第3話 ミスティック・ミュウ誕生! #8 覚醒の儀
シルフィーの家の前に長身の青年が立っているのが見えた。
髪の色も、写真で見たのと同じ、薄緑色。アスフィーに間違いなかった。
アスフィーはこちらに気がつくとはっとなって片腕を上げる。
アスフィー「フレアァァ・・・。」
呪文!? そうか! ポチだ! 動く無機物マーガレットはどう見ても無害だし、ファルネのことを知らないっていうこともないだろう。
間違いなくポチだ。アスフィーはポチのことを知らない。
彼にとっては、俺達を追いかける、凶悪な獣にしか見えていないはずだ! とっさに立ち止まって俺は両手を広げて制止する。
まさと「まっ、まっ、まったっ、まったっ!」
アスフィー「ん?」
それに気付いてアスフィーは呪文をやめた。やれやれ。
アスフィー「それは・・・ワーウルフではないのか?」
まさと「いや、そうなんだけどね。まぁ、うちのペットみたいなもん。ポチってね。」
アスフィー「そうか。これは済まない。勘違いしていた。」
まさと「だろうなぁ。普通は、飼わないだろうな。こーゆーのは。」
アスフィー「そうだね。けど、良く見ればその獣人には邪心は無いようだ。君の言うことに嘘は無いね。」
まさと「だそうだ。ポチ。命拾いできたぞ。喜べ。」
ポチ「わふっ。」
今ポチは通常の犬の姿をしている。
どうやら、この姿や、さらに小さな犬の姿になっている間は喋ることが出来なくなるらしい。
とっても馬鹿犬っぽい、わふっ、とか言う泣き声ぐらいしか出ない。
アスフィー「けど、珍しいな。誇りの高いワーウルフが人に懐くなんて。」
シルフィー「お兄様ぁ、お兄様ぁ。」
アスフィー「ん。シルフィーが一緒という事は・・。」
シルフィー「はいっ。」
アスフィー「そうか、君が・・現れたと言う、まさと、君。」
まさと「ええ、まぁ、そんなとこです。」
アスフィー「なるほどな。だから、懐いたのかもしれないね。」
まさと「さぁ、どうなんでしょうね。俺も、まだ半信半疑で。」
ポチ「わふふっ。」
あ。なんかポチのやつ心外だってな顔をしてやがる。生意気なやつめ。
アスフィー「でも。名前をつけてやったんだよね?」
まさと「ええ、まぁ、安直な付け方だけど。」
アスフィー「そういえば、この辺に確か一匹居たな、ポルなんとかって、凶悪で手におえないのが。今、どうしてるんだろう。」
ポチ「わふー。」
まさと「あ、ああ、そうなんですか・・この辺にそんなやつが・・・。」
言えない。まさかそれがこのポチだなんて言ったら、とんでもなく厄介な話しになりそうな気がする。
ここは一つ、ポチ、で通し切ることにしよう。うん。
アスフィー「まさとは思うけど。きみは、ポルグレフ・チーフって名前じゃないよね?」
き、聞くなぁ・・・・。聞かないでくれぇ・・・・。
ポチ「わっふ。」
ポチは横を向く。
やれやれ、ポチもどうやら、過去の悪行には触れられたくないらしい。すっとぼけている。
一体どんな悪さをして来たんだか。
アスフィー「だよね。気の回し過ぎか。」
そこへ大慌てでミュウが駆けつけてくる。
ミュウ「兄さん!」
アスフィー「ああ、来たね。相変わらず元気いっぱいだね!」
ミュウ「うん。あたしから元気取ったらなにも残んないよっ! んでんで、これが、なんと勇者! まさとって言うの! で、このしっぽふってんのが、なんと、あたしにちょっかい出し損ねたポルグレフ・チーフって、ちんけな犬コロ! 笑っちゃうよー、そこのまさとにぶん殴られて、きゃんとかいって逃げて、んで、改心して、んでもって今、飼い犬。」
あうぁ。ばっちりな説明だミュウ。隠そうとした努力が水の泡。
アスフィー「ほぉ・・・・・・。」
一瞬、アスフィーの目が冷ややかになって、すぐ元に戻る。
まさと「あ、いや、今は、改心して、すげー人の役に、た、た、立ってる。たっ、立ってるんだ。うん。」
俺、しどろもどろ。
アスフィーは、しげしげとポチを眺めている。
アスフィー「うん。同じワーウルフとはとても思えないねぇ。邪心もないし、第一、目が澄んでる。昔は、もっとにごってたと思うんだけど・・・・どれ・・・・・・。」
アスフィーはポチの前にかがみこむ。
アスフィー「僕のこと覚えてる? 昔、悪さばっかりしてた君に、火球を沢山お見舞いしたことがあるんだけど。」
ポチ「わふっ。わふっ。」
アスフィー「えい。」
ポチ「わふぉ。」
いきなりポチの頬の肉を摘み上げるアスフィー。
な、なんつう事を。
耐えろっ、耐えてくれポチっ!
