第3話 ミスティック・ミュウ誕生! #10 決戦!エルフの村

しばらくして、パールが俺を呼びに来た。多分、おっさんのことだろう。
俺は、ばぁさんもつれて行くことにした。そして、医療装置の中へ。
中では、半裸になった、おっさんと、マリンさんが、なにか、ガスのような物が満たされた、浴槽の中に、それぞれ寝かされていた。

パール「容態は安定してきたわ。意識が戻るには、まだ掛かると思うけど、確認したいことがあるの。いい?」
まさと「ああ。」
長老「よかろう。」
パール「ありがとう。じゃぁ、端的に聞きます。カイゼルは、ラルフ・グレンハートに間違いありませんね?」
まさと「ああ。そうだ。」
長老「・・・・・・・なんじゃ。お主ももう知っておったのか。」
まさと「まぁね。つい先日のことだけど。」
パール「時間経過を止める魔法、その効果で若いままの様だけど、おかげで、治療効果が低いの、傷は小さいけど、彼のほうが重態よ。マリンはもう安心してて大丈夫。傷がふさがれば意識もすぐ戻るでしょう。で、彼は、素性を隠して、何をしようとしていたんですか? 私は、資料を見てこの人の顔を知っていたのだけど。」
まさと「ああ、なんだか、バレるとうまくいかないようなことを言ってたな。マリンさん経由で聞いた話。」
長老「うむ。もう話してもよいかも知れぬのぉ。もう何十年も前じゃ、ラルフは、再びアルヘルドの再興を狙う者がおると聞いて、それを調べる為に旅に出た。」
まさと「ああ、ミュウが言ってた、出たきり戻らないってやつか。」
長老「そうじゃ。で、戻ってきたのがつい先日、カイゼルとしてじゃがの。その数十年間、アルヘルドの近くの洞窟で、動けなくされて居たらしいのじゃ。ダイアという魔族によってな。その時に掛けられたのが時間を止める魔法じゃ。本来、そこで、動けないままこれは死を迎える運命じゃった。」
パール「でも・・・・・そいうはならなかった。と言うことですね。私も何十年も前にラルフは仕留めたと聞いていましたが。」
まさと「ああ、ダイアが言ってたのとつじつまは合うのか。」
パール「ええ、そうね。」
長老「魔法が掛かりきらなかったらしいのぉ。半月ほど前に動けるようになったそうじゃ。でな。正体を隠しておったのは、ダイアの後に居る者の正体を探る為じゃ。その為にこれはラルフであることを隠した。いや、捨てたのじゃ。己を捨てて、間違った歴史を歩むのを止める為にな。」
パール「後に居る者・・・・・サイファーのことでしょうね。それに私達のことも、か。」
長老「そういうことじゃな。そのことを調べる為にこの村に戻ると、勇者が召還されておった、つまり、こっちのこれのことじゃ。」

こんこんと、俺の頭をこつく長老。まぁ、黙って苦笑いしておく。

長老「ラルフは、混迷しておった、勇者が現れるほどの事態なのかとな。それで、はっきりさせる為に、これは、勇者と行動をともにするようにした。それが、現状じゃのぉ。」
まさと「・・・・・そうか。」
パール「やはりそう言うことなのね。マリンは、このことは?」
まさと「ああ、多分知ってる。再会してすぐにおっさんは、あ、いや、ラルフさんは・・・。」
長老「こいつはおっさんでええぞ。」
まさと「そ、そうなんか? ・・・・おっさんは、マリンさんに再会した夜に全部話したみたいだ。それで、俺は、マリンさんから口止めされたんだよ。自分の父親だからばらすなって。」
長老「ほぉほぉ・・・おや? その時、もう、マリンとミュウのことは知っておったんか?」
まさと「いや、そのあと、ミュウがセントヘブンで、マリンさんが実の姉だって教えてくれた。」
長老「おお、そういうことか。」
まさと「あせったよ。気が付いた時には。それから、ミュウはまだ知らないらしいし、俺も言ってない。まだ、口止めされてる。」
パール「そう。」

