ファリア「まあいい。結構面白かったぞ。」

そこへ、エドさんがやってくる。

エド「お。手合わせか。俺も混ぜてくれゃ。」
キリー「私もお手合わせ願いたい。」
ターマル「僕もなんだな。」

後から、キリーと、ターマルが来て、とうとう否応無く手合わせ大会になってしまった。
大笑いでやじを飛ばしてくる、ファリアと、ミュウ。
終わる頃には、もう、へとへとになっていた。
それでも、エドさんも、キリーも、ターマルも、それぞれ剣の使い方が違うので、いい勉強になったとは思う。

ミュウ「お疲れ〜。」
まさと「ははっ。まいった。」
ファリア「わはは。皆、一緒に死線を越えた勇者と手合わせしてみたかったんだろうな。」
まさと「こうなると、勇者っても、ただの珍獣だな。」
ファリア「ああ、そうだな。珍しいことには違いない。」

そこで、誰か足りていないというか、会っていないのに気がついた。

まさと「あ、そういや、カイゼルのおっさんは?」
ファリア「ん? ああ、完治前に無理したってんで、パールってのに、また、連れてかれたみたいだぞ。箱に。」
まさと「あ、具合が。」
ファリア「いや、医者をいやがる子供みたいに駄々こねてたから、平気だろう。大事をとってってことだろうな。」
まさと「そうか。ならいいんだけど。それでパールも見ないのか。・・・それはそれで見たかったな。おっさんが駄々こねてるとこ。」
ファリア「見物だったぞ。」
ミュウ「ううっ、大きな駄々っ子・・・・。けど・・・・二人とも今日は、よく話、してるね。」
まさと「ああ、言われてみりゃ。」
ファリア「まぁ、コイツのことは少しはわかってきたしな。無視する理由もない。」
ミュウ「好きになったって言えばいいのにぃ。」
ファリア「すっ・・・・・・いえるかぁっ。」
まさと「え?」
ファリア「うっ、いや・・・・嘘だからなっ! 今コイツが言ったのは口からでまかせだ! 信じるんじゃないぞ!」
ミュウ「はいはい。」
まさと「わ、わかったわかった。」

顔を赤くしながら否定するファリア。
今日は、今まで知らなかったファリアの一面を沢山知った気がする。
俺達が川原からエルブンの前まで戻ると、なにやら、ポチと猫がいがみ合っているような。
いや、猫が一方的にふーっふーっ言って、喧嘩を売っているのか。

マリン「ああ、戻ってきた。」
まさと「どしたの?」
マリン「それがね・・・・。」
タニア「タニアだって欲しいにゃっ!」
ポチ「いや、それは・・・ああ、まさと様、どうにかしてくださいっ!」


ポチが泣きついてくる。

マリン「タニアも名前つけて欲しいんだって。」
まさと「はい?」
マリン「ポチとかそういうの。つけてあげて。」
まさと「あー、なるほど。おい、猫、いや、タニア、お前、そんなに欲しいのか? 猫じゃダメか?」
タニア「うー、猫だと他と区別がつかないにゃ。」
まさと「いや、猫って呼ぶやつは少ないから、いいと思ったんだが。じゃぁ、つけてやるか・・・えっと。」
タニア「わくわくにゃ。」
まさと「タニア・・・なんだっけ?」
タニア「ぐにゃ。・・・・マーベリックにゃ。」

すっ転ぶ猫。
すまん。ほんとに忘れてたんだ。

まさと「んじゃ、タマ。」
ミュウ「・・・・・言うと思ったわよ。また代表的猫の名前とかいう?」
まさと「言う。まさにそれ。ポチにタマ。」
タニア「・・・・・にゃ! それがいいにゃ! タマにゃっ! タマにゃっ! タマにゃっ!」
マリン「よかったね。タニア。」
ミュウ「・・・・いいのかなぁ。」
ポチ「やれやれ・・・。」

タマはその辺をうれしそうに転がりまわる。
まぁ、このぐらいで喜んでくれるんなら安いもんだ。
それから、エルブンの風呂を使わせてもらって、疲れを取り、皆で、部屋割りをした。
ほとんどが個室を割り当て出来そうだったのだが、どう考えても一部屋足りない。
仕方ないので、まだ修理の済んでいない、ミュウが壁を蹴破った部屋を使い、そこへ、俺とミュウが相部屋することになった。
どうも、周りは、俺とミュウをセットで考えているらしい。
が、翌日の事があったので、都合はよかった。
皆が寝静まる頃、俺とミュウは、医療装置に詰めているパールを尋ねた。あることを聞き出す為に。
パールは、カイゼルが治療中ということもあって、外に出てきて、医療装置の壁にもたれるなどして話しをした。

パール「で、どうしたの?」
まさと「ああ、さっき、ミュウと話してたんだけどな。サイファーの城に乗り込もうと思ってる。明日。」
パール「・・・・・・・・・でしょうね。そういうつもりじゃないかと思ってた。城の場所が聞きたいって事ね。」
まさと「理解が早くて助かる。」
パール「考える時間をくれない?」
まさと「時間か・・・じゃぁ、明日の・・・いや、今、教えてくれ。」
パール「違うわよ。邪魔すると思ってるでしょ。一晩、潜入ルートを考えるってことよ。」
まさと「あ、入るのはそんなに難しいのか?」
パール「まぁ、ね。だから時間が欲しいの。それと、言ったでしょ。全力でサポートするって。それは覚えててくれていいわ。」
まさと「そうか、そうだな。」
パール「まぁ、不安かもしれないから、場所だけは教えておくわ。サイファーの城ダークキャッスルはアルヘルドのマジェスティックスの海の底よ。」
ミュウ「アルヘルド!?」
まさと「そうか、入るのが難しいわけだ。飛びこむわけにいかねぇ。」
パール「そういうことよ。行くつもりなら、今晩はちゃんと休んでおく事ね。」
まさと「わかった。そうする。」
ミュウ「じゃぁ、明日の朝6時に村の南の出口にいるわ。そこで、落ち合うってどう?」
パール「そうね。」
まさと「じゃぁ、そろそろ寝るわ。」
パール「そうして。じゃ、明日の6時に。」

部屋に戻ると、すぐ床に入った。
背中合わせになって、ミュウの体温をわずかに感じながら眠る。
夢は見なかった。