アスフィー「ああ、間違いない。同じ歯が欠けてる。ポルグレフだね。ふーん。」
まさと「そ、そ、そう。それは・・・。」
アスフィーはポチから手を離すとゆっくり立ちあがる。
アスフィー「やぁ、君はしつけが上手いんだね。こんなにポルグレフが大人しくなるなんて。驚いたよ。」
まさと「・・・・はぁ、どうも。」
ずれてる。この人は絶対常人とは感覚がずれてる。
アスフィー「これはきっと、君の持った、人を導く力の副次的効果なんだろうね。よろしくね。まさと君。」
そう言うと、アスフィーは笑顔で、手を差し伸べてくる。
まぁ、うまくおさまったのか。
やれやれと思いつつ。その手を握り返す。
<ザワッ>
まさと「!」
ゆっくりと手を離す。
なんだったんだ、今のは・・・今の感覚は・・・・・背筋が・・・・。
アスフィー「さぁ、中に入ろうよ。中で沢山話そう。」
ミュウ「うん!」
シルフィー「はぁい!」
その後、アスフィーの旅の話とかいろんな話をした。
今回の勇者がらみの話しは、余り出さないで置いた。なんだか、嫌な予感がしたから。
おじさん、おばさんたちも、アスフィーが帰ってきたことを喜んでるみたいだし、血なまぐさい争いの話しはしにくいってのもあったし。
そのうち、ネタもなくなって、俺の話せることもなくなってくる。勇者話を除いて。
黙って座っているのも退屈だし、間が持たない気がしたので、俺はポチの散歩にかこつけて表に出た。
散歩と言ってもポチがうろつきたがってるわけでもないので、適当にその辺を歩いて、川辺りに出たところで、そこに座りこむ。
まさと「わりぃな。ポチ。付き合ってもらって。」
ポチ「わふ。」
ポチとならんで、川面を眺める。
シルビー「ここに居たか。」
まさと「ん。ああ、ばぁさん。なんだ、もうはじめるのか?」
シルビー「今は、シルビーちゃんじゃ。」
まさと「はいはい。シルビーちゃんさん。」
シルビー「食えんやつよのぉ。いや。儀式のほうはまだ準備が出来ておらん。それより、どうした、呆けおって。」
まさと「あー、うん。あの、アスフィーってどういう人? いや、家族関係はわかってるんだけど。つかみどこが。それに・・。」
シルビー「ううむ。怪しいのぉ。」
まさと「おいおい。怪しいって。ばぁさんもなにか?」
シルビー「いや、何かあったわけではないんだがの。どうにも雰囲気がの。不自然じゃ。」
まさと「そか。じゃ、俺も気をつけてみる。」
シルビー「そうじゃな。何もなければそれで良いんじゃが。でな。ちょっと尋ねごとがあるのぢゃ。」
まさと「俺に?」
シルビー「お前さん、気持ちは、決まっとるのかいのぉ?」
まさと「なんの気持ちだよ?」
シルビー「勇者になるかならないか、ミュウか、シルフィーか、という気持ちじゃよ。儀式の段取りに関わりがあるでの、確認しておかねばならん。」
まさと「・・・・・んーーー。難しいな。それ。今、必要?」
シルビー「今すぐでなくても良いが、儀式をはじめるまでには決めておいてもらわんとならん。」
まさと「そうか。で、具体的には段取りにどう影響あるんだ?」
シルビー「式次第が3段階あっての、状況に合わせて変えねばならんのじゃ。」
まさと「あー、そういうこと。そうだなぁ、まず俺は、勇者については、なってもならなくってもどっちでも、いい。どの道、自分にやれることをやるだけだし、状況のほうが俺に判断させてくれてないしな。」
シルビー「ふむ。では、ミュウと、シルフィー、どちらかを取れといわれればどうじゃ?」
まさと「あはは、取れ、の意味が難しいな。俺は、二人とも・・・好きだよ。ただ、俺はいつかここから居なくなっちまうかも知れねぇ。だから、先の保証は出来ない。もしそういう選択なら、どっちも選べないかな。」
シルビー「そうか。考えてない様で、ちゃんと、考えておるようじゃのぉ。」
まさと「いや、考えてないよ。多分、動物的勘のほうが多い。と思う。」
シルビー「そうか。まぁ、それも良いじゃろう。どれ、一応、覚醒の儀のあらましでも、話しておくかのぉ。」
まさと「ん? ああ、そうだな。」
シルビー「荒れるオロチに苦戦したスサノオが、決戦前夜、愛した巫女と一晩の契りを交わし、決戦に挑んだところ、大勝利した。それが元になったものだと聞いておる。」
まさと「ちぎ・・・おいおい、それって。」
シルビー「そうじゃ。」
まさと「ばぁさん、顔赤いよ。」
シルビー「そうぢゃろう。わしとてこの話しは照れくさいのじゃ。なにせ花も恥らう・・・。」
まさと「何歳なんだよ。」
シルビー「・・・・・内緒。」
まさと「それで、シルビーちゃん、か。やっとわかった。」
