第3話 ミスティック・ミュウ誕生! #6 セントヘブン燃ゆ
パール「勇者まさと・・・・あなたを殺します。」
まさと「!」
ここまで話しをして、納得させた上で、命の取り合いをしようって言うのか!?
まさと「おい! それはなんでも頭が悪過ぎねぇか?」
パール「あなたよりは良いほうよ。」
まさと「わぁ、そうじゃなくって。」
パール「わかってるわ。あくまでこれは極論よ。昨日言ったでしょ。邪魔をしないでって。噛み砕くとそう言えるのよ。」
まさと「あ、ああ、ああ、そうか。邪魔をさせないを極論すると、殺す、に。・・・・だけど!」
パール「昨日と状況が変わったの。竜崎守は、勇者ではなかったわ。昨日の段階では、どちらが勇者かわからなかったけど、今は、あなたが勇者であることの確立が・・・。昨日の事件で、ね。だから、あなたをまず、止めないといけなくなった。」
まさと「うわ。なんだ、やっぱり、自分の首締めちまったんじゃねぇか。俺・・・・。」
呑気でもいられなくなった。
そうか。俺は・・・。
自分でも気がつかないうちに勇者のレールを進んじまってるんだ。
確認だけして、帰るてだてを探るつもりだったのに。
パール「受けて、くれますか?」
まさと「・・・・・・。」
俺は、今、人生の転機にさしかかってるのかもしれない。
それも、下手をすると数刻先には死んでいるかもしれないって言う、極端な。
冗談じゃないな、まったく。
決闘だという。
けど、どう考えたって、勝ち目は無い。
ソーサルブースター装着者vsにわか仕込みのひよっこ剣士。
どう考えても、こちらに分が悪い。
カイゼルはじっとこちらを見ている。パールの強さは、カイゼルだって知ってるはずだ。
決闘をすれば、間違いなく俺は。なのに、カイゼルは、黙って見ている。
カイゼル「どうする。私は、止めたりはしないぞ。君自身が決めることだ。」
・・・・・はいはい。見透かされてるわけですね。
生きるも死ぬもわが人生。自分で選べって事か。
まさと「俺は・・・・。」
ミュウ「まさとっ!」
ミュウが飛びこんできた。息を切らせながら。
ミュウ「何やってんのよ。あんた、死ぬつもり!?」
まさと「あほっ! 誰が死にたいかっ!」
カイゼル「ああ、気がつかれてしまったか。」
ミュウ「大体どうゆうことよ! みんなして、まさとを殺す算段!? カイゼル! あんた、敵の回し者だったの!?」
無茶苦茶言ってる。言ってるが、確かにその通りだ。
素性を隠している上に、俺が死ぬかもしれない選択を迫っている。
カイゼル「うむ。少なくとも私はサイファーとは敵対する位置に立っている。」
ミュウ「だったら!」
カイゼル「止めれば、事態は前に進むか?」
ミュウ「違う! 他の策を考えなさいっていってるの!」
カイゼル「とは言っても、なぁ?」
カイゼルは、パールと俺を見比べる。
そうだよ、俺が決めないといけないんですよ。勇者として。
ああ、気が重い。
ミュウ「絶対ダメっ!!」
ミュウは俺の前に回って、腕を大きく広げる。
ミュウが、どんな表情で立ちはだかったのか、俺のほうからは見えない。
けど、カイゼルや、ヨハン王の困った顔を見れば、大体想像がつく。
ミュウが、そんな顔をするのかという疑問も浮かぶが。
まさと「ミュウ・・・俺は・・・。」
ミュウ「だめっ。いっちゃだめっ。死ぬよ、絶対。」
まさと「いや、そうかもしれないんだけどな。決めなきゃいけないのは・・・。」
ミュウ「わかってるわよっ。そんなことはっ。だからって、黙って見過ごせない!」
一瞬、静かになる。
パール「条件を・・・・・つけても良いわ。」
ミュウ「え?」
パールが静寂を破った。
譲歩しようと言うのか。
一体何を考えてるのか、また、想像できなくなった。
パール「命まで取るとは言わないわ。その代わり・・・・。」
ミュウ「その代わり。何よ。」
パール「私が勝ったら、聖剣と聖盾と聖玉全て、譲ってもらう。それで、目的は達っせます。」
ミュウ「なっ!」
確かに、それらを向こうに渡せば、勇者サイドの勝ちは消える。
まさと「パール、それじゃ、生きてるより、つれぇよ。なじられる人生が待ってるだけだ。」
口をついて出てしまった。
パール「じゃぁ、いいんですね?」
