第3話 ミスティック・ミュウ誕生! #7 帰還

町中を怒濤の勢いで駆けずり回る特別編成隊、いや、俺達のことだが。
それと、町中に散開した近衛兵団の共闘で、なんとか、魔獣はほぼ掃討できた。
なんと驚くべきことに、その近衛兵団の中に竜崎の姿を発見した。
よもや、この状態で、出てくるようなやつだとは思っていなかったんだが。

まさと「おい。竜崎か?」
竜崎「あ、ああ。そっちは?」
まさと「大体片付いた、みたいだな。それより、どういう風の吹き回しだよ、こうやって出てくる様に思わなかったんだが?」
竜崎「ああ、そうだな。前なら、そうしてた。後のほうで威勢のいいことだけ言ってたな。多分。」
まさと「さいてーなやつだな。お前。いや、今は、ここにこうしてるからいいんだが。」
竜崎「お前達。凄い勢いで走ってたみたいだが。ひょっとして、町中あの勢いで?」
まさと「おう。まいったぜ。もうへとへと。」
竜崎「すげぇよ。俺にはとても真似できない。」
まさと「・・・・好きでやってんじゃねぇよ。そうなっちまったの!」
ミュウ「何やってんのよ! 向こうにまだ一匹残ってるのに!」
まさと「はぁ、やれやれ。おっしゃぁ!」
ミュウ「ほら、あんたも!」
竜崎「ああ、やるよ。やらなきゃ。」
ミュウ「ふふん。頑張ってはいるみたいじゃない。」

そうして、俺達が死力を振り絞って、最後の一匹を倒した直後だった。
空から突然降ってきた光球が、ミュウの背中を捕らえた。

ミュウ「ぐっ・・・・あぁっ!」
ダイア「ふん・・だ。置き土産だよ。もらっといて。」


光球を放ったのは、上空を行くダイアだった。
パールがビームを発射するがはじかれて効果が無い。

パール「ダ・・・イアァァーーーーーッ!」
カイゼル「よせ。もう無理だ、距離が離れすぎている。それより・・・。」


ミュウは、その場にうずくまっていた。
光球を受けた肩口が焼け爛れてしまっていた。

まさと「おい! ミュウ!」
ミュウ「だ、大丈夫。このぐらいなら。けど、ちょっと、きつかった・・・かな・・・。」


ミュウは、すぐさま、城内の医務室に運ばれ、治療を受けることになった。
が、先の魔獣掃討戦で負傷した者が多く、医務室は手が回らなくなっていた。

まさと「おい、ここも偉い騒ぎになってるな・・・。」
カイゼル「ああ、これからここは戦場になるんだ。よく見ておけ。」
まさと「そうだな。」

痛み止めと消毒剤、その程度の医学。
地球なら、人工心肺やらなんやら機材がうようよと出てきて、また違った意味で、物々しくなるのだが。
ここで出来るのは、後は、治癒魔法ぐらいのものだ。
しかし、その治癒魔法を使える者自体が、負傷者の数に追いついていない。
本来、医療班に属していない、リーヌ達も、雑用に駆り出されていた。
傷の程度によっては、その辺で座らさせられている者も大勢いる。
ミュウは、痛みをこらえながらも、うつ伏せになってベッドに寝ていられるだけましだった。

ミュウ「ううぅ。痛いしぃ・・・・・。」
まさと「あのダイアってのろくな者じゃねぇな・・・・。」
ミュウ「いきなり後、空からだもんねぇ。完全に隙作ってた、あたし・・・。」
まさと「ああ、最後の一匹倒した後だったしな。」
ミュウ「うん。」

そこへ、装着を解いたパールがやってきた。

パール「どう?」
ミュウ「痛い。」
まさと「いや。まぁ、そうだろうけど。」
パール「私は・・・私は・・・何やってたんでしょうね。」
まさと「さぁな。まぁ、これだけは言える。お前のビームとマーガレットは絶対役に立ったぞ。」
パール「え、あ、うん。そうね。ありがとう・・・。それと、ダイアは・・・。」
まさと「ん?」
パール「ダイアは、魔族よ。魔族の生き残り。何をしてくるかは、常識では計れないわ。」
ミュウ「魔族かぁ・・・つつっ、まだ生き延びてたんだねぇ。ああ、喉が・・けふっ。」


火傷の為、ミュウは、脱水症状を起こしていた。唇もかさかさになってきている。

まさと「ああ、水かなんか、もらってくるわ。パール、その間看ててやってくれ。」
パール「ええ。私で良いなら。」
ミュウ「うぃ。」
まさと「じゃ。」

医務室の前で、ポチがワーウルフの姿のまま、おすわりしている。
案の定、まわりから、生あたたかぁいまなざしで見られているようだ。

まさと「おいポチ。」
ポチ「はい? 御用ですか?」
まさと「いや、特に用は無い。休んでてくれ。それよりな、その格好何とかしろ。人になるか、犬になるか・・・出来るんだろ?」
ポチ「ああ・・・・忘れてましたっ! では早速!」