そう言うと、しばらくパールは何か思索に更ける。

パール「私は・・サイファーに拾われて、魔導科学の勉強をしてきました。拾われたところがその研究をしてましたから。その為、魔導科学を軸にした文明の再興を信じて、研究を続けて、いろんな物を作っていたんです。ソーサルブースターや、この医療装置とか。でも、それが、利用されているだけってことに気が付いたのが・・・・・。」
まさと「昨日・・・か。」
パール「そう。そうね、厳密には、ダイアが現れた時には、もう明白だったかも。」
長老「・・・・そうじゃろうなぁ。」
パール「城に戻ってはみましたが、サイファーは居なくなっていたし、ダイアに釘を刺さされるだけだったし。」
長老「なんと。すると、昨日からの一連の謎は、サイファー自身が絡んでおる可能性が高いという事ではないか。」
パール「そうね、そう思います。気をつけて下さい。サイファーも、超魔導士の名は嘘や誇大表現ではありません。」
まさと「うわ。やっぱ、レールが・・・レールが・・・・。」
パール「そういうことね。そろそろ本気で覚悟しておいたほうが良いわ。勇者様。」
まさと「ぐは。」
パール「それじゃぁ、私は二人の治療を続けます。それから、ソーサルブースターの再調整をしようと思います。今のままじゃ、ダイアには通じないから。」
まさと「あ、ああ、はじかれてたっけな・・・・。」
パール「ええ、今の私の光学・爆炎系のじゃね。良い素材が見つかったから。それと、一緒に時間を見て、マーガレットも強化しようと考えてます。その・・・ちょっと壊れちゃったし・・・・・。」
まさと「ああっ。すまん。使い方荒くって。すぐ謝ろうと思ってたんだが。」
パール「いいわ。貸したときから覚悟はしてたから。それに、強化が必要なのは本当よ。強化案もまだ固まってないんだけどね。」
まさと「・・・俺って、つくづくダメ勇者だな。」
長老「さて、それはどうかのぉ。」
パール「ええ。そうなら、私だって、ここでこうしてないでしょうし、ミュウも命を落としてたでしょうね。そう悪くはないわ。・・・・・変態だけど。」
まさと「へ、変・・・・・!」
パール「今から寝技の練習します?」
まさと「ぐっ。あ、あれは・・・。わ、忘れてくれ。」
パール「ごめんなさい。記憶力は良いほうなの。まぁ、面白い勇者って事にしておいてあげるわ。」
まさと「ああ、かたなしだぁ。」
長老「自業自得じゃのう。さて、では、いつまでもわしらがおったら邪魔になるだけじゃ、戻るぞ。」
まさと「はいはい。そうします。」
パール「まさと・・・さん。」
まさと「はい?」
パール「これからは、私が全力でサポートしてあげるから、今までの分もね。故郷に帰りたいでしょ? それまでは。」
まさと「あ、ああ、そうだな。そうするよ。」

その後、またエルブンで色々討議はしてみたものの、結局、これといって、良い善後策はなかった。
とにかく何かにつけ注意するしかない様だ。なんの前触れもなく魔獣が現れたりするなら、打つ手はない。
覚悟だけしておくだけだ。
それからは、俺は、おっさんの様に、常に鎧を着け、剣を持ち歩く様にした。
結局この日は新たな事件はなく。何事もなく過ぎようとしていた。
俺は、久々に戻ったミュウの家で、寝支度をはじめた。
シルフィーも久々に今日はミュウの家でお泊りするそうだ。ずっと、大聖堂に居たからな。

ミュウ「むー。結局残っちゃった。」
まさと「ん、ああ、アザか。そのうち消えるんじゃないか?」
ミュウ「そうだといいなぁ。よりによってこんな目立つとこ。まー、仕方ないか。ね、いいよね?」
まさと「・・・・どうして俺に聞く?」
ミュウ「いや、別に。」
シルフィー「ぷくくっ。」
まさと「なんだぁ? なーんか、昨日あたりから変だなお前。」
ミュウ「それを言ったら、まさとのほうが変だよ。ねっ。」
シルフィー「うん。」
まさと「うう、なんかなぁ、調子狂いっぱなし。ああ、俺も風呂入ってもう寝るわ。」


ミュウとシルフィーはさっき一緒に風呂に入ったばかり。今度は俺の番ね。
と思ったら。

シルフィー「どうしたんです?」
まさと「・・・・・何してるんですか、こんなとこで。」
シルフィー「まさとさんのお風呂。」
まさと「いや、そうなんだが。」


なぜか、裾なんかめくって、シルフィーが一緒に浴室に居る。

まさと「ミュウに、殺されたらどうする。」
シルフィー「平気だよ。はい、ここ座って。」
まさと「あ、はいはい・・・・じゃなくて。」
シルフィー「はい、こっち向いてくださぁい。」
まさと「は・いっ・・・だ、だから!」
シルフィー「はい?」
まさと「いや、あの・・・・・おーい、ミュウ、何とかしてくれぇ。」
ミュウ「あははははははっ。おかしーーーーーっ! おかしぃーーーーーーっ! くっははははははっ。」


面白がってやがる。

シルフィー「それ、ちゃんと消さないと。」
まさと「ん、あ、そうか。いや、このくらいなら自分で消せるってば。」


そう言えば、覚醒の儀の聖印がそのまま描かれたままだった。
朝着替えたときに、消すのを忘れていたのだ。寝ぼけてたから。
たっく、マリンさんと、おっさんが大変な目にあっているのに、なにをやっているのだか。
なんだか、俺が留守をしている間に、ミュウと、シルフィーの中で、パールへの信頼が各段に上がってる気がする。
悪いことではないが。
結局、胸の聖印消しと、背中を流してもらうことになってしまった。

シルフィー「んしょ。んしょ。あー、ほおってたから消えにくいですぅ。」
まさと「うー。くすぐったいぞ。」
シルフィー「んしょ、んしょんしょ。あ。」
まさと「いたたた。」

シルフィーの爪が胸の傷に触れる。もうほとんど治りかけているのだが、触られると、少し痛い。

シルフィー「ご、ごめんなさいぃ。」
まさと「あー、いいよいいよ。その辺で。そのうちほっとけば消えるだろう、これぐらい消しとけば。」
シルフィー「はぁい。じゃ、お背中。」
まさと「ああ、そだね。」