シルビー「そういうことじゃ。もっとも、このあらましは元になった話その物が書物ではなく、聞き伝えなのでなぁ。かなり怪しいのじゃが。」
まさと「怪しすぎるって、それは。って、ちょっと待ってくれ。シルフィーはそのあらましを。」
シルビー「知っておる。」
まさと「なのに、巫女を引きうけるっていうのか?」
シルビー「いったじゃろうが。好いておると。」
まさと「わぁ。確か、張り切ってたともいわなかったっけ?」
シルビー「いった。」
まさと「うぅわぁ。」
シルビー「ただ、ミュウと、そなた次第だとはいっておったがの。」
まさと「ふぅ。そか。それ聞いて安心したよ。まぁ、そういうことなら、まぁ、そういう部分ははしょってもらったほうがいいなぁ。けど、そんなんで、効果あんの?」
シルビー「あるらしいがの。まぁ、やってみんとわからんが。じゃぁ、式次第は決定じゃの。松、竹、梅、のうちの、竹コースじゃ。梅は、効果が望めそうもないので選べん。」
まさと「なんで?」
シルビー「観光用体験コースじゃ。見た目だけじゃのぉ。」
まさと「な、なんなんだかなぁ。」
シルビー「では、ちゃんと準備しておくでの。あまり遠くに行かぬようにな。準備が出来たら迎えをやる。」
まさと「ああ、しばらくしたら、ばぁさんち、戻ってるよ。」
シルビー「ではな。」
そこで、ぽんっと、ばぁさんは元の姿に戻ると、来たほうへ戻って行った。
ミュウ「あたしは、別に松でもいいよ。」
まさと「わぁっ!」
後からミュウに声を掛けられた。まさか、聞いてたのか?
まさと「い、居たのか? いつから?」
ミュウ「えっとね。わりぃな、ポチ。だったかな。」
まさと「・・・・・全部聞かれてたか。」
ミュウ「まぁ一応。確かに、いわれてみれば。兄さん、どっか変だなぁ。どこがとはいえないんだけど。」
まさと「そうか。旅の途中で何かあったとか、そんなんだろうか。」
ミュウ「そうかもねぇ。で、松、竹、梅。」
まさと「うわぁっ。」
ミュウ「なんで驚くのよ。あたしは、シルフィーが納得の上なら、構わないと思ったけどな。そりゃ、うれしくもないけど。」
まさと「気になるいい方するなよ。」
ミュウ「まぁ、あんたが無しって決めたんなら、それでいっか。うん。」
まさと「何を納得してるんだよ。何を。」
ミュウ「あれ? 反論されたかったの?」
まさと「それはない。んだけどな。」
ミュウ「うんー。決めたんだ。セントヘブンで、あんたがパールの挑戦を受けた時に。」
まさと「え?」
ミュウ「ん。なんでもないよっと。それより、さっきは、はしゃぎすぎてたね、あたし。ああ、はずかしいぃ。」
まさと「はぐらかすかそこで。」
ミュウ「まぁ、たまにしか会えない人だから、うれしくってねぇ。ごめん。」
まさと「おいおいおいおい。」
ミュウ「で、エルブンの払いは?」
まさと「あ、ああ、払ってないよ。今度で良いってさ。」
ミュウ「そか。さっきまで忘れててねぇ。やっぱ、はしゃぎすぎ。へへっ。」
まさと「でっ! 何を決めたんだよっ!」
ミュウ「あ、やっぱ聞きたい?」
まさと「まぁな。」
ミュウ「心臓止まるよ。」
まさと「うぐっ、またそういうのか・・・・・じゃぁいい。」
ミュウ「聞いてよ。」
まさと「ど、どっちなんだよ。」
ミュウ「えーっと。決めたんだけど、言葉で上手く言えなくて。とにかくあれ。やれるとこまでやっちゃえって言うか。うん。だから、あんたが決めたんならそれでいい、っと。そういう感じ。」
まさと「それのどこが心臓止まるんだよ。」
ミュウ「今のを一言で言い替えたら、きっと止まる。かな?」
まさと「はぁ?」
ミュウ「とにかくね。あたしはあんたの味方だから。やりたいようにやればいいよ。」
まさと「んー。今一つ要領を得んが、まぁ、いいか。応援してくれてる気分はわかった。ははっ、やっぱ、俺、馬鹿か?」
ミュウ「んー。そだね。そう。笑えるほうの。」
まさと「はぁ。まぁ、深く考えるのよすわ。自分の勘を信じてやってみる。」
ミュウ「うん。それがいいと思う。それが一番あってるでしょ? まさとには。」
まさと「出たとこ勝負ともいうけどな。」
ミュウ「ぷっ。」
まさと「笑うか。」
ミュウ「笑う。」
まさと「そうか。」
ミュウ「うん。」
まさと「行くか。」
ミュウ「うん。」
俺達は立ちあがって、その場を離れた。
シルフィーの家に戻ると、シルフィーは既に衣装合わせに行っていた。
しばらくして、ばぁさんが用意が出来たと俺達を呼びに来る。
いよいよ、覚醒の儀、だ。
俺と、ミュウ、カイゼル、アスフィー、おじさん、おばさんは、ばぁさん、いや、シルビーに引き連れられて、礼拝堂の地下にある、祭儀場に入った。