まさと「ああ、ダメな時は潔く死んでやる。」
ミュウ「まさとぉっ!」
口がすべりまくる。なんでこうなるのか。自分でもわからねぇ。
ミュウ「あんた、ほんとにそれで・・・いいの?」
まさと「良くは・・・ないけどさ。・・・・・・道は無いだろ。」
とたんに、ミュウがこっちを振り向く。
そして、思いっきり抱きしめられた。
というか、ミュウのほうが少し背が高いので、抱え込まれたと言ったほうが良いのかもしれないが。
まさと「おいっ!」
ミュウ「まさと。どうしてそうなんだよ。・・・・この、ばかたれ・・・・。」
ミュウは、震えてた。震えていた。
そして、ぱっと俺から離れると、すぐさま部屋から駆け出てしまった。
そうだよな。俺は馬鹿だ。
死ぬかもしれない選択をしてしまったのだから。
けど、選択の余地は・・・・。
パール「本当にいいの?」
まさと「え、あ?」
パール「本気で、目が潤んでたみたいだったけど。」
まさと「なに!? やっぱりそうなのか?」
俺は、ミュウの後を追っていこうとした。
カイゼル「行くなっ!」
一喝されてしまう。
それで、俺は出ていくタイミングを失った。
まさと「・・・なんで・・・。」
カイゼル「行かないでやってくれ。」
まさと「は?」
マルレーネ「僭越ながら。お嬢様は、勇者様の決断を受け入れられたのだと思います。ここで追えば、お嬢様の顔を潰す事に・・・。」
さらに出ていけなくなる。
そして、俺と、パールの決戦の場が設けられた。
というより、セントヘブン城砦内がバトルフィールドとして、選ばれた。
全ての者は迎賓館に待避し、ここは絶対に手を出さない。そういう条件で、決闘がセットアップされた。
そして今、俺は、パールと向き合って準備している。
メイド達は全て待避し、ヨハン王、カイゼル、騎士団長のゴード・シュバイターとかいう無骨なおっさん、少し離れたところにレーア王女、マルレーネさんが傍にいた。
パールのほうは、まだ普段着のまま、傍には、例の3mの宇宙人ロボ、マーガレットが控えている。
鎧の締め直し。剣の具合の確認。これをやっている間は、寿命が延びる。
そう思って、ゆっくりやることにしたがどうにもやることが少なすぎて間が持たない。
まさと「ぱーるぅ、それ、まさか、オプションとか言わないよな?」
パール「え?」
マーガレットのことを聞いてみた。
パール「ああ、違うわ。控えさせてるだけよ。一騎打ちっていったでしょ?」
まさと「そうか。そうだったな。」
取りとめも無く会話してみる作戦。
そうしてると、今度はレーアが傍に寄ってきた。そしていきなり俺の胸にパンチ。
レーア「・・・・色男。」
まさと「はぁ?」
レーアは、城砦の上のほうをこそっと指差す。そこは、城砦の屋上部分。主に、矢などを射たりする場所だ。
そこに、赤い髪が見えた。ミュウだ。
まさと「あ、見には来てるんだ。」
レーア「勝ちなさいよ。勝って、男を上げるの! いい!? 絶対だからね!」
まさと「・・・・簡単に言うなよ。」
レーア「でも、負けるって思ったら、負けるよ。剣士は気合って言うから。」
はっとなる。
そうだよなぁ。負けることを考えたら負ける。その通りだ。
勝つために、出来ることを考えるほうが得策そうだ。
パール「そろそろ、装着しておくわ。」
まさと「ああ、そうか。そこでか?」
パール「ええ。ここで。この際だからじっくり見ておく? 私の技術の成果。」
まさと「ああ、そうだな。見せてもらう。近くに行っていいか?」
パール「そうね。5m以内には、入らないでね。巻き込むかもしれないから。」
まさと「巻き込むって・・・・そんな凄いことになるのか?」
パール「まぁ、見てればわかるわ。」
俺は、てくてくと、パールから6mくらいのとこへ行く。
パール「そうね。その位置から動かないで。じゃ・・・。」
そういうと、パールは、取り出したソーサルブースターを高く掲げる。
パール「ソーサル・セットアップ・マジェスティ・パール!」
パールがそう声を掛けると、ソーサルブースターから、甲高い何かがはじける音が聞こえ、それ自身が輝き出す。
次の瞬間には、その光りが渦を巻くように広がり、パールを包みこんでいく。