今度は背中を流してもらう。
まぁ、可愛い女の子に背中を流してもらうなんてのは、頼んでもそうあることじゃなし。
悪い気分ではないのだが、ミュウが、ずっとその様子を聞いて、笑ったり、笑いをこらえたりしてるのが、気になって仕方ない。
そんなにおかしいか。まったく。
そのうち、シルフィーの手が滑るよ、とか、お約束も大奮発していただきました。

シルフィー「あ、すべった。」
まさと「わぁっ。」

ほんとにやるかい。
もちろん、お腹に手が回ってくるだけ。シルフィーのお茶目もここにきて磨きが掛かってきた様だ。
完全に俺は二人のおもちゃにされている模様。
そうやってるうちに背中流しも終わる。
シルフィーも浴室から出て、俺はゆっくりと湯船で温まらせていただきました。
そして、三人ともそれぞれ毛布に包まるなど、好きなポジションで眠る。ファルネはくさなぎの柄にもたれて。ポチはさっきから流しの脇で丸くなって爆睡中。
俺も、ゆっくりと眠りに落ちて行った。
そして。
平穏はここまでだった。
いや、これまでほんとのとこ色々大変な事があったが、それらが平穏であったと思わせる事態が待っていた。
突然の爆音で、俺達は叩き起こされたのだ。
慌てて飛び出して、爆音がしたほうを見るミュウ。

ミュウ「・・・・・シルフィーの家のほうだ! ・・・・・・あっ。」

そう言うと、一目散にシルフィーの家のほうへ走って・・・・・行かずに、ミュウは部屋の中に戻ってきて、鎧に手を掛けた。

ミュウ「用意して! 魔獣だ!」
まさと「なにっ!?」
シルフィー「ええっ!?」


俺達が辿り着くと、シルフィーの家は砕け、飛び散り、轟々と炎を上げ、真っ黒な煙を舞い上げていた。

シルフィー「いやあぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
まさと「なんてこった。」
長老「ミルフィー! ガゼルッ!」

長老は、礼拝堂のほうから駆けてくる。そっちで眠っていたのか。
すると、この家の中には、おじさん、おばさん、そして、ひょっとしたら、アスフィーも。
上空にはエイのような形をした魔獣が数十匹となく、飛びまわっていた。
あいつらが、火球を吐くか何かしたのだろう。なんて事を。
眠っていたのだとしたら、三人は・・・・・。
その時、爆炎の中から、雷が発生し、それが、上空の魔獣を数匹、まとめて捕らえた。
ショックで滑空するだけしか出来ない魔獣。それを今度は炎の柱が爆炎から伸び、魔獣を焼き焦がす。

長老「おおっ! 無事じゃったかっ!」
まさと「え、無事・・・・・って?」


やがて、爆炎の一部がはじける様に散ると、そこに、おじさんとおばさんが無事に姿を現した。
すさまじい闘気をはらんで。

ガゼル「・・・・・・・・・・・むぅっ。おのれぇっ!」
ミルフィー「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ゆるさないっ! 絶対にゆるさないっ!」


怖えぇ、すげぇ怖えぇ、これがあの温和な二人だと思えないほどの変わり様に、ただただびびりまくった。

長老「あ、いかん。キレとるのぉ。ほれ、ここはあの二人に任せて待避するぞい。ぐずぐずしておると、巻き添えにされるぞ!」
まさと「な、なにいぃっ!」
ガゼル「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


雄叫びとともにおじさんが飛びあがり、劫火をその拳から打ち出す。
その勢いと大きさに魔獣は逃れる場所をなくし、ことごとく灰となっていく。

ミルフィー「てぃやぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

今度はおばさん。
両腕から雷をほとばしらせたかと思うと、それが、空中で接触、さらに大きな雷となり、魔獣を捕らえる。
雷を受けた魔獣は発火し、次々と黒煙を上げながら墜落して消えて行く。

まさと「おい・・・・呪文唱えずに魔法扱ってないか?」
長老「ああ、その通りじゃ。ええい、ぐずぐずして折る暇はないぞ。急ぐのじゃ。シルフィー、皆に魔獣来襲を伝えい!」
シルフィー「は、はいぃぃぃ!」


低空を飛ぶ魔獣めがけて炎の柱を放つおじさん。危うくそれが俺達をかすめそうになる。

まさと「うっ、うわっ! あのっ、おじさんおばさんって、ひょっとして、家吹っ飛ばされたの怒って、キレてるんですかっ!? キレてるんですかっ!?」
長老「・・・・・・・・その通りじゃっ!」
まさと「うわぁ・・・・。」


俺達は、そこを命からがら離れて、魔獣の来襲を知らせる為に、走った。
が、魔獣は、ここにだけ現れたのではなかった。村中あちこちに魔獣は入りこんでいた。
襲いかかってくる魔獣をすんでの所でかわし、何とかして切りつけ、倒しながら進むうちに、俺たちは離れ離れになってしまった。