ばぁさんは、霊力を一時的に引き上げる為、シルビー化してるそうだ。
シルビー「さて、そろそろ、シルフィーのほうの準備も出来るはずじゃが。その前に。」
まさと「なんだ?」
シルビー「竹じゃな?」
まさと「ああ、竹だ。」
シルビー「うむ。あいわかった。竹の式次第はこうじゃ。まず、わしの読経と、巫女の舞いで、霊気を高め、効力が最大限に出るようにする。」
まさと「上がるのかそれで。」
シルビー「上がるぞ。やればわかるぞぇ。で、次に、巫女が御神刀を持って、そなたの胸に、紋章を描き、効力をあげる者を明確にする。」
まさと「ご、御神刀?」
シルビー「そうじゃ、これが、松ならば、真剣で、本当に刻み込むのじゃが、竹では、仕掛けの入った模造刀を使う。痛くは無いから安心せい。」
まさと「ああ、松を選ばないで良かったよ。」
ミュウ「ぷくくっ。」
まさと「笑うなって。」
ミュウ「まぁまぁ。」
シルビー「で、とどめ。」
まさと「とどめかいっ!」
シルビー「とどめは、じゃ。これはどうしても真剣がいる。痛いが我慢しておくれ。」
まさと「げっ。」
シルビー「胸に真剣を軽く突き立て、そなたの血を剣につける事が必要なのじゃ。その剣を三種の神器にあてることによって、神器の真の力を引き出し、それをそなたの体に導き入れる。ということになっておる。まぁ、掻い摘んで説明しとるがの。」
まさと「麻酔はなしか?」
シルビー「ない。が、気休めにお神酒を塗りつけるでの、多少は痛みは和らぐはずじゃ。まぁ、結局のところ、この儀では、まさと殿は寝っ転がっているだけで良い。わしと、シルフィーで、全て執り行うから、まぁ、まかせておいとくれ。」
まさと「とりあえず、俺は、痛いのだけ我慢か。」
シルビー「そうじゃな。ちなみに、梅は、衣装見せて、軽く踊って、仕掛けもクソもない模造刀で、ぺいぺいぺいっとやって、こんな感じなんですよぉ、で、終りじゃ。まさに観光向け。」
まさと「あ、確かに、そりゃ、効果もなにもなさそうだ。」
シルビー「じゃろ?」
そこへ、横の控え室から、シルフィーがひょこっと、顔を出してくる。
シルフィー「まさとさん、いいですよぉ。次、着替えちゃってくださぁい。」
まさと「え? 俺も着替えんの?」
シルフィー「はい〜。どうぞぉ〜。」
そういいながら、シルフィーは手招きしているので、俺は控え室へ。
シルフィーは大きなローブのような衣装をつけている、よく見ると、その下に、祭儀用の衣装を着込んでいる様だ。
シルフィー「はい、こっちこっち。これに着替えて下さぁい。」
まさと「これ? なんか、布切れっぽいけど。」
シルフィー「はい。松竹梅共用ですぅ。あ、服は、全部脱いで、これをつけてくださいねぇ。」
まさと「ぜ、全部!?」
シルフィー「はいぃ。全部ですぅ。」
まさと「あっさり言わないでくれ。えっと・・・・上脱いで、これかぶって、それから下脱いで・・。」
シルフィー「はい。それでいいですぅ。」
シルフィーに手伝ってもらって、どうにかこうにかお着替え中。
衣装は本当に布切れみたいで、どこが前やらで、ぐるぐる回しながら着込んでたり。
時折、シルフィーの手が俺の上半身などに掠る。シルフィーの手はなんだかとても、冷たくなっていた。
まさと「あ、指冷たいけど、大丈夫?」
シルフィー「はい。」
着替えが終わりに近づくにしたがって、シルフィーは少しずつ無口になっていく。
まさと「えーっと、シルフィー。」
シルフィー「・・・・え、あ、はい。」
まさと「緊張してる?」
シルフィー「・・・・・・す、少しだけ。あの・・・まさと・・・さん・・・。」
まさと「なに?」
シルフィー「ちょっとだけ、しがみついていいですか?」
まさと「え、ああ。」
シルフィーは後からぱさっとしがみつく。
まさと「ごめんな。俺のために手間ばっか掛けさせて。」
シルフィー「! そ、そんなことは! わたし頑張りますから。」
まさと「うん。」
シルフィー「えっと、いろいろ、聞きましたよ。セントヘブンでの事とか。」
まさと「わぁ。もう耳に入っちゃったか。あの恥ずかしい武勇伝。」
シルフィー「いえ、恥ずかしいなんて。ありがとう。ミュウを助けてくれて・・。」
まさと「んー。なんかねぇ。昨日からみんなにお礼言われて、勘が狂っちゃうよ。」
シルフィー「それは、皆、感謝してるからですよ。きっと。けど、ほんとに、何事もなくてよかった。」
まさと「そうだなぁ。大騒ぎした割には、皆、一応無事みたいだったし。なんかあるよりはいいよな。」
シルフィー「そうですよ。まさとさんは、絶対に勇者様です。間違いないです。だから今日は・・・。」