そして、パールを完全に包みこんだかと思うと、光りがはじけ、パールは、例の戦闘スーツ姿になっていた。
まさと「えっと。もぅ一回。」
パール「・・・・出来無いわよ。そんなこと。」
まさと「いや、一瞬だったもんでな。良く見えなかった。」
パール「何度やっても同じようにしか見えないわよ。見えたら巻きこまれてるって事。」
まさと「あ、そうか。納得。」
パール「それにね。弱点を言っちゃうと、一度装着を解くと、コアが不活性化しちゃうから、再活性化するまで、4時間ぐらい使えなくなるのよ。だから、もう一回は無理。それより、何か期待してたでしょ?」
まさと「ああ、期待してたぞ。裏切られたけどな。服びりびりとか、にゅるんにゅるんとか。」
パール「にゅ・・・・それは一体・・・・。」
まさと「あー、いや、知らんほうが良いかも。にゅるんにゅるんは。」
パール「もっとも、中では、そのびりびりに近いことになってるわよ。服を一度分解してるから。」
まさと「パール。俺は今、すっごく悔しいぞ。」
ヨハン王「なぁ、カイゼル。ああ言うことが出来るのだな。」
カイゼル「ああ、着る所は私もはじめて見るが・・・・。そうか。ちょっと残念だな。うむ。」
マルレーネ「・・・・こほっ。殿方と言うのは、ほんとに。」
ヨハン王「あ。いや、わしは、ちょっとだけ。」
カイゼル「いや、面目無い。」
殿方と言うのは、不謹慎な生き物です。はい。
パール「・・・・だから、見えない様にしたのよ。」
まさと「すまんな。身に沁みて納得した。」
一呼吸置いて。
まさと「あぁ、準備整っちまったか。」
パール「そうね。あ、一つだけ確認させて、聖剣を抜いて、私のアーマーに当ててみて。」
まさと「ん? こうか?」
言われた通りにすると。
何か引っかかるような手応えを感じながらも、くさなぎはこつんと、パールのアーマーに当たる。
パール「やはり。これは気をつけないと・・・・。」
まさと「え? どういうことだ。」
パール「障壁。バリアーが無力化されるのよ。聖剣くさなぎによって。あ、レーア姫、ちょっと斬りつけてみて下さい。その剣で。」
レーア「え、あ、こう?」
レーアが横合いから、軽く斬りつけて掛かる。
が、それはアーマーに当たる前に金属音と共にはじかれた。
レーア「たたたっ。手がしびれた。」
パール「ね。通常はこうなのよ。」
まさと「そういうことか・・・。前にミュウが斬りつけた時も。」
パール「ええ。その剣を使う間は、あなたにも勝機はあるわ。だから、この勝負、五分五分よ。」
そうだ。くさなぎはソーサルブースターのバリアを突破できる。有効な攻撃手段だったのだ。
確かに勝機はある。
しかし、あの、ビームと言うか、あの光線砲を使われたら・・・まぁ、避けるしかないか。死にたくなきゃ。
カイゼル「準備はいい様だな。」
そういう声の掛け方をしないで欲しいぞ。寿命がちぢむ。
レーアは早足で城の中へ、ヨハン王達も、こちらを認めることが出来る位置で城の中で控えた様だ。
カイゼルと、おれは、定位置に向かってゆっくりとならんで歩く。
カイゼル「とにかく間合いを詰めることを考えろ。ただし、光線には当たるな。」
まさと「あ? ああ、そうだな。それしかないな。」
カイゼル「もし当たりそうなら剣で避けろ。そのくさなぎなら出来るはずだ。」
まさと「ああ。そういやおっさんもそう言う事をやってのけてたっけ。これも、魔法銀なのか?」
カイゼル「いや、近い物のようだが、魔法銀より遥かに硬質な物のようだ。それ以上はわからぬが。」
まさと「そっか。なんとかやってみるさ。」
カイゼル「そうだな。勝手なことばかり言うと思うが、健闘を祈っている。」
まさと「ああ。恥かかないで済む様に頑張るよ。」
そして、定位置につく。
カイゼルも城の中に控え。俺は、パールのほうへ向き直る。
パールは、既に例の威風堂々とした、構えでこちらを見据えている。
コンセントレーション中。と言うやつかもしれない。
おれも、集中しなくては。と思ったら、なにやら、肩に力が。
いや、まて、そんな力入ったらだめなんじゃないか? おれは、緊張しすぎてるのか? その時。
ミュウ「まさとっ!」
ミュウが声を掛けてきた。
まさと「なんだ!」