そう言うと、ポチは人間に変化した。

ポチ「これで。」
まさと「ああ、それでいいや。じゃ、俺は用事があるから。」
ポチ「へい。」

しばらく行くと、何やら背後が騒がしい。
恐る恐る振りかえると・・・メイド達の前で、ポチ銀髪美形モードがキザなポーズをとって、愛嬌を振りまいている様だ。
そりゃ、きゃぁきゃぁ言いもしよう。中身を知ったら驚くだろうけどな。
まぁ、ほっとくことにした。
その後も師団長のゴードさんとか、色々呼びとめられて、社交事例。
剣士ってのも大変なものなんだなぁ。
と思いつつ、大層時間を取られた気もするので、通りがかったリーヌに頼んで、例のブドウジュースを分けてもらい、慌ててミュウのベッドに戻った。

パール「ああ、やっと。大変なのよ。かなり苦しそうで・・・。」
まさと「なにっ!?」

慌てて覗き込むと、ミュウは、ひゅうひゅうと風音を立てながら息をしていた。
いきなり横面をごちっとやられる。

まさと「すまん。遅くなって。ブドウジュースもらってきたぞ。」
ミュウ「ぅん。」


ところが、もらってきたジュースはコップ。
ミュウはうつぶせで、起きあがれそうも無い。
いや、背中を火傷しているので、動かすと苦しいだろうから、起こせもしない。
どうやって飲ませるんだよ。

ミュウ「うー。」

俺が、どうにかして飲ませられないかと、コップをあっち向けたりこっち向けたりしてると、ミュウが袖を掴んできた。

まさと「え?」
ミュウ「くち・・・ぅ・・・ぁ・・・・。」
まさと「くち・・・なに?」
ミュウ「ぅー・・・・。」
パール「くち・・・うつ・・・・し?」
ミュウ「う。」
まさと「口移しで飲ませろってか!?」
ミュウ「う・・・ん。」
まさと「俺が?」
ミュウ「う・・ん。」
まさと「いや、それはまず・・・パール頼むよ。」
パール「私は・・・嫌われてると・・・。」
ミュウ「うーっ。」
パール「ほら。」
まさと「やっぱ俺?」
ミュウ「ぅ〜・・・う・ん。」

覚悟決めました。はい。
呼吸を整え、勇気を振り絞る。いや、要るよな、勇気。
で、少し口に含んで、ミュウの目前へ。とたんにガスッと一発。口に含んだジュースを飲んでしまった。

まさと「痛てぇぞコラ。」
ミュウ「め・・・ち・・てぅ・・・・。」
パール「目が血走ってる?」
ミュウ「う。」
まさと「あほかぁっ!」


まぁそんなこんなで。
その後もさんざんぱら殴られつづけ、ミュウにジュースを飲ませることが出来た時には、半分ぐらい俺が飲んでしまっていた。

ミュウ「ん・・・こくん・・こく・・。」
リーヌ「ひぁぁぁっなっなっ!」


運悪くそこへリーヌが。真っ赤になって向こうへ逃げて行く。思いっきり誤解したような気がする。が、リーヌは・・・元々誤解してるし、そのままほっとこう。
結局ミュウは、その後残ったジュースを全部飲んだ。
しばらくして。

ミュウ「ふぅ。ああ、喉がらがらで死ぬかと思った・・。」
まさと「俺は殴られて死ぬかと思ったよ。」
ミュウ「だぁって。」
まさと「だってじゃない。」
パール「でも、術者、足りてないんですね。回復魔法が掛けられたら回復早いのに。」
ミュウ「ん。そーなんだよね。自分で掛けると、返って体力削りそうだし。そうだ! まさと、やってみる?」
まさと「俺!? どうやって? 俺、そんなもの出来ねぇぞ。」
ミュウ「やー、そっちに、渡せばいいから。それが、できたらってことで。」


そういって、ミュウは手を差し出してくる。
促されるままに、俺はミュウの手を握る。
すると、何か小声でミュウは呪文のようなものを唱え出した様だ。

ミュウ「・・・・・モヴ。」

最後にミュウが少し声を大きくしたかと思うと、握っている手が凄く熱くなった。そして喉も。

まさと「ぅ・・わ。」
ミュウ「あ、いけた・・・かな?」


手と喉の熱は、ミュウがそういった次の瞬間にはおさまっていた。

ミュウ「んじゃ、やってみてよ。傷の上に手をかざして。」
まさと「おう。」
ミュウ「手の平に意識を集中。」
まさと「んーー。」
ミュウ「リフレース。」
まさと「リフレース。」