まさと「そうだな。絶対かどうかはわかんないけど。よろしくね。」
シルフィー「今日は・・・松で・・・・。」
まさと「まっ・・・・・おいおい。竹でいいよ竹で、松は痛そうだ。」
シルフィーは腕を俺の前のほうへ回して、きつく抱きしめてかかってくる。
本当に結構きつい。
これはシルフィーの決意その物なんだろうな・・・。が、それがすっと緩む。
シルフィー「・・・・そうですよねぇ、ミュウが居るし・・・。」
まさと「おーい。そうじゃなくてさ。たとえば、ミュウと、シルフィーが逆の立場でも、俺は・・・竹だったと思うよ。」
シルフィー「え・・・? 私達のことが・・・嫌い?」
まさと「いや、二人とも好きだよ。好きだから、竹、なんだよ。」
シルフィー「・・・ずるいです。それ。」
まさと「そうだな。けど、後で後悔しそうな事はしたくないんだ。」
ミュウ「ああ、もう、なに恥ずかしい会話してるかな〜。」
まさと「わぁっ。」
シルフィー「ひゃっ。」
まさと「あ、今行くから。」
ミュウ「そんなに悩むんなら、松にしとけば良いのに。」
まさと「だぁ。そういうことをいうなっ。俺は悩んでない!」
シルフィー「ぷ。ふふ。困らせてますね。わたし。・・・はい、竹で良いです。頑張りますね。」
そうして、ミュウに急かされて祭壇へ。
シルビー「何をやっておったんじゃ。」
まさと「やぁ、ちょっと。」
シルフィー「ごめんなさい。」
シルビー「さて、では、はじめるとするかの。と、その前に、ミュウ!」
ミュウ「?」
シルビー「りゅうのまもりを持てぃ。」
ミュウ「へ?」
まさと「え・・・まさか!?」
シルビー「そうじゃ、ミュウの持つ、りゅうのまもりこそが、第三の神器じゃ。」
ミュウ「うそっ! これ、偽物じゃ!? えーーっ!?」
イミテーションだと思わされていた、ミュウのりゅうのまもり。これが本物だったとは。敵を騙すには・・・か。
これで、三種の神器が揃った。
アスフィー「シルフィー、しっかり務めるんだよ。」
シルフィー「あ、はい、お兄様。」
アスフィーはシルフィーの肩に手を置くと、やさしく微笑む。シルフィーは、決意の笑みで返す。
まぁ、なんだ、松だったら、こんないい顔は見れなかったかもね。
俺は、りゅうのまもりを首に下げ、右手にくさなぎ、左手にみかがみの盾を持って台座に座る。
上半身は、早速衣装を取り払われて裸。
ちょっと肌寒いが、さっき胸に塗ってもらったお神酒で少しづつぽかぽかしてきてるので、寒いというほどの事もない。
シルフィーは祭壇の脇でローブを取ると舞台に上がる。
シルフィー「くしゅん!」
シルビー「おお。少し寒かったかのう。」
シルフィー「ううん。いえ。大丈夫です。」
シルフィーの衣装は・・・。衣装は・・・。巫女衣装といいつつ、実に肌の露出の多い物だった。
そりゃぁ、くしゃみだって出ようというもの。
シルフィー「はい。いつでも良いです。」
そのシルフィーの声を聞いて、シルビー、長老が、読経を読み上げはじめる。
シルフィーは目をつむって宙を見上げる。
どんどんシンとなっていく祭壇場。空気が張り詰めて行く気はする。
読経は、俺にはなんと言っているのかわからなかったが、その調子が変わり始めたところで、シルフィーが舞い始める。
ときに荒々しく、ときになまめかしく。そして流れる様に。
派手過ぎることもなく、地味過ぎることもなく。そんな表現が似合う、舞いだった。
しばらく、その舞いに見とれてしまっていた。
気がつくと舞っている間に少しずつシルフィーは歩を進めていて、俺の目の前に来ていた。
シルフィー「横になって、剣と盾を小脇で構える様にしてて下さい。」
まさと「あ、うん。」
言われた通り、俺は台座上で横になる。
シルフィーはすぐ傍に置かれてあった小道具の剣を持ち、手を広げて台座の前に立つ。
するとシルビーが読経を止め、なにやら話しをはじめる。
シルビー「この者彼の地より来たりし者。名を宗方まさと。今、神聖なる月光神ルーンの加護の元に神器を揃え、数多の困難に打ち勝つべく、この地にいざ立てり。」
シルフィー「我は、神聖なる月光神に仕えし巫女なり。名をシルフィー・ステイリバー。今、この身と、剣持ちて、宗方まさとに聖印を刻み、絶大なりしルーンの力を最愛なる彼の者に宿したもうことを願う者なり。」
いい終えると、シルフィーはゆっくりとしゃがみ、また横に置かれていた、桶を取り、肩口に持ち上げる。
シルビー「彼の者に力を、彼の巫女に愛を、彼の者達に永劫の祝福と誉れを与えんがため、今、ここに覚醒の儀を執り行わん。神聖なる月光神ルーンよ、とく、聞き届けたもう。」