ミュウ「ファルネのぎゅむっ!」
まさと「うぎゃぁ。思い出させるんじゃない! ええい! こんな時にくだらんことを! このどあほう!」
ミュウ「ふふん。」
そう言うとミュウは向こうを向く。
あ。肩の力抜けた。
そっか。あんなところからでも、俺が肩に力入ってるのわかるのか。
あいつの目が良いのか、俺がそれほどだったのか。
俺は、ミュウの気転に感謝した。
ヨハン王「そろそろよい様じゃな。では、双方、悔いの残らぬ様に。構え!」
俺は、ゆっくりと、鞘からくさなぎを抜き、右下に剣先を向けてリラックスする。
パールは、両腕をゆっくりと広げる。
これは、あの時と同じ。光線発射のポーズだと思えた。
最初からアレを撃ってくるか。
ミュウ「ベクター、お願い。守って・・・・。」
そんなことをミュウが言っているのを俺は知らない。
聞こえるわけも無い。
そして。
ヨハン王「はじめぇっ!」
パール「くっ。」
やはりだ。いきなりパールはビームを撃ってきた。
俺は、それを見て取って、とにかく走り出しやすいほうへ走った。
くさなぎの重さがある、右側へ、そして、前方向へ、間合いを縮める為に。
まさと「ぅおおおおおおおおおおおっ。」
声を出そうとするでもなく、声が出ていた。そうでもしないと体が前が進まない気がした。
パールの撃った光線は、俺の最初に居たあたりを焦がす。
そして、俺は、勢いのまま、パールの傍まで行きつくと、くさなぎでとにかく斬りつけた。当たるなどとは思わなかったが。
パールは、一瞬身を引くような動作をしたかと思うと、宙に舞い上がった。
そうだ、相手が跳べるのを忘れていた。
これでは、間合いを詰められるのかどうか。
パール「ちょっと。ずいぶんこの間と違うじゃない。そんな努力家に見えないんだけど。」
まさと「へっ。まぁな。」
この間といえば、聖地ノスパーサのことだと思う。
俺は、シルフィーの魔法に守られて、なおかつ祠に飛びこむしか出来なかった。
確かに、パールから見たら、劇的進化に見えたかも。
とはいえ、この調子で、パールに飛んで逃げられたら、城砦内を走りまわることになりそうだな。
案の定パールは、俺が斬りつけようとすると、ぽんぽん飛びあがってかわす。そして、時折、ビームの雨を降らせてくる。
必死になって、それをかわし、またパールの着地点をめがけて駆け込んでいく。
それを幾度と無く繰り返すこととなった。
と、パールは今度は、飛びあがるとそのまま、建物を軽々と越え、その向こうに回る。
俺は、仕方なく、建物の横合いからまわりこんで、パールの消えたあたりへ駆けて行く。
いかん。走りまわさせられている。これじゃ、すぐに体力が尽きてしまう。
そう思った時、俺は、地面のでこぼこに足を取られ、建物の角のところで、つんのめって転んでしまった。
次の瞬間。目と鼻の先をパールのビームが焦がす。
まさと「うわっ。」
パール「くっ。」
危なかった。転ばずに飛び出していたら、まともに食らっていたかもしれない。
運は俺に味方してくれているのか?
まさと「なんちゅう危ない撃ち方すんだよっ!」
パール「悪いわね・・・。けどっ!」
パールが一瞬宙に浮いたかと思うと、今度は、猛スピードで、俺に向かって飛んできた。そして、ビームを連射。
まさと「うわわわわっ。」
必死になって、横にかわして行く。間合いどころではなかった。
パールは、打ち方を時に変えて来る。
そうか、同じ戦法だと、読まれてかわされるだけだ。緩急をつけなければ。
と思う物の。良いアイデアは浮かばず。
そうこうしている内に息が上がってきた。
走り回っているのだから、当たり前だが。
まさと「はぁ、はぁ、ぱ、ぱーるぅ・・・おりてこぉい・・・おりて・・・寝技で勝負だぁ!」
パール「なっ、なん・・・。」
空中のパールは瞬間、失速して落ちそうになる。
で、次の瞬間、がつんとヘルメットになんだかとてつもなく懐かしい衝撃。
ミュウ「いっぺん死んで来い! このばかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
どうやら、ミュウが城砦の上から、石か何かを投げつけてきた様だ。