まさと「しまったなぁ。こんなにうじゃうじゃ入りこんでくるとは・・・。仕方ない。まずは、エルブンまで行って見よう・・・・・。」

俺がエルブンまで行くと、そこも戦場となっていた。
ルビー、マスター、武器屋のエドさん、駄菓子屋のおばちゃんが、陣形を組んで魔獣に応戦している。
パールの医療装置は、その陣形に守られ、今のところ無事の様だ。
カイゼル達は出てきていない。まだ、回復していないのだろうか。
ルビーが幻覚魔法を使って、魔獣を惑わせる。
さすが、魅惑のルビーと名乗っていたことはある。的確に魔獣の目をそらす。
駄菓子屋のおばちゃんが何やら袋から取り出した玉を目標を失ってうろうろしている魔獣に投げつけると、大音響とともに爆発した。火薬玉の様である。
爆発でひっくり返るやつ、中には直接爆発を食らって泡になるやつ。着実に魔獣に被害を与えてゆく。
そして、エルブンのマスターが両手に持った短剣を自在に操りながら魔獣の中を駆けぬける。思いもかけない早さで。
そしてそれらの魔獣は、次の瞬間に一気に泡と化す。

エド「なかなか思うようにへらねぇなぁ・・・。よっしゃぁ、ここらで大技行くぜっ。」

それまで、両の手に持った幅広の剣を交互に使い分けて魔獣を押していたエドさんが、にわかに殺気を増す! そして魔獣のもっとも多い部分めがけて突進して行く!

エド「おっりゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

一旦、剣をクロスさせ、それを払うかのように両方に振りきるエドさん。
たちまち、周りにいた魔獣は、次々と両断され、あっという間に、ほとんどの魔獣を切り倒した。
強い。この村の人たちは、ことごとく強い。
俺も、なんとか、魔獣を切り倒してはいるが、村の人たちの強さは、半端じゃなかった。俺なんか、とても比べ物にならない。
そして、驚くほどの連携で、エルブンの周りに集まった魔獣を瞬く間に掃討してしまった。

まさと「つ、強えぇな、あんた達・・・。」
エド「おうぅ。兄ちゃんかい。無事なようだな。」
まさと「なんでそんなに強いんすか、あんた達ゃぁ。」
エド「あ? いや、そう見えるかもしんねぇけどな。そうでもないんだぜ。ほれ、見てみろよ、俺の足。」

そう言うと、剣先で自分の足元を指し示す。
見ると、エドさんの足はがたがたと震えている・・・・。

まさと「む、武者震いってやつっすか?」
エド「そう言ってくれるのはありがてぇんだけどな。怖いんだよ。すんげぇ。」
駄菓子屋のおばさん「エドは滅法気が弱いからねぇ。」
エド「あっさりいわねぇでくれよ。ますます、振るえあがっちまうだろうがよぉ。」
まさと「・・・・そんな状態で・・・・・・すげえっすよ。ほんとに。」
エド「まぁなぁ。怖いからって逃げるわけにもいかねぇしなぁ。逃げたらその分、誰かが傷つくんだ。俺ぁそんなのはやっぱ嫌なんでなぁ。で、なんとか踏ん張ってるってぇ訳よ。」
まさと「なるほどな。強いってのはほんとだったんだ。」
エド「なんだぁ? ところで、ミュウちゃん、どうした?」まさと「あ、いや、はぐれちまって・・・・。」
エド「なんだとぉ! なにぐずぐずしてんだよぉ。なにかあったらどうすんでぇ!」
まさと「! そ、そうっすね。俺、なにやってんだろ・・・。ル、ルビー、マリンさんたちの様子は?」
ルビー「まだ、意識は戻らないわ。戻ってもすぐには動けないでしょうね。」
まさと「そうか。そうだよな。おっさん達を頼るわけにはいかねぇか。それじゃ、俺、行きます、ここは頼みました。」
エド「おうよ! まかしとけっ! 魔獣はどんどん湧いてきやがるからにぃちゃんも気ぃつけなっ!」
まさと「ああっ!」

逃げたらその分、誰かが傷つく。確かにその通りだ。
そんなのは嫌だから、なんとか踏ん張る。その通りだ。
それを実践してる。やっぱり、ここの人達は強い。そしてやさしい。
俺も頑張らなきゃ。俺だって、誰かが傷つくのは嫌だ。
村の入り口が近くなったところで、威勢の良い掛け声が聞こえてくる。ファリアだ。
しかし、その威勢とは裏腹に、ファリアは凄く傷ついていた。

ファリア「でやぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーっ!」

それでもファリアは魔獣に切りかかって行く。足を引きずりながら。
だがファリアの剣は魔獣の甲羅に阻まれ、なかなか思うように切れこんでくれない。それで、ファリアは苦戦しているのだ。すでに、周りを魔獣に囲まれ、退路すらない。
そして、引きずっていた足がどんどん言う事を聞かなくなっていくファリアは、足を押さえて、かがまずにいられなくなった。
魔獣がその隙を狙う。

ファリア「ちっ・・・・ここまでかよ・・・・・。」

俺は、どうにかしなきゃと思った。
そう思って、とにかく走った。
ファリアと、そのファリアを狙う魔獣の群めがけて、くさなぎを構えながら。
しかし、どう考えても魔獣の爪のほうが早くファリアを捕まえそうだった。
焦る。
くさなぎを大きく後に構えた時。急にくさなぎが軽くなった。これなら!