シルビーがその台詞を言い終わるのに合わせて、シルフィーは手にした桶の水を、肩口から自分の体にゆっくりとかけてゆく。
時折、跳ねたしぶきが掛かる。かなり冷たい。汲みたてのものだろう。
こんな冷たい水をかぶっているのに、シルフィーは顔を歪めることもしない。
こんなにもシルフィーは強い一面を持っていたのか。
祭儀の進行よりも、そんな些細なことに驚く。
そして、再びシルビーの読経が始まると、ゆっくりとシルフィーは立ちあがり、剣を持って、片足ずつゆっくりと台座に上ってくる。
シルフィー「そのまま、動かないで居てくださいね。」
小声で、シルフィーに促される。俺は、黙ってうなづく。
シルフィーは俺の上で四つんばいになると、俺の顔を見て妖しげに微笑む。
そして、俺の額と唇に、口付けをする振りをする。
これはかなりどきどき物だ。
事実、俺の心臓は、今の仕草でピークに達していた。もうばっくんばっくんいってる。
さらに、一度、顔を離したかと思うと、今度は両の頬にまた口付けの仕草。
シルフィー「や、やっぱり、ちょっと、はずかしい・・です。」
頬に口付けの仕草の時に小声でシルフィーがそんなことを言う。
そして、意を決したかのように上体を起こすと、シルフィーはゆっくりと俺のお腹の上に腰を下ろしてくる。
ゆっくりと実にゆっくりと。そして、ぺたっと俺の上に座ると、背中をそらして、腕をつんと張る。
そのとたん。
部屋中の空気がきんっと張り詰めた気がした。
シルフィーの顔が見えるところまで上体が戻ってきた時、その瞳は、光を失い、宙を見つめていた。
まさと「シルフィー?」
なんの反応もない。おかしい。
そしてシルフィーは手にした剣を高く掲げて、そして、勢いよく俺めがけて振り下ろした。
とてつもない殺気と共に。
<ガキィィン>
俺は、とっさに上半身を横に捻って剣をかわしていた。剣は小道具ではなく、真剣で、台座に突き立っていた。
まさと「おい! シルフィー! おい、ばぁさんなにか変だ!」
シルフィーも、そしてシルビーさえも反応がなかった。
いや、俺とシルフィー以外、動く者はこの部屋に居なかった。他の者は、凍りついたかのようにぴくりとも動かなかった。
気がつけば、シルビーも読経を読むのを止め、完全に静止しているように見える。
なにか大変なことが起こっているのは間違いない。
シルフィーはゆっくりと剣を引き上げると、再び振り下ろしてくる。俺はまた、上半身を捻ってそれをかわす。
幾度となくそれを繰り返した。
まさと「シルフィーッ!」
何度声を掛けてもダメだった。
シルフィーは宙を見つめたまま、何度でも剣を振り下ろしてくる。
このままだと、いつかざっくりと突き立てられてしまう。
跳ね除けようと思ったが、なぜか出来なかった。
シルフィーの体重が男の俺が抗えないほどのものとは思えなかったが、現に、ずしっと重く、俺は、体を捻ってかわすくらいしか出来ることがなかった。
やがて限界はきた。
俺は、シルフィーの振り下ろす剣の切っ先をかわせなかった。肩口に痛みが走る。
まさと「うぐっ!」
鮮血が飛び散る。
そして飛び散った血飛沫はくさなぎ、みかがみの盾、りゅうのまもりに、細かな赤い斑点を作った。
その時。
<ギンッ>
何かが膨張してはちきれそうになったような音か。そんな音が俺の周りから聞こえた。
そして、舞台の空間に影が現れた。
魔獣がそこに居た。
まがまがしい瞳で俺を見つめながら。
そしてシルフィーは剣を振り下ろすのを必死こらえていた。
シルフィー「ま・・・さ・・と・・・さ・・ん・・・・。」
まさと「シルフィー・・・。」
シルフィー「逃げて・・・・。」
ゆっくりと俺に掛かったシルフィーの体重が抜けて行く。
シルフィーは何とかして俺を自由にしようと、自分の体を持ち上げて行ってくれているらしい。
しかし、現れた魔獣が迫ってきている。このままでは、二人とも。
いや、この部屋の者全員危ない。
もし、俺がここを逃げ出せても、自由には動けないシルフィーは・・・。
魔獣が俺達めがけて腕を振り下ろしてくる!考える余地はなかった。
俺は、シルフィーの下から体を引きぬくと、盾と剣を構え、盾を迫ってくる魔獣の爪めがけて突き出した。
まさと「ぅおあぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
俺の体も自由が奪われているらしく、動きは緩慢だった。
死力を振り絞って盾を前に!握った取っ手がやけに熱い。
<ゴキュゥン>
鈍い音が部屋中に響く。盾に魔獣の爪が当たった瞬間だった。
なんとか間に合ったのだ。
不思議なことに俺の腕に伝わってきたのは、振動だけだった。