石? 投擲用か? いや、良く見ると、角張っている。それも、90度に近い角がある。
まさか、城砦の壁を破壊して、それを投げてつけてきたのか? なんてパワフルなやつ。
いや、さっきのは俺なりの奇策だったのだが、ミュウには気に入られなかったらしい。
だが、パールには確かに効果があるのを確認した。
パールは、ソーサルブースターに身を包んではいるものの、その精神は意外ともろい一面があると俺は確信した。
まさと「おーい。ミュウ! 手、だいじょぉぶかぁ〜?」
ミュウ「いっ、痛いわよ、このばかっ!」
やっぱりだ。
ミュウは城砦を殴るかなんかして、破壊。その破片を投げてきたのだ。
まさと「壁殴って、手を痛くしてるほうがよっぽど馬鹿だぞぉ〜。」
ミュウ「うっ、うるさいっ、後でリンチっ!」
まさと「覚えてたらなぁ〜。」
パール「あ、あんたたちねぇ・・・・。」
うまく、パールがこっちのペースに乗ってきてくれた。
おかげで、ちょっと、体を休ませることが出来た。
まさと「ぅおっしゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!」
俺は再び、パールに向かって、突入を再開した。
そしてその頃。
セントヘブンの下町で、異変が起きていた。
町人1「くそっ、西門のほうへも出たらしいぞ。」
町人2「なんで、こんな街中でっ! 一体どうなってるんだ!」
町のあちこちで、魔獣が出現していた。忽然と空から魔獣が降ってくる。
これには、誰もが戸惑い、対応におおわらわだった。
???「ほらほら。いっぱい降ってくるよ。どうするのかなぁ?」
宙に浮かぶ誰かが、町の騒乱振りを眺めながら笑みを浮かべていた。
マリン「なんてことっ! タニア! 気をつけてっ!」
タニア「にゃ! マリン守るにゃ! お店守るにゃ! にゃっにゃっにゃーーーーーーーーーっ!」
マリンさんの店の前では、マリンとタニアが懸命に店を守っていた。
マリンさんは仕事用の長いローブのいでたちで、長剣を携え、魔獣に切りつけて行く。
傍では、恐らく、マリンさんの店を訪れた客だろう、カップルがおびえあがってどうも出来ないで居る。
マリン「あなたっ、そこに剣があるわっ! 自分の彼女くらい自分で守って見せなさい!」
男「ぃ、え? で、でもっ! ぼっ僕は剣は使ったことはっ。」
女「や、やだぁ、なんで、こんなの出てくるのよぉ。何とかしてよぉ。」
タニア「サイテーな男にゃ。」
マリン「・・・・そう思うわ。さっきの占いの続き。あなた達には、やがて別れのときが訪れるでしょう! 占いおわり・・・。てぇぇいっ!」
マリンさんは懐に忍ばせていた玉を投げると、それが魔獣の傍で発光する。
マリンさんが投げた玉の素性を知っているタニアの縦長の虹彩がきゅっと閉まり、光りに対応する。
その光りで魔獣に隙が出来たのを見計らって、マリンさんは、魔獣のわき腹をめがけて剣を突き立てた。
マリン「これで、どうよっ!」
魔獣は、どぉっと地響きを立てて倒れ、泡と消える。
マリン「やっと一匹。か・・・・。騎士団はなぜ出てこないのよっ。」
マリンさんは城砦を睨んで、悔しげにつぶやく。
そんなこととはいざ知らず。
俺は、パールとの追いかけっこで、まだひぃはぁ言っていた。
まさと「ぐぅ・・・あ・・・はぁ、はぁ・・・・やべっ・・・また・・・・息が・・・。」
パール「そろそろ・・・限界が見えてきたわね。悪いけど・・・。」
そう言いながら、腕を広げ、パールがゆっくりと降りてくる。
ミュウ「ちょ、なによ。あれ・・・。二人ともっ! あれ!」
ミュウが城砦の外を指差す。
パール「なに?」
まさと「あぁ?」
俺達はその方角を見る。
すると、町のほうから、無数の黒い煙が上がっていた。
俺と、パールの一騎撃ちのために、ほとんどの者が迎賓館のほうへ引っ込んでいる。
なおかつ、パールが一騎打ちを申し出たとこで、別の動きがあるとは予想している者は少なかったろう。
監視の目が行き届いていたとはとても思えない。
そして、城砦の正門前に、マリンさんが駆けつけていた。
マリン「開門を! 魔獣が攻め込んで来た! 近衛師団に出陣をお願いしたい! 開門を!」
衛兵「ま、魔獣! あの煙が!? いや、今、城内は取り込んで・・・す、すぐ、連絡をつける。しばし待てっ!」