まさと「どりゃあああああああああああっ!」

俺は、無我夢中で、くさなぎを投げていた。ファリアを狙う魔獣に向かって。
びゅんと風を唸らせてくさなぎが飛んでいく。魔獣めがけて。
そして鈍い音を立てて、くさなぎは魔獣の肩に刺さる。
ひるむ魔獣。

ファリア「! よしっ。」

ファリアは態勢を立て直して、剣を構え直す。
そして。

ファリア「ルーン・シルフィーーーーーーーーーーーーーーーーード・サルテッ!」

ファリアが舞った。舞うように剣を振るいながら跳ねあがったのだ。
その切っ先の軌跡の先にはファルネを取り囲む魔獣達が居た。
魔獣達は、突如放たれた鋭利な剣圧に、両断または引き裂かれて泡となって行った。
俺は、ようやく駆け付けると、くさなぎを拾い、ファリアの痛めた足に回復魔法をかけてやる。

ファリア「ち。借りが出来ちまったな・・・・・。」
まさと「いいさ。それより、さっきの、すげぇな、あれ。」
ファリア「魔法剣だ。風系の魔法を剣にのせて、剣圧と一緒に放った。よく切れるんだぜ。すげぇ集中力が要るんで連発はきかねぇけどな。って・・・おい。お前、いつの間に回復魔法を?」
まさと「魔法剣ね。あ、これは、ミュウに・・・・。」
ファリア「あんのばか、唯一の使える魔法をお前に渡したのかっ!?」
まさと「え? 唯一?」
ファリア「いいか、あいつはなぁ、生まれつき魔法が上手く使えねぇんだ。火炎系は小さな火種でしかねぇし、電撃系はぴりぴりするだけ、風系は涼しいだけだし、水系はただの水芸、大地系は石が転がるだけってお粗末さなんだぞ! 唯一使い物になったのが、その回復系なんだよっ! その回復系を渡しちまったら、使えるのは剣と自分の腕力だけなんだぞ!」
まさと「なんだって!?」
ファリア「何を考えてやがるんだ、あいつは・・・・。」
まさと「いや・・・・・ちょっと待て、腕力だけあればあいつは充分強い気はするが。」
ファリア「あ。いや、それは・・・んー・・・・・・・・そうだな。って、そういうことじゃねぇんだよっ! 回復系がなきゃすぐに息が上がっちまうだろうがっ!」
まさと「・・・・・・・・・あ。そういわれてみれば。あいつだって体力は無尽蔵じゃないだろうな・・・・。それなのに。」
ファリア「・・・・おい。あいつが回復系をどうしてお前に渡したのかしらねぇが、それを渡すってことは、あいつは、お前に、絶大の信頼を置いてる。そういうことなんだぞ! こんなところでなにやってんだこのタコスケっ!」
まさと「絶大の信頼? 俺に?」
ファルネ「そうだっ! ミュウはこの先で見かけた、とっとと行け! ミュウになにかあったら斬るぞっ、このボケっ! もう、借りは帳消しだっ!」
まさと「う、あ、ああっ!」

ファリアにボロカスに言われながら、ミュウが居るという方向へ俺は走った。
ミュウは、レーア姫、キリー、ターマル、そしてシルビーになった長老と、村の入り口で、魔獣の侵入を食い止めようとしていた。
もし、ミュウ達がここで踏ん張ってなかったら、村の中は、さぞ凄まじい事になっていただろう。

まさと「すまん! 遅くなった!」
ミュウ「あ、無事ね。よしよし。」
まさと「魔獣を切ってるうちにそっちを見失っちまった。ほんと、すまんっ。」
ミュウ「へぇ。殊勝じゃない。びっくり。」
まさと「うぅ。」

見ると、キリー達も健闘している。
キリーは驚くほどのスピードで、魔獣の間を駆けぬけ、魔獣を切り刻んで行く。
ターマルは体重を乗せた豪の剣というやつで、堅い装甲を持った魔獣を着実に仕留めて行く。
二人ともさすがに王女のお付をしていることはある。
ミュウは、あの、俺を鍛えた剣さばきで、どんどん魔獣を切り倒して行く。完全に、調子は戻った様だ。
シルビーは火球を次々と放ち、魔獣を炭と化して行く。
レーアは剣は持たず、投げナイフを使って、魔獣の動きを翻弄して走りまわる。
こんなちっちゃなお姫様でさえ、自分流の着実な戦法で、事に挑んでる。
俺は・・・・。
障壁をも破る聖剣くさなぎ、魔獣の爪をも跳ね返す聖盾みかがみの盾。
そんな凄い物を持たせてもらってる。
・・・・・・・・・斬り込んでくしかねぇじゃねかよ。
そう思って、駆け出そうとした。
が。

ミュウ「はぁ・・・はぁ・・・・・・・・・ぐ・・・・・。」

ミュウが肩で大きく息をしているのがやっとわかった。ファリアが言うのはこういう事か。
俺は、ミュウに回復魔法を掛けた。

まさと「リフレース!」
ミュウ「あ、お。ん。気が効くじゃない。」
まさと「いや、そうでもねぇ。ついさっきまで、こんなこたぁ、考えもしてなかった。」
ミュウ「ふーん。ま、いっか。おし、次が来たから行くよ。ついてくる?」
まさと「おうっ!」
ミュウ「てぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーいっ!」
まさと「うおおぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