そして、魔獣は腕ごと、何かに押される様に後ろに下がった! それを見た俺は、盾の力を確信して、前に飛んでいた。
肩の痛みを我慢して、くさなぎを振り上げて。
<ズザ・・・ンッ!>
くさなぎを振り下ろす。
くさなぎは魔獣の眉間を捕らえ、次の瞬間には、魔獣は二つに割れ、そして、泡となって消えていった。
それから数秒。
部屋の中は通常に動ける状態になった。
まさと「が・・・・は・・・てっ、て・・・・・つーっ!」
今になって肩の傷の痛みが増してきた。
無理に動かしたから傷口が広がったのもあるだろう。たまらずその場にしゃがみこむ、俺。
シルビー「な! 何事じゃ!」
ミュウ「え、あっ!」
カイゼル「この、泡は・・・一体!?」
皆も我に戻っている。
シルフィー「リフレース!」
後からシルフィーの腕が俺の肩口に差し出され、シルフィーは回復魔法を掛けてくれていた。
まさと「ぐ。・・・あ、ありがとうな・・・。」
シルフィー「無事で・・・よかった。」
また、後からシルフィーに抱きつかれる。
シルフィー「・・・・ごめんなさい。こんな・・・・。」
まさと「ああ、シルフィーのせいじゃないよ・・・。」
シルフィーの手には、俺の血がペットリとついた剣がまだ握られたままあった。
その手には明らかに力が入ったままになっている。力が抜けなくなってるのだろう。
俺は、その手に自分の手を合わせると、ゆっくりと、その指を開いてやり、手から離れた剣を地面に置いた。
それにしても、いきなり、この地下にある、祭事場に魔獣が現れるとは。
俺は、何が起こったのか、その場の者にわかるだけ説明した。
シルビー「むぅ。なぜ、魔獣がいきなり・・・。」
カイゼル「気配すらなかったぞ。どういうことだ?」
ミュウ「あつっ!」
ミュウが突然その場にしゃがみこむ。胸を押さえながら。
ミュウ「え・・・・・なにこれ?」
ミュウが手をどけると、そこには何か、小さなアザのような物が出来ていた。
まさと「どうした!」
ミュウ「いや、これ。急に熱くなったかと思ったら、アザが出来てた。なに?」
シルビー「これは・・・・・・。」
ミュウ「あ・・・あれ・・・・?」
ミュウは、ふらふらとしたかと思うと、その場に崩れ落ちた・・・・・。
俺達は慌しくミュウを上に運び上げることになった。
成り行き場、ミュウの家まで運んでいる暇もないので、シルフィーのベッドにミュウは寝かされていた。
長老「むぅ・・・・かなり熱があるのぉ。どうしたんじゃこれは・・・・。それに、このアザはなんじゃ・・・。」
長老も、訳がわからない様だった。
ミュウ「ハァ・・・・ハァ・・・・。」
まさと「ミュウ・・・。」
ミュウは意識がもどることもなく、高い熱を発したまま、息を荒げていた。
俺も、シルフィーも着替える間もなく、そのままの格好で、ミュウの傍にいる。
カイゼル「まさと殿はともかく、シルフィーは早く着替えたほうがいい。風邪をひくぞ。」
シルフィーはさっきの舞いの時にかぶった水でびしょびしょだった。
確かに、そのまま居ると風邪を引くのは目に見えていた。
シルフィー「でもぉ。でもぉ・・・・。」
ミュウのほうを見て、心配げなシルフィー。
俺は、なんとか、シルフィーを着替えさせようと考えた。
まさと「シルフィー。着替えよう。シルフィーまで風邪を引くと・・・・。」
シルフィー「だって!」
悲しそうな顔をしてこっちを向く。俺は、そんなシルフィーを抱える様にした。
まさと「シルフィー・・・。先に着替えよう。心配なのは俺だって同じだ。」
シルフィー「・・・・・・うん。」
俺達が着替えを終えて控え室から戻ると、とにかく、皆で交代で、ミュウの様子を見てやることにした。
まさと「けど、一体なんなんでしょう。」
長老「わからん。回復魔法を掛けても一向に熱も下がらんし、わしにも見当がつかん。」
カイゼル「・・・・・・ミュウ。」
まさと「あ、うん・・・一体どうすりゃぁ・・・。」
するとそこへ人間になったポチが入ってきた。
ポチ「あの。」
まさと「どうしたポチ。」
ポチ「へぇ。ちょっと気になる物があるのを思い出しました。」
ポチはミュウの傍に来ると、昨日、ダイアにやられた肩口を覗き込む。
まさと「なんだ?」
ポチ「うーん。見当が当たってるかもしれません。多分、あの火球に、仕掛けが。結晶核を撃ちこまれたかもです。」
まさと「結晶核?」
がたっと背後で音がして。そこに、パールが立っていた。
パール「結晶核。マジェスティックスの純粋結晶。人などの体内に直接入ると、高熱を出して、免疫力が低下する。雑菌一つで命取りになるわ。」
まさと「パール。・・・・本当かそれ。」