マリン「急いで! 事態は急を要します!」
衛兵「はっ! 伝令! 魔獣侵入! 近衛師団長に御報告申し上げろ!」
衛兵2「まっ・・・・はっ! 近衛師団長に伝えます!」
内側に居た衛兵が慌てふためいて建物のほうへ走って行く。
俺達はただ、煙を見上げているだけだった。
唯一、城壁の上に居る、ミュウを除いては。
ミュウには、時折、町並みの隙間に見える、魔獣を見つけることが出来た。
ミュウ「あれは! まさと! 魔獣だっ魔獣が襲ってきてるっ!!」
まさと「な、なにぃ?」
パール「・・・・・え? そんなはずは・・・。」
何が起こったのか、パール自体もよくわかっていないのか。
それともしらばっくれているのか。
まさと「パール、まさかお前・・・囮・・・・。」
パール「ちっ、違う! 私は何も知らないわ! 魔獣が攻めてきてるのは間違いないの!?」
ミュウ「ここからなら見える。でかいのがうようよしてるっ。」
パール「くっ。そんな・・・。」
パールは町が見えるほうを向きながら、飛びあがる。
そして。
パール「・・・・・・嘘・・・こんな作戦・・・・聞いてない・・・・。」
まさと「どういうことなんだよっ!?」
もう訳がわからなかった。
一騎撃ちを挑んできたパール。町を襲ってくる魔獣。
どう考えても陽動込みの奇襲作戦だが、パールは、本当に知らない様だ。
一騎打ちのことも忘れ、ただただ、町の有り様を見つめながら宙にあった。
???「こういうことよっ!」
どこからか声がしたかと思うと、俺めがけて火球が飛んできた。
慌ててくさなぎで防ぐ。
なんとか凌ぐことは出来た。それを見て、慌ててカイゼルが駆け出してくる。
カイゼル「なっ何が起こっている!?」
まさと「た、多分、別働隊かなんかだ。パールも知らないらしいが、町が魔獣に襲われてる。それと、アイツだ。」
火球の飛んできた方向、パールよりもさらに高いところに、エルフのような容姿の少女が宙に浮いていた。
カイゼル「だ・・・・・ダイア・・・か!?」
ダイア「あれ。あんたまだ生きてたの? しぶといねぇ。てっきりとどめさしたと思ったんだけど。ちゃんと死んでてよ。わたしが怒られちゃうじゃない。やだなぁ〜。」
まさと「知り合いかよ。」
カイゼル「ああ、ここで、再会したくは無かったがな。あいつは・・・。」
ダイア「わたしは魔導三人衆の鉄壁のダイア! そこのパールなんかとは格も実力も大違いの最強の戦士よ! 良く覚えと・・・あうっ!」
凄い勢いで飛んできた何かの塊がダイアのこめかみにヒットする。
ふわふわと落下するダイア。
ミュウ「あぁったりぃぃ〜〜!」
屋上のほうで、ミュウが投擲直後のポーズで、ほくそえんでいた。
まさと「今度のは、おもっくそ、でかいの投げたな・・・・あいつ。」
カイゼル「これくらいはあったか。」
まさと「いや、このくらいかなかったか? ・・・・死んだな。」
カイゼル「ああ。普通ならばな。」
まさと「お?」
カイゼルとならんで、手で、塊の大きさ談義。
この状況だと、そのくらいしかやることが無い。
が、しかし、ダイアは、普通ではなかった。落下途中で見事に復帰し、今また同じ所へすうっと戻る。
ダイア「なめてると、捻り殺すよ。そこの筋肉ちんくしゃ。」
ミュウ「あんだおぉ!!!」
睨み合う、ミュウと、ダイア。
次の瞬間、ダイアの周りに無数の光球が現れ、それが、ミュウめがけて横殴りの雨の様に降り注ぐ。
まさと「おいっ!」
ミュウ「っわぁぁっ!」
屋上で上がる爆炎。
パール「ダイアァッ!」
今度はパールがダイアに食って掛かる。しかも、ビームで。
ダイア「なにするかなー? ただのコマの癖に。」
そうして、今度は、光球がパールめがけて飛ぶ。
しかし、ソーサルブースターの障壁に光球ははじかれる。
ダイア「ふん。」
パール「魔獣を使うなんて・・・。聞いてないわっ。」
ダイア「うるさいよ。あんたはもういらないんだ。失敗繰り返すし、甘いし。」
パール「あま・・・いら・・・ない・・・?」
ダイア「そうよ。あんたもひっくるめて、このわたしがまとめてかた・・・・あぐぅっ!」
さっきよりもさらに大きい石、つーか、既に岩だ。