俺は、ミュウと並ぶ様にして、次から次と押し寄せてくる魔獣の群めがけて駆け込んで行った。
そして、全力で、くさなぎを振るいつづけた。常に、ミュウが見える位置を選んで。

ミュウ「へぇ。頑張んじゃない。先につぶれないでよ〜。」
まさと「さぁな。まぁ、やれるだけやって見るさ。」
ミュウ「ん!」


ここが抜かれれば死守は難しくなる、俺の頭でもそれぐらいはわかる。踏ん張るしかなかった。
そしてそれに、マーガレットが飛んできて戦列に加わった。パールが指示してくれたんだろう。
見ると後のほうでは、火柱と雷が魔獣を焼き焦がしているのがわかる。おじさん、おばさん、キレながらでも、どんどん魔獣を倒している様だ。
遠くで、エドさんの掛け声も聞こえてくる。
ファリアのさっきより増して威勢の良い声も。
みんな頑張ってる。
しかし、魔獣は斬っても斬っても、次から次に現れ、俺達はどんどん疲弊して行った。
やがて、俺も、ミュウから否応無く、離されて行った。ミュウも、また息が上がりはじめてる。
早く回復させてやらなくちゃ。
そうして、ミュウに近づこうと、踏み出した時。

ミュウ「うあっ・・・・・・・。」

魔獣の爪にミュウが吹き飛ばされた。体とは別の方向に鎧が砕けて飛ぶ。

まさと「ミュウっ!!」

俺は、猛然とその魔獣に突っ込んで行った。
魔獣は、倒れたミュウに今にも襲いかかろうとしている。
時間の流れも自分の動きも凄くゆっくりになっている気がした。
走る俺めがけて、別の魔獣のカマが向かってくる、よけようとしたが、兜を掠めた。
軽い音とともに砕ける兜。
頭にも痛みが走る。
が、そんなことは気にしていられない。
俺は、そちらを振りかえりもせず、魔獣に駆け寄ると、くさなぎを振り下ろす。
が、腕に力が入らない。
俺に気が付いた魔獣の腕で、剣ははじかれる。
とっさに俺は、盾を構えて全力で、体当たりをしていた。
もう、これしか、この場を凌ぐ手は無かった。
魔獣は、盾の威力に押され、ぐらついて、二歩三歩と、向こうへ。
しかしそこまで。
もう、体全体力が入らなくなってきていた。
ここで、魔獣の反撃があったら、お仕舞いだ。
その時、俺の目前をレイピアが横切って、魔獣を突き刺した。
ミュウのレイピアだ。

ミュウ「・・・・よく踏ん張った!」

魔獣はゆっくりと倒れ始めた。
が、そこで、ミュウはレイピアを引きぬくことは出来なかった。
硬質な音を立てて折れるレイピア。

ミュウ「く・・・・。」

魔獣は泡となった。ミュウは無事だった。鎧を砕かれその身に傷を負わされたものの、深手は負っていない。
安心はした物の、ミュウの剣が折れてしまった。どうするか・・・。
魔獣は、まだまだやってくる・・・。

まさと「しつこいやつらだよなぁ・・・・。」
ミュウ「元から絶たないとダメ?」
まさと「なんだよ元って。」

俺は、しっかり握りきれてないくさなぎを、こちらに向かってくる、魔獣に向けて構えた。
構えても、もう剣をつきたてる様に突っ込むしか出来ない。
そう俺は考えて覚悟を決めかけていた。

カイゼル「てやぁああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

俺達の目の前、魔獣との間に、白い鎧の剣士、カイゼルが飛び込んできた。

まさと「おっさん!」
ミュウ「カイゼル、もう動いていいの!?」
カイゼル「おめおめと寝ていられる物か。この忙しい時に。」

そのまた前、魔獣の目前に玉が投げこまれ、それが光を放ち、魔獣の目を眩ませる。
この玉を以前に見たことがなかったら、俺達も直視して眩んでしまうところだった。そして、カイゼルが魔法銀を塗られた剣を振るう!

カイゼル「・・・・っせいっ!!!!」

数匹の魔獣が一気に切り倒された。
玉を投げこんだのはマリンさん。俺達のすぐ後にきていた。
そして。

マリン「実の妹が危ないのに。寝てもいられないわよね。やっぱり。」
パール「ミュウ! まさと! こっちへ! 早く!」


パールもきていた、その手に剣と、そして、ソーサルブースターを持って。
呼ばれるまま、俺とミュウはパールの元へ。
そしてパールは、黙ったまま、ソーサルブースターをミュウにそっと差し出す様にする。

ミュウ「え?」
パール「・・・・使って。あなた用に調整してあるから。」
ミュウ「えええぇぇ?」


嫌そうな、聞き返し方をするミュウ。まだ、抵抗が抜けきってないんだろう。

パール「今度はちゃんと動けるから。それに、あなたに合った形になるはず。」
ミュウ「でも・・・・。」
まさと「それとも、くさなぎ使うか?」
ミュウ「・・・・・・あんたどうすんのよ。パール。あたし、使い方はわかんないと思うよ。その、どうも、そういうのわかんなくて。」
パール「ああ、そういうことね。大丈夫。着ければシステムが概要を教えてくれるわ。さぁっ。」
まさと「ミュウ! そいつをつければ体力が回復する! 何とかするにはそれしか!」
ミュウ「・・・・知ってるけど・・・・・意味がわかんないのよ。ほんとに。」
まさと「な、なにっ?」

これには困った。使い方の説明の意味がわからないらしい。って、どういう事だ?