パール「ええ。厄介よ。結晶核自体は抗魔性があるから、回復魔法が効かないし、体細胞に融和偽装してしまうから切除も出来ない。回復させられるのは唯一・・・・。」
ポチ「・・・・・抗魔植物種のリストリアの花が・・・特効薬です。」
長老「なんと・・・・絶滅種ではないか。どうしろというんじゃ。」
まさと「絶滅・・・・じゃぁ、もう手に入らないのか?」
長老「そういうことじゃ、同じ効力を持った別の物を探さねばならん。」
ポチ「あ、もしかしたらあそこなら。」
長老「なに? まだ残っておるところがあるのか?」
ポチ「はぁ。古い記憶ですが。ドラゴンの墓場。あのあたりなら、多分。」
カイゼル「ああ。あそこか。あのあたりなら、太古の植物が密生している。可能性はある。ただし、生きて帰れる保証がない。」
まさと「そんなに危険なところなのか?」
カイゼル「その名の通り、死期を迎えたドラゴンが自然に集まり、朽ちてゆくところだ。所々、地面から猛毒の瘴気を噴出す、文字通りの墓場だ。生きて帰れようはずもない。」
俺達は肩を落とす。
もしそこにそのリストリアがあったとしても、そんな状態じゃどうしようもない。
パール「・・・・なんとかなるかもしれない。」
まさと「え?」
パール「マーガレット。マーガレットなら行って帰ってこれる。」
まさと「あっ、そうか!」
カイゼル「あれか。あれは、リストリアがわかるか?」
パール「いえ。わかった者が同行する必要が。マーガレットの障壁の中にいれば大丈夫なはずです。」
ポチ「俺が行きます。」
パール「ごめん。それは無理。人の声じゃないと言う事を聞かないわ。」
まさと「・・・・じゃぁ、俺が。俺とポチで行く。おい、ポチ。」
ポチ「へい。」
ポチは立ちあがると俺と表に向かう。
パールもなにやらハンディゲーム機のような小道具をバッグから取り出し持ってきた。
表に出てマーガレットの前に行く。
パール「こんな無茶を言い出すなんてね。ほんとに・・・。」
まさと「馬鹿だろ?」
パール「ええ。でも、他に手はない。それはわかってる。」
パールは、さっきの道具を使い、ドラゴンの墓場に向けてマーガレットの調整をしてくれている。
パール「よし、マーガレット、ライダーモード。」
マーガレット「リョウカイ!」
マーガレットは前に倒れて行ったかと思うと、ぐにゃっと不定形に形を変え、イルカのような姿になった。
ステップとハンドルらしいのがついていて、乗り物らしいのがわかる。
まさと「うわ。こいつ、こんな機能も付いてたのか。」
ポチ「はぁ。便利な。」
パール「扱えると良いんだけどね。」
まさと「どうやる?」
パール「グリップのこっちがアクセル。つまり噴射の強度。こっち側が高度。ステップは機体の傾きを調整する物よ。前で機首上げ、後で機首下げ。ステップの角度と体重移動で曲がる。」
まさと「んーっと。こうこうこうでこう。ああ、なんか、バイクと飛行機のあいのこみたいだな。」
パール「そんなとこ。ちょっと乗ってみて。」
そう言われて、早速またがってアクセルオン。
いきなり前の壁にぶつかりそうになったが、どうにか上空へ。
パール「何やってるの!」
まさと「あ、いや、馬鹿やってる。てか。よっと、この。」
そうして、パールになじられながら5分ほど経過。どうにかなりそうだ。
まさと「うん。行けそうだ。」
パール「ブレーキは逆噴射とエアブレーキぐらいしかないから注意して。」
まさと「ああ、宙に浮いてるもんだからな。」
パール「そういうこと。じゃ、ここへ降りてきて。」
そういわれてゆっくり加減速して、何とか、着陸。
パール「まぁ、良いでしょう。それで、このボタンがバリア。墓場につく前から入れとくと良いわ。原動力はマジェスティックスだから常時取り入れられるから制限なし。」
まさと「他のも教えといてくれ、向こうで何があるかわからん。」
パール「あ、そうね・・・。わからなくなったら聞けばマーガレットも答えてくれるわよ。」
一通りボタン類なんかも教わって、いよいよ出発だ。
俺は、出発前に、もう一度、ミュウの様子を見に部屋に戻った。
ミュウ「ま・・さと・・・。またばかなこと・・・。」
まさと「ああ、まぁな。まぁ、待ってろ。特効薬取ってくるから。」
ミュウ「うん。これ、もってって。」
ミュウは、枕もとのりゅうのまもりを指差す。
まさと「お前持ってなくていいのか?」
ミュウ「あんた・・・のほうが心配。」
まさと「そうか。じゃぁ、持ってくぞ。」
ミュウ「うん。」
俺は、りゅうのまもりを首から下げると、ポチとともに、ライダーモード・マーガレットで出発した。
何が待つのかわからない、ドラゴンの墓場へ。