とたんに手が熱くなる。

まさと「わ。手があちぃ。」
ミュウ「ああ、できてるできてる。そのまま意識集中しててね。やめると止まるから。」
まさと「おう。」
ミュウ「おほぉ。こりゃいい具合だわ。上出来上出来。」
まさと「年寄りくさい台詞を吐くなっ!」
ミュウ「あ。ほら止まった。はい掛け直し。」
まさと「お。すまん。・・・・リフレース。」
ミュウ「お。きたきたきた〜。」
まさと「またー。」
ミュウ「いいの齢60のばぁさんですから。」
まさと「ああ、そういうこと言ったような気がしないでもない。俺が悪かった。」
ミュウ「ん。続けててね。その間、ちょっと寝るから。」
まさと「ああ。時々休憩入れていいか?」
ミュウ「うん。いいよ。出来るだけで。んじゃ、おやふみ〜。」

その後、ミュウは3時間ほどで目を覚ました。開口一番がミュウらしくっておかしかったが。

ミュウ「んー。めし。」

俺と、パールはそこで爆笑してしまった。もちろん俺は、ミュウに殴られたんだけど。

ミュウ「笑うなっ!」
まさと「殴ってからいうな! 殴ってから!」
ミュウ「いいじゃない。あんたは。」
まさと「なんでだーっ!」
パール「特別なんですね。」
まさと「特別に殴っていい存在とかか?」
ミュウ「そそっ。」
まさと「割に合わんわぁっ。」
ミュウ「ひどいなぁ。3度も唇奪ったくせに。」
パール「うわ。3度も?」
まさと「奪った覚えはないっ。で、どうなんだ調子は。」
ミュウ「あ、ばっちし。・・・と言いたいとこなんだけど、8割回復かなぁ。疲れがまだ。」
まさと「上等。俺なんか、半分以上残ってるぞ。」
ミュウ「馬鹿正直にずっと、回復魔法掛けてくれてたみたいだしね。ほんと馬鹿だね〜。」
まさと「なにおぅ。」
ミュウ「あ、感謝はしてるから。その辺間違えない様に。」
まさと「おう。」
ミュウ「じゃ、そろそろ歩けそうなんで、何か食べてくる。まさと、その間、このベッドで寝てたらいいよ。」
まさと「あー、そうさせてもらうか。パールは? 疲れとかは?」
パール「あぁ、私は大丈夫、ソーサルブースターつけてたからそんなには疲れてないわ。」
まさと「へー、そーなんだ。あれって、そういうもんなんだな。」
ミュウ「よっと。んじゃっ。」

ミュウはすっと立ちあがると食堂めがけて軽やかに走っていく。さっきまで、うんうん言ってたやつとは思えない。
俺は、お言葉に甘えて、ベッドで休ませてもらう。すぐ寝入った。疲れてたからな。
で、疲れが程よく抜けた頃か、ひそひそ声で目が覚める。

ひそひそ1「ねぇ・・・ほら・・・」
ひそひそ2「わぁ・・・このひと? ほんとに?」
ひそひそ1「みえないよねぇ・・・・だし」
ひそひそ2「ちょっと、うらやましいかな・・・」
ひそひそ1「・・・がいるじゃないのよぉ・・・」
ひそひそ2「あっ・・・あれはぁ・・・・」


なんだかうるさくて仕方ないので。起きた。

まさと「んー。何か用?」
ひそひそ1「あっいえ。」
ひそひそ2「し、失礼しましたー。」


メイドだった。俺が起きると丁寧にお辞儀して向こうに行ってしまう。
なんだかなぁと思っていると。すぐ横で、ミュウが満足げにすやすや寝てますと。

まさと「わぁ!」
ミュウ「う・・ぎゅ・・・。」


また、こういう真似を。
きっとたらふく食って今最高気分てところなんだろう。まぁ、寝かしといてやるか。
俺もまだ疲れが残ってる様だし、そのまま寝直すことにした。
俺とミュウが起きる頃にはもう日が暮れかけていた。
が。
なんだかすぐに発とうと言う話しになってしまう。

まさと「でも、大丈夫か? すぐ暗くなっちまうぞ?」
ミュウ「ん。ここから大樹林まではすぐだし。マリンさんちに泊まれば、明日午前中には村に戻れるだろうって。」
まさと「まぁ、確かにな。急ぐなら、そのくらいで着けるほうが良いだろう。いろいろばぁさんに話さなきゃいけないし。・・・って、あれ? 盾とかまだ話しも何もしてないよ。どうなったんだ?」
ミュウ「あ、それ、話しはついたんだって。カイゼルが言ってた。詳しいことは村に返ってから話すって。」
まさと「んー、そうなんか。なんかもったいぶった話しだなぁ。」
ミュウ「まぁ、話しはついたって言うんだから良いんじゃない? それよりね。ここだけの話しをすると。」
まさと「ん?」