さっきの爆発でちょうど良いのが出来たのだろう。ミュウが、それを投げたに違いない。
その岩が、隙だらけのダイアの顔面に決まる。
とりあえず、ミュウが無事なのは確認できた。あれだけの反撃が出来るなら大丈夫だ。
ひょろひょろと落ち行くダイア。が、また、すぐに復帰してくる。
ダイア「・・・だー、かー、らー。そういう原始的な攻撃をしてくるなって。・・・・・言ってんの!」
ひときわでかい光球が屋上を直撃する。
爆炎で、ミュウが建物の外へほりだされてしまう。
ミュウ「ぅわぁ、ちょちょちょっ!」
まさと「やべっ!」
このままなら4階から落ちるのと一緒だ。地面に叩きつけられたらタダでは済まない。
カイゼル「くぅ。」
カイゼルが落下予想点に向けて走る。俺も走った。
ダイア「ふ。これで、静かになるね。」
なんて事を言いやがる。その時だ。
??「ォオオオオオオオオオオオオオォォォォォーーーーーッ!」
どこからとも無く、遠吠えのような物が聞こえ、銀色の物体がミュウを掠めて飛んだ。
そして、今まで、ミュウが居たところにその姿は無く。
少し離れたところの地面に、長身の、銀髪の男がミュウを抱えて立っていた。
銀髪の男「助太刀します。」
まさと「は? いや、ミュウは・・・。」
ミュウ「えっと。無事!」
地面に立つと、ミュウはVサインをする。何ともない様だ。
しかし、この男は一体・・・。
ダイア「む。つまんない事するやつ。」
カイゼル「お前は・・・。」
銀髪の男「俺は、ポルグレフ・チーフ。勇者様によって目覚めた者。」
まさと「はぁ!?」
目覚めたと言っても、こんな男は見た覚えが無い。
まさと「誰だ? お前・・・。」
ポルグレフ「忘れられましたか? では・・・。」
そう言うと男はにわかに殺気立った様に見えた。
そして、見る見るその姿は変化して行った。タニアの変化の様に。
ポルグレフ「ゥォオオオオオオオォォォォ・・・・ン!」
男は、狼男に姿を変えた。そう。コイツは・・・。
ミュウ「げっ。」
まさと「お、俺がこっち来た時の、あの、ワーウルフ!」
ポルグレフ「はっ。」
なんてこった。あのミュウを襲ってたやつが・・・・・。目覚めた? なんだそりゃ。
ダイア「はぁ。妙に動きがいいと思ったら、獣人ね。しらけるわぁ。」
ポルグレフ「むっ。」
ワーウルフは上空のダイアを見据えると。ひと鳴きする。
ポルグレフ「ゥオンッ!」
<パシュ>
ダイアの髪の毛の先がはじける。
ダイア「なっ!?」
今のひと鳴きは・・・音波か何かで攻撃したのか?おいおい。
そんなに強いやつだったのか、こいつは。
ポルグレフ「ふっ。」
ダイア「・・・やってくれるじゃない。まぁいいわ。他にやること思い出しちゃった。じゃぁねぇ。」
そういったとたん、ダイアの姿が掻き消えた。
まさと「消えた!」
カイゼル「むぅ。逃げたか・・・。しかし、やることとは・・・。」
その俺達の後ろをがしゃがしゃと騒々しい音を立てて、騎士団が駆けて行く。
まさと「あ、そうか。町へ。」
カイゼル「うむっ。私達も加勢しに行くぞ。」
まさと「げっ。俺、もうへとへとなんだけど。」
カイゼル「そうも言っていられまい。」
ミュウ「まさとっ。」
ミュウに呼びとめられてそっちを向く。
ミュウ「・・・・リフレース。」
昔、ミュウに掛けてもらった回復の魔法。その時のことがダブる。
見る間に、疲労が抜けて行く。完全じゃないが、かなり復帰できた。
まさと「あ、すまね。じゃぁ、行くか。」
ミュウ「うん。ぶっ飛ばしてやろう!」
ポルグレフ「お供しますっ!」
まさと「あ、ぽ、ぽる・・ああ、言いにくい名前だなぁ。」
ポルグレフ「申し訳無い。好きに呼んでくださって構いません。」
まさと「えーと、ぽるぐ・・・チーフ・・・ぽ・・・・ち・・・・ポチ! よし、ポチだ!」
ポルグレフ「はい。」
ミュウ「・・・・安直な。」
まさと「やかましい。ポチと言えば犬的代名詞なんだぞ。あ、はちこーとか、しろ、なんてのもあるが、ここはやっぱりポチだろう。名前の略にもなるし。」
ポチ「はい。」
まさと「よし。ポチだ。で、ポチ。目覚めたってのはなんだ?」
ポチ「は。そのままです。目覚めました。勇者様に殴られたのだと知りましたので。」