まさと「いや、意味がわからないって・・・・?」
ミュウ「うん、昨日、一回だけ使ったの。これ。けど、わかんなかった、言葉が難しくって。」
まさと「なんだそれは〜?」
パール「・・・・あれでも専門用語過ぎたか・・・。いいわ、とにかく着けて見て。使えば登録と装着が一度に完了するから、その状態を見て、どう使えば良いか、私が説明してあげるから!」
ミュウ「うー・・・・わ、わかった。それしかないね・・・・・。」

しぶしぶとミュウはソーサルブースターを手に取る。

パール「一つだけ。使う前に名称を決めて。私が言ってた、マジェスティ・パール、そういうのを。それが、起動パスになるから。」
ミュウ「・・・・・・き、木戸?」
まさと「そういうことか、名前を決めろってんだよ。使う前に。」
ミュウ「ああ。けど。うかばないよぉ、なんにも。ミュウじゃダメ?」
パール「残念だけどダメ。その前にもう一言いるの。なんとか考えて。」
ミュウ「ええええぇぇ。ほんとにうかばないんだってば。」

そういている間も、カイゼル達、他の者は、魔獣と懸命に戦っている。
しかし、疲弊してるのは確実だ。ぐずぐずもしていられない。

まさと「それじゃ、俺が決めて良いか?」
ミュウ「えー、妙なのはやだよ〜。」
まさと「ええい。この期に及んで、文句を言うな。えーっと、妙じゃないのなぁ・・・。」


俺も浮かびません。困った。
ん? 妙? 変。不可思議。ミステリアス・・・ミスティー・・・ミスティック・・・・・。

まさと「これでどうだ。ミスティック・ミュウ。」
パール「・・・・・・・ああ、いいわね。」
ミュウ「どんな意味?」
まさと「えっと。ああ、そうだな。理解を超越してるってな意味だ。」

・・・・まぁ、”妙な”だとは言えまい。俺が言ったのだって間違っちゃいまいし。

ミュウ「超越・・・・ふぅん。悪くないかも。じゃぁそれでいい。」

ミュウがソーサルブースターを構える。

まさと「おっと、5m、5mっと。」
パール「ええ。」


俺達が離れると、ミュウはソーサルブースターを掲げきる。
そして。

ミュウ「ソーサル・セットアップ・ミスティック・ミュウっ!」

装着する為のキーワードを叫ぶ。
ソーサルブースターから出た光がミュウを包んで行く。

ミュウ(あ、昨日のとは違う・・・・)

そう、未登録だった時に比べてソーサルブースター装着の瞬間は微妙に違っていた。
不定形な金属粒子が徐々に整形されていく様が見えた。
パールのものをつけていたときは一瞬でその形になったため、ほとんどわからなかった部分だった。
そして。
金属粒子が形を決定すると、ミュウを包んでいた光がはじけ・・・・・。

ミュウ「・・・できた?」

ミュウは装着を完了していた。

まさと「ほぉ。ぜんぜん形が変わるもんだな。」
パール「そうよ。装着者に一番ベストと思われる形になるわ。このタイプは・・・。」
まさと「光線とか出そうじゃぁないな。」
パール「ええ・・・・・格闘戦向けよ。使い方は簡単ね・・・・。」
ミュウ「え、ほんと?」
パール「ええ。凄く原始的・・・・・・要するに突っ込んで行ってぶったおして来い!ってやつね。」
ミュウ「あ、それならわかるわ。一瞬で理解出来た! よし!」
まさと「・・・・・・・・・・。いや、まぁ、いいけど。」

言うが早いか、ミュウは、いや、ミスティック・ミュウは魔獣の群目掛けて駆け出していた。
それも、とんでもないスピードで。

まさと「は・・・・・・・・・・はやっ!」
パール「素材が良いと・・・・あんなに早いのね・・・・・。私もびっくりした。」
ミュウ「だぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!!」


ミュウは、正面にいた魔獣に猛然とタックルして行く。
そして、そのタックルを食らった魔獣は、皆の目の前で、四散し、塵となった。

カイゼル「な、なにっ!?」
シルビー「なんじゃいったいっ!?」
レーア「・・・・ミュウ?」
キリー「たしかそのように見えましたが。」
ターマル「だな。」
マーガレット「ミュウ。」
マリン「す、ごい・・・・。」


ミュウは、魔獣を四散させた後も、まだ加速が劣ることもなく。横合いの岩を破壊しながら停止した。

ミュウ「う・・・・わぁ・・・・・・・・・なんか、すごっ! ちょっとパール! こんな良いもんならもっと早く出しなさい!」
パール「だぁれよぉ、嫌がってたのはぁ・・・・。」
まさと「あー、そういうのは気にしないほうがいいよ。あっちも気にしてないと思う。」
パール「ぁ、そう・・・・。」
ミュウ「ようしっ、どんどんいくよぉ〜。」


ミュウは、次の魔獣目掛けて駆け出して行った。
今度は気合を入れてパンチを繰り出した。

ミュウ「・・・っってぇぇいっ!」

今度はさっきとはまた様子が違っていた。
拳が魔獣に当たった瞬間。閃光が発生。魔獣を吹き飛ばした!