あたりをきょろきょろしてから、ミュウは小声で言う。

ミュウ「実は、マリンさんは、あたしの実の姉さんなんだ。私は知らないって事になってるけど、習わしとかいろいろあって、生まれてすぐにもらわれてったの。」
まさと「ああ、そうだったんか。で、それで、泊まりに行きたいのか。」
ミュウ「そ。かまわないでしょ?」
まさと「ああ。」

といったところで、ようやく俺の頭も回ってきた。
そして、ここで、恐ろしい事実に気がついた。
マリンさんはミュウの姉で、マリンさんはカイゼルのことを父・・・。
てことは・・・・。
カイゼルはミュウの親父さん!? ラルフ・グレンハートその人!!??
おい。それじゃ、俺は今まで、親父さんの前で・・・言いたい放題やってたのか。・・・少し、寒気を覚えた。
もう、今更どうも出来ないけどな。開き直ってやってくしかないか。
いや、それよりもだ。
ずっと、父親の帰りを待っている、ミュウに真実を・・・。

まさと「ああ、そうだ。俺も実は、ってのがあるぞ。」
ミュウ「え? なに?」
まさと「カイゼルの正体のことだ。」
ミュウ「え?」
まさと「俺もさっき知ったんだが、あの人の正体は実は・・ラ・・・・。」

そこまで言った時だった、扉の影から、ヌウウッと、カイゼルが現れて・・・・・こちらを睨む。そして首を横に振る。
しゃ、喋るなってこと?もちろん、このカイゼルの様子はミュウからは見えない。

まさと「あの・・な・・・・」

くわっと目を見開くカイゼル。やっぱ、まだ隠しとけってことなのか?

ミュウ「なによ。」
まさと「あ。んー。実は、俺もカイゼルのことはわからないんだ。・・・・ぐぉ。」

とたんにボディブローを食らった。

ミュウ「もったいぶって言うから、何かと思ったわよ。このお馬鹿。」
まさと「げほ。す、すまんすまん。ウケるかと思って。」
ミュウ「なわけないでしょー。」

カイゼルは、本当に申し訳なさそうに頭を下げてる。
へいへい。しばらく黙ってますよ〜。
ヨハン王をはじめ、矢継ぎ早に挨拶を済ませると、俺達はセントヘブンを出た。
見当たらず挨拶できなかった者も何名か居たが、まぁ、仕方が無い。
行動を共にしたのは、ミュウ、カイゼル、ファリア、マリンさん、タニア、ポチ、マーガレット、そして、ファルネ。
パールは・・・。

パール「私は、一度、戻ります。戻って事実を確かめてきます。」
まさと「そうか。ダイアってのが勝手なことを言ってることもあるか。」
パール「ええ。余り期待は出来ませんけど。マーガレットは預けておきます。これで、役に立つことはあるでしょうから。」

そうして、パールは一人、離れて行った。
セントヘブンの町を出てしばらく行くと。レーア姫が、キリーと、ターマルを従えて、俺達を待っていた。

レーア「私設警備隊、お供いたしまぁす。」
まさと「おいおい。挨拶しようと思っても城内に見当たらないと思ったら、このお姫様はよ〜。」
レーア「侮れないでしょっ! あー、一応、お父様には言ってあるから。ゴードさんとか、マルレーネさんとかには内緒、うるさいからいつも抜け出すのに苦労するんだけどね。」
まさと「おっさん、どうしますぅ?」
カイゼル「良いのではないか。レーアは強いし、キリーと、ターマルも一緒だ。」
まさと「だそうだ。」
レーア「ありがとっ!」
マリン「今夜はにぎやかになりそうね。」

総勢、12名。ロボととんぼを除いても10名。にぎやかなのは間違いなかった。
部屋数足りるのかねぇ。

レーア「ところでカイゼル卿。その野暮ったい盾はなんですか?」
カイゼル「ああ、これか? これは、まぁ、ヨハン王からの預かり物だ。」
レーア「ふぅん。どう見てもハリボテに見えるんだけど。えい。」


<ぷす>

レーア「お。」
カイゼル「・・・・・あ。いたずらは止めなさい。」
まさと「今、指刺さった様に見えたんだけど・・・・・。」
レーア「おっけっ。」
カイゼル「いや、ま、気にせんでくれ。」