ミュウ「名前が単純なら、思考も単純・・・・・。」
ポチ「姉さんには、失礼をしました。これこの通り。」
ミュウ「あ、姉・・・っ。」
ポチは・・・地面に寝っ転がって腹を見せている。狼と言うより、犬。
ミュウ「はぁ。いや、いいわ、もう。気力抜けそう。で、どうしたいのよ。」
ポチ「は。これよりは、勇者様の従者として・・・・。」
まさと「へぇ。付き従うってか?」
ポチ「はっ。」
従者ポチが仲間になった。
ぱんぱかぱーん。
と、なんだか、ファンファーレでも聞こえてきそうである。
すると、ほんとにラッパの音が・・・・。
まさと「うわぁぁぁ。」
ミュウ「あ、やっと騎士団が外に出たみたいね。あたし達も急ごう!」
まさと「ああ、なんだ、騎士団か。やれやれ。」
ミュウ「ん?」
まさと「ん。あ、いや、こっちの話し。でな・・・。」
後ろのほうで立ち尽くしているパールが目に入った。
まさと「お前。どうする。ここで休んでるか?」
パール「・・・・あ。わた・・・し・・・は・・・。」
まさと「まぁ、わかんないよな。ここでジッとしてろ。後で戻ってくるから。」
パール「わたしはっ・・・・。」
カイゼル「したい様にすれば良いと思うが。無理強いも束縛もせん。」
パール「はい。こっここで、いえ・・・行きますっ! 私もっ!! 魔獣を何とかしなきゃ!!」
まさと「へぇ、じゃぁそうするか。」
ミュウ「ふぅん。ま、戦力としては悪くないけどね。よし、出陣!」
まさと「おうっ!」
パール「マーガレット、手伝って!」
マーガレット「ハイ。ワカリマシタ。」
俺達は戦場となった町に踊り出た。
マリン「来たわね!」
まさと「お待たせ〜。」
タニア「にゃっ!」
正門の前で、数匹の魔獣と、マリンさん、タニア、そして、どこから駆けつけたのか、ファリアが対峙していた。
そして、あろうことか、レーア姫までも剣と投げナイフを駆使して奮闘していた。
まさと「おお。ありゃぁ・・・。」
レーア姫「来たね。本命。」
まさと「ん。ああ、まぁ、期待してくれ。でも驚いた。率先して出てきてて良いのか?」
レーア姫「自分の家だよ。守って当然!」
まさと「なるほど。さすがは王家。」
ファリア「あっお前っ! 馬鹿野郎っ! 居るなら居るで、さっさと出て来い!」
まさと「ああ、すまなかったなぁ。これから頑張るよっ。」
相変わらずの口の悪さのファリア、エルフの村でちょっと会った、良い意味でないほうの孤高の戦士。
そしてそのファリアたちを含めて、俺達は魔獣の群に挑みかかる。
レーアの投げナイフが魔獣に隙を作る!
ミュウの剣が魔獣を切り裂いて行く!
俺も及ばずながらそれに続く!
カイゼルの切っ先がぶった切って行く!
マリンとタニアの舞いが魔獣を翻弄する!
ファリアの剣が魔獣を確実に刻んで行く!
ポチの牙と爪がそして、声が魔獣をおす!
マーガレットのパンチが魔獣をなぎ倒す!
そして、パールのビームが魔獣を一網打尽に塵と化す。
極めて短い時間で、正門前の魔獣は一掃された。
まさと「ふぅ。やれるもんだな。」
ファリア「ふふん。少しは見直した。いつの間に、こんなに強いのを集めたんだ?」
まさと「え、ああ、まぁ、成り行きで〜。」
ファリア「まだまだ魔獣は町のあちこちに居る、散開して、沈めていくぞ。」
まさと「そうか、良し、いくぞっ。」
俺は、目の前の火の手が上がる、路地のほうへ。
すると・・・全員後ろについてきていた。
まさと「あら?」
ミュウ「やぁ、なんか心配で。」
まさと「あららら・・・・・俺かい?」
カイゼル「以下同文。」
まさと「だっぁっ! ええい! このまま全員で町中掃除してまわるぞ! こうなったら!」
ミュウ「あいよー。」
カイゼル「うむ。この際だ。戦力を集中して、戦場を駆け抜けるのもよかろう! 単騎だと撃破されるかもしれんしな。」
結局、総力で、町中を駆けずり回った。今日はほんとうに良く走りまわる一日となった。
その頃。姿を消したダイアは、城内の宝物庫に忍び込んでいた。
ダイア「みかがみの盾はここだって情報だったのに。どこにもないじゃない。引き返すかなぁ? もう、癪に障るなぁ・・・・。ちっ。」
舌打ちすると、再びダイアの姿は掻き消えた。