まさと「なっ! なんだぁっ!」
ミュウ「うわっ!」
パール「・・・・・そう働いたか。ミュウ! 魔法力! あなたの中の魔法力を拳から打ち出せる!」
ミュウ「え・・・あ、そういうこと。んじゃほいっ。」

今度は少しはなれた魔獣目掛けて、ジャブのポーズ。
すると、ミュウの拳から光球が発射され、消し飛ぶ魔獣!

ミュウ「おおっ! すごぉーい。」
まさと「んじゃほい、ってんじゃねぇだろ。なんか叫ぶか、技に名前付けるかしろよ〜。」
ミュウ「そういうもの?」
パール「す、好きにして良いわ。」
まさと「まーとにかく、ミスティックなんとかとか気合の入りそうなの言っとけ。」
ミュウ「あーうん。じゃ、てきとーに。」


そう言ってる間にも魔獣は次から次とやってくる。キリがなかった。

ミュウ「んー。ほんと、キリがないねぇっと。」

まずは、手近の一匹。

ミュウ「ミスティィック・ボンバァァァーーーーーーーーーーーーーーッ!」
まさと「おお、そうそう。」

ミュウに殴られた魔獣が手元で発生した爆発で微塵に吹き飛ぶ。
それを突っ切ってダッシュして行くミュウの腕の周りには風が巻いていた。

ミュウ「ふん。いけそう・・・。」

魔獣の群の目前で、一度立ち止まるミュウ。そして、ミュウの腕の風は勢いを増して回転して行く。
ミュウはその風の渦を掛け声とともに前へ突き出した。

ミュウ「ミスティィック・トォネェェーーーーーーードッ!」

とたんにものすごい風の渦がミュウの腕から伸び目前の魔獣の一群を飲み込んだ。
渦は魔獣を一塊にして行く。

ミュウ「これで一網打尽! ミスティィック・シューーーーーーーーーーートッ!」

拳からでっかい光球が発射され、一塊になった魔獣を貫き上空に大爆発を起こさせた!

ミュウ「ぅおっしゃぁぁぁぁーーーーっ!」
まさと「す、すごずぎ・・・るーーーーーーーーーーーーーーーーーひゃっほぉっ!」
パール「あ、与えてはいけないおもちゃを与えてしまった気分・・・・・・。」

ミスティック・ミュウの強さは実に豪快で、爽快だった! 掃討に難儀していた魔獣どもを次から次へと片付けて行く。
カイゼル達のところまで辿り着く魔獣は一匹足りといなかった。
それほどまでにミュウはいとも容易く、魔獣を片付けていた。
やがて、徐々に現れる魔獣の数が減ってきた。

ダイア「や・・・・やるじゃない・・・・・。やってくれるじゃない・・・・・。」

上空にダイアが姿を現した。

まさと「やっぱりあいつか・・・。」
ミュウ「ミスティィック・シューーーーーーーーーーーートォッ!」


すでに、ミュウはダイア目掛けて光球を打ち出していた! が、光球ではダイアに通じない。はじかれてしまった。

ダイア「誰かと思ったら、いつかの筋肉ちんくしゃか。相変わらず乱暴みたいだねぇ。」
ミュウ「あー、これじゃダメか。じゃ。」


ミュウはその辺の岩を・・・・・ひょいっと持ち上げてダイア目掛けてぶん投げた。
岩はぐんぐん加速し辺りに衝撃波を放って音速を超えた。

ダイア「うーわっ。・・・・ぐぁうっ。」

ダイアは慌ててそれをかわす。が、岩の通過後に遅延到着したソニックウェーブを食らってよろめく。

ダイア「うっ・・・・は・・・・なに? 今の?」
ミュウ「おっしゃぁっ。」

ミュウは今度は少なくなったとはいえ、いまだ現れる魔獣の一匹を掲げ上げると、それをダイア目掛けて投げつけた。
そしてまたそれも音速を超える。

ダイア「うわっ、何を投げ・・・・あっ。」

ぶっ飛んできた魔獣をダイアは避け損ねて真っ向から食らってしまう。
くだけ飛ぶ魔獣。木の葉のように宙を舞うダイア。
そしてそれを今またソニックウェーブが襲う。
しかし。
ソニックウェーブは突然現れた影に、いとも簡単にはじかれた。

?????「何を遊んでるんだ。ダイア。そろそろ引き上げるぞ。」
ダイア「あ、はい。結構面白いですよ。馬鹿の相手って。もういいんですか? サイファー様。」
サイファー「ああ、目的の者は手に入った。ほら。」
ミュウ「・・・・・・え?」


ダイアの前に浮かぶ影はサイファーであり、そしてその姿は・・・。

カイゼル「アスフィー! お前っ!」

シルフィーの兄、アスフィー。
そしてその腕には、気を失ったシルフィーが抱かれていた・・・・・。
神器や俺を狙うのではなく、シルフィーを!? なぜ!? なぜ、それを兄であるアスフィーが!?
俺は、アスフィーと握手した時のざわつきを、ようやく納得していた。