レーアはなんだかうれしそうにすると、また普通に歩き出した。一体なんなのだ、この野暮ったい盾は。
マリンの家での夕食はまぁほんとにぎやかなものだった。
ファリアと、ミュウで、木の実を取り合う取り合う。なんだかんだいっても、気は合ってるのかもと思わせてくれた。
そして、懸念していた部屋割りは、相部屋と言う形で解決された。
マリンとタニアで一室。私設警備隊で一室。ミュウとファリアで一室。俺は、カイゼルと一室。マーガレットは夜警。さすがはロボット。ポチは、普通の部屋は落ち着かないと言うことで、一階のフロア。益々犬的。
と言った按配となった。
夜も更けてきた所で、俺とカイゼルの部屋にマリンさんが尋ねてきた。

マリン「ありがとうございました。」

いきなり例を言われて恐縮する。
そして、マスクを下ろしたカイゼルにもはじめてお目に掛かった。
食事の時でさえ、食べる瞬間、早業で上げ下げしていたので、顔まではわからなかったし、初めてと言ったほうが良いだろう。
よくよく見れば確かにラルフ・グレンハートだ。髭面になってはいるが昔の写真の面影がある。

カイゼル「今まで済まなかったな。理由があって、今は、正体を明かしてやれん。ミュウに話すと、他に隠し通せなくなるやも知れんのでな。さすがにダイアに見抜かれた時には肝を冷やしたが。」
まさと「いや、都合のことはわかるよ。それよりも、おっさんがいてくれたことで助かってるし。俺もなんか力不足ばっかりで。」
マリン「そうでもないですよ。」
カイゼル「いや。実の親が言うのもなんだが。端で見ていて、良いコンビだと思えた。」
まさと「あ。良いコンビって、長老みたいな事言わないでくれ。」
カイゼル「ははっ。シルビアにもそう見えたのか。なるほどな。」
まさと「納得もされたくないんですけど。」
カイゼル「まぁ、私のことは気にせず、今まで通り接してやってくれ。」
マリン「そうね。これからもあの子は苦労が多そうだから。よろしくね。」
まさと「お、多いんですか?」
マリン「ええ。かなり辛い事が待っていると思うので。」
まさと「つ、辛いんですか?」
マリン「ええ。あなたの助け無しではきっと・・・。」
まさと「うぐっ・・・・役立たずだと、野に打ち捨てられるほうがましな気がしてきたよ。」
マリン「まだまだ苦労かけると思うけど、ミュウを、お願いしますね。」
カイゼル「私からもな。不躾極まりない娘だが。」

ミュウ「びぇっくしっ・・・しっ・・・しっ・・・・しっ・・・」

まさと「あ。くしゃみしてやがる。」
カイゼル「わはは。しかし。マリン。どうしてミュウは、お前のことを知っていたんだ。私は、教えたことも無いぞ。」
マリン「あ、それ、武器屋のエドさんから聞いたみたいですねぇ。」
カイゼル「ああ、あいつか。相変わらずお喋りみたいだったからなぁ。」
まさと「あ〜確かに良く喋る人だったなぁ。口から生まれたみたいな。」
カイゼル「まったくだ。が、あれはあれで、滅法強いぞ。」
まさと「え? そうなんすか? 無茶苦茶気が弱そうだったような。」
カイゼル「だから強いんだ。自分の弱さを知る者は、強くなれる、と言うやつだ。極端過ぎるがな。エドの強さはその内わかるだろう。」
まさと「へー。そういうものなんだ。」

で、さっきから妙に気になってたんだが。
時折、マリンさんが、俺の顔を眺めてはにこにこしている。なんか、必要以上ににこにこしてる気がするのだが。

まさと「ところで。マリンさん。」
マリン「マリン義姉さんって呼んでね。」
まさと「わぁ。そういうことかい。今回も、全部・・・。」
マリン「ええ、まぁ。ふふっ。」
まさと「やっぱりなぁ。ああ、なんか、今もなにかレールの上を走っている気がする。」

勝てない。ここの親子には絶対に俺は勝てない。俺は、この夜そう実感した。

マリン「けど不思議な話ですね。まさとさんや、竜崎さんはともかく。ミュウやパールまで、世界を行き来してたなんて。」
カイゼル「ん? どういうことだ? パールには直接聞かせてもらったが。ミュウもとは。」

マリンさんが別の話題に振ってくれたので、やれやれだ。
今困ってたのもきっと・・・。ほら、マリンさん笑って・・・ない・・・・なぜっ?
あ、マリン義姉さん。
・・・・・・・・ああ、笑ってるよ。
読まれてますね。これは。まぁそれはそれとして。
親父さんにわかってもらえる様、掻い摘んで、いきさつを話した。15年前のことを。

カイゼル「美味いのか? そのコーラとかいうのは。」
まさと「出る質問がそれですか。」
カイゼル「いや、なぜそうなったのか聞くのも・・と思ったのでな。」
まさと「いや。確かにそりゃそうだ。まぁ、美味いつーか。」
マリン「ああ、この味。ですか。」

マリンさんは俺の中のコーラの味の記憶を手繰ったんだろう。

カイゼル「どんなだ?」
マリン「ええ、ビアとカーヒを混ぜたような味で、さらに、甘くて・・・。あ、お酒ではないですね。刺激があって、確かにミュウは好きそうねぇ。」
カイゼル「ほぉほぉほぉ。なるほどなぁ。それならば結構美味いのかも知れんな。」
まさと「説明が省けて楽で良いや。」
マリン「ふふっ。」

と、そこへどたどたと足音を立てて、ミュウが飛びこんできた。
慌てて、マスクとヘルメットをかぶる親父さん。

ミュウ「!」
まさと「どうした。」
ミュウ「まさと、悪口言わなかった?」
まさと「ああ、そう言えば言った言った。ミュウは・・・ぐぇ」
ミュウ「・・・それ以上言うなっ。」
まさと「まだ、なにも・・・いって・・・ねぇ。」

ボディブローを食らって前のめり。

ミュウ「まぁいいけど。それよかさ。あんまりあたしを仲間はずれにしないでよ。そういうのは嫌いだから。そんだけ。」
まさと「ん。ああ。それは無い。と、思う。」
ミュウ「じゃ、いい。」

そう言うと、ミュウは部屋を出て行こうとして・・・。

ミュウ「カイゼル。兜が後ろ前だよ。ちゃんとしなさいよ、恥ずかしい。」
カイゼル「う・・・・あっ!」


慌ててカイゼルは兜をくるりと前に回す。
ミュウは、そう言い残して、ファリアの待つ部屋へ戻って行った。

まさと「えっと。正体知ってません? あれ。」
カイゼル「ううっ。」
マリン「あ、大丈夫みたいですけど。私も自信なくなってきた・・・。最近は良くサボってたし。」
まさと「そんでもま。公言しないほうが良いのは確かなんだろうなぁ。」
カイゼル「そうだな。よろしく頼む。サイファーの動きが掴みきれぬ間はな。」


そうしてこの夜はお開きとなった。
翌朝、早くから叩き起こされて、出発。
マリンさんと、タニアをのぞ・・・・。
いや、まだ読まれてるかも。
マリン義姉さんと、タニアを除いて、エルフの村へ帰りついた。
もちろん、マリン義姉さんは家に残ったからだ。
しかし。マリンさん。
そろそろいいだろ。
マリンさんの別れ際の台詞が気になる。

マリン「あ、ミュウの様子がおかしいわ。気を付けてあげて。」

一体なんだろう。ミュウはいつも通りに元気そうなんだが。
ファリアは村につくなり、自分の家に帰ってしまった。とかく愛想が無い。
で、まずは礼拝堂へ。長老へ報告だ。
長老に大体のいきさつを話し終えたところで。

長老「なるほどのぉ。向こうの勇者候補は使い物にならんかったか。」
カイゼル「まぁ、今後次第と言うやつだろう。」
長老「では、これの話しじゃの。どうじゃ、正直なとこ。実感できたかいのぉ?」
まさと「いや、今でもどうだかわかんねぇ。けど、勇者の道ってのがあるなら、否応無く、その道を進んじまってる気はする。」
長老「そうか。ではやってみるかのぉ。覚醒の儀。を。」
カイゼル「ああ、そうだな。」
長老「もうじきシルフィーも戻るでの。戻ったら早速試すぞぇ。」
まさと「なんすか? その覚醒の儀っつのは?」
長老「まぁ、勇者の登竜門の一つと考えい。これなくして、勇者は実力を発揮出来んと聞く。」
まさと「あー、それをやってみりゃはっきりするってことか。」
長老「そうじゃ。シルフィーがルーン大聖堂へ行っておるのも、この覚醒の儀の準備のためじゃ。」
まさと「あ、じゃ、俺のためにシルフィーは・・・。」
長老「ああ、そうじゃ。張り切っておったぞぉ。あれも、相当、お前さんのことを好いとるぞ。」
まさと「え。」

思わずミュウのほうを向いてしまう。

ミュウ「ん? ああ。そういえばそうね。」
まさと「そ、そうなんか。うーん。」
長老「とはいえ、あやつの好きはなんにでも発揮するからのぉ。判断に難しいんぢゃが。」
まさと「わかった気がする。喜んで良いんだかどうなんだか。」
長老「で。盾はどこじゃ。」

そうだ。みかがみの盾をまだ受け取ってきてはいない。

カイゼル「ああ、ここだ。」
まさと「え?」


カイゼルは例の野暮ったい盾を持ち出す。そして、ハリボテっぽい外装を・・・・ぺりぺりはがす。

まさと「ほんとにハリボテかい!」
レーア「ふふ。やっぱりそうなんだぁ。パーティの前に宝物庫の前でカイゼル卿を見かけたからおかしいなと思ってたんだよね。」


ハリボテの中から出てきたものは、渋い銀色をした豪華そうな盾だった。

まさと「まさか、それ。」
カイゼル「ああ、みかがみの盾だ。表立って持ち運びしてはなにかと物騒かつ動きづらいのでな。ヨハンに話して、前夜から偽装して預かっていた。おかげで、ダイアに持って行かれずに済んだようだがな。」
まさと「ああ、あのタイミングと、することって・・・・これを?」
カイゼル「多分な。これを狙っての襲撃だったのだろう。」
ミュウ「そうか。ダイアはその腹いせに私を。」
まさと「それは明らかに違うと思うぞ。」
カイゼル「私も私怨だと思ったが・・・・あ、いや、なんでも無い。」
ミュウ「なんでよぉ。」
まさと「おめー、でけぇ岩ぶつけてたろうが。」
ミュウ「あれぐらいなによ。まさとへのお仕置きのほうがよほどだよ!」
まさと「・・・・・威張るなそこで。」
ミュウ「うぃ。」

ミュウは、あっけらかんと笑う。まぁ、らしいけどさ。
これで、聖剣と聖盾が揃った、あとは聖玉といっていたように思うが。

まさと「三つ目は?」
長老「ああ、それはもう揃っておる。心配するな。式の前になったら話す。色々気をつけんといかんでの。」
まさと「なんだ、そうだったのか。じゃぁ、後はシルフィーの帰りを待つだけってことか。」
長老「そういうことじゃ。まぁ、それまでは適当に疲れを癒しておけ。」
まさと「じゃぁ、そうさせてもらうよ。なぁ、ミュウ、エルブンでなんか食おう。」
ミュウ「その話し乗った。」
まさと「まったく、食うとなると。食い気だけか、お前は。」
ミュウ「えー、他にもあるよ。色気とか。」
まさと「どこに。」
ミュウ「あー、ひどいなぁ。こことね、ここと、えっと、それから、ここに、んでもってここぉ。」

自分の体をあちこち指差して見せるミュウ。

まさと「・・・・・じゃぁ、行くか。」
ミュウ「じゃぁ殺気はどうだ。」
まさと「わっ。それはいらん。」


エルブンまでの道のり、そうやって馬鹿やりながら歩いてしまった。
ポチもうれしそうに尻尾を振ってついてくる。マーガレットも黙ってついてくる。ファルネもひらひらと。
なんだか気がつけば大所帯になった気がする。

長老「あの二人、何かあったか?」
カイゼル「あー、まーいろいろとな。が、私の知らないこともあるのかも知れん・・・・。」
長老「マリンにでも聞くか?」
カイゼル「いや、聞くのが怖くてな。現に、夕べ、聞きそびれたのだ。」
長老「そうか。まぁ、人生色々じゃのぉ。」
カイゼル「はぁ。まったくだ。」

ぽんっと。若返ってシルビー化する長老。

シルビー「わしが慰めてやろうか?」
カイゼル「いや、遠慮しておく。」
シルビー「えーん。ラルフくんが冷たいのぅ。しくしくしくぅ。」
カイゼル「・・・・シルフィーはほんと、お前似だな。」
シルビー「そうじゃな。こんなところは似んでもええのにのぉ。」
カイゼル「こことは言わず全部似ているではないか。」

ぽんと元に戻る長老。

長老「まぁ、この辺も色々じゃのぉ。」
カイゼル「ああ。」


こんな面白そうな見世物が展開されてるとは。残って見ておきたかったぞ。

レーア「ところで、長老様。」
長老「シルビーちゃんじゃ。」
レーア「はいはい。シルビーちゃん。私達に出来ることはありますかぁ?」
長老「そうじゃのう。これと言って、無い。まぁ、何も無い村じゃがのう、好きにくつろいで行っておくれ。」
レーア「はーい。じゃ、キリー、ターマル、遊びいこっ。」
キリー「はい。姫様。」
ターマル「だな。」
カイゼル「だから、シルビーちゃんは、やめろと言うのに。」
長老「そういうこというの悲しいのぉぅ・・・。」
カイゼル「・・・・ぐぁ。素でやるな。わかった、もう言わん。」
長老「賢明じゃの。」

俺達がそうやって、馬鹿をやっている頃、パールは、サイファーの城で唖然としていた。
玉座がもぬけの殻だったのである。
サイファーは今まで、玉座の間から離れることは少なかった。離れたとしても数刻すれば戻っていた。
ところが、今回は、待てど暮らせど、一向に戻ってくる気配がないのだ。

パール「私は・・・ほんとうに何をやってるのかしら・・・・。」

そこへ、ようやく人の気配が。一人の老人が玉座の間へ入ってきた。

老人「そろそろ気付いてはどうかね。」
パール「何を・・・です?」
老人「自分が必要とされなくなったことを。」
パール「・・・そ・・・それは・・・。」
老人「いいことを教えてあげよう。あの方がご自分で動かれたのだ。この意味がわかるかね?」
パール「魔導三人衆に見切りをつけた・・・・ということですか?」
ダイア「ふふん。わたしを除いてはね。言ったでしょ、あんたはもういらないんだって。嘘だと思った?」

老人のあとからダイアもやってきた。

パール「ダイア・・・なにが起こってるのよ。」
ダイア「言えるわけ無いでしょ。あんたはもう部外者なんだから。教えてあげられるのは、いらなくなったってことだけだよ。さっさとここから消えてね。」
パール「そんな・・・今まで私のやってたことは・・・・。」
ダイア「ああ、まぁ、役に立ったけどね。魔導科学の研究は。心配要らないよ、研究成果はわたしたちがちゃんと使ってあげるから。誇りに思いなさい。けど、もう、あなたはいらないわ。元に戻っちゃったルビーもね。どっちも、もう役に立たなくなったから。」
パール「・・・・・どうしてっ!」
ダイア「わかんないの? あとは、わたしとこのガルウ教授が居ればいいのよ。役立たずで余計なコマはいらなくなったの。」
パール「プロフェッサー・ガルウ。魔導科学文明の再興は・・・。」
ガルウ「ああ、再興させるとも。その、あるべき姿で。それは、君の望んでいるものと同じだと言う保証はどこにもないのだがね。くっくっく・・・。」
パール「騙したんですか・・・? 私を・・・それともサイファーも一緒に?」
ガルウ「さて。何を言ってるのか理解できないが。」
パール「そう・・・ですか。なら・・・・。」

とたんに巻き起こる大爆発。
パールは待っている間に最悪の事態を予想して、玉座の間に爆弾を仕掛けていた。
決してその起爆装置を押す事が無い様にと祈りながら。
だが、押さねばならなかった。自分のこれまでと決別する為に。
もうもうとあがる爆炎の中から飛び出してくる、ソーサルブースターを装着したパール。
しばらく、爆炎を眺めて、そして、きびすを返し、どこかへと飛んで行く。
そして、その様子をさらに上空から眺めている、ダイアとプロフェッサー・ガルウ。

ガルウ「やれやれ。ここまでするとは。次に会ったときには敵になるかね。」
ダイア「ふふん。敵にもなりはしないよ。あの程度じゃ。今度会ったら軽く捻りつぶしておしまい。」
ガルウ「くっくっく。頼もしい。さて、下ろしてはくれぬか? 玉座の掃除をしないとな。」
ダイア「ん。」

二人はおさまりつつある爆炎の中へゆっくりと消えていった。
俺達がランチハウス・エルブンで食事を摂り終えた頃。シルフィーが戻ってきた。吉報を持って。

シルフィー「ミュウ! まさとさぁん! たっだいまぁ〜!」
まさと「お。戻ってきたか。お疲れさぁん。」
ミュウ「お帰り〜。」
シルフィー「ねぇっ、ねぇっ、アスフィー兄さんが戻ってきたんだよぉ!」
ミュウ「え? ほんと? わ。どうしよう。なんの準備もしてないのに!」

とたんに慌て出す、ミュウ。

ミュウ「えっと、あ、あたしは家戻って着替えてくるから! まさと先にシルフィーん家に行ってて!」

と、言うが早いかミュウはこっちの答えを聞く事もなく走っていってしまった。

まさと「おいおい。慌しいなぁ。で、アスフィー兄さんて、シルフィーの?」
シルフィー「うん。そうなのぉ。修行に出てばかりでたまにしかもどらないのぉ。でねぇ、えっとね、アスフィー兄さんはぁ、ミュウのぉ・・・初恋の人なんだよぉ。」
まさと「・・・・・ほぉ。それははじめて聞いた。それで慌ててたのか。面白いから見に行くぞ。って、あ! ミュウが先に行っちまったらここの払いどうすんだよ! 俺は無一文だっつのに!」
マスター「ああ、いいよいいよ、払いはまた今度で。」
まさと「あーどもー、助かります。んじゃぁ。」
マスター「ああ。またおいで〜。」

マスターに軽く挨拶すると、俺はシルフィーと、アスフィーに会いに行った。もちろん、後にポチと、マーガレット、ファルネも続く。

まさと「お、あれか?」

シルフィーの家の前に長身の青年が立っているのが見えた。